説明

卵加工食品

【課題】
家庭や店舗で直接調理される場合と遜色ない、卵本来の美味しさや独特の食感を有する卵加工食品を提供する。具体的には、ゆでた際の黄身のほくほく感、卵白特有のつや(透明感)や弾力感を有するフィリング用ゆで卵、さくっとした切れのある食感や、ふわっとした本来の食感に類似した卵焼きや薄焼き卵、半熟特有の滑らかな食感を有するオムライス、スクランブルエッグ等の卵加工食品を提供する。
【解決手段】
卵加工食品に、青価が0.4〜1.2の範囲であるデキストリンを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵加工食品に関する。具体的には、サンドイッチなどに使用されるフィリング用のゆで卵や、卵焼き、薄焼き卵、オムレツ、スクランブルエッグ等の液卵を主原料とする卵加工食品であり、家庭で調理した直後と遜色ない、弾力感、ほくほく感やふわっとした食感を有する卵加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
液卵を主原料とする卵加工食品としては、サンドイッチなどに使用されるフィリング用ゆで卵や、卵焼き、薄焼き卵、オムレツやスクランブルエッグ等の各種食品が知られている。これら卵加工食品は、家庭や店舗で直接調理される場合(卵を割って調理する場合)は、卵本来の美味しさや独特の食感(ゆでた際の黄身のほくほく感、卵白の弾力感、ふわっとした卵焼き、オムレツやスクランブルエッグの食感等)がその場で楽しめるが、既に加工された加工食品として流通する場合は、弾力感が低下したり、ぼそぼそとした食感となり、消費者の需要を満たすことはできなかった。例えば、加工食品である卵焼き、薄焼き卵、オムレツやスクランブルエッグ等は、調理殺菌後、冷凍流通される場合が多いが、凍結解凍時にぼそぼそとした食感となる。
【0003】
また、サンドイッチなどに使用されるフィリング用ゆで卵は、加工食品の製造過程においては、卵を殻ごとボイルするのではなく、卵黄部、卵白部を各々撹拌して液卵とした後に容器に充填し、ボイルして製造される場合が多い。通常、家庭や店舗で製造されるゆで卵(卵を殻ごとボイルしたゆで卵)は、つや(光沢、透明感)があり、つるっとした弾力感を有する白身の中に、ほくほくとした食感を有する黄身が存在する非常に美味しいものである。しかし、液卵を容器に充填してボイルされたゆで卵は、卵黄部がほくほくとした食感とは程遠い弾力のあるゴム様の物性となってしまう。
更に、フィリング用ゆで卵は、マヨネーズとゆで卵を混合して卵サラダにする場合が多いが、酸性域を示すマヨネーズとゆで卵を混合することにより、卵白部もぼそぼそとした食感となるなど、家庭や店舗での食感を再現することが困難であった。
【0004】
卵加工食品の物性を改良する素材としては、従来から澱粉が使用されてきた。例えば、卵焼きや薄焼き卵に対しては、澱粉を添加することにより、冷凍解凍耐性を付与したり、生地を破れにくくする、保型性を付与する等の役割を果たす。フィリング用ゆで卵に対しては、マヨネーズと混合した際に、卵白がぼそぼそとした食感になることを抑制する効果を有する。しかし、澱粉を添加することにより、卵白特有のつやが消失し、つるっとした弾力性も低下する。同様に、卵焼きや薄焼き卵の食感も、澱粉を添加することにより、糊っぽい食感や重い食感となり、本来のふわっとした軽い食感や切れのある食感を再現できないといった問題を抱えていた。
【0005】
同様にして、流通される卵加工食品であるオムレツやスクランブルエッグ等は、半熟に見せるために、澱粉主体の溶液(卵ソース)が使用されるが、その食感はやや粘りがあり、重たい食感となってしまうことが問題視されていた。
【0006】
一方、デキストリンを卵加工食品に用いた技術が知られている。例えば、卵サンドイッチ、オムレツ、キッシュ等の卵製品に保湿剤としてマルトデキストリンを添加する技術(特許文献1)、凍結乾燥かき卵にデキストリンを添加する技術(特許文献2)、デキストリンと植物ステロールを併用した冷凍卵加工食品に関する技術(特許文献3)、リン酸塩とデキストリンを含有する加工冷凍ゆで卵(特許文献4)等が知られている。
