説明

即席豆腐用の原料粉末及び即席カップ豆腐

【課題】熱湯を利用するだけで喫食できる風味・食感に優れた即席豆腐用の原料粉末及び即席カップ豆腐を提供する。
【解決手段】液状豆乳に予めマルトオリゴ糖や二糖類等の少糖類を添加・溶解させておき、これを真空ドラムドライにより減圧・低温下で乾燥することにより製造される豆乳粉末を即席豆腐用の原料粉末として利用する。本原料粉末は熱湯を注加し、凝固剤を添加した際の凝固性に優れており、風味等が良好の即席豆腐を短時間で調製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱湯を注加・攪拌後に、凝固剤を添加して固形化するという簡単な調製で喫食可能となる即席豆腐に用いる原料粉末に関するものである。また、該原料粉末と凝固剤をカップに収納した即席カップ豆腐に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家庭内で簡単に豆腐を調製する方法として、豆乳粉末にお湯を加え数分間煮沸した後に凝固剤を添加する方法が知られている。しかし、熱湯を注加するだけでは充分に豆乳粉末を溶解させることができないため、煮沸するという手間を要した。また、即席豆腐として豆乳粉末(及び凝固剤)を含む原料粉末に、熱湯を注加して溶解させた後、そのまま固形化する方法が開示されている(特開54-86648, 特開平1-277467, 特開平7-184581)が、熱湯だけでは溶解性を充分に保てないため、食感的に大幅に改善することが必要であった。
【0003】
豆乳粉末の製造方法としては、従来からスプレードライによる方法が主として採用されている。しかし、本方法では豆乳が高温にさらされるため、熱劣化による風味の低減とともにタンパク質の変性による豆乳粉末の熱湯に対する溶解性の低下という問題が発生する。そのため、本乾燥方法によって製造された豆乳粉末を即席豆腐に利用することは困難であった。
【0004】
一方、このような豆乳粉末の風味の劣化防止と熱湯による溶解性の向上を目的として、最近、予め糖類を溶解させた豆乳を真空ドラムドライによって低温下で乾燥することで、凝固剤による固化性の有無は不明ながらも、熱劣化による風味の低減の防止と熱湯による溶解性向上を実現した豆乳粉末の製造方法が開示されている(特開2007-143414)。
【特許文献1】特開昭54-86648号
【特許文献2】特開平1-277467号
【特許文献3】特開平7-184581号
【特許文献4】特開2007-143414号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような豆乳粉末を即席豆腐用の原料粉末として応用できる可能性についてはいまだ検討されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、熱湯に対して易溶性で、かつ熱湯に溶解した後に凝固剤を加えるだけで短時間に風味良好な豆腐を調整できる様な、真空ドラムドライを用いた即席豆腐用の豆乳粉末の製造条件について種々の検討を行い、その結果、少糖類を溶解させた後に真空ドラムドライによる乾燥を行うことで、目的とする即席豆腐用の豆乳粉末を製造できることを見出した。
【0007】
すなわち、本願第一の発明は、
熱湯を注加・攪拌後に、凝固剤を添加して固形化する即席豆腐に用いる原料粉末であって、
常法により得られた液状豆乳に少糖類を溶解させ、真空ドラムドライにより減圧・低温下で乾燥することにより製造される即席豆腐用の原料粉末、
である。
少糖類については、マルトオリゴ糖が好適である。
すなわち、本願第二の発明は、
前記少糖類がマルトオリゴ糖である請求項1記載の即席豆腐用の原料粉末、
である。
少糖類については、二糖類も好適である。
すなわち、本願第三の発明は、
前記少糖類が二糖類である請求項1記載の即席豆腐用の原料粉末、
である。
さらに、二糖類のうちでは、マルトースがより好ましい。
すなわち、本願第四の発明は、
前記二糖類がマルトースである請求項3記載の即席豆腐用の原料粉末、
である。
【0008】
また、本願は、上記原料粉末をカップ内に収納した即席カップ豆腐も意図している。
すなわち、本願第五の発明は、
請求項1ないし4のいずれか記載の即席豆腐用の原料粉末及び凝固剤をカップ内に収納した即席カップ豆腐。
