説明

反射型液晶表示素子の駆動方法、および反射型液晶表示素子の駆動装置

【課題】画像書き込みのための駆動操作とは異なる、別個独立した新たな反射率制御の手法を採り入れ、従来公知の手法と組み合わせることで、多様な反射率制御を可能とする反射型液晶表示素子の駆動方法および駆動装置を提供する。
【解決手段】一対の電極5,6間に、コレステリック液晶を含む選択反射層7a,7bが挟持されてなる反射型液晶表示素子に画像を記録するため、選択反射層7a,7bにおける所定の動作閾値を超える電圧V1Hおよび超えない電圧V1Lを含む2種類以上の大きさの電圧を選択反射層7a,7bに所定時間選択的に印加し、前記動作閾値を超える部位または超えない部位の選択を行う書き込み工程と、それに続いて連続的に、電圧V1Hおよび電圧V1Lの周波数とは異なる周波数の電圧V2を選択反射層7a,7bに印加する調整電圧印加工程と、を含むことを特徴とする反射型液晶表示素子の駆動方法および駆動装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶を含む複数の選択反射層からなり2色以上の画像を表示し記録する反射型液晶表示素子に、像を書き込むための駆動方法および駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
森林資源保護などの地球環境保全や、スペースセーブといった事務環境改善などの理由から、紙に替わるハードコピー技術として、リライタブルマーキング技術への期待が大きい。
一方、反射型液晶表示素子は、バックライトのような専用の光源を必要とせず、消費電力が少ないとともに、偏平小型に構成できることから、小型情報機器や携帯情報端末などの表示装置として注目されている。
【0003】
リライタブルマーキング技術に対しても、反射型液晶表示素子を利用した技術が様々に提案されている。中でも、本発明者らによる積層型光変調素子を用いた閾値シフト法による画像書き込みおよび表示は、1つの駆動信号により2層の表示層を独立に制御することができるため、媒体の構造を簡略化し、製造コストを低減できるという多大なメリットがある(特許文献1および特許文献2参照)。すなわち、閾値シフト法によれば、簡易的かつ低コストでフルカラーを含む2色以上の画像を表示し記録することができるという卓越した効果を有する。
【0004】
閾値シフト法による画像書き込みおよび表示の原理について説明する。
図21は、閾値シフト法による画像書き込みの様子を説明するための模式断面図である。積層型光変調素子101は、一対の透明電極105および透明電極106間に、コレステリック液晶からなる2層の表示層107aおよび107bが、主として積層されてなる。
【0005】
正の誘電率異方性を有するコレステリック液晶は、図22(A)に示すように、螺旋軸がセル表面に垂直になり、入射光に対して上記の選択反射現象を起こすプレーナ相、図22(B)に示すように、螺旋軸がほぼセル表面に平行になり、入射光を少し前方散乱させながら透過させるフォーカルコニック相、および図22(C)に示すように、螺旋構造がほどけて液晶ダイレクタが電界方向を向き、入射光をほぼ完全に透過させるホメオトロピック相、の3つの状態を示す。
【0006】
上記の3つの状態のうち、プレーナ相とフォーカルコニック相は、無電界で双安定に存在することができる。したがって、コレステリック液晶の相状態は、液晶層に印加される電界強度に対して一義的に決まらず、プレーナ相が初期状態の場合には、電界強度の増加に伴って、プレーナ相、フォーカルコニック相、ホメオトロピック相の順に変化し、フォーカルコニック相が初期状態の場合には、電界強度の増加に伴って、フォーカルコニック相、ホメオトロピック相の順に変化する。
【0007】
一方、液晶層に印加した電界強度を急激にゼロにした場合には、プレーナ相とフォーカルコニック相はそのままの状態を維持し、ホメオトロピック相はプレーナ相に変化する。
したがって、パルス信号を印加した直後のコレステリック液晶層は、図23に示すようなスイッチング挙動を示し、印加されたパルス信号の電圧が、Vfh,90以上のときには、ホメオトロピック相からプレーナ相に変化した選択反射状態となり、Vpf,10とVfh,10の間のときには、フォーカルコニック相による透過状態となり、Vpf,90以下のときには、パルス信号印加前の状態を継続した状態、すなわちプレーナ相による選択反射状態またはフォーカルコニック相による透過状態となる。
【0008】
なお、図中、縦軸は正規化反射率であり、最大反射率を100、最小反射率を0として、反射率を正規化している。また、プレーナ相、フォーカルコニック相およびホメオトロピック相の各状態間には、遷移領域が存在するため、正規化反射率が90以上の場合を選択反射状態、正規化反射率が10以下の場合を透過状態と定義し、プレーナ相とフォーカルコニック相の相変化のしきい電圧を、遷移領域の前後に対して、それぞれVpf,90、Vpf,10とし、フォーカルコニック相とホメオトロピック相の相変化のしきい電圧を、遷移領域の前後に対して、それぞれVfh,10、Vfh,90とする。
【0009】
特に、コレステリック液晶に高分子を添加したPNLC(Polymer−Networked Liquid Crystal)構造またはPDLC(Polymer−Dispersed Liquid Crystal)構造の液晶層においては、コレステリック液晶と高分子の界面における干渉により(アンカリング効果)、プレーナ相とフォーカルコニック相の無電界における双安定性が向上し、長期間に渡ってパルス信号印加直後の状態を保持することができる。
【0010】
当該技術による積層型光変調素子では、このコレステリック液晶の双安定現象を利用して、(A)プレーナ相による選択反射状態と、(B)フォーカルコニック相による透過状態とを、各層ごとに独立して、しかも1つの信号でスイッチングすることによって、無電界でのメモリ性を有するカラー表示を行う。
【0011】
閾値シフト法による画像書き込みに供される積層型光変調素子101においては、表示層107aと表示層107bとでコレステリック液晶の動作閾値を異ならせることで、透明電極105および透明電極106への印加電圧に応じていずれか任意の一方もしくは双方の表示層を反射状態、または双方を透過状態とすることができるように構成されている。
【0012】
図24に、表示層107aおよび表示層107bのコレステリック液晶のスイッチング挙動を示すグラフを挙げる。図24に示されるように、表示層107aおよび表示層107bのいずれのコレステリック液晶についても、電源装置117による外部印加電圧が大きくなってくると、プレーナ相の選択反射状態あるいはフォーカルコニック相の透過状態からフォーカルコニック相による透過状態となり、さらに大きくなるとフォーカルコニック相からホメオトロピック相に相変化し、印加電圧の解除と共にプレーナ相に相変化して選択反射状態になる。
【0013】
しかし、この相変化を生じる閾値の電圧については、図24に示されるグラフからわかるように表示層107aと表示層107bとでずれている。すなわち、プレーナ相からフォーカルコニック相への相変化の閾値電圧(本発明においては、これを「下閾値」と称している。)については、表示層107aがVpfaに対して表示層107bがVpfbと、表示層107bのコレステリック液晶の方が高い値となっている。一方、フォーカルコニック相からホメオトロピック相への相変化の閾値電圧(本発明においては、これを「上閾値」と称している。)については、表示層107aがVfpaに対して表示層107bがVfpbと、こちらも表示層107bのコレステリック液晶の方が高い値となっている。
【0014】
この閾値の違いを利用して、表示層107aおよび表示層107bを独立して制御するように構成したものが、閾値シフト法である。
詳しくは、まず表示層107bの上閾値Vfpbより低く表示層107aの上閾値Vfpaより高いVc間の電圧、または表示層107bの上閾値Vfpbより高いVd間の電圧を電源装置117により選択的に印加する。Vc間の電圧を印加した部位は、表示層107bがフォーカルコニック相で、表示層107aがホメオトロピック相の状態となる。一方、Vd間の電圧を印加した部位は、表示層107aはVc間の場合と同じくホメオトロピック相の状態であるが、表示層107bにおいては上閾値Vpfbを超えるため、ホメオトロピック相に相変化する。