【0007】
しかし、従来のデキストリンを用いた場合は後述の実施例にも開示するように、卵黄部は弾力ある食感となり、卵黄特有のほくほくとした食感を再現できない。卵白部も、特有のつや(光沢、透明感)及び弾力が再現できず、重たい食感になるなど、目的とする卵加工食品を提供することはできなかった。
実際に、特許文献4に開示された加工冷凍ゆで卵も、デキストリン単独ではゆでたてのゆで卵の卵白部分に比べると著しく硬いこと(比較品)が開示されている。
【0008】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2001−515341号公報
【特許文献2】特開2006−296235号公報
【特許文献3】特開2007−267704号公報
【特許文献4】特開平07−135926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来技術に鑑み、本発明では、家庭や店舗で直接調理される場合と遜色ない、卵本来の美味しさや独特の食感を有する卵加工食品を提供することを目的とする。
具体的には、ゆでた際の黄身のほくほく感、卵白特有のつや(光沢、透明感)や弾力感を有するフィリング用ゆで卵、さくっとした切れのある食感や、ふわっとした本来の食感に類似した卵焼きや薄焼き卵、半熟特有の滑らかな食感を有するオムライス、スクランブルエッグ等の卵加工食品を提供することを目的とする。
更に、本発明では、卵加工食品に澱粉を用いた場合であっても、重い食感とならずに、家庭や店舗で直接調理される卵加工食品と類似した食感や外観を有する卵加工食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、卵加工食品について鋭意研究した結果、下記の性質(a)を有するデキストリンを添加することで、上記課題を解決できることを見出して本発明に至った。
(a)下記条件で測定された青価が0.4〜1.2の範囲である:
(1)80℃の蒸留水でデキストリン1w/v%水溶液を調製して、これを25℃に冷却する、
(2)上記デキストリン1w/v%水溶液(25℃)10mlを、ヨウ素20mgおよびヨウ化カリウム200mgを含む水溶液10mlと混合して、蒸留水で100mlとなるように調整する、
(3)上記調製液を遮光した状態で25℃で30分間振盪した後、25℃条件下で反応液の680nmにおける吸光度を分光光度計を用いて測定し、これを青価とする。
【0012】
本発明は以下の態様を有する卵加工食品に関する;
項1.以下の性質(a)を有するデキストリンを含有することを特徴とする、卵加工食品。
(a)下記条件で測定された青価が0.4〜1.2の範囲である:
(1)80℃の蒸留水でデキストリン1w/v%水溶液を調製して、これを25℃に冷却する、
(2)上記デキストリン1w/v%水溶液(25℃)10mlを、ヨウ素20mgおよびヨウ化カリウム200mgを含む水溶液10mlと混合して、蒸留水で100mlとなるように調整する、
(3)上記調製液を遮光した状態で、25℃で30分間振盪した後、25℃条件下で反応液の680nmにおける吸光度を分光光度計を用いて測定し、これを青価とする。
項2.液卵を30質量%以上含有するものである、項1に記載の卵加工食品。
項3.卵加工食品が、フィリング用ゆで卵、卵焼き、薄焼き卵、オムレツ又はスクランブルエッグである、項1又は2に記載の卵加工食品。
項4.更に澱粉を併用する、項1〜3のいずれかに記載の卵加工食品。
【0013】
更に、本発明は以下の態様を有する卵加工食品の品質改良方法に関する;
項5.以下の性質(a)を有するデキストリンを添加することを特徴とする、卵加工食品の品質改良方法。
(a)下記条件で測定された青価が0.4〜1.2の範囲である:
(1)80℃の蒸留水でデキストリン1w/v%水溶液を調製して、これを25℃に冷却する、
