説明

危険物探知装置及び危険物探知方法

【課題】
危険物探知の信頼性が高い危険物探知技術を提供する。
【解決手段】
検査試料を加熱する加熱部の加熱面と、検査試料の被加熱面との間の距離を変化させることで該検査試料の温度を変化させ、複数通りの温度下で該検査試料の付着物質を気化させ、イオン化することにより、危険物を探知する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拭取りシート等の検査試料の付着物質を気化させ、その気体分子をイオン化して物質の同定(同じか否かを見分けること)を行い、検査試料中に爆発物、禁制薬物など(以下、危険物という)の危険物質が含まれているか否かを判定する危険物探知技術に関する。
【背景技術】
【0002】
米国における同時多発テロを大きな契機として、空港など各種重要施設におけるセキュリティ強化が図られている。
従来、手荷物等に付着した危険物の痕跡を探知する危険物探知は、手荷物等を拭き取りシートなどの検査試料で拭き取って付着物質を採取し、該検査試料を危険物探知装置内に導入し、加熱して付着物質を気化させ、さらに、その気体分子をイオン化した後、質量分析法などによって危険物探知を行うようにしている。かかる従来の危険物探知装置としては、例えば、特開2004‐125576号公報(特許文献1)、特開2004‐361297号公報(特許文献2)及び特開2004‐212073号公報(特許文献3)に記載されたものがある。特開2004−125576号公報及び特開2004−361297号公報には、検査試料の周りに熱源を配し、熱源からの対流熱伝達や熱伝導によって試料を加熱するとした技術が記載され、特開2004−212073号公報には、手荷物等を拭取った検査試料をハロゲンランプからの輻射電熱とヒータによる熱伝導、熱伝達により加熱し、試料分子を気化させるとした技術が記載され、また、ハロゲンランプに供給する電力を段階的に制御することにより、物質を同定する能力(選択性)を高める方法についても言及されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−125576号公報
【特許文献2】特開2004−361297号公報
【特許文献3】特開2004−212073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、手荷物等を拭き取った検査試料には、探知すべき危険物のほかにも手脂や日用品等に起因する不特定多数の物質(以下、夾雑物という)が比較的多量に付着する。一般に、従来の技術においては、検査試料の付着物質の気化により発生する気体の濃度を高めるために、短時間のうちに検査試料に大きな熱エネルギーを与え、付着物質を気化させることが多い。この場合、信号のピーク値は高くなるが、夾雑物と探知すべき危険物とがほぼ同時に気化するため、危険物の信号が夾雑物の信号中に隠れてしまい、夾雑物と探知すべき危険物との区別が困難となる。
【0005】
夾雑物と探知すべき危険物とを区別するための対策技術としては、例えば、ガスクロマトグラフィーのように物質の吸着性の差を利用するものや、特開2004−212073号公報(特許文献3)記載の技術のように、ハロゲンランプに対する電力供給を段階的に行って加熱温度を多段階に変え、各温度段階での物質蒸発速度差を利用するものがあるが、それぞれ、特に、使い勝手性の点でさらに改善が望まれる技術であると考えられる。すなわち、ガスクロマトグラフィーなど物質の吸着性の差を利用する技術では、探知すべき物質に合う適切な吸着剤の選択が難しい上、吸着剤の交換も定期的に行う必要があり、また、特開2004−212073号公報記載のハロゲンランプの加熱温度を変えることによる技術では、赤外線の焦点にエネルギーが集中するため、検査試料面内における加熱温度のばらつきが大きくなり、検査試料上で赤外線の焦点から外れた位置にRDX(Research and Development Explosive, hexogen)やHMX(High Melting Point Explosive, octogen)など低蒸気圧の物質がある場合には、該物質に対して測定のばらつきが大きくなり、その探知が難しくなる。また、該ハロゲンランプ加熱方式では、温度を一定に保つことが難しく、温度管理が困難である。
【0006】
検査試料の付着物質の気化を、加熱温度を変えて行うことには、危険物と夾雑物の分離を可能にすること以外にも次のような利点が考えられる。
爆発物の中には、非常に気化・熱分解しやすい物質から、反対に気化しにくい物質まで様々なものがある。図1は、主要爆発物の室温における平衡蒸気圧を示したものである。最も蒸気圧の高いTATP(Triacetone Triperoxide)から、最も蒸気圧の低いHMXまで、平衡蒸気圧に13桁もの差がある。このうち、TATPのように高蒸気圧を示す物質に対し短時間に大きな熱エネルギーを与えてしまうと、分子が急速に気化し、さらには熱分解してしまい、探知が困難となる。従って、このような高蒸気圧・熱分解性の物質に対しては、加熱温度を適度に低く保ち、急速な蒸発・熱分解を抑制しつつ測定を行わなくてはならない。一方、RDX、HMXのような低蒸気圧物質を、探知に十分な濃度で気化させるためには、TATPが熱分解する以上の高温で加熱を行う必要がある。従って、測定時間中に低温から高温まで加熱温度を変化させることは、1回の検査でこれら広範の物性の爆発物の全てを探知することを可能にする。
