説明

原子炉炉心及びその構成方法

【課題】運転中に使用する制御棒の挿入期間に応じて、コントロールセルに使用する燃料を有効に選定し、運転効率を高め、高濃縮度化及び運転期間の長期化に対応した原子炉の炉心及びその構成方法を提供する。
【解決手段】原子炉炉心の構成方法は、コントロールセルの構成燃料を3サイクル目の候補1燃料、4サイクル目の候補2燃料及びその他の燃料である候補3燃料に分類する第1のステップと、前記候補1燃料のみでコントロールセルを構成可能か否かを判断する第2のステップと、前記第2のステップで不可能と判断された場合に制御棒挿入期間が一定期間以上か否かを判断する第3のステップと、前記第3のステップで一定期間以上と判断された場合に前記候補1燃料でコントロールセルを構成する第4のステップと、前記第3のステップで一定期間以下と判断された場合に前記候補2燃料でコントロールセルを構成する第5のステップと、から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉炉心及びその構成方法に関し、特に、燃料の高濃縮度化及び運転期間の長期化に対応できる沸騰水型原子炉炉心及びその構成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、原子炉は毎サイクル終了後に炉心内に装荷されている全燃料の約1/4の燃料を入替え、次のサイクルの運転を行うが、新しく装荷される燃料内には中性子を吸収する物質であるガドリニアが添加されている。この目的は運転期間初期から中期にかけての炉心内の反応度を抑えるためで、もしこのガドリニアが無い場合、運転期間の初期ではウランの量が多いため反応度が高くなり、制御棒による反応度のコントロールが難しくなる。このガドリニアを添加することで、運転期間初期の反応度を抑え、少数本の制御棒での運転が可能となっている。燃料内に添加されたこのガドリニアは、運転が進むに従い減損していくため、一般的に炉心内の反応度は運転期間中期でピークを迎え、その後はウランの減損と共に低下していく傾向を示す。図3は中性子吸収物質が新燃料内に含まれている場合と含まれていない場合の、運転期間に対する反応度変化を示す図である。
【0003】
炉心内のこの反応度は、余剰反応度として定義されており、定格状態の炉心の熱出力、及び流量の状態において、全ての制御棒が引抜かれた状態での運転期間に対する反応度変化を示しているが、原子炉の運転に際してはこの余剰反応度を主に制御棒と炉心流量で制御している。ここで制御棒挿入割合の調整は反応度変化に対して段階的に実施され、ある制御棒挿入割合で制御棒が挿入されている間は、炉心流量調整により反応度を制御し運転している。図4に運転時における制御棒パターンと炉心流量の変化の例を示す。制御棒パターンは1/4炉心で表示され、黒四角は制御棒挿入位置を表し、運転期間中、制御棒パターンは(イ)〜(ヘ)に変化する。
【0004】
沸騰水型原子炉の炉心は、4体の燃料が正方形に配置されたセルという単位で構成されており、この4体の燃料の中心に制御棒が存在する。一般に運転中に挿入された制御棒の周りの燃料では、特に制御棒側の燃料棒内のウランの燃焼が遅れること、また中性子スペクトルが硬化されるために燃料棒内にプルトニウムが蓄積されることから、運転期間後半で余剰反応度が低下していく段階で、それまで炉心内に挿入されていた制御棒を引抜いた場合、上記の燃料棒で出力が上昇する傾向がある。これを制御棒履歴効果と呼んでいる。
【0005】
このため、運転期間後半で制御棒を引抜く操作を実施する場合、出力が上昇した場合でも燃料棒としての健全性を確保するために、一旦原子炉の出力を低くしており、これにより運転効率の低下を招くことになる。
【0006】
そのため、制御棒を引抜いた場合の出力上昇量を抑えるためには、なるべく燃焼の進んだ燃料を、運転中に使用する制御棒が含まれるセル内に装荷するか、連続して制御棒を挿入する期間を約3ヶ月以下としていた。
【0007】
しかしながら一方では、燃焼の進んだ燃料が用いられたコントロールセルにおいて、制御棒を挿入、引抜きを行った場合、今度は燃料の材料特性の観点から望ましくない。
【0008】
以上のような観点から、運転期間中に制御棒を挿入するセルの周りの燃料として2サイクル燃焼した後の燃料を3サイクル目の燃料として用いることが適当と考えられ、それらの燃料4体で構成したセルの中心に存在する制御棒を、主に約1年の運転に使用することで運転の効率を向上させている。なお、上記のような目的で構成したセルをコントロールセルと呼んでいる。
【0009】
一方、最近では、沸騰水型原子力発電所の経済性向上のため、燃料のウラン235濃縮度を高めて一回の燃料交換で使用する新燃料の数(バッチ体数)を少なくしたり、または運転期間を長くし、設備利用率を高める傾向が顕著となってきている。
【0010】
しかしながら、運転期間が同一な場合、燃料のウラン235濃縮度を高めるとバッチ体数が少なくなるのに加えて余剰反応度が高くなり、運転で使用する制御棒の本数も増えることから、コントロールセルに必要な燃料が足りなくなる状況となる。また、現在の約1年の運転期間を約1年半から2年の長期にすると、制御棒履歴効果による出力の上昇量が大きくなり燃料の健全性上望ましくはない。
【0011】