(2)上記デキストリン1w/v%水溶液(25℃)10mlを、ヨウ素20mgおよびヨウ化カリウム200mgを含む水溶液10mlと混合して、蒸留水で100mlとなるように調整する、
(3)上記調製液を遮光した状態で、25℃で30分間振盪した後、25℃条件下で反応液の680nmにおける吸光度を分光光度計を用いて測定し、これを青価とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、家庭や店舗で直接調理される場合と遜色ない、卵本来の美味しさや独特の食感を有する卵加工食品を提供することが可能となった。具体的には、ゆでた際の黄身のほくほく感、卵白特有のつや(光沢、透明感)や弾力感を有するフィリング用ゆで卵;さくっとした切れのある食感や、ふわっとした本来の食感に類似した卵焼きや薄焼き卵;半熟特有の滑らかな食感を有するオムライス、スクランブルエッグ等の卵加工食品を提供することができる。更に、本発明では、卵加工食品に澱粉を用いた場合であっても、重い食感とならずに、家庭や店舗で直接調理される卵加工食品と類似した食感や外観を有する卵加工食品を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の卵加工食品は、以下の性質(a)を有するデキストリンを含有することを特徴とする。
(a)下記条件で測定された青価が0.4〜1.2の範囲である:
(1)80℃の蒸留水でデキストリン1w/v%水溶液を調製して、これを25℃に冷却する、
(2)上記デキストリン1w/v%水溶液(25℃)10mlを、ヨウ素20mgおよびヨウ化カリウム200mgを含む水溶液10mlと混合して、蒸留水で100mlとなるように調整する、
(3)上記調製液を遮光した状態で、25℃で30分間振盪した後、25℃条件下で反応液の680nmにおける吸光度を分光光度計を用いて測定し、これを青価とする。
【0016】
青価は、一般に、澱粉のヨウ素反応、具体的には澱粉に含まれるアミロースとヨウ素とが反応して青色を呈することを利用して、澱粉ヨウ素反応液の680nmにおける吸光度として求められる値である。通常、青価は澱粉中のアミロース含量を評価するために用いられるが、本発明では、デキストリン中のアミロース含量を示す指標として用いられる。
【0017】
本発明においてデキストリンの青価は次の方法に従って算出することができる。以下、
本明細書で「青価」とはかかる方法で算出される値をいう。
(1)80℃の蒸留水でデキストリン1w/v%水溶液を調製して、これを25℃に冷却する。
(2)上記デキストリン1w/v%水溶液(25℃)10mlを、ヨウ素20mgおよびヨウ化カリウム200mgを含む水溶液10mlと混合して、蒸留水で100mlとなるように調整する。
(3)上記調製液を遮光した状態で、25℃において30分間振盪した後、25℃条件下で反応液の680nmにおける吸光度を、分光光度計を用いて測定する。
【0018】
本発明で使用するデキストリンは、前述するように、青価が0.4〜1.2の範囲であることを特徴とする。好ましくは0.5〜0.9の範囲、より好ましくは0.6〜0.8の範囲である。
【0019】
従来公知のデキストリンの青価は、0.4未満〔例えば、「パインデックス#100」(松谷化学工業(株)製)(後記実施例における「比較品2」):0.32、「デキストリンN.S.D300」((株)ニッシ製)(後記実施例における「比較品3」):0.11、「パインデックス#3」(松谷化学工業(株)製)(後記実施例における「比較品4」):0.04〕、または1.2より大きく〔例えば、「PASELLI SA2」(AVEBE製)(後記実施例における「比較品1」):1.42、〕であり、この点において本発明で用いるデキストリンと相違する。
【0020】
従来公知のデキストリンのように、デキストリンの青価が0.4未満であった場合は、目的とする卵加工食品の食感改良効果が得られず、一方青価が1.2より大きいデキストリンを用いた場合は、卵加工食品の食感が重くなってしまう。
【0021】
