説明

原子力プラント及び還元性窒素化合物注入設備

【課題】原子力プラントに設けられた他系統の保守点検の自由度が増大する原子力プラントを提供する。
【解決手段】BWRプラント7は還元性窒素化合物注入設備34を備える。注入薬品タンク24内のヒドラジン水溶液はプラントの運転時にが注入配管27、浄化系配管19を経てRPV8内に注入される。還元性窒素化合物注入設備34は、他に循環配管42、活性炭触媒を充填した触媒塔45及び酸化剤タンク46を有する。還元性窒素化合物注入設備34の保守点検時には、隔離弁30が閉じられ、注入配管27内に残留するヒドラジン水溶液が注入配管27に供給される洗浄水によって回収配管38より注入薬品タンク24内に回収される。ヒドラジンを含む回収された廃液は、注入薬品タンク24から触媒塔45に送られる。ヒドラジンは酸化剤タンク46から供給される過酸化水素の存在下で触媒塔45内で活性炭触媒の作用により分解される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラント及び還元性窒素化合物注入設備に係り、特に、還元窒素化合物を注入する沸騰水型原子力発電プラントに適用するのに好適な原子力プラント及び還元性窒素化合物注入設備に関する。
【背景技術】
【0002】
軽水を冷却水として用いる原子炉を備えた沸騰水型原子力発電プラント(以下BWRプラントと示す)では、プラント稼働率向上の観点から、炉内構造物及び圧力境界などを構成する構造材(例えば、ステンレス及びニッケル基合金等)の応力腐食割れ(以下、SCCという)を緩和する、または抑制することが必要である。SCCは材料、応力及び環境の3つの因子が重畳したときに起こる。したがって、その3つの因子のうち少なくとも1つの因子を除外することによりSCCの発生を防止できる。
【0003】
BWRプラントの運転中、原子炉内の炉心からのγ線及び中性子線により、炉心に装荷された燃料集合体内の複数の燃料棒を冷却する冷却水が放射線分解される。この結果、原子炉内の炉内構造物(炉心シュラウド等)、及び圧力境界となる原子炉圧力容器(以下,RPVという)及び再循環系配管等を構成する構造材は、BWRプラントの運転中に、放射線分解生成物である酸素及び過酸化水素が数百ppb程度存在する約280℃の高温の冷却水にさらされる。
【0004】
原子力発電プラントであるBWRプラントを対象とし、高温水に接触する構造材のSCCを緩和する方法の一つに、給水配管から原子炉内に水素を注入する水素注入の技術がある(特許文献1参照)。水素注入は、注入した水素と、水の放射線分解によって生じた酸素及び過酸化水素とを反応させて水に戻すことにより、原子炉内の冷却水中の酸素及び過酸化水素の各濃度を低減する技術である。
【0005】
水素注入は、その実施により生成された放射性窒素16(以下、N−16と示す)が、蒸気と共にタービンに導かれるので、タ−ビン建屋の線量率を上昇させるという副作用をもたらす。N−16による主蒸気配管の表面線量率の上昇は、冷却水中の水素濃度により決定される。給水に注入された水素の濃度が1ppmを超えると主蒸気配管の表面線量率は最大5倍まで上昇ずる。したがって、N−16による副作用を生じない水素濃度の範囲で構造材の腐食電位を低減することが望まれている。この課題を改善する貴金属注入の技術が特許文献2に記述されている。貴金属注入は、原子炉内の冷却水中に貴金属(例えば、白金族元素)を注入し、構造材表面に貴金属を付着させて冷却水中の水素と酸素の反応を加速させる技術である。その課題を改善する他の技術として、還元性窒素化合物(例えば、ヒドラジン、ヒドロキシアミン、カ−ボヒドラジド、アンモニア等)を原子炉内の冷却水に注入する技術がある(特許文献3参照)。還元性窒素化合物の注入は、給水に注入する水素の濃度をタ−ビン建屋の線量率が上昇しない範囲に制限して行われる。貴金属注入及び還元性窒素化合物の注入は、主蒸気配管の線量率の上昇を抑制しつつ腐食電位を低減することができる。
【0006】
さらに、水素注入及び白金族元素の付着処理を行った場合には、原子炉内の冷却水の放射性物質濃度が上昇しプラントの線量率が上昇することが知られている。この対策として、原子炉水中に亜鉛を注入する方法が特許文献4及び特許文献5に記載されている。
【0007】
【特許文献1】特許第2865726号公報
