説明

印字装置

【課題】インク自由表面に集束超音波を放射してインクを霧化放出することにより記録媒体に付着させて画像を形成するにあたって、所要の状態での微細インクミストの放出を可能とし、印字品質を向上させる。
【解決手段】インク2の自由表面に集束超音波を放射し、その集束点近傍のインクを霧化放出させて記録媒体に付着させることにより画像を形成するにあたって、集束超音波(10)によってインク自由表面に安定振動するメニスカス9を励起させる。さらに、該メニスカスの頂部に集束する超音波ビーム(12)を別に照射することにより、インク液滴の飛散を招くことなく微細インクミスト11を効率的に発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク自由表面に集束超音波を放射し、その集束点近傍のインクを霧化放出して記録媒体に移行、付着させる画像形成法を採用してなる印字装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インク自由表面に集束超音波を放射し、その集束点近傍のインクを霧化放出して記録媒体に移行、付着させる画像形成法を採用した印字装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種従来の印字装置のプリンタ印字ヘッド部の概略構成を、図4を用いて説明すると、1は超音波発振素子で、インク2を溜めたインク槽3の底面に配列して設けられている。4は液面保持プレートで、また5は用紙6を搬送する搬送ローラ、7はその背面に設けられた背面電極、8は制御電極である。
【0004】
このような構成において、4つの超音波発振素子1から同時に駆動周波数f0、駆動波数n0、駆動周期Tb、音圧pの超音波ビームが放射され、液面保持プレート4開口部のインク自由表面に対して集束径dの幅に集束している。
インク自由表面に超音波が集束されると、メニスカス9が励起される。そして、その頂部からインクミストが放出され、これが用紙6上に付着して画像が形成されることになる。
【0005】
【特許文献1】特開平8−238765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来装置において、励起されたメニスカス9は、駆動周期Tbと同期した振動を繰り返すが、駆動周期fbが短すぎると、メニスカスの振動が追従できず、不規則な乱振動が発生し、大粒のインク液滴が周囲に飛散する等の不都合が生じてしまう。そのため、駆動周期Tbはインクの粘度、表面張力に因って定まる固有値にマッチングさせておき、安定した振動を維持しておく。
【0007】
この状態で駆動波数n0を変化させた時の変化を図5(a),(b),(c),(d),(e),(f)に示す。
すなわち、この図5は、駆動周波数f0=2MHz、駆動周期fb=8ms、音圧p=0.8MPaのときにおいて、駆動波数n0〔Cyc〕と超音波により励起されるメニスカスの様子とインクミスト放出の様子を示す。ここで、nm(インクミスト放出のために最低限必要な波数)=85Cyc、nd(メニスカス励起時の大径のインク滴も同時に飛散してしまう波数)=170Cycである。
【0008】
このような構成において、駆動波数n0が大きくなるにつれて励起されるメニスカスが大きくなり{図5(b)、図5(c)}、それがあるエネルギー密度(nm≦n0)に達すると、インクミストがメニスカスの頂部から放出され、n0が大きくなるにつれて発生するインクミスト量は増えていく{図5(d)、図5(e)}。
【0009】
しかし、n0≧ndとなってしまうと、インクミスト発生量はさらに増えるものの大きなメニスカスが強く励起されるため、メニスカス励起時にメニスカス頂部から粒径の大きなインク滴が情報に高く飛散するようになってしまう{図5(f)}。
【0010】
結局、高精細な画像形成が可能な微細インクミストは駆動波数n0 がnm≦n0<ndのときに得られることになる。ここで発生したインクミストは制御電極8によって用紙への移行が制御され用紙6上の所定の箇所に付着し画像が形成される。
【0011】
ところが、m≦n0<ndの条件下ではメニスカス9の頂部から発生するインクミストの量はプリンタに要求される印刷濃度を満足するには十分とはいえない。特に、高濃度の画像を印刷する時は印刷速度を大幅に落とさないと必要濃度を得ることができない。印刷速度を落とさずに印刷を行うにはインクミストの発生量を増やせればよい。
【0012】
インクミストの発生量を増やすには、駆動波数nを増やす、あるいは駆動周期をTb短くしてインクミスト発生密度を高めること考えられるが、先に記述したように、駆動波数n0を増やそうとしてもてnm≦n0となった時点でメニスカス励起時に粒径の大きなインク液滴が放出されてしまうし、また、駆動周期Tbを短くしようとしても、メニスカス振動が追従できず不安定となり、やはり大径のインク液滴が周囲に飛散してしまい、プリント画質の低下を招いてしまう。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、インク自由表面に集束超音波を放射してインクを霧化放出することにより記録媒体に付着させて画像を形成するにあたって、所要の状態での微細インクミストの放出を可能とし、印字品質を向上させることができる印字装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的に応えるために本発明に係る印字装置は、インクの自由表面に集束超音波を放射し、その集束点近傍のインクを霧化放出させて記録媒体に付着させることにより画像を形成する印字装置において、予め超音波ビーム照射などの集束超音波によってインク自由表面に安定振動するメニスカスを励起させておき、該メニスカスの頂部に集束する超音波ビームを別に照射することにより、大径のインク液滴の飛散を抑制しながら微細インクミストを多量に効率的に発生させるように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る印字装置によれば、予めインク自由表面に超音波ビームを照射してメニスカスを励起しておき、そのメニスカス頂部にインク霧化のための超音波を照射し、微細インクミストを得ているから、簡単な構成であるにもかかわらず、超音波ビームを効率よく収束、照射し、大径インク液滴の飛散を防ぎながら効率よく微細インクミストを多量に発生させることができ、これにより微細インクミストを記録媒体に付着させて画像を形成することが可能で、印字品質を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1および図2は本発明に係る印字装置の印字ヘッド部の一実施形態を示し、これらの図において、前述した図4と同一または相当する部分には同一番号を付して詳細な説明は省略する。
