説明

反射型スクリーン、投影システム、フロントプロジェクションテレビ及び反射型スクリーンの製造方法

【課題】シンチレーションの発生を防止して高画質の画像を表示することができる反射型スクリーンを提供する。
【解決手段】スクリーン1は、プロジェクター2の投射光を反射する反射型スクリーンである。スクリーン1は、一つの面に凹面状または凸面状の複数の凹部11A,11Bが形成された基板11と、基板11の凹部11A,11B上に形成された反射膜12とを有する。凹部は、曲率が異なる2種類の凹部11A,11Bで構成される。曲率が同じ凹部11A,11Bは、少なくとも第1の方向には、最大3つまで連続して配置される。スクリーン1をこのように構成することにより、凹部11A,11Bにおける反射光のシンチレーションの発生が防止され、ぎらつくことのない高画質な画像をスクリーン1に表示することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型スクリーン、投影システム、フロントプロジェクションテレビ及び反射型スクリーンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プロジェクター等の投射光を反射させて画像を視認可能とする反射型スクリーンが知られている。最近では、反射面側に多数のマイクロレンズ、すなわち微細な半球状の凹部又は凸部を形成し、その上にアルミニウム膜等の反射膜を形成する構造によって光学特性を向上させた反射型スクリーンが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
このような反射型スクリーンでは、前記半球状の凹部または凸部は全て同じ大きさで形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−15196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような構造の反射型スクリーンには、反射率を向上できる反面、各凹部又は凸部から反射される光が互いに干渉することによって、所謂シンチレーション(スペックルともいう)というぎらつきが生じてしまい、画質が低下するという問題点があった。
【0005】
本発明の目的は、シンチレーションの発生を防止して高画質の画像を表示することができる反射型スクリーン、投影システム、フロントプロジェクションテレビおよび反射型スクリーンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の反射型スクリーンは、投射光を反射する反射型スクリーンであって、一つの面に凹面状または凸面状の複数の曲面部が形成された基板と、前記基板の曲面部上に形成された反射膜とを有し、前記複数の曲面部は、曲率が異なる複数種類の曲面部で構成され、少なくとも第1の方向に並ぶ複数の曲面部において、曲率が同じ曲面部は、最大3つまで連続して配置されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の反射型スクリーンは、一つの面に凹面状または凸面状の複数の曲面部が形成された基板と、前記基板の曲面部上に形成された反射膜とを有している。このため、曲面部と反射膜とを適切に設計することによって、前記曲面部および反射膜が形成されたスクリーンの一面(反射面)に投射された光の反射光を、スクリーンの正面方向に効率よく反射させることができ、投影画像を鮮明に映し出すことができる。従って、本発明の反射型スクリーンを用いれば、投射角度が投影面(反射面)に対して鋭角となるような所謂近接投射型のプロジェクターの投射光を反射するような場合であっても、良好な画像を見ることができる。
【0008】
また、本発明では、少なくとも第1の方向に並ぶ複数の曲面部において、曲率が同じ曲面部が連続する数を、最大でも3つまでに限定しているので、シンチレーションの発生を減少でき、投影画像を鮮明に映し出すことができる。
ここで、第1の方向とは、例えば、壁などに設置されたスクリーンにおいて、上下方向(縦方向)や水平方向(横方向)等のある一方向を意味する。例えば、プロジェクターが床や天井に設置されてスクリーンに対して斜め下方あるいは斜め上方から光を投射する場合、前記第1の方向は水平方向等とし、プロジェクターがスクリーンに対して左右の方向から光を投射する場合、前記第1の方向は上下方向等とすればよい。要するに、前記第1の方向は、プロジェクターとスクリーンとの位置関係などを考慮し、シンチレーションの発生を減少させたい方向に設定すればよい。
また、この第1の方向は、各曲面部において互いに平行な方向でなくてもよく、例えば、スクリーンの中央下方から反射面に対して鋭角にプロジェクター等の投射光が投射される場合に、当該角度による反射面における投射光の拡がり具合に合わせて放射状に同じ径(曲率)の曲面部を配列する場合などには、放射状に沿った方向でシンチレーションが発生し易いため、少なくともこの放射状に沿った方向を第1の方向とすることが好ましい。
【0009】
近接投射型のプロジェクター用のスクリーンでは、投射光をスクリーンの正面方向に反射するため、凹面状または凸面状の曲面部が形成されている。このようなスクリーンでは、通常、各曲面部を全て均一の大きさとしていた。しかし、アルミニウム膜などによって反射率を高めると、各曲面部から反射する光が互いに干渉することによってシンチレーションが発生してしまうことがあった。
これに対し、本発明では、基板の一つの面(反射面)に形成された複数の曲面部のうち、少なくとも第1の方向に並ぶ複数の曲面部において、曲率が同じ曲面部が連続する数を、最大でも3つまでに限定している。例えば、複数の曲面部が、第1の曲率の第1曲面部と、第2の曲率の第2曲面部との2種類で構成されている場合、第1の方向に並ぶ曲面部においては、第1曲面部が最大で3つ連続して配置され、その次には第2曲面部が最大で3つ連続して配置され、第1および第2曲面部が交互にそれぞれ最大で3つまで連続して配置されている。
【0010】
このように曲面部を配置することで、第1の方向においては、隣り合う曲面部で曲率が異なる箇所が複数設けられる。曲率が異なる曲面部に対して投射光を照射すると、曲面部で反射された反射光の光路差を、スクリーンに照射される光(例えばプロジェクターの投射光)のコヒーレンス長(干渉する長さ)よりも長くすることができる。
このように、反射光の光路差が投射光のコヒーレンス長よりも長くなると、この部分においてはシンチレーションが発生しなくなり、結果としてぎらつきを防止することができ、高画質な画像を表示することができる。従って、反射型スクリーンにおいて、曲率が同じ曲面部が連続する数を、第1の方向においては最大3つまでに限定して隣り合う曲面部で曲率が異なる部分を増やすことで、シンチレーションの発生を減少できる。
【0011】
本発明において、前記第1の方向に対して交差する第2の方向に並ぶ複数の曲面部において、曲率が同じ曲面部は、最大3つまで連続して配置されていることが好ましい。
ここで、第2の方向とは、例えば、第1の方向に対して直交する方向である。例えば、壁に設置されるなどで垂直方向に設置されたスクリーンにおいて、第1の方向が上下方向であれば、第2の方向は左右方向(水平方向)である。
また、第1の方向を、スクリーン下端中心から放射線状に設定した場合には、第2の方向を、前記スクリーン下端を中心とする円弧の方向に設定してもよい。
【0012】
第1の方向だけでなく第2の方向においても、同じ曲率の曲面部は、最大で3つまで連続するように限定すれば、隣り合う曲面部で曲率が異なる部分を第1の方向のみで設定した場合に比べて増やすことができ、シンチレーションの発生をより減少できる。
【0013】
本発明において、前記曲率が同じ曲面部は、最大2つまで連続して配置されていることが好ましい。
【0014】
曲率が同じ曲面部が連続する数を最大で2つまでに限定すれば、最大3つまでに限定した場合に比べて、隣り合う曲面部で曲率が異なる部分を増やすことができ、シンチレーションの発生をより減少できる。
【0015】
本発明において、前記複数の曲面部は、凹面状の曲面部であり、各曲面部の開口外周縁は、基板の厚さ方向の位置が互いに一致していることが好ましい。
【0016】
曲面部が凹面状に形成されている場合、各曲面部の開口外周縁が基板の厚さ方向に最も突出する。そして、スクリーンに対して斜め方向から光を投射すると、前記突出部分で陰になる領域が発生する。この際、各曲面部の開口外周縁が同一平面位置に形成されていないと、他の開口外周縁よりも突出した部分による陰が、他の曲面部の領域にまで達してしまう可能性がある。
