説明

卵管特異的糖タンパク質レベルを検出することによる婦人科新生物の診断方法

本発明は、患者における癌を検出する方法を提供する。患者からの試料が提供され、試料中の卵管特異的糖タンパク質(OGP)レベルを決定して、対照試料と比較する。対照と比較して試料中のOGPレベルが増加していれば、患者が癌を有することを示している。一つの局面において、癌は卵巣癌のような婦人科癌である。本発明の方法を行うためのキットも同様に提供される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、婦人科新生物を検出する方法に関する。方法は、卵管特異的糖タンパク質(OGP)レベルを検出することを含む。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
先進諸国では、上皮性卵巣癌(EOC)は依然として最も致死性の高い婦人科悪性疾患であり、女性における全ての癌による最も一般的な死因の第4位または第5位である。しかし、今日まで卵巣癌の早期検出手段はなく、これらの腫瘍の分類を正確に決定するための完成したシステムもない。この疾患の致死性は、腫瘍が卵巣を超えて広がってしまうまで症状がほとんどないことに由来する。その結果、卵巣癌を有する女性の5年生存率はなおも低く、40〜50%である[全米癌学会、2003;Jemal A.ら、2003]。腫瘍が卵巣に限局されている場合、生存の見込みは実質的に80〜90%に増加する。EOCの臨床的重要性にもかかわらず、疾患の初期進行はなおも理解が進んでいない。
【0003】
癌腫、嚢胞腺腫、および境界型腫瘍を含む85%を超える卵巣の新生物が卵巣表層上皮(OSE)、またはその派生物である上皮腺かおよび封入嚢胞から発生すると考えられている[Scully, RE、2000;Auersperg, N.ら、2001]。OSEは、卵巣を覆う単純な中皮である。OSEが悪性疾患に進行すると、これは卵管、子宮内膜、または子宮頚内膜のより複雑なミューラー管由来上皮の特徴を獲得する[Scully, REら、1998]。これらの上皮と同様に、分化型卵巣癌は腺および乳頭状の構造を形成し、より高度に特殊化して、E-カドヘリン[Maines-Bandiera, S.L. and Auersperg, N.、1997;Sundfeldt, K.ら、1997;Davies, B.R.ら、1998]およびCA-125[Bast, R.C. Jr.ら、1998]を含む複雑な上皮特徴を獲得する。このように、発癌が分化の喪失を伴う他の組織とは対照的に、悪性OSEは、ミューラー管派生物に類似のより高度に分化した上皮表現型を獲得する。これらの変化は、OSEおよびミューラー管上皮が由来する共通の胚起源、すなわち体腔上皮を反映する可能性がある[Scully, RE、2000]。
【0004】
ミューラー管分化は、卵巣新生物において頻繁に認められることからこれらの腫瘍の分類の基礎として役立つ[全米癌学会、2003]。最も一般的なタイプの癌細胞は卵管上皮に類似する漿液性癌腫である。卵巣癌において管の分化の特徴を示し、予測または診断マーカーとして役立つ分子マーカーは、CA125を除き現在のところない[Bast, R.C. Jrら、1998;Hellstrom, I.ら、2003;Mazurek, A.ら、1998]。
【0005】
OGP、卵管特異的糖タンパク質は、特異的管分化マーカーである[Rapisarda, J.J.ら、1993;Arias, E.B.ら、1994;Lesse, H.J.ら、2001]。OGPは、通常、エストロゲンの支配下で卵管の分泌上皮細胞によって特異的にしかも独占的に分泌される[Arias, E.Bら、1994;O'Day-Bowman, M.B.ら、1995;Jaffe, R.C.ら、1996]。これは、通常、子宮内膜および子宮頚内膜によって産生されるCA125より特異的である[Kabawat, S.E.ら、1983]。ヒトゲノムは、染色体1p13上に存在するOGP遺伝子1コピーを含む[Lapensee, L.ら、1997]。これは、CA125と同様に、分子量が110〜130 kDaの高度グリコシル化タンパク質であり、受精および初期胚発達において役割を果たすと考えられている

【発明の開示】
【0006】
発明の概要
本発明者らは、卵管特異的糖タンパク質(OGP)が卵巣新生物の異常なミューラー管上皮分化の際に発現されるマーカーであることを決定した。
【0007】
したがって、一つの態様において、本発明は、以下を含む、患者における癌を検出する方法を提供する:
(a)患者からの試料を提供する段階;
(b)試料中のOGPレベルを検出する段階;および
(c)対照と比較してOGPレベルが増加すれば、患者が癌を有することが示される、試料中のOGPレベルを対照試料と比較する段階。
【0008】
もう一つの態様において、本発明は、以下を含む、患者における癌の進行をモニターする方法を提供する:
(a)患者からの試料を提供する段階;
(b)試料中のOGPレベルを決定する段階;
(c)OGP発現レベルに差があれば、患者において癌が進行していることを示している、後の時点で段階(a)および(b)を繰り返し、段階(b)の結果を段階(c)の結果と比較する段階。
【0009】
本発明の他の特徴および長所は、以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。しかし、本発明の趣旨および範囲に含まれる様々な変更および改変が、この詳細な説明から当業者に明らかとなるであろうことから、本発明の好ましい態様を示す詳細な説明および特定の例は、説明するために限って示されると理解すべきである。
【0010】
発明の詳細な説明
OGPの免疫組織化学分析を卵巣腫瘍389例および正常卵巣19例について行うと共に、正常組織45例および異なる組織37例からの良性および悪性腫瘍タイプ51例を表す433例について行った。
【0011】
