説明

原料粗結晶の精製方法

【課題】精製塔を用いて、高収率かつ安定的に原料粗結晶を精製する方法を目的とする。
【解決手段】精製塔1に備えられた加熱手段2により精製塔内部を加熱しながら、精製塔1内に原料粗結晶10を供給し、原料粗結晶10が精製された結晶を融解させた外部還流液14を塔頂側もしくは塔底側から供給し、原料粗結晶10から生じた不純物18を外部還流液14の供給側と逆側の塔底側もしくは塔頂側から排出して精製する方法であって、加熱手段2による加熱の見かけ加熱量Qrを、精製塔1の物質収支式、熱収支式、及び下式(I)を用いた計算に基づいて制御することを特徴とする原料粗結晶の精製方法。
Qa=α(T)×Qr ・・・(I)
(式(I)中、Qaは精製塔内部を加熱する正味の加熱量であり、α(T)は精製塔の外気温Tにおける、見かけ加熱量Qrの精製塔内部の加熱への寄与率である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物を含む原料粗結晶を高効率かつ安定に精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不純物を含む原料粗結晶を精製する方法としては、種々の型式のものがある。例えば、不純物を含む結晶性物質を、該結晶性物質の結晶成分が精製されたものを融解した融解液、あるいは他の溶媒を利用して連続的に精製を行う方法及び装置が知られている。
具体的には、精製塔の塔頂もしくは塔底に具備された加熱融解装置により結晶を融解した還流液、もしくは結晶を一旦外部に取り出して外部で加熱融解した還流液と、原料粗結晶とを向流接触させて精製する精製装置及び精製方法が示されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
特許文献1〜3のような原料粗結晶の精製には、精製塔内の向流接触中の洗浄作用、発汗作用、再結晶作用等が寄与していると考えられる。
洗浄作用とは、原料粗結晶表面に付着している不純物を、不純物が含まれていない還流液により洗い流す作用である。
発汗作用とは、強制的ないしは重力により前記還流液を液状加熱媒体として精製塔内で移動させ、原料粗結晶の温度よりも温度の高い還流液により該原料粗結晶を加温するか、または精製塔の内部に、熱媒により加熱操作が施せるような加熱室を設け、原料粗結晶を融解温度近傍で保持することにより、該原料粗結晶内部に取り込まれている不純物を溶出させる作用である。
再結晶作用とは、融点よりも低温で供給された結晶の温度が前記還流液により融点まで上昇する際の顕熱により、純度の高い還流液が粒子径の大きな結晶の近傍で一部再結晶化し高純度化が進む作用である。
ここで、塔頂もしくは塔底に備えられた加熱融解装置で結晶を融解した還流液、もしくは結晶を外部に取り出し、外部で加熱融解した還流液を外部還流液、発汗作用により精製塔内部で生成する、不純物が溶出された液を内部還流液と定義する。
【0004】
洗浄作用は還流液の流量を増大させることにより効果を向上させることができ、発汗作用は還流液の温度条件もしくは加熱器に供給する熱媒の流量を制御することにより効果を向上させることができ、これらにより高い精製能力が得られる。
【特許文献1】特開2001−58103号公報
【特許文献2】特許第3960485号公報
【特許文献3】特開2006−69959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3の方法では、長時間精製塔を運転する際、安定かつ高収率で精製操作を行うことは困難であった。該理由としては、夏季と冬季、昼間と夜間のような外気温の変化に伴って、精製効率が変動してしまうことが挙げられる。ここで、精製効率とは、原料粗結晶中に含まれる不純物が精製により除去される度合である。
精製により得られた製品の純度は、安定して高純度に維持される必要がある。そのため、従来は前述のような外気温による精製効率の変動が起こった場合、外部還流量を増加させることにより外気温の製品の品質への影響を低減していた。
【0006】
このように、外部還流量を増加させることで製品の品質が低下することを防ぐことができる。しかし、この方法では、精製塔を運転している間、常に製品の品質管理に注力しなければならず、運転員の運転負荷が高くなってしまう。また、外部還流量を増加させることは製品の減産に直結するため、外部還流量は少ない方が好ましい。外部還流量を低減して同じ効果を得る方法としては外部還流液の温度を高くすることが考えられる。しかし、この方法を用いたところ、製品の品質の向上は見られなかった。そのため、少ない外部還流量で製品の品質を向上させ、効率的かつ安定に原料粗結晶を精製する方法が求められている。
