説明

原位置透水試験方法及びその装置

【課題】原位置での透水係数を容易にかつ短時間で測定することができる原位置透水試験方法及びその装置を提供する。
【解決手段】土構造物11の透水係数を測定する原位置透水試験方法である。土構造物11の表層の地中に筒体12のいずれか一方の開口を埋設するとともに、埋設した筒体12の開口の下端部と同等の深さ又は地表側の地中に土構造物11の圧力水頭を計測するテンシオメータ30を設置し、筒体12の内部に注水し、筒体12内の水位をマリオット管14により一定に保ちながら筒体12の水を土構造物11の地表から浸透させ、土構造物11の浸透水量の変化と圧力水頭の変化とに基づいて、土構造物11の透水係数を求めるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に廃棄処分場覆土等の土構造物における鉛直遮水性を評価するために好適な原位置透水試験方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に産業廃棄物を埋設して表面を覆土した廃棄物処分場では、地表から浸透して覆土を通過する雨水が廃棄物層へ達すると汚染されて汚水となる。この汚水が地下水源に達すると地下水を汚染して周辺環境に多大な影響を及ぼすこととなる。したがって汚水はこのまま公共水域へ放流せずに浄化する必要がある。この際、雨水等の浸透水の浸透量は、前記覆土の遮水性に大きく影響する。よって遮水性を制御することにより、汚水の排出量が少なくなれば、汚水の浄化処理に伴う費用を削減することが可能となる。
【0003】
そこで、覆土を構築する際には、土の中を水が移動する速度を表した透水係数を管理することが重要である。一般に、透水係数の測定においては、直接測定することは行なわれず、土の締固め密度から推定している。その大きな理由は、従来の透水試験法は時間と費用が掛かりすぎ、現場の日常の品質管理には適していないからである。土構造物の透水試験法としては、施工対象となる原位置で土の積層状態を崩さないようにそのままの状態を維持した試料を採取して試験室で測定する室内透水試験と、原位置で直接行う原位置透水試験とがある。
【0004】
室内透水試験は、測定地盤から試料をブロック状に切り出し、破損に気をつけながら試験室へ運搬する。そして試験室でブロックから円柱状の試料を削り出し、その円柱状試料をひと回り大きな容器に入れ、試料と容器の間隙をセメントミルクやベントナイトで止水処理した後、室内透水試験装置にセットして実施される。
【0005】
一方、原位置透水試験法は、図5に示すように、測定対象となる土構造物1に試験孔2を掘り、孔壁の崩壊を防ぐために試験孔2の内部に砕石3を入れる。そして、試験孔2内に注水し、試験孔2内の水と気密水槽4とを定水位保持管5及び注水管6を介して接続することによって試験孔2内の水位を一定に保ちながら試験孔2から土構造物1に浸透させることができる。気密水槽4内に配置したスケール7により試験孔2内への浸透水量を測定する。そして単位時間当たりの浸透水量が一定となるまで測定し、所定の式により透水係数を算出することができる。(例えば特許文献1、非特許文献1)
【特許文献1】特開2000−352042号公報
【非特許文献1】「地盤調査の方法と解説」、社団法人地盤工学会、2004年6月、p413〜421
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら室内透水試験法によれば、現場で試料を採取してから試験用の供試体を作製するまでに熟練技術を要する多くの工程を含むばかりでなく、試料採取から試験結果を得るまでには相当の時間と費用が必要であった。
【0007】
一方、上記の原位置透水試験法は、素掘り孔に水を注入して水を試験孔の全周囲に浸透させて試験を行っている。透水係数の算出にあたっては測定対象である土構造物は等方性であると仮定している。しかし土構造物は転圧の影響などから水平方向と鉛直方向の透水係数は必ずしも同一ではないため、この方法によれば降雨の浸透に直接影響を及ぼす鉛直方向の透水係数を正しく評価することはできなかった。
【0008】
また特許文献1の透水試験法によれば、測定手段となる電極を地中深く埋め込んでいるため、埋め込み作業に手間がかかるとともに、地表から電極までの距離が長く浸透時間も長くなる。
