説明

双眼鏡及びその眼巾固定装置

【課題】 調節した眼巾を簡単な操作で確実に固定しておくことのできる双眼鏡の眼巾固定装置を提供する。
【解決手段】 連結軸13に向けて各鏡筒11a、11bから延設した連結腕部12a、12bの端面14a、14bと対向するように設ける眼巾固定環22と、この眼巾固定環を前記連結腕部端面に対して押圧する状態又は離隔する状態へとその変位を制御する眼巾固定ノブ21とを備える。眼巾固定ノブをねじ込むんで眼巾固定環を締め付けると、この押圧状態にて眼巾固定環が左右鏡筒の連結腕部を相互に接合して、連結軸を介しての左右鏡筒の屈曲作動を拘束する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、双眼鏡の眼巾を任意の位置に固定するための装置及びこの眼巾固定装置を備えた双眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの双眼鏡は、使用者に合わせて眼巾つまり左右接眼鏡の中心間距離を調節できるようになっている。この眼巾調節のための典型的な構造として、例えば特許文献1に示されているように、双眼鏡の左右一対の鏡筒を各鏡筒間に設けた連結軸を介して相互に屈曲可能に連結し、この連結軸を中心とする左右鏡筒間の屈曲角度に応じて眼巾を調節できるようにしたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−246858
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の眼巾調節機構では、一般的に連結軸の締め付け部分に発生させた摩擦力に基づいて眼巾を保持するようになっている。これにより、使用者は任意の位置に容易に眼巾を調節できると共に、その位置に眼巾を固定しておくことができるわけである。
【0005】
しかしながら、その反面、眼巾の固定を摩擦力に依存していることから、使用中の力加減など何かの拍子で眼巾が変化してしまうおそれがあり、特に長期使用等に伴って連結軸の締め付けが甘くなってくると眼巾が変化し易くなり、例えば野鳥観察などの際に片手で一方の鏡筒を保持した状態で観察をしようとすると、他方の鏡筒が自重で下がってきてしまい眼巾が動いてしまうといった不都合を生じる。
【0006】
また、従来の双眼鏡では使用者に合った眼巾に速やかに調節できるように連結軸の端部(いわゆる陣笠部)などに目盛りを設けて眼巾調節の目安にできるようにしている。しかしながら、このような目盛りだけでは微妙な眼巾調節は困難であり、また天体観測などの夜間使用においては目盛りそのものが視認し難いという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、
左右一対の鏡筒を、各鏡筒間に設けた連結軸を介して相互に屈曲可能に連結し、この連結軸を中心とする左右鏡筒間の屈曲角度に応じて眼巾を調節できるようにした双眼鏡に適用する眼巾固定装置であって、
前記連結軸に向けて各鏡筒から延設した連結腕部の端面と対向するように設ける眼巾固定部材と、この眼巾固定部材を前記連結腕部の端面に対して押圧する状態又は離隔する状態へとその変位を制御する操作部材とを備え、
前記眼巾固定部材は前記押圧状態にて前記左右鏡筒の連結腕部を相互に接合して、この接合状態にて前記連結軸を介しての左右鏡筒の屈曲作動を拘束するようにしたことを特徴とする双眼鏡の眼巾固定装置である。
請求項2の発明は、前記請求項1において、
前記眼巾固定部材を、前記連結腕部の端面に対向するように、多数の係合突起を前記連結軸中心を包囲するように形成した環状部を備えると共に、前記押圧状態にて前記係合突起に係合する係合部を前記各連結腕部に形成する一方、
前記眼巾固定部材と前記操作部材との間には弾性部材を介装し、前記眼巾固定部材を前記連結腕部の方向に弾性的に付勢した双眼鏡の眼巾固定装置である。
請求項3の発明は、前記請求項1において
前記眼巾固定部材を、前記連結腕部の端面に対向して、前記押圧状態にて前記左右連結腕部の端面に同時に当接する摩擦部材を備える双眼鏡の眼巾固定装置である。