OGPは、卵巣表層上皮(OSE)には存在しないが、上皮封入嚢胞では31例中28例、漿液性嚢胞腺腫では14例中13例(93%)および漿液性境界型腫瘍では65例中46例(71%)に存在した。漿液性腺癌183例中、26例(14%)はOGP陽性であり、これには、グレードIが8例中5例(63%)、グレードIIでは41例中7例(17%)、およびグレードIIIの癌では134例中14例(10%)が含まれた。OGPは、境界型腫瘍では14例中7例(50%)、悪性粘液性卵巣腫瘍では15例中9例(60%)、および類内膜腺癌では39例中10例(26%)において認められた。腺構造の内腔にOGPが局在することは、それが分泌されることを示唆した。OGPは、正常組織45例中41例では存在しないが、卵管では陽性であり、唾液腺および十二指腸および回腸では弱かった。非婦人科腫瘍46タイプは、子宮頚癌47例中2例および子宮内膜癌56例中3例を除く婦人科新生物と同様に陰性であった。
【0012】
したがって、本発明者らは、OGPが、良性および境界型漿液性新生物の特徴を示す新規卵管分化マーカーであり、卵巣癌形成における初期事象を示す可能性があると決定した。
【0013】
したがって、OGPレベルを評価することは、OGPを含む癌の予後および診断的評価、そのような癌に対する素因を有する被験者の同定、ならびにOGP関連癌患者の進行をモニターするために用いてもよい。
【0014】
本発明の態様において、以下を含む、患者における癌を検出する方法が提供される:
(a)患者からの試料を提供する段階;
(b)試料中のOGPレベルを検出する段階;および
(c)対照と比較してOGPレベルが増加すれば、患者が癌を有することが示される、試料中のOGPレベルを対照試料と比較する段階。
【0015】
本明細書において用いられる「OGP」という用語は、卵管特異的糖タンパク質、オビダクチン、エストロゲン依存的卵管糖タンパク質、またはムチン9(MUC9)と同義語である。OGPという用語には、アクセッション番号Q12889としてゲンバンクに寄託されている分子、またはAriasら(Arias EBら、Biol. Reprod. 51、685〜694頁(1994))によって参照される分子と共に、癌を検出するために有用なその任意のイソ型、変種、類似体、誘導体、または断片を含む既知の全てのOGP分子が含まれる。
【0016】
「OGPレベルを検出する」という句には、OGPタンパク質をコードする核酸分子のレベルの検出と共に、OGPタンパク質レベルの検出が含まれる。タンパク質および核酸を検出する方法は下記により詳細に考察する。
【0017】
本明細書において用いられるように「癌」という用語には、OGP発現の増加に関連する全ての癌が含まれる。好ましい態様において、癌は卵管化生、卵巣漿液性境界型腫瘍、漿液性腺癌、低グレード粘液性新生物および子宮内膜腫瘍が含まれるがこれらに限定されない。特定の態様において、婦人科癌は異常なミューラー上皮分化を受ける卵巣新生物である。
【0018】
本明細書において用いられるように、「患者からの試料」という用語は、生体液(血液、血清、腹水を含む)、組織抽出物、新しく採取した細胞、および細胞培養においてインキュベートした細胞の溶解物が含まれるがこれらに限定されない、検出したいと望む癌細胞を含む任意の試料を意味する。好ましい態様において、試料は婦人科組織、血清、または腹水である。
【0019】
「患者」は、好ましくは、OGPに関連することが疑われる癌を有することが疑われる、または有する如何なる哺乳類、好ましくはヒトとなりうる。患者は好ましくは婦人科癌または腫瘍を有することが疑われるまたは有する雌性哺乳類である。
【0020】
「対照試料」という用語には、基礎または正常レベルを確立するために用いることができる任意の試料が含まれ、これには健康な人から採取した組織試料または生理的な液体を模倣する試料が含まれる。対照試料の例には、正常卵巣組織および正常な卵管の切片が含まれる。
【0021】
本発明の方法は、癌、特に婦人科癌の診断および進行期分類において用いてもよい。本発明はまた、癌の進行をモニターするため、および特定の治療が有効であるか否かをモニターするために用いてもよい。特に、方法は、手術、癌化学療法、および/または放射線療法後に、全ての腫瘍組織が存在しないことまたは摘出を確認するために用いることができる。方法はさらに、癌化学療法および腫瘍の再出現をモニターするために用いることができる。
【0022】
一つの態様において、本発明は、以下を含む、患者における癌の進行をモニターする方法を提供する:
(a)患者からの試料を提供する段階;
(b)試料中のOGPレベルを決定する段階;
(c)OGP発現レベルに差があれば、患者において癌が進行していることを示している、後の時点で段階(a)および(b)を繰り返し、段階(b)の結果を段階(c)の結果と比較する段階。
【0023】
特に、後の時点でOGPレベルが増加すれば、癌が進行していること、および治療(適用可能であれば)が有効でないことを示す可能性がある。対照的に後の時点でOGPレベルが減少すれば、癌が退縮していること、そして治療(適用可能であれば)が有効であることを示す可能性がある。
【0024】
本発明のもう一つの態様において、以下を含む、患者において癌が良性であるか否かを決定する方法が提供される:
(a)患者からの試料を提供する段階;
(b)試料中のOGPレベルを検出する段階;および
(c)対照と比較してOGPレベルが増加すれば、癌が良性であることが示される、試料中のOGPレベルを対照試料と比較する段階。
【0025】
本発明の一つの態様において、以下を含む、非浸潤性および浸潤性の婦人科癌を区別する方法が提供される:
(a)患者からの試料を提供する段階;
(b)試料中のOGPレベルを検出する段階;および
(c)対照と比較して患者からの試料中のOGPレベルが増加すれば、癌が非浸潤性であることが示される、試料中のOGPレベルを対照試料と比較する段階。
【0026】
本発明のもう一つの態様において、以下を含む、初期および後期段階の腺癌を区別する方法が提供される:
(a)患者からの試料を提供する段階;
(b)試料中のOGPレベルを検出する段階;および
(c)対照と比較して試料中のレベルが増加すれば、癌が初期段階の腺癌であることが示される、試料中のOGPレベルを対照試料と比較する段階。
【0027】
もう一つの態様において、本発明は、以下を含む、婦人科新生物を発症する可能性があるリスクを患者に対して決定する方法を企図する:
(a)患者からの試料を提供する段階;
(b)試料中のOGPレベルを検出する段階;および
(c)対照と比較してOGPレベルが増加すれば、患者が婦人科新生物を発症するリスクを有することが示される、試料中のOGPレベルを対照試料と比較する段階。
