説明

原油およびジメチルエーテルの同時輸送方法

【課題】 ジメチルエーテルを専用の輸送手段を新たに用意することなく、既存の原油輸送インフラ等を用いて輸送することができる新規なジメチルエーテルの輸送方法を提供する。
【解決手段】 原油に対しジメチルエーテルを1〜10質量%含有させたジメチルエーテル混合原油を、パイプラインを用いて輸送するジメチルエーテルおよび原油の同時輸送方法。パイプラインとしては、例えば、既存の原油用パイプラインを用いる。輸送されたジメチルエーテル混合原油は、下流の石油精製設備において分離処理し、LPG混合物またはDME単味製品として最終製品化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原油およびジメチルエーテルの同時輸送方法に関し、詳しくは、原油パイプラインで原油とともにジメチルエーテルを同時輸送する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界の油田施設で見られる炎(フレア)は、原油生産時の随伴ガスを燃焼(フレアリング)させているものである。この随伴ガスは、低級パラフィン系炭化水素を主成分とする天然ガスの1種であり、経済的な輸送手段がないことなどにより、現在はそのほとんどが利用されておらず、地中に再注入するか、上述のようにフレアリングされて処理されている。このため、COなどの地球温暖化ガスが大気中に大量に排出されることになっている。
【0003】
一方、上述の随伴ガスを利用してジメチルエーテル(以下、DMEという)を生産する技術が知られている。DMEは、ハロゲンを含まず、それ故にオゾン分解能が小さいため、スプレー缶の噴射剤等に多く使用されている他、クリーンな新燃料としての利用が考えられている。
【0004】
しかしながら、DMEの輸送手段としては、タンカー、貨車、トラックに加え、パイプラインによる輸送が検討されているが(例えば、非特許文献1参照)、これらは、いずれもDME専用の輸送を前提としており、既存の原油輸送に影響を与えることなく、DMEの輸送を行うためには、新規投資を伴う専用の輸送手段を用意する必要があった。
このため、特に消費地から遠隔地にある原油産地の随伴ガスはフレアリングを行うしかなく有効利用は実現できていなかった。
【非特許文献1】ジメチルエーテル戦略研究会報告書、平成12年9月、資源エネルギー庁石炭・新エネルギー部石炭課
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、原油産地において随伴ガスを原料としてDMEを製造し、これを既存の原油輸送インフラ等を利用して原油とともに輸送することができる、新規な原油−DMEの輸送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(1)原油に対しDMEを1〜10質量%含有させたDME混合原油を、パイプラインを用いて輸送することを特徴とする原油およびDMEの同時輸送方法、および、
(2)前記パイプラインが既存の原油パイプラインであることを特徴とする(1)項記載の原油およびDMEの同時輸送方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、DME製品輸送に関わる新規投資を抑えることができ、従来これらが障壁となって進まなかった未利用随伴ガスのDME転換による利用が促進され、フレアリングにより排出されていた地球温暖化ガスを削減できる。とりわけ、既存原油パイプラインを用いた原油−DMEの輸送では、原油の輸送能力を落とすことなく、逆に輸送性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、用いられるパイプラインは、新設された原油パイプラインでも良いが、既存の原油パイプラインをそのまま用いることが経済上好ましい。原油パイプラインには、DMEを原油に混合するポンプ、配管、および注入混合ノズルを設ける。