本発明は、これら従来法の問題点に鑑みてなされたもので、原位置で容易にかつ短時間で鉛直方向の透水係数を測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る原位置透水試験方法は、土構造物の透水係数を測定する原位置透水試験方法であって、前記土構造物の表層の地中にいずれか一方の開口を埋設した筒体の内部に注水し、前記筒体内の水位を一定に保ちながら前記筒体の水を前記土構造物の地表から浸透させ、埋設した前記筒体の前記開口の下端部の深さと同等又は地表側の地中の圧力水頭を計測し、前記土構造物の浸透水量の変化と前記圧力水頭の変化とに基づいて、前記土構造物の透水係数を求めることを特徴としている。
【0010】
本発明に係る原位置透水試験装置は、土構造物の測定対象域を囲い、下端部を前記測定対象域の表層に埋設し、内部に水を充填し、前記土構造物の地表から表層部へ前記水を浸透させる筒体と、前記筒体内の水位を一定に保ちながら前記土構造物への浸透水量を測定するマリオット管と、前記筒体内の前記土構造物に埋設し、前記土構造物の圧力水頭を測定するテンシオメータと、を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
上記構成による本願発明によれば、筒体の開口の下端部を土構造物の表層から内部に埋込んでいる。またテンシオメータの先端部は埋設した筒体の下端部の深さと同等またはそれよりも浅い地表側の地中に設置している。このため、埋設した円筒管の管壁によって土構造物の測定対象域における水平方向の浸透流を抑制して鉛直方向の浸透流に限定することができる。
【0012】
また筒体の内側であって土構造物に配置したテンシオメータで圧力水頭を測定するとともに、円筒管の周辺に配置したマリオット管により土構造物に浸透する水の流量を測定している。このため、予め求めた解析値とこれらの測定値を対比し、透水係数を求めることができる。
【0013】
さらに測定対象域は土構造物の表層部とし、筒体の下端部を埋設している。したがってこれまでの原位置透水試験のように浸透流が定常に達するまで長時間測定を続ける必要はなく、短時間で鉛直方向の透水係数を測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の原位置透水試験方法及びその装置の実施の形態について、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。図1は、本発明に係る原位置透水試験装置の構成概略を示す図である。図示のように原位置透水試験装置10の測定対象となる土構造物11は、例えば産業廃棄物処分場などの覆土層である。
【0015】
土構造物11の表面には筒体を配置している。本実施形態では筒体として円筒管12を用いている。円筒管12は、一対の開口のいずれか一方を土構造物11に埋め込み、上側の開口から注水できるようにしている。そして円筒管12の壁部12aは、内部に注水することによって生じる水圧に対し十分な強度と、注水した水が壁面から外部に漏れないような遮水性を具備している。また円筒管12の下端部12bは、前記土構造物11の表面から内部に任意に設定した深さに埋め込んである。本実施形態に係る円筒体12の下端部12bの埋め込み深さは、土構造物11の表層部、すなわち地表から数cmの深さに設定している。埋め込み深さを土構造物11の地表から数cmの深さに設定することによって、原位置透水試験装置10の設置を容易にするとともに、浸透時間を短くすることができる。なお筒体の断面形状は、実施形態の円筒形状のほかにも楕円形状、矩形形状、多角形状など測定対象を囲う隔壁を備えた構造であればこれに限定されるものではない。
【0016】
前記円筒管12の周辺にはマリオット管14を設けてある。このマリオット管14の上下の端部には複数のバルブを介して配管18が接続している。本体の上部には一対の通気バルブ16を設け、本体への通気、遮断を切り替え可能にしている。また本体の下部には一対の注水バルブ17を設け、本体へ注水あるいは排水することができるように構成している。下端部の注水バルブ17を備えた配管の一方は、注水ホース20を界して円筒管12の壁部12aの接続口と接続し、円筒管12内に注水可能に形成している。またマリオット管14内に設置する大気連通管22は、マリオット管14の本体を長手方向にスライド可能に形成し、設置位置を調整することができる。そして円筒管12の所定の水の高さHを設定する際、大気連通管22の下端部を地表からHの高さに合わせると、大気圧によって円筒管12内部の水の高さHに調整することができる。これにより円筒管12内部の水の高さHを一定に保持することができる。またマリオット管14の外周にはスケール24を配置し、管内部に充填した水26が円筒体12へ流出する水量を計測することができる。
【0017】
