説明

原子炉内構造物の振動計測装置及びその振動計測方法

【課題】圧力容器の外表面に固定される超音波センサが、過酷な環境下で長期間機能し、狭い空間に対し取り付け容易である、原子炉内構造物の振動計測技術を提供することを目的とする。
【解決手段】振動計測装置10は、原子炉の圧力容器60表面に密着される面に開口部21を有するホルダ20と、ホルダ20に収容され超音波を送信又は受信する振動子30と、ホルダ20内に充填されたカプラント11と、振動子30を開口部21の方向に付勢する付勢部材12とを備え、カプラント11は、常温で固体であり、圧力容器60からの伝熱で融解する金属材料であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波による原子炉内構造物の振動計測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
運転中の原子炉には、炉心における水蒸気発生やポンプ等による冷却材循環等に起因する流体振動が作用している。この流体振動により、炉内構造物には、振動疲労が継続的に蓄積することになる。このために、原子炉運転中における炉内構造物の振動状態を、リアルタイムで計測することが求められている。
【0003】
ただし、振動計測器を直接的に炉内へ持ち込む事は技術的に困難であり、炉外から間接的に計測する手段が求められている。
容器内部に存在する物体の振動を、容器表面から間接的に計測する手段としては、超音波センサを用いる方法が一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−229355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1には、超音波センサを用いて炉内構造物の振動を測定することが記載されているが、どのようにして超音波センサを原子炉の圧力容器に固定させるかについては記載されていない。
【0006】
一般に、原子炉の圧力容器の外表面は、高温かつ高放射線にさらされ、超音波センサはこのような過酷な環境の下に長期間おかれることになる。また、原子炉圧力容器と原子炉格納容器との間は非常に狭い空間となっている。このため超音波センサを圧力容器の外表面に設置する場合は、この狭い空間において容易に設置でき、さらに他の作業を妨げることなく設置できることが望まれる。
【0007】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、圧力容器の外表面に固定される超音波センサが、過酷な環境下で長期間機能し、狭い空間においても取り付け作業が容易である、原子炉内構造物の振動計測技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る原子炉内構造物の振動計測装置は、原子炉の圧力容器表面に密着される面に開口部を有するホルダと、前記ホルダに収容され超音波を送信又は受信する振動子と、前記ホルダ内に充填されたカプラントと、前記振動子を前記開口部の方向に付勢する付勢部材とを備え、前記カプラントは、常温で固体であり、前記圧力容器からの伝熱で融解する金属材料であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、圧力容器の外表面に固定される超音波センサが、過酷な環境下で長期間機能し、狭い空間に対し取り付け容易である、原子炉内構造物の振動計測技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】超音波による振動計測の原理説明図であって、(A)は超音波の送信用及び受信用のセンサが別体で構成される例を示し、(B)は単体で構成される例を示している。
【図2】本発明に係る原子炉内構造物の振動計測装置の第1実施形態を示す概略断面図であり、(A)は圧力容器の外表面に接着された直後の状態を示し、(B)は振動計測が可能な状態を示している。
【図3】第1実施形態に係る振動計測装置において、(A)は縦断面図を示し、(B)は底面図を示し、(C)は(B)におけるC−C線矢視断面図を示している。
