説明

原位置地盤における土圧測定方法

【課題】地下躯体を有する既存構造物を解体して新たに構造物を構築する場合に、新設構造物の地下躯体外壁や、土留め壁等の設計に用いる原位置地盤における静止土圧及び主働土圧を、既存の地下躯体外壁を利用して精度よく測定する方法を提供する。
【解決手段】地下躯体を有する既存構造物に作用する原位置地盤における静止土圧を測定する方法であって、前記地下躯体1のスラブ2に油圧ジャッキ5aを設置し、油圧ジャッキ5aの荷重を増加させ、土圧によりスラブ2に作用している軸力を油圧ジャッキ5aに負担させ、スラブ2に作用している軸力を油圧ジャッキ5aに負担させ、地下躯体外壁4に水平変位が生じさせない状態で油圧ジャッキ架台6a、6aを設置した間の部分のスラブ3aを解体し、油圧ジャッキ5aに作用する荷重を測定して静止土圧を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地下躯体を有する既存構造物を解体して新たに構造物を構築する場合に、新設構造物の地下躯体外壁や、土留め壁等の設計に用いる原位置地盤の静止土圧及び主働土圧を、既存の地下躯体外壁を利用して精度よく測定する方法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、構造物の地下躯体を構築する際には、構築した地下躯体外壁や土留め壁等が原位置地盤における主働土圧によって崩壊しないように、前記主働土圧を測定し、その測定結果を基に地下躯体外壁及び土留め壁の壁厚や、H鋼等の補強材の本数を設計している。因みに、主働土圧とは、地盤が地下躯体外壁や土留め壁等に作用して、該地下躯体及び土留め壁等を水平移動させようとする最大の土圧をいう。
従来の原位置地盤における土圧測定方法として、例えば下記特許文献1〜3には、新設構造物の地下躯体を構築する際に設置した土留め壁間へ、H鋼を介して油圧ジャッキを設置し、該油圧ジャッキで前記土留め壁に作用する主働土圧を測定する技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−156634号公報
【特許文献2】特開2000−212962号公報
【特許文献3】特開平9−178517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1〜3に記載した土圧測定方法は、新設構造物の地下躯体を構築する際に設置した土留め壁に作用する主働土圧を測定する場合に有効な技術である。つまり、既存構造物の地下躯体に作用する原位置地盤の静止土圧および主働土圧を測定する技術ではない。
既存構造物の地下躯体に作用している原位置地盤の土圧を測定する方法として、例えばボーリング孔等を利用して前記土圧を測定する方法も考えられている。しかし、高い測定精度は得られないし、測定方法が煩雑である等の問題から実施は難しい。
一般に、原位置における土圧は、地盤と地下躯体外壁の変形の状態で大きさが異なっており、図9に示すように、受働土圧>静止土圧>主働土圧となることが知られている。そのため、通常、原位置地盤における主働土圧は、地下躯体の構築時に地盤を一度緩めている理由から、静止土圧と主働土圧の間であると考えられている。しかし、新設の構造物を構築する場合における地下躯体外壁や土留め壁等の設計では、土圧測定の事例がないことや、変化する土圧によって地下躯体外壁や土留め壁等が崩壊しないように安全を見込んで大きめの静止土圧(静止土圧係数0.5)が用いられている。
しかし、前記の静止土圧を用いて設計した地下躯体外壁や土留め壁等では、壁厚が厚くなったり、鉄筋量が増えるので、その分コストが掛かり不経済となる。つまり、地下躯体外壁や土留め壁に作用する原位置地盤における正確な静止土圧及び主働土圧を測定できれば、その測定結果を基に新たに地下躯体外壁や土留め壁等を設計し構築できるので、施工費用を大幅に削減できる。
【0005】
本発明の目的は、地下躯体を有する既存構造物を解体して新たに構造物を構築する場合に、新設構造物の地下躯体外壁や、土留め壁等の設計に用いる原位置地盤における静止土圧及び主働土圧を、既存の地下躯体外壁を利用して精度よく測定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記従来技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る原位置地盤における土圧測定方法は、
地下躯体を有する既存構造物に作用する原位置地盤における静止土圧を測定する方法であって、
前記地下躯体1のスラブ2に、油圧ジャッキ5aを設置すること、
油圧ジャッキ5aの荷重を増加させ、土圧によりスラブ2に作用している軸力を油圧ジャッキ5aに負担させること、
スラブ2に作用している軸力を油圧ジャッキ5aに負担させ、地下躯体外壁4に水平変位が生じさせない状態で油圧ジャッキ架台6a、6aを設置した間の部分のスラブ3aを解体し、油圧ジャッキ5aに作用する荷重を測定して静止土圧を求めることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載した原位置地盤における土圧測定方法おいて、
