説明

卵殻膜タンパク質の分解能を有する微生物

【目的】効率良く、且つ変質を起こさない卵殻膜の分解方法を提供する。
【構成】卵殻膜タンパク質の分解能を有する、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵殻膜タンパク質の分解能を有する微生物、当該微生物の培養液又はそれより単離された酵素による卵殻膜タンパク質の分解方法、並びに当該微生物の培養液又はそれより単離された酵素によって得られた卵殻膜タンパク質分解物に関する。
【背景技術】
【0002】
卵殻膜は古くから創傷治癒等に用いられており、また卵殻膜中の一部可溶性画分は、化粧料等への利用も試みられている。しかしその組成の大部分は、構造中に多量のジスルフィド結合を有するタンパク質とコラーゲンを含む不溶性タンパク質であり、その利用が困難であった。そこで効率的に卵殻膜を食品、化粧品等へ適用することを鑑み、種々の分解方法が提案されている。特許文献1にはアルカリ性含水有機溶媒中での卵殻膜の分解が報告されているがこの方法であるとタンパク質の一部が変質して着色等がみられる。また特許文献2にはタンパク質分解酵素による卵殻膜の分解方法が提案されているが十分効率的に分解物を得ることはできない。以上のように卵殻膜の分解において従来技術は実用化のために満足のゆくものではなかった。
【特許文献1】特開平1−275512号公報
【特許文献2】特開平4−148649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
かかる事情に鑑み、本発明は、効率良く、且つ変質を起こさない卵殻膜の分解方法の確立を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は鋭意検討した結果、効率的に卵殻膜を分解する微生物を土壌より単離し、その培養液より精製した酵素を用いることにより、従来の酵素法より飛躍的に分解効率が上がることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち本発明の請求項1は、卵殻膜タンパク質の分解能を有する、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物である。
【0006】
また本発明の請求項2は、シュードモナス属に属する微生物が、Pseudomonas Sp.ME−2株(独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 受領番号:FERM AP−20951)である、請求項1記載の微生物である。
【0007】
また本発明の請求項3は、シュードモナス属に属する微生物の培養液又はそれより単離された酵素による卵殻膜タンパク質の分解方法である。
【0008】
また本発明の請求項4は、シュードモナス属に属する微生物の培養液又はそれより単離された酵素によって得られた卵殻膜タンパク質分解物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、効率良く、且つ変質を起こさない卵殻膜の分解方法が確立され、且つその分解物は食品、医薬品、化粧料、医薬部外品等に配合可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の構成について詳説する。
【0011】
本発明でいう卵殻膜とは、鶏卵等の鳥類の卵の外殻の内側に存在する薄膜であり、主成分はグルタミン酸やシステインに富む不溶性タンパク質である。
【0012】
本発明の卵殻膜タンパク質分解方法においては、土壌より卵殻膜を窒素源、炭素源として単離されたシュードモナス属微生物の培養上清及びその培養上清より精製された酵素が用いられる。単離された微生物の培養においては卵殻膜以外に例えばスキムミルク、ペプトン、グルコース等、細菌の培養に用いられる窒素源、炭素源、又はそれにニコチン酸あるいはニコチン酸アミド等のビタミンや酵母エキス、緩衝液等の添加剤を添加した培地を用いて培養することによって得ることができるが、特に好ましいのはグリセロール及びペプトンである。必要に応じて遠心分離、濾過等により固形物を除去したものや加熱等により殺菌処理を行ったものも用いることができる。また、培養物に防腐剤として多価アルコールを加えた後、澱びきしたものも用いることができる。
【0013】
本発明の卵殻膜タンパク質分解方法によって得られた卵殻膜タンパク質分解物は、食品、医薬品、化粧料、医薬部外品等に配合可能である。例えば、化粧品、医薬部外品等の皮膚外用剤へ配合する場合は、その配合量は、皮膚外用剤総量を基準として、0.001〜20質量%とするのが好ましく、特に好ましくは0.01〜5質量%である。
【実施例】
【0014】
以下、実施例、試験例、処方例により詳細に説明する。
【0015】
(微生物の分離)
兵庫県、大阪府、京都府より採取した200種の土壌各0.5gに0.8質量%のNaCl水溶液5mLを加えて懸濁、上清を滅菌した表1に示す組成の培養液からなる平板培地に塗布し、卵殻膜の分解によるハローの形成を指標として6株の分解菌を得た。この内、兵庫県の耕作土より単離されたME−2株の同定を行ったところ、Pseudomonasであることが明らかとなった。但し、病原菌として知られている緑膿菌とは異なることも明らかとなった。
【表1】