これに対し、各曲面部の開口外周縁つまり反射面において最も突出した部分が同一平面位置に形成されていれば、各曲面部において陰となる領域は、その曲面部の開口外周縁による陰のみに限定できる。従って、本発明によれば、曲面部の開口外周縁の基板の厚さ方向の位置が一致していない場合に比べて、投射光を反射する領域を確保でき、スクリーンの反射率を向上できる。
【0017】
本発明において、前記複数の曲面部は、曲率が異なる2種類または3種類の曲面部で構成されていることが好ましい。
【0018】
前記曲面部の曲率を2種類または3種類とすることにより、反射特性に影響しない程度においてシンチレーションの発生を防止することができる。
すなわち、曲面部の曲率を2種類にすれば、3種類以上にするよりも光路差を小さくすることができるため、反射特性への影響を軽減できる。
また、曲面部の曲率を3種類にすれば、4種類以上にするよりも光路差を小さくすることができるため、反射特性への影響を軽減できる。また、様々な組み合わせによって曲面部を配置することができるとともに、段階的に光路差を変えることによって、より大きな光路差を持たせることができ、曲面部の曲率を2種類にした場合に比べてシンチレーションの発生をより防止できる。
【0019】
本発明の投影システムは、前述した反射型スクリーンと、前記反射型スクリーンの曲面部が形成された面に光を投射する投影機とを備えることを特徴とする。
本発明のフロントプロジェクションテレビは、前述した反射型スクリーンと、前記反射型スクリーンの曲面部が形成された面に光を投射する投影ユニットと、前記反射型スクリーンおよび投影ユニットが収納された筐体とを備えることを特徴とする。
【0020】
このような投影システムやフロントプロジェクションテレビによれば、前述した反射型スクリーンを備えているので、前述した反射型スクリーンによる作用効果が得られる。このため、シンチレーションの発生を減少でき、投影画像を鮮明に映し出すことができる。
【0021】
本発明の反射型スクリーンの製造方法は、投射光を反射する反射型スクリーンの製造方法であって、原板の成型面側に複数の第1開口部が設けられたマスク膜を形成し、前記マスク膜の第1開口部を通じて前記原板の成型面に所定の段階まで等方性エッチングを施すことで、前記成型面に複数の第1の凹部を形成する第1凹部形成工程と、前記マスク膜に第2の凹部を形成するための新たな複数の第2開口部を形成し、マスク膜の第1開口部および第2開口部を通じて前記原板の成型面に所定の段階まで等方性エッチングを施すことで、前記成型面に複数の第1の凹部と、この第1の凹部と曲率が異なる複数の第2の凹部を形成する第2凹部形成工程と、第1および第2の凹部が形成された原板の成型面を転写して凸面状の2種類の曲面部を有する基板を成型し、または、前記原板の成型面を転写して製造された成形型の凸部が形成された成型面を転写して凹面状の2種類の曲面部を有する基板を成型し、この基板の曲面部に反射膜を形成するスクリーン成形工程とを有することを特徴とする。
【0022】
本発明の反射型スクリーンの製造方法では、複数の第1の凹部および複数の第2の凹部が形成された原板の成型面、又は、当該成型面を転写して製造された成形型の凸部が形成された成型面を転写することでスクリーン基板を成型して製造している。
複数の凹部が形成された原板の成型面を転写して基板を成型した場合には、基板にはその凹部に対応した2種類の凸面状の曲面部がそれぞれ複数個形成される。一方、原板の成型面を転写して基板の成形型を製造し、製造された成形型を転写して基板を成型した場合には、基板には成形型の凸部に対応した2種類の凹面状の曲面部、すなわち原板の凹部と同様の凹面状の曲面部がそれぞれ複数個形成される。
そして、基板の2種類の曲面部に反射膜を形成している。従って、曲面部と反射膜とを適切に設計することによって、反射光をスクリーンの正面方向に効率よく反射させることができ、投影画像を鮮明に映し出すことができる反射型スクリーンを製造することができる。
【0023】
また、マスク膜の第1,2開口部を通じて原板に等方性エッチングを施すため、原板には略半球状の凹部が形成される。また、原板の成型面に最初に形成した複数の第1の凹部とは曲率の異なる新たな複数の第2の凹部を形成するため、前記のように製造される反射型スクリーンについても隣り合う曲面部の曲率が異なる構成を備えさせることができる。このため、曲面部からの反射光の光路差を変えることができ、シンチレーションの発生を防止して高画質の画像を表示することができる反射型スクリーンを製造することができる。
また、マスク膜に前回のエッチングとは別の新たな複数の第2開口部を形成し、マスク膜の全ての開口を通じて等方性エッチングを施すため、開口部の追加と再度のエッチングだけで曲率の異なる凹部を容易に形成することができる。
【0024】
本発明の反射型スクリーンの製造方法は、投射光を反射する反射型スクリーンの製造方法であって、原板の成型面側に複数の第1開口部が設けられたマスク膜を形成し、前記マスク膜の第1開口部を通じて前記原板の成型面に所定の段階まで等方性エッチングを施すことで、前記成型面に複数の第1の凹部を形成する第1凹部形成工程と、前記マスク膜に第2の凹部を形成するための新たな複数の第2開口部を形成し、マスク膜の第1開口部および第2開口部を通じて前記原板の成型面に所定の段階まで等方性エッチングを施すことで、前記成型面に複数の第1の凹部と、この第1の凹部と曲率が異なる複数の第2の凹部を形成する第2凹部形成工程と、前記マスク膜に第3の凹部を形成するための新たな複数の第3開口部を形成し、マスク膜の第1,2,3の各開口部を通じて前記原板の成型面に所定の段階まで等方性エッチングを施すことで、前記成型面に前記第1および第2の凹部とは曲率が異なる複数の第3の凹部を形成する第3凹部形成工程と、第1,2,3の凹部が形成された原板の成型面を転写して凸面状の3種類の曲面部を有する基板を成型し、または、前記原板の成型面を転写して製造された成形型の凸部が形成された成型面を転写して凹面状の3種類の曲面部を有する基板を成型し、この基板の曲面部に反射膜を形成するスクリーン成形工程とを有することを特徴とする。
【0025】
本発明の反射型スクリーンの製造方法では、前記反射型スクリーンの製造方法と同様の作用効果を奏する。さらに、第2凹部形成工程後、スクリーン成形工程前に、前記マスク膜に新たな複数の第3開口部を形成し、マスク膜の全ての開口部を通じて前記原板の成型面に所定の段階まで等方性エッチングを施すことで、前記成型面に互いに曲率が異なる第1,2,3の凹部を形成できる。このため、製造後の基板に、曲面の曲率が3種類となる凹面状又は凸面状の曲面部を形成することができる。これによって、様々な組み合わせにより曲面部を配置でき、段階的に光路差を変えることによって、より大きな光路差を持たせることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、シンチレーションの発生を防止して高画質の画像を表示することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態によるスクリーンを備えた画像投影システムを示す図である。
【図2】第1実施形態での凹部の配置パターンを示す上面図である。
【図3】原板成形処理を説明するための部分断面図である。
【図4】成形型製造処理を説明するための部分断面図である。
【図5】スクリーン成形処理を説明するための部分断面図である。
【図6】第2実施形態での凹部の形状と配置パターンを示す上面図である。
【図7】第2実施形態での原板成形処理(前半)を説明するための部分断面図である。
【図8】原板成形処理(後半)を説明するための部分断面図である。
【図9】第2実施形態のスクリーンの構成を示す部分断面図である。
【図10】変形例における画像投影システムを示す図である。
【図11】変形例での凹部(2種類)の配置パターンの具体例を示す上面図である。
【図12】変形例での凹部(3種類)の配置パターンの具体例1を示す上面図である。
【図13】変形例での凹部(3種類)の配置パターンの具体例2を示す上面図である。
【図14】変形例におけるフロントプロジェクションテレビを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[1.第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、後述する第2実施形態以降では、以下に説明する第1実施形態での構成部品と同じ部品および同様な機能を有する部品には同一符号を付し、説明を簡単にあるいは省略する。なお、以下の各図面では、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材ごとに縮尺を適宜変更している。
【0029】
[1−1.スクリーン]
