説明

原子吸光分析装置および原子吸光分析法

【課題】原子吸光分析装置において、アトマイザーと光源との同期を簡易な構成によって実現すること。
【解決手段】原子吸光分析装置は、アトマイザー1と、光源2と、分析装置3と、電源装置4とによって構成されている。電源装置4は、図3に示すように、交流電源5と、半波整流回路6とによって構成されている。交流電源5は、商用の60HzのAC電源を昇圧した電源であり、アトマイザー1と交流電源5は直接接続され、光源2は半波整流回路6を介して交流電源5に接続されている。アトマイザー1には、交流電源5からの60Hzの交流電圧がそのまま印加される。半波整流回路6は、たとえばダイオードなどを用いた回路であり、60Hzの交流電圧を半波整流して出力する。そして、その半波整流された電圧が光源2に印加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧プラズマを用いたアトマイザーと目的元素の共鳴線スペクトルを発光する光源とで構成された原子吸光分析装置、および原子吸光分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子吸光分析では、試料を原子化する装置(アトマイザー)として、黒鉛炉などが広く用いられている。また、特許文献1のように、大気圧プラズマを用いたアトマイザーも知られており、吸光分析に用いることができると記載されている。特許文献1のアトマイザーにおける大気圧プラズマの発生には、商用のAC電源の電圧を昇圧して電極に印加することが記載されている。そのため、大気圧プラズマは離散的に発生することになる。
【0003】
また、原子吸光分析では、目的元素の共鳴線スペクトルを発光する光源として、ホローカソードランプを用いる。ホローカソードランプの電源は直流電源である。ここで、大気圧プラズマが離散的に発生しているため光源を常時点灯させておくことはできず、光源は、大気圧プラズマが発生している期間内に離散的に点灯させる必要がある。もし大気圧プラズマが発生せずに光源が点灯している状態があると、光源に吸収が伴わない状態が存在し、あたかも吸収率が悪い、すなわち目的元素の濃度が低い状態とみなされてしまい、測定結果に誤りが生じてしまう。そこで、ホローカソードランプの電源は、直流電源をパルス化してアトマイザーの電源に同期させることが必要となる。
【0004】
このように、大気圧プラズマを用いたアトマイザーを有する原子吸光分析装置では、アトマイザー用の交流電源と、光源用の直流電源とをそれぞれ用意して用いていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−241293
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の大気圧プラズマを用いた原子吸光分析装置では、上記のようにアトマイザー用の交流電源と光源用の直流電源とをそれぞれ用意する必要があり、さらに光源用の直流電源はパルス化してアトマイザー用の交流電源と同期を取る必要があり、同期用の回路装置が必要となる。このような電源装置を実現しようとすると、電源装置の容積、重量が大きくなってしまう。そのため、原子吸光分析装置の小型化ができず、携帯型を実現することができなかった。
【0007】
そこで本発明の目的は、大気圧プラズマを用いたアトマイザーを有する原子吸光分析装置の小型化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、大気圧プラズマを生成し、試料に前記大気圧プラズマを照射し、試料を原子化するアトマイザーと、試料中の目的元素の輝線スペクトルを発光し、原子化された試料に照射する光源と、原子化された試料を透過した光源の光を受光して分析する分析装置と、アトマイザーおよび光源を駆動する電源装置と、を有し、電源装置は、交流電源と、交流電源からの出力の一部を半波整流する半波整流回路と、を有し、アトマイザーには交流電源からの出力を供給し、光源には、半波整流回路からの出力を供給する、ことを特徴とする原子吸光分析装置である。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、分析装置は、原子化された試料を透過した光源の光と大気圧プラズマの発光とを合わせた光の第1の発光強度と、大気圧プラズマの発光のみである第2の発光強度とを測定し、第1の発光強度から第2の発光強度を差し引くことで、原子化された試料を透過した光源の光の発光強度を算出する、ことを特徴とする原子吸光分析装置である。