【図4】第2実施形態に係る振動計測装置において、(A)は縦断面図を示し、(B)は底面図を示し、(C)は(A)の直交断面図を示している。
【図5】第1実施形態及び第2実施形態に係る振動計測装置の組み立て方法の説明図。
【図6】第3実施形態に係る振動計測装置の縦断面図。
【図7】第4実施形態に係る振動計測装置の縦断面図。
【図8】実施形態に係る振動計測装置が適用される原子炉の縦断面図。
【図9】図8に示される原子炉の部分拡大断面図。
【図10】実施形態に係る振動計測装置の圧力容器への運搬装置であって、(A)は正面図を示し、(B)は側面図を示している。
【図11】実施形態に係る振動計測装置の把持手段であって、(A)は正面図を示し、(B)は断面図を示している。
【図12】(A)〜(D)は、実施形態に係る振動計測装置を圧力容器へ設置する際における把持手段の動作説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を、添付図面を参照して説明する。
図1に基づいて超音波による振動計測の原理について説明する。図1(A)は超音波の送信子10A及び受信子10Bが別体で構成される振動計測装置10を示している。
送信子10Aから伝播した超音波Uは、圧力容器60内で振動する炉内構造物61に反射され、受信子10Bの方向に伝播する。
そして、炉内構造物61の振動により超音波Uの伝播距離が変化するために、これに対応する伝播時間Tの変化を検出し、炉内構造物61の振動を計測する。
【0012】
また、図1(B)に示すように、超音波Uの進行方向に対し、炉内構造物61の反射面が直交するように位置していれば、反射した超音波Uは、来た経路を反対方向に進むことになる。この場合、送信子と受信子を兼ねる単体の振動計測装置10を用いることができる。
【0013】
振動計測装置10は、図2に示すように、原子炉の圧力容器60の表面に密着される面に開口部21を有するホルダ20と、このホルダ20に収容され超音波を送信又は受信する振動子30と、ホルダ20内に充填されたカプラント11と、振動子30を開口部21の方向に付勢する付勢部材12と、から構成されている。
そして、カプラントは、常温で固体であり、前記圧力容器からの伝熱で融解する金属材料である。また、ホルダ20は、ステンレス製の金属容器であり、その開口部21において圧力容器60の外表面に接着剤13により接着されている。
【0014】
このような、接着剤13としては、例えばSiO2、Al23、ZrO2、MgO、ZrSiO4等の耐熱セラミックを主成分とするもので、接着時にペースト状を有し、乾燥又は熱処理により硬化するものが挙げられる。
この接着剤13は、ホルダ20の圧力容器60に対する固定機能の他に、液状のカプラント11が、ホルダ20の外部に漏洩することを防止するシール機能も果たす。
【0015】
なお、ホルダ20を圧力容器60の表面に接着させる手段としては、その他にロウ付けや溶接などの金属接合を適用することも可能である。さらに、メタルOリングや電磁石による吸着力を併用してシール効果を向上させることもできる。
【0016】
振動子30は、ニオブ酸リチウム(LN)、タンタル酸リチウム(LT)など高温かつ高放射線環境に適用可能な圧電素子から構成されている。この圧電素子は、電圧信号を超音波Uに変換する機能と、その逆作用である超音波Uを電圧信号に変換する機能とを有している。
【0017】
カプラント11は、図2(A)に示されるように、振動計測装置10が圧力容器60の表面に接着された当初において、固体状態を呈している。そして、振動子30は、圧力容器60の表面から浮いた状態になっている。
そして、図2(B)に示されるように、原子炉が稼動して圧力容器60の表面温度が上昇すると、カプラント11は溶融して液状を呈する。すると、付勢部材12の付勢力により、振動子30は、圧力容器60の表面に当接し、振動計測が可能な状態になる。
【0018】
カプラント11は、第1実施形態において常温で固体であり、ホルダ20が圧力容器60に接着された後、加熱されて液状になる。
そして、カプラント11は、100℃以下の比較的低温で液状化し、300℃程度の高温かつ中性子照射といった過酷な環境下でも液体状態で安定し、蒸発や熱硬化などの物性変化を起こさない金属が選択される。