【0015】
つまり、電源装置117による印加電圧をVc間とするかVd間とするかを選択することで、表示層107bの相の状態について、フォーカルコニック相とホメオトロピック相のいずれかの選択が為される。この状態で電圧印加を急速に解除すると、ホメオトロピック相はプレーナ相に変化し、フォーカルコニック相はその状態を維持する。一方、表示層107aは、電圧印加の解除前には、いずれの印加電圧であってもホメオトロピック相となっており、電圧印加の急速解除によって、全てプレーナ相に変化する。
【0016】
その後、表示層107aの下閾値Vpfaよりも低いVa間の電圧、または表示層107aの下閾値Vpfaよりも高く表示層107bの下閾値Vfpbより低いVb間の電圧を電源装置117により選択的に印加する。表示層107aでは、Vb間の電圧を印加した部位は下閾値Vpfaを超え、フォーカルコニック相に相変化し、Va間の電圧を印加した部位は下閾値Vpfaを超えないため、プレーナ相状態を維持する。一方、表示層107bでは、いずれの印加電圧であっても下閾値Vfpbよりも低いため、上述の如く上閾値で選択されたプレーナ相またはフォーカルコニック相の状態を維持する。
このようにして、表示層107aの部位ごとに、相が選択されて書き込みが為される。
【0017】
すなわち、表示層107aおよび表示層107bのうち任意の一方もしくは双方を反射状態、または双方を透過状態とすることができ、表示側から反射画像が表示される。従って、1つの駆動信号により2層の表示層を独立に制御することができるため、媒体の構造を簡略化し、製造コストを低減することができる。
【0018】
なお、閾値シフト法による駆動の一つの態様として、積層型光変調素子に光導電層を含む構成のものを用い、光書き込みによるスイッチングを可能とした方法がある。図25は、光導電層を含む積層型光変調素子に対する閾値シフト法による画像書き込みの様子を説明するための模式説明図である。図25に示される積層型光変調素子111、図21に示される積層型光変調素子101と同様、一対の透明電極105および透明電極106間に、2層の表示層107aおよび107bが積層されているほか、表示層107bと透明電極106との間に、光導電体層110が積層されている。なお、当該光導電体層110と表示層107bとの間に着色層109が配されている。
【0019】
本例においては、まず表示層107bの上閾値Vfpbより低く表示層107aの上閾値Vfpaより高いVc間の電圧(リセット電圧)が表示層全体にかかるようなバイアス電圧を電源装置117により印加しつつ、それと同時に、露光装置112で選択的に露光して、露光部における光導電体層110の抵抗値を変化(低下)させることで表示層107aおよび表示層107bの分圧を上昇させる。これにより、露光部では、表示層107aおよび表示層107bにかかる電圧が上閾値電圧Vpfbを超える。すなわち、露光部はVd間の電圧を印加した状態となり、非露光部は勿論Vc間の電圧のままとなる。従って、図21を用いて説明した電圧の大きさで選択的にスイッチングさせた構成と同様の液晶の相変化の選択を、露光のオンオフにより実施することができる。
【0020】
上記スイッチングの原理は、下閾値についても同様である。すなわち、表示層全体にかかる電圧が、表示層107aの下閾値Vpfaよりも低いVa間になるようなバイアス電圧を電源装置117により印加しておき、選択的に露光することにより下閾値Vpfaを超える部分と越えない部分とで液晶の相変化を選択することができる。
すなわち、光導電層を含む積層型光変調素子について、閾値シフト法による駆動を行う際には、上閾値および下閾値それぞれについて所定の電圧を印加しこれを維持しながら選択的に露光することで書き込みを実現することができる。
【0021】
上記閾値シフト法を用いて、複数の表示層を独立に駆動するための動作マージン(端的に言えば、各表示層間の上下閾値電圧の開き。図24で言えば、VbおよびVcの幅。)を大きくするためには、一般には各表示層間の動作閾値電界比、もしくは、それぞれの表示層の誘電率および膜厚により決まる各表示層への印加電界比を大きくすることが考えられる。
【0022】
しかし、一般にコレステリック液晶には、比誘電率と屈折率異方性Δnとの間、および、屈折率異方性Δnと反射率との間に相関があるため、各表示層間の誘電率比を大きくとった場合、低誘電率側の表示層の明度が得られにくい。また、コレステリック液晶は比誘電率の増加に伴い閾値電界が小さくなる傾向があり、各表示層への印加電界と各表示層の閾値電界の逆転が生じやすく、動作マージンの拡大が困難である。
【0023】
ところで、反射型液晶表示素子において、プレーナ相による選択反射とフォーカルコニック相による選択透過との間のコントラストは、鮮明な表示画像を形成する上で極めて重要であり、プレーナ相状態ではできる限り高い反射率となるように、フォーカルコニック相状態ではできる限り反射率がゼロに近づくようにすることが望まれる。
【0024】
液晶材料によっては、含有する水分やイオンなどの影響により、書き込みに高周波パルスを印加した方が高い反射率が得られることがある。しかし、液晶層(選択反射層)とOPC層(有機光導電層)とを積層した光書き込み型の反射型液晶表示素子においては、書き込みに高周波パルスを印加すると、液晶層とOPC層との間で分圧比が抵抗分圧に緩和しないため、十分な明暗コントラスト比を得ることが困難な場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特開平10−177191号公報
【特許文献2】特開2000−111942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
したがって、本発明は、反射型液晶表示素子に対する画像書き込みのための駆動操作とは異なる、別個独立した新たな反射率制御の手法を採り入れることで、多様な反射率制御を可能とする反射型液晶表示素子の駆動方法、および反射型液晶表示素子の駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記目的は、以下の本発明により達成される。
すなわち本発明は、一対の電極と、前記一対の電極の間に挟持された、コレステリック液晶を含み可視光中の互いに異なる所定の波長の光を層ごとに選択反射する少なくとも2層の選択反射層であって、当該各層ごとのプレーナ相からフォーカルコニック相への変化の外部印加電圧に対する動作閾値たる下閾値、および、フォーカルコニック相からホメオトロピック相への変化の外部印加電圧に対する動作閾値たる上閾値が互いに異なる前記少なくとも2層の選択反射層とを有する反射型液晶表示素子に、画像を記録するための反射型液晶表示素子の駆動方法であって、
前記画像の画像情報に応じて、前記上閾値が大きい方の選択反射層の当該上閾値を超える電圧V1Hおよび超えない電圧V1Lを含む2種類以上の大きさの電圧を前記少なくとも2つの選択反射層に所定時間TV1で選択的に印加して、前記上閾値が大きい方の選択反射層の当該上閾値を超える部位または超えない部位の選択を行う書き込み工程と、
さらに当該書き込み工程に続いて連続的に、電圧V1Hおよび電圧V1Lの周波数とは異なる周波数の電圧であり、かつ前記上閾値が大きい方の選択反射層の相状態を変えずに前記上記閾値の小さい方の選択反射層のみの相状態を変化させる変化させる電圧V2を、前記少なくとも2層の選択反射層に所定時間TV2で選択的に印加する調整電圧印加工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0028】
本発明は、後述する通り、書き込みのための電圧印加に続いて連続的に、それとは周波数の異なる電圧(以下、これを「調整電圧」という場合がある。)を前記選択反射層に印加する調整電圧印加工程における操作(以下、単に「調整電圧印加操作」という場合がある。)により、液晶組成に応じた多様な反射率の制御を可能とするものである。
【0029】
液晶組成と調整電圧との組み合わせに応じて、選択反射層の相状態を変化させたり、あるいは、反射率を変化させたりすることができるようになる。
このように、反射型液晶表示素子に対する画像書き込みのための駆動操作とは異なる、別個独立した新たな反射率制御の手法である調整電圧印加操作においては、液晶組成と、調整電圧の印加条件を選択することにより、選択反射層の反射状態を制御することができる。