【0010】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、アトマイザーは、棒状の第1電極と、管状であって、その管内に、第1電極の軸回りにおいて管内壁から第1電極が離間した状態となるように第1電極の先端部を保持し、管内壁と第1電極との隙間に、第1電極の先端部側の軸方向に放電ガスが流される絶縁管と、第1電極の先端部から一定距離隔てて配置された第2電極と、試料を保持する凹部を有し、その凹部底面に第2電極が露出した絶縁材からなる試料保持部と、を有する、ことを特徴とする原子吸光分析装置である。
【0011】
放電ガスには、Ar、He、窒素、酸素、空気などを用いることができる。
【0012】
第1電極および第2電極の材料は、SUS、銅、タングステンなどを用いることができる。ただし、第2電極には、分析の目標となる元素を含む材料を用いないようにするか、もしくは分析の目標となる元素を含まない材料によって被膜、めっき等を施す必要がある。第2電極が原子化されて分析に影響を与えてしまうのを避けるためである。
【0013】
第4の発明は、交流電圧の印加によって大気圧プラズマを生成し、試料に大気圧プラズマを照射して、試料を原子化し、交流電圧を半波整流した電圧を印加することによって、試料中の目的元素の輝線スペクトルの発光を生成し、その発光を原子化された試料に照射して透過させ、大気圧プラズマの発光と、原子化された試料を透過した光とを合わせた光の第1の発光強度と、大気圧プラズマの発光のみである第2の発光強度とを測定し、第1の発光強度から第2の発光強度を差し引くことで、原子化された試料を透過した光源の光の発光強度を算出する、ことを特徴とする原子吸光分析法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の原子吸光分析装置では、簡易な電源構成によってアトマイザーと光源との同期をとることができ、電源装置の小型化、軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1の原子吸光分析装置の構成を示した図。
【図2】アトマイザー1の構成を示した図。
【図3】アトマイザー1および光源2と電源装置4との接続構成を示した図。
【図4】印加電圧波形と発光波形との対応を示した図。
【図5】発光強度の時間依存性を示した図。
【図6】発光強度の時間依存性を示した図。
【図7】吸収率と濃度との関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
図1は、実施例1の原子吸光分析装置の構成を示した図である。原子吸光分析装置は、アトマイザー1と、光源2と、分析装置3と、電源装置4と、によって構成されている。
【0018】
アトマイザー1は、電源装置4による電圧印加によって大気圧プラズマを発生し、大気圧プラズマを試料に照射して原子化する。
【0019】
アトマイザー1のより詳細な構成について図2を参照に説明する。図2に示すように、棒状電極10(本発明の第1電極)と、試料電極11(本発明の第2電極)とを有している。棒状電極10は、直径1.2mmのCu製の棒状であり、試料電極11は、外径2m、内径1mmのステンレス製の管状である。
【0020】
棒状電極10には、Cu以外に、ステンレス、モリブデン、タングステンなどを用いることができる。また、試料電極11には、ステンレス以外に、Cu、モリブデン、タングステンなどを用いることができる。ただし、試料電極11自体が原子化してしまい、分析に影響を与えてしまうことを考慮して、試料電極11には目的元素を含まない材料を用いるか、目的元素を含まない材料で被膜、めっき等を施す必要がある。
【0021】
棒状電極10の先端部は、セラミックス管12の管内に軸方向を一致させて納められている。セラミックス管12は、試料電極11の先端側が一段階狭くなっていて、棒状電極10は、この狭くなった管内まで伸びている。棒状電極10とセラミックス管12の内壁との間には隙間が設けられている。この棒状電極10の軸回りの空間がArガスの流路となる。
【0022】
セラミックス管12は、絶縁管13と連結している。絶縁管13は軸方向に垂直な方向に分岐13aを有しており、セラミックス管12の管内から絶縁管13の管内に伸びる棒状電極10は、曲げられて絶縁管13の分岐13aの管内に挿入され、外部に露出している。絶縁管13には、フッ素樹脂などの絶縁材を用いることができる。
【0023】
さらに、セラミックス管12の試料電極11先端部側には、外径がセラミックス管12の内径にほぼ一致した短いセラミックス管14がはめ込まれている。
【0024】
絶縁管13は放電用ガスであるArが封入されたガスボンベ(図示しない)に、減圧・流量制御器などを介して接続されている。ガスボンベから供給されたArガスは、絶縁管13の管内からセラミックス管12の管内へと軸方向に供給され、棒状電極10とセラミックス管12の内壁との間を棒状電極10先端部側の軸方向に流れてセラミックス管14の先端からArガスが排出される。
【0025】
放電ガスには、Ar以外にもHe、Ne、N、空気、などを用いることができる。
【0026】