【0007】
そこで本発明は、優れた品質の製品を安定して高収率で得ることのできる原料粗結晶の精製方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の原料粗結晶の精製方法は、精製塔に備えられた加熱手段により精製塔内部を加熱しながら、前記精製塔内に原料粗結晶を供給し、該原料粗結晶が精製された結晶を融解させた外部還流液を塔頂側もしくは塔底側から供給し、前記原料粗結晶から生じた不純物を前記外部還流液の供給側と逆側の塔底側もしくは塔頂側から排出して精製する方法であって、前記加熱手段による加熱の見かけ加熱量Qrを、前記精製塔の物質収支式、熱収支式、及び下式(I)を用いた計算に基づいて制御することを特徴とする方法である。
Qa=α(T)×Qr ・・・(I)
(式(I)中、Qaは精製塔内部を加熱する正味の加熱量であり、α(T)は精製塔の外気温Tにおける、見かけ加熱量Qrの精製塔内部の加熱への寄与率である。)
【0009】
また、本発明の原料粗結晶の精製方法は、任意の外気温における前記計算を予め行っておき、その計算結果に基づいて前記見かけ加熱量Qrを制御することが好ましい。
また、前記見かけ加熱量Qrを、前記計算を行いながら制御することも好ましい。
また、前記加熱手段による加熱を、該加熱手段に熱媒を供給することにより行い、前記見かけ加熱量Qrの制御を該熱媒の流量又は温度を調節することにより行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の原料粗結晶の精製方法によれば、優れた品質の製品が高収率で安定して得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の原料粗結晶の精製方法の一実施形態例について詳細に説明する。
(原料粗結晶)
本発明の精製方法に用いる原料粗結晶は、例えば、精製塔の上流側に設置される晶析装置により得ることができる。
晶析装置は、伝熱面を介して熱交換を行う冷却器を備え、該晶析装置に供給された被処理流体を所望の温度に冷却できるもの等の公知の晶析装置を適宜用いることができる。晶析装置の具体例としては、例えば「化学工学便覧 改訂第六版」丸善株式会社発行、1999年、505〜520頁に記載されている装置が挙げられる。
特に、攪拌槽と、該攪拌槽の周面に外側から冷却媒体を接触させるための冷却ジャケットとを有する冷却器を備え、該攪拌槽の周面を伝熱面として、熱交換により攪拌槽内を冷却する攪拌槽型晶析装置(以下、冷却ジャケット式攪拌槽型晶析装置という。)が好適である。
【0012】
前記被処理流体は晶析操作を施す化合物を含む流体であればよく、例えば、被処理流体が粗製(メタ)アクリル酸であり、これに晶析操作を施して(メタ)アクリル酸の原料粗結晶を得る方法に適用される。本明細書において、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸及び/又はメタクリル酸を言い、粗製(メタ)アクリル酸とは、粗製メタクリル酸及び/又は粗製アクリル酸を言うものとする。
また、被処理流体として、ACH(アセトンシアノヒドリン)法で副生するメタクリル酸を抽出や蒸留により分離することにより得られる粗製メタクリル酸も好適に用いることができる。
【0013】
また、被処理流体として、イソブチレン、第三級ブチルアルコール、メタクロレイン又はイソブチルアルデヒドを、一段または二段で分子状酸素と反応させる接触気相酸化によって得られる反応ガスを、水に吸収させて得られた水溶液から、有機溶剤を用いてメタクリル酸を抽出し、蒸留により有機溶剤及び不揮発分を除去して得られる粗製メタクリル酸も好適に用いることができる。この場合には、晶析操作により前記粗製メタクリル酸からアルデヒド類等の不純物を除去することができる。
【0014】
晶析操作においては、まず冷却ジャケット式攪拌槽型晶析装置に被処理流体を供給する。被処理流体の供給手段は特に限定されず、公知の供給手段を適宜用いることができる。
ついで、当該晶析装置に供給された被処理流体を冷却することにより結晶を析出させる晶析操作を行う。晶析操作は回分式であっても連続式であってもよいが、被処理流体から結晶を連続的に晶出させる操作を安定して行うことができる点から、連続式であることが特に好ましい。