【0030】
本発明において、前記調整電圧印加工程における電圧V2、すなわち調整電圧V2としては、一方の極性の半周期パルス(1パルスの半波長分半パルス)であることが望ましい。特に調整電圧V2が直流(矩形波)である場合に、選択反射層における調整電圧印加操作による影響が極めて顕著に発現する。
【0031】
本発明において、前記調整電圧印加工程における電圧V2の印加時間TV2としては、書き込み工程で印加した電圧V1HおよびV1Lの印加時間TV1よりも短い(TV1>TV2)ことが望ましい。
【0032】
次に、本発明に特徴的な調整電圧印加操作の具体的な有効利用例としての応用発明[A]を以下に挙げる。[A]は、閾値シフト法による積層型の反射型液晶表示素子の駆動方法に調整電圧印加操作を適用した例である。
【0033】
[A]閾値シフト法による積層型の反射型液晶表示素子の駆動方法に適用した例
[A]の応用発明は、前記本発明の反射型液晶表示素子の駆動方法であって、
前記調整電圧印加工程に引き続き、前記書き込み工程で上閾値として選択された選択反射層以外のいずれかの選択反射層の下閾値を超える電圧V3Hおよび超えない電圧V3Lを含む2種類以上の大きさの電圧(以下、単に「第2書き込み電圧」という場合がある。)を前記各選択反射層に印加することで、前記各選択反射層における前記下閾値を超える部位または超えない部位の選択を行う第2の書き込み工程を含むことを特徴とするものである。
【0034】
前記選択反射層(表示層)が2層構成である場合を例に挙げて、[A]の応用発明の作用・効果について説明する。
図1および図2は、調整電圧印加操作による影響の異なる2つの表示層(選択反射層)における調整電圧の大きさとその後の表示層における反射率との関係を表すグラフの一例である。図1は、調整電圧印加操作による影響を比較的受け易い表示層Aについてのグラフであり、図2は、調整電圧印加操作による影響を比較的受け難い表示層Bについてのグラフである。
【0035】
図1および図2は、具体的には、先ず表示層の全ての部位をプレーナ相に揃えておき、書き込み工程において電圧を印加して所定の相状態にした後、連続して調整電圧印加操作を施した場合の最終的な視感反射率Yを測定し、これと調整電圧の大きさとの関係をプロットしたグラフであり、縦軸は各表示層の視感反射率Y値を表し、横軸は調整電圧として印加されたパルス電圧の値を表す。
【0036】
また、図1および図2において、「Pリセット」(プレーナリセット)とは、書き込み工程において各表示層がプレーナ相である状態から、そのまま調整電圧印加操作を行った場合、「Fリセット」(フォーカルコニックリセット)とは、書き込み工程において各表示層の下閾値を超え、上閾値を超えない電圧を印加して、液晶をフォーカルコニック相とした後に調整電圧印加操作を行った場合、「Hリセット」(ホメオトロピックリセット)とは、書き込み工程において各表示層の上閾値を超える電圧を印加して、液晶をホメオトロピック相とした後に連続して調整電圧印加操作を行った場合であり、それぞれを表すグラフである。なお、以降の説明における「プレーナ(P)リセット」、「フォーカルコニック(F)リセット」および「ホメオトロピック(H)リセット」の用語の解釈についても同様である。
【0037】
図1および図2を見てもわかるように、調整電圧印加操作に対する反射率への影響は、表示層Aと表示層Bとで大きく異なる。
両グラフのFリセットおよびHリセットのグラフについてより詳細に見てみると、表示層Bでは、FリセットおよびHリセット共に反射率に大きな変化はないが、表示層Aでは、調整電圧が80Vを越えた辺りからFリセットの反射率の上昇が見られ、130V辺りでは視感反射率Yは10に近くなり、選択反射状態(プレーナ相状態)となっていることがわかる。しかし、Hリセットについては、80V以上では視感反射率Yの大きな変化は見られない。
【0038】
本応用発明は、この表示層Aおよび表示層Bの、調整電圧に対する反射率変化の性質の差を利用することで、上閾値における動作マージンを確保するものである。
【0039】
図3は、本応用発明に相当する本発明の反射型液晶表示素子の駆動方法を適用したシステムの例示的一態様を示す概略構成図であり、後述する第1の実施形態のものである。図3に示されるシステムは、表示媒体(反射型液晶表示素子)1と書き込み装置(反射型液晶表示素子の駆動装置)2とからなる。これら両構成要素およびその動作の詳細については、後述することとし、ここでは本応用発明の作用および効果の概要を説明するに止める。
【0040】
図3に示される例において、表示媒体1は、表示面側から順に、透明基板3、透明電極5、表示層(選択反射層)7b、表示層(選択反射層)7a、透明電極(電極)6および透明基板4が積層されてなる積層型の反射型液晶表示素子である。この表示媒体1において、表示層7aとして図1のグラフに示す特性の表示層Aを、表示層7bとして図2のグラフに示す特性の表示層Bを、それぞれ形成した場合を想定する。
【0041】
図3に示される表示媒体(反射型液晶表示素子)1における各表示層7a,7b(A,B)のコレステリック液晶のスイッチング挙動を、図4にグラフにて示す。図4のグラフを参考に説明すると、2層構成の反射型液晶表示素子に電圧を印加した場合の各表示層(選択反射層)の動作マージンVmは、以下にように表すことができる。
【0042】
各表示層がプレーナ相状態からフォーカルコニック相状態へ遷移するとき(下閾値)の各表示層の正規化反射率が90%になる電圧をVpf90、50%になる電圧をVpf50、10%になる電圧をVpf10として、上下閾値の電圧が大きい表示層bには数字の前にbを、上下閾値の電圧が小さい表示層aには数字の前にaを付するとすると、下閾値における動作マージンVmは、
Vm=2×(Vpfb90−Vpfa10)/(Vpfb50+Vpfa50)
と、表すことができる。
これら動作マージンは、正の値であることが望ましい。
【0043】
また、同様に、各表示層(選択反射層)がフォーカルコニック相状態からホメオトロピック相状態に遷移するとき(上閾値)の各表示層の正規化反射率が90%になる電圧をVfh90、50%になる電圧をVfh50、10%になる電圧をVfh10として、かつ、上記同様にaおよびbを付するとすると、上閾値における動作マージンVmは、
Vm=2×(Vfpb10−Vfpa90)/(Vfpb50+Vfpa50)
と、表すことができる。
【0044】
上閾値における動作マージンVmを十分に確保し難い場合に、本発明における調整電圧印加操作を利用することができる。
先ず、書き込み工程において、表示層7bの上閾値Vfpbより低く表示層7aの上閾値Vfpaより高いVc間の電圧、または表示層7bの上閾値Vfpbより高いVd間の電圧を電圧印加部17により選択的に印加する。上閾値における動作マージンVmが十分に確保されている場合、Vc間の電圧を印加した部位は、表示層7bがフォーカルコニック相で、表示層7aがホメオトロピック相の状態となる一方、Vd間の電圧を印加した部位は、表示層7aはVc間の場合と同じくホメオトロピック相の状態であるが、表示層7bにおいては上閾値Vfpbを超えるため、ホメオトロピック相に相変化する。
【0045】
つまり、電圧印加部17による印加電圧をVc間とするかVd間とするかを選択することで、表示層7bの相の状態について、フォーカルコニック相とホメオトロピック相のいずれかの選択が為される。この状態で電圧印加を急速に解除すると、ホメオトロピック相はプレーナ相に変化し、フォーカルコニック相はその状態を維持する。一方、表示層7aは、電圧印加の解除前には、いずれの印加電圧であってもホメオトロピック相となっており、電圧印加の急速解除によって、全てプレーナ相に変化する。
【0046】
しかし、上閾値における動作マージンVmが十分に確保されていない場合、表示層7bの相の状態について、フォーカルコニック相とホメオトロピック相のいずれかの選択が確実に為されるように電圧を印加したとき、表示層7aの一部がフォーカルコニック相のままで相変化しない事態が想定される。閾値シフト法では、上閾値で相状態を選択したいのが表示層7bであれば、他方の表示層7aは、この書き込み工程で全てホメオトロピック相に揃っていることが望まれる。
そこで、本応用発明においては、書き込み工程に続いて連続的に調整電圧印加工程による操作が為される。