【0007】
しかしながら、一般的な危険物探知装置の運用条件、例えば空港などで連続して手荷物等を検査するような条件では、1回の検査に許される時間はせいぜい約10秒である。従って、検査試料の低温から高温までの昇温は約10秒以内の短時間で行わなければならないし、また、測定終了後も、再び温度を低温状態まで戻すのを、次の検査開始までの約10秒以内のうちに行わなければならない。
また、加熱温度の検査試料面内のばらつきを抑えるべく加熱源にカートリッジヒータや平板ヒータなど金属加熱用ヒータを用いた場合には、ヒータの熱容量が大きいために、入力電力の変化に対する温度変化の時間応答が遅く、現状では上記危険物探知装置の運用条件を満たさない。
【0008】
本発明の課題点は、上記従来技術の状況に鑑み、危険物探知技術において、加熱温度の検査試料面内のばらつきを抑えられる試料加熱手段を用いた構成下で、該検査試料の温度を短時間内で段階的に変化可能にし、該検査試料の付着物質を精度良く、夾雑物と探知すべき危険物とに区別できるようにすることである。
本発明の目的は、上記課題点を解決し、危険物探知の信頼性が高くかつ使い勝手の良い危険物探知技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題点を解決するために、本発明では、危険物探知技術として、検査試料を加熱して該検査試料の付着物質を気化させ、イオン化して危険物を探知する危険物探知技術として、検査試料加熱用の加熱手段の加熱部の加熱面と、検査試料との間の距離を変化させることで該検査試料の温度を変化させ、複数通りの温度下で付着物質を気化させ、イオン化させることにより、危険物を探知する構成とする。加熱部は、例えばヒータからの熱が伝導されて温度上昇する金属ブロックなどで構成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、危険物探知技術において、検査試料の付着物質を精度良く、夾雑物と探知すべき危険物とに区別することができる。また、低温でのみ測定可能な熱分解性物質や、高温でなければ蒸発しない低蒸気圧物質も安定的に探知することができる。この結果、危険物探知の信頼性が高くかつ使い勝手の良い危険物探知技術の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態につき、図面を用いて説明する。
図2〜図9は、本発明の実施例の説明図である。図2は、本発明の危険物探知装置の運用状況の説明図、図3は、本発明の実施例としての危険物探知装置のブロック構成図、図4は、図3の危険物探知装置における試料導入部の構成の説明図、図5は、図3の危険物探知装置における加熱手段の構成例図、図6は、図3の危険物探知装置における加熱手段の動作説明図、図7は、検査試料表面の温度分布のシミュレーション結果を示す図、図8は、図3の危険物探知装置の動作フローを示す図、図9は、図3の危険物探知装置による物質測定結果の例を示す図である。
【0012】
図2において、1は、空港等で危険物探知装置により危険物の探知を行う検査官、2は、検査試料としての拭き取りシートであって拭き取りを行う前の状態のもの、3は、危険物の探知が行われる対象物品である手荷物等、4は、拭き取りを行った後の拭き取りシート、30は危険物探知装置、301は、拭き取りシート4が投入される危険物探知装置30の試料投入口、302は、危険物探知の結果を音声で報知する音声報知部としてのスピーカ、303は、危険物探知の結果を絵や文字などの画像で表示する画像表示部である。検査官1は、拭き取りシート2を用いて手荷物等3の一部(例えば取っ手)を拭き取る。該拭き取り行為によって拭き取りシート2の表面に検査物質が転写されて付着する。検査物質が付着した拭き取りシート4を試料投入口301から危険物探知装置30内に投入する。危険物探知装置30内では、拭き取りシート4を、時間帯を変えて複数の異なる温度で加熱し、該拭き取りシート4に付着した検査物質(付着物質)を各温度下で気化させかつイオン化させ、イオンが探知対象の危険物質のイオンか否かを識別する。該イオンが、探知対象の危険物質のイオンであるとき、該イオンをイオン電流に変換し、該イオン電流のレベルを基準値レベルと比較して、該比較結果に基づいて探知対象の危険物質の有無を判定する。判定の結果、危険物質があるとされる場合には、拭き取りシート4に付着した物質の中に探知すべき危険物の成分が検出されたとして、スピーカ302から警告音を発するとともに、画像表示部303に表示して、検査官1にその旨を知らせる。検査官1はこれに基づき適切な処置をとる。
以下、説明中で用いる図2の構成要素には、図2の場合と同じ符号を付して用いるとする。
【0013】
図3は、図2の危険物探知装置205の構成図である。