【0017】
さて、本発明によれば、インク2の自由表面に集束超音波を放射し、その集束点近傍のインク2を霧化放出させて記録媒体(用紙6)に付着させることにより画像を形成するにあたって、集束超音波(メニスカス励起のための超音波10)によってインク自由表面に安定振動するメニスカス9を励起させ、該メニスカス9の頂部に集束する超音波ビーム(インク霧化励起のための超音波12)を別に照射することにより、大径インク液滴の飛散を抑制しながら微細インクミスト11を多量に効率的に発生させるように構成している。
【0018】
このような構成において、印字信号を受信すると、まず、インク槽3の底面に設けられた4つの超音波発振素子1のうち外側の2つ(1a、1d)から駆動周波数f0、駆動波数n1、駆動周期fb、駆動音圧pの超音波ビームが発振され、液面保持プレート4の開口部のインク自由表面に集束径dlの幅で、メニスカス励起のための超音波10が集束され、メニスカス9が励起する。
【0019】
駆動周期fbはこのメニスカス振動の固有値にマッチングされており、メニスカスの不規則な振動を抑制している。駆動波数n1はある程度の大きさのメニスカス9が励起されるもののインクミストの発生には至らない値に設定されている。
【0020】
この予め励起させたメニスカス9に対し、内側の残り2つに超音波発振子素子(1c、1d)から、駆動周波数f0、駆動波数n2、駆動周期fb、音圧pの超音波ビーム(インク霧化励起のための超音波12)を発振し、メニスカス9頂部に集束径d2(<dl)で集束させると、図2(b)に示すように、微細インクミスト11が多量に発生する。
【0021】
従来例では、メニスカスの励起時に多くエネルギーをロスしてしまうためミスト発生の立ち上がりが遅く、また、メニスカスが急激且つ強烈に励起されると大粒のインク液滴が用紙へ飛散してしまうのでエネルギー密度を上げることも難しく、結果として、低濃度で階調性にも乏しい画像しか得られないが、本発明によれば、このような問題は解決される。
【0022】
すなわち、本発明では、既に励起され安定振動しているメニスカス9に対して、別に霧化のための超音波12をさらに照射するので、エネルギーロスが少なく、エネルギー密度を上げても大径のインク液滴の飛散は起こりにくいため微細なインクミスト11のみを効率よく発生することが可能であり、高濃度印字まで対応でき階調性に富んだ画像を得ることができる。
【0023】
図3(a)は駆動周波数f0=2MHz、駆動周期fb=8ms、駆動音圧p=0.8MPaの時の本発明装置における駆動波数n1と印字濃度Dの関係を示したグラフである。これに対し、同図(b)に示す従来装置における駆動波数n0 と印字濃度Dの関係を示したグラフである。
これらのグラフの対比において、本発明装置の印字ヘッド部によれば、高濃度印刷と階調性が向上していることが理解されよう。
【0024】
以上のような構成によれば、インク自由表面に集束させた超音波ビーム10によって、予めメニスカス9を励起させておき、そこに別の超音波発振素子から発振された超音波ビーム12を集束、照射することによって、大径インク液滴の飛散を防ぎながら効率よく微細インクミスト11を発生させることができる。
【0025】
なお、本発明は上述した実施の形態で説明した構造には限定されず、印字装置を構成する各部の形状、構造等を適宜変形、変更し得ることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る印字装置の一実施形態を示し、その印字ヘッド部の概略構成を示す概略図である。
【図2】(a),(b)は図1の印字装置における印字ヘッド部において動作原理を説明するための説明図である。
【図3】(a),(b)は本発明装置、従来装置による駆動波数と印字濃度との関係を示すグラフである。
【図4】従来の印字装置の印字ヘッド部を示す概略構成図である。
【図5】(a)〜(f)は従来の印字ヘッド部での駆動波数と超音波により励起されるメニスカスの様子を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1…超音波発振素子、2…インク、3…インク槽、4…液面保持プレート、5…用紙搬送ローラ、6…用紙、7…背面電極、8…制御電極、9…メニスカス、10…メニスカス励起のための超音波、11…微細インクミスト、12…インク霧化励起のための超音波。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクの自由表面に集束超音波を放射し、その集束点近傍のインクを霧化放出させて記録媒体に付着させることにより画像を形成する印字装置において、
集束超音波によってインク自由表面に安定振動するメニスカスを励起させ、
該メニスカスの頂部に集束する超音波ビームを別に照射することにより、インク液滴の飛散を招くことなくインクミストを効率的に発生させるように構成したことを特徴とする印字装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−241450(P2009−241450A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91540(P2008−91540)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】