説明

原料焼成方法および原料焼成装置

【課題】バッチ方式で焼成前駆体の焼成を行って二次電池用電極材料を製造する際に、前記焼成に要する時間を短縮し、焼成工程を高効率且つ低コストで行うことができる原料焼成方法を提供すること。
【解決手段】一つの焼成炉において、二次電池用電極材料の原料である焼成前駆体を焼成する工程をバッチ処理によって繰り返し行う原料焼成方法であって、先の焼成工程によって得られる焼成処理物を前記焼成炉の温度を下げる工程を経ずに該焼成炉の外部の冷却部に移して冷却を実行し、且つ前記焼成炉に次の焼成工程用の焼成前駆体を入れて前記冷却部による冷却と並行して焼成を開始することを特徴とする原料焼成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極材料を合成する際の原料焼成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属リチウム電池、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池等に代表される二次電池の正極材料としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のリチウム遷移金属が挙げられる。
【0003】
このような二次電池用電極材料の多くは、原料を焼成することによって合成される。例えば、リン酸鉄リチウム系正極材料は、シュウ酸鉄(II)[(FeC)・2HO]、リン酸二水素アンモニウム[NHPO]、水酸化リチウム一水和物[LiOH・HO]等の原料を焼成することによって製造される。
【0004】
より具体的には、原料であるシュウ酸鉄(II)、リン酸二水素アンモニウム、水酸化リチウム一水和物等を、アルコール[例えばIPA(イソプロピルアルコール)]等を加えて粉砕・混合し、減圧下で乾燥して焼成前駆体を調製し、該焼成前駆体を炉焼成する。この焼成工程により、活物質であるリン酸鉄リチウムを合成することができる。
【0005】
リン酸鉄リチウム系正極材料の場合、前記焼成前駆体の焼成は、温度を500〜800℃程度(好ましくは600℃〜700℃程度)の高温域まで昇温して行うことが必要であるが、特許文献1に記載の製造方法のように焼成工程を2つに分けることによって、より高い2次電池性能が得られることが知られている。すなわち、先に第1の焼成工程として350℃〜400℃程度(中温域)にて0.5時間〜5時間程度の仮焼成を行い、一旦外部に仮焼成物を取り出して擂潰した後に、第2の焼成工程として500〜800℃程度(好ましくは600℃〜700℃程度)に0.5時間〜10時間程度の本焼成を行うことによって、得られる正極材料のリン酸鉄リチウムの均一性が一層向上し、より高い2次電池性能が得られる。
【0006】
ここで、前記第1の焼成工程は、ロータリーキルン等の公知の焼成炉を用いて行われるが、第2の焼成工程に移行する前に第1の焼成工程で得られた前記仮焼成物を取り出して炭素被覆前処理するため、前記ロータリーキルンにおける第1の焼成工程はバッチ方式によって行われている。すなわち、原料(焼成前駆体)を焼成炉に投入し、該焼成炉内を350℃〜400℃程度に昇温して0.5時間〜5時間の仮焼成を行った後、焼成炉を冷却して仮焼成物を取り出す、という一連の工程を1バッチとして前記焼成炉においてこの第1の焼成工程を繰り返し、バッチを重ねて量産する。
【0007】
したがって、前記焼成炉では、図7のように、常温(例えば約20℃)から350〜400℃程度までの範囲で温度を上昇および下降させる運転が繰り返して行われることになる。例えば、約400℃で3〜4時間の仮焼成を行う場合、昇温および冷却にかかる時間を含めると、1バッチの反応を行うために要する時間は7〜8時間である(図7の符号aの範囲)。そして、焼成炉内が常温になっている図7における符号bの範囲の間に焼成炉から仮焼成物を取り出し、次の焼成のための原料(焼成前駆体)を投入する。
【0008】
このように短いサイクルで、常温〜400℃のような大きな温度変化を伴う運転が繰り返し行われると、焼成炉に大きな負担がかかり使用寿命が短くなってしまう。また、焼成前駆体投入後に常温から焼成温度にまで昇温するための時間、および、仮焼成終了後に焼成温度から常温にまで冷却する時間がかかるため、製造時間の短縮には限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−257894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題を解決し、バッチ方式で焼成前駆体の焼成を行って二次電池用電極材料を製造する際に、前記焼成に要する時間を短縮し、焼成工程を高効率且つ低コストで行うことができる原料焼成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様に係る原料焼成方法は、一つの焼成炉において、二次電池用電極材料の原料である焼成前駆体を焼成する工程をバッチ処理によって繰り返し行う原料焼成方法であって、先の焼成工程によって得られる焼成処理物を前記焼成炉の温度を下げる工程を経ずに該焼成炉の外部の冷却部に移して冷却を実行し、且つ前記焼成炉に次の焼成工程用の焼成前駆体を入れて前記冷却部による冷却と並行して焼成を開始することを特徴とするものである。
【0012】