本発明で用いられるデキストリンは、上記性質を有するものであれば、由来する澱粉の種類、DE値(dextrose equivalent:デキストロース当量)、および分子量などは特に限定されない。例えば、デキストリンの原料となる澱粉としては、馬鈴薯、とうもろこし、甘藷、小麦、米、サゴ、およびタピオカなどの各種澱粉を挙げることができる。好ましくは馬鈴薯澱粉である。
【0022】
DE値とは、一般には澱粉の分解程度を示す指標であり、澱粉を加水分解したときに生成するデキストリンおよびぶどう糖や麦芽糖等の還元糖の割合を示すものである。全ての還元糖をぶどう糖(dextrose)の量に換算し、その割合を全体の乾燥固形分に対する質量%で表わしたものである。このDE値が大きい程、還元糖の含有量が多くデキストリンが少なく、逆にDE値が小さい程、還元糖の含有量が少なくデキストリンが多いことを意味する。制限はないが、本発明ではDE値が通常2〜5、好ましくは3〜5、より好ましくは3.5〜4.5のデキストリンが使用される。
【0023】
このような性質を備えるデキストリンは、原料となる澱粉を加水分解することによって調製できる。澱粉の分解方法は、特に制限なく、例えば酵素処理による分解、および酸処理による分解などを挙げることができるが、好ましくは酵素処理による分解(酵素分解)である。
【0024】
デキストリンの調製方法として、具体的には、耐熱性α―アミラーゼを含有させた澱粉、好ましくは馬鈴薯澱粉溶液を、70〜100℃、好ましくは90〜100℃の範囲で加熱したあとその酵素分解の進行度を、前述する青価(680nmの吸光度)を指標として追跡し、青価が所望の0.4〜1.2の範囲、好ましくは0.5〜0.9の範囲になったときに塩酸の添加によって酵素処理を終了する方法を挙げることができる。
【0025】
かくして得られたデキストリンを卵加工食品に添加することにより、卵本来の美味しさや独特の食感を有する卵加工食品を提供することが可能である。
【0026】
本発明が対象とする卵加工食品とは、液卵(溶液形態の卵黄や卵白)、乾燥卵白、又は乾燥卵黄を用いた、卵本来の食感や風味が求められる食品をいう。
具体的には、フィリング用ゆで卵、卵焼き、薄焼き卵、オムレツやスクランブルエッグなどの、好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上の卵(液卵換算)を含む食品を例示できる。例えば、乾燥卵白や乾燥卵黄を用いる場合は、当該乾燥卵白、卵黄中に含まれるタンパク質を液卵に含まれるタンパク質に換算して、液卵としての添加量を計算できる。
また、スクランブルエッグやオムレツなどは、炒り卵部と卵ソース部を混合して特有の半熟食感を再現する場合があるが、本発明の卵加工食品は、オムレツやスクランブルエッグなどに使用される卵ソースも含む。卵ソースは通常、液卵換算で5〜30質量%の卵を含む。
卵加工食品は、上記性質(a)を有するデキストリンを用いる以外は、常法に従って製造可能である。
【0027】
卵加工食品に対する上記性質(a)を有するデキストリンの添加量は、卵加工食品の種類や求められる食感によって適宜調整することが可能である。
例えば、フィリング用ゆで卵であれば、卵黄部に対して、上記デキストリンを2〜20質量%、好ましくは5〜15質量%、卵白部に対して、上記デキストリンを1〜10質量%、好ましくは2〜5質量%添加することが望ましい。上記記載の下限添加量を下回ると本発明の効果が十分に得られない場合があり、一方で上記記載の上限添加量を上回ると卵が固形分と水層部とに分離してしまう場合がある。また、卵白に対する添加量が多いと、ぼそぼそとした食感となり、弾力性が失われてしまう場合がある。
また、卵焼き、薄焼き卵、オムレツ、スクランブルエッグ、及びこれらの原料に使用される卵ソース等の食品に対しては、卵加工食品中、上記デキストリンを0.1〜3質量%、好ましくは0.2〜2質量%添加することが望ましい。添加量が0.1質量%を下回ると本発明の効果が十分に得られない場合があり、一方で添加量が3質量%を上回ると、重い食感となる場合がある。
【0028】