一方、従来の技術としては、過去3サイクル燃焼した後の燃料(4サイクル目燃料)をコントロールセルに適用した例があるが、その選定方法が明確に記述されていないため、運転中に当該セルで制御棒を引抜く操作を実施した場合、燃料健全性が保持されるのか否か明確ではない。
【0012】
また、コントロールセルを説明したものとして、特許文献1及び2があげられ、いずれもコントロールセルに関する記載はあるが、実際に原子炉の炉心を構成する場合に、コントロールセルに適用可能な燃料が不足した場合に、どのような技術を使用すればよいかについては特に記載はされていない。
【特許文献1】特開2002−350580号公報
【特許文献2】特開2002−122687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、近年、運転効率の向上のために燃料の高濃縮度化及び運転期間の長期化が求められているが、そのためにコントロールセルの必要数が多くなり、コントロールセルに必要な燃料の数も多くなる。そのため、従来コントロールセルに用いられてきた2サイクル燃焼後の燃料(3サイクル目燃料)以外の燃料を用いる必要性が大きくなってきているが、現在の所、どのコントロールセルにどの燃料を使用するか、などの方法は確立されていないことから、燃料の高濃縮度化及び運転期間の長期化に的確に対応できなかった。
【0014】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、運転中に使用する制御棒の挿入期間に応じて、コントロールセルに使用する燃料を有効に選定することにより、燃料の健全性上及び安全性を確保しつつ運転効率を高めることを可能とするとともに、高濃縮度化及び運転期間の長期化に対応した原子炉の炉心及びその構成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係る原子炉炉心の構成方法は、コントロールセルの構成燃料を3サイクル目燃料である候補1燃料、4サイクル目燃料である候補2燃料及びその他の燃料である候補3燃料に分類する第1のステップと、前記候補1燃料のみでコントロールセルを構成することが可能か否かを判断する第2のステップと、前記第2のステップで不可能と判断された場合に制御棒挿入期間が一定期間以上か否かを判断する第3のステップと、前記第3のステップで一定期間以上と判断された場合に前記候補1燃料でコントロールセルを構成する第4のステップと、前記第3のステップで一定期間以下と判断された場合に前記候補2燃料でコントロールセルを構成する第5のステップと、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、運転中に使用する制御棒の挿入期間に応じて、コントロールセルに使用する燃料を有効に選定することにより、燃料の健全性上及び安全性を確保しつつ運転効率を高めることを可能とするとともに、高濃縮度化及び運転期間の長期化に対応した原子炉の炉心及びその構成方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明のコントロールセルに装荷する燃料の選定フロー図である。
【0018】
図2は沸騰水型原子力発電所の原子炉炉心に配置される燃料を装荷サイクル別に記号にして表した燃料配置図である。
【0019】
制御棒を中心に4体の燃料が組み合わさったものを単位格子セル(以下、「セル」という。)といい、炉心には複数のセルが配置されている。特に、定格出力運転中に原子炉内に挿入される制御棒があるセルをコントロールセルと呼んでいる。
【0020】
図1の選定フロー図により、燃料の高濃縮度化及び運転期間の長期化に対応した本発明の実施形態に係るコントロールセルの構成手順を説明する。
【0021】
まず、取替炉心設計開始後、燃料配置の概略及び余剰反応度のタイプが決定され、運転で必要となる制御棒の本数が設定される。
【0022】
ステップ(1)では、コントロールセルを構成できる燃料の選定を実施するために、燃料を候補1燃料(3サイクル目燃料)、候補2燃料(4サイクル目燃料)、及び候補3燃料(候補1と候補2以外の燃料)の3つに分ける。
【0023】
ステップ(2)では、まず、3サイクル目燃料のみでコントロールセルを構成できるかどうかを判定し、候補1燃料(3サイクル目燃料)のみでコントロールセルを構成できる場合は、その時点で本作業は終了する。
【0024】
しかしながら、候補1燃料(3サイクル目燃料)のみでコントロールセルを構成できない場合、ステップ(3)に進み、制御棒挿入期間が3ヶ月以上か否かを判断する。
【0025】
ステップ(3)で制御棒挿入期間が3ヶ月以上と判断された場合には、ステップ(4)に進み、制御棒挿入期間が3ヶ月以上のコントロールセルにおいて候補1燃料(3サイクル目燃料)を使用する。
【0026】
一方、制御棒挿入期間が3ヶ月以下の場合、候補2燃料(4サイクル目燃料)をコントロールセルに適用するステップ(5)に移行する。ここでは、余剰反応度のパターンと使用する制御棒の期間により候補2燃料(4サイクル目燃料)で構成するコントロールセルの位置を決める。
【0027】
以下にステップ(5)における候補2燃料(4サイクル目燃料)の具体的なコントロールセルの構成例を説明する。
【0028】