【0016】
(培養液の調製)
滅菌した表2の培養液に上記Pseudomonas Sp. ME−2株(以下、ME2株)を接種し、72時間、30℃で振とう培養し、培養液を得た。この培養上清を卵殻膜タンパク質と反応させたところ分解が確認された。
【表2】

【0017】
(酵素の精製)
上記培養上清420mLを遠心分離、硫安分画、CM52Celluloseカラムクロマトグラフィー、DE52Celluloseカラムクロマトグラフィー、DEAE−TOYOPEARL650Sカラムクロマトグラフィーにて精製し14mgの酵素を得た。本酵素をPAGE、及びSDS−PAGEに供したところ単一蛋白質であることが明らかとなった。SDS−PAGE法により分子量を測定したところ32000であった。また、効果の高いpHは7.5〜8.5、最適温度は60℃であった。以下、本酵素を本発明の卵殻膜分解剤(実施例1)とした。
【0018】
以下、実施例1の培養上清を用いた、卵殻膜分解試験について述べる。
【0019】
試験例1(卵殻膜分解試験)
(1)方法
卵殻膜粉末0.625%を含む20mM緩衝液800μLと各種酵素280μgを含む水溶液200μLを混合し、30℃で24時間浸透し、Folin法、Lowly法にて分解された蛋白量を測定した。
【0020】
(2)結果
実施例1の卵殻膜分解剤及び表3に示す蛋白質分解酵素をそれぞれの最適pHで分解させた結果を示す。表3より明らかなように本発明の酵素を用いた場合(実施例1)、他の酵素と比較して高い分解性が認められた。
【0021】
【表3】

【0022】
以下、本発明の卵殻膜タンパク質分解物を配合した化粧料の応用例を示す。
【0023】
処方例1〜3(スキンクリーム)
表4に基づき実施例1の卵殻膜タンパク質分解物を配合したスキンクリームを調製した(処方例1〜3)。
【0024】
(1)組成
【表4】

【0025】
(2)調製法
(A)成分及び(B)成分を各々80℃に加熱溶解した後混合して、攪拌しつつ冷却し、30℃まで冷却して、スキンクリームを調製した。
【0026】
処方例4〜6(ローション)
表5に基づき実施例1の卵殻膜タンパク質分解物を配合したローションを調製した(処方例4〜6)。
【0027】
(1)組成
【表5】

【0028】
(2)調製法
各成分をそれぞれ混合溶解し、攪拌して、ローションを調製した。
【0029】
処方例7〜9(ジェル)
表6に基づき実施例1の卵殻膜タンパク質分解物を配合したジェルを調製した(処方例7〜9)。
【0030】
(1)組成
【表6】

【0031】
(2)調製法
(A)成分及び(B)成分を各々60℃に加熱溶解した後混合して、攪拌しつつ冷却し、30℃まで冷却して、クリームを調製した。
【0032】
処方例10〜12(親油クリーム)
表7に基づき実施例1の卵殻膜タンパク質分解物を配合したW/Oクリームを調製した(応用例10〜12)。
【0033】
(1)組成
【表7】

【0034】
(2)調製法
(A)成分及び(B)成分を各々60℃に加熱溶解した後混合して、攪拌しつつ冷却し、30℃まで冷却して、親油クリームを調製した。
【0035】
処方例13〜15(サンスクリーン)
表8に基づき実施例1の卵殻膜タンパク質分解物を配合したサンスクリーンを調製した(処方例13〜15)。
【0036】
(1)組成
【表8】

【0037】
(2)調製法
(A)成分及び(B)成分を各々80℃に加熱溶解した後混合して、攪拌しつつ冷却し、30℃まで冷却して、サンスクリーンを調製した。
【0038】
尚、上記処方例で用いた香料の処方を下記に示す。
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵殻膜タンパク質の分解能を有する、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物。
【請求項2】
シュードモナス属に属する微生物が、Pseudomonas Sp.ME−2株(独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 受領番号:FERM AP−20951)である、請求項1記載の微生物。
【請求項3】
シュードモナス属に属する微生物の培養液又はそれより単離された酵素による卵殻膜タンパク質の分解方法。
【請求項4】
シュードモナス属に属する微生物の培養液又はそれより単離された酵素によって得られた卵殻膜タンパク質分解物。

【公開番号】特開2008−61514(P2008−61514A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239664(P2006−239664)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月5日 社団法人 日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会2006年度(平成18年度)大会講演要旨集」に発表
【出願人】(504180206)株式会社カネボウ化粧品 (125)
【Fターム(参考)】