ここで、リン酸鉄リチウム系正極材料の場合、該リン酸鉄リチウム系正極材料の原型となる正極活物質(LiFePO)の原料となる物質[例えば、シュウ酸鉄(II)、リン酸二水素アンモニウム、水酸化リチウム等]のみからなる焼成前駆体を用いるほか、前記LiFePOの原料と他の物質(例えば、LiやFe以外の金属ハロゲン化物)とを混合して得られる焼成前駆体を用いる場合がある。本発明における「二次電池用電極材料の原料である焼成前駆体」とは、焼成することによって二次電池用電極材料を合成することが可能な物質の混合物を、「焼成前駆体」と称するものとする。
【0013】
本態様によれば、先の焼成工程によって得られる焼成処理物を前記焼成炉の温度を下げる工程を経ずに該焼成炉の外部の冷却部に移すので、従来、焼成炉内の温度を焼成温度から常温にまで冷却するためにかかっていた時間を短縮することができる。
【0014】
また、焼成炉の温度を下げる工程を行わないため、前記焼成処理物を前記冷却部に移した後の焼成炉内の温度は、ほぼ焼成温度に維持されている。この焼成温度に維持された焼成炉内に次の焼成工程に用いる新たな焼成前駆体を入れるので、次の焼成工程をすぐに行うことができる。そして、当該次の焼成工程と、前記冷却部における先の焼成工程によって得られた焼成処理物の冷却とを並行して行う。
【0015】
このように、先の焼成工程の焼成終了後、すぐに焼成処理物を取り出して次の焼成工程を開始するとともに、前記焼成処理物の冷却を前記焼成炉とは別の冷却部において前記次の焼成工程と並行して行うことにより、炉内温度を焼成温度から常温まで冷却、または常温から焼成温度まで昇温するためにかかっていた時間を短縮し、昇温にかかるエネルギーコストを抑え、バッチ処理のサイクルを短くすることができる。また、燃焼炉内の温度変化が少ないため、急激な温度変化が繰り返されることによって燃焼炉にかかる負荷が減少することが期待できる。
【0016】
尚、焼成処理物の取り出し時や新たな前駆体投入時には、焼成炉の加熱は止めることが望ましいが、焼成温度より20℃程度以上低い温度に下がってしまう場合には、前記焼成工程における焼成温度を維持できるように焼成炉の加熱を続けてもよい。
【0017】
本発明の第2の態様に係る原料焼成方法は、一つの焼成炉において、二次電池用電極材料の原料である焼成前駆体を焼成する工程をバッチ処理によって繰り返し行う原料焼成方法であって、先の焼成工程によって得られる焼成処理物を前記焼成炉の温度を焼成温度以下であって200℃以上に下げる工程を経て該焼成炉の外部の冷却部に移して冷却を実行し、且つ前記焼成炉に次の焼成工程用の焼成前駆体を入れて前記冷却部による冷却と並行して焼成を開始することを特徴とするものである。
【0018】
本態様によれば、得られた焼成処理物を焼成炉内が常温まで下がる前に取り出し、該焼成炉の外部の冷却部に移して冷却をするので、従来、焼成炉内の温度を焼成温度から常温にまで冷却するためにかかっていた時間が短縮できる。
【0019】
前記焼成処理物の取り出しは、焼成炉内の温度を焼成工程における焼成温度以下、200℃以上に維持した状態で行われる。前記焼成炉の温度を焼成温度以下、200℃以上に下げる工程を行った後、焼成処理物を取り出すために焼成炉の取り出し口を開けたこと等によって炉内温度が200℃より低い温度に低下する場合には、焼成炉を加熱して炉内温度が200℃以上になるようにする。
【0020】
続いて、次の焼成工程に用いる新たな焼成前駆体を前記焼成温度以下、200℃以上に維持した状態の焼成炉内に入れ、次の焼成工程を行うために焼成炉を加熱し、該炉内の温度を焼成温度まで昇温する。そして、当該次の焼成工程と、前記冷却部における先の焼成工程によって得られた焼成処理物の冷却とを並行して行う。
【0021】
このように、先の焼成工程の焼成終了後、焼成炉内を常温にまで下げる前に焼成処理物を取り出して次の焼成工程を開始するとともに、前記焼成処理物の冷却を前記焼成炉とは別の冷却部において前記次の焼成工程と並行して行うことにより、炉内温度を焼成温度から常温まで冷却、または常温から焼成温度まで昇温するためにかかっていた時間を短縮し、昇温にかかるエネルギーコストを抑え、バッチ処理のサイクルを短くすることができる。以って、二次電池用電極材料の原料焼成を高効率且つ低コストで行うことができる。
【0022】
また、焼成温度よりも低い温度の焼成炉内に焼成前駆体を入れるので、焼成温度の炉内に焼成前駆体を入れる場合よりも反応を穏やかに開始することができる。また、従来よりも燃焼炉内の温度変化が少ないため、燃焼炉にかかる負荷が減少することが期待できる。
【0023】
本発明の第3の態様に係る原料焼成方法は、第2の態様において、前記焼成炉の温度を焼成温度以下であって200℃以上に下げる工程で該焼成炉から放出される熱エネルギーを、次工程以降の焼成前駆体の予熱に利用することを特徴とするものである。
【0024】
本態様によれば、先の焼成工程終了後に前記焼成炉の温度を下げる工程で該焼成炉から放出される熱エネルギーを、次の焼成工程に用いる新たな焼成前駆体の予熱に利用し、予熱された焼成前駆体を焼成炉内に入れることができる。このことによって、新たな焼成前駆体を焼成炉内に入れたときの炉内温度の低下を小さくすることができる。
【0025】
本発明の第4の態様に係る原料焼成方法は、第3の態様において、次工程以降の焼成前駆体を前記焼成炉に接触させて前記熱エネルギーを吸収することを特徴とするものである。
【0026】
本態様によれば、効率よく焼成炉の温度を下げることができるとともに、熱交換器等の装置を必要とせず、新たな焼成前駆体を予熱するために前記焼成炉の廃熱を簡単に利用することができる。
【0027】
