説明

原子炉建屋解体システム

【課題】放射性物質が外部に飛散するのを防止し、かつ、作業員の被曝量を低減して原子炉建屋を迅速に解体できる原子炉建屋解体システムを提供すること。
【解決手段】原子炉建屋解体システム1は、核燃料を反応させる原子炉10が収容された原子炉建屋11を解体する。この原子炉建屋解体システム1は、原子炉建屋11を覆う防護建屋20と、この防護建屋20の内部に設けられたアクセス構台30と、防護建屋20の天井面に設けられた天井走行式の解体用機械26および搬送クレーン27と、を備え、アクセス構台30には、放射線を遮蔽する遮蔽壁32で囲まれた放射線遮蔽エリア31が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉建屋解体システムに関する。詳しくは、原子炉が収容された原子炉建屋を解体する原子炉建屋解体システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、日本国内では、軽水炉と呼ばれる形式の原子炉を用いて原子力発電を行っている。具体的には、原子炉は、鉄筋コンクリ−ト構造の原子炉建屋に収納されており、核燃料が収納された鋼製の圧力容器と、この圧力容器を格納する鋼製の格納容器と、この格納容器を囲む厚い鉄筋コンクリート製の主隔壁と、で構成される。
この原子炉では、圧力容器内で核燃料を核分裂反応させて、核分裂反応に伴う熱エネルギーを取り出している。
【0003】
ところで、原子炉の老朽化や自然災害などの事情により、以上の原子炉を廃炉にして解体する場合がある。この場合、例えば、原子炉建屋の最地下階の下を深く掘り下げて、この掘り下げた空間に原子炉を埋設する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−116876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この場合、作業員が解体重機に搭乗し、この解体重機で原子炉建屋を解体することになるが、核分裂反応で放出された中性子により原子炉建屋の鉄筋コンクリート躯体が放射化されていたり、放射性物質が原子炉建屋の躯体に付着していたりして、原子炉建屋内の放射線量が高くなることがある。
【0006】
よって、作業員の被曝量を抑制するため、作業員が原子炉建屋の近傍で長時間作業することができず、原子炉建屋を迅速に解体することが困難になる、という問題があった。また、原子炉建屋の解体時に、粉塵とともに放射性物質が外部に飛散するおそれがあった。
【0007】
本発明は、放射性物質が外部に飛散するのを防止し、かつ、作業員の被曝量を低減して原子炉建屋を迅速に解体できる原子炉建屋解体システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の原子炉建屋解体システムは、核燃料を反応させる原子炉が収容された原子炉建屋を解体するための原子炉建屋解体システムであって、前記原子炉建屋を覆う防護建屋と、当該防護建屋の内部に設けられたアクセス構台と、前記防護建屋の天井面に設けられた天井走行式の解体用機械および搬送クレーンと、を備え、前記アクセス構台には、放射線を遮蔽する遮蔽部材で囲まれた放射線遮蔽エリアが設けられることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、アクセス構台の放射線遮蔽エリアから解体状況を適宜確認しながら、床走行式の解体用機械、天井走行式の解体用機械、天井走行式の搬送クレーンなどを遠隔操作して、原子炉建屋を解体する。
【0010】
ここで、原子炉建屋を防護建屋で覆ったので、放射性物質が外部に飛散するのを防止できる。また、アクセス構台に遮蔽部材で囲まれた放射線遮蔽エリアを設け、この放射線遮蔽エリア内から解体状況を確認するようにしたので、作業員の被曝量を低減して、原子炉建屋を迅速に解体できる。
【0011】
請求項2に記載の原子炉建屋解体システムは、前記防護建屋は、複数のモジュールが上下に積層されて構成されることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、防護建屋を複数のモジュールに分割しておき、大型クレーンによりこれらモジュールを揚重して積層して、防護建屋を構築する。よって、防護建屋を構築する際、作業員が原子炉建屋に長時間接近する必要がなく、作業員の被曝量をさらに低減できる。
【0013】
請求項3に記載の原子炉建屋解体システムは、前記防護建屋の内部を負圧に維持する換気設備を備えることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、防護建屋の内部を負圧に維持したので、作業員や搬出車両が防護建屋に出入りする際、放射性物質が外部に飛散するのを防止でき、周辺環境の安全性を向上できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アクセス構台の放射線遮蔽エリアから解体状況を適宜確認しながら、床走行式の解体用機械、天井走行式の解体用機械、天井走行式の搬送クレーンなどを遠隔操作して、原子炉建屋を解体する。ここで、原子炉建屋を防護建屋で覆ったので、放射性物質が外部に飛散するのを防止できる。また、アクセス構台に遮蔽部材で囲まれた放射線遮蔽エリアを設け、この放射線遮蔽エリア内から解体状況を確認するようにしたので、作業員の被曝量を低減して、原子炉建屋を迅速に解体できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る原子炉建屋解体システムの縦断面図である。