本発明において、原油に対するDMEの含有量は、1〜10質量%であり、3〜8質量%が好ましく、5質量%前後がさらに好ましい。DMEの含有量が多すぎると蒸気圧が高くなることに加え、体積の増加により原油の輸送量を十分確保できない場合があり、また、DMEの含有量が少なすぎると充分な量のDMEの輸送ができない場合がある。
本発明において、DME混合原油をパイプラインで輸送する際の運転圧力は98〜588Pa(10〜60kg/cmg)が好ましく、196〜490Pa(20〜50kg/cmg)がさらに好ましい。また、運転温度は、輸送を行なう地域の常温近辺の温度が好ましく、ロシアのような寒冷地での常温近辺が経済上さらに好ましい。
【0009】
本発明の好ましい実施態様では、パイプライン輸送の原油に対し、原油産地において製造されたDMEを1〜10質量%を混合し、既存インフラを用いて輸送するものである。DMEと原油の混合比率は、DMEの輸送必要量と、原油およびDME混合原油の性状、並びに、パイプラインの操業条件に依存する最適比率を考慮して決定されるのが望ましい。所定のDME混合比率(通常は1〜10%)をパイプライン内で維持することにより原油の輸送能力を落とさず、原油とDMEを併送することができる。
【0010】
また、本発明により併送されたDMEは石油留分(液化石油ガス(LPG)留分)との親和性、分離性とも良く、輸送された原油は消費用処理設備(通常は石油精製設備)において、分離処理し、消費市場の要求に応じてDME/LPG混合、もしくはDME単味として最終製品化し、出荷が可能である。
本発明の方法により輸送されるDME混合原油は、通常の石油精製設備において石油製品に精製、変換することができ、また、DMEの原油からの再分離は同じ石油精製設備において、適宜容易に可能である。
【0011】
次に、本発明を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施態様の工程図である。図1では主要装置、設備、並びに原料および製品のみを示している。図1中、1は配管、2はポンプ、3は注入ノズル、4はDME製造プラント、5はDME貯蔵タンク、6は原油パイプラインである。
油井から採掘された原油は、集油設備に集められる。一方、随伴ガスは、DME製造設備に送られ、DMEが製造される。随伴ガスは典型的にはメタンなどの軽質炭化水素を主成分とするガスである。DME製造設備中のDME製造プラント4で製造されたDMEは配管1を通じて、一旦DME貯蔵タンク5に集められ貯蔵される。次いでポンプ3により、配管1、次いで注入ノズル3を介して、原油パイプライン6の入り口附近で原油に混合させる。DME混合原油は原油パイプライン6を通じて、石油精製設備に送られる。石油設備においては、DME混合原油は、蒸留装置により、各種石油製品が生成されるととともに、DMEが再分離、回収される。また、蒸留装置にてカットポイントを適宜変更することでDME/LPG混合が物が得られる。
【0012】
蒸留装置での分離は成分の沸点の違いを利用して行なわれる。表1に示すとおり、DMEの沸点はLPGと総称されるプロパンとn−ブタンの間にあり、LPG混合物として分離される。DMEはLPGとの混合物としても利用可能であり、この場合はさらなる分離は不要である。DMEを単味で分離する必要がある場合には、LPG/DME混合物を、既知の方法により、蒸留設備にて、まずプロパンを分離し、次に、DMEをブタンから分離することにより可能である。なお、図1に、プロパン、ブタン、DMEの沸点とともに、参考としてディーゼル、LNG、メタノールの沸点、並びに、それぞれの製品のLHV(低発熱量)などの特性値を合わせて示した。
【0013】
【表1】