請求項4の発明は、前記請求項1から請求項3の何れかにおいて、
前記操作部材を、前記連結軸の軸端部にネジ係合し、このネジ上での回転に基づいて前記眼巾固定部材の前記押圧状態又は離隔状態への変位を制御するようにした双眼鏡の眼巾固定装置である。
請求項5の発明は、前記請求項4において、
前記操作部材を、三脚アダプターを結合するために前記連結軸の軸端部に設けられたネジ穴に螺合するように形成した双眼鏡の眼巾固定装置である。
請求項6の発明は、前記請求項1から請求項5の何れか1項に記載の双眼鏡の眼巾固定装置を備えた双眼鏡である。
【発明の効果】
【0008】
前記請求項1以下の各発明において、操作部材を操作して固定部材を双眼鏡の連結腕部から離隔するようにした状態では、各鏡筒の連結腕部はその連結軸を中心とした屈曲作動を拘束されないので、使用者は従来の双眼鏡と同様にして眼巾調節を行うことができる。この状態から、操作部材を操作して固定部材を連結腕部に押圧する押圧状態へと変位させると、固定部材を介して左右鏡筒の連結腕部が相互に接合して互いの屈曲動作を拘束する状態となるので、この状態からの左右鏡筒間の不意の屈曲を防止して、使用者が調節した眼巾を確実に固定することができる。
【0009】
このようにして一度眼巾を固定すると、再び操作部材を操作して固定部材を離隔可能な状態にしない限りは、双眼鏡は使用者が設定した一定の眼巾に固定されるので、例えば夜間の天体観測時など眼巾調節が煩わしい条件下での双眼鏡使用が予定される場合には、使用前に予め眼巾調節してこれを固定しておくことで、使用中の眼巾変動を確実に防止して、双眼鏡を快適に使用し続けることができる。
【0010】
請求項2以下の各発明による固有の効果については、以下の実施形態の説明において該当する構成の説明部分にて述べることとする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明による双眼鏡の眼巾固定装置の第1の実施形態の組立状態を示す斜視図。
【図2】図1の眼巾固定装置を双眼鏡に取り付ける状態を示す斜視図。
【図3】図1の眼巾固定装置を双眼鏡に取り付けた状態を示す要部縦断面図。
【図4】この発明による眼巾固定装置の第2の実施形態を双眼鏡に取り付けた状態を示す要部縦断面図。
【図5】この発明による眼巾固定装置の第3の実施形態の縦断面図。
【図6】この発明による眼巾固定装置の取付け位置を例示するための双眼鏡の上面図。
【図7】この発明による眼巾固定装置を備えた双眼鏡の一実施形態の上面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明による双眼鏡の眼巾固定装置のいくつかの実施形態につき図面を参照しながら説明する。なお各実施形態間で共通する部分には同一の符号を付して示すこととする。
【0013】
図1〜図3はこの発明による眼巾固定装置の第1の実施形態を示している。図において、1は双眼鏡を、2は眼巾固定装置を示している。双眼鏡1は、左眼用の鏡筒11aと右眼用の鏡筒11bのそれぞれから対向的に延設した連結腕部12aと12bとを、光軸中心線と並行に位置するように各鏡筒間に設けた連結軸13(図3参照)を介して相互に連結してなり、連結軸13を中心として左右の鏡筒11a、11bを屈曲作動させることにより眼巾調節ができるように構成された一般的な構造のものである。なお、図では双眼鏡1はその一部のみを示しており、各鏡筒11a、11bの外観や構造は略図として描いてある。
【0014】
眼巾固定装置2は、図1又は図3に示したように、眼巾固定ノブ21、眼巾固定環22、コイルスプリング23、抜け止めリング24からなっている。この発明との関係では、眼巾固定ノブ21が眼巾操作部材、眼巾固定環22が眼巾固定部材、コイルスプリング23が弾性部材に相当する。
【0015】
眼巾固定ノブ21は、外周部に滑り止めの凹凸形状を設けた円筒状のノブ本体21aと、その中央部から軸方向に延設したボルト部21bとからなる。ボルト部21bは先端部付近にのみ雄ネジ部21cを形成し、途中から基端に至るまでの首部分は前記雄ネジ部21cの内径部と同程度又はやや細径の円筒状部21dを所定の長さにわたって形成してある。