【特許文献2】特許第2766422号公報
【特許文献3】特開2005−43051号公報
【特許文献4】特許第3476432号公報
【特許文献5】特表2001−516061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
BWRプラントに設けられた還元性窒素化合物注入設備は、保守点検が可能な設備であることが望ましい。具体的には、還元性窒素化合物注入設備は、放射線管理区域である原子炉建屋内で使用される。したがって、還元性窒素化合物注入設備の保守点検に伴って発生する還元性窒素化合物の廃液は、放射性管理区域外で処理することが難しく、原子炉建屋等の放射線管理区域内、例えば、BWRプラント内で処理する必要がある。しかし、BWRプラントは冷却水に薬品を添加しない純水を使用する設備であるため、化学薬品を処理するためには処理設備の容量に制限がある。また、還元性窒素化合物をBWRプラントに設けられた既存の廃棄物処理設備で処理する場合は、イオン交換樹脂等の放射性二次廃棄物が増加するため好ましくない。特に、還元性窒素化合物注入設備の保守点検が、原子力プラントの他の系統の保守点検の自由度を制限することは、好ましくない。
【0009】
本発明の目的は、原子力プラントに設けられた系統の保守点検の自由度を増大することができる原子力プラント及び還元性窒素化合物注入設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、還元性窒素化合物注入設備が、還元性窒素化合物を充填する第1容器と、第1容器内の還元性窒素化合物を分解する還元性窒素化合物分解装置と、還元性窒素化合物分解装置に酸化剤を供給する酸化剤供給装置とを備えていることにある。
【0011】
本発明は、還元性窒素化合物分解装置、及び還元性窒素化合物分解装置に酸化剤を供給する酸化剤供給装置を備えているので、還元性窒素化合物注入設備の保守点検時に、還元性窒素化合物注入設備内に存在する還元性窒素化合物を、還元性窒素化合物分解装置を用いてより短時間に分解することができる。このため、原子力プラントに設けられた系統(例えば、残留熱除去系及び燃料貯蔵プールのプール水浄化系)の保守点検の時期の自由度を増大することができる。したがって、原子力プラントの定期検査における各系統の保守点検のスケジュールの設定が著しく容易になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、原子力プラントに設けられた各系統の保守点検の時期の自由度を増大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明者らは、原子力プラントに設けられた各系統の保守点検の自由度を増大することができる、還元性窒素化合物注入設備で発生する還元性窒素化合物を含む廃液の処理について種々検討を行った。この検討の結果、発明者らは、その廃液を還元性窒素化合物注入設備内で処理すれば良いとの新たな知見を得て、この新たな知見に基づいて本発明を成した。その新たな知見の内容を以下に具体的に説明する。
【0014】
発明者らは、還元性窒素化合物を含む廃液の処理方法に関し、還元性窒素化合物の一種であるヒドラジンを用いた試験を行った。1%(10000ppm)のヒドラジンを含む模擬廃液にヒドラジン化学当量の1.5倍の過酸化水素(約1.5%)を添加した試験液を、室温の状態で貴金属触媒を充填した触媒塔に通水した。触媒は、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した付着させた活性炭触媒を使用した。得られた試験結果を図3に示す。触媒塔出口におけるヒドラジン濃度は、空間速度の増加に伴い増加した。しかしながら、触媒塔出口でのヒドラジン濃度は、2(1/h)以下の空間速度では1ppm以下に低下した。発明者らは、還元性窒素化合物を含む廃液に還元性窒素化合物の化学当量以上の過酸化水素を添加し、20℃の状態で貴金属触媒層内を空間速度2(1/h)以下でその廃液を通すことにより、廃液に含まれる還元性窒素化合物を分解できることを確認した。なお、空間速度は試験水流量(ml/h)を触媒体積(ml)で割ることによって求められる。
【0015】