【0028】
多様な方法を、OGPを含む癌の上記の診断および予後評価、ならびにそのような障害に対する素因を有する被験者の同定のために用いることができる。そのような方法は、例えばOGPをコードする核酸分子もしくはその断片の検出、または例えばペプチド断片を含む、OGPに対する抗体を用いるOGPタンパク質の検出に依存してもよい。これらのそれぞれを下記に記述する。
【0029】
(a)核酸分子を検出する方法
一つの態様において、本発明の方法は、OGPをコードする核酸分子を検出することを含む。当業者は、試料中のOGPをコードする核酸配列の検出に用いられるヌクレオチドプローブを構築することができる。適したプローブには、OGPの領域から少なくとも5連続アミノ酸をコードする核酸配列に基づく核酸分子が含まれ、好ましくはそれらは15〜30ヌクレオチドを含む。ヌクレオチドプローブは、32P、3H、14C等のような、適切なシグナルを提供して、十分な半減期を有する放射活性標識のような検出可能な物質によって標識してもよい。用いてもよい他の検出可能な物質には、特異的標識抗体によって認識される抗原、蛍光化合物、酵素、標識抗原に対して特異的な抗体、および発光化合物が含まれる。検出されるヌクレオチドに対するプローブのハイブリダイゼーションおよび結合率、ならびにハイブリダイゼーションのために利用できるヌクレオチドの量に関して、適当な標識を選択してもよい。標識プローブを、Sambrookら、1989、「Molecular Cloning、A Laboratory Manual」(第二版)に一般的に記述されるように、ニトロセルロースフィルターまたはナイロンメンブレンのような固相支持体上の核酸とハイブリダイズさせてもよい。核酸プローブは、好ましくはヒト細胞においてOGPをコードする遺伝子を検出するために用いてもよい。ヌクレオチドプローブはまた、OGPを含む障害の診断、そのような障害の進行のモニタリング、または治療的治療のモニタリングにおいて有用となる可能性がある。一つの態様において、プローブは、癌、好ましくは婦人科癌の診断、および癌の進行のモニタリングにおいて用いられる。
【0030】
プローブは、OGPタンパク質をコードする遺伝子を検出するためにハイブリダイゼーション技術において用いてもよい。技術は一般的に、患者の試料からまたは他の細胞起源から得られた核酸(例えば、組換え型DNA分子、クローニングされた遺伝子)を、核酸における相補的配列に対するプローブの特異的アニーリングにとって都合がよい条件で、プローブと接触させてインキュベートする段階を含む。インキュベーション後、アニールしていない核酸を除去して、もしあればプローブにハイブリダイズした核酸の存在を検出する。
【0031】
核酸分子の検出は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のような増幅法を用いた後に当業者に周知の技術を用いて増幅分子の分析を行う、特異的遺伝子配列の増幅を含んでもよい。適したプライマーは当業者によって普通に設計されうる。
【0032】
本明細書に記述のハイブリダイゼーションおよび増幅技術は、OGPをコードする遺伝子の発現の定性的および定量的局面をアッセイするために用いてもよい。例えば、OGPをコードする遺伝子を発現することがわかっている細胞タイプまたは組織からRNAを単離して、本明細書において言及したハイブリダイゼーション(例えば、標準的なノザンブロット分析)またはPCR技術を利用して試験してもよい。技術は、正常なまたは異常な選択的スプライシングによる可能性がある、転写物の大きさの差を検出するために用いてもよい。技術は、OGPタンパク質または遺伝子を含む癌の症状を示す人と比較して、正常な人において検出された完全長および/または選択的スプライス転写物のレベルの定量的な差を検出するために用いてもよい。
【0033】
プライマーおよびプローブは、上記の方法においてインサイチューで、すなわち生検または切除によって得られた患者組織の組織切片に対して直接用いてもよい。
【0034】
したがって、本発明は、以下を含む、患者における癌を検出することを提供する:
(a)患者からの試料を提供する段階;
(b)OGP遺伝子またはその一部を含む核酸分子を試料から抽出する段階;
(c)抽出された核酸分子をポリメラーゼ連鎖反応を用いて増幅する段階;
(d)OGPをコードする核酸分子の存在を決定する段階;および
(e)対照と比較してOGPレベルが増加すれば、患者が癌を有することが示される、試料中のOGPレベルを対照試料と比較する段階。
【0035】
(b)OGPタンパク質を検出する方法
もう一つの態様において、本発明の方法は、OGPタンパク質の検出を含む。一つの態様において、OGPタンパク質は、OGPに特異的に結合する抗体を用いて検出される。
【0036】
OGPに対する抗体は当技術分野で既知の技術を用いて調製してもよい。例えば、OGPのペプチドを用いて、標準的方法を用いてポリクローナル抗血清またはモノクローナル抗体を作製することができる。哺乳類(例えば、マウス、ハムスター、またはウサギ)を、哺乳類において抗体反応を誘発するペプチドの免疫原性型によって免疫することができる。ペプチドに免疫原性を付与する技術には、担体との結合、または当技術分野で周知の他の技術が含まれる。例えば、タンパク質またはペプチドは、アジュバントの存在下で投与することができる。免疫の進行は、血漿または血清中の抗体力価の検出によってモニターすることができる。標準的なELISAまたは他のイムノアッセイ技法は、抗体レベルを評価するために免疫原を抗原として用いることができる。免疫後、抗血清を得て、望ましければ、ポリクローナル抗体を血清から単離する。
【0037】