そのような低融点合金としては、例えば、スズ、ビズマス、鉛を主成分とするニュートン合金やローズ合金などが考えられる。
【0019】
超音波U(図1)は、固体−気体間、または液体−気体間は通過しにくく、界面で反射する性質をもっている。そのため、振動子30と圧力容器60の間に隙間があると、超音波Uが圧力容器60にほとんど伝達されない。このために、振動子30と圧力容器60との間をカプラント11で埋めることにより、超音波Uを圧力容器60に伝達させることができる。
【0020】
また、このような液状のカプラント11を用いることにより、大きな力で振動子30を圧力容器60に押し付ける必要がなく、コイルバネ等で実現される付勢部材12で充分となる。このために、圧力容器60に対する振動計測装置10の取り付けは、接着剤13を用いた簡易的な固定方法を適用することができる。
【0021】
図3(A)(B)(C)はそれぞれ、振動計測装置10の縦断面図、底断面図、C−C線矢視断面図であり、振動計測装置10の構成を図2よりも詳細に示している。
ホルダ20は、図3(A)に示すように、開口部21周縁の少なくとも一部に、ホルダ20と圧力容器60を接着する接着剤13(図2)を保持する溝22が設けられ、さらに、図3(B)又は図3(C)に示すように、その側壁に把持片15が設けられている。
【0022】
振動計測装置10を設置位置まで移動する際、この把持片15を治具等で把持して移動させる。また、図示を省略するが、ホルダ20の天地方向上側に穴をあけることで、ホルダ20とカプラント11(図2)との熱膨張係数の差に起因する内部圧力の上昇を防止することができる。
【0023】
また、開口部21に連通する内部空間Vには、振動子30が保持されている。そして、振動子30の上端面34からは、超音波U(図1)を送信させるための電気信号及び/又は、受信した超音波Uを変換した電気信号を伝送するケーブル14が接続されている。
このケーブル14は、内部空間Vを介して、ホルダ20の外側に導かれている。
【0024】
付勢部材12は、その両端が、内部空間Vの天井面25及び振動子30の上端面34に当接し、振動子30に対し、ホルダ20の開口部21に向かう付勢力を与えている。なお、この付勢部材12は、コイルバネを例示しているが、これに限定されるものではなく、例えば板バネやゴムを用いてもよい。また、エアシリンダ等の遠隔操作により付勢力を生じるものを用いてもよい。
【0025】
振動子30は、胴体部31と、この胴体部31よりも縮径された先端部32と、からなり、この胴体部31及び先端部32の境界には段差面33が形成されている。
胴体部31は、内部空間Vの側周面24を摺接して振動子30の移動を案内している。
先端部32は、ホルダ20の開口部21から突出して、カプラント11(図2)を挟んで圧力容器60の表面に当接する。
段差面33は、ホルダ20の係止面23に当接して、振動子30がホルダ20から抜け落ちないようにしている。
【0026】
本実施形態の振動計測装置は、常温で固体であり、プラント運転時の原子炉圧力容器の熱によって溶融する低融点金属をカプラントに用いることで、取り扱いや原子炉圧力容器への取り付けを容易に行なうことができる。
【0027】
(第2実施形態)
図4を参照して、振動計測装置10の第2実施形態について説明する。
図4(A)は振動計測装置10の縦断面図を示し、図4(B)はその底面図を示し、図4(C)は図4(A)の直交断面図を示している。なお、図4において図3と同一又は相当する部分は、同一符号で示し、重複する説明は省略する。
【0028】
第2実施形態の振動計測装置10は、図4(B)に示されるように、その底面形状が馬蹄形を成している。そして、溝22も馬蹄形を成し、開口部21の存在する面と異なる面に接着剤13(図2)の導入口22a,22bを有している。
このように、振動計測装置10が構成されることにより、ホルダ20を圧力容器60の表面に押し付けて、接着剤13を一方の導入口22aから導入すれば、開口部21の接着が容易に達成される。そして、後記する運搬装置70や把持手段80(図10参照)を利用して、振動計測装置10を圧力容器60に取り付ける遠隔操作が可能になる。
【0029】