図1は、本発明の第1実施形態によるスクリーンを備えた画像投影システムの一例である。この画像投影システムは、スクリーン1とプロジェクター(投影機)2とを備えた構成とされている。スクリーン1は、プロジェクター2からの投射像を反射して視聴者に画像を視認させる反射型のスクリーンである。プロジェクター2は、スクリーン1との距離が短くてよい(例えば投射距離が60cm程度)、近接投射型のプロジェクターである。
【0030】
プロジェクター2から出射される投射光は、スクリーン1で反射され、これによってスクリーン1の正面方向にいる視聴者は、スクリーン1の画像を見ることができる。なお、スクリーン1は、プロジェクター2からの投射光を視聴者側に効率よく反射させて、視認性よくスクリーン1に映し出すための光学機能を有している。具体的には、以下に説明する凹部(凹面状の曲面部)と反射膜とによって所定の角度に視野角を持たせた構成(所定の角度においてコントラストが良好な構成)とされている。以下、本実施形態のスクリーンについて詳しく説明する。
【0031】
図1に示すように、スクリーン1は、基板11と、基板11上に形成された反射膜12とを備えた構成を有している。スクリーン1において、この反射膜12が形成された面が画像を映し出す反射面となる。
基板11の材料は、通常スクリーン1の基板として用いられるものであればよく、特に限定されるものではない。この材料としては、具体的には、紫外線硬化樹脂、シリコーンゴムなどが挙げられる。
【0032】
反射膜12の材料は、高反射率を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)などの金属が挙げられる。高反射率を有する材料を用いることによって、スクリーン1の投影面に対して鋭角に投射光を入射する近接型のプロジェクターを用いる場合であっても、明るい画像を映し出すことができる。なお、図示しないが、必要に応じて反射膜12上に保護膜等の薄膜をさらに形成してもよい。
基板11、反射膜12の厚さは、各部の材料やスクリーン1の種類に応じて適切な厚さとすればよい。
【0033】
基板11の反射面側には、多数の曲面部としての凹部11A,11Bが配置されている。各凹部11A,11Bは、略半球面状の凹面を有している。
凹部11A,11Bと反射膜12は、プロジェクター2の投射光をスクリーン1の正面方向に反射して、投影画像が鮮明にスクリーン1に映し出されるように、適切に設計されている。この設計は、凹部11A,11B、反射膜12を有するものであれば、特に限定されるものではない。スクリーン1は、この設計による構造によって前記光学機能の一部、すなわち、所定の角度においてコントラストが良好な構成を実現している。
【0034】
ここで、凹部11A,11Bの形状について詳細に説明する。凹部11A,11Bの直径は、スクリーン1の解像度や、生産性の観点等から適宜設定される。従来、このような凹部が形成された基板11上に反射膜12を形成して反射型のスクリーンを構成する場合、各凹部は全て同じ大きさとしていた。
【0035】
しかし、これら凹部を全て同じ大きさにすると半球面の曲率も同じとなることから、凹部にアルミニウム等の高反射率の材料で反射膜12を形成すると、各凹部から反射される光の干渉によってシンチレーションという独特のぎらつきが発生してしまう。
本願発明者は、各凹部からの反射光の光路差がスクリーン1に照射される光のコヒーレンス長よりも長い場合にはこのシンチレーションが発生しないことを知見し、これら凹部を以下のように形成するに至った。
【0036】
本実施形態において、凹部(曲面部)は、凹部11Aと凹部11Bの2種類から構成されており、凹部11Aは凹部11Bよりも半球径が大きく、凹部11Bと曲率が異なっている。
具体的には、前記シンチレーションを解消するため、凹部が隣接する部分においては、反射光の光路差がスクリーン1に投射されるプロジェクター2の投射光のコヒーレンス長よりも長くなるように、凹部11A,11Bの曲面の曲率が設定されている。つまり、凹部11A,11Bの曲率は、隣り合う凹部11A,11Bに対してプロジェクター2から投射光を照射した際の反射光の光路差をその投射光のコヒーレンス長よりも長くなるように設定されている。
【0037】
このように、凹部11Aと凹部11Bの曲面の曲率を異ならせることにより、凹部11A,11Bが隣接する部分においては、各凹部における反射光の光路差を変えることができ、シンチレーションの発生を防止することができる。
プロジェクター2の投射光の種類にもよるが、例えば、プロジェクター2の投射光が超高圧水銀ランプ、キセノン、ハロゲン等のランプ光源である場合には、光路差を5μm以上とすることによってコヒーレンス長よりも光路差を長くすることができる。
【0038】
また、凹部の半球径を凹部11A,11Bで異ならせても、全体としてスクリーン1の設定(例えば、前記光学機能の実現のための所定の設定)が変わらない程度の光路差となるように凹部11A,11Bの大きさを決めることが好ましい。
例えば、凹部11Aの直径を370μmとし、凹部11Bの直径を350μm〜355μmと、凹部11Aよりも15μm〜20μmだけ小さい構成とすることによって、以前の設定が変わらないようにすることができる。なお、画質劣化防止のため、大きいサイズの凹部11Aの直径は、プロジェクター2の画素より小さいサイズとすることが好ましい。
【0039】
次に、凹部11A,11Bの配置パターンについて詳細に説明する。凹部11A,11Bのパターンは、複数の凹部11A,11Bを隣接して配置するものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、この配置パターンとして正方格子状、千鳥格子状などが挙げられる。但し、凹部11A,11Bが交互に配置される構成とされている。
【0040】
図2(A)は、第1の方向における凹部11A,11Bの並びのパターンを示す上面図である。なお、本図においては説明し易いように第1の方向の一部のみについて示しているが、あくまで第1の方向の配列を表現するものである。スクリーン1の反射面は矩形状の平面であるため、実際には、図2(B),(C)に示すように、凹部11A,11Bも二次元的に配置され、各凹部11A,11Bが縦方向や斜め方向にも並んで配置されることとなる。
また、本実施形態における第1の方向は、図1に示すスクリーン1において、上下方向(縦方向)である。
【0041】
図2(A)に示すように、少なくとも第1の方向において、凹部11Aと凹部11Bを交互に配置することによって、凹部11Bを介した1個飛ばしの凹部11A間、凹部11Aを介した1個飛ばしの凹部11B間では反射光の干渉が発生するが、凹部11A同士や凹部11B同士は隣り合わないため、隣り合う凹部11A,11Bで反射された反射光間の干渉がなくなる。したがって、全体としてもシンチレーションを飛躍的に低減させることができる。
【0042】
なお、図2(B)は、スクリーン1において、上下方向である第1の方向には、凹部11Aと凹部11Bとを交互に配置し、第1の方向に直交する第2の方向(左右方向)には、同一の凹部11A同士または凹部11B同士を連続して配置している例である。
図2(B)の場合、前述のとおり、上下方向に並ぶ各凹部11A,11B間では反射光の干渉を無くすことができ、シンチレーションを低減できる。
【0043】
また、図2(C)は、スクリーン1において、上下方向である第1の方向および第1の方向に直交する第2の方向(左右方向)のそれぞれにおいて、凹部11Aと凹部11Bとを交互に配置している例である。
図2(C)の場合、上下方向および左右方向に並ぶ各凹部11A,11B間で反射光の干渉を無くすことができ、第1の方向だけでなく、第2の方向においてもシンチレーションをより低減できる。
なお、図2(C)は、第1および第2の方向に効果がある一方で、同じ曲率の凹部11A同士や、凹部11B同士が対角線方向に並ぶため、第1の方向でのシンチレーションの低減効果は図2(B)の配列に比べて低下する。従って、特に第1の方向のシンチレーション低減効果を高めたい場合には、図2(B)の配列を採用すればよい。一方、第1および第2の方向の両方に対してシンチレーション低減効果を求める場合には、図2(C)の配列を採用すればよい。
【0044】
[1−2.スクリーンの製造方法]
次に、本実施形態によるスクリーンの製造方法について説明する。スクリーン1は、スクリーン成形型(以下、適宜成形型と略する。)を用いて製造される。この成形型はさらに原板を用いて製造される。スクリーン成形型は成形型製造処理によって製造され、原板は原板成形処理によって成形される。以下、最初に行う原板成形処理から順に説明する。
【0045】
[1−2−1.原板の成形方法]
図3は、原板成形処理を説明するための部分断面図である。
原板成形処理では、先ず、マスク膜形成処理が行われる。