図3において、304は、試料投入口301から投入された拭き取りシート4を装置内で加熱手段のある所定位置にまで移動させ、加熱する試料導入部、305は、加熱によって発生した気体の分子をコロナ放電などによってイオン化させるイオン化部、306は、質量分析法やイオンモビリティスペクトロメトリー(Ion Mobility Spectrometry)(イオン化された気体分子を大気圧下の電界内を移動させ、そのイオン特有の移動時間を測定することによってその分子を検出する方法。本明細書では、これをIMS手法と称することとする。)などを用いて、上記発生したイオンの種類の識別と、そのイオンの種類やイオン量をイオン電流に信号として反映させる物質検知部、307は、コンピュータで構成され、該イオン電流を解析し、該解析結果に基づいて探知対象の危険物質の有無を判定する演算処理部、311は、物質検知部306を真空状態にするために該物質検知部306の排気を行う真空ポンプ、312は、試料導入部304及びイオン化部305の吸気を行う吸気手段としての吸入ポンプ、308は、装置全体の制御を行う制御手段としての制御部である。試料導入部304は、試料投入口301から投入された拭き取りシート4を支持する支持部(図示なし)と、該支持された拭き取りシート4を加熱する加熱手段(図示なし)と、該加熱手段の加熱面と拭き取りシート4との間の距離を変化させる加熱部移動機構(図示なし)とを備えて構成される。該加熱手段は、拭き取りシート4をその一方の面(第1の面)側から加熱する第1の加熱部(図示なし)と、該拭き取りシート4を他方の面(第2の面)側から加熱する第2の加熱部(図示なし)とを備えて構成され、該加熱部移動機構は、加熱手段の上記第1、第2の加熱部のうちのいずれか一方または両方を移動させ、拭き取りシート4と該加熱部の加熱面との間の距離を変化させる構成を備える。また、上記支持部は、試料投入口301から投入された拭き取りシート4を支持した状態で、加熱手段の上記第1、第2の加熱部間の所定位置に移動させる構成を備える。351〜357は、装置内で気体の流路を構成するダクトである。
【0014】
図3の構成において、試料導入部304とイオン化部305と吸入ポンプ312との間、及び、イオン化部305と物質検知部306と真空ポンプ311との間にはそれぞれ、ダクト352、353、355、356による気体流路が形成される。制御部308は、上記試料導入部304内の加熱部移動機構、上記イオン化部305、上記物質検知部306、上記演算処理部307のうち一部のものまたは全部を制御するようになっている。検査官1が試料投入口301からから投入した拭き取りシート4は、試料導入部304内で、支持部により、支持された状態で、加熱手段の第1、第2の加熱部間の所定位置に移動され、該位置において、第1、第2の加熱部からの対流熱伝達や熱伝導によって、低温から高温へと段階的に加熱され、該拭き取りシート4に付着している物質が気化する。気化によって発生した気体分子は、吸入ポンプ312によって吸気され、イオン化部305に運ばれ、コロナ放電などによって一部がイオン化される。該イオンはさらに、電界によって後段の物質検知部306に移動し、該物質検知部306で物質の同定が行われる。すなわち該物質検知部306では、質量分析法やイオンモビリティスペクトロメトリーなどによって、上記イオンの種類を識別し、該イオンの種類やイオン量をイオン電流に信号として反映させる。該物質検知部306は、真空ポンプ311で減圧状態にされ、高真空状態に保たれる。物質検知部306で生成されたイオン電流は、演算処理部307に入力される。該演算処理部307では、イオン電流を解析し、該解析結果に基づき、探知対象の危険物質の有無を判定する。判定の結果、危険物質があるとされる場合には、該演算処理部307から該判定結果の信号が制御部308に入力される。制御部308はこれを受け、拭き取りシート4の付着物質中には探知すべき危険物の成分が検出されたとして、スピーカ302が警告音を発するようにするとともに、画像表示部303に表示されるようにする。
以下、説明中で用いる図3の構成要素には、図3の場合と同じ符号を付して用いるとする。
【0015】
図4は、図3の危険物探知装置30における試料導入部304の構成の説明図である。
図4において、3041は、試料投入口301(図1)から投入された拭き取りシート4を支持した状態で所定位置に移動させる支持部としてのトレイ、3041aは、トレイ3041の平面内に設けられた貫通孔、3042は、加熱手段のうち、拭き取りシート4の上面側から該拭き取りシート4を加熱する円板状の第1の加熱部、3043は、加熱手段のうち、拭き取りシート4下面側から該拭き取りシート4を加熱する円板状の第2の加熱部、3044aは、第1の加熱部3042を熱伝導によって熱する平板状ヒータ、3044bは、第2の加熱部3043を熱伝導によって熱する平板状ヒータ、3045は、第2の加熱部3043及び平板状ヒータ3044bを支える支柱、3046は、加熱手段の加熱面と拭き取りシート4との間の距離を変化させる加熱部移動機構である。該加熱部移動機構3046は、第1の加熱部3042と拭き取りシート4の上面との間の距離、第2の加熱部3043と拭き取りシート4の下面との間の距離のいずれか一方の距離または両方の距離を変化させる。また、3046aは、該加熱部移動機構3046を構成する送りねじ部、3046bは、該加熱部移動機構3046を構成するモータである。送りねじ部3046aは、支柱3045上に設けられ、モータ3046bの回転軸上に固定された駆動用ねじと係合している。モータ3046bが回転すると駆動用ねじを回転させ、送りねじ部3046aを送り駆動して支柱3045をZ軸方向に上下に移動させる。トレイ3041の貫通孔3041aは、拭き取りシート4の外形寸法よりも小さく、第1の加熱部3042及び第2の加熱部3043のそれそれの外形寸法よりも大きくされている。また、第1の加熱部3042には、加熱により発生した気体を周囲の空気とともに吸込んで移動させるダクト352が結合されている。