なお、溝22が馬蹄形であるものとして説明したが、溝22は振動計測装置10の開口面を圧力容器60に接着できるように設けてあればよく、コの字を倒した形や、V字形であってもよい。また、必ずしも振動計測装置10の上方に開口している必要もなく、例えば溝22の上端付近で水平方向に開放させて、そこから接着剤13を導入する構成としてもよい。
【0030】
図5を参照して第1実施形態及び第2実施形態に係る振動計測装置10の組み立て方法について説明する。
組立装置は、加熱炉40と、振動計測装置10の載置台41と、この載置台41に立設する支柱42と、支柱42に沿って上下方向に移動する水平棒43と、この水平棒43の先に設けられ振動子30の先端部32に当接して付勢部材12の反発力に抗ってこの振動子30を押し下げる押え部44と、カプラント11を液状のまま貯蔵するタンク45と、開閉弁46を開放することによりこのカプラント11をホルダ20の内部に注入する注入管47と、雰囲気温度をカプラント11の溶融温度以上に加熱する電気ヒータ48と、から構成されている。
【0031】
このように構成される組立装置により、振動子30をホルダ20の内部に押し込んだ状態で、例えば200℃程度に加熱し、溶融させたカプラント11をホルダ20の開口面一杯まで流し込む。その後、温度を常温まで戻し、カプラント11を固体化させる。
このように、常温でカプラント11は固体化しているので、ホルダ20を横にしてもこぼれることがなく、圧力容器60(図2)への取り付け作業が容易である。
また、振動子30の先端部32が、固体化したカプラント11に埋没しているので、取り付け時に付勢部材12の反発力が圧力容器60(図2(A))に作用せず、振動計測装置10の取り付け作業が容易になる。
【0032】
(第3実施形態)
図6を参照して、振動計測装置10の第3実施形態について説明する。
なお、図6において図3と同一又は相当する部分は、同一符号で示し、重複する説明は省略する。
第3実施形態の振動計測装置10におけるホルダ20は、カプラント11(図2)を加熱して固体から液状にするヒータ16を有している。
【0033】
これにより、原子炉運転開始時のような低温状態であっても、常温で固体のカプラント11をヒータ16により加熱溶融して液状にして、振動計測を実行することができる。さらに、接着剤13(図2)の硬化速度を加速させて作業時間を短縮することができる。
なお、図示されるヒータ16は、ホルダ20に埋設される構成を示しているが、その外周や内部に設けることもできる。
【0034】
(第4実施形態)
図7を参照して、振動計測装置10の第4実施形態について説明する。
なお、図7において図3と同一又は相当する部分は、同一符号で示し、重複する説明は省略する。
第4実施形態の振動計測装置10で使用されるカプラント11は、常温で液体の金属材料であり、ホルダ20を圧力容器60の表面に接着させてから充填される。
【0035】
このように、常温(30℃以下)で液状を示す低融点合金としては、例えば、半田にビズマス、カドミウム、インジウム、ガリウムを添加した合金や、インジウムとガリウムとの合金などが挙げられる。
【0036】
ホルダ20には、その外側に液状カプラント11を内部空間Vに供給する供給口26と、この内部空間Vから液状カプラント11を排出させる排出口28とが、設けられている。そして、ホルダ20には、この供給口26及び内部空間Vを連通させ、さらにこの内部空間V及び排出口28を連通させる連通路27が設けられている。
【0037】
そして、ホルダ20が圧力容器60の表面に接着された後に、供給口26に供給された液状カプラント11が、内部空間Vを充填する。また、振動計測装置10を圧力容器60の表面から取り外す場合は、供給口26からガスパージを行って、内部空間Vに充填されているカプラント11を排出口28から排出させる。
【0038】
このように常温で液状のカプラント11を用いることにより、原子炉運転開始時の低温状態から液体カプラントとして機能するので、運転開始時から終了時点までの全期間における連続的な振動計測が可能となる。
【0039】
(第5実施形態)
図8〜図12を用いて、振動計測装置10を取り付け位置まで移動させ、圧力容器60表面に取り付ける構成に関して説明する。
