説明

原色及び原型並びに栄養素を保持した介護食用大豆

【課題】大豆の食材としては、煮豆に代表され、嚥下食としての加工品も輩出されているが、咀嚼・嚥下能力の低下した人には煮豆は硬く、食感も悪い。よってその色彩や形状は勿論、栄養素までも原材料の大豆に近い状態ながら、その硬度を介護食に相当する軟らかな大豆として提供する。
【解決手段】予め外皮を剥皮した大豆を高温条件の雰囲気において蒸煮し、完成品としての大豆の硬度をユニバーサル規格の5,000〜500,000N/cmとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
見た目には全くの原色及び原型を保ちながら含有する栄養素を最大限残し、噛む力を要しない軟らかな介護食用大豆を提供する。
【背景技術】
【0002】
人間の寿命が世界一を誇る日本では高齢者数のより一層の増加傾向にあることは喜ばしいことではあるが、加齢と共に身体各部位の筋肉の衰えは容赦なく襲ってくるものであり、食事においても咀嚼能力や嚥下能力の低下が起こる。咀嚼・嚥下能力の低下は食欲の低下を招き、栄養の摂取不良を引き起こすだけでなく,食事の楽しみまでも奪い取ってしまう。
病弱な人や既に噛む力の相当衰えた人には介護食を摂取するという方法が常識化しているものの、刻み食やミキサー食に代表される介護食は素材の原型を留めておらず、素材の形や色を目で楽しむことは到底無理であり、流動食と同じく食する者にとっては味気ない食材と言える。
【0003】
日本人は古来より、京料理に代表されるように調理されたその素材の経常的及び色彩の美を目視的に楽しみ、また口に入れた後はその食材の持つ独特の噛みごたえ(歯ごたえともいう)、そして舌と喉で感じる素材独自の味を楽しむことによって、初めて食を取るという生活を先祖代々送ってきていることは周知の事実である。
従って、刻み食やミキサー食或いは流動食等のように素材の特徴を楽しむにこととは無縁の食事は、食欲を奪うと共に食事の楽しみさえも奪うことに繋がり、悲しむべきことと言わざるを得ない。
【0004】
中でも栄養の宝庫と言われる大豆は、加工品として代表的な豆腐を初め、味噌、醤油などの原料として古くから日本人にはなじみ深い食材であり、ボイルした煮豆や佃煮等とあわせた食品も多く出回っている。しかし、食材の形状を保ちつつボイル処理を行うには、煮崩れしない程度に食材が一定の固さを有する必要があることからも分かるように,柔らかい食品に加工する場合は食材の形状に崩れが発生することは当然の理である。
【0005】
納豆や味噌・醤油の原料として大豆の軟化法が提案されている(特許文献1参照)が、特に納豆や味噌の場合、大豆全体の軟化を目的としているものの完成した製品の中での大豆にその素材を感じる一定の硬度を感じ取る程度の硬度であり、必ずしも大豆の原型を保った結果が得られておらず、大豆単体で用いられることも殆どない。
【0006】
【特許文献1】特許第2663101号 公開公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
大豆を蒸煮やボイルすることで軟化させることは古来からの技術で対応可能であるし、ミキサー食や刻み食の製造技術を用いて近年多くの介護食が商品化されている。
しかしながら、食事を目視的に楽しみながら味と栄養素を保持しかつ咀嚼能力の後退した人にも食べ易い柔らかい食材を製造する技術は見あたらない。
本件発明者は、その点に着目し、食材の持つ特有の彩りと形状並びに栄養素を残したまま、口中ではとろけるような柔らかい感触を持ち、強い咀嚼力を要しない食材の開発に取り組み、ようやく完成させたのである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
外皮を剥皮させた大豆を、高温高圧雰囲気下で5〜120分間保持させることを特徴とする。
【0009】
前記高温高圧雰囲気状態が、50〜200℃好ましくは90〜180℃の温度、及び0.01〜1.6MPa好ましくは0.1〜1MPaの圧力下であることを特徴とする。
【0010】
前記処理を行うことにより、内皮(薄皮)及び胚芽部分が子葉部と一体となった割れのない、食感に優れる軟らかな大豆を得ることができる。該大豆は原材料と同じ形状、色彩を保持しており、硬度がユニバーサルデザインフード規格の範疇である5,000〜500、000N/cmを満たす介護食用大豆として適用できる。
【0011】
結果、咀嚼能力や嚥下能力の弱体化した人でも目視的に大豆特有の色彩と内皮(薄皮)と胚芽が子様と一体となった形状を感じ、大豆が有する栄養分を十分にかつ味覚的にも味わうことのできる大豆を得ることとなる。