【0016】
図4の構成において、試料投入口301(図1)から危険物探知装置30内に投入(矢印D)された拭き取りシート4は、トレイ3041上に、物質付着面を上方(Z軸方向)にして貫通孔3041aを覆った状態で載置される。拭き取りシート4の物質付着面を上方にすることで、加熱時における物質の気化が円滑に行われる。拭き取りシート4が載置されたトレイ3041は、モータ(図示なし)によって駆動され矢印E方向(Y軸方向)にA位置からB位置に移動し、該B位置において、貫通孔3041aの位置が、加熱手段の第1の加熱部3042と第2の加熱部3043との間の位置にくるようにして、該拭き取りシート4の上下面をそれぞれ、第1の加熱部3042の加熱面と第2の加熱部3043の加熱面とに対向した状態にする。該状態で、第1の加熱部3042の加熱面と該拭き取りシート4の上面との間の距離は、該加熱面と該上面とが離間状態にある所定の第1の距離(aとする)となるようにされる。また、該状態または該状態になる前の状態すなわちトレイ3041が移動動作中の状態で、加熱部移動機構3046のモータ3046bは、回転により送りねじ部3046aを送り駆動して支柱3045をZ軸方向に移動させて第2の加熱部3043をZ軸方向に移動させ、該第2の加熱部3043の加熱面と該拭き取りシート4の下面との間の距離が、該加熱面と該下面とが離間状態にある所定の第1の距離(bとする)となるようにする。ヒータ3044a、3044bはそれぞれ、第1の加熱部3042、第2の加熱部3043を所定の温度に加熱した状態にあるものとする。
【0017】
上記状態で、第1の加熱部3042は、拭き取りシート4の上面から第1の距離aにある加熱面により、該拭き取りシート4を上面側から加熱し、一方、第2の加熱部3043は、拭き取りシート4の下面から第1の距離bにある加熱面により、該拭き取りシート4を上面側から加熱する。このとき、拭き取りシート4の温度は、該第1の加熱部3042、該第2の加熱部3043それぞれから、第1の距離a、bを隔てて伝達される熱量に対応した温度になる。該温度下で拭き取りシート4の付着物質の一部を気化させる。
【0018】
さらに、予め設定された所定時間の後、加熱部移動機構3046のモータ3046bは、回転により送りねじ部3046aを送り駆動して支柱3045をさらにZ軸方向に移動させて第2の加熱部3043をZ軸方向にさらに移動させ、該第2の加熱部3043の加熱面と拭き取りシート4の下面との間を、上記第1の距離bよりも短い第2の距離bとするとともに、第1の加熱部3042の加熱面と拭き取りシート4の上面との間も第1の距離aよりも短い第2の距離aとなるようにする。該状態では、拭き取りシート4の温度は、該第1の加熱部3042、該第2の加熱部3043それぞれから、第2の距離a、bを隔てて伝達される熱量に対応した温度になる。該温度下で拭き取りシート4の付着物質の一部を気化させる。
以下、説明中で用いる図4の構成要素には、図4の場合と同じ符号を付して用いるとする。
【0019】
図5は、図3の危険物探知装置30における加熱手段のうちの第1の熱伝導式加熱部3042の構成例図である。
図5において、3042aは、第1の加熱部3042の平面部、3042bは、平面部3042aの周囲に形成される凹凸部の凸部、3042cは同凹部、3042dは、加熱により発生した気体を吸入するための吸気口である。凸部3042bと凹部3042cによって形成される凹凸部は、拭き取りシート4の上面と第1の加熱部3042が接触した状態にあっても、凹部3042cと拭き取りシート4の上面との間に隙間が形成されるようにして、該隙間から空気が吸気口3042d側に向かって吸込まれるようにするためのものである。このように、第1の加熱部3042の外周側から空気が吸込まれることで、拭き取りシート4の表面の空気の流れを均一化の方向にすることができる。凹凸部の寸法は、例えば、高さ寸法hすなわち凸部3042bと凹部3042cの高さの差も、幅寸法kも、ともに約1×10−3mとされる。
以下、説明中で用いる図5の構成要素にも、図5の場合と同じ符号を付して用いるとする。
【0020】
図6は、図3の危険物探知装置30における加熱手段の動作説明図である。
図6において、(a)は、加熱手段の第1の加熱部3042、第2の加熱部3043のそれぞれの加熱面と拭き取りシート4の面との間の距離を第1の距離とした場合を示し、(b)は、上記両加熱部3042、3043それぞれの加熱面と拭き取りシート4の面との間の距離を第2の距離とした場合を示す。