また、卵加工食品は、冷凍耐性や保型性付与、または生地を破れにくくすることを目的として、澱粉を添加することが多く、通常、卵加工食品に対して1〜8質量%程度の澱粉が使用される。
しかし、澱粉を含有することにより、卵本来の食感とは程遠い食感となってしまうことが多い。例えば、フィリング用ゆで卵であれば卵白特有のつやが消失する、つるっとした弾力性が低下する、卵焼き、薄焼き卵、オムレツ、スクランブルエッグ、及びこれらの原料に使用される卵ソース等であれば、重い食感やねっとりとした糊っぽい食感となるなど、食感に与える影響は大きい。
しかし、本発明では、澱粉を含有する卵加工食品であっても、卵本来の外観や食感に類似する卵加工食品を提供することが可能である。具体的には、澱粉含量を1〜8質量%、好ましくは3〜6質量%含有する卵加工食品であっても、重くねっとりとした糊っぽい食感となることなく、卵本来の食感に類似する卵加工食品を提供できる。
【0029】
本発明はまた、以下の性質(a)を有するデキストリンを添加することを特徴とする、卵加工食品の品質改良方法に関する;
(a)下記条件で測定された青価が0.4〜1.2の範囲である:
(1)80℃の蒸留水でデキストリン1w/v%水溶液を調製して、これを25℃に冷却する、
(2)上記デキストリン1w/v%水溶液(25℃)10mlを、ヨウ素20mgおよびヨウ化カリウム200mgを含む水溶液10mlと混合して、蒸留水で100mlとなるように調整する、
(3)上記調製液を遮光した状態で25℃で30分間振盪した後、25℃条件下で反応液の680nmにおける吸光度を分光光度計を用いて測定し、これを青価とする。
【0030】
具体的には、フィリング用ゆで卵に対して、ゆでた際の黄身のほくほく感、卵白特有のつや(透明感)や弾力感を付与することができ、卵焼きや薄焼き卵に対しては、さくっとした切れのある食感や、ふわっとした食感を付与することができる。また、オムライスに対しては、半熟特有の滑らかな食感を有するオムライス等の卵加工食品を提供することができる。特に、本発明のデキストリンは、澱粉を使用した卵加工食品に対して良好な品質改良効果を奏する。
【0031】
卵加工食品に対するデキストリンの添加時期は特に限定されず、最終食品である卵加工食品に上記デキストリンが含有されていればよい。具体的には、上記性質を有するデキストリンを卵加工食品の原材料を混合する際に添加する方法等を用いることにより、家庭や店舗で調理した直後と遜色ない、外観や食感を有する卵加工食品を提供することが可能である。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「質量%」、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
【0033】
調製例1〜3 デキストリンの調製
馬鈴薯澱粉を70℃の水に投入し撹拌して懸濁液とした。これに耐熱性α−アミラーゼを添加して混合後、70〜100℃で反応させ、青価(680nmの吸光度)を指標として分解程度を評価した。
【0034】
なお青価は次の方法に従って求めた。
(1)濃度が1w/v%となるようにデキストリン含有水溶液を調製して、これを25℃に冷却する。
(2)上記デキストリン1w/v%水溶液(25℃)10mlを、ヨウ素20mgおよびヨウ化カリウム200mgを含む水溶液10mlと混合して、蒸留水で100mlとなるように調整する。
(3)上記調製液を遮光した状態で、25℃において30分間振盪した後、25℃条件下で反応液の680nmにおける吸光度を、分光光度計を用いて測定する。
【0035】
このとき、かかる青価(680nmの吸光度)が所望の0.4〜1.2の範囲、好ましくは0.5〜0.9の範囲になったときに塩酸を添加し、これを90℃まで加熱することにより酵素(耐熱性α−アミラーゼ)を失活させて上記反応を停止した。
【0036】