以上に述べた試験結果に基づいて、発明者らは、還元性窒素化合物注入設備から発生する還元性窒素化合物を含む廃液の処理を、還元性窒素化合物注入設備内で行うことによって、還元性窒素化合物をより短時間で処理できることを見出した。その結果、発明者らは、還元性窒素化合物注入設備が接続される原子力プラントの種々の系統の保守点検の自由度を増すことができるという、新たな知見を得た。
【実施例1】
【0016】
本発明の好適な一実施例であるBWRプラントを、図1及び図2を用いて以下に説明する。本実施例のBWRプラント7は還元性窒素化合物注入設備を備えている。BWRプラント7は、原子炉1、タービン2、復水器13、原子炉浄化系10及び還元性窒素化合物注入設備34を備えている。原子炉1は、RPV8内に炉心シュラウド15及び炉心16を備えている。炉心16は、炉心シュラウド15によって取り囲まれており、多数の燃料集合体(図示せず)を内部に配置している。炉心16には、原子炉出力を制御する複数の制御棒17が挿入される。タービン2は主蒸気配管14によってRPV8に連絡される。復水器13は、タービン2の蒸気排出部に連絡され、給水配管6によってRPV8に連絡される。復水脱塩器3、給水ポンプ4及び給水加熱器5が、上流側よりこの順に給水配管6に設けられる。原子炉浄化系10は、浄化系ポンプ9、再生熱交換器11、ろ過脱塩器12及び浄化系配管19を有する。浄化系配管19は、一端がRPV8に連絡され、他端が給水配管6に接続される。浄化系ポンプ9、再生熱交換器11、ろ過脱塩器12は、この順序で浄化系配管19に設置される。
【0017】
RPV8と炉心シュラウド15の間に形成される環状通路33内に配置されたジェットポンプ(図示せず)に、再循環系配管(図示せず)に設けた再循環ポンプ(図示せず)より昇圧した環状通路33内の冷却水を供給することによって、ジェットポンプから吐出された冷却水が、下方より炉心16内に供給される。炉心16内を上昇する冷却水は、燃料集合体内に存在する核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気となる。この蒸気は、RPV8内に設置された気水分離器(図示せず)及び蒸気乾燥器(図示せず)によって水分を除去され、主蒸気配管14に排出される。蒸気は、主蒸気配管14によりタービン2に導かれ、タービン2を回転させる。タービン2に連結された発電機(図示せず)が回転して電力が発生する。タービン2から排出された蒸気は、復水器13で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管6を通ってRPV8に供給される。その給水は、給水配管6を流れる間に、復水脱塩器3で不純物を除去され、給水ポンプ4で昇圧され、給水加熱器5で加熱される。
【0018】
RPV8内の冷却水は、浄化系ポンプ9で昇圧され、浄化系配管19を通って再生熱交換器11及びろ過脱塩器12に導かれる。冷却水に含まれているクラッド、放射性核種及び放射性イオン等の不純物は、ろ過脱塩器12で冷却水から取り除かれる。ろ過脱塩器12から排出された冷却水は、再生熱交換器11で加熱され、浄化系配管19及び給水配管6を経てRPV8内に供給される。
【0019】
水素注入装置54は、水素発生装置18及び水素注入配管52を有する。水素注入配管52は水素発生装置18と給水配管6を接続する。注入量調節弁17が設けられた水素注入配管52は、復水脱塩器3と給水ポンプ4の間で給水配管6に接続される。BWRプラント7の運転中、注入量調節弁17の開度を所定開度にし、所定量の水素を水素発生装置18から水素注入配管52を通して給水配管6に注入する。注入された水素は、給水と共に給水配管6を通ってRPV8内に供給される。
【0020】
給水中の水素濃度が約0.4ppm以上になると、炉心16内で生成されたN−16が蒸気と共に主蒸気配管14に排出されるので、主蒸気配管14の表面線量率が上昇する。給水中の水素濃度が0.4ppmから約1ppmの範囲では水素注入量にほぼ比例して主蒸気配管の表面線量率が上昇し、その水素濃度が1ppm以上でその表面線量率の上昇が飽和する。さらに、主蒸気配管の表面線量率が上昇した場合には、タービン2が設置されているタ−ビン建屋のスカイシャイン線量が増大する。このため、水素注入量はタ−ビン建屋の線量率が上昇しない範囲内に制限されているが、主蒸気配管の表面線量率をさらに低減することが望ましい。これを達成するために、特許文献3に記載されている還元性窒素化合物(例えば、ヒドラジン)の原子炉1内への注入が検討されている。還元性窒素化合物をRPV8内の冷却水に注入することによって、その冷却水中の酸化剤濃度が効果的に低減され、N−16の生成が抑制される。
