説明

厚鋼板の熱処理炉決定方法及び厚鋼板の熱処理方法

【課題】加熱矯正を要する厚鋼板が発生しても、熱処理炉の運用に支障をきたさない、熱処理炉の運用方法を提供する。
【解決手段】高温加熱用熱処理炉と低温加熱用熱処理炉を併用して、厚鋼板を加熱矯正する熱処理を行う際の、厚鋼板の熱処理炉決定方法であって、熱処理炉装入予定在庫量を判定する工程と、加熱矯正温度変更可能種別の選別工程と、加熱矯正温度の変更可能温度を決定する工程と、該変更可能温度と高温加熱用熱処理炉の設定温度との対比工程と、加熱矯正指示温度を変更する工程とからなることを特徴とする厚鋼板の熱処理炉決定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚鋼板を熱処理する熱処理炉の決定方法及び熱処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に鋼材には材質改善を目的として、焼入、焼戻、焼鈍等の熱処理が施される。そして、厚鋼板を熱処理する熱処理ラインにおいては、主として焼入、焼準用に使用する高温加熱用熱処理炉(以下、高温炉と略記する場合もある)と焼戻、焼鈍用に使用する低温加熱用熱処理炉(以下、低温炉と略記する場合もある)に分かれているのが一般的である。高温加熱用熱処理炉で使用される温度域は、800〜950℃で、低温加熱用熱処理炉で使用される温度域は、500〜700℃であるのが一般的である。
【0003】
図2に厚鋼板の熱処理ラインの設備レイアウト例を示す。図において1号炉は高温加熱用の熱処理炉、2号炉は低温加熱用の熱処理炉であり、装入から冷却までの一連の熱処理工程がオンラインで処理できるように搬送ラインが有機的に結合して効率的に熱処理ができるようになっている。
【0004】
厚鋼板の熱処理には、焼入・焼戻や焼準といった、目標とする機械的性質を得るために規格や仕様で予め規定された熱処理の他に、圧延時に発生した歪等の形状不良を矯正するために行う、後発的な熱処理とがある。後者の熱処理は加熱矯正と呼ばれている。
【0005】
加熱矯正は、歪除去が目的であるので、高温度で処理する必要はないため、原則、低温加熱用の熱処理炉が使用される。しかし、高温加熱用の熱処理炉に装入しても、品質上は、問題ない場合もある。
【0006】
また、加熱矯正を要する鋼板の発生は、突発的であり、熱処理ラインの運用上、熱処理の生産性を阻害する要因となっている。
【0007】
そこで、発明者等は、熱処理ラインの生産性向上策として、特許文献1において、熱処理炉で加熱中の鋼板の温度を精度良く把握するとともに、熱処理炉に鋼材をフルに装入することで、品質的に可能なかぎり、生産能率を向上する技術を提案した。
【0008】
しかし、特許文献1の技術は、熱処理すべき鋼板群の属性や在庫状況まで考慮したものではないので、加熱矯正すべき鋼板の発生量が増加すると、品質確保上、本来低温加熱用の熱処理炉に装入すべき鋼板の熱処理が遅れるという問題点があった。
【0009】