図8は、沸騰水型原子炉の構成の概要を示す。圧力容器60には炉水Wが注入され、61等に示す種々の炉内構造物が収容されている。また、圧力容器60には主蒸気ノズル51、給水ノズル52、再循環システム62と接続された再循環水出入口ノズル53等の、冷却材が流通する種々のノズルが設けられている。
【0040】
さらに、圧力容器60の周囲には、図9に示すように、保温材64と、遮蔽体65とが配置されている。
一般的に圧力容器60は、周囲を保温材64や遮蔽体65で覆われており、作業者が圧力容器60の外表面に直接接近することが困難である。さらに、圧力容器60の外表面と保温材64との隙間はわずか20cm程度となっている。
この圧力容器60と保温材64との間に、振動計測装置10の運搬装置70が設置されている。この運搬装置70は、図9に示す例では給水ノズル52近傍の空間から支持梁72を介して圧力容器60付近に設置されている。繰り出されるワイヤ75の先端には、把持手段80に把持された振動計測装置10が懸垂されている。
【0041】
このために、運搬装置70及び把持手段80による振動計測装置10の取り付け作業について、以下説明する。
図10は、振動計測装置10の圧力容器60への運搬装置70を、図9よりも詳細に示している。
運搬装置70は、給水ノズル52の下側に圧力容器60の周方向に沿って施設されるレール71と、この給水ノズル52に略平行に施設され先端部分においてレール71を支持する支持梁72と、レール71に沿って移動する走行台車73と、この走行台車73と一体に構成されワイヤ75及びケーブル76を繰り出したり巻き戻したりするウインチ74と、このワイヤ75及びケーブル76の先端に設けられる連結子77と、から構成されている。
そして、この連結子77には、振動計測装置10を把持する把持手段80が連結されている。
【0042】
図11は、把持手段80の詳細な構成を示す正面図、断面図である。なお、図11においては第2実施形態の振動計測装置10を把持した状態を示している。
把持手段80は、図11に示すように、筐体81の外側に設けられた電磁石82(計4つ)と、圧力容器60の表面を回転駆動して把持手段80を周方向に移動させるタイヤ83(計4つ)と、回動自在の球体が先端に埋設されたボールキャスタ84(計4つ)と、アーム85の先端に設けられ振動計測装置10の把持片15を着脱するクランプ86と、基端が支持されるアーム85を圧力容器60から離れる方向に変位させるリニア駆動部87と、振動計測装置10の溝22(図4(B))の導入口22aに接着剤を注入する注入部88と、から構成されている。
【0043】
ボールキャスタ84は、エアシリンダ等によって圧力容器60の表面に向かって突っ張り可能である。ボールキャスタ84を圧力容器60に突っ張った状態では、タイヤ83が圧力容器60から浮いて、把持手段80を任意方向に滑走させることが可能な構成となっている。
【0044】
なお把持手段80に設けられる各駆動部の動力及びリミットスイッチ等の信号は、コネクタ89及びケーブル76(図10)を介し走行台車73に接続され、さらに図示略の制御装置に接続されて、遠隔操作を可能にしている。
【0045】
次に、図9から図12を参照し、運搬装置70及び把持手段80の動作を説明する。
図10(A)に示すように圧力容器60の周方向を移動する走行台車73から繰り出されるワイヤ75の先端の連結子77に把持手段80を取り付け、この把持手段80に振動計測装置10を把持させる。
【0046】
そして、走行台車73をレール71に沿って移動させるか又はワイヤ75の繰出量を調整するかして振動計測装置10を圧力容器60の表面上の所望の位置に到達させる。
把持手段80を圧力60付近で移動させる際は、電磁石82の磁力により、把持手段80を圧力容器60表面に吸着させる。これにより、把持手段80を圧力容器60上に吸着させた状態で移動可能なため、取り扱いが容易となる。したがって、電磁石82による吸着力は、走行台車73に吊り下げられた把持手段80を圧力容器60に吸着させる程度で十分であり、電磁石82のみで圧力容器60表面に固定するほどの吸着力は不要である。
【0047】