【0021】
BWRプラント7に用いられる還元性窒素化合物注入設備34の構成を、図1及び図2を用いて具体的に説明する。還元性窒素化合物注入設備34は、原子炉建屋53内に設置される。還元性窒素化合物注入設備34は、還元性窒素化合物であるヒドラジンが充填された注入薬品タンク24、注入ポンプ26、注入配管27、循環配管42、触媒塔45、酸化剤タンク46及び注入制御器31を備えている。注入配管27は注入薬品タンク24と浄化系配管19を連絡する。開閉弁58、注入ポンプ26、逆止弁29及び隔離弁30が、上流からこの順に注入配管27に設置される。アキュームレーター28が注入ポンプ26よりも下流で注入配管27に接続されている。開閉弁39が設けられた回収配管38が、逆止弁29と隔離弁30の間で注入配管27に接続され、さらに注入薬品タンク24に接続される。循環配管42の両端部が注入薬品タンク24にそれぞれ接続されている。循環ポンプ41及び触媒塔45は循環配管42に設置される。循環ポンプ41は触媒塔45よりも上流に位置する。触媒塔45は、内部にルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。白金、バナジウム、パラジウム等の貴金属を活性炭等の担体の表面に添着した触媒を上記の触媒の替りに触媒塔45内に充填してもよい。弁43が循環ポンプ41の上流で、弁44が触媒塔45の下流で、それぞれ循環配管42に設置される。注入ポンプ47が設置される配管35が、酸化剤である過酸化水素を充填している酸化剤タンク46に接続され、循環ポンプ41よりも上流で循環配管42に接続されている。洗浄水配管40が、注入薬品タンク24と注入ポンプ26の間で注入配管27に接続される。弁48が設けられた排水配管49が、触媒塔45と弁44の間で循環配管42に接続される。排出配管49は、原子力発電所に設けられた放射性液体廃棄物処理装置(図示せず)に連絡されている。注入薬品タンク24に接続される排気配管50は、BWRプラント7の放射性気体廃棄物処理装置(図示せず)に接続される。
【0022】
ヒドラジンを貯蔵する貯蔵タンク20は移送配管23によって注入薬品タンク24に接続される。移送ポンプ22が移送配管23に設けられる。原子炉建屋53の側壁を挟むように配置された隔離弁36,37が注入配管23に設置される。貯蔵タンク20、移送ポンプ22及び隔離弁37は原子炉建屋53の外に配置される。液面計21が貯蔵タンク20に設けられる。所定濃度(例えば、60%)のヒドラジンを含むヒドラジン水溶液は、製造工場よりタンクローリー車51で運ばれてタンクローリー車51から貯蔵タンク20内に移送される。本実施例では、還元性窒素化合物として、ヒドラジン以外にヒドロキシアミン、カ−ボヒドラジド及びアンモニアのいずれかを使用することも可能である。
【0023】
貯蔵タンク20内のヒドラジン水溶液は、移送ポンプ22の駆動によって、移送配管23を通り、注入薬品タンク24に供給される。このとき、隔離弁36,37は開いている。液面計25が注入薬品タンク24に設置されている。ポンプ制御器32は、液面計25で計測された液面計測値を入力し、この液面計測値が第1液面設定値よりも低いときに移送ポンプ22を駆動する。このため、注入薬品タンク24内のヒドラジン水溶液の液面は第1液面設定値に保持され、後述するヒドラジン水溶液のRPV8内への連続注入が可能になる。
【0024】