円筒管12の内部にはテンシオメータ(圧力水頭計)30を配置してある。テンシオメータ30の先端部のポーラスカップ32は、円筒管12内の土構造物11の地中に挿入してある。またテンシオメータ30の上端部は、計測ケーブル34を介して円筒管12の外部に設置した表示器36に接続している。表示器36はテンシオメータの測定した圧力水頭を円筒管12の外側から表示可能に構成している。またテンシオメータ30は、先端部のポーラスカップ32が円筒管12の下端部12bと同等の深さ35又はわずかに浅い位置、すなわち土構造物11の地表側の地中になるように円筒管12内部の土構造物11に設置されている。これにより圧力水頭を測定するテンシオメータ30の測定部は、円筒体12の壁部12aの内側に配置されて、地表から浸透する浸透水の水平方向の流れを遮断して、鉛直方向に限定することができる。
【0018】
次に、上記構成による原位置透水試験装置の原位置透水試験方法について説明する。まず円筒管12の一対の開口のうちいずれか一方の開口の下端部12bを土構造物11の外表面から任意の深さ、すなわち地表から数cmの深さに埋設する。そしてテンシオメータ30の先端部のポーラスカップ32を円筒体12の内部の土構造物11の地表から挿入し、埋め込んだ円筒体12の下端部12bと同等以下の浅い位置、すなわち下端部12bと同等の深さ又はそれよりも土構造物11の地表側の浅い位置に設置する。テンシオメータ30は計測ケーブル34を介して外部に配置した表示器36に接続している。
【0019】
円筒管12の周辺に設置したマリオット管14の注水ホース20から円筒管12の壁部12aに水を送り、注水ホース20内の空気を管外部に追い出して管内部を水で満たした後、マリオット管14の通気バルブ16及び注水バルブ17を全て閉塞する。そして土構造物内の初期の圧力水頭の測定値を表示器36により測定し記録する。
【0020】
ついで円筒管12の内部へ任意に設定した高さHまで注水して、マリオット管14の通水バルブ17aを開く。円筒管12内に注水すると地表から水が浸透し始める。マリオット管14の大気連通管22によって円筒管12の水の高さHは一定に保持されながら、マリオット管14本体の水が円筒管12内部に流出する。通水バルブ17を開いてからの所定の経過時間ごと、そのときのマリオット管14内の水位、及び圧力水頭を測定する。このときマリオット管14内の水位は管外周に取り付けたスケールにより測定する、また圧力水頭は表示器36によって測定値が表示される。なお、円筒管12内の水が土構造物11へ浸透するとそれと同量の水がマリオット管14から円筒管12内へ移動するので、マリオット管14内の水位変化から土構造物への浸透水量が得られる。
【0021】
次に、得られた圧力水頭と浸透水量の測定値に基づき透水係数kの算出方法について説明する。図2、図3は一例として、原位置透水試験装置の円筒管の直径が300mm、円筒管下端の土構造物への埋設深度が50mm、円筒管内の水位Hが100mm、テンシオメータのポーラスカップが円筒管の中央部であって深さ40mmに設置したときの経過時間と、浸透水量又は圧力水頭との変化を一般的な有限要素法浸透流解析によって求めたグラフである。図2は縦軸に浸透水量(cm/時間)、横軸に透水試験の経過時間(h)をとり、A:透水係数k=1×10−3cm/sec、B:k=1×10−6cm/secのグラフをそれぞれ示す。図3は縦軸に圧力水頭(cm)、横軸に透水試験の経過時間(h)をとり、A:透水係数k=1×10−3cm/sec、B:k=1×10−6cm/secのグラフをそれぞれ示す。
【0022】
例えば経過時間ごと浸透水量と圧力水頭を測定し、得られた測定値を有限要素法浸透流解析による解析値に基づくグラフにプロットする。プロットした点を結んで得られた曲線から近似する透水係数の曲線を選択し、透水係数kを求めることができる。また有限要素法浸透流解析によってこの他にも任意の透水係数kを解析し、経過時間ごとの圧力水頭と浸透水量からなる測定結果を有限要素法によって求めた解析結果と測定結果とを対比することによって測定箇所の透水係数を求めることができる。なお、透水係数は浸透水量あるいは圧力水頭のいずれか一方の値よって求めるようにしてもよいが、好ましくは浸透水量と圧力水頭の両方の測定値から透水係数を求めるようにすればより正確な値を求めることができる。
【0023】
ところで透水試験装置で測定した測定結果は、上記有限要素法浸透流解析によって求める他に、簡易式を利用して透水係数を求めることもできる。図4は透水係数を簡易に算定する算定式の説明図である。
【0024】