【0015】
冷却ジャケット式攪拌槽型晶析装置において、被処理流体を冷却する冷却温度は、被処理流体中に目的とする化合物の結晶が析出し始める温度である結晶析出温度以下であればよい。例えば、被処理流体が粗製(メタ)アクリル酸である場合は、操作性の点から冷却温度を−10〜10℃の範囲内で設定することが好ましい。
【0016】
また、必要に応じて、被処理流体に結晶析出温度を調整するための成分を添加してもよい。例えば、被処理流体として粗製(メタ)アクリル酸を用いる場合、第二成分として(メタ)アクリル酸と固溶体を形成しない極性有機物質を添加することにより、結晶析出温度を低下させることができる。極性有機物質の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。
【0017】
前記第二成分の添加量は、被処理流体及び第二成分の種類によっても異なるが、被処理流体に対して1〜35質量%の範囲内であることが好ましい。
例えば、被処理流体として粗製メタクリル酸を用いる場合、メタクリル酸の融点が15℃であるのに対して、結晶析出温度が−10〜10℃となるように、第二成分の添加量を設定することが好ましい。
【0018】
晶析操作を経た被処理流体は、晶析装置から抜き出された後、結晶と母液とに固液分離される。結晶と母液とに分離する方法は、固体と液体とを分離できる方法であれば特に制限はなく、例えば、ろ過法、遠心分離法等の公知の固液分離方法を用いることができる。分離操作の形式は、回分式または連続式のいずれであってもよい。
以上説明した操作により、精製塔に供給する原料粗結晶を得ることができる。
【0019】
例えば、被処理流体に粗製メタクリル酸を用いる場合、原料粗結晶として母液を含んだメタクリル酸の結晶が得られる。ここで、原料粗結晶量に対する原料粗結晶中に含まれる液体量の割合を結晶含液率qmと定義すると、結晶含液率qmが5〜20質量%となるような固液分離方法又は分離条件を選定することが好ましい。
母液には、被処理流体に任意に添加された第二成分と、濃縮された不純物と、析出しなかった(メタ)アクリル酸とが含まれている。
ここで、結晶含液率qmの測定方法としては、原料粗結晶中に含まれる液体は前記母液とほぼ同じであることから、結晶含液率は母液に含まれる化合物で結晶には実質的に取り込まれない化合物Xを選定し、母液中の当該化合物Xの濃度(A質量%)と原料粗結晶(液体を含む)を融解した液中の当該化合物Xの濃度(B質量%)を測定し、次式により算出する方法が例示できる。
結晶含液率qm=A/B×100
なお、化合物Xとしては、被処理流体に任意に添加された第二成分、濃縮された不純物などから選ぶことができる。
【0020】
(精製塔による精製)
本発明の精製方法における精製塔としては、精製塔に備えられた加熱手段により精製塔内部を加熱しながら、精製塔内に原料粗結晶を供給し、該原料粗結晶が精製された結晶を融解させた外部還流液を塔頂側もしくは塔底側から供給し、前記原料粗結晶から生じた不純物を前記外部還流液の供給側と逆側の塔底側もしくは塔頂側から排出して精製するものを用いることができる。
すなわち、外部還流液を塔頂側から供給するものであっても塔底側から供給するものであってもよい。本発明における精製塔は、外部還流液を塔頂側から供給される場合は前記不純物を塔底側から排出する精製塔であり、外部還流液を塔底側から供給する場合は前記不純物を塔頂側から排出する精製塔である。
【0021】
精製塔内部を加熱する加熱手段としては、精製塔の外壁、すなわち精製塔缶体表面に設けられ、該精製塔缶体表面を加熱して精製塔内部を加熱する精製塔缶体表面加熱器、及び精製塔内の一部に熱媒により精製塔内部を加熱する加熱室が挙げられる。
精製塔としては、例えば、特許文献1〜3に記載の精製塔が挙げられる。
【0022】
図1は、本発明における精製塔の実施形態の一例(例えば、特許文献1の精製塔)を示した模式図である。
精製塔1は、加熱手段2として精製塔缶体表面に精製塔缶体表面加熱器が設けられている。加熱手段2により精製塔缶体表面を加熱して精製塔内部を加熱する。また、精製塔1の外部には、精製塔1から得られる精製された結晶を融解させて外部還流液とする外部加熱器3が設けられている。
【0023】