RPV8内にヒドラジン水溶液を注入するときには、オペレータが操作盤(図示せず)から注入指令を注入制御器31に入力する。注入制御器31は、注入指令に基づいて隔離弁30及び開閉弁58を開き、注入ポンプ26を駆動する。開閉弁39、弁43,44は閉じられている。また循環ポンプ41、注入ポンプ47は停止している。注入薬品タンク24内のヒドラジン水溶液は、注入配管27を通って浄化系配管19内に注入される。アキュームレーター28は、注入ポンプ26の駆動によって注入配管27内に生じるヒドラジン水溶液流の脈動を抑制する。浄化系ポンプ9が駆動されているため、浄化系配管19内には冷却水が流れている。浄化系配管19内に注入されたヒドラジン水溶液は、その冷却水と共に、給水配管6を経てRPV8内に供給される。注入されたヒドラジン水溶液に含まれたヒドラジンは、RPV8内で冷却水に含まれる酸素及び過酸化水素と反応し、冷却水中の酸素及び過酸化水素の各濃度を低減させる。このため、冷却水と接触する構造材の腐食電位(ECP)が減少する。ヒドラジンはその反応により水と窒素を生成する。ヒドラジン注入は、原子炉1の運転中に、水素発生装置18からの水素注入と共に行われる。ヒドラジン注入及び水素注入を併用することにより、ECPを効果的に低減することができる。
【0025】
逆止弁29は、ヒドラジンの注入時に浄化系配管19内を流れる冷却水に含まれた放射性物質が注入薬品タンク24内に流入することを防止する。さらに、水素及びヒドラジンの連続した注入期間において、水素注入装置54の異常により給水配管6への水素の注入が停止した場合には、水素注入装置54(例えば、水素発生装置18)の停止信号が、注入制御器31に入力される。注入制御器31は、その停止信号に基づいて注入ポンプ26の停止制御指令及び隔離弁30の閉制御指令を出力し、注入ポンプ26及び隔離弁30を制御する。注入ポンプ26は停止制御指令により運転が停止され、隔離弁30は閉制御指令により全閉状態になる。したがって、還元性窒素化合物注入設備34から浄化系配管19へのヒドラジンの注入が停止される。
【0026】
一つの運転サイクルでのBWRプラント7の運転が停止された後、BWRプラント7の定期検査が行われる。この定期検査において、還元性窒素化合物注入設備34の保守点検が行われる。還元性窒素化合物注入設備34の保守点検時には、注入制御器31は操作盤から入力される保守点検指令に基づいて隔離弁30,36,37及び開閉弁58を閉じる。隔離弁30を閉じることによって、その保守点検時においても原子炉浄化系10によってRPV8内の冷却水の浄化を行うことができる。還元性窒素化合物注入設備34の保守点検時には、ポンプ制御器32による液面計25の第1液面計測値に基づいた移送ポンプ22の制御は停止される。
【0027】
還元性窒素化合物注入設備34では、注入薬品タンク24、注入ポンプ26、注入配管27、逆止弁29及び隔離弁30等を対象に保守点検が行われる。このため、還元性窒素化合物注入設備34内のヒドラジン水溶液を抜き取る必要がある。この水溶液の抜き取りは、隔離弁30を閉じ、止め弁39を開いて、洗浄水配管40から注入配管27内に洗浄水を供給することにより行われる。注入配管27内に残留しているヒドラジン水溶液は、洗浄水の供給により、注入配管27及び回収配管38を経て注入薬品タンク24に回収される。注入薬品タンク24内に回収された洗浄水及びヒドラジン水溶液は廃液である。注入薬品タンク24内の液面は、洗浄水によって押し出されたヒドラジン水溶液の回収によって上昇する。液面計25からの液面計測値は注入制御器31に入力される。注入制御器31は、その液面計測値が前述の第1液面設定値よりも高い第2液面設定値になったとき、隔離弁30を開いて止め弁39を閉じる。第2液面設定値は、ヒドラジン濃度の高いヒドラジン水溶液の注入薬品タンク24への回収が開始されてから注入配管27内の洗浄水に含まれるヒドラジン濃度が十分低い値になるまでの期間において注入薬品タンク24内に回収されるヒドラジン水溶液及び洗浄水の容量によって定められる。隔離弁30が開いて開閉弁39が閉じられた後において、注入配管27内に供給される洗浄水は、浄化系配管19内に排出され、RPV8内に導かれる。所定時間の間、洗浄水が注入配管27内に供給された後、隔離弁30が閉じられる。この操作により、注入配管27内のヒドラジン濃度は、ほとんど0になる。
【0028】