【0016】
眼巾固定環22は、形状としては、前記ノブ本体21aと略同一外径を有する大径部22aと、これよりもやや外径の小さい小径部22bとをテーパ部22cを介してそれぞれ同一中心線上に位置するように連接した段付き円筒状をしており、その円筒形状の中心部には貫通孔22d(図3参照)を設けてある。大径部22aは、図3に示したように、双眼鏡1への装着状態で連結腕部12a、12bの端面14a、14b(この場合、対物側の端面)に対向する端面部に、多数の係合突起22eを、連結軸13の中心線を包囲するように配設してなる環状部22fを備える。この場合、係合突起22eとしては、三角形断面の突条を放射状に多数設けた構成のセレーションを形成してある。一方、固定環22の小径部22bには、眼巾固定ノブ21に対向する端面に、貫通孔22dを包囲するように、コイルスプリング23を収容する所定深さの環状溝22gを形成してある。
【0017】
眼巾固定環22の貫通孔22dは、ボルト部21bの雄ネジ部21cと螺合する雌ネジとなっている。この眼巾固定装置2は、眼巾固定ノブ21と眼巾固定環22との間にコイルスプリング23を介装した状態で、ボルト部21bを雌ネジである貫通孔22dにねじ込んでゆくことで組み立てられる。ボルト部21bの雄ネジ部21cをある程度貫通孔22dにねじ込んでゆくと、この雄ネジ部21cが貫通孔22dを脱したところで貫通孔22dがボルト部21bの円筒状部21dと嵌合する状態になる。この状態では眼巾固定環22は軸方向への移動を制限されつつ眼巾固定ノブ21との間で相対回転可能である。ただし、ボルト部21bの円筒状部21dは、眼巾固定環22の貫通孔22dよりも所定長さd(図3参照)だけ長く形成してあるので、その分だけ軸方向への変位が許容される。前記所定長さdは、前述した係合突起22eの突条の高さよりも大きい。また、この組立て状態ではボルト部21bの雄ネジ部21cが、眼巾固定環22の大径部22a(環状部22f)の端面よりも軸方向に突出するようにボルト部21bの長さを決めてある。
【0018】
前述の組立て状態ではボルト部21bの雄ネジ部21cが雌ネジ状の貫通孔22dに対して抜け止めとなるので、通常は眼巾固定ノブ21が眼巾固定環22から抜け落ちてしまうことはない。ただし、例えば後述する双眼鏡1への装着時には、眼巾固定環22が回転を拘束された状態で眼巾固定ノブ21を緩み方向に回転させると、コイルスプリング23の張力が作用しているので、そのままでは雄ネジ部21cと貫通孔22dのねじ部同士が係合して、眼巾固定ネジ21が抜け出てきてしまう可能性がある。そこで、この実施形態では、雄ネジ部21の基部に抜け止めリング24を嵌装して、前述のような抜け出し現象を防止するようにしている。抜け止めリング24としてこの実施形態ではOリングを適用しているが、この他に例えばCリングやEリングなどのスナップリングを適用することもできる。
【0019】
双眼鏡1の連結軸13の対物側の端部には、図2又は図3に示したように、同軸的に雌ネジ部13aを形成してある。この雌ネジ部13aは、眼巾固定装置2の眼巾固定ノブ21に設けたボルト部21b(雄ネジ部21c)と螺合するように同一規格のネジで形成してある。また、左右連結腕部の端面14a、14bには、雌ネジ部13aを包囲するように、眼巾固定環22の係合突起22eと係合する突起状の係合部15a、15bをそれぞれ形成してある。係合部15a、15bは、環状の係合突起22eと対応するようにそれぞれ円弧状に配列された多数の三角形状の突条からなる。この場合、前記係合部15a、15bはそれぞれ連結腕部端面14a、14bに一体的に形成してあるが、これらを別部品として形成し、例えば接着やネジ止めにより連結腕部端面14a、14bに取り付けるようにしてもよい。また、眼巾固定時の確実性及び強度が許す限り、前記係合部15a又は15bはそれぞれより少ない数、例えば最小限1個の突条であってもよい。
【0020】
