説明

厚鋼板の多電極サブマージアーク溶接方法

【課題】UOE鋼管やスパイラル鋼管などの大径鋼管の造管溶接に用いて好適な、厚鋼板の多電極サブマージアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】第1電極から第3電極までのワイヤ中心間距離が鋼材表面位置において40mm以上60mm以下で、第1電極(I)と第2電極(I)の電流比が下式を満たし、且つ第1電極の電流密度を250A/mm以上、第2電極の電流密度を150A/mm以上とし、電極数が4電極の場合は、第3電極から第4電極までのワイヤ中心間距離を鋼材表面位置において20mm以下とする。I/I≧0.5ここで、I1:第1電極電流(A),I2:第2電極電流(A)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚鋼板の多電極サブマージアーク溶接方法に関し、詳しくは、UOE鋼管およびスパイラル鋼管といった大径鋼管の造管溶接に用いて好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
大径鋼管の造管溶接(シーム溶接)には二電極以上のサブマージアーク溶接が適用され、パイプ生産能率向上の観点から内面側を1パス、外面側を1パスで溶接する両面一層盛り溶接とする、高能率な溶接施工がなされている(例えば特許文献1,2)。
【0003】
両面一層溶接では、内面溶接金属と外面溶接金属が重なり、未溶融部がないように十分な溶け込み深さを確保する必要があるため、1000A以上の大電流を適用して溶接を行うのが一般的であるが、能率と欠陥抑制を重視して、溶接入熱が高くなりすぎ、溶接部特に熱影響部の靭性が劣化する傾向にある。
【0004】
溶接部の高靭性化には、溶接入熱を低減するのが有効であるが、通常行われているシーム溶接の入熱に対して大幅に入熱を低減させなければ、その靭性向上効果は明確とならず、大幅に入熱を低減させると溶着量も減少するため開先断面積を溶着量減少分に合わせて減らす必要が生じる。そのため、一層の深溶け込み溶接を行わなければ内外面の溶接金属は重ならず、溶け込み不足が生じる危険性が増大する。
【0005】
従って、溶接部の高靭性化は、投入入熱の大幅な低減と溶け込み深さの増大を両立させなければならず、従来より種々の提案がなされているがその達成は極めて困難である。
【0006】
例えば、上記特許文献2では電極径に応じて電流密度を高め、溶け込み深さを増大させるサブマージアーク溶接方法が提案されているが、最近の仕様に対しては、電流および電流密度が不十分で入熱の大幅な低減と溶け込み深さの増大の両立は困難である。
【0007】
特許文献3には高電流で更なる高電流密度でのサブマージアーク溶接方法が提案されており、アークエネルギーをできるだけ板厚方向に投入することにより、必要な溶け込み深さだけを確保し、鋼材幅方向の母材の溶解を抑制することで過剰な溶接入熱を省いて、入熱低減と深溶け込みの両立が図られている。
【特許文献1】特開平11−138266号公報
【特許文献2】特開平10−109171号公報
【特許文献3】特開2006−272377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載の技術では、板厚が一定以上となる厚鋼板を溶接する際に溶融スラグが浮上しにくく、スラグ巻き込みなどの溶接欠陥が発生しやすい傾向があった。
【0009】
そこで、本発明は、低入熱であっても、スラグ巻き込みの溶接欠陥が発生しにくい厚鋼板の多電極サブマージアーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、板厚25mm以上50mm以下の厚鋼板を3電極以上のサブマージアーク溶接で溶接する場合について詳細に検討し、溶融池を溶接方向に長い形状として溶融スラグが浮上するための時間を確保することで溶融スラグ巻き込みの溶接欠陥を抑制できることを見出した。本発明は得られた知見を基に更に検討を加えてなされたもので、すなわち、
1.厚鋼板の3電極以上の多電極サブマージアーク溶接方法であって、第1電極から第3電極までのワイヤ中心間距離が鋼材表面位置において40mm以上60mm以下で、第1電極(I)と第2電極(I)の電流比が下式を満たし、且つ第1電極の電流密度を250A/mm以上、第2電極の電流密度を150A/mm以上とすることを特徴とする厚鋼板の多電極サブマージアーク溶接方法。
/I≧0.5
ここで、I1:第1電極電流(A),I2:第2電極電流(A)
2.更に、多電極サブマージアーク溶接方法における電極数が4電極で、第3電極から第4電極までのワイヤ中心間距離が鋼材表面位置において20mm以下であることを特徴とする1記載の厚鋼板の多電極サブマージアーク溶接方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶接能率を低下させずに、低入熱で溶融スラグ巻き込みが抑制されるので、健全な溶接ビードを備えた溶接部の靭性に優れた大径溶接鋼管の製造が可能で、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の要件限定理由について説明する。
【0013】
本発明は、3電極以上の多電極サブマージアーク溶接を対象とし、第1電極から第3電極までの電極の中心間距離と第1電極と第2電極の電流値を規定する。ここで、溶接進行方向での先行電極を第1電極、以下、順に、第2電極、第3電極とする。
【0014】
第1電極から第3電極までの電極の中心間距離が40mm未満の場合、スラグが浮上するまでの時間が短くなり、スラグ巻き込みが発生しやすい。一方、60mmを超えると各電極で形成される溶融池の連結性が低下し、ビードが不整となりやすいため、60mm以下とする。尚、電極間距離は鋼材表面位置における値とする。
【0015】
また、溶け込みが深く鋼材幅方向の母材の溶融量を抑制した溶接を行うため、第1電極(I)と第2電極(I)の電流比を式(1)を満たすように設定し、且つ第1電極の電流密度を250A/mm以上、第2電極の電流密度を150A/mm以上とする。
/I≧0.5・・・・・・・・(1)
ここで、I1:第1電極電流(A),I2:第2電極電流(A)
更に、溶接部の断面形状を、鋼板表層側で溶け込み幅が広く、BONDが傾斜した形状とする場合、第3電極から第4電極までのワイヤ中心間距離を鋼材表面位置において20mm以下とする。
【0016】
このような断面形状の溶接部の場合、切欠き位置をBONDとするシャルピー衝撃試験では、BONDが直立した溶接部と比較して良好な靭性値が得られる。
【0017】
本発明によれば、3電極以上の多電極サブマージアーク溶接で、溶接欠陥がなく、良好なビード外観の溶接部が得られる。具体的溶接条件は、溶接部靭性など客先仕様に求められる特性値を満足するように、試験材を用いて予め選定し、データベース化しておくと実生産における溶接条件の選定が容易となり好ましい。
【0018】
表6に溶接条件のデータベースの一例としてワイヤ径と電流密度の関係を示す。小径ワイヤで溶接電流を大きくした場合、ワイヤの高速送給が可能なように、適切なイナーシャとトルクを有する送給モータを備えた溶接機を使用する。
【0019】
なお、本発明で規定する電流密度を得るためにはワイヤ径を3.2mm以下、好ましくは2.4mm以下、とすることが望ましい。
【0020】
【表6】