本発明の第5の態様に係る原料焼成方法は、第1の態様または第2の態様において、前記焼成工程は、前記焼成炉内を不活性雰囲気にする不活性ガスを流しつつ行われ、前記焼成炉内を通過して加熱された前記不活性ガスの熱エネルギーを次工程以降の焼成前駆体の予熱に利用することを特徴とするものである。
【0028】
二次電池用電極材料の焼成前駆体の焼成は、焼成炉内に窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガスをブローしながら該不活性ガス雰囲気下において行われる。焼成炉を通過して排出される不活性ガス(排気)は焼成温度とほぼ同じ温度である。
本態様によれば、焼成炉内のパージに用いた不活性ガスの熱エネルギーを前記新たな焼成前駆体の予熱に利用し、予熱された焼成前駆体を焼成炉内に入れることができる。このことによって、新たな焼成前駆体を焼成炉内に入れたときの炉内温度の低下を小さくすることができる。
【0029】
本発明の第6の態様に係る原料焼成方法は、第1の態様から第5の態様のいずれか一つの態様において、前記焼成前駆体は不活性ガスによるパージ部において不活性ガスでパージされて前記焼成炉内に入れられることを特徴とするものである。
【0030】
高温の焼成炉内に焼成前駆体を入れると、該焼成前駆体中の原料はすぐに反応し始める。その際、前記焼成炉内に酸素が存在すると2価の鉄原料が酸化され、3価の鉄化合物(FePO、Fe)等の不純物が生成してしまう。本態様によれば、焼成前駆体供給時に焼成炉内へ酸素が混入することを防ぎ、Fe等の不純物の生成を抑えることができる。
【0031】
本発明の第7の態様に係る原料焼成装置は、二次電池用電極材料の原料である焼成前駆体を焼成炉に入れてバッチ処理によって繰り返し焼成する構成の原料焼成装置であって、前記焼成炉と別に冷却部を備え、先の焼成処理によって得られる焼成処理物を前記焼成炉の温度を下げる工程を経ずに該焼成炉の外部の冷却部に移して冷却を実行し、且つ前記焼成炉に次の焼成工程用の焼成前駆体を入れて前記冷却部による冷却と並行して焼成を開始するように構成されていることを特徴とするものである。
【0032】
本態様によれば、焼成前駆体を焼成炉に入れてバッチ処理によって繰り返し焼成する際、先の焼成処理によって得られる焼成処理物を、前記焼成炉の温度を下げる工程を経ずに該焼成炉の外部の冷却部に移し、該冷却部において常温まで冷却することができる。
また、焼成炉の温度を下げる工程を行わないので、次の焼成工程用の焼成前駆体は、ほぼ焼成温度に維持された焼成炉内に入れられる。そして、この冷却部における先の焼成処理によって得られた焼成処理物の冷却と並行して、次の焼成処理を行う。
【0033】
このように、先の焼成処理終了後の焼成炉の冷却にかかる時間と、次の焼成処理を行うための焼成炉の昇温にかかる時間を短縮できるとともに、先の焼成工程の焼成処理物の冷却と、次の焼成工程とを並行して行うので、一つの焼成炉において前記焼成工程をバッチ処理によって繰り返して行う二次電池用電極材料の原料焼成を効率よく行うことができる。
【0034】
本発明の第8の態様に係る原料焼成装置は、第7の態様において、前記焼成前駆体を不活性ガスによってパージするパージ部を備え、該パージ部において不活性ガスでパージされた焼成前駆体を前記焼成炉内に入れるように構成されていることを特徴とするものである。
【0035】
本態様によれば、焼成前駆体を不活性ガスでパージして焼成炉に入れることができ、以って、焼成炉内への酸素の混入を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、バッチ方式で原料(焼成前駆体)の焼成を行って二次電池用電極材料を製造する際に、焼成前駆体の焼成工程に要する時間を短縮し、高効率且つ低コストを達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1および実施例2の原料焼成方法に用いる焼成装置の概略図である。
【図2】実施例3の原料焼成方法に用いる焼成装置の概略図である。
【図3】実施例4の原料焼成方法によって焼成前駆体の予熱を行っている焼成装置の概略図である。
【図4】実施例5の原料焼成方法に用いる焼成装置の概略図である。
【図5】実施例1の原料焼成方法により焼成前駆体の焼成を行った場合の焼成炉内の経時的な温度変化を示す図である。
【図6】実施例2の原料焼成方法により焼成前駆体の焼成を行った場合の焼成炉内の経時的な温度変化を示す図である。
【図7】従来の原料焼成方法により焼成前駆体の焼成を行った場合の焼成炉内の経時的な温度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、原料となる焼成前駆体を焼成して合成される二次電池用電極材料の製造に用いられる。以下の実施例では、二次電池用電極材料としてリン酸鉄リチウム系正極材料の製造を例に挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0039】
リン酸鉄リチウム系正極材料は、リン酸二水素アンモニウム[NHPO]等のリン酸導入用の原料(POを含むもの)と、シュウ酸鉄(II)[(FeC)・2HO]等の鉄導入用原料(Feを含むもの)と、水酸化リチウム一水和物[LiOH・HO]等のリチウム導入用の原料(Liを含むもの)を含む焼成前駆体を焼成することによって製造される。
【0040】
本発明に係る原料焼成方法は、前記焼成前駆体の焼成を第1の焼成工程と第2の焼成工程の二段階で行う場合の第1の焼成工程において用いることができる。また、焼成工程を二段階に分けず、一段階の焼成によって行う方法をバッチ方式で行う場合にも用いることができる。