勿論、硬度が5,000〜500,0000N/cmであるが故に健常者用の食事として捉えるならば素材が持つ特有の歯触りや噛みごたえ(歯ごたえとも言う)を感じることは十分でないが、介護食として捉えるならば刻み食やミキサー食とは全く異なる食事の楽しみを提供できる一品である。
【発明の効果】
【0012】
完成品は蒸煮によって含んだ水分量に匹敵する膨潤はみられるものの、胚芽が完全に子葉に密着した状態で存在しかつ子葉が二つ割れることもなく、その色つやと原型を保持しており「大豆を食する」という食欲を増進する効果を持ちながら、栄養素の大半が残留したまま口中では強く噛む力を要しない全くの新しい食材として提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下,本発明を実施するための最良の形態を説明する。
予め通常の手段で外皮を剥皮した大豆を、内皮(薄皮)及び胚芽付きの状態で網目様の容器に入れ、90〜180℃の高温及び0.1〜1MPaの高圧雰囲気下に5〜120分間保持させる。
【0014】
前記処理を剥皮した大豆に加えることで、胚芽の欠落もなく子葉部の割れもない大豆本来の形状及び色彩を保持した軟らかな大豆を得ることができる。得られた大豆の硬さはユニバーサルデザインフードの規格である5,000〜500,000N/cmの範囲を満たすものである。
【0015】
また、高温高圧状態及び処理時間を適宜調整することにより、該大豆の硬さを自在に調節することも可能であり、今後の市場ニーズに沿った食材として本件発明技術を持って提供できる。
本発明の介護用大豆は本記載例の製造工程に限定されることはなく、本発明の目的の目的の範囲で自由に設計変更しうるものであり、本発明はそれらを全て包摂するものである。
【実施例】
【0016】
本発明について実施例より詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
外皮を剥皮させた大豆を圧力釜に移して、120℃の高温高圧蒸気に30分間接触させた後に冷却させた。加熱処理後であっても内皮(薄皮)と胚芽部分がしっかりと残った割れのない脱皮大豆を得ることができた。
【0017】
実施例1で得られた加熱処理後の大豆の官能検査により軟らかさを確認したところ、舌で容易に潰せる程度の軟らかさであり、大豆の旨みが凝縮されていた。また、子葉部表面の内皮(薄皮)が存在することによる食感の悪化は感じられず、実に滑らかな舌触りであった。
【0018】
[実施例2]
外皮を剥皮させた脱皮大豆を塩分0.7%のだし汁と共にレトルト処理対応の真空包装袋に入れて真空シールを行った後に滅菌装置に移して、120℃の高温高圧状態雰囲気下に30分間放置させた後に冷却した。加熱処理後であっても内皮(薄皮)と胚芽部分がしっかりと残った割れのない脱皮大豆を得ることができた。
【0019】
実施例2で得られた加熱処理後の大豆の官能検査により軟らかさを確認したところ、舌で容易に潰せる程度の軟らかさであった。また、子葉部表面の内皮(薄皮)が存在することによる食感の悪化は感じられず、実に滑らかな舌触りであった。
【0020】
[比較例1]
乾燥大豆を軽く水洗いした後に水に浸し、庫内温度5℃の冷蔵庫内に約18時間放置して大豆を膨潤させた。この膨潤させた外皮付きの大豆を塩分0.7%のだし汁と共にレトルト処理対応の真空包装袋に入れて真空シールを行った後に滅菌装置に移して、120℃の高温高圧状態雰囲気下に30分間放置させた後に冷却した。加熱処理後であっても大豆の原型を留めた割れのない大豆を得ることができた。処理後の大豆の軟らかさは舌で容易に潰せる程度の軟らかさであった。
【0021】
しかしながら、外皮部分が食感を大きく低下させており、口腔内に外皮が長時間留まることから、とろける様な食感を得るには至らなかった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
外皮と子葉の間に薄皮を有する小豆、インゲン豆、エンドウ、ササゲ、ソラマメ、タケアズキ、ヒヨコマメ、ベニバナインゲン、ライマメ、リョクトウ、レンズマメ、落花生などの豆類には、本件発明技術を応用して本件発明商品と同等の介護食の食材を創出することが可能で、今後、他食材への技術応用展開が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外皮を剥皮し内皮(薄皮)を有する大豆を温度50〜200℃及び圧力0.01〜1.6MPa、処理時間においては5〜120分間蒸煮し、蒸煮後において大豆本来の形状と色彩並びに栄養素を保持していることを特徴とする介護食用大豆の製造方法。
【請求項2】
請求項1にもとづき、蒸煮後の大豆の硬さが5,000〜500,000N/cmであることを特徴とする介護食用大豆。