注入薬品タンク24内に存在する廃液は、弁43,44を開いて循環ポンプ41を駆動することによって触媒塔45に供給される。さらに、配管35に設けられた弁(図示せず)を開いて注入ポンプ47を駆動することによって、酸化剤タンク46内の過酸化水素が配管35を通って循環配管42内に注入される。過酸化水素の注入量は、廃液に含まれるヒドラジンの化学等量以上、望ましくは1.5倍程度を注入する。触媒塔45には、過酸化水素を含む廃液が供給される。弁43,44の開操作及び循環ポンプ41及び注入ポンプ47の駆動は、前述の液面計測値が第2液面設定値になったとき、注入制御器31からの制御指令によって行われる。廃液に含まれたヒドラジンは、触媒塔45内で過酸化水素の存在下で活性炭触媒の作用により短時間に分解される。ヒドラジン及び過酸化水素のそれぞれの分解によって発生する窒素及び炭酸ガス等は、排気配管50により前述の放射性気体廃棄物処理装置に導かれる。ヒドラジンが分解して廃液中のヒドラジン濃度が設定濃度以下に低下したことは、例えば、薬品注入タンク24内の廃液をサンプリングして分析することによって確認できる。ヒドラジン濃度が設定濃度以下になった廃液は、弁44を閉じて弁48を開き、排水配管49を通して放射性液体廃棄物処理装置に導かれる。
【0029】
なお、触媒塔45への廃液の供給速度が2(1/h)以下の空間速度(SV)で、過酸化水素の注入量が廃液に含まれるヒドラジンの化学等量の1.5倍以上である場合には、弁44を閉じて弁48を開いた状態で注入薬品タンク24内の廃液を触媒塔45に供給しながら、触媒塔45から排出された、ヒドラジン濃度が設定濃度以下に低下した廃液を、直接、放射性液体廃棄物処理装置に供給することが可能である。
【0030】
還元性窒素化合物注入設備34を備えた本実施例のBWRプラントは、還元性窒素化合物注入設備34が酸化剤タンク46及び触媒塔45を有しているので、定期検査時において注入薬品タンク24及び注入配管27内に残留するヒドラジン水溶液に含まれるヒドラジンを前述したようにより短時間に分解することができる。このため、本実施例は、注入薬品タンク24及び注入配管27内にヒドラジン水溶液が残留していないので、隔離弁30を閉じた状態で注入薬品タンク24、注入ポンプ26、注入配管27、逆止弁29及び循環ポンプ41等の還元窒素化合物注入設備34の各構成部品の保守点検を容易に行うことができる。
【0031】
本実施例は、還元性窒素化合物注入設備34内のヒドラジンを早く分解することができるので、還元窒素化合物注入設備34の保守点検をより短時間で行うことができる。したがって、還元性窒素化合物注入設備34とは異なる、BWRプラント7に設けられた他の系統(例えば、残留熱除去系及び燃料貯蔵プールのプール水浄化系)の保守点検の自由度を増大させることができる。
【0032】
この理由を以下に説明する。隔離弁30も保守点検を行う必要がある。隔離弁30の保守点検は、浄化系ポンプ9を停止し、分解した隔離弁30から冷却水が流出しないように浄化系配管19内の冷却水をドレン配管(図示せず)に排出した後に行われる。この冷却水の排出は、浄化系配管19の入口部及び出口部にそれぞれ設けられた弁を閉じて行われる。
【0033】
一方、プラント停止期間中は、燃料の交換のため、原炉炉圧力容器8の蓋の開放と原子炉圧力容器上部に冷却水を満たし、燃料貯蔵プールとつながる。一方、プラント停止期間中は、燃料16移動時の炉水の透明度を確保するため常時炉水は浄化する必要がある。停止中の炉水の浄化は、炉水が燃料貯蔵プールとつながることから、原子炉浄化系を停止する場合は、プール浄化系で炉水を浄化する。なお、プール浄化系は、原子炉圧力容器上部にある燃料貯蔵プール水を浄化する系統であるため、原子炉圧力容器内の炉水を直接浄化することは難しく、燃料の残留熱を除去するために設けられている残留熱除去系を同時に運転することで、炉水の攪拌と浄化効果を高めている。このため、残留熱除去系及びプール水浄化系の保守点検は原子炉浄化系10の運転が停止されている期間に行うことができないので、原子炉浄化系10の運転停止時期の設定の自由度が大きい程、定期検査期間内でプール浄化系および残留熱除去系の保守点検を行う時期を設定する自由度が大きくなる。隔離弁30の保守点検を行う時期、すなわち、原子炉浄化系10の運転を停止する時期は、還元性窒素化合物注入設備34の保守点検期間の長さに影響される。したがって、還元性窒素化合物注入設備34の保守点検期間が短い程、隔離弁30の保守点検を行う時期、すなわち、原子炉浄化系10の運転停止時期の設定の自由度がより大きなる。これは、残留熱除去系及びプール水浄化系の保守点検の時期を設定する自由度を大きくする。本実施例は、還元窒素化合物注入設備34を備えたBWRプラント7の定期検査における各系統の保守点検のスケジュールの設定が著しく容易になる。
【0034】