【0047】
調整電圧印加工程においては、書き込み工程で印加した電圧の周波数とは異なる周波数の電圧、すなわち調整電圧を印加する。このとき表示層7aに印加される分圧を例えば130Vとすると、表示層7aにおいて、ホメオトロピック相の部位(Hリセット状態の部位)はそのままホメオトロピック相を維持し、フォーカルコニック相の部位(Fリセット状態の部位)はホメオトロピック相に相変化して、結局全ての部位がホメオトロピック相となり、図1のグラフに示されるとおり、印加電圧解除と共にプレーナ相に相変化して反射状態となる。
【0048】
一方、表示層7bにおいては、図2のグラフからもわかるとおり、130V以下の調整電圧では相状態に影響を与えることが無く、ホメオトロピック相が選択された部位(Hリセット状態の部位)、および、フォーカルコニック相が選択された部位(Fリセット状態の部位)がいずれも調整電圧の印加前の相状態を維持し、印加電圧解除と共にホメオトロピック相の部位のみがプレーナ相に相変化して、プレーナ相の選択反射とフォーカルコニック相の選択透過の画像が形成される。
【0049】
以上説明したように、本発明に特徴的な調整電圧印加操作を適用することにより、液晶組成や目的とする性能の確保等の理由から上閾値における動作マージンを確保しづらい場合にも、実質的に広い動作マージンを確保したことと同じ効果を実現することができる。そのため、液晶構成の設計や液晶組成の選択の自由度が上がり、例えば、後述する下閾値における動作マージンの確保の際にも制限が少なくなり、全体として高い動作マージンを確保することができ、積層型の反射型液晶表示素子における各表示層(選択反射層)に十分な反射率を持たせながら、安定的な閾値シフト駆動を実現することができる。
【0050】
以上のように、上閾値については本発明に特徴的な調整電圧印加操作を利用することにより、実質的に広い動作マージンを確保することができるが、下閾値の動作マージンを十分に確保するためには、前記第2の書き込み工程で印加する第2書き込み電圧(V3HおよびV3L)の周波数(FV3)を、前記書き込み工程で印加する書き込み電圧(V1HおよびV1L)の周波数(FV1)に比して小さく(FV3<FV1)することが好ましい。この理由について説明する。
【0051】
図5は、図3に示された積層型の反射型液晶表示素子(表示媒体1)における積層状態の表示層7a,7bの等価回路を示す回路図である。CaおよびRaは、上下閾値の電圧が小さい表示層7aの等価静電容量および抵抗値であり、CbおよびRbは、上下閾値の電圧が大きい表示層7bの等価静電容量および抵抗値である。
【0052】
各表示層7a,7b間への印加電界比を拡大するためには、各表示層7a,7bの誘電率比を大きく取り、容量分圧比を大きくする方法が考えられる。ただし、これについては既述の通り、一般的にコレステリック液晶の比誘電率と屈折率異方性Δnとの間には正の相関があるため、低誘電率側表示層(この場合、表示層7a)において明るい表示が得られにくく、また、液晶材料の誘電率が増加すると閾値電界が小さくなる傾向があるため、容量分圧比の小さい高誘電率側表示層(この場合、表示層7b)の閾値電界が小さくなり、動作マージンの拡大が困難である。
【0053】
下閾値におけるプレーナ相からフォーカルコニック相への配向変化は、コレステリック液晶を含む表示層に加わる電界エネルギーの蓄積により生じると考えられる。本発明者らは、各液晶材料の比抵抗に差を持たせ、各表示層への分圧比が、容量分圧比から抵抗分圧比に緩和する(抵抗分圧比に依存する割合を上げる)ような低い周波数の電圧パルスを加えることにより、上記問題点が解決されることを見出した。
【0054】
すなわち、表示層間の抵抗比を利用して分圧させることにより、各表示層間の液晶材料の誘電率比を大きくとる必要がなくなるため、各表示層に高い屈折率異方性Δnの液晶材料を用いることができ、明るい表示が得られる。また、誘電率比を抑えることで閾値電界の逆転も生じにくいため、動作マージンを容易に拡大することができる。なお、ここで印加するパルス波形は矩形波でもよいが、より抵抗成分が影響しやすい上昇三角波やサイン波、直流パルスなどが望ましい。
【0055】
図6に、低い周波数の電圧パルスを加えることにより、抵抗分圧比への緩和を図り、分圧比を拡げることができることを説明するためのグラフを示す。図6において、上段の2つのグラフは高抵抗側の表示層7aにおける分圧Vaの推移を表すグラフであり、下段の2つのグラフは低抵抗側の表示層7bにおける分圧Vbの推移を表すグラフである。上下段とも、左が周波数50Hz、右が周波数5Hzのパルス波を印加した場合のグラフであり、両グラフにおいて、横軸の単位時間当たりの目盛の長さは、周波数50Hzのものが周波数5Hzのものに対して10倍になっている。
なお、本発明の実現のために、各層の抵抗調整も行っている(すなわち、表示層7aが高抵抗、表示層7bが低抵抗になるように各層の液晶材料を選択している。)。
【0056】
周波数50Hzのパルス波を印加した場合は、各段の左側のグラフに示されるように、パルス波により印加される電圧は、時間の経過に伴い増加乃至減少の傾向を見せるものの直線状の推移となる。これに対して、周波数5Hzのパルス波を印加した場合は、各段の右側のグラフに示されるように、パルス波により印加される電圧は、時間の経過に伴う増加乃至減少の傾向が一定になるまで続いており、この結果、表示層7aと表示層7bとで分圧比が大きく広がっていることがわかる。
【0057】
つまり、下閾値の動作マージンに対しては、各表示層に加わる電圧の容量分圧比から抵抗分圧比への緩和時定数を下げて、抵抗成分の影響が大きくなるような周波数・波形のパルスを加え、各層の抵抗比を利用することにより、誘電率の制限を低減させながらも、液晶材料の材料設計の自由度を向上させることができるようになる。
【0058】
しかしながら、抵抗成分への緩和を利用した波形(低い周波数)の電圧パルスを印加した場合、最終パルス印加後に残留電位による波形の乱れが生じる。図7は、当該波形の乱れを表す印加電圧と時間との関係を示すグラフであり、電圧印加終了時(当該グラフでは400ms)の後にも残留電位の影響で、波形の乱れたパルスが印加されてしまう。この波形の乱れは、低周波電圧を印加した場合には、完全に避けることはできない。この最終パルス印加後の波形の乱れにより、ホメオトロピック相からプレーナ相への配向変化が妨げられ反射率が低下するため、上閾値におけるスイッチングに支障が出る。
【0059】
そこで、上閾値における書き込みと下閾値における書き込みとで、印加する電圧の周波数を異ならせることで、上記問題点を解決することができる。上記の例では、下閾値での動作マージン確保のために印加電圧の周波数を小さくして、抵抗分圧比へ緩和させるとともに、低周波数電圧により生じる波形の乱れの影響を受け易い上閾値でのスイッチングでは、周波数を高めて、動作安定を実現しつつ動作マージンを確保している。
【0060】
よって、好ましくは、上閾値は従来の容量分圧を利用した波形、すなわち高周波数の電圧を印加し、下閾値は抵抗分圧を利用した波形、すなわち低周波数の電圧を印加する。このように、上閾値において印加する電圧(リセット電圧)と下閾値において印加する電圧(セレクト電圧)とにおいてそれぞれ異なる周波数(乃至波形)の電圧を印加することで、下閾値における動作マージンを確保し高反射率の表示層を実現しつつ、反射型液晶表示素子を駆動することができ、閾値シフト法による反射型液晶表示素子の駆動の実用性が格段に向上する。
【0061】
なお、書き込み工程と第2書き込み工程とで異ならせる印加電圧の周波数については、特に第2書き込み工程(下閾値スイッチング時)における印加電圧V3の周波数FV3として、0〜100Hzの範囲内とすることが好ましく、0〜30Hzの範囲内とすることがより好ましい。100Hzを超えると抵抗分圧比への緩和が十分ではなくなり、動作マージン確保が困難になる場合があり、好ましくない。
【0062】
本応用発明の反射型液晶表示素子の駆動方法において、前記選択反射層としては、最低限の2層構成であってもよいし、フルカラー画像を形成することをも可能とする3層構成であってもよい。
【0063】
当該[A]の応用発明は、画像を記録する対象としての反射型液晶表示素子が、光導電層を含む構成の光書き込み型の物であっても好ましく適用することができる。すなわち、光導電層を含む構成における場合の本応用発明の反射型液晶表示素子の駆動方法は、上記[A]の応用発明の構成を具備し、かつ、