【図2】前記実施形態に係る原子炉建屋解体システムのA−A断面図である。
【図3】前記実施形態に係る原子炉建屋解体システムを構築する手順を説明するための図(その1)である。
【図4】前記実施形態に係る原子炉建屋解体システムを構築する手順を説明するための図(その2)である。
【図5】前記実施形態に係る原子炉建屋解体システムを構築する手順を説明するための図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る原子炉建屋解体システム1の縦断面図である。図2は、原子炉建屋解体システム1のA−A断面図である。
【0018】
原子炉建屋解体システム1は、核燃料を反応させる原子炉10が収容された鉄筋コンクリ−ト構造の原子炉建屋11を解体する。
原子炉10は、核燃料が収納された鋼製の圧力容器と、この圧力容器を格納する鋼製の格納容器と、この格納容器を囲む厚い鉄筋コンクリート製の主隔壁と、を備え、圧力容器内で核燃料を核分裂反応させて、核分裂反応に伴う熱エネルギーを取り出すものである。
【0019】
原子炉建屋解体システム1は、原子炉建屋11を覆う防護建屋20と、この防護建屋20の内側に設けられたアクセス構台30と、防護建屋20の外側に設けられた出入管理設備40および換気設備としての換気・機械設備50と、を備える。
【0020】
防護建屋20は、高い気密性を有しており、原子炉建屋11の周囲を地盤改良して形成された基礎21と、基礎21の上に設置されて原子炉建屋11の側面を覆う壁部22と、この壁部22の上に設けられ原子炉建屋11の上面を覆う屋根部23と、を備える。
【0021】
防護建屋20の壁部22および屋根部23は、3つのモジュール20A、20B、20Cが積層されて構成される。
具体的には、モジュール20A、20B、20Cは、矩形枠状のベースモジュール20A、このベースモジュール20Aの上に積層された矩形枠状の中間モジュール20B、中間モジュール20Bの上に積層された平板状のトップモジュール20Cからなる。
【0022】
ベースモジュール20Aは、防護建屋20の壁部22を上下に三分割したうちの最下段に相当する。
中間モジュール20Bは、防護建屋20の壁部22を上下に三分割したうちの中間部分に相当する。
トップモジュール20Cは、防護建屋20の壁部22を上下に三分割したうちの最上段と屋根部23とからなる。
これらモジュール20A、20B、20C同士の接合部分の隙間は、図示しないエアタイトチューブで密閉されている。
【0023】
防護建屋20の内部には、大型の解体材を解体するための解体エリア24が設けられている。この解体エリア24の外周には、放射線を遮蔽する遮蔽部材としての遮蔽壁25が設けられており、この遮蔽壁25により、解体材からの放射線が外部に漏れないようになっている。
【0024】
屋根部23の内部には、天井走行式の解体用機械26と、天井走行式の搬送クレーン27と、が設けられる。
【0025】
解体用機械26は、原子炉建屋11を解体するためのものであり、遠隔操作可能な構造である。解体用機械26は、防護建屋20の屋根部23に架設されて略水平に延びる走行レール261と、この走行レール261に沿って走行可能で遠隔操作可能な機械本体262と、を備える。この機械本体262の先端には、種々のアタッチメントが装着可能となっている。
解体用機械26は、アタッチメントを適宜装着することにより、コンクリートの圧砕や切断、金属の切断、解体材の把持などの種々の作業が可能となっている。
【0026】
搬送クレーン27は、原子炉建屋11を解体した解体材を解体フロア内で水平方向に運搬したり、解体材を解体フロアから地上レベルまで荷下ろししたりするためのものであり、遠隔操作可能な構造である。搬送クレーン27は、それぞれ、防護建屋20の屋根部23に架設されて略水平に延びる走行レール271と、この走行レール271に沿って走行可能なクレーン本体272と、を備える。
【0027】
アクセス構台30は、トラス部材で構築され、原子炉建屋11の側面に沿って上方に延びている。このアクセス構台30の屋上には、放射線を遮蔽する遮蔽部材としての遮蔽壁32で囲まれた放射線遮蔽エリア31が設けられている。
この放射線遮蔽エリア31内では、遮蔽壁32により、放射線の被曝量が低減するようになっている。
【0028】
アクセス構台30の内部には、エレベータや階段などの昇降設備が設けられており、この昇降設備により、地上レベルから放射線遮蔽エリア31にアクセス可能となっている。
【0029】
出入管理設備40は、作業員や搬出車両43が防護建屋20内に出入りするための設備である。すなわち、出入管理設備40には、作業員が通行可能な作業員通路41と、搬出車両43が通行可能な車両通路42が設けられる。出入管理設備40には除染設備が設けられており、この除染設備を用いて作業員や搬出車両43を除染して、防護建屋20内の放射性物質が作業員や搬出車両43付着して外部に流出しないようにする。