【0041】
リン酸鉄リチウム系正極材料の焼成前駆体の焼成は、500〜800℃程度の高温域での一回の焼成(一段階の焼成)によって行うことも可能であるが、本発明では、300℃〜400℃程度の低温の温度範囲で焼成を行う第1の焼成工程(仮焼成)と、前記第1の焼成よりも高温域(500℃〜800℃程度、より好ましくは600℃〜700℃程度)で焼成を行う第2の焼成工程(本焼成)とを行うことによって製造する場合について主に説明する。すなわち、二段階の焼成工程で原料焼成を行う場合の前記第1の焼成工程(仮焼成)について説明する。
【0042】
[実施例1]
図1は、実施例1の原料焼成方法に用いる焼成装置1の概略図である。図5は、実施例1の原料焼成方法により焼成前駆体の焼成を行った場合の焼成炉内の経時的な温度変化を示す図である。図7は、従来の原料焼成方法により焼成前駆体の焼成を行った場合の焼成炉内の経時的な温度変化を示す図である。
【0043】
本実施例において用いる焼成装置1は、焼成炉2と、該焼成炉2内を加熱する加熱装置3と、焼成前駆体を不活性ガスでパージするパージ部4と、前記焼成炉2と別に配設される冷却部5を備えている。焼成炉2としては、ロータリーキルン、ローラーハースキルン等の公知の焼成炉が用いられる。
【0044】
前記第1の焼成工程によって得られる焼成処理物7は、第2の焼成を行う前に粉砕混合したり、炭素被覆原料を添加して均一に混合するために、前記焼成炉2外に一旦取り出す必要がある。そのため、前記焼成装置1における第1の焼成工程はバッチ方式によって行われる。
【0045】
まず、前記焼成装置1が停止している状態(焼成炉2内が常温の状態)から1回目の焼成[以下、焼成(1)]を始めるときには、常温の焼成炉2内に焼成前駆体6を入れる。焼成炉2内に入れる焼成前駆体6は、パージ部4において純窒素等の不活性ガス8によってパージされたものを用いることが望ましい。このことによって、焼成炉2内に酸素等が混入するのを防ぐことができる。
【0046】
焼成前駆体6を入れた焼成炉2内に純窒素ガス等の不活性ガス9を通気しながら昇温し、所定の温度(例えば400℃)にして焼成を行う。符号10は焼成炉2から排出される不活性ガス(焼成炉内での反応によって発生するガスを含む排気)である。所定の時間(例えば0.5〜5時間)の焼成終了後、焼成処理物7が得られる。
【0047】
ここで、焼成(1)が終了してその焼成処理物7を焼成炉2外に取り出す場合、従来は、図7に示されるように焼成炉2内の温度を常温近傍(例えば20℃〜50℃)にまで放冷した後に前記焼成処理物7の回収を行い、続いて2回目の焼成[以下、焼成(2)]の焼成前駆体6を焼成炉2に投入していた。図7の符号aの範囲が従来の1バッチの工程における炉内温度の変化である。
【0048】
本実施例では、前記所定の時間の焼成終了後、前記焼成処理物7を前記焼成炉2の温度を下げる工程を経ずに前記焼成炉2の外部に配設された冷却部5に移して冷却する。すなわち、前記焼成炉2内の温度がほぼ前記焼成温度(本実施例では400℃)のままの状態の焼成炉2の取り出し口を開けて前記焼成処理物7を回収する(図5を参照)。図5の符号a'の範囲が1バッチの焼成工程における炉内温度の変化である。すなわち、焼成(1)によって得られた焼成処理物7を焼成の終了後すぐに取り出す。このことによって、焼成炉2内の温度を焼成温度から常温にまで冷却するためにかかっていた時間を短縮することができる。
【0049】
尚、焼成処理物7の取り出しは、焼成炉2の加熱を止めて行うことが望ましい。焼成炉2から焼成処理物7の取り出しを行うと、図5に示されるように焼成炉2内の温度は若干低下する。焼成処理物7の取り出し操作中に焼成炉2内の温度が下がりすぎる場合(例えば焼成温度より20℃程度以上低い温度に下がってしまう場合)には、前記焼成工程における焼成温度を維持できるように焼成炉2の加熱を続けることもできる。
【0050】
また、焼成炉2の温度を下げる工程を行わないため、焼成(1)の焼成処理物7を取り出した後、ほぼ前記焼成温度に維持された状態の焼成炉2内に、次の焼成[焼成(2)]に用いる新たな焼成前駆体6を入れることができるので、焼成炉2内を速やかに焼成温度にすることができ、焼成(2)の工程をすぐに開始することができる。図5の符号b'の範囲は、焼成炉2からの焼成処理物7の取り出しと、次の焼成のための焼成前駆体6の投入を行うために要する時間である。
【0051】
すなわち、焼成(1)の焼成終了後、すぐに焼成(2)が開始され、焼成(1)の焼成処理物の冷却は、前記焼成(2)と並行して冷却部5において行われる。このことによって、従来、焼成前駆体6の投入後の炉内温度を常温から焼成温度にまで昇温するためにかかっていた時間を短縮し、昇温にかかるエネルギーコストを抑えるとともに、バッチ処理のサイクルを短くすることができる。以って、二次電池用電極材料の原料焼成を高効率且つ低コストで行うことができる。また、燃焼炉2内の温度変化が少ないため、急激な温度変化が繰り返されることによって燃焼炉2にかかる負荷が減少することが期待できる。
【0052】
[実施例2]
次に、本発明に係る原料焼成方法の他の実施例について説明する。本実施例に用いる焼成装置としては、実施例1と同様、図1に示す焼成装置1を用いることができる。図6は、実施例2の原料焼成方法により焼成前駆体の焼成を行った場合の焼成炉内の経時的な温度変化を示す図である。
【0053】