積層された前記複数の選択反射層の一方の面に光導電体層が積層されて、これらが前記一対の電極間に挟持されてなる光書き込み型の反射型液晶表示素子を、画像を記録する対象とし、
前記書き込み工程が、アドレス光の露光時に電圧V1H、非露光時に電圧V1Lが前記選択反射層に分圧印加されるバイアス電圧V1を前記一対の電極に印加しつつ適宜アドレス光を選択露光する工程であり、
前記第2の書き込み工程が、アドレス光の露光時に電圧V3H、非露光時に電圧V3Lが前記選択反射層に分圧印加されるバイアス電圧V3を前記一対の電極に印加しつつ適宜アドレス光を選択露光する工程であることを特徴とする。
【0064】
光書き込み型の反射型液晶表示素子においては、書き込み工程乃至第2の書き込み工程で、非露光時に電圧V1L乃至V3Lが前記選択反射層に分圧印加されるバイアス電圧V1乃至V3を前記一対の電極に印加しておき、アドレス光の露光時にこれが電圧V1H乃至V3Hになるようにしておけば、書き込み電圧の大小のみで書き込む構成と実質的に同様の作用並びに効果を得ることができ、本発明および本応用発明の作用並びに効果が奏される。
【0065】
従来技術の項で説明したように、反射型液晶表示素子は、液晶材料によっては含有する水分やイオンなどの影響により、書き込みに高周波パルスを印加した方が高い反射率の表示画像が得られることがあるが、例えば、液晶層(選択反射層)とOPC層(有機光導電層)とを積層した光書き込み型の反射型液晶表示素子においては、書き込みに高周波パルスを印加すると、液晶層とOPC層との間で分圧比が抵抗分圧に緩和しないため、十分な明暗コントラスト比を得ることが困難な場合があった。
【0066】
本応用発明では、前記書き込み工程における電圧を従来と同様の周波数で印加して書き込みを行い、その後、前記調整電圧印加工程で周波数の異なる短いパルス電圧を印加する。このパルス電圧の印加時間は極めて短く、高周波の矩形パルス半波長分と捉えることができる。その結果、書き込みに高周波パルスを用いて駆動した場合と同様の効果が得られ、高い反射率の表示画像が得られる。
【0067】
また、上記応用発明[A]によれば、閾値シフト法を利用しつつ、積層型の反射型液晶表示素子における各選択反射層に十分な反射率を持たせながら、動作マージンを拡大し、安定的な閾値シフト駆動を実現する反射型液晶表示素子の駆動方法、および反射型液晶表示素子の駆動装置を提供することができる。
【0068】
以上、本発明の反射型液晶表示素子の駆動方法、およびそれを利用した応用発明[A]の概略を説明したが、本発明の反射型液晶表示素子の駆動方法は、あくまでも反射型液晶表示素子に対する画像書き込みのための駆動操作とは異なる、別個独立した新たな反射率制御の手法を提案するものであり、これを従来公知の手法と組み合わせることで、多様な反射率制御が可能となる。すなわち、本発明の反射型液晶表示素子の駆動方法の応用例は、応用発明[A]に限定されるものではなく、調整電圧印加操作やその他の条件を適宜調整することにより、多様な反射率制御が可能となる。
【0069】
これら本発明の反射型液晶表示素子の駆動方法(応用発明[A]を含む。)においては、画像を記録する対象としての反射型液晶表示素子が、光導電層を含む構成の光書き込み型の物である場合に、前記光導電体層が、有機光導電体からなることが好ましい。
また、これら本発明の反射型液晶表示素子の駆動方法(応用発明[A]を含む。)においては、前記選択反射層が、高分子中に前記コレステリック液晶が分散されてなるものであることが好ましい。
【0070】
概略を説明した本発明の反射型液晶表示素子の駆動方法(応用発明[A]を含む。)は、以下に示す構成の駆動装置(本発明の反射型液晶表示素子の駆動装置)により実現することができる。
【0071】
すなわち、本発明の反射型液晶表示素子の駆動装置(以下、単に「本発明の駆動装置」という場合がある。)は、
一対の電極と、前記一対の電極の間に挟持された、コレステリック液晶を含み可視光中の互いに異なる所定の波長の光を層ごとに選択反射する少なくとも2層の選択反射層であって、当該各層ごとのプレーナ相からフォーカルコニック相への変化の外部印加電圧に対する動作閾値たる下閾値、および、フォーカルコニック相からホメオトロピック相への変化の外部印加電圧に対する動作閾値たる上閾値が互いに異なる前記少なくとも2層の選択反射層とを有する反射型液晶表示素子に、画像を記録するための反射型液晶表示素子の駆動装置であって、少なくとも、前記一対の電極間に電圧を印加し得る電源装置を含み、
前記画像の画像情報に応じて、前記上閾値が大きい方の選択反射層の当該上閾値を超える電圧V1Hおよび超えない電圧V1Lを含む2種類以上の大きさの電圧を前記少なくとも2つの選択反射層に所定時間TV1で選択的に印加して、前記上閾値が大きい方の選択反射層の当該上閾値を超える部位または超えない部位の選択を行う書き込み動作と、
さらに当該書き込み動作に続いて連続的に、電圧V1Hおよび電圧V1Lの周波数とは異なる周波数の電圧であり、かつ前記上閾値が大きい方の選択反射層の相状態を変えずに前記上記閾値の小さい方の選択反射層のみの相状態を変化させる変化させる電圧V2を、前記少なくとも2層の選択反射層に所定時間TV2で選択的に印加する調整電圧印加動作と、
の各動作が順次為されることを特徴とするものである。
本発明の駆動装置においては、前記調整電圧印加動作における電圧V2が、1パルスの半波長分(直流)であることが好ましい。
【0072】
閾値シフト法に適用した場合の本発明の駆動装置は、上記駆動装置において、前記調整電圧印加動作に引き続き、前記書き込み動作で上閾値として選択された選択反射層以外のいずれかの選択反射層の下閾値を超える電圧V3Hおよび超えない電圧V3Lを含む2種類以上の大きさの電圧を前記選択反射層に印加し得る電圧を前記一対の電極間に印加することで、前記選択反射層における前記下閾値を超える部位または超えない部位の選択を行う第2の書き込み動作が為されることを特徴とするものである。
【0073】
一方、光書き込み型の反射型液晶表示素子を閾値シフト法により駆動させる本発明の駆動装置は、各層ごとに可視光中の互いに異なる波長の光を選択反射し、かつ、それぞれのプレーナ相からフォーカルコニック相への変化の外部印加電圧に対する動作閾値たる下閾値、および、フォーカルコニック相からホメオトロピック相への変化の外部印加電圧に対する動作閾値たる上閾値が互いに異なる複数の選択反射層が、各層の間に電極を介することなく積層され、その一方の面に光導電体層が積層されて、これらが一対の電極間に挟持されてなる光書き込み型の反射型液晶表示素子に、画像を記録するための反射型液晶表示素子の駆動装置であって、少なくとも、前記一対の電極間に電圧を印加し得る電源装置と、前記反射型液晶表示素子を露光し得る露光装置とからなり、
前記複数の選択反射層における前記いずれかの選択反射層の上閾値をアドレス光の露光時に超える電圧V1H、非露光時に超えない電圧V1Lが前記選択反射層に分圧印加されるバイアス電圧V1を前記一対の電極に所定時間TV1印加しつつ適宜アドレス光を選択露光する書き込み動作と、
電圧V1の周波数とは異なる周波数の電圧V2を前記選択反射層に印加し得るバイアス電圧を前記一対の電極間に印加する調整電圧印加動作と、の各動作が順次為されることを特徴とするものである。
【0074】
また、光書き込み型の反射型液晶表示素子を閾値シフト法により駆動させる本発明の駆動装置は、上記駆動装置において、前記書き込み動作で上閾値として選択された選択反射層以外のいずれかの選択反射層の下閾値をアドレス光の露光時に超える電圧V3H、非露光時に超えない電圧V3Lが前記選択反射層に分圧印加されるバイアス電圧V3を前記一対の電極間に印加することで、前記選択反射層における前記下閾値を超える部位または超えない部位の選択を行う第2の書き込み動作と、の各動作が順次為されることを特徴とするものである。
【0075】
閾値シフト法により駆動させる場合には、前記電圧V3HおよびV3Lの周波数FV3が、前記電圧V1HおよびV1Lの周波数FV1に比して小さい(FV3<FV1)ことが好ましく、0〜100Hzの範囲内であることがより好ましい。
【0076】
また、前記選択反射層としては、2層構成であっても構わないし、3層構成であっても構わない。