図5は余剰反応度の変化パターンを示す余剰反応度パターン図である。余剰反応度パターン1(実線)は、運転開始初期から中期にかけて反応度が上昇し末期にかけて低下するパターンである。余剰反応度パターン2(破線)は運転初期から末期にかけて反応度が単調に低下していくパターンである。余剰反応度パターン3(一点鎖線)は運転初期から中期にかけてほぼ反応度が一定でその後末期にかけて反応度が低下するパターンである。この余剰反応度パターンは炉心を構成する燃料の種類、及び燃料の滞在期間により変化する。
【0029】
余剰反応度パターン1の場合を、図6を用いて説明する。
図6(a)の(イ)〜(ヘ)は、1/4炉心で表した6通りの制御棒パターンを示しており、また図中のAは、4サイクル目燃料で構成されたコントロールセルを示している。図6(b)は各制御棒パターンの挿入期間を表す運転パターン図であり、図6(c)はコントロールセルを構成する燃料が何サイクル目であるかを示した炉心構成図である。なお、以下に説明する図7〜図8においても、各図の(a)〜(c)は図6のものと同じなので、詳細な説明は省略する。
【0030】
図6の例では、運転の初期から末期まで挿入される制御棒位置のコントロールセルを候補1燃料(3サイクル目燃料)で構成し、余剰反応度が上昇し、ピークを迎える期間(ハ)において、追加して挿入する制御棒の位置を候補2燃料(4サイクル目燃料)で構成している。
【0031】
余剰反応度パターン2の場合の原子炉の運転時の制御棒パターンの例を図7に示す。
余剰反応度パターン2の時には、図7に示すように運転の初期から末期まで挿入される制御棒位置のコントロールセルを候補1燃料(3サイクル目燃料)で構成し、サイクル初期3ヶ月以内に挿入される制御棒位置のコントロールセルに候補2燃料(4サイクル目燃料)の燃料を使用する。制御棒挿入期間が3ヶ月以内の場合制御棒履歴効果は小さいため、燃料の健全性は確保される。
【0032】
余剰反応度パターン3の時には、図8に示すように運転の初期から末期まで挿入される制御棒位置のコントロールセルを候補1燃料(3サイクル目燃料)の燃料で構成し、それ以外のコントロールセルを候補2(4サイクル目燃料)で構成している。運転中は、候補2燃料(4サイクル目燃料)で構成されたコントロールセルの制御棒を約3ヶ月毎に交換しながら運転している。
【0033】
このように、ステップ(5)では、余剰反応度変化に応じてコントロールセル構成燃料を選定することにより、燃料のウラン235の高濃縮度化、運転期間長期化に対しても効率の良い運転が可能な沸騰水型原子炉炉心及びその構成方法を提供することが可能となる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態によれば、運転中に使用する制御棒の挿入期間に応じて、コントロールセルに使用する燃料を有効に選定することにより、燃料の健全性上及び安全性を確保しつつ運転効率を高めることを可能とするとともに、高濃縮度化及び運転期間の長期化に対応した原子炉の炉心及びその構成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の係る原子炉炉心の構成方法フロー図。
【図2】本発明の係る原子炉炉心の構成図。
【図3】原子炉炉心の余剰反応度変化図。
【図4】原子炉炉心の運転期間中の制御棒パターンと炉心流量の推移を示す図。
【図5】原子炉炉心の余剰反応度パターン図。
【図6】余剰反応度パターン1のコントロールセル構成方法を示す図で、(a)は制御棒パターン図、(b)は運転パターン図、(c)はコントロールセルを構成する燃料の種類が付された炉心構成図。
【図7】余剰反応度パターン2のコントロールセル構成方法を示す図で、(a)は制御棒パターン図、(b)は運転パターン図、(c)はコントロールセルを構成する燃料の種類が付された炉心構成図。
【図8】余剰反応度パターン3のコントロールセル構成方法を示す図で、(a)は制御棒パターン図、(b)は運転パターン図、(c)はコントロールセルを構成する燃料の種類が付された炉心構成図。
【符号の説明】
【0036】
1…原子炉炉心、2…コントロールセル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コントロールセルの構成燃料を3サイクル目燃料である候補1燃料、4サイクル目燃料である候補2燃料及びその他の燃料である候補3燃料に分類する第1のステップと、前記候補1燃料のみでコントロールセルを構成することが可能か否かを判断する第2のステップと、前記第2のステップで不可能と判断された場合に制御棒挿入期間が一定期間以上か否かを判断する第3のステップと、前記第3のステップで一定期間以上と判断された場合に前記候補1燃料でコントロールセルを構成する第4のステップと、前記第3のステップで一定期間以下と判断された場合に前記候補2燃料でコントロールセルを構成する第5のステップと、からなることを特徴とする原子炉炉心の構成方法。
【請求項2】
前記第5のステップにおいて、余剰反応度パターンにしたがって前記候補2の燃料を選定することを特徴とする請求項1記載の原子炉炉心の構成方法。
【請求項3】
原子炉炉心のコントロールセルの構成燃料を、前記請求項1又は2に記載の原子炉炉心の構成方法により構成したことを特徴とする原子炉炉心。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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