マスク膜形成処理では、図3(A)に示すように、前もって準備した成形前の原板31の一方の面(平滑面)上にマスク膜32を形成する。
【0046】
原板31の材質は特に限定されるものではなく、成形型の原板として通常使用されるものを用いることができる。ただし、原板31の材料としては、たわみが生じにくく、傷つきにくいものが好ましい。また、以後の処理(エッチング処理等)において加工し易く、安価なものが好ましい。具体的には、各種ガラス、各種金属、プラスチックに代表される各種樹脂などが挙げられる。例えば、強度、加工性、製造コスト等の観点から原板31の材料として青板ガラスを用いることができる。
【0047】
マスク膜32の材質も特に限定されるものではなく、以後の処理(初期孔形成処理、エッチング処理等)に合わせて適切なものを選定することができる。例えば、マスク膜32は、主としてクロムで構成される層と、主として酸化クロムで構成される層とを有する積層体であるのが好ましい。より具体的には、原板31上に酸化クロム膜、クロム膜、酸化クロム膜の順に3層構造で形成し、各厚さを10nm、30nm、30nmとすることが好ましい。このような構造のマスク膜32は、後述するようなレーザー加工等により、所望の形状の開口部を容易かつ確実に形成することができる。また、このような構成のマスク膜32は、様々な組成のエッチング液に対して優れた安定性を確保することができ、後述するエッチングによる凹部11A,11Bの形成を正確に行うことができる。
【0048】
また、マスク膜32の形成方法も特に限定されるものではなく、マスク膜32、原板31の材質等に応じて適宜選定すればよい。例えば、蒸着法やスパッタリング法等により、好適に形成することができる。また、マスク膜32をシリコンで構成されたものとする場合、スパッタリング法等により、好適に形成することができる。
【0049】
マスク膜形成処理に続いて初期孔形成処理が行われる。
初期孔形成処理では、図3(B)に示すように、原板31上に形成したマスク膜32に多数の開口部(第1開口部)33Aを形成する。
開口部33Aの形成方法は、特に限定されないが、例えばYAG3倍高調波のレーザー光の照射による方法であることが好ましい。これにより、容易且つ精確に所望形状の多数の開口部33Aを、所望パターンの配列でマスク膜32に形成することができる。
【0050】
開口部33Aの形状、大きさは、以後の処理(エッチング処理等)が可能であるならば特に限定されるものではないが、本実施形態では、全て同じ形状、大きさとなるように形成している。例えば、直径4μmの貫通孔を開口部33Aとすることができる。
また、マスク膜32における開口部33Aの配置パターンは、特に限定されるものではないが、この配置パターンによって前記の凹部11Aのパターンが決定される。すなわち、本実施形態では、原板31を転写して製造した成形型の転写によってスクリーン1の基板11を形成するため、この配置パターンは、前記の凹部11Aのパターンと共通となる。
【0051】
初期孔形成処理に続いて1回目のエッチング処理が行われる。
1回目のエッチング処理では、図3(C)に示すように、原板31の前記一方の面側を所定の段階までウェットエッチング加工する。エッチング液は、通常、原板31のエッチングに用いるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、原板31が青板ガラスであり、マスク膜32が前記の多層クロム膜である場合には、バッファードフッ酸を用いることができる。
原板31は開口部33Aから入り込むエッチング液によってエッチングされ、開口部33Aの配置パターンに合わせて多数の第1の凹部31Aが形成される。このエッチングは等方性エッチングであり、凹部31Aは、略半球状に形成される。また、開口部33Aは、全て均一の形状、大きさで形成されているため、凹部31Aの半球径も全て等しく形成される。したがって、凹部31Aの曲面の曲率は全て等しく形成される。例えば、この1回目のエッチングでは、所定の段階として凹部31Aの半球直径Lが15μm〜20μm、その深さが7.5μm〜10μmとなるまでエッチングされる。なお、本実施形態では、スクリーン製造方法において、この状態まで加工することを第1凹部形成工程と称する。
【0052】
本実施形態では、1回目のエッチング処理の後に追加孔形成処理と2回目のエッチング処理とが順次行われる。
追加孔形成処理では、図3(D)に示すように、原板31上のマスク膜32に開口部33Aを避けて多数の開口部(第2開口部)33Bを形成する。
開口部33Bは、前記開口部33Aと同様に形成される。つまり、この開口部33Bを形成後は、マスク膜32には、多数の開口部33Aと開口部33Bとが、全て均一の形状、大きさとなるように形成されていることになる。
【0053】
なお、開口部33Aと同様、マスク膜32における開口部33Bの配置パターンは、特に限定されるものではないが、この配置パターンによって前記の凹部11Bのパターンが決定される。すなわち、本実施形態では、この配置パターンと前記の凹部11Bのパターンが共通となる。つまり、開口部33A,33Bを合わせた配置パターンが前記の凹部11A,11Bのパターンと共通となるため、凹部11Aと凹部11Bとが交互に配置されるように、開口部33A,33Bは、スクリーン1の少なくとも第1の方向においては交互に設計された位置に配置されるように形成される。
【0054】
2回目のエッチング処理では、図3(E)に示すように、原板31の前記一方の面側を再び所定の段階までウェットエッチング加工する。原板31は開口部33A、開口部33Bから入り込むエッチング液によってエッチングされる。これにより、開口部33Bの配置パターンに合わせて新たに多数の第2の凹部31Bが形成される。このエッチングも等方性エッチングであり、凹部31Bは、略半球状に形成される。また、開口部33Bは、全て均一の形状、大きさで形成されているため、凹部31Bの半球径も全て等しく形成される。したがって、凹部31Bの曲面の曲率は全て等しく形成される。
【0055】
また、第1の凹部31Aは先ほどよりもエッチング加工が進み、半球径が大きくなり、深さも深くなる。すなわち、第1の凹部31Aは、1回目のエッチング加工の分だけ第2の凹部31Bよりも大きく形成される。凹部31Aの半球径は、凹部31Bの半球径よりも大きくなるため、凹部31Aと凹部31Bとでは、曲面の曲率が異なることになる。
【0056】
この2回目のエッチング処理によって、凹部31Aと凹部31Bとが隣接する所定の段階までエッチング加工が施される。例えば、この2回目のエッチングでは、図3(F)に示すように、所定の段階として凹部31Aの半球直径L1が370μm、凹部31Bの半球直径L2が350μm〜355μmとなるまでエッチングされる。これにより、後に製造されるスクリーン1の基板11の凹部11A,11Bの各直径も370μm,350μm〜355μmとなる。なお、本実施形態では、強度等を考慮して、後に製造されるスクリーン1の凹部11A,11Bおよび反射膜12による光学特性に影響しない範囲において、各凹部間に僅かに平滑部分を設けている。なお、スクリーン製造方法において、この状態まで加工することを第2凹部形成工程と称する。
【0057】
2回目のエッチング処理に続いてマスク膜除去処理が行われる。
マスク膜除去処理では、図3(F)に示すように、原板31上のマスク膜32を全て除去して、原板31を洗浄して、乾燥させる。なお、マスク膜32の除去、原板31の洗浄、乾燥方法は特に限定されるものでなく、原板31、マスク膜32の材質に応じて、適宜選定すればよい。
以上によって、一方の面に曲率の異なる半球状の凹部31Aと凹部31Bが形成された原板31が成形される。
【0058】
[1−2−2.スクリーン成形型の製造方法]
次に、成形型製造処理について説明する。
図4は、成形型製造処理を説明するための部分断面図である。
成形型製造処理では、先ず、原板転写処理が行われる。
原板転写処理では、図4(A)に示すように、原板成形処理で成形した原板31の一方の面(凹部31Aと凹部31Bが形成された面)を転写して成形型41を成形する。
【0059】
成形型41の材質は特に限定されるものではなく、型として通常使用される材質を用いることができる。ただし、成形型41の材料としては、たわみが生じにくく、傷つきにくいものが好ましい。また、以後の処理において加工し易く、安価なものが好ましい。具体的には、各種ガラス、各種金属、プラスチックに代表される各種樹脂などが挙げられる。
また、成形型41の材料として原板31から離型し易いものを選定することが好ましい。なお、接着性の良い材料を選定した場合であっても、原板31の転写面に離型剤を塗布しておくなどの離型処理を施しておけばよい。
【0060】
成形型の厚さについても、成形型として用いるのに十分な厚さであれば、適宜設定すればよい。