【実施例】
【0014】
以下に本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
実施例1
DME輸送テストを、原油として、アラビアンミディアムを用い、直径32インチの鋼製管からなるパイプライン(年間2,000万トンクラスの原油輸送)によって行った。
まず参考例となるケースA0として、DMEを含有させないアラビアンミディアムを原料油とし、運転圧力490Pa(50kg/cmg)、運転温度15℃輸送した。原料油の密度(kg/m)、粘度(mPa・s)および流動点(℃)、並びに、流体の速度(m/s)および配管内の圧力損失ΔP(Pa/10km)を常法により測定した。結果を、原油量(トン/日)、DME量(トン/日)、DME混合比率(質量%)および総流量(トン/日)とともに表2に示す。
次に、ケースA0において、原料油を原油に対しDMEを1,3,5,7,10%をそれぞれ注入した混合油に代えた以外は同様にして輸送テストを行った。DMEを1,3,5,7,10%をそれぞれ注入した場合をそれぞれケースA1,A3,A5,A7,A10とした。結果を併せて表2に示す。
【0016】
【表2】

【0017】
表2から分かるように、DMEを1〜10%原油に混合させた本発明のケースでは、DMEの含有量が多くなるほど流動点が低下し(例えば、DMEを含有しないA0では−1.5℃であるのに対し、DMEを10%含有したA10では−4.1℃)、また、粘度が減少した(A0では1.69mPa・sであるのに対し、A10では0.67mPa・s)。このため、配管内の圧力損失(ΔP)の低減効果があり、輸送性が向上する。表2のケースでは、この輸送性向上効果は、総流量の増加と密度減少による総体積の増加による影響を相殺するには至らず、結果としてΔPの増加となる。
【0018】
実施例2
運転温度を0℃とした以外は、実施例1と同様にDME輸送テストを行った。結果を表3に示す。
【0019】
【表3】

【0020】
表3から分かるように、運転温度を0℃とした場合には、実施例1と同様に、DMEの含有量が大きくなるほど、流動点が減少し(例えば、DMEを含有しないa0では−1.5℃であるのに対し、DMEを10%含有したa10では−4.1℃)、また、粘度が減少した(a0では2.21mPa・sであるのに対し、a10では0.82mPa・s)。このため、ΔPの低減効果があり、輸送性が向上する。表3のケースでは、総流量が10%増加し、密度の減少(a0では883kg/mであるのに対し、a10では861kg/m)を考慮すれば、体積流量で13%増加しているにもかかわらず、ΔPの増加は10%にとどまっている
【0021】
実施例3
用いた原油をティピカルロシア原油に代えた以外は、実施例1と同様にDME輸送テストを行った。結果を表4に示す。
【0022】
【表4】

【0023】
表4に示されるように、DMEが1〜10質量%含有された原油は、DMEが混合されていない原油にくらべ、いずれも密度が減少し、体積が増加するが、粘度(例えば、DMEを含有しないB0では4.18mPa・sであるのに対し、DMEを10%含有したB10では0.91mPa・s)および流動点(B0では14.3℃であるのに対し、B10では11.4℃)が下がり、輸送性が改善されている。すなわち、総流量が10%増加しているにもかかわらず、ΔPはほとんど変わらない(ΔPはB0では23.72Pa/10kmであり、B10でも23.91Pa/10kmである。)。とりわけ、このティピカルロシア原油の例のように、流動点が高いものでは、寒冷地でのパイプライン輸送において、DMEの混合効果による輸送性の改善効果大きい。
【0024】
実施例4
実施例3におけるケースB5の混合油を図2に示す工程により分離回収した。パイプライン21にて輸送された原油/DMEは、一旦、原油タンク22に貯蔵された後、再びポンプ23にて昇圧され、配管24を通じて石油精製設備に送られた。石油精製設備において原油/DMEは、まず熱交換器25を介して圧力196Pa、温度190℃で運転される気液分離器26に送られ、原油/DME中の約60%のDMEが気化し、原油から分離され配管24’を通じて回収された。残った原油中には通常微量の塩分が含まれているため、これを水系に除くために脱塩器(デソルター)27に送られた。塩分を除かれた原油/DMEはさらに熱交換器25を介して、加熱炉28に送られ、さらに360℃に昇温され、気液分離器26でDMEが気化、回収された。残りの原油/DMEは蒸留塔29に送られ、各石油製品が得られた。
また、上述の脱塩器では、DMEの多くは原油中に留まり、残りの約5%が水系に同伴される。したがって、原油/DME中のDMEの約95%は原油から容易に分離回収することができる。水系からDMEをさらに回収するためには、別の設備が必要となるが、例えば、水系を加熱することによりDMEを気体として分離する蒸留装置によって回収可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施態様の工程図である。
【図2】実施例5における原油/DMEの分離回収の工程図である。
【符号の説明】
【0026】
1 配管
2 ポンプ
3 注入ノズル
4 DME製造プラント
5 DME貯蔵タンク
6 原油パイプライン
21 パイプライン
22 原油タンク
23 ポンプ
24 配管
25 熱交換器
26 気液分離器
27 脱塩器
28 加熱炉
29 蒸留塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原油に対しジメチルエーテルを1〜10質量%含有させたジメチルエーテル混合原油を、パイプラインを用いて輸送することを特徴とする原油およびジメチルエーテルの同時輸送方法。
【請求項2】
前記パイプラインが既存の原油パイプラインであることを特徴とする請求項1記載の原油およびジメチルエーテルの同時輸送方法。

【図1】
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【図2】
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