加熱手段2である精製塔缶体表面加熱器は、精製塔缶体表面を加熱することができるものであればよく、加熱量を高い精度で制御しやすい点から、精製塔缶体表面に加熱チューブらせん状に巻き回し、これに蒸気もしくは温水等の熱媒を流通させる加熱器であることが好ましい。加熱チューブをらせん状に巻き回す場合には、該加熱チューブを精製塔1の高さ方向に区分し、分割して巻きつけてもよい。
また、精製塔缶体表面加熱器は、熱媒の流通させるものの他、電熱ヒータ等を使用してもよい。
以下、加熱手段2が前者の熱媒を流通させる加熱器である場合について説明する。
【0024】
本実施形態の精製塔1では、塔底側から原料粗結晶10が供給される。また、塔頂側から精製塔留出分12(精製された結晶、製品)が取り出される。精製塔留出分12の一部は外部還流液14として精製塔1の塔頂から精製塔1に戻され、精製塔留出分12の残りが製品16となる。外部還流液14には、精製塔1内部で精製された原料粗結晶10が表面加熱器2による加熱により融解された還流液と、精製塔留出分12に含まれる精製された結晶が外部加熱器3により融解された還流液とが含まれている。また、精製塔1の塔底からは不純物18が濃縮された母液が排出される。
これにより、塔底側から供給された原料粗結晶10が、塔頂側から供給された還流液と向流接触し、原料粗結晶10の精製が行われる。
【0025】
本発明の精製方法における精製塔1への原料粗結晶10の供給量(MASS、単位:kg/h)は、精製塔1の種類及び精製塔缶体の外径、高さ等によって適宜設定すればよい。
精製塔1に供給する原料粗結晶10の温度tは、5〜6℃であることが好ましい。
また、精製塔1からの濃縮された不純物18を含んだ母液の排出量(LOSS、単位:kg/h)は、MASS及び製品16の留出量(PY、kg/h)により適宜調節すればよい。
【0026】
精製塔1の塔頂への外部還流液14の供給量(REF、単位:kg/h)は、洗浄作用の効果により製品の品質を維持していく点から、最低量REFmin以上に設定する必要がある。
洗浄効果を充分に発揮させることのできるREFminは、すでに本発明者らにより前記結晶含液量と等量であることが見出されている。すなわち、REFminは、下式(1)により算出することができる。
REFmin=MASS×qm/(100−qm) ・・・(1)
(式中、qmは原料粗結晶10の結晶含液率である。)
また、外部還流液14の供給量が多すぎると製品16の生産性が低くなる。そのため、REFは、REFminの1.0〜1.1倍にすることが好ましい。
【0027】
外部還流液14の温度tは、35〜40℃であることが好ましい。外部還流液14の温度tを35℃以上とすれば、発汗作用を充分に発揮させやすい。また、外部還流液14の温度tを40℃以下とすれば、精製効率が低下して製品16の品質が劣化することを抑制しやすい。外部還流液14の温度t及び量は、外部加熱器3に供給する加熱量Q(単位:W)により調節することができる。
精製塔留出分12の温度は、外部還流液14の温度tと同じ温度である。
【0028】
本実施形態の精製方法においては、精製塔1の外気温T(単位:℃)によらず、効率的かつ安定に原料粗結晶10を精製するために、加熱手段2による加熱の見かけ加熱量Qrを制御する。見かけ加熱量Qrの制御には、物質収支式、熱収支式、及び見かけ加熱量Qr(単位:W)と加熱手段2が実質的に精製塔1を加熱する正味加熱量Qa(単位:W)との関係式を用いる。
【0029】
本実施形態における物質収支式は、下式(2)及び(3)で表される。
MASS=PY+LOSS ・・・(2)
DIST=PY+REF ・・・(3)
(式(3)中、DISTは、精製塔1からの精製塔留出分の排出量(kg/h)である。)
【0030】
また、本実施形態における熱収支式は、下式(4)で表される。
MASS×CPS×t+REF×(DH+CPL×t)+Qa+Q
=LOSS×(DH+CPL×t)+DIST×(DH+CPL×t) ・・・(4)
(式(4)中、CPSは結晶の比熱(単位:kJ/kg/℃)、DHは結晶の結晶化熱(単位:kJ/kg)、CPLは製品の液比熱(単位:kJ/kg/℃)、tは濃縮された不純物18を含んだ母液の排出温度(単位:℃)である。)
CPS、CPL、DHは精製中の各成分の物性定数であり、MASS、t、t、tは実測運転データを代入する。
【0031】
加熱手段2による精製塔缶体表面の加熱は、加熱操作中に放熱現象(図1におけるQb(単位:W)が起きているため、見かけ加熱量Qrの全てが精製塔1の加熱に寄与するわけではなく、精製塔1の保温の形態及び外気温Tにより変化する。すなわち、外気温Tにより正味加熱量Qaが変化してしまう。見かけ加熱量Qrと正味加熱量Qaとの関係は、下式(I)で表される。