原板31の転写面の転写方法についても特に限定されるものではなく、原板31、成形型41の材質等によって適宜選定すればよい。例えば、原板31として青板ガラスを用いた場合には、ニッケル等の導電材料を用いて電鋳法によって成形型41を成形することができる。
【0061】
原板転写処理に続いて成形型剥離処理が行われる。
成形型剥離処理では、図4(B)に示すように、原板転写処理で成形された成形型41が原板31から剥離される。
以上によって、一方の面に曲率の異なる半球状の凸部41Aと凸部41Bが形成された成形型41が製造される。
【0062】
[1−2−3.スクリーンの成形方法]
次に、スクリーン成形処理について説明する。
図5は、スクリーン成形処理を説明するための部分断面図である。
スクリーン成形処理では、先ず、成形型転写処理が行われる。
成形型転写処理では、図5(A)に示すように、成形型製造処理で製造された成形型41の一方の面(凸部41Aと凸部41Bが形成された面)を転写して基板11を成形する。
【0063】
基板11の材質については、「1−1.スクリーン」において説明したが、成形型41から離型し易いものを選定することが好ましい。なお、接着し易い材料を選定した場合であっても、成形型41の転写面に離型剤を塗布しておくなどの離型処理を施しておけばよい。
成形型41の成型面の転写方法についても特に限定されるものではなく、成形型41、基板11の材質等によって適宜選定すればよい。例えば、基板11として紫外線硬化樹脂を用いた場合には、スピンコート法によって成形型41上に材料を塗り広げ、紫外線を照射させることによって塗り広げた材料を硬化させて基板11を成形することができる。
【0064】
成形型転写処理に続いて基板剥離処理が行われる。
基板剥離処理では、図5(B)に示すように、成形型転写処理で成形された基板11が成形型41から剥離される。
これにより、一方の面に曲率の異なる半球状の凹部11Aと凹部11Bが形成された基板11が製造される。従って、これらの各凹部11A,11Bにより、凹面状の曲面部が構成されている。
【0065】
基板剥離処理に続いて反射膜形成処理が行われる。
反射膜形成処理では、図5(C)に示すように、基板11の凹部11A,11Bが形成された面に反射膜12が形成される。
反射膜12の材質については、「1−1.スクリーン」において説明したのでここでは省略する。
【0066】
反射膜12の形成方法については、特に限定されるものではなく、基板11、反射膜12の材質等によって適宜選定すればよい。例えば、アルミニウムを反射膜12の材料とした場合、蒸着法によって反射膜12を形成することができる。
最後に、必要に応じて反射膜12上に保護膜等の薄膜(図示せず)を形成する。
以上によって、基板11の一方の面(反射面)に曲率の異なる半球状の凹部11Aと凹部11Bが形成される。そして、この基板11の凹部11A,11B上に反射膜12を形成することでスクリーン1が製造される。なお、スクリーン製造方法において、図5(C)の状態まで加工することをスクリーン成形工程と称する。
【0067】
なお、前記図3〜5の手順でスクリーン1を製造しているため、複数の凹部11A,11Bの開口外周縁は、基板の厚さ方向の位置が互いに一致している。すなわち、図5(C)に示すように、各凹部11A,11Bの開口外周縁は、基板11において最も突出された部分であり、その位置は同一平面内に配置されて揃っている。
【0068】
[1−3.第1実施形態の作用効果]
第1実施形態のスクリーンによれば、基板11の反射面に配置された複数の半球状の凹部11A,11Bと、凹部11A,11B上に形成された反射膜12とを有しているため、反射光をスクリーン1の正面方向に効率よく反射させることができ、投影画像を鮮明に映し出すことができる。特に、スクリーン1には、各凹部11A,11Bにより凹面状の曲面部が形成されているので、近接投射型のプロジェクター2の投射光を効率よく反射でき、良好な画像を見ることができる。
【0069】
また、凹部11Aと凹部11Bとを隣り合わせ、隣接する凹部の曲面の曲率を異ならせた構成を備えるため、この凹部11A,11Bからの反射光の光路差を変えることができる。凹部11A,11Bからの反射光の光路差を、スクリーン1に照射されるプロジェクター2の投射光のコヒーレンス長よりも長くなるように凹部11A,11Bの形状の比率を設定しているため、シンチレーションの発生を防止して高画質の画像を表示することができる。
さらに、凹部の形状を凹部11A,凹部11Bの2種類としているため、元来の凹部、反射膜による光学特性に影響しない程度においてシンチレーションの発生を防止することができる。凹部11A,11Bの2種類であるため、各種類の凹部間の光路差を同じとするならば、3種類以上にするよりも光路差を小さくすることができるため、より影響しないようにすることができる。
【0070】
さらに、本実施形態では、スクリーン1の反射面において、少なくとも第1の方向に同一の曲率の凹部が連続しないように、各凹部11A,11Bを交互に配置している。このため、少なくとも、第1の方向においては、各凹部11A,11B間での反射光の干渉を無くすことができ、シンチレーションの発生を抑制できる。
また、図2(C)に示すように、第1の方向だけでなく第2の方向においても、各凹部11A,11Bを交互に配置すれば、各凹部11A,11Bは、上下および左右の4方向に隣り合う凹部と曲率が異なるため、両方向でのシンチレーションの発生を抑制できる。
【0071】
第1実施形態のスクリーンの製造方法では、互いに曲率の異なる複数の凹部31A,31Bが形成された原板31の成型面を転写して基板11の成形型41を製造し、製造された成形型41を転写して基板11を成型しているため、基板11には成形型41の凸部41A,41Bに対応した複数の凹部11A,11B、すなわち原板31の凹部31A,31Bと同様の形状を形成できる。従って、原板31にエッチングで凹部31A,31Bを形成した際に、各開口部33A,33Bの配置位置や、エッチング時間などを制御することで、設計した基板11の凹部11A,11Bと同じ凹部31A,31Bを形成すればよく、原板31を検査することで設計通りに製造できるかを容易に検査できる。
【0072】
また、基板11の凹部11A,11Bに反射膜12を形成するため、凹部11A,11Bと反射膜12とを適切に設計することによって、反射光を効率よく正面方向に反射させることができ、投影画像を鮮明に映し出すことができるスクリーン1を製造することができる。
さらに、原板31の成型面に最初に形成した複数の凹部31Aとは曲率の異なる新たな複数の凹部31Bを形成するため、製造されるスクリーン1についても隣接する凹部11A,11Bの曲面の曲率を異ならせた構成を備えさせることができる。このため、この凹部11A,11Bからの反射光の光路差を変えることができ、シンチレーションの発生を防止して高画質の画像を表示することができるスクリーン1を製造することができる。
【0073】
また、マスク膜32に1回目のエッチングに用いた開口部33Aとは別の新たな複数の開口部33Bを形成し、マスク膜32の全ての開口部(開口部33A,33B)を通じて等方性エッチングを施しているため、開口部33Bの追加と再度のエッチング加工によって曲率の異なる凹部を、スクリーン1を構成する基板11に容易に形成することができる。
【0074】
さらに、各凹部11A,11Bの開口外周縁つまり反射面において最も突出した部分が同一平面位置に形成されているので、各凹部11A,11Bにおいて陰となる領域を、その凹部11A,11Bの開口外周縁による陰による領域のみに限定できる。従って、凹部11A,11Bの開口外周縁の基板11の厚さ方向の位置が一致していない場合に比べて、投射光を反射する領域を確保でき、スクリーンの反射率を向上できる。
【0075】
[2.第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態について説明する。
第2実施形態は、第1の実施形態における凹部の形状が異なるだけであり、他は同様である。従って、主として第1実施形態との相違点について以下に説明する。
【0076】
[2−1.スクリーン]
第1実施形態では、基板11に形成する曲面部を、凹部11Aと凹部11Bの2種類としたが、本実施形態の反射型スクリーン101では、3種類としている点が異なっている。なお、材料等については、第1実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。
【0077】