次に、この眼巾固定装置2の使用要領について説明すると、まず前述した組立て状態の眼巾固定装置2を、図2又は図3に示したように、そのボルト部21bを連結軸13の雌ネジ部13aにねじ込むことで双眼鏡1に装着する。このとき、眼巾固定ノブ21をその回転が止まるところまで締め込むと、眼巾固定ノブ21と双眼鏡1の連結腕部端面14a、14bの間に眼巾固定環22が固定されてその軸方向への移動が拘束された状態(押圧状態)になる。この状態では、眼巾固定環22の係合突起22eと、連結腕部端面上の係合部15a、15bとが相互に噛み合って相対回転を拘束するので、連結軸13を中心とする左右鏡筒11a、11bの屈曲作動を行うことはできず、即ち眼巾は固定される。
【0021】
前述の眼巾を固定した状態から眼巾調節が可能な状態にするには2通りの方法がある。第1には、眼巾固定ノブ21を緩み方向に回転させて、係合突起22eと係合部15a、15bとの噛み合いが外れる位置まで眼巾固定環22を移動させる方法である。眼巾固定環22はコイルスプリング23により係合部15a、15bの方向に付勢されているが、この付勢力による変位量は抜け止めリング24を介して制約されているので、眼巾固定ノブ21を緩めてゆくと途中から眼巾固定ノブ21と共に眼巾固定環22が軸方向に移動して、前述のように係合突起22eと係合部15a、15bとの係合を外すことができる。これにより、眼巾固定環22を介しての左右連結腕部14a、14bの係合状態が解かれるので、鏡筒11a、11bを連結軸13を中心として屈曲作動させることによる眼巾調節が可能になる。
【0022】
眼巾固定状態から眼巾調節を可能にするための第2の方法は、前述した押圧状態から眼巾固定ノブ21を途中まで緩めて、眼巾固定環22がコイルスプリング23の張力のみで連結腕部14a、14bに当接する状態にする方法である。このときに眼巾固定ノブ21を緩める量は、緩めてゆく過程でノブ21に追従して眼巾固定環22が移動し始める直前の位置、又は眼巾固定装置2を双眼鏡1に取り付ける際に、眼巾固定ノブ21の締め付けの過程で眼巾固定環22が連結腕部端面14a、14bに当接し始める位置(図3に示した位置)を目安とする。この状態で左右の鏡筒11a、11bを持って屈曲作動させようとすると、このときに眼巾固定環22の係合突起22eと係合部15a、15bとの間に生じる軸方向力に基づき、眼巾固定環22がコイルスプリング23の張力に抗して連結腕部端面14a、14bから離隔する方向に移動するので、係合突起22eと係合部15a、15bが互いの突条を乗り越えながら相対回転することが可能になる。これにより、左右鏡筒11a、11bを屈曲作動させることによる眼巾調節が可能になる。この第2の方法によれば、前述したように係合突起22eと係合部15a、15bが互いの突条を乗り越える際にいわゆるクリック音を生じる。使用者が眼巾調節する際には、このクリック音の回数を目安として調節量を決めることができるので、例えば夜間であっても眼巾目盛りを確認することなく使用者に合った眼巾に速やかに調節できるなど、より良い操作性が得られる。
【0023】
この実施形態では、眼巾固定環22を双眼鏡1の連結腕部端面14a、14bに対して前述のように押圧し又は離隔する状態に制御するために、眼巾固定ノブ21をボルト部21bと雌ネジ13aとによるネジ係合を介して進退させる構成としている。このようなネジ係合の構造は簡潔で作動性がよいという利点があることに加えて、双眼鏡への適用がより容易になるという利点もある。即ち、多くの双眼鏡はその連結軸の一端部(通常は対物側の端部)に、双眼鏡を三脚に固定するための三脚アダプター(「双眼鏡ホルダー」ともいう。)を固定する共通規格のネジ穴を初めから備えている。このような双眼鏡においては、そのネジ穴を前記雌ネジ部13aとして利用できるので、連結腕部14a、14bに係合部15a、15bを設けるという最小限の改造のみで前記眼巾固定装置2を適用することが可能である。なお、前記三脚アダプターは周知のものであって、その典型例が特許文献1の図6に「取付治具21」として示されている。
【0024】
ところで、この実施形態では眼巾固定環22の係合突起22eを環状部22fに全周的に設けると共に、この係合突起22eと係合する2つの係合部15a、15bをそれぞれ左右の連結腕部12a、12bに設けているが、係合部15a又は15bについては何れか一方のみでもよく、係合突起22eについても係合させる必要のある角度範囲(眼巾調節のために必要な屈曲角度の範囲)にわたって限定的に設けたものであってもよい。図4はそのように構成した第2の実施形態を示している。