【特許文献1】特開2005−105291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
加熱矯正を要する厚鋼板(以下、加熱矯正鋼板と称する場合もある)が発生しても、熱処理炉の運用に支障をきたさない、熱処理炉の運用方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、上述した課題を鋭意検討し、発明を完成させたもので、その要旨は以下の通りである。
【0012】
第一の発明は、高温加熱用熱処理炉と低温加熱用熱処理炉を併用して、厚鋼板を加熱矯正する熱処理を行う際の、厚鋼板の熱処理炉決定方法であって、熱処理炉装入予定在庫量を判定する工程と、加熱矯正温度変更可能種別の選別工程と、加熱矯正温度の変更可能温度を決定する工程と、該変更可能温度と高温加熱用熱処理炉の設定温度との対比工程と、加熱矯正指示温度を変更する工程とからなることを特徴とする厚鋼板の熱処理炉決定方法である。
【0013】
第二の発明は、熱処理炉装入予定在庫量を判定する工程は、低温加熱用熱処理炉と高温加熱用熱処理炉との在庫量で判定することを特徴とする第一の発明に記載の厚鋼板の熱処理炉決定方法である。
【0014】
第三の発明は、加熱矯正温度変更可能種別の選別工程は、選別する種別が高温加熱用熱処理炉の運用可否であることを特徴とする第一の発明または第二の発明に記載の厚鋼板の熱処理炉決定方法である。
【0015】
第四の発明は、第一の発明から第三の発明のいずれかに記載の厚鋼板の熱処理炉決定方法により熱処理炉を決定して、厚鋼板を加熱矯正する熱処理を行うことを特徴とする厚鋼板の熱処理方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の厚鋼板の熱処理炉決定方法及び熱処理方法は、各熱処理炉の在庫負荷を考慮して、処理すべき熱処理炉を決定するので、そうで無い場合に比べて熱処理ラインの生産能率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図1のフローチャートに基づいて説明する。
【0018】
S1:装入予定熱処理炉の在庫判定
加熱矯正鋼板の熱処理対象炉は、低温炉と高温炉であり、各炉が抱えている在庫量を算出して、それが各炉の適正在庫量であるか否かを判定し、低温炉が適正在庫量以下で高温炉が適正在庫量以上の場合は、ステップS7低温炉処理を選択し、処理フローは終了する。逆に、低温炉が適正在庫量超で高温炉が適正在庫量以下の場合は、高温炉を選択し、ステップS2に進む。
【0019】
S2:加熱矯正温度変更可能種別の選定
加熱矯正鋼板の熱処理可能炉が高温炉処理不可、低温炉処理可の場合は、ステップS7低温炉処理を選択し、処理フローは終了する。一方、高温炉、低温炉どちらの熱処理炉を使用しても可の場合は、高温炉を選択し、ステップS3に進む。
【0020】
S3:加熱矯正温度の変更可能温度決定
高温炉で加熱矯正する場合の加熱温度の変更可能最高温度を決定し、ステップS4に進む。
【0021】
S4:高温炉の設定温度との対比
ステップ3で決定した変更可能最高温度と高温炉の操業温度とを対比して、高温炉の操業温度が変更可能最高温度よりも高い場合は、ステップS7低温炉処理を選択し、処理フローは終了する。一方、高温炉の操業温度が変更可能最高温度以下の場合は、高温炉を選択し、ステップS5に進む。
【0022】
S5:加熱矯正指示温度変更
加熱矯正指示温度を高温炉の操業温度に変更し、ステップS6高温炉処理を選択し、処理フローは終了する。
【0023】
S6:高温炉処理
ステップS1からS5の処理により、加熱矯正対象鋼板のうち、品質上高温炉の操業温度で処理可能な鋼板が集約される。
【0024】
S7:低温炉処理
ステップS1からS4の処理により、加熱矯正対象鋼板のうち、品質上高温炉の操業温度では処理不可能な鋼板が低温炉に集約される。
【実施例1】
【0025】
以下、本発明の厚鋼板の熱処理炉決定方法を実際に運用した実施例を説明する。
加熱矯正の対象鋼板の材料規格はSS400である。熱処理炉の温度設定は、高温加熱用の熱処理炉の温度設定は900℃、低温加熱用の熱処理炉の温度設定は680℃である。
【0026】
従来、加熱矯正は、全て低温加熱用の熱処理炉を使用しており、その場合の加熱矯正鋼板の生産能率は、14.8ton/Hrであった。
【0027】
加熱矯正用鋼板として上記SS400の厚鋼板を使って、図1に示す処理フローを適用して、処理条件に合う鋼板は高温加熱用の熱処理炉での熱処理を行った。
【0028】
その結果、1月間の運用実績は、加熱矯正鋼板の生産能率は,15.2ton/Hrとなり、従来に比較して2.7%の増産効果が得られた。増産量としては、300tonであった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の熱処理炉決定方法及び熱処理方法は、2種以上の熱処理炉を使い分ける各種熱処理方法に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】厚鋼板の熱処理炉決定方法のフローチャートである。
【図2】厚鋼板熱処理ラインの設備レイアウト例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温加熱用熱処理炉と低温加熱用熱処理炉を併用して、厚鋼板を加熱矯正する熱処理を行う際の、厚鋼板の熱処理炉決定方法であって、熱処理炉装入予定在庫量を判定する工程と、加熱矯正温度変更可能種別の選別工程と、加熱矯正温度の変更可能温度を決定する工程と、該変更可能温度と高温加熱用熱処理炉の設定温度との対比工程と、加熱矯正指示温度を変更する工程とからなることを特徴とする厚鋼板の熱処理炉決定方法。
【請求項2】
熱処理炉装入予定在庫量を判定する工程は、低温加熱用熱処理炉と高温加熱用熱処理炉との在庫量で判定することを特徴とする請求項1記載の厚鋼板の熱処理炉決定方法。
【請求項3】
加熱矯正温度変更可能種別の選別工程は、選別する種別が高温加熱用熱処理炉の運用可否であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の厚鋼板の熱処理炉決定方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の厚鋼板の熱処理炉決定方法により熱処理炉を決定して、厚鋼板を加熱矯正する熱処理を行うことを特徴とする厚鋼板の熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−248312(P2008−248312A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90593(P2007−90593)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】