試料電極11は、内径2mm、外径3mmのセラミックス管15によって覆われている。セラミックス管15の先端は外径が拡張されており、すり鉢状の凹部16を有している。凹部16底面には、試料電極11が露出している。この凹部16によって、原子化する試料を保持する。また、試料電極11を管状とすることで、その管内を通してセラミックス管15先端の凹部16に液体の試料を供給することが可能となっている。また、セラミックス管15はフッ素樹脂材17によってさらに覆われている。なお、凹部に一定量の試料を保持する場合には、試料電極11を管状とする必要はなく、棒状などとしてもよい。
【0027】
棒状電極10、試料電極11は電源装置4に接続されており、60Hzの交流電圧が印加される。Arガスを棒状電極10とセラミックス管12の内壁との間に棒状電極10先端部側の軸方向に流しながら、棒状電極10、試料電極11に電圧を印加することで、棒状電極10の先端部に大気圧プラズマが生じ、その大気圧プラズマが試料電極11に伸びていく。そして、大気圧プラズマが凹部16に保持された試料に照射され、試料が原子化される。原子化された試料の一部は、大気圧プラズマに混入して発光する。
【0028】
光源2は、目的元素の共鳴線スペクトルを発光するものであり、たとえばホローカソードランプである。この光源2の光は、アトマイザー1によって原子化された試料に照射される。
【0029】
分析装置3は、原子化された試料を透過した光源2の光を受光して分光し、発光強度を測定する。
【0030】
電源装置4は、図3に示すように、交流電源5と、半波整流回路6とによって構成されている。交流電源5は、商用の60HzのAC電源を昇圧した電源であり、アトマイザー1と交流電源5は直接接続され、光源2は半波整流回路6を介して交流電源5に接続されている。アトマイザー1には、交流電源5からの60Hzの交流電圧がそのまま印加される。半波整流回路6は、たとえばダイオードなどを用いた回路であり、60Hzの交流電圧を半波整流して出力する。そして、その半波整流された電圧が光源2に印加される。
【0031】
図4は、印加電圧波形と発光波形との対応を示した図である。図4(a)は、光源2に印加される電圧波形と光源の発光波形、図4(b)は、アトマイザー1に印加される電圧波形と大気圧プラズマの発光波形、図4(c)は、原子化された試料による吸収を受けた後の光源の発光波形を示している。図4(b)のように、アトマイザー1は60Hzの交流電圧によって駆動されるため、60Hzで周期的に離散して大気圧プラズマが発光し、試料が原子化される。また、図4(a)のように、光源2は60Hzの交流電圧が半波整流されて印加されるため、大気圧プラズマの発光周期の半分の周期で同期して光源2が点灯する。
【0032】
ここで、光源2と大気圧プラズマの双方が同期して発光している状態で発光強度を測定すると、図4(b)の状態と図4(c)の状態の双方を合わせた光の発光強度KAが得られる。よって、大気圧プラズマのみが発光している状態(図4(b)の状態)で発光強度Aを測定し、発光強度KAから発光強度Aを差し引くことで、図4(c)の状態の発光強度、すなわち、原子化された試料による吸収を受けた後の光源の発光強度KA−Aを算出することができる。そして、図4(a)の状態での発光強度(光源2の発光強度)と発光強度KA−Aを比較することで、吸収率がわかり、試料中の目的元素の濃度を測定することができる。
【0033】
以上のように、実施例1の原子吸光分析装置では、大気圧プラズマの発光と光源2の発光との同期を簡易な構成の電源装置4によって実現させることができ、電源装置4の小型化、軽量化を図ることができる。その結果、原子吸光分析装置自体も小型化、軽量化することができる。
【0034】
図5は、試料を10ppmのCuを含む水として、実施例1の原子吸光分析装置を用いてCuの共鳴線スペクトル(波長324nm)の発光強度の時間依存性を測定した結果を示すグラフである。図5(a)は、光源2と大気圧プラズマの双方が発光している状態での発光強度KA、図5(b)は、大気圧プラズマのみの発光における発光強度A、図5(c)は、発光強度KAから発光強度Aを差し引いた発光強度KA−Aを示している。なお、発光強度KAおよび発光強度Aは、3秒間毎の各発光強度を積分した値をプロットしている。図5(c)は、原子化されたCuの吸収を受けた光源2の光の強度を示している。
【0035】
図5(c)から、発光強度が最も弱くなる時間、すなわちCuによる吸収ピークが発光開始からおおよそ3秒後にみられることがわかる。また、おおよそ15秒が経過すると、発光強度に変化がほぼ一定となっており、これは試料がすべて原子化されて飛散し、なくなってしまったためである。つまり、発光強度が一定となっている区間は、光源2の光強度そのものを示している。したがって、吸収のピーク時の吸収量を15秒経過後の発光強度(光源2の光強度)で割ることによって吸収率が求まり、図5(c)の場合は吸収率100%となる。