前記焼成装置1が停止している状態(焼成炉2内が常温の状態)から1回目の焼成[以下、焼成(1)]を始める場合の操作は実施例1と同じであるためその説明は省略する。図6の符号a''の範囲が1バッチの焼成工程における炉内温度の変化である。次に、本実施例における焼成(1)が終了した後の焼成処理物7の取り出し、および新たな焼成前駆体6の投入について説明する。
【0054】
本実施例では、焼成(1)の所定の時間の焼成終了後、焼成炉2内の温度を焼成工程における焼成温度以下であって200℃以上に下げる工程を行い、該焼成炉2の温度が焼成温度以下、200℃以上の状態で前記焼成処理物7の取り出しを行う。取り出した焼成処理物7は、冷却部5に入れて常温まで冷却する。焼成炉2内の温度は、例えば焼成炉2内に低温の不活性ガスを吹き込んだり、焼却炉2の外部に冷却材を接触させたりすることによって下げることができる。
【0055】
本実施例によれば、前記焼成処理物7の取り出しが前記焼成炉2内の温度が常温に下がる前に行われるので、焼成炉2内の温度を焼成温度から常温にまで冷却するためにかかっていた時間が短縮できる。
【0056】
続いて、次の焼成[焼成(2)]に用いる新たな焼成前駆体を前記焼成温度以下、200℃以上の状態の焼成炉2内に入れ、次の焼成工程を行うために焼成炉2を加熱し、該焼成炉2内の温度を焼成温度まで昇温し、焼成(2)を開始する。
図6の符号b''の範囲は、焼成炉2からの焼成処理物7の取り出しと、次の焼成のための焼成前駆体6の投入を行うために要する時間である。
【0057】
すなわち、焼成(1)の焼成終了後、焼成炉2内を常温にまで下げる前に焼成(2)が開始され、焼成(1)の焼成処理物7の冷却は、前記焼成(2)と並行して冷却部5において行われる。このことによって、従来、炉内温度を焼成温度から常温まで冷却、または常温から焼成温度まで昇温するためにかかっていた時間を短縮することができるとともに、昇温にかかるエネルギーコストを抑え、バッチ処理のサイクルを短くすることができる。以って、二次電池用電極材料の原料焼成を高効率且つ低コストで行うことができる。
【0058】
また、焼成温度よりも低い温度の焼成炉2内に焼成前駆体6を入れるので、焼成温度の炉内に焼成前駆体6を入れる場合よりも反応を穏やかに開始することができる。また、従来よりも燃焼炉2内の温度変化が少ないため、燃焼炉2にかかる負荷が減少することが期待できる。
【0059】
[実施例3]
本発明に係る原料焼成方法の更に他の実施例について説明する。本実施例は、実施例2のように、先の焼成処理を行った後、焼成炉2の温度を下げる工程を行う際に該焼成炉2から放出される熱エネルギーを、次工程以降の焼成前駆体の予熱に利用するものである。
【0060】
本実施例に用いる焼成装置としては、図2に示す焼成装置21が用いられる。本実施例において、前記焼成装置が停止している状態(焼成炉内が常温の状態)から1回目の焼成[焼成(1)]を開始し、焼成(1)の終了後、焼成処理物を取り出し、次の焼成[焼成(2)]に用いる焼成前駆体を投入して焼成(2)を開始する一連の工程は、実施例2と同様に行われる。焼成装置21において、図1の焼成装置1と同様の部材には同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0061】
前記焼成装置21において、パージ部4に不活性ガスを送り込むための焼成前駆体パージ用ライン22は焼成炉2の放熱を吸収できるように構成され、該焼成前駆体パージ用ライン22内を流通する不活性ガス8が加熱されるように構成されている。この加熱された不活性ガス8がパージ部4に導入され、該パージ部4内の焼成前駆体6を予熱する。焼成を行っている間は、バルブ23を閉めて不活性ガス8の流通を停止する。
【0062】
本実施例によれば、先の焼成工程終了後に焼成炉2内の温度を下げる工程で放出される熱エネルギーを、次の焼成工程以降に用いる新たな焼成前駆体6の予熱に利用し、予熱された焼成前駆体6を焼成炉2内に入れることができる。このことによって、新たな焼成前駆体6を焼成炉2内に入れたときの炉内温度の低下を小さくすることができる。
【0063】
尚、本実施例に用いる焼成装置21は、パージ部4に導入する不活性ガス8を温めて焼成前駆体6を予熱する構成の他、パージ部4を加熱するように熱交換器を配設して焼成前駆体を予熱する構成とすることも可能である。
【0064】
[実施例4]
実施例4の原料焼成方法は、焼成炉2の温度を下げる工程で該燃焼炉2から放出される熱エネルギーを新たな焼成前駆体の予熱に用いるにあたり、より効率的に焼成炉2の廃熱を利用することができる原料焼成方法である。「焼成(1)の開始」、「焼成(1)を行った後の焼成処理物の取り出し」、「焼成(2)に用いる焼成前駆体の投入」、および「焼成(2)の開始」の一連の工程は実施例2と同様に行われる。図3は、本実施例の原料焼成方法によって焼成前駆体の予熱を行っている焼成装置31の概略図である。
【0065】
本実施例では、焼成(1)で得られた焼成処理物7を取り出し、焼成(2)に用いる焼成前駆体6を入れる際に、前記新たな焼成前駆体6を入れたパージ部4を、図3に示されるように、前記焼成炉2に接触させることによって当該焼成炉2の温度を下げる。前記パージ部4は、原料焼成を行っている間は焼成炉に接触しないように構成されている。
【0066】
本実施例によれば、焼成前駆体6を焼成炉3に接触させることによって効率よく焼成炉2の温度を下げることができるとともに、熱交換器等の装置を必要とせず、新たな焼成前駆体6を予熱するために前記焼成炉2の廃熱を簡単に利用することができる。尚、実施例4では焼成前駆体6をパージ部4に入れ、該パージ部4を介して焼成前駆体6と焼成炉2を間接接触させて予熱しているが、焼成炉2に焼成前駆体6を直接接触させて予熱する構成としてもよい。