モノクローナル抗体を産生するために、抗体産生細胞(リンパ球)を免疫した動物から回収して、標準的な体細胞融合技法によって骨髄腫細胞と融合させて、このようにこれらの細胞を不死化してハイブリドーマ細胞を作製する。そのような技術(例えば、当初Kohler and Milstein(Nature 256:495〜497(1975))によって開発されたハイブリドーマ技術)は、ヒトB-細胞ハイブリドーマ技術(Kozborら、Immunol. Today 4:72(1983))、ヒトモノクローナル抗体を産生するためのEBVハイブリドーマ技術(Coleら、Monoclonal Antibodies in Cancer Therapy(1985)、Allen R. Bliss Inc、77〜96頁)、および組み合わせ抗体ライブラリのスクリーニング(Huseら、Science 246:1275(1989))のような他の技術と共に、当技術分野で周知である。ペプチドと特異的に反応性である抗体を産生するために、ハイブリドーマ細胞を免疫化学的にスクリーニングして、モノクローナル抗体を単離することができる。
【0038】
本明細書において用いられる「抗体」という用語は、OGPまたはその断片と特異的に反応するその断片が含まれると意図される。抗体は、通常の技術を用いて断片化することができ、断片を上記と同じように有用性に関してスクリーニングすることができる。例えば、F(ab')2断片は、抗体をペプシンによって処理することによって作製することができる。得られたF(ab')2断片をジスルフィド架橋を還元するように処置すると、Fab'断片を作製することができる。
【0039】
キメラ抗体誘導体、すなわちヒト以外の動物の可変領域とヒトの定常領域とを組み合わせた抗体分子もまた、本発明の範囲に含まれると企図される。キメラ抗体分子には、例えばマウス、ラット、または他の種の抗体からの抗原結合ドメインとヒト定常領域とが含まれる。通常の方法を用いて、本発明のOGP抗原の遺伝子産物を認識する免疫グロブリン可変領域を含むキメラ抗体を作製してもよい(例えば、Morrisonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851(1985);Takedaら、Nature 314:452(1985);Cabillyら、米国特許第4,816,567号;Bossら、米国特許第4,816,397号;Tanaguchiら、欧州特許第171496号;欧州特許第0173494号、英国特許第2177096Bを参照されたい)。キメラ抗体は、対応する非キメラ抗体よりヒト被験者において免疫原性が低いであろうと予想される。
【0040】
本明細書に記述のように、本発明のタンパク質と特異的に反応性であるモノクローナル抗体またはキメラ抗体は、可変領域の一部、特に抗原結合ドメインの保存されたフレームワーク領域がヒト起源であって、高度可変領域のみがヒト以外の起源である、ヒト定常領域キメラを作製することによってさらにヒト化することができる。そのような免疫グロブリン分子は、当技術分野で既知の技術によって作製してもよい(例えば、Tengら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:7308〜7312(1983);Kozborら、Immunology Today 4:7279(1983);Olssonら、Meth. Enzymol. 92:3〜16(1982)、およびPCT出願国際公開公報第92/06193号または欧州特許第0239400号)。ヒト化抗体はまた、市販用に大量産生することができる(Scotgen Limited、2 Holly Road, Twickenham、ミドルエセックス、イギリス)。
【0041】
OGPに対して反応性である一本鎖Fvモノクローナル抗体のような、しかしこれに限定されない特異的抗体または抗体断片はまた、細菌において発現された免疫グロブリン遺伝子またはその一部をコードする発現ライブラリを、OGPの核酸分子から産生されたペプチドによってスクリーニングすることによって作製してもよい。例えば、完全なFab断片、VH領域およびFV領域を、ファージ発現ライブラリを用いて細菌において発現させることができる(例えば、Wardら、Nature 341:544〜546(1989);Huseら、Science 246:1275〜1281(1989);およびMcCaffertyら、Nature 348:552〜554(1990)を参照されたい)。または、例えばゲンファーム(Genpharm)によって開発されたモデルであるSCID-huマウスを用いて、抗体またはその断片を産生することができる。
【0042】
酵素結合体または標識誘導体のような、OGPまたは誘導体に対して特異的に反応する抗体を用いて、様々な試料(例えば、生体材料)においてOGPを検出してもよい。それらは、診断または予後試薬として用いてもよく、タンパク質発現レベルにおける異常、構造における異常、および/またはOGPの一時的、組織、細胞、または細胞下位置を検出するために用いてもよい。インビトロイムノアッセイも同様に、特定の治療の有効性を評価またはモニターするために用いてもよい。本発明の抗体はまた、インビトロで用いて、OGPタンパク質を産生するように遺伝子操作された細胞においてOGPをコードする遺伝子の発現レベルを決定してもよい。
【0043】
抗体は、OGPの抗原性決定基と抗体との結合相互作用に依存する任意の既知のイムノアッセイにおいて用いてもよい。そのようなアッセイの例は、ラジオイムノアッセイ、酵素イムノアッセイ(例えば、ELISA)、免疫蛍光、免疫沈降、ラテックス凝集、血液凝集、および組織化学試験である。抗体は、癌におけるその役割を決定するために、および癌を診断するために試料中のOGPを検出および定量するために用いてもよい。
【0044】
特に、本発明の抗体は、OGPタンパク質を検出するために、これを特定の細胞および組織、ならびに特定の細胞下位置に位置特定するために、ならびに発現レベルを定量するために、例えば細胞および細胞下レベルでの免疫組織化学分析において用いてもよい。
【0045】