図4(1)に示すように、一般に土壌中の水の流れはダルシー則(Q=kiA)に従い、透水係数kは、2点間の流動差の関係を表す動水勾配iを用いて、次のように表すことができる。
【数1】


なお
k:透水係数(cm/sec)、Q:流量(cm/sec)、
i:動水勾配、A:土の断面積(cm
Δh:水頭差(cm)、L:土の距離(cm)
をそれぞれ示す。
【0025】
ここで、本実施形態に係る原位置透水試験装置では、図4(2)に示すように上記L:土の距離は、Z:圧力水頭の測定深さ(cm)、すなわち埋設したテンシオメータの先端部に相当する。
【0026】
また本実施形態に係る原位置透水試験装置では、測定対象域の下部の圧力水頭をテンシオメータで測定し得られた測定値Pから、円筒間内に注水した水の高さHを一定に保持しているため、測定対象域の上部の圧力水頭との水頭差Δhを求めることができる。すなわち測定対象域の下部の圧力水頭をPとすると、測定対象域の上部の圧力水頭は円筒管内の水の高さHと、圧力水頭の測定深さZから数2に示すように
【数2】

と表すことができる。
ここで、Δh:水頭差、Z:圧力水頭の測定深さ(cm)
H:水の高さ(cm)、P:圧力水頭(cm)
をそれぞれ示す。
【0027】
得られた数式2を数式1に代入すると
【数3】


となる。
ここで、Q:円筒管内への浸透水量(cm/sec)、A:円筒管断面積(cm
をそれぞれ示す。
【0028】
上記簡易式(数式3)によれば、予め試験装置の測定深さZ、水の高さH、円筒管断面積Aを特定しておけば、テンシオメータによる圧力水頭の測定値P及びマリオット管による浸透水量Qに基づいて透水係数kを算出することができる。また測定対象域の上下両面の圧力水頭が既知であるため、短時間で鉛直方向の透水係数を測定することができる。よってこれまでの原位置透水試験装置のように浸透流が定常に達するまで長時間測定を続ける必要がない。なお数式3は浸透流を鉛直方向のみの流れに制限して導いていたものである。
【0029】
このような原位置透水試験装置によれば、土構造物の表層部を測定対象域とすると共に、測定対象域の地表からの浸透流を鉛直方向に制限しているので、土構造物の浸透水量の変化と圧力水頭の変化とに基づいて、短時間で容易に透水係数を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る原位置透水試験装置の構成概略を示す図である。
【図2】有限要素法により求めた浸透水量と経過時間の説明図である。
【図3】有限要素法により求めた圧力水頭と経過時間の説明図である。
【図4】透水係数を簡易に算定する算定式の説明図である。
【図5】従来の原位置透水試験装置の構成概略を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1………土構造物、2………試験孔、3………砕石、4………気密水槽、5………定水位保持管、6………注水管、7………スケール、10………原位置透水試験装置、11………土構造物、12………円筒管、14………マリオット管、16………通気バルブ、17………通水バルブ、18………配管、20………注水ホース、22………大気連通管、24………スケール、26………水、30………テンシオメータ、32………ポーラスカップ、34………計測ケーブル、36………表示器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土構造物の透水係数を測定する原位置透水試験方法であって、
前記土構造物の表層の地中にいずれか一方の開口を埋設した筒体の内部に注水し、前記筒体内の水位を一定に保ちながら前記筒体の水を前記土構造物の地表から浸透させ、
埋設した前記筒体の前記開口の下端部の深さと同等又は地表側の地中の圧力水頭を計測し、
前記土構造物の浸透水量の変化と前記圧力水頭の変化とに基づいて、前記土構造物の透水係数を求めることを特徴とする原位置透水試験方法。
【請求項2】
土構造物の測定対象域を囲い、下端部を前記測定対象域の表層に埋設し、内部に水を充填し、前記土構造物の地表から表層へ前記水を浸透させる筒体と、
前記筒体内の水位を一定に保ちながら前記土構造物への浸透水量を測定するマリオット管と、
前記筒体内の前記土構造物に埋設し、前記土構造物の圧力水頭を測定するテンシオメータと、
を備えたことを特徴とする原位置透水試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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