【0067】
[実施例5]
実施例5の原料焼成方法は、焼成炉において焼成を行っているときの廃熱を新たな焼成前駆体の予熱に利用することができるものである。「焼成(1)の開始」、「焼成(1)を行った後の焼成処理物の取り出し」、「焼成(2)に用いる焼成前駆体の投入」、および「焼成(2)の開始」の一連の工程は、実施例1または実施例2と同様に行われる。
【0068】
図4は、本実施例に用いる焼成装置41の概略図である。本実施例では、焼成炉2内に純窒素等の不活性ガス9を流しつつ焼成を行い、高温の焼成炉2内を通過して加熱された不活性ガス(排気10)の熱エネルギーを、新たな焼成前駆体の予熱に利用する。焼成装置41には、焼成炉2内を通過した不活性ガス(排気10)の熱によって、パージ部4に送り込む不活性ガス8が温められるように熱交換器42が配設されている。
【0069】
本実施例によれば、焼成炉2内のパージに用いた不活性ガス(排気10)の熱エネルギーを前記新たな焼成前駆体6の予熱に利用し、予熱された焼成前駆体6を焼成炉2内に入れることができる。このことによって、新たな焼成前駆体6を焼成炉2内に入れたときの炉内温度の低下を小さくすることができる。また、前記焼成前駆体6の予熱のためにかかるエネルギーコストを抑えることができる。
【0070】
次に、本発明の原料焼成方法によって合成することができるリン酸鉄リチウム系正極材について詳細に説明する。
【0071】
<リン酸鉄リチウム系正極材料>
本実施例において、リン酸鉄リチウム系正極材料とは、例えば、一般式Li1−ny(MaMbFe1−x−y)POで表され、オリビン型結晶構造を有し、前記式中のMa、MbはFeを置換しうる金属元素であり、前記Maは価数が2の元素であり、且つ元素周期表において2族、11族、12族に属する金属元素の群から選ばれる1種以上の金属元素であり、前記Mbは価数が3以上の元素であり、且つ元素周期表において3族、4族、5族、6族、13族、14族に属する金属元素の群から選ばれる1種以上の金属元素であり、各置換量である前記xとyは、0≦x、y≦0.05の数であり、前記nは前記Mbの平均価数をfとして、n=f−2である。特に、前記Maは、カドミウム(Cd)、マグネシウム(Mg)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)の群から選ばれる1種以上の金属元素であり、前記Mbは、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、スズ(Sn)よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素である。
【0072】
x、yが0でない時、この正極材料中において、異種金属元素Ma、MbはFeの一部を置換した形で入っている。Maは価数が2であり、このMaのFeに対する置換量xの置換導入によって、充電(酸化)状態においてLiがxだけ残存するオリビン型結晶構造を実現する。Maは2+の酸化状態だけを安定してとるものがよい。また、Mbは価数が3以上であり、このMbのFeに対する置換量yの置換導入によって、Mbの価数をfとして、放電(還元)状態においてLiがFeに対してny(ただし、n=f−2)だけ欠損になるオリビン型結晶構造を実現する。
【0073】
<リン酸鉄リチウム系正極材料の製造方法の概要>
リン酸鉄リチウム系正極材料は、当該正極材料の原型となる正極活物質LiFePOの原料となる物質のみ、または正極活物質の原料となる物質と、前記式中のFeを置換しうる価数が2の元素であり且つ元素周期表において2族、11族、12族に属する金属元素の群から選ばれる1種以上の金属元素Maを含む化合物と、前記式中のFeを置換しうる価数が3以上の元素であり且つ元素周期表において3族、4族、5族、6族、13族、14族に属する金属元素の群から選ばれる1種以上の金属元素Mbを含む化合物と、を混合して得られる焼成前駆体を、所定温度、所定時間、所定雰囲気で焼成することにより、一般式Li1−ny(MaMbFe1−x−y)POで表され、オリビン型結晶構造を有し、各置換量である前記xとyは、0≦x、y≦0.05の数であり、前記nは前記Mbの平均価数をfとして、n=f−2である結晶1次粒子として得ることができる。
【0074】
前記焼成は一度の焼成によって行うことも可能であるが、焼成工程を2つに分けることによって、より高い2次電池性能が得られるリン酸鉄リチウム系正極材料を得ることができる。例えば、300℃〜400℃程度の低温の温度範囲で焼成を行う第1の焼成工程(仮焼成)と、前記第1の焼成よりも高温域(500℃〜800℃程度、より好ましくは600℃〜700℃程度)で焼成を行う第2の焼成工程(本焼成)とを行うことによって製造される。
【0075】
また、リン酸鉄リチウム系正極材料の表面に、導電性炭素を析出させた炭素析出正極材料は、炭素析出のない場合よりもさらに高い充放電特性を示すことが可能となる。該炭素析出正極材料は、例えば、前記と同様に正極活物質の原料となる物質のみ、または正極活物質の原料となる物質に前記Maおよび/またはMbの有機酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、アルコキシド等の化合物を添加し、例えば擂潰混合等して焼成前駆体を得た後、一旦300〜450℃にて数時間(例えば5時間程度)かけて第1の焼成工程(仮焼成)を行った後、炉より取り出し、その焼成処理物に対して、炭素被覆原料、例えば、石炭ピッチなどのビチューメン類、またはデキストリンなどの糖類を所定量添加、擂潰・混合し、さらに数時間乃至1日程度、所定雰囲気で第2の焼成工程(本焼成)を行うことにより製造することができる。