図6は、本実施形態での凹部形状と配置パターンを示す上面図である。なお、図6(A)においても説明し易いように第1の方向の一部のみについて示しているが、あくまで第1の方向の配列を表現するものである。スクリーン101の反射面は矩形状の平面であるため、実際には、図6(B),(C)に示すように、凹部111A,111B,111Cも二次元的に配置され、各凹部111A,111B,111Cが縦方向や斜め方向にも並んで配置されることとなる。
【0078】
図6(A)〜(C)に示すように、本実施形態でのスクリーン101に形成された凹部(曲面部)は、凹部111A,111B,111Cの3種類から構成されている。凹部111Aは凹部111Bよりも半球径が大きく、凹部111Bは凹部111Cよりも半球径が大きく構成されている。
これにより、凹部111A,111B,111Cは、それぞれ曲面の曲率が異なっている。
【0079】
具体的には、第1実施形態と同様、シンチレーションを解消するため、凹部111A,111B,111Cが互いに隣り合う部分においては、反射光の光路差がスクリーンに投射されるプロジェクター2の投射光のコヒーレンス長よりも長くなるように、各凹部111A,111B,111Cの曲面の曲率が設定されている。
【0080】
このように、凹部111A,111B,111Cの曲面の曲率をそれぞれ異ならせることにより、凹部111A,111B,111Cが互いに隣り合う部分においては、凹部111A同士が隣り合う部分、凹部111B同士が隣り合う部分又は凹部111C同士が隣り合う部分と比較して、反射光の光路差を変えることができ、シンチレーションの発生を防止することができる。
第1実施形態で説明したように、光源の種類にもよるが、例えば、プロジェクター2の投射光が超高圧水銀ランプ、キセノン、ハロゲン等のランプ光源である場合には、各凹部の光路差を5μm以上とすることによってコヒーレンス長よりも光路差を長くすることができる。
【0081】
また、全体としてスクリーンの設定(例えば、前記光学機能の実現のための所定の設定)が変わらない程度の光路差となるように凹部111A,111B,111Cの大きさを決めることが好ましい。
【0082】
例えば、凹部111Aの直径を370μmとし、凹部111Bの直径を350μm〜355μmとし、凹部111Cの直径を330μm〜335μmとし、大きいサイズの凹部111Aと小さいサイズの凹部111Cとが15μm〜20μm異なる構成とすることによって、以前の設定が変わらないようにすることができる。
【0083】
次に、凹部111A,111B,111Cの配置パターンについても、前記第1実施形態と同様、少なくとも第1の方向において、各凹部111A,111B,111Cを順に繰り返し配置するものであれば、特に限定されるものではない。
例えば、図6(B)に示すように、スクリーン101において、上下方向である第1の方向には、凹部111A,111B,111Cが順に繰り返し配置され、第1の方向に直交する第2の方向には、同一の凹部111A同士、凹部111B同士、凹部111C同士が連続して配置されるように設定してもよい。
また、図6(C)に示すように、スクリーン101において、上下方向である第1の方向には、上から凹部111A,111B,111Cの順で繰り返し配置される列と、上から凹部111C,111B,111Aの順で繰り返し配置される列とが、交互に配列されるように設定してもよい。
なお、前記第1実施形態と同様に、図6(B)の配列によれば、特に第1の方向のシンチレーションをより低減することができ、図6(C)の配列によれば、第1および第2の方向のシンチレーションを共に低減できる。
【0084】
このように配置することによって、スクリーン101において、第1の方向では、同一の曲率の各凹部111A,111B,111Cは隣り合わないため、各凹部111A,111B,111Cの反射光における干渉がなくなる。したがって、全体としてもシンチレーションの発生を飛躍的に低減させることができる。
【0085】
[2−2.スクリーンの製造方法]
次に、本実施形態によるスクリーンの製造方法について説明する。本実施形態においても、スクリーンは成形型を用い製造され、成形型は原板を用いて製造される。以下、本実施形態による原板成形処理について説明する。なお、材料等については第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0086】
[2−2−1.原板の成形方法]
図7、図8は、原板成形処理を説明するための部分断面図である。
原板成形処理では、先ず、マスク膜形成処理が行われる。
マスク膜形成処理では、図7(A)に示すように、成形前の原板131の一方の面(平滑面)上にマスク膜132を形成する。
【0087】
マスク膜形成処理に続いて初期孔形成処理が行われる。
初期孔形成処理では、図7(B)に示すように、原板131上に形成したマスク膜132に多数の第1開口部133Aを形成する。
本実施形態では、原板131を転写して製造した成形型の転写によってスクリーンの基板を形成するため、この配置パターンは、前記の凹部111Aのパターンと共通となる。
【0088】
初期孔形成処理に続いて1回目のエッチング処理が行われる。
1回目のエッチング処理では、図7(C)に示すように、原板131の前記一方の面側を所定の段階までウェットエッチング加工する。
原板131は開口部133Aから入り込むエッチング液によってエッチングされ、開口部133Aの配置パターンに合わせて多数の第1の凹部131Aが形成される。このエッチングは等方性エッチングであり、凹部131Aは、略半球状に形成される。また、第1実施形態と同様、凹部131Aの半球径は全て等しく形成され、曲率は全て等しく形成される。例えば、この1回目のエッチングでは、所定の段階として凹部131Aの半球直径L3が15μm〜20μm、その深さが7.5μm〜10μmとなるまでエッチングされる。なお、本実施形態では、スクリーン製造方法において、この状態まで加工することを第1凹部形成工程と称する。
【0089】
次に、追加孔形成処理と2回目のエッチング処理とが順次行われる。
追加孔形成処理では、図7(D)に示すように、原板131上のマスク膜132に第1開口部133Aを避けて多数の第2開口部133Bを形成する。
本実施形態では、この配置パターンと前記の凹部111Bのパターンが共通となる。
【0090】
2回目のエッチング処理では、図8(E)に示すように、原板131の前記一方の面側を再び所定の段階までウェットエッチング加工する。これにより、開口部133Bの配置パターンに合わせて新たに多数の第2の凹部131Bが形成される。凹部131Bも、曲面の曲率が全て等しく形成される。
【0091】
また、第1の凹部131Aは先ほどよりもエッチング加工が進み、半球径が大きくなり、深さも深くなる。すなわち、凹部131Aは、1回目のエッチング加工の分だけ凹部131Bよりも大きく形成される。凹部131Aの半球径は、凹部131Bの半球径よりも大きくなるため、凹部131Aと凹部131Bとでは、曲面の曲率が異なることになる。なお、本実施形態では、スクリーン製造方法において、この状態まで加工することを第2凹部形成工程と称する。
【0092】
本実施形態では、2回目のエッチング処理の後に再追加孔形成処理と3回目のエッチング処理とが順次行われる。
再追加孔形成処理では、図8(F)に示すように、原板131上のマスク膜132に開口部133A,133Bを避けて多数の第3開口部133Cを形成する。
この開口部133Cを形成後は、マスク膜132には、多数の開口部133A,133B,133Cが、全て均一の形状、大きさとなるように形成される。
【0093】
本実施形態では、この配置パターンと前記の凹部111Cのパターンが共通となる。つまり、凹部111A,111B,111Cが順に繰り返し配置されるように、開口部133A,133B,133Cは、順番に繰り返し配置されるように形成される。
【0094】
3回目のエッチング処理では、図8(G)に示すように、原板131の前記一方の面側を再び所定の段階までウェットエッチング加工する。これにより、第3開口部133Cの配置パターンに合わせて新たに多数の第3の凹部131Cが形成される。凹部131Cも、曲面の曲率が全て等しく形成される。
【0095】
また、凹部131A,131Bは先ほどよりもエッチング加工が進み、半球径が大きくなり、深さも深くなる。すなわち、第1の凹部131Aは、1回目および2回目のエッチング加工の分だけ凹部131B,131Cよりも大きく形成され、第2の凹部131Bは、2回目のエッチング加工の分だけ凹部131Cよりも大きく形成される。凹部131Aの半球径は、凹部131Bの半球径よりも大きくなり、凹部131Bの半径球は、凹部131Cの半球径よりも大きくなるため、凹部131A,131B,131Cは、それぞれ曲面の曲率が異なることになる。
【0096】