Qa=α(T)×Qr ・・・(I)
(式中、α(T)は、精製塔1の外気温Tにおける、見かけ加熱量Qrの精製塔内部の加熱への寄与率である。)
【0032】
外気温T(単位:℃)は、精製塔1が設置されている環境の温度を表す。具体的には、精製塔1付近で測定した温度を用い、精製塔1にできるだけ近い位置での測定温度であることが好ましい。
α(T)は、外気温T、装置代表温度(Ts)(単位:℃)、精製塔1の缶体の外径、保温層厚み、保温材の熱伝達率、および精製塔1の缶体の熱伝導率等により変化する。α(T)は、用いる精製塔1において、任意の外気温Tにおけるα値を実測値から算出し、それら任意の外気温Tにおけるα値を少なくとも5点以上選び、外気温Tに対する加熱量寄与率α(T)のn次近似線を得ることにより求めることができる。
【0033】
装置代表温度(Ts)とは、外気温(T)との差に基づいてα(T)を算出する際に基準となる精製塔1の代表温度である。
装置代表温度(Ts)は、厳密には精製塔1とその外側の環境との界面における精製塔1の温度であることが好ましいが、これと連動して変化する温度であればよく、装置代表温度(Ts)の測定点は使用する精製塔1によって適宜選択することができる。装置代表温度(Ts)としては、例えば、精製塔1内部の被処理液(原料粗結晶10を含有する母液)の温度、精製塔1の表面温度等を用いることができる。
【0034】
加熱手段2に加えられる見かけ加熱量Qrは、加熱手段2の運転状態から算出される。
熱媒が温水である場合は、加熱手段2の入口の温水温度と出口の温水温度との差を△t(単位:℃)、加熱手段2に供給する温水流量をM(単位:kg/h)、温水の比熱をCp(単位:kJ/(kg・℃))とすると、下式(5)により見かけ加熱量Qr(単位:W)を算出することができる。
Qr=0.28×M×Cp×△t ・・・(5)
【0035】
また、熱媒が蒸気である場合は、使用圧力での蒸気エンタルピーをH(単位:kJ/kg)、使用圧力での凝縮水エンタルピーをH(単位:kJ/kg)、加熱手段2に供給する蒸気流量をm(単位:kg/h)とすると、下式(6)により見かけ加熱量Qr(単位:kJ/h)を算出することができる。
Qr=0.28×m×(H−H) ・・・(6)
【0036】
本発明において、正味加熱量Qa、見かけ加熱量Qr(Qr、Qr)の値を求める方法、及び該加熱量の値を管理しつつ加熱条件を制御する方法は特に制限されない。
例えば、精製塔1の運転状態から電卓等を用いて正味加熱量Qa及び見かけ加熱量Qr(Qr、Qr)を算出した後、手動にて精製塔1の運転条件を変更する方法であってもよく、DCS(Distributed Control System)やコンピュータを用いて正味加熱量Qa及び見かけ加熱量Qr(Qr、Qr)を自動で計算し、表示させた後、手動もしくはPID(proportional−integral−derivative)コントロール等の自動制御により、精製塔1の運転条件を変更する方法であってもよい。
【0037】
前記式(2)〜(4)及び前記式(I)を用い、必要な運転状態のデータを代入しながら正味加熱量Qaと精製収率との関係を調べることにより、精製収率が最大になる時の正味加熱量Qaである最適加熱量Qpを得ることができる。
そして、正味加熱量Qaの値が最適加熱量Qpの値と同等になるように見かけ加熱量Qrを制御することにより、効率的かつ安定に原料粗結晶の精製を行うことができる。
【0038】
例えば、正味加熱量Qaが最適化熱量Qpよりも大きい場合は、精製塔1内において発汗作用が過剰に起こることで、原料粗結晶10の融解現象が必要以上に進行しており、精製収率が低下していると判断できる。この場合には、見かけ加熱量Qrを小さくするように運転条件を変更することにより、正味加熱量Qaを低減させることができる。
一方、正味加熱量Qaが最適化熱量Qpよりも小さい場合は、精製塔1内において原料粗結晶10への加熱が不足している傾向にあるために発汗作用が抑制されており、それにより精製効率が低下してくることが予測できる。この場合には、見かけ加熱量Qrを大きくするように運転条件を変更することにより、正味加熱量Qaを増大させることができる。
見かけ加熱量Qrを調節する方法は、加熱手段2に供給する熱媒の温度(入口温度)、または供給量を調節する方法であることが好ましい。