また、ワイヤ75の繰り出し量を調整するときは、図12(A)に示すように、ボールキャスタ84を圧力容器60の表面に突っ張らせて、把持手段80をワイヤ方向に滑らせる。そして、走行台車73をレール71に沿って移動させるときは、図12(B)に示すように、ボールキャスタ84を引っ込めて、タイヤ83を接地させて回転駆動させる。
【0048】
そして、所望の位置において、図12(C)に示すように、アーム85を変位させて、振動計測装置10を圧力容器60に接触させる。さらに、注入部88から接着剤を注入して振動計測装置10を表面に接着させる。そして、接着剤が硬化するまでこの状態を維持する。
【0049】
さらに、第4実施形態で説明したように、常温で液状のカプラント11を用いる場合は、振動計測装置10の固定後に、図示略のカプラント注入部から液状カプラントを、その内部に流し込み充填させる。
次に、図12(D)に示すように、把持手段80は、振動計測装置10の把持を解除して、周方向又は上下方向に移動して退避する。
【0050】
なお、振動計測装置10の取付け位置は事前探索によりあらかじめ確定しておくことが望ましい。その取付け位置になされたマーキングの位置を、把持手段80に内蔵する図示略のカメラなどを用いて確認しながら位置合わせを実行し、振動計測装置10の取り付けが実行される。
【0051】
本実施形態では、給水ノズル52近傍に運搬装置70を設置して取り付け作業を行なう例を示したが、遮蔽体65には給水ノズル52の他のノズル近傍等、作業用に開閉可能な窓や作業用出入口が設けられている場所が複数あり、振動計測装置10を設置する箇所に応じ、最適な作業箇所で取り付け作業を行なうことが望ましい。
【0052】
一方で、給水ノズル52近傍等では、ノズル溶接部検査等の他の作業が行なわれるため、これらの他の作業と干渉することが考えられる。
これに対して、ワイヤ75に対する把持手段80の取り付け及び取り外しを、圧力容器60の炉底部にあるドライウェルD(図9)で行なうことで、ノズル近傍での作業量を削減することが可能である。具体的には、ノズル近傍では運搬装置70の設置作業を行ない、把持手段80をドライウェルDまで下降させる。そして、ドライウェルDで振動計測装置10を取り付け、把持手段80を上昇させて設置位置への取り付けを行う。
【0053】
なお、図示を省略しているが、ドライウェルDには作業員が出入りするための作業用出入口が設置されており、作業員が進入して作業を行なうことが可能である。
これにより、圧力容器60に接続される配管(例えば、主蒸気ノズル51等)の近傍での作業時間を極力軽減することが可能となり、ノズル溶接部の健全性検査(ISI検査)などの定期検査作業との干渉がなくなる。
【0054】
本発明は前記した実施形態に限定されるものでなく、共通する技術思想の範囲内において、適宜変形して実施することができる。
例えば、カプラントが液状を呈している状態で、超音波の送受信を行うことを前提として説明を行ったが、カプラントが液状を呈した状態で振動子と圧力容器と間に隙間が無いように充填し、カプラントが凝固した際に隙間が生じなければ、そのまま超音波の送受信が可能である。したがって、原子炉運転中にカプラントが固体になった状態でも超音波の送受信をすることができる。
【0055】
また、超音波振動子は、自身が振動することにより発熱するものである。したがって、超音波振動子を計測用の振動モードと発熱用の振動モードを有するものとし、発熱用の振動モードで溶融するようなカプラントを選定すれば、ヒータ16と同様の効果が得られる。なお、このようなカプラントを採用する場合は、カプラント自身が圧力容器への接着剤を兼ねることとしてもよい。
【0056】
また、例えば電磁石82に代えて永久磁石を用いてもよい。
また、カプラントが常温で固体であり、原子炉運転中の圧力容器からの伝熱で液体になるものとして説明したが、例えば常温で液体である材料であっても、あらかじめ振動計測装置を冷却しておいて固体としておき、融解する前に取り付け作業を行なうこととすれば、カプラントとして適用することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