【0077】
これら本発明の反射型液晶表示素子の駆動装置においては、画像を記録する対象としての反射型液晶表示素子が、光導電層を含む構成の光書き込み型の物である場合に、前記光導電体層が、有機光導電体からなることが好ましい。
また、本発明の反射型液晶表示素子の駆動装置においては、前記選択反射層が、高分子中に前記コレステリック液晶が分散されてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0078】
本発明によれば、書き込み工程(動作)に引き続いて、所定の調整電圧を印加する調整電圧印加工程(動作)の操作を施すことで、反射型液晶表示素子に対する画像書き込みのための駆動操作とは異なる、別個独立した新たな反射率制御の手法を採り入れ、従来公知の手法と組み合わせることで、多様な反射率制御を可能とする反射型液晶表示素子の駆動方法、および反射型液晶表示素子の駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】調整電圧印加操作による影響を比較的受け易い表示層(選択反射層)における調整電圧の大きさとその後の表示層における反射率との関係を表すグラフである。
【図2】調整電圧印加操作による影響を比較的受け難い表示層(選択反射層)における調整電圧の大きさとその後の表示層における反射率との関係を表すグラフである。
【図3】応用発明[A]に相当する本発明の反射型液晶表示素子の駆動方法を適用したシステムの例示的一態様である第1の実施形態の概略構成図である。
【図4】応用発明[A]に用いられる反射型液晶表示素子における各表示層のコレステリック液晶のスイッチング挙動を示すグラフである。
【図5】応用発明[A]に用いられる反射型液晶表示素子における積層状態の表示層の等価回路を示す回路図である。
【図6】低い周波数の電圧パルスを加えることにより、抵抗分圧比への緩和を図り、分圧比を拡げることができることを説明するためのグラフである。
【図7】低い周波数の電圧パルスを印加した場合、最終パルス印加後に残留電位により生じる波形の乱れを表す、印加電圧と時間との関係を示すグラフである。
【図8】ある液晶組成の表示層(選択反射層)に対して調整電圧印加操作を施した場合の調整電圧の大きさと、その後の表示層における反射率との関係を表すグラフである。
【図9】図8の表示層における液晶組成と図10の表示層における液晶組成とを半々の割合で混合した液晶組成の表示層(選択反射層)に対して調整電圧印加操作を施した場合の調整電圧の大きさと、その後の表示層における反射率との関係を表すグラフである。
【図10】図8の表示層における液晶組成とは異なる表示層(選択反射層)に対して調整電圧印加操作を施した場合の調整電圧の大きさと、その後の表示層における反射率との関係を表すグラフである。
【図11】第1の実施形態における書き込み工程〜調整電圧印加工程間の印加電圧の波形を時系列で示すチャートである。
【図12】第1の実施形態における検証結果であり、調整電圧印加操作による影響を比較的受け易い表示層について、調整電圧の大きさと得られた表示画像の反射率Yとの関係をプロットしたグラフである。
【図13】第1の実施形態における検証結果であり、調整電圧印加操作による影響を比較的受け難い表示層について、調整電圧の大きさと得られた表示画像の反射率Yとの関係をプロットしたグラフである。
【図14】第1の実施形態の表示媒体における各表示層のコレステリック液晶のスイッチング挙動を示すグラフである。
【図15】第1の実施形態で作製した反射型液晶表示素子の各表示層を直列接続し、5Hzパルス電圧を印加したときの光学特性を示すグラフである。
【図16】図15のグラフと同様にし、パルス電圧の周波数を50Hzにしたときの光学特性を示すグラフである。
【図17】第1の実施形態で作製した反射型液晶表示素子の1つの表示層の反射スペクトルを示すグラフである。
【図18】第1の実施形態で作製した反射型液晶表示素子の他の表示層の反射スペクトルを示すグラフである。
【図19】応用発明[A]に相当する本発明の反射型液晶表示素子の駆動方法を適用したシステムの他の例示的一態様である第2の実施形態の概略構成図である。
【図20】閾値シフト法に供される3層構成の積層型の反射型液晶表示素子について、各表示層のコレステリック液晶のスイッチング挙動を示すグラフである。
【図21】閾値シフト法による画像書き込みの様子を説明するための模式断面図である。
【図22】コレステリック液晶の分子配向と光学特性の関係を示す模式説明図であり、(A)はプレーナ相、(B)はフォーカルコニック相、(C)ホメオトロピック相の各相におけるものである。
【図23】コレステリック液晶のスイッチング挙動を説明するためのグラフである。
【図24】閾値シフト法に供される積層型光変調素子における各表示層のコレステリック液晶のスイッチング挙動を示すグラフである。
【図25】光導電層を含む積層型光変調素子に対する閾値シフト法による画像書き込みの様子を説明するための模式説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0080】
以下、本発明を図面に則して詳細に説明する。
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、本発明の構成を、電圧書き込み型で積層型の反射型液晶表示素子の閾値シフト法による駆動方法に適用した[A]の応用発明の例である。
【0081】
既述の通り、図3は、本発明の反射型液晶表示素子の駆動方法を適用したシステムの例示的一態様である第1の実施形態の概略構成図である。本実施形態のシステムは、表示媒体(反射型液晶表示素子)1と書き込み装置(反射型液晶表示素子の駆動装置)2とからなる。この両構成要素について、詳細に説明してから、その動作について説明する。
【0082】
<表示媒体>
本実施形態において表示媒体1とは、バイアス信号の印加によって複数の液晶層(選択反射層)の選択駆動ができる部材であり、具体的には反射型液晶表示素子である。
本実施形態において、表示媒体1は、表示面側から順に、透明基板3、透明電極5、表示層(選択反射層)7b、表示層(選択反射層)7a、透明電極(電極)6および透明基板4が積層されてなる物である。
【0083】
(透明基板)
透明基板3,4は、各機能層を内面に保持し、表示媒体の構造を維持する目的の部材である。透明基板3,4は、外力に耐える強度を有するシート形状の物体であり、少なくとも入射光を透過する機能を有する。フレキシブル性を有することが好ましい。具体的な材料としては、無機シート(たとえばガラス・シリコン)、高分子フィルム(たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート)等を挙げることができる。外表面に、防汚膜、耐磨耗膜、光反射防止膜、ガスバリア膜など公知の機能性膜を形成してもよい。
【0084】
(透明電極)
透明電極5,6は、書き込み装置2から印加されたバイアス電圧を、光アドレス素子内の各機能層へ面均一に印加する目的の部材である。透明電極5,6は、面均一な導電性を有し、少なくとも入射光・アドレス光を透過する。具体的には、金属(たとえば金、アルミニウム)、金属酸化物(たとえば酸化インジウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO))、導電性有機高分子(たとえばポリチオフェン系・ポリアニリン系)などで形成された導電性薄膜を挙げることができる。表面に、密着力改善膜、光反射防止膜、ガスバリア膜など公知の機能性膜を形成してもよい。なお、本発明において表示側で無い側の電極(本実施形態で言えば透明電極6)は、透明でなくても構わない。
【0085】
(表示層)
本発明において表示層とは、電場によって入射光のうち特定の色光の反射・透過状態を変調する機能を有し、選択した状態が無電場で保持できる性質のものである。曲げや圧力などの外力に対して変形しない構造であることが好ましい。
【0086】
本実施形態において表示層としては、コレステリック液晶および透明樹脂からなる自己保持型液晶複合体の液晶層が形成されてなるものである。すなわち、複合体として自己保持性を有するためスペーサ等を必要としない液晶層である。本実施形態では、不図示ではあるが、高分子マトリックス(透明樹脂)中にコレステリック液晶が分散した状態となっている。