光学顕微鏡および電子顕微鏡を用いて抗原の位置を特定するために当技術分野で既知の細胞化学技術を、OGPを検出するために用いてもよい。一般的に、本発明の抗体は、検出可能な物質によって標識してもよく、OGPタンパク質は検出可能な物質の存在に基づいて、組織および細胞において位置特定してもよい。検出可能な物質の例には、以下が含まれるがこれらに限定されない:放射性同位元素(例えば、3H、14C、35S、125I、131I)、蛍光標識(例えば、FITC、ローダミン、ランタニド燐)、ルミノールのような発光標識;酵素標識(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、アセチルコリンエステラーゼ)、ビオチン化基(光学または比色法によって検出することができる、蛍光マーカーまたは酵素活性を含む標識アビジン、例えばストレプトアビジンによって検出することができる)、二次レポーターによって認識される既定のポリペプチドエピトープ(例えば、ロイシンジッパー対配列、二次抗体結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグ)。いくつかの態様において、標識は、起こりうる立体障害を減少させるために様々な長さのスペーサーアームを通して結合する。抗体はまた、電子顕微鏡によって容易に可視化されるフェリチンまたは金コロイドのような電子密度の高い物質に結合させてもよい。
【0046】
抗体または試料は、細胞、抗体等を固定することができる担体または固相支持体に固定してもよい。例えば、担体または支持体は、ニトロセルロース、またはガラス、ポリアクリルアミド、ハンレイ岩、および磁鉄鉱であってもよい。支持材料は、球状(例えば、ビーズ)、円柱状(例えば、試験管またはウェルの内表面、または棹の外表面)、または平板(例えば、シート、試験片)を含む任意の起こりうる形状を有してもよい。一次抗原-抗体反応が二次抗体の導入によって増幅される、OGPタンパク質に対して反応性の抗体に対して特異性を有する間接的な方法を用いてもよい。例として、OGPタンパク質に対して特異性を有する抗体がウサギIgG抗体である場合、二次抗体は、本明細書に記述されるように検出可能な物質によって標識したヤギ抗ウサギγグロブリンであってもよい。
【0047】
放射活性標識を検出可能な物質として用いる場合、OGPはオートラジオグラフィーによって位置を特定してもよい。ラジオオートグラフィーの結果は様々な光学的方法によって、または粒を計数することによって、ラジオオートグラフにおいて粒子密度を決定することによって定量してもよい。
【0048】
OGPタンパク質に対する標識抗体は、手術を受ける患者において腫瘍組織の局在のために、すなわち撮像のために用いてもよい。典型的に、インビボ応用の場合、抗体を放射活性標識(例えば、ヨウ素-123、ヨウ素-125、ヨウ素-131、ガリウム-67、テクネチウム-99、およびインジウム-111)によって標識する。標識抗体調製物を、組織を撮像する数時間から4日前に適当な担体において患者に静脈内投与してもよい。この期間に、未結合分画が患者から排泄され、残っている抗体は腫瘍組織に会合している抗体である。適したガンマカメラを用いて同位元素の有無を検出する。標識組織は、外科医が腫瘍の位置を正確に示すために、患者の体の既知のマーカーと相関させることができる。
【0049】
したがって、もう一つの態様において、本発明は、以下を含む患者における癌を検出する方法を提供する:
(a)患者からの試料を提供する段階;
(b)試料をOGPに結合する抗体に接触させる段階;
(c)試料中のOGPレベルを検出する段階;および
(d)対照と比較してOGPレベルが増加すれば、患者が癌を有することが示される、試料中のOGPレベルを対照試料と比較する段階。
【0050】
本明細書に記述される本発明の方法はまた、オリゴヌクレオチドアレイ、cDNAアレイ、ゲノムDNAアレイ、または組織アレイのような、マイクロアレイを用いて行ってもよい。好ましくはアレイは組織マイクロアレイである。
【0051】
上記の診断法の如何なるものにおいても、他の癌マーカー、特にCA125のような婦人科癌に関連したマーカーの検出または測定を行ってもよい。
【0052】
II.キット
本明細書に記述の方法は、本発明の任意の方法を行うために必要な試薬を含む予めパッケージされた診断キットを利用することによって行ってもよい。例えば、キットには、本明細書に記述の少なくとも一つの特異的核酸または抗体が含まれてもよく、これは臨床の状況において患者をスクリーニングおよび診断するために、ならびに癌を発症する素因を示す人をスクリーニングおよび同定するために、都合よく用いられる可能性がある。キットにはまた、ポリメラーゼ連鎖反応においてOGPをコードする核酸を増幅するための核酸プライマーが含まれてもよい。キットにはまた、本発明の方法において有用なヌクレオチド、酵素および緩衝液と共に、200 bpラダーのような電気泳動マーカーが含まれもよい。キットにはまた、本発明の方法を行うための詳細な説明が含まれるであろう。
【0053】
以下の非制限的な実施例は本発明を説明する。
【0054】
実施例
実施例1
目的
新生物が進行すると、上皮卵巣癌の前駆体である卵巣表層上皮(OSE)は、通常、卵管型のミューラー管分化を受ける。本実施例の目的は、卵巣癌の診断的または予後的マーカーとして用いるために、正常な卵管上皮のマーカーである卵管特異的糖タンパク質(OGP)の発現を調べることであった。
【0055】
本実施例において、本発明者らはOGPが同様に、卵巣新生物の異常なミューラー管上皮分化の際に発現されるマーカーであるかも知れないという仮説を調べた。
【0056】
材料および方法
組織およびアレイの構築
保存されたホルマリン固定パラフィン抱埋正常および腫瘍組織を、バンクーバー病院病理部門および健康科学センター、およびスタンフォードメディカルセンターから採取した。免疫組織化学染色を全組織切片(正常卵巣19例、良性漿液性嚢胞腺腫14例)、および組織マイクロアレイ(卵巣腫瘍アレイ、正常組織アレイ、および多腫瘍組織アレイ)について行った。卵巣腫瘍組織は、良性粘液性嚢胞腺腫3例、境界型腫瘍89例、および悪性卵巣腫瘍283例からなった。多組織および多腫瘍組織アレイは、正常組織45例、および異なる組織37例からの良性および悪性腫瘍タイプ51例を表す433例からなった。組織マイクロアレイの場合、代表的な正常および組織領域をヘマトキシリンおよびエオジン染色切片から同定した。それぞれの標本から、直径0.6 mmの組織コア1試料あたり2個を穿孔によって採取して、既に記述されているように、レシピエントパラフィンブロック上で整列させた[Alkushi, A.ら、2003]。ビーチャーインストルメンツ(Beecher Instruments)マイクロ組織アレイアーを用いて多組織マイクロアレイを構築した。完成した組織アレイブロックの切片を4 mmで切断してシラン処理スライドガラスに載せた。これらの切片は免疫組織化学分析のために用いた。正常な卵管(中期および後期増殖相)の切片を陽性対照として用いた[Rapisarda, J.J.ら、1993]。