10…振動計測装置、11…カプラント、12…付勢部材、13…接着剤、14…ケーブル、15…把持片、16…ヒータ、20…ホルダ、21…開口部、22…溝、22a,22b…導入口、23…係止面、24…側周面、25…天井面、26…供給口、27…連通路、28…排出口、30…振動子、31…胴体部、32…先端部、33…段差面、34…上端面、40…加熱炉、41…載置台、42…支柱、43…水平棒、44…押え部、45…タンク、46…開閉弁、47…注入管、48…電気ヒータ、50…沸騰水型原子炉、51…主蒸気ノズル、52…給水ノズル、53…再循環水出入口ノズル、60…圧力容器、61…炉内構造物、62…再循環システム、64…保温材、65…遮蔽体、70…運搬装置、71…レール、72…支持梁、73…走行台車、74…ウインチ、75…ワイヤ、76…ケーブル、77…連結子、80…把持手段、81…筐体、82…電磁石、83…タイヤ、84…ボールキャスタ、85…アーム、86…クランプ、87…リニア駆動部、88…注入部、89…コネクタ、U…超音波、V…内部空間、W…炉水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉の圧力容器表面に密着される面に開口部を有するホルダと、
前記ホルダに収容され超音波を送信又は受信する振動子と、
前記ホルダ内に充填されたカプラントと、
前記振動子を前記開口部の方向に付勢する付勢部材と
を備え、
前記カプラントは、常温で固体であり、前記圧力容器からの伝熱で融解する金属材料であることを特徴とする原子炉内構造物の振動計測装置。
【請求項2】
前記開口部周縁の少なくとも一部に、前記ホルダと前記圧力容器を接着する接着剤を保持する溝が設けられていることを特徴とする請求項1記載の原子炉内構造物の振動計測装置。
【請求項3】
前記溝は前記開口部の存在する面と異なる面に前記接着剤の導入口を有することを特徴とする請求項2記載の原子炉内構造物の振動計測装置。
【請求項4】
前記ホルダは、前記カプラントを加熱するヒータを有することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の原子炉内構造物の振動計測装置。
【請求項5】
原子炉の圧力容器表面に密着される面に開口部を有するホルダと、
前記ホルダに収容され超音波を送信又は受信する振動子と、
前記ホルダ内に充填されたカプラントと、
前記振動子を前記開口部の方向に付勢する付勢部材と、
を備え、
前記カプラントは常温で液体の金属材料であり、前記ホルダは前記振動子の周囲に前記カプラントを注入する供給口を有することを特徴とする原子炉内構造物の振動計測装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の炉内構造物の振動計測装置を前記圧力容器の所定位置に取り付ける振動計測装置の取り付け方法であって、
前記圧力容器を周方向に移動可能な走行台車から繰り出されるワイヤに前記把持手段を取り付けるステップと、
前記炉内構造物の振動計測装置を前記把持手段に把持させるステップと、
前記走行台車を前記周方向に沿って移動させるか又は前記ワイヤの繰出量を調整するかして前記振動計測装置を所定の設置位置に到達させるステップと、
前記ホルダの前記開口部を前記圧力容器の表面に接着するステップと、
前記把持手段による前記振動計測装置の把持を解除するステップと、を含むことを特徴とする原子炉内構造物の振動計測方法。
【請求項7】
請求項6に記載の原子炉内構造物の振動計測方法において、
前記原子炉内構造物の振動計測装置を前記把持手段に把持させるステップは、
前記把持手段を前記設置位置の上方から前記原子炉圧力容器炉底部のドライウェルまで吊り下すステップと、
前記ドライウェルで前記振動計測装置を前記把持手段に把持させるステップと、を有することを特徴とする原子炉内構造物の振動計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−8001(P2012−8001A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144158(P2010−144158)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】