【0039】
また、本発明の精製方法は、任意の外気温Tにおいて式(2)〜(4)及び式(I)を用いた計算を予め行って最適加熱量Qpを求めておき、それに基づいて見かけ加熱量Qrを制御して精製塔1を運転する方法であることが好ましい。この場合には、例えば、熱媒を用いた加熱手段2を有する精製塔1では、任意の外気温Tにおける最適加熱量Qpに対応する熱媒の温度及び供給量を算出しておくことにより、精度の高い制御を行うことができる。また、予めそれらを算出しておく場合の外気温Tの刻み値は、特に限定されず、例えば5℃刻みで算出しておく方法が挙げられる。
また、本発明の精製方法としては、式(2)〜(4)及び式(I)を用いた計算を行いながら見かけ加熱量Qrを制御して精製塔1を運転する方法を用いてもよい。
【0040】
以上説明した本発明の精製方法は、精製塔1の物質収支及び熱収支、並びに見かけ加熱量Qrと正味加熱量Qaとの関係式を用い、外気温Tの変化に伴って精製塔1の外壁から環境中に放出される熱量の変化を加味して、正味加熱量Qaが最適加熱量Qpとなるように見かけ加熱量Qrを制御している。そのため、外部還流液の供給量を増加させることなく、外気温に左右されずに最適な条件で精製を行える。したがって、本発明の原料粗結晶の精製方法によれば、優れた品質の製品を効率的かつ安定に得ることができる。
【0041】
尚、本発明の精製方法は、図1に例示した精製塔1を用いる方法には限定されない。例えば、加熱手段として精製塔缶体表面加熱器が設けられた精製塔ではなく、精製塔内部に、熱媒により加熱操作が施せるような加熱室が設けられた精製塔を用いる方法であってもよい。この場合においても、前述の方法と同様に加熱室に供給する熱媒による見かけ加熱量Qrを制御することで効率的かつ安定に原料粗結晶を精製することができる。
また、図2に示す精製塔4であってもよい。精製塔4において精製塔1と同じ部分については同符号を付して説明を省略する。精製塔4では、原料粗結晶10を塔頂側から供給し、外部還流液14を塔底側から供給し、不純物18を塔頂側から排出する。精製塔4を用いる方法であっても、前述の精製塔1を用いる方法と同じ方法で精製を行うことができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
精製塔としては、図1に例示した精製塔1(特開2001−58103号公報(特許文献1)に記載)を用いた。
熱媒20としては、300kPaGの飽和蒸気を用いた。
また、精製塔1におけるα(T)の近似式を求めたところ、
α(T)=9.0×10−6×T+0.0009×T+0.1612 ・・・(7)
であった。
外気温Tは、精製塔1近辺に熱電対を設置して測定した。また、装置代表温度Tsは、被処理液の融点とした。
【0043】
[調製例]原料粗結晶の調製
メタクロレインを分子状酸素で接触気相酸化し、得られた反応生成ガスを凝縮し、抽出した後、蒸留することにより粗製メタクリル酸を得た。得られた粗製メタクリル酸に第二成分としてメタノールを4.0質量%になるように添加し、これを冷却ジャケット式攪拌槽型晶析装置を用いて晶析操作を行い、得られたスラリーを固液分離した後、原料粗結晶についてガスクロマトグラフィーにより成分分析を行ったところ、表1に示される不純物が含まれていた。母液中のメタノールの濃度と原料粗結晶(液体を含む)を融解した液中のメタノールの濃度から算出した結晶含液率qmは15質量%であった。なお、メタノールはメタクリル酸の結晶には実質的に取り込まれない化合物である。
【0044】
【表1】

【0045】
[実施例1]
精製塔1に、前記調製例で得られた原料粗結晶を供給量(MASS)1500kg/hで供給した。また、tは5.3℃、tは38℃、tは15℃、外部還流液の供給量(REF)は230kg/hとして、120時間連続運転を行った。
精製操作中、得られるデータから前記式(2)〜(3)及び前記式(I)により最適加熱量Qpを算出したところ14933Wであった。そこで、加熱手段2に供給する蒸気の流量を調節することにより、正味加熱量Qaが14933Wとなるように見かけ加熱量Qrを制御して精製を行った。見かけ加熱量Qrは、式(6)及び(7)と式(I)を用いて算出した。蒸気流量mの調整、各パラメータの測定および算出は前記DCSを用いて、1分毎に連続して行った。
【0046】
[比較例1]