さらに、凝固剤としては、グルコノデルタラクトンを含有することが好ましい。
すなわち、本願第六の発明は、
前記凝固剤がグルコノデルタラクトンを含有する凝固剤である請求項5記載の即席カップ豆腐、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明における原料粉末を利用した即席豆腐は熱湯を注加・攪拌しさらに凝固剤を添加してから3分〜30分で固形化し、滑らかできめこまやかな食感を有する。また、前記原料粉末と凝固剤を収納した即席カップ豆腐であれば、熱湯さえあれば、本格的な豆腐を短時間で調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本願発明の最良の形態を記載するが本発明はこれらの範囲に限定されるものではない。
【0011】
─即席豆腐─
本発明において即席豆腐とは、熱湯だけを利用することにより簡便に喫食可能な状態に調製できる豆腐をいう。さらに詳しく述べると、豆乳と少糖類を主原料とする原料粉末と凝固剤を用いて、熱湯を注加・攪拌等を行うだけで固形化され喫食可能な豆腐を得ることができるように準備された豆腐をいう。
【0012】
─即席豆腐用の原料粉末─
本発明における即席豆腐用の原料粉末は以下のように製造する。
1.液状豆乳
真空ドラムドライに供する液状豆乳は以下のようにして調製する。原料大豆(丸大豆や脱脂大豆など)を、所定時間にわたって水に浸漬して、膨潤大豆を得る。次に、この膨潤大豆を、グラインダーなどで磨砕し、所要量の水を加えて懸濁させる。次いで、得られた磨砕物(懸濁液)を煮沸した後に、メッシュなどで大豆成分の分離を行い、豆乳と大豆粕(おから)とに分別することによって、豆乳を抽出する。このようにして液状の豆乳を得ることができる。豆乳の濃度については後に乾燥工程を経るため、幅広く設定することができるが概ね大豆固形分として豆腐を調製する程度(主に10〜15%程度)でよい。
【0013】
2.少糖類
得られた液状豆乳に対して予め少糖類を添加し溶解させておく。本発明において少糖類とは単糖類が2〜10個程度結合した糖類をいう。少糖類の中ではマルトオリゴ糖や二糖類が好適である。本発明においてマルトオリゴ糖とは、アミロースやアミロペクチンを加水分解等して得られる、グルコースを主体とする単糖が2〜10個程度結合した糖類をいい、イソマルトオリゴ糖も含むものとする。二糖類の具体例としてはシュークロース、マルトース、トレハロース、ラクトース等が挙げられる。これらの二糖類のうちでは、マルトースやラクトースが好ましい。さらに、後述する食感と凝固性の観点からマルトースが特に好ましい。
【0014】
尚、これらの少糖類は、単一種類でも複数の種類を混合して使用してもよいことはもちろんである。少糖類の添加量としては、乾燥後(真空ドラムドライ後)の豆乳粉末に含まれる豆乳重量に対して20〜150重量%となるように添加する。また、好ましくは40〜120重量%である。少糖類の添加は、後述する真空ドラムドライの前に豆乳に添加して攪拌することで溶解させて行うことができる。
【0015】
3.その他の原料
即席豆腐用の原料粉末の構成として、豆乳と少糖類以外の原料として他の糖類、大豆粉、澱粉、タンパク質、アミノ酸、香辛料、香料等の種々の原料を使用することができる。タンパク質の系統では、大豆タンパク質や大豆ペプチド等が好適である。これらを使用することで、熱湯で調製後、喫食時の豆腐の風味や食感が向上する。尚、その他の原料は液状豆乳に予め添加して液状豆乳と同時に真空ドラムドライにより乾燥してもよいし、真空ドラムドライ後の豆乳粉末と混合してもよい。
【0016】
4.真空ドラムドライ
少糖類を溶解した液状豆乳を真空ドラムドライに供する。真空ドラムドライは、真空チャンバー内に加熱される乾燥ドラムを有する構造を有する。減圧下においては、水は容易に蒸発するため通常の乾燥ドラムの温度よりも低温での乾燥が可能であり、このため、乾燥対象が食品であると、過度の加熱を抑えることができ、熱による風味の劣化・成分の変性、例えば、タンパク質の変性やビタミンの破壊等を押さえることができる。
真空ドラムドライの条件は、種々の条件を選択することができるが、真空度が概ね30kPa以下で、ドラム温度は概ね110℃程度以下であればよい。また、真空ドラムドライ後の豆乳粉末の水分含量は概ね5%以下である。
【0017】