【0057】
免疫組織化学
パラフィン抱埋組織からの切片のパラフィンを除去して、再水和して30%H2O2によって5分間処置して、pH 6.0の10 mMクエン酸緩衝液において10分間のマイクロ波オーブン処理によって抗原を検索した。次に、スライドガラスを正常ヤギ血清において30分間インキュベートした後、1:1000希釈したウサギ抗HuOGP抗体を用いてヒトOGPに関する染色を4℃で一晩行った[Rapisarda, J.J.ら、1993]。次に、組織を、200倍希釈したビオチン化抗ウサギ免疫グロブリンと共に室温で1時間インキュベートした後、アビジン-ビオチンペルオキシダーゼ複合体(ベクターラボラトリーズ(Vector Laboratories, Inc.))と共に1時間インキュベートした。ジアミノベンジジン(ベクターラボラトリーズインク)を色原体として用いて、ヘマトキシリン(シグマ(Sigma))を核の対比染色として用いた。
【0058】
結果
組織学的分類(WHO)、グレード(FIGO)およびOGP分析の結果を表1および2に示す。本発明者らの分析には、悪性卵巣腺癌283例が含まれ、そのうち、50例がOGPに関して染色陽性であった。これらの腫瘍50例中、26例は漿液性であり、9例が粘液性、10例が類内膜、1例が未分化型、そして4例が明細胞癌であった。漿粘液性、移行上皮性、またはクルーケンベルグ癌では染色を認めなかった(各1例)。正常組織41タイプには反応性を認めなかったが、卵管ならびに唾液腺、十二指腸および回腸の粘液分泌上皮は、抗体と弱く反応した。多腫瘍組織アレイにおいて、非婦人科新生物46タイプがOGP陰性であった。婦人科癌において、子宮頚癌47例中2例(4%)、および子宮内膜癌56例中3例(5%)がOGP陽性であった。外陰部の癌(11例中0例)は陰性であった。
【0059】
OGPは正常なOSEには存在しなかった。調べた卵巣19例中、7例は封入嚢胞31個を有した。OGPに関する染色は、化生OSEが内側を覆う上皮封入嚢胞22例の細胞および内腔において強く、立方OSEを有する封入嚢胞6例では中等度、および封入嚢胞3例からの扁平OSEでは認めなかった。漿液性の良性嚢胞腺腫の大多数(14例中13例、93%)、および漿液性境界型腫瘍(65例中46例、71%)(図1)はOGP陽性であった。浸潤性腫瘍の中で、漿液性腺癌184例中26例のみがOGP染色陽性であった。これらにはグレード1が8例中5例(63%)、グレード2が41例中7例、グレード3の漿液性癌が134例中14例(10%)含まれた。さらに、OGPは、境界型および低グレード粘液性腫瘍には存在したが、粘液性嚢胞腺腫3例には存在しなかった。類内膜境界型および悪性腫瘍の約25%も同様にOGPを発現した(表1)。
【0060】
ほとんどの腫瘍において、OGP染色は先端に存在し、時に分泌の証拠を示した。上皮細胞は全て、封入嚢胞および漿液性境界型腫瘍においてOGP染色陽性であり、良性漿液性嚢胞腺腫では1例を除く全てがOGP染色陽性であったが、癌組織における陽性細胞の割合は異なった(表2)。上皮封入嚢胞の内腔および良性漿液性嚢胞腺腫において強い染色を認めた。正常および腫瘍組織の双方において結合組織間質は染色されなかった(図1)。
【0061】
考察
腫瘍形成の際に卵巣表層上皮(OSE)が異常なミューラー管分化を受ける傾向があるために、本発明者らは、本実施例において正常および新生物OSEにおける卵管上皮に関する特異的分化マーカーである卵管特異的糖タンパク質(OGP)の発現を調べた。OGPは正常OSEには存在せず、封入嚢胞および大多数の良性および境界型漿液性腫瘍に存在したが、ほとんどの浸潤性漿液性腺癌には存在しなかった。OGPの発現は卵巣新生物にほぼ限定された。この特異性は、卵巣腫瘍を、他の部位に由来する腫瘍と区別するために役立つ可能性がある。
【0062】
発達的に、OSEは、卵管、子宮内膜、および子宮頚部のミューラー管由来上皮と同様に中胚葉体腔上皮から発生する。しかし、これらの後者の複雑な組織とは異なり、OSEはその分化した上皮マーカーの多くを欠損する[Auersperg, N.ら、2001]。今日まで発見されたおそらく最も重要な分化マーカーは、CA125であり、これが卵巣癌の重要な診断ツールであることが臨床的に証明されている[Bast, R.C. Jrら、1998]。本実施例において、本発明者らは、もう一つのタンパク質であるOGPを同定したが、これはCA125と同様に、高度にグリコシル化された分泌型蛋白質である[Verhage, H.G.ら、1997]。CA125とは異なり、ミューラー管由来正常上皮におけるOGP発現は、卵管に限定される[Arias, E.B.ら、1994]。本発明者らは、OGPが、CA125と同様に、OSEには存在しないが、卵管分化を受けた上皮封入嚢胞の内側を覆う化生OSE、および大多数の良性嚢胞腺腫および境界型腫瘍には存在することを示した。しかし、CA125は多数の卵巣漿液性癌に存在したが[Bast, R.C. Jrら、1998]、OGPの発現はこれらの新生物ではまれである。
【0063】
これらの結果は、OGPを発現する浸潤性漿液性腺癌の中で最も高い割合を占める(63%)癌がグレード1であることを示している。しかし、OGPはまたほとんどの上皮封入嚢胞において発現され、これは悪性形質転換の開始にとって好まれる部位であると考えられている[Scully, RE、2000;Auersperg, Nら、2001]。OGPはまた、新生物事象の初期指標となる可能性がある。
【0064】
浸潤性新生物に進行する良性および境界型漿液性上皮腫瘍の比率は、まだ定義されていないが、かなり低い可能性がある[Scully, RE、2000;Scully, REら、1998;Hu, J.ら、2002]。しかし、良性および境界型漿液性腫瘍は、管の分化に関して漿液性腺癌と類似の表現型を示し、これらの腫瘍タイプ全てにおいて分化を調節する共通のメカニズムが、浸潤性表現型の原因であるメカニズムから分岐していることを示唆している。
【0065】