蒸気流量mを127kg/h(見かけ加熱量Qr=75833W)に固定した以外は、実施例1と同様の方法で精製塔1の連続運転を行った。ただし、外気温Tが20℃のときはREFが230kg/hでは不純物の濃度が増加したので、REFを265kg/hに増加させて不純物の濃度をTが30℃のレベルに保持した。
【0047】
実施例1および比較例1における精製収率を運転条件と共に表2に示す。ただし、表2の結果は、外気温Tが30±0.5℃、20±0.5℃におけるDCSから得られる値の平均値を示したものである。
また、実施例1で得られた製品をガスクロマトグラフィーで成分分析した結果を表3に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
表2に示すように、実施例1では、外気温Tが20℃であっても30℃であっても精製収率が高く、安定して精製を行うことができた。また、表3に示すように、精製により得られた製品は不純物が充分に取り除かれており精製効率が高かった。
一方、見かけ加熱量Qrを制御しなかった比較例1では、表2に示すように、外気温Tが30℃である場合は精製収率が実施例1と同等であるものの、外気温Tが20℃になると精製収率が低下し、安定に精製を行うことができなかった。該理由としては、精製塔1の熱収支上、外気温Tが低くなった場合に正味加熱量Qaが減少し、内部還流量の低下により製品中の不純物濃度が上昇することが予測されたため、正味加熱量不足分を補うように外部還流量の供給量を増加させたためと考えられる。
【0051】
[実施例2]
精製塔1の各外気温Tに対応する最適加熱量Qpを予め算出し、蒸気流量mに換算した。その結果を表4に示す。
【0052】
【表4】

ついで、表4の計算結果に基づき、外気温Tに応じて蒸気流量mを調節することにより見かけ加熱量Qrを制御した以外は、実施例1と同様にして精製塔の連続運転を行った。
その結果、精製収率は実施例1と同等であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の精製方法は、原料粗結晶を効率的かつ安定に精製することができるため、粗製(メタ)アクリル酸の精製方法として好適にできる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明における精製塔の実施形態の一例を示した模式図である。
【図2】本発明における精製塔の他の実施形態の一例を示した模式図である。
【符号の説明】
【0055】
1 精製塔 2 加熱手段 3 外部加熱器 4 精製塔 10 原料粗結晶 12 精製塔流出分 14 外部還流液 16 製品 18 不純物 20 熱媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製塔に備えられた加熱手段により精製塔内部を加熱しながら、
前記精製塔内に原料粗結晶を供給し、該原料粗結晶が精製された結晶を融解させた外部還流液を塔頂側もしくは塔底側から供給し、前記原料粗結晶から生じた不純物を前記外部還流液の供給側と逆側の塔底側もしくは塔頂側から排出して精製する方法であって、
前記加熱手段による加熱の見かけ加熱量Qrを、前記精製塔の物質収支式、熱収支式、及び下式(I)を用いた計算に基づいて制御することを特徴とする原料粗結晶の精製方法。
Qa=α(T)×Qr ・・・(I)
(式(I)中、Qaは精製塔内部を加熱する正味の加熱量であり、α(T)は精製塔の外気温Tにおける、見かけ加熱量Qrの精製塔内部の加熱への寄与率である。)
【請求項2】
任意の外気温における前記計算を予め行っておき、その計算結果に基づいて前記見かけ加熱量Qrを制御する、請求項1に記載の原料粗結晶の精製方法。
【請求項3】
前記見かけ加熱量Qrを、前記計算を行いながら制御する、請求項1に記載の原料粗結晶の精製方法。
【請求項4】
前記加熱手段による加熱を、該加熱手段に熱媒を供給することにより行い、
前記見かけ加熱量Qrの制御を該熱媒の流量又は温度を調節することにより行う、請求項1〜3のいずれかに記載の原料粗結晶の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−59107(P2010−59107A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227144(P2008−227144)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】