この3回目のエッチング処理によって、凹部131A,131B,131Cがそれぞれ隣接する所定の段階までエッチング加工が施される。例えば、この3回目のエッチングでは、図8(H)に示すように、所定の段階として凹部131Aの半球直径L4が370μm、凹部131Bの半球直径L5が350μm〜355μm、凹部131Cの半球直径L6が330μm〜335μmとなるまでエッチングされる。これにより、後に製造されるスクリーンの基板の凹部111A,111B,111Cの各直径も370μm,350μm〜355μm,330μm〜335μmとなる。なお、本実施形態では、スクリーン製造方法において、この状態まで加工することを第3凹部形成工程と称する。
【0097】
3回目のエッチング処理に続いてマスク膜除去処理が行われる。
マスク膜除去処理では、図8(H)に示すように、原板131上のマスク膜132を全て除去して、原板131を洗浄して、乾燥させる。
以上によって、一方の面に曲率の異なる半球状の凹部131A,131B,131Cが形成された原板131が成形される。
【0098】
次に、前記第1実施形態と同様の成形型製造処理、スクリーン成形処理によって、スクリーンが製造される。なお、前記第1実施形態とは凹部形状が異なるだけであるため、ここではこれら処理の説明を省略する。
以上によって、図9に示すように、基板111の一方の面に曲率の異なる半球状の凹部111A,111B,111Cが形成され、さらに凹部111A,111B,111C上に反射膜112が形成されたスクリーン101が製造される。なお、本実施形態では、スクリーン製造方法において、この状態まで加工することをスクリーン成形工程と称する。
【0099】
[2−3.第2実施形態の作用効果]
本実施形態によれば、前記第1実施形態と同様の作用効果を奏するとともに、以下の作用効果を奏する。
スクリーン101の基板111に形成されている凹部の曲面の曲率を3種類とすることにより、元来の反射特性に影響しない程度においてシンチレーションの発生を防止することができる。また、段階的に光路差を変えることによって、より大きな光路差とすることができる。
【0100】
また、第2凹部形成工程後、スクリーン成形工程前に、マスク膜132にさらに新たな複数の開口部133Cを形成し、マスク膜132の全ての開口部133A,133B,133Cを通じて原板131の成型面に所定の段階まで等方性エッチングを施しているので、原板131の成型面に第1凹部形成工程および第2凹部形成工程で形成した複数の凹部131A,131Bとは曲面の曲率の異なるさらに新たな複数の凹部131Cを形成できる。このため、製造後のスクリーンを構成する基板111に、曲面の曲率が3種類となる凹部111A,111B,111Cを形成することができる。これにより、段階的に光路差を変えることで、より大きな光路差を持たせることができる。
【0101】
[3.変形例]
なお、本発明は、前記実施形態に限ったものではない。
例えば、スクリーン1,101は、近接投射型のプロジェクター2の投射光を反射するものに限ったものではなく、投射光を反射させて画像を映し出すために用いられるものであればよい。
【0102】
また、前記実施形態では、スクリーンの反射面側に略半球面の凹部を形成したが、凹部形状はこれに限定されるものではなく、他の断面曲線形、U字形等の曲面を有する凹部を形成してもよい。
【0103】
さらに、凹部に限らず、曲面を有する凸部をスクリーンの反射面側に形成するものであっても適用することができる。例えば、図10に示す反射型スクリーン200のように、反射面に凸面状の曲面部211A,211Bが形成された基板211と、この基板211上に形成された反射膜212とを備えて構成すればよい。
ここで、各曲面部211A,211Bは、第1実施形態の凹部11A,11Bと同様に、曲面の曲率が互いに異なるものであり、少なくとも第1の方向である上下方向において交互に配置されている。
なお、第1実施形態の図3(F)に示す原板31を成形型として用いることで、凸面状の2種類の曲面部211A,211Bを有する前記基板211を成型できる。
【0104】
また、例えば、各実施形態や変形例における凹部や凸部、すなわち曲面部の配置パターンは前記各実施形態のものに限ったものではない。
【0105】
図11は、前記第1実施形態の凹部(2種類の曲率の曲面を有する凹部11A,11B)の配置パターンの他の具体例を示す。なお、図11〜13は、図2(A)や図6(A)と同じく、スクリーンの第1の方向における配置パターンの例である。
図11(A)は、凹部11A、凹部11A、凹部11B、凹部11B、凹部11A、凹部11A、凹部11B、凹部11B、…と、凹部11Aと凹部11Bを2つずつ交互に配置している。
このように、凹部11Aと凹部11Bを2つずつ交互に配置することにより、凹部11A同士または凹部11B同士が隣り合う部分では反射光の干渉が発生するおそれがある。一方、凹部11Aと凹部11Bとが隣り合う部分では、曲面の曲率が異なるため、反射光の干渉を抑えることができる。したがって、全体としてシンチレーションを低減させることができる。
【0106】
図11(B)は、凹部11A、凹部11A、凹部11A、凹部11B、凹部11B、凹部11B、凹部11A、凹部11A、凹部11A、…と、凹部11Aと凹部11Bを3つずつ交互に配置している。
このように、凹部11Aと凹部11Bを3つずつ交互に配置すると、前記各実施形態や図11(A)のものと比較すると効果は薄いが、同じものを並べるよりはシンチレーションを低減させることができる。このように、曲率が同じ曲面部を3つ連続して配置した場合であっても、全て同じものを並べるよりはシンチレーションの発生を抑制することができる。すなわち、本発明では、曲率が同じ曲面部は最大で3つまで連続して配置すればよい。
【0107】
図11(C)は、凹部11A、凹部11A、凹部11B、凹部11A、凹部11B、凹部11B、凹部11A、凹部11A、凹部11B、…と、2つの凹部11A,11Bと、1つの凹部11A,凹部11Bとを交互に配置している。
また、図11(D)は、凹部11A、凹部11A、凹部11B、凹部11A、凹部11B、凹部11A、凹部11A、凹部11B、凹部11A、…と、2つの凹部11A,1つの凹部11Bと、1つの凹部11A,1つの凹部11Bとを交互に配置している。
これらの図11(C)、図11(D)の場合も、前記配置パターンを組み合わせであるため、全体的にシンチレーションを低減させることができる。
なお、図11に示した配置パターンは具体例に過ぎず、曲率が同じ凹部11A,11Bを最大で3つまで連続させた配置構成であればシンチレーションの発生を低減させることができ、ぎらつきを抑えることができる。特に、曲率が同じ凹部11A,11Bを最大で2つまで連続させた配置構成であればシンチレーションの発生を大幅に低減させることができ、ぎらつきを抑えることができる。
【0108】
ここで、曲面部が最大で3つまで連続とは、少なくとも縦方向、横方向等の1方向(第1の方向)の配列においてであればよい。
例えば、スクリーンの中央部の上下方向から投射光が投射される場合には、横方向においてシンチレーションが発生し易い。このため、光源の位置に合わせてシンチレーションが発生し易い方向(この場合横方向)において適用することが好ましい。
【0109】
また、この方向は、直線的でなくてもよく、例えば、スクリーンの中央下方から反射面に対して鋭角にプロジェクター等の投射光が投射される場合に、当該角度による反射面における投射光の拡がり具合に合わせて放射状に同じ径の凹部を配列する場合が考えられる。この場合、例えば、凹部を並べるピッチが縦方向の方が横方向より長くなるように配置される。具体的には、短い方のピッチを165μmとし、長い方のピッチを240μmとする。
このような場合には、放射方向に沿ってシンチレーションが発生し易いため、同一の曲率の曲面部の連続配置数を、少なくともこの放射方向又は横方向において最大で3つまでに制限することで、大幅にシンチレーションの発生を低減させることができる。
【0110】
また、第2実施形態では、3種類の曲率の曲面を有するため、さらに多くの配置パターンとすることができる。
図12、図13は、前記第2実施形態の凹部(凹部111A,111B,111C)の配置パターンの他の具体例を示す。
【0111】
図12(A)は、凹部111A、凹部111B、凹部111C、凹部111B、凹部11A、…と、凹部111A,111B,111Cを大きさが大、中、小、中、大、…となるように配置している。
このように配置することにより、同じ曲率の凹部が隣り合わず、また、凹部111Bは他の凹部111A,111Cを1つ挟んだ1個飛ばしで配置されるが、凹部111A,111Cは他の凹部を3つ挟んだ3個飛ばしで配置される。また、各凹部間の曲率差が全て同じため、飛躍的にシンチレーションを低減させることができる。
【0112】