【0025】
図4において、この眼巾固定装置2は、一方の鏡筒11aの連結腕部端面14aにのみ突起部15aを設け、これと係合する眼巾固定環22の係合突起22eを前述の通り必要な角度範囲についてのみ環状部22fに設けてある。また、他方の鏡筒11bについては、その連結腕部端面14bに連結軸13と並行にピン穴15を設けると共に、このピン穴16に摺動自由に嵌合するピン26を眼巾固定環22の環状部22fに設けている。この実施形態によれば、眼巾固定環22が鏡筒11bに対してはピン26とピン穴16との嵌合に基づいて常時回り止めされた状態であるが、鏡筒11aに対しては前記第1の実施形態と同様にして眼巾固定ノブ21の操作に基づき連結軸13を中心とする左右鏡筒間の屈曲作動を拘束し又は開放する機能を発揮するので、眼巾の固定又はその解除が可能である。なお、双眼鏡に対して眼巾固定装置2の着脱を頻繁に行う場合には、双眼鏡への装着時に眼巾固定環22の位置決めをする必要の無い第1の実施形態の構成が有利である。
【0026】
図5はこの発明の第3の実施形態を示している。これは眼巾固定環22の環状部22fに環状の摩擦部材27を設け、眼巾固定環22を押圧状態としたときの摩擦部材27と双眼鏡(連結腕部端面14a、14b。図3参照。)との間に生じる摩擦力に基づいて眼巾固定を図るようにしたものである。摩擦部材27としては、例えばゴム、皮革、軟質の合成樹脂材など、双眼鏡の連結腕部端面に押圧したときに所要の摩擦力を生じる材料を適用する。この実施形態においては、コイルスプリング23は必ずしも設ける必要はなく、また摩擦部材27を設ける代わりに、眼巾固定環22自体をゴムなどの高摩擦係数の材料で形成するようにしてもよい。この実施形態によれば、双眼鏡側に前述の実施形態で示したような係合部(15a、15b)を必ずしも設ける必要がないので、三脚アダプターを固定するためのネジ穴を備えた双眼鏡であれば、何らの改造を要することなく適用することができる。また、眼巾固定ノブ21の締め付け量に応じて左右連結腕部に対する摩擦力を加減できるので、例えば長期使用により連結軸の締め付けが甘くなってしまった双眼鏡に適用することにより、適度な摩擦力を付与して眼巾調節時の操作感を改善することもできる。
【0027】
前述した各実施形態は、眼巾固定装置2を双眼鏡の対物側の連結腕部端面に装着する例として説明してきたが、もちろん装着位置はこれに限られるものではない。例えば左右鏡筒の連結軸部分にフォーカスリングなどの焦点調節機構を持たない、いわゆるIF方式の双眼鏡では、図6に示したように双眼鏡1の鏡筒11a、11bの対物側に位置する連結腕部12a、12bと接眼側に位置する連結腕部12c、12dとの間に大きなスペースを有することがあり、このような構造においては各連結腕部12a、12b又は12c、12dの前後端面(図の矢印A,B,C,Dで示した位置)の何れにも眼巾固定装置2を装着することが可能である。
【0028】
また、前記各実施形態は眼巾固定装置2を双眼鏡1に対して着脱自在に構成した例を示したものであるが、もちろんこの発明に係る眼巾固定装置は図7に示したように双眼鏡に作り付けの構造としてもよい。図7に示した双眼鏡1は、いわゆるCF方式であり、連結軸13と同軸的に設けたフォーカスリング17を回転させることにより左右の接眼部18a、18bを同時に前後移動させて焦点調節を行うようにしたものである。この種の双眼鏡1では、2組の連結腕部12a、12bと12c、12dとの間に連結軸13と同軸的に中空軸19を設け、この中空軸19に送りネジ機構などからなる前述した焦点調節のための機構を内蔵させている。この実施形態では、対物側の連結腕部12a、12bの内側端面に対向するように前記中空軸19と同軸的に眼巾固定装置2を組み付けている。この場合、前記中空軸19の外周部に形成したネジとの係合に基づいて眼巾固定ノブ21を進退させるようにすれば、図1〜図3等に示した実施形態と同様にして眼巾固定環22の変位を制御して眼巾の固定又はその解除を行うことができる。