斯くして、青価が0.66、0.60、および0.83であるデキストリン溶液を各々調製した。これらの各デキストリン溶液は、上記酵素反応後、活性炭およびパーライトを用いて脱色ろ過し、スプレードライを行って粉末化して、以下の実験に使用した。以下、青価が0.66、0.60および0.83であるデキストリン(粉末)を、各々調製例1〜3のデキストリンという。
【0037】
調製例1〜3で調製したデキストリンについて、下記の性質(a)を測定した。また比較のため、既存のデキストリン〔既存品1:「PASELLI SA2」(AVEBE社製)、既存品2:「パインデックス#100」(松谷化学工業(株)製)、既存品3:「デキストリンN.S.D.300」((株)ニッシ製)、既存品4:「パインデックス#3」(松谷化学工業(株)製)〕についても同様にして、性質(a)を測定した。
【0038】
(a)青価(Blue Value):
下記の方法で、反応液の吸光度(680nm)を測定する
(1)80℃の蒸留水を用いてデキストリン1w/v%水溶液を調製し、これを25℃まで冷却する。
(2)上記水溶液10mlに、20mgのヨウ素と200mgのヨウ化カリウムを含む水溶液10ml(0.2w/v%のヨウ素、2w/v%のヨウ化カリウム)を添加して、蒸留水を加えて100mlに調整する。
(3)上記水溶液を遮光条件下で25℃において30分間振盪した後、25℃で波長680nmにおける吸光度を測定する。
【0039】
結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
実験例1 卵加工食品の調製(フィリング用ゆで卵)
表1に示す各種デキストリンを用いて卵加工食品を調製した。
(卵黄部)
表2及び表3の処方に従ってフィリング用ゆで卵(卵黄部)を調製した。具体的には、水に澱粉及びデキストリンを添加し、撹拌溶解した。次いで、卵黄を加え撹拌後、容器に充填し、95℃で30分間ボイルすることで、フィリング用ゆで卵(卵黄部)を得た。
得られたフィリング用ゆで卵(卵黄部)について結果を表3に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
本発明のデキストリン(本発明品1及び2)を用いることで、家庭や店舗で直接調理されるゆで卵(卵を殻ごとボイルしたゆで卵)と遜色ない、卵黄様のほくほく感のある食感が再現されたフィリング用ゆで卵を調製できた。一方、青価が1.2以上であるデキストリンを用いた比較例1のゆで卵は、ほくほく感とは程遠い弾力ある食感となり、その食感自体も重たいものとなってしまった。青価が0.4未満であるデキストリンを用いた比較例2〜4のデキストリンは、ブランクと同じ弾力ある食感となり、家庭や店舗で直接調理されたような卵黄特有のほくほく感を再現することは到底できなかった。
また、実施例1〜2のフィリング用ゆで卵(卵黄部)は澱粉を含有しているにも関わらず、糊っぽい重い食感となることなく、卵黄特有のほくほく感が再現された食感であった。
【0045】
(卵白部)
表4のデキストリンを用いてフィリング用ゆで卵(卵白部)を調製した。具体的には、水12質量部に、澱粉5質量部及びデキストリン3質量部を加え、撹拌溶解した。次いで、卵白80質量部を加え撹拌後、容器に充填し、95℃で30分間ボイルすることで、フィリング用ゆで卵(卵白部)を得た。
得られたフィリング用ゆで卵(卵白部)について結果を表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
本発明のデキストリン(本発明品2)を用いることで、家庭や店舗で直接調理されるゆで卵(卵を殻ごとボイルしたゆで卵)と遜色ない、つや(光沢、透明感)が付与され、かつ卵白特有のつるっとした弾力ある食感を再現することができた(実施例3)。
一方、青価が1.2以上であるデキストリンを用いた比較例5のゆで卵は、やや弾力を付与できたものの、重い食感となり、目的とする卵白特有のつるっとした弾力ある食感を再現できなかった。
青価が0.4未満であるデキストリンを用いた比較例6〜8のフィリング用ゆで卵(卵白部)は、ブランクと同じく卵白特有のつや及び弾力がなく、家庭や店舗で直接調理されたようなゆで卵特有の卵白部を再現することは到底できかなった。