図12(B)は、凹部111A、凹部111A、凹部111B、凹部111B、凹部111C、凹部111C、凹部111A、凹部111A、…と、大きさが大、大、中、中、小、小、大、大、…となるように配置している。
このように配置することにより、各凹部は、隣り合う2つの凹部のうち、一方の凹部は同じ曲率の凹部であるため、それらの凹部での反射光では干渉が発生するおそれがある。
これに対し、他方の凹部は曲率が異なり、その方向には曲率が異なる他の凹部が4個配置されている。すなわち、2つずつ並んだ曲率が同一の凹部の組は、他の曲率の凹部を4個飛ばして順次配置されるため、シンチレーションを低減させることができる。
【0113】
図12(C)は、凹部111A、凹部111A、凹部111B、凹部111B、凹部111C、凹部111C、凹部111B、凹部111B、…と、大きさが大、大、中、中、小、小、中、中、…となるように配置している。
このように配置することにより、2つずつ並んだ曲率が同一の凹部の組は、他の曲率の凹部を2個飛ばし、または、6個飛ばしで順次配置されるため、シンチレーションを低減させることができる。
【0114】
図13(A)は、凹部111A、凹部111B、凹部111B、凹部111C、凹部11A、…と、大きさが大、中、中、小の基本パターンを繰り返すように配置している。
また、図13(B)は、凹部111A、凹部111B、凹部111B、凹部111C、凹部11B、凹部11B、…と、大きさが大、中、中、小、中、中の基本パターンを繰り返すように配置している。
これら配置では、2つの凹部111Bが隣り合っている部分はあるが、他の部分は、曲率が異なる凹部同士が隣り合っているので、結果としてシンチレーションを低減させることができる。
【0115】
なお、凹部111A,凹部111B又は凹部111Cを前記のように最大で3つまで、好ましくは2つまで連続させた配置であれば、図13(C)に示すようなランダムな配置であってもシンチレーションの発生を大幅に低減させることができる。
また、前記基本パターンを組み合わせた配置等であってもシンチレーションの発生を低減させることができる。
【0116】
また、スクリーンの成型は、成形型の成型によるものに限らず、原板31,131を成形型とし、原板31,131の成型面を用いて成型することによって直接スクリーン1,101を成型してもよい。
さらに、原板31,131上にマスク膜32,132を形成した後に開口部33B,133C等を形成するのではなく、予め開口部33B,133C等が予め設けられているマスク膜32,132を原板31,131上に形成してもよい。これら形成方法は、特に限定されるものではない。
また、反射膜12,112の形成は、凹部上の全面に形成することに限らず、反射特性を考慮してコントラストが向上するように投射光の入射方向に応じて部分的に形成してもよい。
【0117】
また、本発明の反射型スクリーンは、図1、10に示すような、投影システムに用いられるものに限定されない。例えば、図14に示すように、反射型スクリーン301と、プロジェクター302と、これらを支持するフレーム303とを備えたフロントプロジェクションテレビ300に適用してもよい。
【符号の説明】
【0118】
1,101,200,301…反射型スクリーン、2,302…プロジェクター、11,111,211…基板、11A,11B,111A〜111C…凹部(基板)、12,112,212…反射膜、31,131…原板、32,132…マスク膜、33A,33B,133A〜133C…開口部、31A,31B,131A〜131C…凹部(原板)、41…スクリーン成形型、41A,41B…凸部、133A〜133C…開口部、211A,211B…曲面部、300…フロントプロジェクションテレビ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投射光を反射する反射型スクリーンであって、
一つの面に凹面状または凸面状の複数の曲面部が形成された基板と、
前記基板の曲面部上に形成された反射膜とを有し、
前記複数の曲面部は、曲率が異なる複数種類の曲面部で構成され、
少なくとも第1の方向に並ぶ複数の曲面部において、曲率が同じ曲面部は、最大3つまで連続して配置されていることを特徴とする反射型スクリーン。
【請求項2】
請求項1に記載の反射型スクリーンにおいて、
前記第1の方向に対して交差する第2の方向に並ぶ複数の曲面部において、曲率が同じ曲面部は、最大3つまで連続して配置されていることを特徴とする反射型スクリーン。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の反射型スクリーンにおいて、
前記曲率が同じ曲面部は、最大2つまで連続して配置されていることを特徴とする反射型スクリーン。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の反射型スクリーンにおいて、
前記複数の曲面部は、凹面状の曲面部であり、
各曲面部の開口外周縁は、基板の厚さ方向の位置が互いに一致していることを特徴とする反射型スクリーン。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の反射型スクリーンにおいて、
前記複数の曲面部は、曲率が異なる2種類または3種類の曲面部で構成されていることを特徴とする反射型スクリーン。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の反射型スクリーンと、
前記反射型スクリーンの曲面部が形成された面に光を投射する投影機とを備えることを特徴とする投影システム。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の反射型スクリーンと、
前記反射型スクリーンの曲面部が形成された面に光を投射する投影ユニットと、
前記反射型スクリーンおよび投影ユニットが収納された筐体とを備えることを特徴とするフロントプロジェクションテレビ。
【請求項8】
投射光を反射する反射型スクリーンの製造方法であって、
原板の成型面側に複数の第1開口部が設けられたマスク膜を形成し、前記マスク膜の第1開口部を通じて前記原板の成型面に所定の段階まで等方性エッチングを施すことで、前記成型面に複数の第1の凹部を形成する第1凹部形成工程と、
前記マスク膜に第2の凹部を形成するための新たな複数の第2開口部を形成し、マスク膜の第1開口部および第2開口部を通じて前記原板の成型面に所定の段階まで等方性エッチングを施すことで、前記成型面に複数の第1の凹部と、この第1の凹部と曲率が異なる複数の第2の凹部を形成する第2凹部形成工程と、
第1および第2の凹部が形成された原板の成型面を転写して凸面状の2種類の曲面部を有する基板を成型し、または、前記原板の成型面を転写して製造された成形型の凸部が形成された成型面を転写して凹面状の2種類の曲面部を有する基板を成型し、この基板の曲面部に反射膜を形成するスクリーン成形工程と
を有することを特徴とする反射型スクリーンの製造方法。
【請求項9】
投射光を反射する反射型スクリーンの製造方法であって、
原板の成型面側に複数の第1開口部が設けられたマスク膜を形成し、前記マスク膜の第1開口部を通じて前記原板の成型面に所定の段階まで等方性エッチングを施すことで、前記成型面に複数の第1の凹部を形成する第1凹部形成工程と、
前記マスク膜に第2の凹部を形成するための新たな複数の第2開口部を形成し、マスク膜の第1開口部および第2開口部を通じて前記原板の成型面に所定の段階まで等方性エッチングを施すことで、前記成型面に複数の第1の凹部と、この第1の凹部と曲率が異なる複数の第2の凹部を形成する第2凹部形成工程と、
前記マスク膜に第3の凹部を形成するための新たな複数の第3開口部を形成し、マスク膜の第1,2,3の各開口部を通じて前記原板の成型面に所定の段階まで等方性エッチングを施すことで、前記成型面に前記第1および第2の凹部とは曲率が異なる複数の第3の凹部を形成する第3凹部形成工程と、
第1,2,3の凹部が形成された原板の成型面を転写して凸面状の3種類の曲面部を有する基板を成型し、または、前記原板の成型面を転写して製造された成形型の凸部が形成された成型面を転写して凹面状の3種類の曲面部を有する基板を成型し、この基板の曲面部に反射膜を形成するスクリーン成形工程と
を有することを特徴とする反射型スクリーンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−262264(P2010−262264A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50209(P2010−50209)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】