隔離弁30の保守点検が終了した後、隔離弁30を閉じた状態で浄化系ポンプ9が駆動され、原子炉浄化系10の運転が再開される。RPV8内の冷却水の浄化がろ過脱塩器12によって再開される。
【実施例2】
【0035】
本発明の他の実施例である実施例2のBWRプラントを、図4を用いて説明する。本実施例のBWRプラント7Aは、実施例1のBWRプラント7の還元性窒素化合物注入設備34を還元性窒素化合物注入設備34Aに替えた構成を有する。この還元性窒素化合物注入設備34Aの構成を、還元性窒素化合物注入設備34と異なる部分を中心に説明する。
【0036】
還元性窒素化合物注入設備34Aは、本質的には還元性窒素化合物注入設備34に薬品回収タンク55を備えた構成を有する。本実施例では、薬品回収タンク55は注入薬品タンク24とは別に設けられている。なお、実施例1は、注入薬品タンク24が薬品回収タンク55を兼用している。還元性窒素化合物注入設備34Aは開閉弁58を注入配管27に設けていない。本実施例では、実施例1で述べた、弁43、循環ポンプ41、触媒塔45及び弁44がこの順に設置された循環配管42の両端部が、薬品回収タンク55にそれぞれ接続されている。触媒塔45は実施例1と同様な活性炭触媒を充填している。過酸化水素を充填している酸化剤タンク46が、注入ポンプ47が設置される配管35によって循環配管42に接続される。排水配管49も、実施例1と同様に循環配管42に接続される。排気配管50は薬品回収タンク55に接続される。開閉弁57を設けた回収配管56が、注入配管27と薬品回収タンク55を接続している。回収配管56は、逆止弁29と隔離弁30の間で注入配管27に接続されている。洗浄水配管40は注入薬品タンク24にも、直接、接続されている。
【0037】
還元性窒素化合物注入設備34Aの保守点検を、実施例1で用いられる還元性窒素化合物注入設備34の保守点検と異なる部分について、説明する。注入制御器31は、操作盤から入力される保守点検指令に基づいて、隔離弁30,36,37及び開閉弁58を閉じ、開閉弁57を開いて一旦停止した注入ポンプ26を起動する。注入薬品タンク24及び注入配管27内に残留しているヒドラジン水溶液が、回収配管56を通って薬品回収タンク55内に回収される。注入制御器31は、注入薬品タンク24内のヒドラジン水溶液がなくなる所定時間が経過した後、注入ポンプ26の駆動を停止する。その後、洗浄水配管40より注入薬品タンク24及び注入配管27内に洗浄水が供給され、注入薬品タンク24及び注入配管27の内面が洗浄水によって洗浄される。供給された洗浄水は、注入配管27及び回収配管56を通って薬品回収タンク55に回収される。
【0038】
薬品回収タンク55に設けられた液面計(図示せず)の液面計測値が第3液面設定値になったとき、注入制御器31は、弁43,44を開き、循環ポンプ41及び注入ポンプ47をそれぞれ駆動させる。その後、薬品回収タンク55内の廃液は触媒塔45に供給され、その廃液に含まれるヒドラジンは実施例1と同様に過酸化水素の存在下で活性炭触媒によって分解される。
【0039】
本実施例は、実施例1で生じる効果を得ることができる。さらに、本実施例は、還元性窒素化合物注入設備34Aにおいて廃液を回収する薬品回収タンク55を注入薬品タンク24とは別に備えているので、ヒドラジン分解処理の終了を待たずに注入薬品タンク24、注入ポンプ26、注入配管27、逆止弁29及び循環ポンプ41等の還元窒素化合物注入設備34の各構成部品の保守点検を開始できることから、BWRプラント7Aに設けられた他の系統(例えば、残留熱除去系及び燃料貯蔵プールのプール水浄化系)の保守点検の自由度をより増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図2に示す還元性窒素化合物注入設備の注入薬品タンク付近の詳細構成図である。
【図2】本発明の好適な一実施例である実施例1の沸騰水型原子力発電プラントの構成図である。
【図3】ヒドラジンに過酸化水素を添加した廃液を触媒により分解したときの、空間速度に対する触媒塔出口でのヒドラジン濃度の変化を示す特性図である。
【図4】本発明の他の実施例である実施例2の沸騰水型原子力発電プラントの構成図である。
【符号の説明】
【0041】