【0036】
図6は、試料を0.1ppmのCuを含む水として、実施例1の原子吸光分析装置を用いてCuの共鳴線スペクトルの発光強度の時間依存性を測定した結果を示すグラフである。図6(a)は、光源2と大気圧プラズマの双方が発光している状態での発光強度KA、図6(b)は、大気圧プラズマのみの発光における発光強度A、図6(c)は、発光強度KAから発光強度Aを差し引いた発光強度KA−Aを示している。なお、発光強度KAおよび発光強度Aは、1秒間毎の各発光強度を積分した値をプロットしている。図6(c)は、原子化されたCuの吸収を受けた光源2の光の強度を示している。
【0037】
図6(c)から、上記図5(c)の場合と同様の手法によって吸収率を求めると、約70%となる。図7は、吸収率と試料中のCuの濃度との関係を理論的に算出した結果を示したグラフである。横軸は吸収率であり、縦軸は1cm3 当たりの原子個数である。常温、1気圧の水において1ppmのCuを含む場合、1cm3 当たりのCu原子個数は7.5×1012である。Cu濃度0.1ppmで吸収率70%という図6の結果は、図7のグラフにおおよそ一致していることがわかる。また、図7から、0.001〜1ppmの範囲でCu濃度の測定が可能であることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の原子吸光分析装置は、汚水などのモニタリングに利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1:アトマイザー
2:光源
3:分析装置
4:電源装置
5:交流電源
6:半波整流回路
10:棒状電極
11:試料電極
12、14、15:セラミックス管
13:絶縁管
16:凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧プラズマを生成し、試料に前記大気圧プラズマを照射し、試料を原子化するアトマイザーと、
前記試料中の目的元素の輝線スペクトルを発光し、原子化された試料に照射する光源と、
原子化された試料を透過した前記光源の光を受光して分析する分析装置と、
前記アトマイザーおよび前記光源を駆動する電源装置と、
を有し、
前記電源装置は、交流電源と、前記交流電源からの出力の一部を半波整流する半波整流回路と、を有し、前記アトマイザーには前記交流電源からの出力を供給し、前記光源には、半波整流回路からの出力を供給する、
ことを特徴とする原子吸光分析装置。
【請求項2】
前記分析装置は、
原子化された試料を透過した前記光源の光と前記大気圧プラズマの発光とを合わせた光の第1の発光強度と、前記大気圧プラズマの発光のみである第2の発光強度とを測定し、
第1の発光強度から第2の発光強度を差し引くことで、原子化された試料を透過した前記光源の光の発光強度を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の原子吸光分析装置。
【請求項3】
前記アトマイザーは、
棒状の第1電極と、
管状であって、その管内に、前記第1電極の軸回りにおいて管内壁から前記第1電極が離間した状態となるように前記第1電極の先端部を保持し、管内壁と前記第1電極との隙間に、前記第1電極の先端部側の軸方向に放電ガスが流される絶縁管と、
前記第1電極の先端部から一定距離隔てて配置された第2電極と、
試料を保持する凹部を有し、その凹部底面に前記第2電極が露出した絶縁材からなる試料保持部と、
を有する、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の原子吸光分析装置。
【請求項4】
交流電圧の印加によって大気圧プラズマを生成し、試料に前記大気圧プラズマを照射して、試料を原子化し、
前記交流電圧を半波整流した電圧を印加することによって、前記試料中の目的元素の輝線スペクトルの発光を生成し、その発光を原子化された試料に照射して透過させ、
前記大気圧プラズマの発光と、原子化された試料を透過した光とを合わせた光の第1の発光強度と、前記大気圧プラズマの発光のみである第2の発光強度とを測定し、
第1の発光強度から第2の発光強度を差し引くことで、原子化された試料を透過した前記光源の光の発光強度を算出する、
ことを特徴とする原子吸光分析法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−13544(P2012−13544A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150402(P2010−150402)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(304036008)NUエコ・エンジニアリング株式会社 (59)
【Fターム(参考)】