【実施例】
【0021】
図1に示す大径鋼管造管シーム溶接用開先形状の開先加工を施した後、多電極サブマージアーク溶接にて内外面一層盛りの大径鋼管造管シーム溶接相当の溶接を施して溶接継手を作製した。表1に開先寸法を示す。
【0022】
表2、表3に、内面溶接の溶接条件および溶接部の観察結果を、表4、表5に外面溶接の溶接条件および溶接部の観察結果を示す。
【0023】
本発明範囲内の内面溶接条件N1〜N3で得られた溶接部はいずれも溶接欠陥がなく、ビード外観も良好であった。
【0024】
外面溶接条件記号1〜4はいずれも4電極サブマージアーク溶接の場合の発明例で、得られた溶接部はいずれも溶接欠陥がなく、ビード外観も良好であった。外面溶接条件記号5は3電極サブマージアーク溶接の場合の本発明例で、溶接欠陥がなく、ビード外観も良好であった。
【0025】
外面溶接条件記号6は4電極サブマージアーク溶接の第3電極から第4電極までのワイヤ中心間距離が鋼材表面位置において20mmを越えており、請求項2の発明範囲外であるが請求項1の本発明例で、溶接欠陥がなく、ビード外観も良好であった。
【0026】
以上の実施例において、外面溶接条件記号1〜4までは請求項2記載の発明を満足し、請求項2記載の発明を満足しない外面溶接条件記号6と比較すると、シャルピー衝撃試験(切欠き位置BOND,試験片採取位置:外面側表面2mm)で良好な靭性が得られた。
【0027】
一方、外面溶接条件7は鋼材表面位置における第1電極から第3電極までのワイヤ中心間距離が小さく、スラグ巻き込みの溶接欠陥が生じた。外面溶接条件8は鋼材表面位置における第1電極から第3電極までのワイヤ中心間距離が大きく、ビードが不整となった。
【0028】
外面溶接条件9は第1電極の電流密度が小さく、外面溶接条件10は第2電極の電流密度が小さく、いずれも溶け込み不足が生じた。
【0029】
外面溶接条件11は3電極サブマージアーク溶接の場合で鋼材表面位置における第1電極から第3電極までのワイヤ中心間距離が小さく、スラグ巻き込みの溶接欠陥が生じた。外面溶接条件12は3電極サブマージアーク溶接の場合で鋼材表面位置における第1電極から第3電極までのワイヤ中心間距離が大きく、ビードが不整となった。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例(開先形状)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚鋼板の3電極以上の多電極サブマージアーク溶接方法であって、第1電極から第3電極までのワイヤ中心間距離が鋼材表面位置において40mm以上60mm以下で、第1電極(I)と第2電極(I)の電流比が下式を満たし、且つ第1電極の電流密度を250A/mm以上、第2電極の電流密度を150A/mm以上とすることを特徴とする厚鋼板の多電極サブマージアーク溶接方法。
/I≧0.5
ここで、I1:第1電極電流(A),I2:第2電極電流(A)
【請求項2】
更に、多電極サブマージアーク溶接方法における電極数が4電極で、第3電極から第4電極までのワイヤ中心間距離が鋼材表面位置において20mm以下であることを特徴とする請求項1記載の厚鋼板の多電極サブマージアーク溶接方法。

【図1】
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