また、実施例3のフィリング用ゆで卵(卵白部)は澱粉を含有しているにも関わらず、ぼそぼそとした食感とならずに、卵白特有のつるっとした弾力ある食感を再現できた。
【0048】
実験例2 卵加工食品の調製(卵焼き(薄焼き卵))
表5及び表6の処方に従って卵加工食品を調製した。具体的には、水に全卵、澱粉、及びデキストリンを添加し、薄焼き卵の形状に焼成した。次いで室温にて放冷後、急速凍結した。解凍後の薄焼き卵を喫食した際の食感について結果を表6に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
【表6】

【0051】
本発明のデキストリン(本発明品1及び2)を用いることで、家庭や店舗で直接調理される薄焼き卵に似たような切れのある軽い食感を再現することができた。
一方、青価が1.2以上であるデキストリンを用いた比較例9の薄焼き卵は、ブランク以上に重たい食感となり、青価が0.4未満であるデキストリンを用いた比較例10〜12の薄焼き卵もブランクと同様、糊っぽく重たい食感となってしまった。
かかる中、本発明のデキストリンを用いた実施例4及び5の薄焼き卵は、澱粉を含有しならがらも重い食感とならずに、家庭や店舗で直接調理される薄焼き卵に似たような切れのある軽い食感を再現することができた。
【0052】
実施例6 卵加工食品の調製(スクランブルエッグ)
表7の処方に従って卵加工食品(スクランブルエッグ)を調製した。
(卵ソース部)
水に卵黄、低糖化還元水飴、食塩、デキストリン、調味料、澱粉、増粘剤及び保存料を添加し、80℃で10分間、加熱撹拌溶解した。次いで色素を添加し、撹拌溶解して、卵ソース部を調製した。
(炒り卵部)
表7の処方に従って炒り卵部を常法により調製した。
(スクランブルエッグ)
卵ソース部と炒り卵部を50:50の質量比で混合し、容器に充填し、85℃、20分加熱し、卵加工食品(スクランブルエッグ)を調製した。
【0053】
【表7】

【0054】
得られた卵加工食品は、とろっとした半熟卵の様な食感を有するスクランブルエッグであった。更に、本スクランブルエッグは澱粉を含有しているにも関わらず、滑らかな口当たりを有するスクランブルエッグであった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の性質(a)を有するデキストリンを含有することを特徴とする、卵加工食品。
(a)下記条件で測定された青価が0.4〜1.2の範囲である:
(1)80℃の蒸留水でデキストリン1w/v%水溶液を調製して、これを25℃に冷却する、
(2)上記デキストリン1w/v%水溶液(25℃)10mlを、ヨウ素20mgおよびヨウ化カリウム200mgを含む水溶液10mlと混合して、蒸留水で100mlとなるように調整する、
(3)上記調製液を遮光した状態で、25℃で30分間振盪した後、25℃条件下で反応液の680nmにおける吸光度を分光光度計を用いて測定し、これを青価とする。
【請求項2】
液卵を30質量%以上含有するものである、請求項1に記載の卵加工食品。
【請求項3】
卵加工食品が、フィリング用ゆで卵、卵焼き、薄焼き卵、オムレツ又はスクランブルエッグである、請求項1又は2に記載の卵加工食品。
【請求項4】
更に澱粉を併用する、請求項1〜3のいずれかに記載の卵加工食品。
【請求項5】
以下の性質(a)を有するデキストリンを添加することを特徴とする、卵加工食品の品質改良方法。
(a)下記条件で測定された青価が0.4〜1.2の範囲である:
(1)80℃の蒸留水でデキストリン1w/v%水溶液を調製して、これを25℃に冷却する、
(2)上記デキストリン1w/v%水溶液(25℃)10mlを、ヨウ素20mgおよびヨウ化カリウム200mgを含む水溶液10mlと混合して、蒸留水で100mlとなるように調整する、
(3)上記調製液を遮光した状態で、25℃で30分間振盪した後、25℃条件下で反応液の680nmにおける吸光度を分光光度計を用いて測定し、これを青価とする。