5.原料粉末
真空ドラムドライ後の豆乳粉末にその他の原料として大豆タンパク質や大豆ペプチド等の原料を混合して原料粉末とする。尚、豆乳粉末やその他の原料については、熱湯での溶解性を高めるために、造粒して顆粒にしてもよい。これらの調整は適宜設定することができる。
【0018】
─凝固剤─
喫食時には、上記原料粉末を熱湯に溶解した後、凝固剤を添加して豆腐を固形化する。本発明においては、原料粉末と凝固剤を予め混合することなく別途保持することが必要となる。凝固剤としては、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、グルコノデルタラクトン等の一般の豆腐凝固に用いられている種々の凝固剤を利用することができる。但し、本発明においてはグルコノデルタラクトンを主とすることが好適である。グルコノデルタラクトンに加えて、塩化マグネシウム、硫酸カルシウムを併用することで風味豊かな豆腐を調製することができる。
【0019】
─豆腐調製時の各構成の重量比─
原料粉末の重量1に対して、熱湯を8〜15倍程度注加して溶解させる。さらに、注加した熱湯重量の100分の1〜300分の1程度の重量の凝固剤を添加する。
【0020】
─豆腐調製の方法─
上述の各構成を用いて豆腐の調製を行う。具体的には、容器に原料粉末を入れ、熱湯を注いで、箸やスプーン等で攪拌して溶解させる。これに、さらに凝固剤を添加してさらに攪拌する。上部を任意で蓋をして3分〜30分程度、静置することで凝固が完了して喫食可能となる。また、好みにより低温下に保持する等ができる。尚、静置後にそのまま喫食すると豆腐自体は多少熱いため、湯豆腐的な食感を呈する。また、冷やして喫食してもよいことはもちろんである。これらは喫食者の好みによって適宜選択することができる。
【0021】
─カップ豆腐─
前記原料粉末と凝固剤をプラスチック製又は紙製等のカップ内に収納しておけば、熱湯さえあれば、簡単に調製できる即席カップ豆腐とすることができる。具体的には、原料粉末をカップ内に入れた状態で熱湯を注加し、攪拌・溶解させ、ここに凝固剤を添加して、さらに攪拌して静置する。凝固剤添加後3分〜30分程度で本格的な豆腐を喫食することができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明による原料粉末は乾燥状態にあるため長期の保存が可能であり、これを熱湯に溶解し、凝固剤を添加するだけで、喫食可能となる食感に優れた即席豆腐を調製することができる。また、前記原料粉末と凝固剤をセットにしてカップに収納することで、生の豆腐を購入できない地域や災害時などにおいても、熱湯さえあれば本格的な食感を有する豆腐を容易に喫食することができる即席豆腐とすることができる。
【実施例】
【0023】
以下に本発明の実施例・試験例を示すが、本発明はこれらの実施例・試験例に限定されるものではない。
【0024】
<実施例1>
─真空ドラムドライヤーで製造した豆乳粉末において、予め少糖類を溶解させておくことの効果─
大豆抽出液については大豆を浸漬・磨砕し、煮沸した後に、メッシュで大豆成分の分離を行い、豆乳と大豆粕(おから)とに分別することによって豆乳を抽出した。糖類の添加をしない場合には豆乳をそのまま真空ドラムドライに供した。また、得られた豆乳に対して糖類を溶解させる場合には、乾燥後(真空ドラムドライ後)の豆乳粉末に含まれる豆乳重量に対して100重量%(同重量)となるように糖類を添加・溶解した。溶解後の液状豆乳を次の真空ドラムドライに供した。尚、各糖類は市販のものを用いた。特にマルトオリゴ糖については、マルトテトラオースを主に含有(50%以上含有)するタイプのものを用いた。真空ドラムドライに関しては真空度を10kPa以下、加熱ドラムの設定温度を110℃程度として常法に従って行った。
【0025】
得られた豆乳粉末を用いて以下の手順に従って豆腐を調製した。得られた豆乳粉末20gを紙製のカップに収納し、これに熱湯を120g注加し、約30秒間よく攪拌し、凝固剤としてグルコノデルタラクトンを0.6g添加してさらに攪拌した。次に、上部に蓋をして室温で約10分間静置した。
官能評価は熟練のパネラー5人が行い、その総合評価とした。
食感等の評価は、×:悪い、△:やや悪い、○:良好、◎最良の4段階で評価した。評価基準を下記の表1に示す。
【0026】
【表1】