拭き取りシート4が試料投入口301(図1)から危険物探知装置30内に投入され、トレイ3041によって移動され、第2の加熱部3043が加熱部移動機構3046によって支柱3045を介しZ軸方向に移動されると、試料導入部304は(a)の状態とされる。該(a)の状態では、第1の加熱部3042の加熱面と拭き取りシート4の上面との間に形成される第1の距離aは約5×10−3m〜6×10−3m、第2の加熱部3043の加熱面と拭き取りシート4の下面との間に形成される第1の距離bは約20×10−3m、第1の加熱部3042の設定温度は約100℃、第2の加熱部3043の設定温度は約280℃とされている。このとき、拭き取りシート4の平面中央部とその周辺領域の温度は約135℃の定常温度(以下、低温という)となる(実測結果)。該拭き取りシート4の温度は、該シート面からの離間距離が大きい第2の加熱部3043よりも、同離間距離が短い第1の加熱部3042の温度によって強く支配される。かかる低温状態を4〜5秒継続し、該低温状態時に、拭き取りシート4の付着物質の一部が気化する。該気化で発生した気体は、その周囲の空気とともに、吸入ポンプ312によって吸気口3042dから吸込まれ、ダクト352を通って、次段のイオン化部305に流入される。吸気口3042dから吸込まれる該気体と空気との合計流量は約0.5〜1.0l/minである。
【0021】
(a)の状態による低温状態を4〜5秒継続した後、第2の加熱部3043が、加熱部移動機構3046によって支柱3045を介しさらにZ軸方向に移動され、該第2の加熱部3043が拭き取りシート4の下面に当接して該第2の加熱部3043の加熱面と該拭き取りシート4の下面との間の距離がゼロ(0)になった後も、さらに貫通孔3041aを通り過ぎてZ軸方向に移動され、停止位置で試料導入部304は(b)の状態とされる。上記(a)の状態から該(b)の状態となるまでにかかる時間は約1秒である。該(b)の状態では、第1の加熱部3042の凹凸部の凸部3042bの先端面が拭き取りシート4の上面に当接されかつ第2の加熱部3043の加熱面と拭き取りシート4の下面も当接状態にあるため、第1の加熱部3042の加熱面と拭き取りシート4の上面との間に形成される第2の距離aは、第1の距離aよりも短い距離となり、また、第2の加熱部3043の加熱面と拭き取りシート4の下面との間に形成される第2の距離bはゼロ(0)となる。また、該(b)の状態では、第1の加熱部3042の設定温度は約100℃、第2の加熱部3043の設定温度は約280℃とされ、拭き取りシート4の平面中央部とその周辺領域の温度は約200℃の定常温度(以下、高温という)となる(実測結果)。かかる高温状態を4〜5秒継続し、該高温状態時に、拭き取りシート4の付着物質の一部が気化する。該気化で発生した気体は、その周囲の空気とともに、第1の加熱部3042の凹部3042c(図5)を通り、吸気口3042dから吸込まれ、ダクト352を通って、次段のイオン化部305に流入される。この場合も、吸気口3042dから吸込まれる該気体と空気との合計流量は約0.5〜1.0l/minである。該(b)の状態では、第1の加熱部3042、第2の加熱部3043とも、温度の高い部分が拭き取りシート4の面のみにしか触れない構成のため、熱が試料導入部304のトレイ3041などを伝導して外部へ逃げることが少なく、加熱効率の向上が図れるとともに、使用者の火傷などの事故を防止することができる。
【0022】
図7は、拭き取りシート4の表面の温度分布のシミュレーション結果を示す図である。
図7の特性において、横軸には、第1、第2の加熱部3042、3043の中心を原点とした半径方向位置rをとっている。本実施例では、第1の加熱部3042、第2の加熱部3043はそれぞれ、直径が約50×10−3mの円板状であり、r=−25×10−3m及びr=25 ×10−3mの位置は、第1、第2の加熱部3042、3043の外周部にあたる。また、縦軸には、拭き取りシート4上の定常温度(単位℃)である。周囲の空気温度は25℃としている。図中、特性Pは低温段階における温度分布特性であり、特性Qは高温段階における温度分布特性である。実際の運用では、拭き取りシート4の面上で、直径30×10−3m程度の領域内で探知を行えれば十分であり、この領域を危険物探知の有効領域Mと考えることができる。低温段階における温度分布特性Pでは、有効領域Mの中心部と端部(r=−15×10−3m及びr=15 ×10−3m)とで約50℃の温度差がある。一方、高温段階における温度分布特性Qでは、第1、第2の加熱部3042、3043の外周部(r =−25×10−3m及びr=25 ×10−3m)から25℃の外気が入り込むため、温度が局所的に下がるものの、有効領域M内では、ほぼ210℃一定の温度分布となる。中心部(r =0×10−3m)における温度は、前記実測値に近い。一般に、高温段階における温度分布特性において面内温度ばらつきが小さいことは好ましく、RDXやHMXなどの低蒸気圧物質の安定した測定が可能となる。一方、本実施例のように低温段階における温度分布特性において50℃程度の面内ばらつきがあることも、実際上はあまり問題とならない。なぜならば、低温段階で探知対象としているTATPやNG(Nitroglycerin)などの高蒸気圧物質に対して、120℃〜70℃程度の範囲で温度がばらついたとしても、蒸発にかかる時間が、理論計算上、約0.5秒〜約4秒の間でばらつくという程度であり、低温段階の測定時間内に十分吸収される時間長であるからである。
【0023】
図8は、図3の危険物探知装置30の動作フローを示す図である。
図8において、
(1)危険物の探知を行う対象物品である手荷物等の取っ手などから拭き取りを行った検査試料としての拭き取りシート4が、試料投入口301から危険物探知装置30内に投入されると、制御部308は、該拭き取りシート4を、トレイ3041によって加熱手段内の所定位置に移動させるとともに、加熱部移動機構3046によって加熱手段をZ軸方向に移動させ、該加熱手段の加熱面が第1の距離位置から、該拭き取りシート4の面に対向するようにする(ステップS801)。