【0076】
仮焼成においては、正極材料の原料が加熱により最終的な正極材料に至る中間的な状態まで反応し、その際、多くの場合は熱分解によるガス発生を伴う。仮焼成の終了温度としては、発生ガスの大部分が放出し終わり、かつ最終生成物の正極材料に至る反応が完全には進行しない温度(すなわち、より高温域での第二段階の本焼成時に正極材料中の構成元素の再拡散・均一化が起こる余地を残した温度)が選択される(ただしこの時、組成の大半は既にリン酸鉄リチウム系正極活物質となっている)。
【0077】
第1の焼成工程(仮焼成)に続く第2の焼成工程(本焼成)では、構成元素の再拡散・均一化が起こるとともに、正極材料への反応が完了し、しかも焼結などによる結晶成長を極力防げるような温度域まで昇温および温度保持がなされる。
【0078】
尚、前記した炭素析出正極材料を製造する場合は、第1の焼成を行い、該第1の焼成後の焼成処理物に、炭素被覆原料を添加した後、第2の焼成を行うことにより、得られる正極材料の性能をより向上させることができる。炭素被覆原料、特に加熱により融解する石炭ピッチや糖類を用いる場合は、第1の焼成前の原料に添加することも可能であるが(この場合でも相応の正極性能向上効果が得られる)、第1の焼成後の原料(既に原料からのガス発生の大半が終了し、中間生成物となった状態)に添加し、第2の焼成を行うことがより好ましい。つまり、焼成過程における第1の焼成と第2の焼成との間に、原料への炭素被覆原料の添加工程を設けることになる。これにより、加熱により融解・熱分解する石炭ピッチや糖類等の物質が、原料から発生するガスにより発泡することを防ぎ、より均一に正極材料の表面に溶融状態で広がり、より均一に熱分解炭素を析出させることができる。
【0079】
また、導電性炭素の析出を行わない場合も、正極材料のより良好な均一性を得るために、第1の焼成と第2の焼成との間に、第1の焼成において得た焼成処理物を十分に粉砕混合した後、所定温度における第2の焼成を行うことが好ましい。
【0080】
<正極活物質LiFePOの原料>
以下では、正極活物質LiFePOとして一般的なオリビン型構造を有するものについて説明する。このオリビン型LiFePOの原料の中で、リチウム導入用の原料としては、例えばLiOH等の水酸化物、LiCO等の炭酸塩や炭酸水素塩、LiCl等の塩化物を含むハロゲン化物、LiNO等の硝酸塩、その他有機酸塩等のLiのみ目的の正極材料中に残留するようなLi含有分解揮発性化合物が用いられる。また、LiPO、LiHPO、LiHPO等のリン酸塩やリン酸水素塩を用いることもできる。
【0081】
また、鉄導入用の原料としては、例えば水酸化物、炭酸塩や炭酸水素塩、塩化物等のハロゲン化物、硝酸塩、その他、Feのみが目的の正極材料中に残留するような分解揮発性化合物(例えば、シュウ酸塩や酢酸塩等の有機酸塩、アセチルアセトン錯体類や、メタロセン錯体等の有機錯体など)のほか、リン酸塩やリン酸水素塩を用いることもできる。また、安価で入手が容易な1次原料である金属鉄、及び酸化鉄(Fe、Fe等)を用いることもできる。
【0082】
また、リン酸導入用の原料としては、例えば、無水リン酸P、リン酸HPO、およびリン酸イオンのみ正極材料中に残留するような分解揮発性リン酸塩やリン酸水素塩[例えば、(NHHPO、NHPO、(NHPO等のアンモニウム塩]を用いることができる。
【0083】
これらの原料において、目的の正極材料中に残存した場合に好ましくない元素や物質を含む場合には、これらが焼成中に分解・揮発することが必要である。また、原料にはリン酸イオン以外の不揮発性オキソ酸塩等を用いるべきでないことは言うまでもない。なお、これらにおいては、その水和物を用いる場合もあるが[例えば、LiOH・HO、Fe(PO・8HO等]、上記においては水和物としての表記は全て省略している。
【0084】
<金属ハロゲン化物>
Feを置換しうる2価の金属元素の原料として、元素周期表において2族、7族、9族、10族、11族、12族に属する金属元素の群から選ばれる1種以上の金属元素のハロゲン化物(金属ハロゲン化物)を用いることが好ましい。金属ハロゲン化物としては、例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物等が挙げられる(これらの水和物の形態のものも含む)。なお、他の化合物であってもよいことは勿論である。
【0085】
Feを置換しうる3価以上の金属元素の原料としても、且つ元素周期表において3族、4族、5族、6族、7族、13族、14族に属する金属元素の群から選ばれる1種以上の金属元素のハロゲン化物(金属ハロゲン化物)を用いることが好ましい。
【0086】
正極材料の原料に添加される金属ハロゲン化物の例を以下に示す(これらの中には水和物もあるが、水和物としての標記は省略する)。ここで、金属ハロゲン化物の中では塩化物が比較的安価で入手しやすく有利である。
【0087】