地下躯体1のスラブ2に油圧ジャッキ5aを設置する際に、前記地下躯体1の外壁4の変位を測定する測定機7を地下躯体1の室内部Sに設置し、又は地下躯体1の外壁4の変位を計測する傾斜計8をコア抜きした地下躯体内部Sに設置し、前記地下躯体外壁4の水平変位の挙動を前記測定機7又は傾斜計8で計測しつつ、該地下躯体外壁4が水平変位しない限度に油圧ジャッキ5aの荷重を増加させ、土圧によりスラブ2aに作用している軸力を油圧ジャッキ5aに負担させることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載した原位置地盤における土圧測定方法おいて、
スラブ2に設置した油圧ジャッキ5aで静止土圧を求めた後、前記油圧ジャッキ5aの荷重を低下させて地下躯体外壁4を水平変位させ、油圧ジャッキ荷重が一定値に落ち着いたときの同ジャッキ荷重を測定して主働土圧を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の原位置地盤における土圧測定方法は、既存構造物の地下躯体1を利用して原位置地盤における主働土圧及び静止土圧を精度良く測定できるので、測定した現状の静止土圧を用いて設計し構築した新設の地下躯体外壁4は、安全を見込んで構築された従来の地下躯体外壁に比べて壁厚を薄くできるし、鉄筋量を大幅に削減することができ、コストを大幅に削減できる。また、山留め壁等を構築する場合には、前記測定した主働土圧を用いて設計すれば、従来の地下躯体外壁に比べて壁厚を薄くできるし、補強材として用いるH形鋼を減らすこともでき、コストを大幅に削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
地下躯体1のスラブ2に、油圧ジャッキ5aを設置する。油圧ジャッキ5aの荷重を増加させ、土圧により前記スラブ2に作用している軸力を油圧ジャッキ5aに負担させる。スラブ2に作用している軸力を油圧ジャッキ5aに負担させ、地下外壁に水平変位が生じさせない状態で、油圧ジャッキ架台6a、6aを設置した間の部分のスラブ2aを解体し、油圧ジャッキ5aに作用する荷重を測定して静止土圧を求める。
【実施例1】
【0011】
以下に、本発明を図1〜図8に示した実施例に基づいて説明する。
本実施例の原位置地盤における土圧測定方法は、地下躯体1を有する既存構造物であって、前記既存構造物を地下躯体1だけを残して解体し、該残った地下躯体1を利用して同地下躯体1の外壁4に作用している原位置地盤の静止土圧及び主働土圧を測定する方法である。
【0012】
先ず、図1に示すように、前記残った既存構造物の地下躯体1を解体する前に、同地下躯体1の上段スラブ2の上面であって地下躯体外壁4の近傍位置に、両端部に架台6a、6aを備えた油圧ジャッキ5aを設置する。前記油圧ジャッキ5aは、上段スラブ2に作用している軸力の大きさに応じて適宜、必要な個数設置する。そして、前記地下躯体1の外壁4の水平変位を測定する光波測定機7を地下躯体1の室内部Sに設置する。図1中の符号7aは、前記光波測定用のターゲットを示している。なお、図7に示すように、前記光波測定機7に代えて、地下躯体1の外壁4の水平変位を計測する傾斜計8をコア抜きした地下躯体内部Sに設置した構成で実施してもよい(請求項2記載の発明)。
【0013】
前記油圧ジャッキ5a及び光波測定機7の設置が完了したら、原位置地盤の静止土圧による地下躯体外壁4の水平変位の挙動を、前記地下躯体1の室内Sに設置した光波測定機7で測定しつつ、油圧ジャッキ5aの荷重を増加させ、土圧により前記上段スラブ2に作用している軸力を油圧ジャッキ5aに負担させる。
【0014】
その後、図2に示すように、上段スラブ2に作用している軸力を油圧ジャッキ5aに負担させ、地下躯体外壁4に水平変位が生じさせない状態で、油圧ジャッキ架台6a、6aを設置した間の部分2aの上段スラブ2をコンクリートカッター等を用いて解体する。なお、前記上段スラブ2aの解体に際し、同上段スラブ2の解体で地下躯体外壁4が水平変位しないように、地下躯体外壁4の水平変位の挙動を前記光波測定機7で測定しつつ、該地下躯体外壁4が水平変位しない限度に油圧ジャッキ5aの荷重を増加させる。
【0015】
次に、図3に示すように、地下躯体1の下段スラブ3の上面であって地下躯体外壁4の近傍位置に、両端部に架台6b、6bを備えた油圧ジャッキ5bを設置する。なお、前記下側の油圧ジャッキ5bも下段スラブ3に作用している軸力の大きさに応じて適宜、必要な個数設置する。
その後、地下躯体外壁4の水平変位の挙動を前記測定機7で計測しつつ、油圧ジャッキ5bの荷重を増加させ、土圧により前記下段スラブ3に作用している軸力を油圧ジャッキ5bに負担させる。
【0016】
次に、図4に示すように、下段スラブ3に作用している軸力を下側の油圧ジャッキ5bに負担させ、地下躯体外壁4に水平変位が生じさせない状態で、下段スラブ3の油圧ジャッキ架台6b、6bを設置した間の部分3aの下段スラブ3をコンクリートカッター等で解体する。なお、前記下段スラブ3を解体するに際し、同下段スラブ3の解体で地下躯体外壁4が水平変位しないように、地下躯体外壁4の水平変位の挙動を前記光波測定機7で測定しつつ、該地下躯体外壁4が水平変位しない限度に上側及び下側の油圧ジャッキ5a、5bの荷重を増加させる。
最後に、前記上段スラブ2及び下段スラブ3に設置した油圧ジャッキ5a、5bに作用する荷重を圧力計や荷重計等を用いてそれぞれ測定し、地盤条件に応じて土圧分布を三角形分布或いは台形分布として仮定して、その静止土圧を求める。