(2)加熱手段は、第1の距離位置の加熱面により、検査試料としての拭き取りシート4を所定の低温状態にして加熱し、付着物質の一部を気化させる(ステップS802)。
(3)制御部308は、吸入ポンプ312を制御し、上記気化により発生した気体を、その周囲の空気とともに吸気口3042dからダクト352内に吸込ませ、イオン化部305に流入させる(ステップS803)。
(4)制御部308は、イオン化部305を制御し、該イオン化部305において、コロナ放電などにより気体の分子をイオン化させる(ステップS804)。
(5)制御部308は、イオンを物質検知部306に移動させ、該物質検知部306で、質量分析法やイオンモビリティスペクトロメトリーなどにより、該イオンの種類を識別させる(ステップS805)。
【0024】
(6)制御部308はさらに、物質検知部306で、質量分析法やイオンモビリティスペクトロメトリーなどにより、上記識別したイオンの種類やイオン量をイオン電流に反映させる(ステップS806)。
(7)演算処理部307において、上記イオン電流を解析し、該解析結果に基づいて探知対象の危険物質の有無を判定する(ステップS807)。判定の結果、危険物質があるとされる場合には、演算処理部307がその旨を制御部308に信号を送って連絡し、制御部308が、スピーカ302に警告音を出させ、画像表示部303に表示させる。
(8)さらに、制御部308は、加熱部移動機構3046を制御し、該加熱部移動機構3046によって加熱手段をZ軸方向に移動させ、該加熱手段の加熱面が、上記第1の距離よりも短い第2の距離の位置から、該拭き取りシート4の面に対向するようにする(ステップS808)。
(9)加熱手段は、第2の距離位置の加熱面により、拭き取りシート4を所定の高温状態にして加熱し、付着物質の一部を気化させる(ステップS809)。
(10)制御部308は、吸入ポンプ312を制御し、上記気化により発生した気体を、その周囲の空気とともに吸気口3042dからダクト352内に吸込ませ、イオン化部305に流入させる(ステップS810)。
【0025】
(11)制御部308は、イオン化部305を制御し、該イオン化部305において、コロナ放電などにより気体の分子をイオン化させる(ステップS811)。
(12)制御部308は、イオンを物質検知部306に移動させ、該物質検知部306で、質量分析法やイオンモビリティスペクトロメトリーなどにより、該イオンの種類を識別させる(ステップS812)。
(13)制御部308はさらに、物質検知部306で、質量分析法やイオンモビリティスペクトロメトリーなどにより、上記識別したイオンの種類やイオン量をイオン電流に反映させる(ステップS813)。
(14)演算処理部307において、演算処理部307において、上記イオン電流を解析し、該解析結果に基づいて探知対象の危険物質の有無を判定する(ステップS814)。
(15)上記判定の結果、危険物質があるとされる場合には、演算処理部307がその旨を制御部308に信号を送って連絡し、制御部308は、スピーカ302に警告音を出させて報知させ、画像表示部303に表示させる(ステップS815)。
なお、上記ステップS807においては判定結果の表示や報知は行わずに、上記ステップS815において該ステップS815における判定結果を報知・表示するときに、上記ステップS807における判定結果も併せて報知・表示するようにしてもよい。
(16)上記動作の終了後は、制御部308は、加熱部移動機構3046を制御し、該加熱部移動機構3046により加熱手段を−Z軸方向に移動させ、該加熱手段の加熱面を、第2の距離の位置から再び第1の距離の位置に戻すとともに、トレイ3041の駆動を制御して、該トレイ3041を図4のA位置に戻す(ステップS816)。この後、拭き取りシート4は、制御部308による制御により装置外に排出される。
【0026】
なお、上記ステップS809〜ステップS815の動作を、上記第2の距離を変えることで繰り返し行ってもよい。
上記ステップS801〜ステップS816の一連の動作は、例えば、制御部308内のマイコンなどが、予め設定されたプログラムに従って作動することにより、危険物探知装置30において自動的に実行される。
【0027】
図9は、図3の危険物探知装置30による物質測定結果の例を示す図である。
図9において、(a)は、高蒸気圧性爆発物であるTATPの場合の信号値特性、(b)は、同じく高蒸気圧性爆発物であるNGの場合の信号値特性、(c)は、低蒸気圧性爆発物であるRDXの場合の信号値特性、(d)は、同じく低蒸気圧性爆発物であるHMXの場合の信号値特性である。