これらの金属ハロゲン化物の添加量は、前記各置換量である前記xとyが、0≦x、y≦0.05の数となり、且つ後述の組成条件を満たすように調整する。また、金属ハロゲン化物を添加した正極材料の焼成前駆体を焼成する際に、該金属ハロゲン化物の種類に応じて、例えば炭素、水素等の還元剤、酸素等の酸化剤、および/または塩素、ホスゲン等の第3成分を共存させることによって、より好適な条件で異種金属元素複合化正極材料を形成できる場合がある。また、焼成前駆体製造または仮焼成の際に、例えば他の物質(炭素被覆原料となるもの)と混合することにより、金属ハロゲン化物を生成するような条件の下では、これらの金属やその酸化物等を複合化の原料として使用することも可能である。
以上のハロゲン化物の他に、上述の金属元素の有機酸塩、硝酸塩、アセチルアセトナト錯体、金属アルコキシド、金属フェノキシド等も用いることが可能である。
【0088】
<焼成前駆体の調製>
焼成前駆体は、前記したように、前述の正極材料の原料となる物質のみ、または2価と3価以上の異種金属元素Ma、Mbのハロゲン化物を、正極材料の原料となる物質に添加したものを、例えば、遊星ボールミル、揺動または回転式の粉体混合機等を用いて乾燥状態で1時間〜1日程度混合する方法(以下、「乾式混合」と記す)、または例えばアルコール類、ケトン類、テトラヒドロフランなどの有機溶媒、または水等の溶媒もしくは分散媒とともに正極材料の原料に添加され、湿式で例えば1時間〜1日程度、混合・擂潰後、乾燥する方法(以下、「湿式混合」と記す)によって焼成前駆体となる。尚、混合する原料の種類によっては、乾式混合した場合の焼成前駆体を焼成して得られた正極材と、湿式混合した場合の焼成前駆体を焼成して得られた正極材との性能が異なる場合がある。したがって、混合する原料の組み合わせに応じた焼成前駆体調製方法(乾式混合または湿式混合)を選択することが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、原料を焼成して合成を行う二次電池用電極材料の原料焼成方法として利用できる。
【符号の説明】
【0090】
1 焼成装置、 2 焼成炉、 3 加熱装置、 4 パージ部、
5 冷却部、 6 焼成前駆体、 7 焼成処理物、
8 不活性ガス(N)、 9 不活性ガス(N)、 10 排気、
21 焼成装置、 22 焼成前駆体パージ用ライン、 23 バルブ、
31 焼成装置、 41 焼成装置、 42 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの焼成炉において、二次電池用電極材料の原料である焼成前駆体を焼成する工程をバッチ処理によって繰り返し行う原料焼成方法であって、
先の焼成工程によって得られる焼成処理物を前記焼成炉の温度を下げる工程を経ずに該焼成炉の外部の冷却部に移して冷却を実行し、且つ前記焼成炉に次の焼成工程用の焼成前駆体を入れて前記冷却部による冷却と並行して焼成を開始することを特徴とする原料焼成方法。
【請求項2】
一つの焼成炉において、二次電池用電極材料の原料である焼成前駆体を焼成する工程をバッチ処理によって繰り返し行う原料焼成方法であって、
先の焼成工程によって得られる焼成処理物を前記焼成炉の温度を焼成温度以下であって200℃以上に下げる工程を経て該焼成炉の外部の冷却部に移して冷却を実行し、且つ前記焼成炉に次の焼成工程用の焼成前駆体を入れて前記冷却部による冷却と並行して焼成を開始することを特徴とする原料焼成方法。
【請求項3】
請求項2に記載された原料焼成方法において、前記焼成炉の温度を焼成温度以下であって200℃以上に下げる工程で該焼成炉から放出される熱エネルギーを、次工程以降の焼成前駆体の予熱に利用することを特徴とする原料焼成方法。
【請求項4】
請求項3に記載された原料焼成方法において、次工程以降の焼成前駆体を前記焼成炉に接触させて前記熱エネルギーを吸収することを特徴とする原料焼成方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載された原料焼成方法において、前記焼成工程は、前記焼成炉内を不活性雰囲気にする不活性ガスを流しつつ行われ、前記焼成炉内を通過して加熱された前記不活性ガスの熱エネルギーを次工程以降の焼成前駆体の予熱に利用することを特徴とする原料焼成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載された原料焼成方法において、前記焼成前駆体は不活性ガスによるパージ部において不活性ガスでパージされて前記焼成炉内に入れられることを特徴とする原料焼成方法。
【請求項7】
二次電池用電極材料の原料である焼成前駆体を焼成炉に入れてバッチ処理によって繰り返し焼成する構成の原料焼成装置であって、
前記焼成炉と別に冷却部を備え、
先の焼成処理によって得られる焼成処理物を前記焼成炉の温度を下げる工程を経ずに該焼成炉の外部の冷却部に移して冷却を実行し、且つ前記焼成炉に次の焼成工程用の焼成前駆体を入れて前記冷却部による冷却と並行して焼成を開始するように構成されていることを特徴とする原料焼成装置。
【請求項8】
請求項7に記載された原料焼成装置において、前記焼成前駆体を不活性ガスによってパージするパージ部を備え、該パージ部において不活性ガスでパージされた焼成前駆体を前記焼成炉内に入れるように構成されていることを特徴とする原料焼成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−204596(P2011−204596A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73010(P2010−73010)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】