なお、本発明においては、表示層が、自己保持型液晶複合体の液晶層であることは必須ではなく、単に液晶のみで表示層を構成することとしても構わない。
【0087】
コレステリック液晶は、入射光のうち特定の色光の反射・透過状態を変調する機能を有し、液晶分子がらせん状に捩れて配向しており、らせん軸方向から入射した光のうち、らせんピッチに依存した特定の光を干渉反射する。電場によって配向が変化し、反射状態を変化させることができる。表示層を自己保持型液晶複合体とする場合には、ドロップサイズが均一で、単層稠密に配置されていることが好ましい。
【0088】
コレステリック液晶として使用可能な具体的な液晶としては、ネマチック液晶やスメクチック液晶(たとえばシッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、安息香酸エステル系、ビフェニル系、ターフェニル系、シクロヘキシルカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ビフェニルシクロヘキサン系、ピリミジン系、ジオキサン系、シクロヘキシルシクロヘキサンエステル系、シクロヘキシルエタン系、シクロヘキサン系、トラン系、アルケニル系、スチルベン系、縮合多環系)、またはこれらの混合物に、光学活性材料(たとえばステロイド系コレステロール誘導体、シッフ塩基系、アゾ系、エステル系、ビフェニル系)を添加したもの等を挙げることができる。
【0089】
コレステリック液晶の螺旋ピッチは、ネマチック液晶に対するカイラル剤の添加量で調整する。例えば、表示色を青、緑、赤とする場合には、それぞれ選択反射の中心波長が、400nm〜500nm、500nm〜600nm、600nm〜700nmの範囲になるようにする。また、コレステリック液晶の螺旋ピッチの温度依存性を補償するために、捩じれ方向が異なる、または逆の温度依存性を示す複数のカイラル剤を添加する公知の手法を用いてもよい。
【0090】
表示層7a,7bがコレステリック液晶と高分子マトリックス(透明樹脂)からなる自己保持型液晶複合体を形成する形態としては、コレステリック液晶の連続相中に網目状の樹脂を含むPNLC(Polymer Network Liquid Crystal)構造や、高分子の骨格中にコレステリック液晶がドロップレット状に分散されたPDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal)構造を用いることができ、PNLC構造やPDLC構造とすることによって、コレステリック液晶と高分子の界面にアンカリング効果を生じ、無電界でのプレーナ相またはフォーカルコニック相の保持状態を、より安定にすることができる。
【0091】
PNLC構造やPDLC構造は、高分子と液晶とを相分離させる公知の方法、例えば、アクリル系、チオール系、エポキシ系などの、熱や光、電子線などによって重合する高分子前駆体と液晶を混合し、均一相の状態から重合させて相分離させるPIPS(Polymerization Induced PhaseSeparation)法、ポリビニルアルコールなどの、液晶の溶解度が低い高分子と液晶とを混合し、攪拌懸濁させて、液晶を高分子中にドロップレット分散させるエマルジョン法、熱可塑性高分子と液晶とを混合し、均一相に加熱した状態から冷却して相分離させるTIPS(Thermally Induced Phase Separation)法、高分子と液晶とをクロロホルムなどの溶媒に溶かし、溶媒を蒸発させて高分子と液晶とを相分離させるSIPS(Solvent Induced Phase Separation)法などによって形成することができるが、特に限定されるものではない。
【0092】
高分子マトリックスは、コレステリック液晶を保持し、表示媒体の変形による液晶の流動(画像の変化)を抑制する機能を有するものであり、液晶材料に溶解せず、また液晶と相溶しない液体を溶剤とする高分子材料が好適に用いられる。また、高分子マトリックスとしては、外力に耐える強度をもち、少なくとも反射光およびアドレス光に対して高い透過性を示す材料であることが望まれる。
【0093】
高分子マトリックスとして採用可能な材料としては、水溶性高分子材料(たとえばゼラチン、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアクリル酸系ポリマー、エチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアミジン、イソプレン系スルホン酸ポリマー)、あるいは水性エマルジョン化できる材料(たとえばフッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂)等を挙げることができる。
【0094】
閾値シフト法に供する反射型液晶表示素子としての表示媒体1においては、表示層7aと表示層7bとで上下閾値電圧が適度に離れ、閾値シフト法による動作マージンが確保されていることが望まれる。本発明においては、容量比と抵抗比とを、液晶材料や各層の厚みを適切に調整することにより適宜調整する。
【0095】
液晶材料の比抵抗は、例えば、高抵抗のフッ素系材料と低抵抗のシアノ系材料を混合したり、液晶材料にイオン性の不純物を添加したりすることにより制御できる。この時、各表示層間には容量の差を若干持たせておく必要もある。表示層間の容量の差は、液晶材料の誘電率や表示層の厚みを異ならせることで制御できる。
【0096】
その他、表示層7a,7bのスイッチング挙動は、表示層7a,7bを構成するコレステリック液晶の誘電率異方性、弾性率、螺旋ピッチ、高分子の骨格構造や側鎖、相分離プロセス、高分子マトリックスと表示層7a,7bとの界面のモルフォロジー、これらの総合によって決まる高分子マトリックスと表示層7a,7bとの界面におけるアンカリング効果の程度などによっても制御することができる。
【0097】
より具体的には、ネマチック液晶の種類や組成比、カイラル剤の種類、樹脂の種類、高分子樹脂の出発物質であるモノマー、オリゴマー、開始剤、架橋剤などの種類や組成比、重合温度、光重合のための露光光源、露光強度、露光時間、雰囲気温度、電子線重合のための電子線強度、暴露時間、雰囲気温度、塗布時の溶媒の種類や組成比、溶液濃度、ウェット膜厚、乾燥温度、温度降下時の開始温度、温度降下速度などであるが、これらに限定されない。
【0098】
また、本発明に特有の調整電圧印加操作に対する影響を制御するために、以上説明した液晶組成を適宜調整することが好ましい。しかし、液晶材料によって、調整電圧印加操作に対する挙動が異なることから、液晶組成を調整しながら、調整電圧を印加した際に所望の作用が現れるように構成する必要がある。この調整の対象としては、具体的には例えば、液晶材料の選択、液晶の組成、液晶材料の粘土、インピーダンスの調整等が挙げられる。
【0099】
勿論、液晶組成についてこれらの調整を行った場合においても、その効果が最適に得られるとは限らない。そのため、一旦所定の液晶組成で表示層を構成する液晶層を形成し、その特性を検証した上でそれに合わせて各工程(動作)の条件を設定するのが望ましい。
また、ある程度液晶組成がかけ離れた2種類(例えば、特定の組成成分の配合量が多いものと少ないもの等)の表示層を形成し、これの特性を予め求めておけば、その途中段階的な液晶組成についてもその特性を推測することができる。
【0100】
図8、図9および図10に、表示層における液晶組成を変えて、調整電圧印加操作による影響の異なる表示層組成A、表示層組成Bおよび表示層組成Cの3つの表示層(選択反射層)における調整電圧の大きさと、その後の表示層における反射率との関係を表すグラフを示す。このグラフの意義は、図1および図2と同様である。
【0101】
図8における表示層組成Aの表示層と、図10における表示層組成Cの表示層とは、前者の方が誘電率が高く、抵抗が低く、また、粘度は後者の方が低い。そして、この表示層組成Aと表示層組成Cとを半々の割合で混合したのが図9における表示層組成Bの表示層である。
これら3つのグラフを見比べると、表示層組成Bの表示層には、表示層組成Aの表示層および表示層組成Cの表示層の両方の特性の中間的な特性を示すものとなっていることがわかる。
このようにすれば、調整電圧に対して所望の反射率特性をもった表示層を実現することができる。
【0102】
<書き込み装置>