図9において、いずれの特性も、測定時間に対し、イオン電流による信号レベルを、ピーク値を1.0とした相対値(規格信号値)で示している。時間tは、拭き取りシート4が、危険物探知装置30内の所定位置に移動され、第1の距離位置にある加熱手段の加熱面によって加熱が開始される時点をt=0としている。tが0〜約5秒の期間Sでは、拭き取りシート4は低温の加熱状態すなわち図6(a)における加熱状態とされ、tが約5秒〜約6秒の期間Sでは、拭き取りシート4は低温の加熱状態から高温の加熱状態すなわち図6(b)における加熱状態へと遷移され、tが約6秒〜約10秒の期間Sでは、拭き取りシート4は該高温の加熱状態とされる。拭き取りシート4が低温の加熱状態にある低温段階では、蒸気圧の高い危険物質のみが検知され、蒸気圧の低い物質は検知されにくい。このため、蒸気圧の高いTATPとNGの場合に、信号にピークが現れる。また、拭き取りシート4が高温の加熱状態にある高温段階では、蒸気圧の低い物質と高い物質との両方が蒸発されるが、TATPやNGなど高温によって容易に分解するような危険物は既に低温段階で蒸発もしくは分解してしまっている場合が多い。このため、蒸気圧の低いRDXとHMXの場合に、信号にピークが現れる。これらのピーク位置はそれぞれ安定しているため、該ピーク位置を利用してこれら危険物と夾雑物の安定した分離が可能となる。また、低温段階ではTATPやNGなど、高蒸気圧性危険物の信号のみを測定し、高温段階ではRDXやHMXなど、低蒸気圧性危険物の信号のみを測定するという探知方式も可能である。このように、各温度段階で探知対象を限定した場合には、全測定時間を通して全ての危険物成分を測定する場合よりも、各危険物に対する相対的な測定時間割合(デューティ時間)を長くすることができ、危険物識別のSN比を高めることが可能となる。
【0028】
上記実施例によれば、危険物探知技術において、拭き取りシート4の付着物質を精度良く、夾雑物と探知すべき危険物とに区別(識別)することができる。また、低温でのみ測定可能な熱分解性物質や、高温でなければ蒸発しない低蒸気圧物質も安定的に探知することができる。この結果、危険物探知の信頼性が高くかつ使い勝手の良い危険物探知技術を提供することが可能となる。
【0029】
なお、上記実施例では、検査試料の温度を低温段階と高温段階の2通りに変化させる構成としたが、本発明はこれに限定されず、3通り以上の複数段階に変化させる構成としてもよい。また、上記実施例では、低温段階と高温段階でそれぞれ、検査試料としての拭き取りシート4の温度を略一定に保持しておく構成としたが、本発明はこれにも限定されない。例えば、低温段階において、加熱手段の加熱面を、拭き取りシート4の面から第1の距離だけ離間した位置とした状態で、該加熱手段における温度を変化させ、これに付随して拭き取りシート4の温度を変化させるようにしてもよい。高温段階についても同様で、高温段階において、加熱手段の加熱面を、拭き取りシート4の面から第2の距離だけ離間した位置とした状態で、該加熱手段における温度を変化させ、これに付随して拭き取りシート4の温度を変化させるようにしてもよい。また、上記実施例では、拭き取りシート4と加熱手段との距離を変えるために、加熱手段の第1の加熱部3042、第2の加熱部3043のうち、第2の加熱部3043の方を移動させる構成としたが、本発明はこれに限定されず、第1の加熱部3042の方を移動させてもよいし、または、第1の加熱部3042、第2の加熱部3043の両方を移動させてもよい。さらには、拭き取りシート4の高さ位置をトレイ3041によって第1の加熱部3042、第2の加熱部3043間で変化させ、該第1の加熱部3042、第2の加熱部3043との距離を変えるようにしてもよい。また、さらには、拭き取りシート4の高さ位置を変えることと、第1の加熱部3042、第2の加熱部3043のうちのいずれか一方または両方を移動させることとを併せ行う構成としてもよい。またさらに、上記実施例では、加熱手段を、第1の加熱部3042と第2の加熱部3043とから成る構成としたが、この他、該加熱手段は、さらに、単数または複数の加熱部を備える構成のものであってもよい。また、第1の加熱部3042、第2の加熱部3043のうちのいずれか一方または両方が、それ自体複数の加熱部から成るものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】主要な爆発物成分の室温25℃における平衡蒸気圧を示す図である。
【図2】本発明の危険物探知装置の運用状況の説明図である。
【図3】本発明の実施例としての危険物探知装置のブロック構成図である。
【図4】図3の危険物探知装置における試料導入部の構成の説明図である。
【図5】図3の危険物探知装置における加熱手段の構成例図である。
【図6】図3の危険物探知装置における加熱手段の動作説明図である。
【図7】検査試料表面の温度分布のシミュレーション結果を示す図である。
【図8】図3の危険物探知装置の動作フローを示す図である。
【図9】図3の危険物探知装置による物質測定結果例を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
2、4…拭き取りシート、
3…手荷物等、
30…危険物探知装置、
301…試料投入口、
302…スピーカ、
303…画像表示部、
304…試料導入部、
3041…トレイ、
3041a…貫通孔、
3042…第1の加熱部、
3042a…平面部、
3042b…凸部、
3042c…凹部、
3042d…吸気口、
3043…第2の加熱部、
3044a、3044b…平板状ヒータ、
3045…支柱、
3046…加熱部移動機構、
3046a…送りねじ部、
3046b…モータ、
305…イオン化部、
306…物質検知部、
307…演算処理部、
311…真空ポンプ、
312…吸入ポンプ、