【0029】
なお、前記各実施形態は、眼巾固定環を連結腕部の端面に対して押圧する状態又は離隔する状態へとその変位を制御するために、眼巾固定ノブをネジ係合に基づいて進退させるようにした例を示したものであるが、このような作用を得るための手段はネジ機構に限られるものではなく、例えばカム機構やクランプ機構を適用することも可能である。前記の点をも含めて、各実施形態はこの発明のいくつかの構成例を示したものであるに過ぎず、この発明の技術的範囲がこれら実施形態の内容に限定されるものではないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0030】
1 双眼鏡
11a,11b 鏡筒
12a,12b 連結腕部(対物側)
12c,12d 連結腕部(接眼側)
13 連結軸
13a 雌ネジ部(ネジ穴)
14a,14b 連結腕部端面
15a,15b 係合部
16 ピン穴
17 フォーカスリング
18a,18b 接眼部
19 中空軸
2 眼巾固定装置
21 眼巾固定ノブ
21a ノブ本体
21b ボルト部
21c 雄ネジ部
21d 円筒状部
22 眼巾固定環
22a 大径部
22b 小径部
22c テーパ部
22d 貫通孔(雌ネジ)
22e 係合突起
22f 環状部
22g 環状溝
23 コイルスプリング(弾性部材)
24 抜け止めリング(Oリング)
26 ピン
27 摩擦部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の鏡筒を、各鏡筒間に設けた連結軸を介して相互に屈曲可能に連結し、この連結軸を中心とする左右鏡筒間の屈曲角度に応じて眼巾を調節できるようにした双眼鏡に適用する眼巾固定装置であって、
前記連結軸に向けて各鏡筒から延設した連結腕部の端面と対向するように設ける眼巾固定部材と、この眼巾固定部材を前記連結腕部の端面に対して押圧する状態又は離隔する状態へとその変位を制御する操作部材とを備え、
前記眼巾固定部材は前記押圧状態にて前記左右鏡筒の連結腕部を相互に接合して、この接合状態にて前記連結軸を介しての左右鏡筒の屈曲作動を拘束するようにしたことを特徴とする双眼鏡の眼巾固定装置。
【請求項2】
前記請求項1において、
前記眼巾固定部材は、前記連結腕部の端面に対向するように、多数の係合突起を前記連結軸中心を包囲するように形成した環状部を備えると共に、前記押圧状態にて前記係合突起に係合する係合部を前記各連結腕部に形成する一方、
前記眼巾固定部材と前記操作部材との間には弾性部材を介装し、前記眼巾固定部材を前記連結腕部の方向に弾性的に付勢したことを特徴とする双眼鏡の眼巾固定装置。
【請求項3】
前記請求項1において、
前記眼巾固定部材は、前記連結腕部の端面に対向して、前記押圧状態にて前記左右連結腕部の端面に同時に当接する摩擦部材を備えることを特徴とする双眼鏡の眼巾固定装置。
【請求項4】
前記請求項1から請求項3の何れか1項において、
前記操作部材は、前記連結軸の軸端部にネジ係合し、このネジ上での回転に基づいて前記眼巾固定部材の前記押圧状態又は離隔状態への変位を制御するようにしたことを特徴とする双眼鏡の眼巾固定装置。
【請求項5】
前記請求項4において、
前記操作部材は、三脚アダプターを結合するために前記連結軸の軸端部に設けられたネジ穴に螺合するように形成したことを特徴とする双眼鏡の眼巾固定装置。
【請求項6】
前記請求項1から請求項5の何れか1項に記載の双眼鏡の眼巾固定装置を備えたことを特徴とする双眼鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−256455(P2010−256455A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103827(P2009−103827)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000156396)鎌倉光機株式会社 (14)
【Fターム(参考)】