【0030】
換気・機械設備50は、フィルタを通して防護建屋20内の空気を換気しつつ、防護建屋20内を負圧に維持する。これにより、防護建屋20内の放射性物質が外部に流出するのを防止する。
また、この換気・機械設備50は、緊急時に防護建屋20の内部空間を外部に開放する緊急ベント機能を有している。
【0031】
以上の原子炉建屋解体システム1の構築方法は、以下のようになる。
まず、原子炉建屋11の周囲に基礎21を形成し、また、アクセス構台30を構築する。
次に、原子炉建屋11の近傍で、ベースモジュール20A、中間モジュール20B、トップモジュール20Cを地上で組み立てる。トップモジュール20Cには、天井走行式の解体用機械26および天井走行式の搬送クレーン27を組み込んでおく。
【0032】
次に、図3〜図5に示すように、超大型クレーン60により、吊り治具61を用いて、基礎21の上にベースモジュール20A、中間モジュール20B、トップモジュール20Cの順に揚重して積層し、防護建屋20を構築する。このとき、吊り治具61のモジュール20A〜20Cの開放や、モジュール20A〜20C同士の接続は、全て遠隔操作で行う。
次に、出入管理設備40および換気・機械設備50を設置し、図示しない床走行式の解体用機械を原子炉建屋11の屋上に配置する。
【0033】
以上の原子炉建屋解体システム1では、作業員は、アクセス構台30の放射線遮蔽エリア31から解体状況を適宜確認しながら、天井走行式の解体用機械26および天井走行式の搬送クレーン27のほか、図示しない床走行式の解体用機械などを遠隔操作し、原子炉建屋11を上から解体する。
このとき、大型の解体材は、搬送クレーン27で解体エリア24に荷下ろしし、この解体エリア24にて細かく解体する。
そして、解体材を放射性廃棄物容器に収納して密封して、この放射性廃棄物容器を搬出車両43で搬出する。
【0034】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)原子炉建屋11を防護建屋20で覆ったので、放射性物質が外部に飛散するのを防止できる。また、アクセス構台30に遮蔽壁32で囲まれた放射線遮蔽エリア31を設け、この放射線遮蔽エリア31内から解体状況を確認するようにしたので、作業員の被曝量を低減して、原子炉建屋11を迅速に解体できる。
【0035】
(2)防護建屋20を3つのモジュール20A〜20Cに分割しておき、超大型クレーン60によりこれらモジュール20A〜20Cを揚重して積層して、防護建屋20を構築する。よって、防護建屋20を構築する際、作業員が原子炉建屋11に長時間接近する必要がなく、作業員の被曝量をさらに低減できる。
【0036】
(3)防護建屋20の内部を負圧に維持したので、作業員や搬出車両43が防護建屋20に出入りする際、放射性物質が外部に飛散するのを防止でき、周辺環境の安全性を向上できる。
【0037】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0038】
1…原子炉建屋解体システム
10…原子炉
11…原子炉建屋
20…防護建屋
20A…ベースモジュール
20B…中間モジュール
20C…トップモジュール
21…基礎
22…壁部
23…屋根部
24…解体エリア
25…遮蔽壁
26…解体用機械
27…搬送クレーン
30…アクセス構台
31…放射線遮蔽エリア
32…遮蔽壁(遮蔽部材)
40…出入管理設備
41…作業員通路
42…車両通路
43…搬出車両
50…換気・機械設備(換気設備)
60…超大型クレーン
61…吊り治具
261…走行レール
262…機械本体
271…走行レール
272…クレーン本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核燃料を反応させる原子炉が収容された原子炉建屋を解体するための原子炉建屋解体システムであって、
前記原子炉建屋を覆う防護建屋と、当該防護建屋の内部に設けられたアクセス構台と、前記防護建屋の天井面に設けられた天井走行式の解体用機械および搬送クレーンと、を備え、
前記アクセス構台には、放射線を遮蔽する遮蔽部材で囲まれた放射線遮蔽エリアが設けられることを特徴とする原子炉建屋解体システム。
【請求項2】
前記防護建屋は、複数のモジュールが上下に積層されて構成されることを特徴とする請求項1に記載の原子炉建屋解体システム。
【請求項3】
前記防護建屋の内部を負圧に維持する換気設備を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の原子炉建屋解体システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−29334(P2013−29334A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163822(P2011−163822)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】