308…制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査試料を加熱し該試料の付着物質を気化させ、気体分子をイオン化して該付着物質中の危険物を探知する危険物探知装置であって、
上記検査試料を支持する支持部と、
上記検査試料の第1の面側から該検査試料を加熱する第1の加熱部と、該検査試料の第2の面側から該検査試料を加熱する第2の加熱部とを備えた加熱手段と、
上記加熱手段の上記第1、第2の加熱部のうちのいずれか一方または両方を移動させ、上記検査試料と該加熱部の加熱面との間の距離を変化させる加熱部移動機構と、
上記加熱により発生した気体の気体分子をイオン化するイオン化部と、
上記イオンの種類を識別し、その種類やイオン量をイオン電流に信号として反映させる物質検知部と、
上記イオン電流を解析し、該解析結果に基づいて探知対象物質の有無を判定する演算処理部と、
上記加熱部移動機構、上記イオン化部、上記物質検知部、上記演算処理部のうち一部のものまたは全部を制御する制御手段と、
を備え、上記加熱手段の加熱部の加熱面と上記検査試料との間の距離を変化させることで該検査試料の温度を変化させ、複数通りの温度下で付着物質を気化させ、イオン化させることにより、危険物を探知する構成としたことを特徴とする危険物探知装置。
【請求項2】
上記物質検知部は、上記識別と、上記イオンのイオン電流への変換を、質量分析法またはイオンモビリティスペクトロメトリーにより行う構成である請求項1に記載の危険物探知装置。
【請求項3】
上記加熱手段は、上記第1、第2の加熱部がそれぞれ、上記検査試料の被加熱面に対向する加熱面を有する加熱部材と、該加熱部材を熱するヒータとを備えて成る構成である請求項1に記載の危険物探知装置。
【請求項4】
上記加熱手段は、上記第1の加熱部が上記検査試料の上面側に配され、上記第2の加熱部が該検査試料の下面側に配され、該第1の加熱部に吸気手段が結合された構成である請求項1に記載の危険物探知装置。
【請求項5】
上記制御手段は、上記加熱部移動機構を、上記加熱手段と上記検査試料との距離が段階的に変化するように制御する構成である請求項1に記載の危険物探知装置。
【請求項6】
上記加熱手段は、上記第1、第2の加熱部がそれぞれ、上記検査試料の被加熱面に対向する加熱面を有する加熱部材と、該加熱部を熱するヒータとを備えて成り、該第1、第2の加熱部の加熱部材のうちのいずれか一方または両方は、該検査試料の被加熱面に対向する加熱面が、平面部とその周囲の凹凸部とを有しかつ該平面部内に吸気口を備えた構成である請求項1に記載の危険物探知装置。
【請求項7】
上記支持部は、検査試料を支持した状態で、上記加熱手段の上記第1、第2の加熱部間位置に移動可能な構成である請求項1に記載の危険物探知装置。
【請求項8】
検査試料を加熱手段で加熱して該試料の付着物質を気化させ、気体分子をイオン化して該付着物質中の危険物を探知する危険物探知方法であって、
検査試料を所定位置に移動させる第1のステップと、
上記移動された検査試料の両面を、加熱手段により第1の距離の位置から加熱し、該検査試料を第1の温度にして上記付着物質を気化させる第2のステップと、
上記気化により得られた気体を吸気し所定位置に移動させる第3のステップと、
上記所定位置で上記気体の気体分子をイオン化する第4のステップと、
上記イオンの種類やイオン量を識別する第5のステップと、
上記識別したイオンの種類やイオン量をイオン電流に信号として反映する第6のステップと、
上記イオン電流を解析し、該解析結果に基づいて探知対象物質の有無を判定する第7のステップと、
加熱手段を移動させ、上記検査試料に対し第2の距離の位置にする第8のステップと、
上記検査試料の両面を、加熱手段により第2の距離の位置から加熱し、該検査試料を第2の温度にして上記付着物質を気化させる第9のステップと、
上記気化により得られた気体を吸気し所定位置に移動させる第10のステップと、
上記所定位置で上記気体の気体分子をイオン化する第11のステップと、
上記イオンの種類やイオン量を識別する第12のステップと、
上記識別したイオンの種類やイオン量をイオン電流に信号として反映する第13のステップと、
上記イオン電流を解析し、該解析結果に基づいて探知対象物質の有無を判定する第14のステップと、
を備え、上記加熱手段により上記検査試料を複数通りの距離の位置から加熱し、検査試料の温度を複数通りに変え、各温度で上記付着物質を気化させて、該付着物質中の危険物を探知することを特徴とする危険物探知方法。
【請求項9】
上記第5のステップと上記第12のステップにおけるイオンの識別と、上記第6のステップと上記第13のステップにおけるイオンの種類やイオン量のイオン電流への信号としての反映は、質量分析法またはイオンモビリティスペクトロメトリーにより行われる請求項8に記載の危険物探知方法。
【請求項10】
上記第8のステップにおいて、上記第2の距離は、上記第2のステップにおける上記第1の距離よりも短くされる請求項8に記載の危険物探知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−139551(P2007−139551A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332936(P2005−332936)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】