【0017】
前記上段スラブ2及び下段のスラブ3に設置した油圧ジャッキ5a、5bで静止土圧を求めた後は、図5に示すように、該上段スラブ2及び下段スラブ3に設置した油圧ジャッキ5a、5bの荷重をそれぞれ低下させて地下躯体外壁4を水平変位させる。そして、上段スラブ2及び下段スラブ3の油圧ジャッキ5a、5bの荷重がそれぞれ一定値に落ち着いたときの同上段スラブ2及び下段スラブ3の油圧ジャッキ5a、5bに作用する荷重を圧力計や荷重計等を用いてそれぞれ測定して主働土圧を求める(請求項3記載の発明)。
【0018】
その後、残った地下躯体1はすべて解体し、前記測定した静止土圧を用いて地下外壁を有する新規の構造物を構築する。即ち、本実施例の土圧測定方法で測定した静止土圧を用いて設計し構築した新設の地下躯体外壁4は、安全を見込んで構築された従来の地下躯体外壁に比べて壁厚を薄くできるし、鉄筋量を大幅に削減することができ、コストを大幅に削減できる。
【0019】
また、山留め壁等を構築する場合には、前記測定した主働土圧を用いて設計すれば、従来の地下躯体外壁に比べて壁厚を薄くできるし、補強材として用いるH形鋼を減らすこともでき、コストを大幅に削減できる。なお、前記既設の地下躯体外壁4は、新たに地下躯体を構築する場合の土留め壁として使用することもできる。
【0020】
なお、本実施例の土圧測定方法は、図6に示すように、階層の多い地下躯体の場合であっても、上記手順を繰り返すことで、静止土圧及び主働土圧を精度良く測定することができる。
【実施例2】
【0021】
図8は、地上から地下躯体外壁4の半分の深さの土圧を測定する方法を示している。具体的な構成は、上述した実施例1の土圧測定方法とほぼ同じ構成であるが、地下躯体1の上段スラブ2の上面にのみ、油圧ジャッキ5aを設置する点において相違する。
【0022】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、勿論、図示した実施例の限りではない。本発明の要旨及び技術的思想を逸脱しないかぎり、当業者の変形、応用にしたがい様々な実施例が成立することを、敢えてここに、言及する次第です。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】上段スラブに油圧ジャッキ、架台及び測定機を設置した状態を示す断面図である。
【図2】上段スラブを解体した状態を示す断面図である。
【図3】下段スラブに油圧ジャッキ及び架台を設置した状態を示す断面図である。
【図4】下段スラブを解体した状態を示す断面図である。
【図5】上側及び下側の油圧ジャッキの荷重を低下させた状態を示す断面図である。
【図6】地下躯体の階層が多い場合の土圧測定方法を示す断面図である。
【図7】実施例2の土圧測定方法を示す説明図である。
【図8】実施例3の土圧測定方法を示す断面図である。
【図9】地下躯体の外壁に作用する土圧の大きさを示す説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1 地下躯体
2、3 スラブ
4 地下躯体外壁
5a、5b 油圧ジャッキ
6a、6b 油圧ジャッキ架台
7 測定機
8 傾斜計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下躯体を有する既存構造物に作用する原位置地盤における静止土圧を測定する方法であって、
前記地下躯体のスラブに、油圧ジャッキを設置すること、
油圧ジャッキの荷重を増加させ、土圧によりスラブに作用している軸力を油圧ジャッキに負担させること、
スラブに作用している軸力を油圧ジャッキに負担させ、地下躯体外壁に水平変位が生じさせない状態で油圧ジャッキ架台を設置した間の部分のスラブを解体し、油圧ジャッキに作用する荷重を測定して静止土圧を求めることを特徴とする、原位置地盤における土圧測定方法。
【請求項2】
地下躯体のスラブに油圧ジャッキを設置する際に、前記地下躯体の外壁の変位を測定する測定機を地下躯体の室内部に設置し、又は地下躯体の外壁の変位を計測する傾斜計をコア抜きした地下躯体内部に設置し、前記地下躯体外壁の水平変位の挙動を前記測定機又は傾斜計で計測しつつ、該地下躯体外壁が水平変位しない限度に油圧ジャッキの荷重を増加させ、土圧によりスラブに作用している軸力を油圧ジャッキに負担させることを特徴とする、請求項1に記載した原位置地盤における土圧測定方法。
【請求項3】
スラブに設置した油圧ジャッキで静止土圧を求めた後、前記油圧ジャッキの荷重を低下させて地下躯体外壁を水平変位させ、油圧ジャッキ荷重が一定値に落ち着いたときの同ジャッキ荷重を測定して主働土圧を求めることを特徴とする、請求項1又は2に記載した原位置地盤における土圧測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−145324(P2008−145324A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334336(P2006−334336)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】