卵巣上皮腫瘍におけるOGPの異所発現は、OSEが、生理的および病理的条件でその分化状態を変化させる能力を保持している発達的に未熟な上皮であるという考え方をさらに支持する[Auersperg, Nら、2001]。OGPは通常、卵管の分泌産物であり、卵子の透明帯および胚との結合によって、卵管内の初期受精事象において重要な役割を果たすと考えられている[Verhage, H.Gら、1997;McCauley, T.C.ら、2003;O'Day-Bowman, M.B.ら、2002;Staros, A.L. and Killian, G.J.、1998]。本発明者らは、OGP染色が嚢胞の内腔および表面、ならびに卵巣腫瘍の腺構造に存在することを認め、これも同様に分泌される可能性があることを示唆している。卵管において、OGPはおそらく管腔内液の粘度を増加させて、これが次に配偶子および胚の周囲を取り巻く微小環境を安定化させ、それによって本質的な栄養およびイオンの散布を防止するであろう[Buhi, W.C.、2002]。正常な卵管および漿液性腺癌の複雑な乳頭構造におけるOGPも同様に、増殖促進因子の蓄積が認められる微小環境に関与する可能性がある。最もグレードの高い卵巣腺癌においてOGPが存在しないことは、細胞が自律性の増加を獲得し、このようにその増殖を促進するためにもはやOGPを必要としない可能性を示している。
【0066】
結果は、OGPが、浸潤性新生物への進行能によらず、卵巣上皮病変において起こることを示している。ごく少数のグレード1漿液性腺癌を今日まで調べたが、これらの腫瘍の高い比率がOGPを発現し、化生封入嚢胞においてそれが一貫して存在することは、このマーカーが卵巣の発癌における初期事象の指標である可能性があることを示唆している。
【0067】
実施例2
概要
OGP発現を、培養OSE細胞、漿液性境界型卵巣腫瘍細胞、および卵巣癌細胞株において、HuOGPに対して特異的なcDNAプローブを用いるRT-PCRによって[Arias, EBら、1994]、および抗OGP抗体を用いてウェスタンブロット分析[Rapisarda, JJら、1993]によって調べた。OGPは分泌型蛋白質であることから、抗OGP抗体[Rapisarda, JJら、1993]を用いて培養細胞からの条件培地をアッセイした。女性からの血清および腹水を採取して、ELISAおよび/またはRIAを用いてOGPの有無に関して試験した。
【0068】
材料および方法
試薬
抗OGP抗体[Rapisarda, JJら、1993]は、組織切片においてOGPタンパク質を検出するために用い、OGP cDNA[Arias EBら、1994]はOGPのmRNA発現を調べるためのプローブとして用いた。
【0069】
組織およびアレイの構築
保存されたホルマリン固定パラフィン抱埋正常および腫瘍組織を症例の臨床データベースから採取した。代表的な正常および腫瘍領域をヘマトキシリンおよびエオジン染色切片から同定した。それぞれの標本から、直径0.6 mmの組織コアを1試料あたり2個ずつ穿孔してレシピエントパラフィンブロックに整列させた。多組織マイクロアレイは、ビーチャーインストルメンツマイクロ組織アレイヤーを用いて構築した。完成した組織アレイブロックの切片を4 mmで切断して、シラン処理スライドガラスに載せた。これらの切片を免疫組織化学分析のために用いた。正常卵巣組織切片も同様にOGP発現に関して調べた。正常卵管の切片(中期および後期増殖相)を陽性対照として用いた。
【0070】
免疫組織化学、ウェスタンブロット分析およびELISAアッセイ
パラフィン抱埋組織からの切片からパラフィンを除去して、再水和させ、30%H2O2によって5分間処置して、pH 6.0の10 mMクエン酸緩衝液において10分間のマイクロ波オーブン処理によって抗体検索を行った。次に、スライドガラスを正常ヤギ血清と共に30分インキュベートした後、ウサギ抗-OGP抗体[Rapisarda, JJら、1993]を1:1000希釈で用いて4℃で一晩染色した。組織を、200倍希釈したビオチン化抗ウサギ免疫グロブリン(ベクターラボラトリーズインク)と共に室温で1時間インキュベートした後、アビジン-ビオチンペルオキシダーゼ複合体(ベクターラボラトリーズインク)と共に1時間インキュベートした。ジアミノベンジジン(ベクターラボラトリーズインク)を色原体として用いて、ヘマトキシリン(シグマ)を核の対比染色として用いた。切片は以下の基準に従って採点した:強度(0=陰性、1〜3=陽性)、陽性染色細胞の百分率(<5%、5〜50%、>50%、100%)、および局在(先端、細胞質、内腔)。採点結果を陰性(スコア0)、または陽性(スコア1〜3)カテゴリーのいずれかに単純化して、解釈不能の結果はさらなる検討から除外した。1試料あたり2個ずつのコアからのスコア結果を一つのスコアに合計して、コアの一つが陽性染色であればもう一つが陰性または解釈不能の結果があっても常に陽性とした。
【0071】
考察
北米の女性における婦人科悪性疾患による主な死因である卵巣癌は通常、信頼できる初期検出手段がないことから、後期段階になって診断される。さらに、卵巣癌の正確な進行期およびグレードを定義するために利用できる基準は、限られており、ほとんどが組織病理学に基づいている。卵管特異的糖タンパク質(OGP)は正常な卵管の分泌産物である。本発明者らは、一連の腫瘍において、非浸潤性境界型漿液性卵巣腺癌の75%によってOGPが産生されるが、浸潤性漿液性腺癌ではOGPを産生したのは24%であり、そのうち38%が低グレードであり、13%が高グレード腫瘍であったことを発見した。OGPはまた、低グレードにも存在するが、高グレード粘液性および類内膜腺癌には存在しなかった。表3および4を参照されたい。このようにOGPは、非浸潤性腫瘍を浸潤性腫瘍と区別するため、および初期卵巣腺癌を後期卵巣腺癌と区別するために役立つ有望な診断マーカーである。これらの区別は予後および治療計画において重要である。さらに、OGPは卵巣癌の診断および予想マーカーとして血清中で検出することができる分泌型蛋白質である。
【0072】
(表1)良性、境界型、および悪性卵巣腫瘍におけるOGP

【0073】
(表2)卵巣癌におけるOGP免疫組織化学染色の特徴

【0074】
(表3)上皮卵巣癌におけるHuOGP発現の比較

【0075】
(表4)上皮卵巣癌の構築およびグレードによって分類したHuOGP染色

【0076】
明細書において言及した参考文献の引用





【図面の簡単な説明】
【0077】