上記の評価基準に従い実施した官能評価の結果を以下の表2に示す。
【0027】
【表2】


凝固性については、少糖類の二糖類であるラクトースやマルトース、または少糖類のオリゴ糖であるマルトオリゴ糖を予め豆乳に溶解させておいたものが良好に凝固した。また、特にマルトース、マルトオリゴ糖の凝固性が優れていた。糖類無しの試験区については、糖類を添加していないため、豆乳自体の含有量が多いにもかかわらず、凝固性は二糖類やオリゴ糖を添加したものより低下した。食感については、少糖類の二糖類であるラクトースやマルトース及び少糖類のオリゴ糖であるマルトオリゴ糖が優れていた。また、特にマルトースとマルトオリゴ糖が良好であった。
【0028】
<試験例1>
─糖類の添加の時期を変えた場合─
実施例1では真空ドラムドライ前の豆乳に予め少糖類を溶解させたが、予め溶解するのではなく、熱湯での調製時に両者を混合する態様を検討した。すなわち、乾燥後の豆乳粉末(糖類無し)に粉末の糖類を添加して、熱湯で溶解する際に同時に糖類を存在させることで所定の凝固性と食感を得ることができるかを試験した。
予め糖類を溶解させる場合の豆乳粉末の製造方法、豆乳と糖類の重量比及び豆腐の調製方法は実施例1に示したものと同様である。また、糖類を後で添加するものについては、糖類の添加・溶解なしに液状豆乳を真空ドラムドライしたものを用いた。
【0029】
結果を表3に示す。表中「先」は液状豆乳に予め糖類を溶解させたもの、「後」は豆腐調製時の熱湯注加前に豆乳粉末(糖類なし)と糖類を混合したものを示す。また、「先」と「後」にかかわらず、豆乳と糖類のそれぞれの含有量は同一となるようにした。
【0030】
【表3】

糖類を豆乳の真空ドラムドライ後に混合する場合には、いずれの糖の場合についても所定の凝固性・食感を得ることはできなかった。即席豆腐の原料粉末として使用する場合には、真空ドラムドライ処理の前の液状豆乳の段階で予め糖類を添加・溶解させておくことが必要であることが明らかとなった。
【0031】
<試験例2>
─凝固剤の種類の検討─
本発明にグルコノデルタラクトン以外にどのような凝固剤を使用できるかを検討した。
凝固剤の種類を以下の表4記載の凝固剤A〜Fを準備した。
【0032】
【表4】

原料粉末としては、豆乳粉末(マルトースを含有するもの)を用いた。豆腐の調製方法については、実施例1に示した方法と同様である。結果を表5に示す。
【0033】
【表5】

凝固剤としては、グルコノデルタラクトンを含むことが必要であることが判明した。
尚、グルコノデルタラクトンの一部を塩化マグネシウムや硫酸カルシウムに置換したものは、風味が微妙に向上した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱湯を注加・攪拌後に、凝固剤を添加して固形化する即席豆腐に用いる原料粉末であって、
常法により得られた液状豆乳に少糖類を溶解させ、真空ドラムドライにより減圧・低温下で乾燥することにより製造される即席豆腐用の原料粉末。
【請求項2】
前記少糖類がマルトオリゴ糖である請求項1記載の即席豆腐用の原料粉末。
【請求項3】
前記少糖類が二糖類である請求項1記載の即席豆腐用の原料粉末。
【請求項4】
前記二糖類がマルトースである請求項3記載の即席豆腐用の原料粉末。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか記載の即席豆腐用の原料粉末及び凝固剤をカップ内に収納した即席カップ豆腐。
【請求項6】
前記凝固剤がグルコノデルタラクトンを含有する凝固剤である請求項5記載の即席カップ豆腐。