1…原子炉、2…タ−ビン、4…給水ポンプ、5…給水加熱器、6…給水系配管、7,7A…沸騰水型原子力発電プラント、8…原子炉圧力容器、9…浄化系ポンプ、10…原子炉浄化系、13…復水器、14…主蒸気配管、16…炉心、17…注入量調節弁、18…水素発生装置、19…浄化系配管、24…還元性窒素化合物タンク、26…注入ポンプ、27…注入配管、29…逆止弁、30…隔離弁、31…注入制御器、32…ポンプ制御器、34,34A…還元性窒素化合物注入設備、38,56…回収配管、41…循環ポンプ、42…循環配管、45…触媒塔、46…酸化剤タンク、53…原子炉建屋、54…水素注入装置、55…薬品回収タンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心を内蔵する原子炉と、前記原子炉に還元性窒素化合物を注入する還元性窒素化合物注入設備とを備え、
前記還元性窒素化合物注入設備が、前記還元性窒素化合物を充填する第1容器と、前記第1容器内の前記還元性窒素化合物を分解する還元性窒素化合物分解装置と、前記還元性窒素化合物分解装置に酸化剤を供給する酸化剤供給装置とを備えていることを特徴とする原子力プラント。
【請求項2】
前記還元性窒素化合物注入設備が、さらに、前記第1容器に接続され、前記第1容器内の前記還元性窒素化合物を前記原子炉に注入する際に、前記還元性窒素化合物が流れる注入配管と、前記注入配管内から回収する前記還元性窒素化合物を充填する第2容器と、弁が設けられ前記注入配管内の前記還元性窒素化合物を前記第2容器に導く回収配管とを備えている請求項1に記載の原子力プラント。
【請求項3】
前記第2容器に両端部がそれぞれ接続された循環配管が設けられ、前記還元性窒素化合物分解装置が前記循環配管に設けられ、前記循環配管にポンプが設けられ、前記酸化剤供給装置が前記循環配管に接続されている請求項2に記載の原子力プラント。
【請求項4】
隔離弁が、前記注入配管と前記回収配管の接続部よりも下流で前記注入配管に設けられている請求項2または請求項3に記載の原子力プラント。
【請求項5】
前記第1容器が前記第2容器を兼ねている請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の原子力プラント。
【請求項6】
前記還元性窒素化合物分解装置が前記還元性窒素化合物を分解する触媒を有している請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の原子力プラント。
【請求項7】
前記原子炉内の冷却材を浄化する原子炉浄化系を備え、前記注入配管が前記原子炉浄化系に接続されている請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載の原子力プラント。
【請求項8】
原子炉に還元性窒素化合物を注入する還元性窒素化合物注入設備であって、
前記還元性窒素化合物を充填する第1容器と、前記第1容器内の前記還元性窒素化合物を分解する還元性窒素化合物分解装置と、前記還元性窒素化合物分解装置に酸化剤を供給する酸化剤供給装置とを備えていることを特徴とする還元性窒素化合物注入設備。
【請求項9】
さらに、前記第1容器に接続され、前記第1容器内の前記還元性窒素化合物を前記原子炉に注入する際に、前記還元性窒素化合物が流れる注入配管と、前記注入配管内から回収する前記還元性窒素化合物を充填する第2容器と、弁が設けられ前記注入配管内の前記還元性窒素化合物を前記第2容器に導く回収配管とを備えている請求項8に記載の還元性窒素化合物注入設備。
【請求項10】
前記第2容器に両端部がそれぞれ接続された循環配管が設けられ、前記還元性窒素化合物分解装置が前記循環配管に設けられ、前記循環配管にポンプが設けられ、前記酸化剤供給装置が前記循環配管に接続されている請求項9に記載の還元性窒素化合物注入設備。
【請求項11】
前記第1容器が前記第2容器を兼ねている請求項9または請求項10に記載の還元性窒素化合物注入設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−157861(P2008−157861A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349412(P2006−349412)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)