本発明は、以下の図面を参照してさらに説明する:
【図1】OGPの免疫細胞化学を提供する組織切片の一連の写真である。(A)正常卵管上皮はOGP陽性である。(B)これは正常なOSE(矢印)には存在しないが、卵管化生を受けた上皮封入嚢胞(矢印の先)に存在する。嚢胞の内腔におけるOGP染色に注意されたい。(C)漿液性境界型腫瘍におけるOGP。(D)浸潤性漿液性腺癌、OGP陰性。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、患者における癌を検出する方法:
(a)患者からの試料を提供する段階;
(b)試料中のOGPレベルを決定する段階;
(c)対照と比較してOGPレベルが増加すれば、患者が癌を有することが示される、試料中のOGPレベルを対照試料と比較する段階。
【請求項2】
以下を含む、患者における癌の進行をモニターする、請求項1記載の方法:
(a)患者からの試料を提供する段階;
(b)試料中のOGPレベルを決定する段階;
(c)OGPレベルに差があれば、患者において癌が進行していることを示している、後の時点で段階(a)および(b)を繰り返して、段階(b)の結果を段階(c)の結果と比較する段階。
【請求項3】
以下を含む、患者において癌が良性であるか否かを決定する、請求項1記載の方法:
(a)患者からの試料を提供する段階;
(b)試料中のOGPレベルを検出する段階;および
(c)対照と比較してOGPレベルが増加すれば、癌が良性であることが示される、試料中のOGPレベルを対照試料と比較する段階。
【請求項4】
以下を含む、非浸潤性癌と浸潤性癌とを区別する、請求項1記載の方法:
(a)患者からの試料を提供する段階;
(b)試料中のOGP発現レベルを決定する段階;および
(c)患者からの試料中のOGPレベルが対照と比較して増加すれば、癌が非浸潤性であることが示される、試料中のOGPレベルを対照試料と比較する段階。
【請求項5】
癌が婦人科癌である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
癌が卵巣癌である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
癌が初期卵巣腺癌である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
癌が卵巣新生物である、請求項5記載の方法。
【請求項9】
卵巣新生物がミューラー上皮分化を受けている、請求項8記載の方法。
【請求項10】
OGPをコードする核酸分子のレベルが段階(b)において決定される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
OGP mRNAの発現レベルが決定される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
OGPタンパク質レベルが段階(b)において決定される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
OGPタンパク質レベルを決定するために抗体が用いられる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
試料が婦人科組織、血清、または腹水である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
(i)請求項1記載の方法を行うための試薬、および(ii)その使用説明書を含む、患者において癌を検出するためのキット。
【請求項16】
試薬が逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応において、OGPをコードするmRNAを増幅するための核酸プライマーを含む、請求項15記載のキット。
【請求項17】
試薬がOGPタンパク質に対して特異的な抗体を含む、請求項15記載のキット。
【請求項18】
(i)請求項2記載の方法を行うための試薬、および(ii)その使用説明書を含む、患者における癌の進行をモニターするキット。
【請求項19】
試薬が、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応においてOGPをコードするmRNAを増幅するための核酸プライマーを含む、請求項18記載のキット。
【請求項20】
試薬がOGPタンパク質に対して特異的な抗体を含む、請求項18記載のキット。
【請求項21】
(i)請求項3記載の方法を行うための試薬、および(ii)その使用説明書を含む、患者における癌が良性であるか否かを決定するためのキット。
【請求項22】
試薬が、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応においてOGPをコードするmRNAを増幅するための核酸プライマーを含む、請求項21記載のキット。
【請求項23】
試薬がOGPタンパク質に特異的な抗体を含む、請求項21記載のキット。
【請求項24】
(i)請求項4記載の方法を行うための試薬、および(ii)その使用説明書を含む、非浸潤性癌と浸潤性癌とを区別するキット。
【請求項25】
試薬が、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応においてOGPをコードするmRNAを増幅するための核酸プライマーを含む、請求項24記載のキット。
【請求項26】
試薬がOGPタンパク質に特異的な抗体を含む、請求項24記載のキット。

【図1】
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【公表番号】特表2007−502995(P2007−502995A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529479(P2006−529479)
【出願日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000367
【国際公開番号】WO2004/102200
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(300066874)ザ・ユニバーシティ・オブ・ブリティッシュ・コロンビア (24)
【Fターム(参考)】