本実施形態において書き込み装置(積層型光変調素子の駆動装置)2とは、表示媒体1に画像を書き込む装置であり、表示媒体1に電圧を印加する電圧印加部(電源装置)17を主要構成要素とし、さらにこの動作を制御する制御回路16が配されてなる。
【0103】
(電圧印加部)
電圧印加部(電源装置)17は、所定のバイアス電圧を表示媒体1に印加する機能を有し、制御回路16からの入力信号に基づき、表示媒体(各電極間)に所望の電圧波形を印加できるものであればよい。ただし、AC出力ができ、高いスルーレートが要求される。また、本実施形態では、下閾値における書き込みと、調整電圧印加工程と、上閾値における書き込みとで、適宜印加する電圧の周波数を変える(あるいは直流電圧を印加する)必要があるので、周波数が可変(0Hzを含む。)であることが必須となる。電圧印加部17には、例えばバイポーラ高電圧アンプなどを用いることができる。
【0104】
電源印加部17による表示媒体1への電圧の印加は、接触端子19を介して、透明電極5−透明電極6間に為される。
ここで、接触端子19とは、電圧印加部17および表示媒体1(透明電極5,6)に接触して、両者の導通を行う部材であり、高い導電性を有し、透明電極5,6および電圧印加部17との接触抵抗が小さいものが選択される。表示媒体1と書き込み装置2とを切り離すことができるように、透明電極5,6と電圧印加部17とのどちらか、あるいは両者から分離できる構造であることが好ましい。
【0105】
接触端子19としては、金属(たとえば金・銀・銅・アルミ・鉄)、炭素、これらを高分子中に分散させた複合体、導電性高分子(たとえばポリチオフェン系・ポリアニリン系)などでできた端子で、電極を挟持するクリップ・コネクタ形状のものが挙げられる。
【0106】
(制御回路)
制御回路16は、外部(画像取り込み装置、画像受信装置、画像処理装置、画像再生装置、あるいはこれらの複数の機能を併せ持つ装置等)からの画像データに応じて、電圧印加部17の動作を適宜制御する機能を有する部材である。制御回路16による具体的な制御内容については、本応用発明に特徴的な「書き込み工程(動作)」、「調整電圧印加工程(動作)」および「第2の書き込み工程(動作)」の2つの工程(動作)からなるものであり、その詳細については後述することとする。
【0107】
<動作>
本実施形態の反射型液晶表示素子の駆動方法、および反射型液晶表示素子の駆動装置の動作(操作)について、簡単な検証実験を交えて、以下に詳細に説明する。
【0108】
ただし、上記の各表示層相互の動作マージンや調整電圧印加操作に対する影響の特性を評価する場合、2層の表示層を直接積層してしまった状態であると、各表示層の反射率の変化を観測するのは困難である。
そこで以下の検証実験においては、各表示層を単独で形成し、それらを電気的に直列接続することにより、各々の反射率変化や調整電圧印加操作に対する影響の特性を測定して動作マージンを近似的に評価した。
なお、以下の実験においては、低誘電率・高抵抗率側の表示層を7a、高誘電率・低抵抗率側の表示層を7bとして説明する。
【0109】
各表示層7a,7bは、ITO電極が設けられた一対のポリエチレンテレフタレート(PET)基板(厚さ125μm)を、ITO電極を内側に向けて対向させ、その間に高分子分散型のコレステリック液晶を封入した構造とした(厚さ15μm)。
【0110】
ここで、各表示層7a,7bにはそれぞれ比抵抗値の異なる液晶材料を用いる。具体的には、低誘電率・高抵抗率側の表示層7aにおいては、シアノ系液晶にフッ素系液晶を混合して抵抗値を最適化した液晶材料を用い、高誘電率・低抵抗率側の表示層7bにおいては、シアノ系液晶を用いた。
【0111】
また、各表示層7a,7b間には容量の差も若干持たせておく必要があるため、低誘電率・高抵抗率側の表示層7aにおいては、0.4nF(50Hz)、高誘電率・低抵抗率側の表示層7bにおいては、0.6nF(50Hz)とした。そして、調整電圧印加操作に対する影響をコントロールするために、表示層7aおよび表示層7bの液晶組成を制御した。具体的には、表示層7aに低粘度で閾値急峻性の高い液晶材料を添加し、調整電圧に対する感度を上げた。
【0112】
(書き込み工程および調整電圧印加工程)
表示層7a,7bについて、それぞれ50Hz(FV1=50Hz)の矩形波の電圧(リセットパルス)(V1H=150VおよびV1L=60V)を200mS印加して、その液晶の相状態をフォーカルコニック相(Fリセット)またはホメオトロピック相(Hリセット)とした直後に、10mSのDCパルス(周波数FV2=0)を調整電圧V2として印加した。このとき、調整電圧V2の大きさを0V(すなわち、調整電圧印加操作無し)〜150Vの間で10Vの間隔で振って検証を行った。
【0113】
図11は、本実施形態における書き込み工程〜調整電圧印加工程間の印加電圧の波形を時系列で示すチャートである。ただし、書き込み工程における印加電圧は、V1HおよびV1Lの2種類があるが、当該チャートにおいては、その区別を付けずに示している。
図11に示されるように、この検証においては、書き込み電圧V1の印加の後に連続してDCパルス(書き込み電圧よりもパルス幅の長い半パルス)の調整電圧V2を印加している。
【0114】
図12および図13に、得られた表示画像の視感反射率Yを測定し、これと調整電圧の大きさとの関係をプロットしたグラフを示す。図12は、調整電圧印加操作による影響を比較的受け易い表示層7aについてのグラフであり、図13は、調整電圧印加操作による影響を比較的受け難い表示層7bについてのグラフである。また、それぞれの図においては、書き込み工程において、フォーカルコニック(F)リセットとした場合と、ホメオトロピック(H)リセットとした場合の2種類のグラフをプロットしている。
【0115】
これらグラフからわかるように、表示層7aでは、フォーカルコニックリセット時において、印加する調整電圧V2が130V付近およびそれよりも大きい場合にプレーナ相に相変化するのに対し、表示層7bにおいては、同じくフォーカルコニックリセット時に130V程度の調整電圧V2を印加してもフォーカルコニック相を維持している。一方、ホメオトロピックリセット時においては、両表示層7a,7bとも、130V程度の調整電圧V2の印加でプレーナ相に相変化する。この表示層の特性の違いを利用して、上閾値における動作マージンの実質的な拡大を企図したのが[A]の応用発明である。
【0116】
なお、図4では、上下閾値とも、比較的高いマージンが確保された理想的な表示層の組み合わせのスイッチング挙動を示しているが、本実施形態では、上閾値の動作マージンがほとんど確保されていない表示層の組み合わせとなっている。図14に、本実施形態の表示媒体1における各表示層7a,7bのコレステリック液晶のスイッチング挙動をグラフにて示す。
【0117】
上閾値での駆動においては、上閾値電圧の高い表示層bの相状態をフォーカルコニック相またはホメオトロピック相に選択し、電圧の印加を除した際にホメオトロピック相はプレーナ相に相変化して、フォーカルコニック相の選択透過とプレーナ相の選択反射とが選択される。このとき、上閾値電圧の低い表示層aについては、上閾値電圧を十分に超えた電圧が印加されて、相状態が一律にホメオトロピック相に相変化し、電圧の印加を除すとともにプレーナ相に相変化して、全面が反射状態とならなければ、閾値シフト法による駆動は実現困難となる。
【0118】
しかし、図14を見てもわかるように、表示層bが透過状態となる(フォーカルコニック相となる)100V〜150V程度の電圧では、反射率の値(Y値)から見て、表示層aが十分にホメオトロピック相に相変化(印加電圧解除によりプレーナ相に相変化して反射状態)し得ない。例えば、外部印加電圧130V以下では、表示層aのほとんどがフォーカルコニック相状態となる。
すなわち、上閾値で表示層bを駆動しようとしても、表示層aを一律に反射状態にすることができる書き込み電圧の駆動条件が見つからず、表示層aと表示層bとの関係は、動作マージンがほとんど確保できない状態であると言える。
【0119】
本実施形態では、このように上閾値における動作マージンがほとんど確保できない表示層の組み合わせにおいても、実質的に動作マージンが確保される。
以下、両表示層7a,7bを積層して得られた図3に示される表示媒体1に対して、実際に調整電圧がどのように作用するかを説明する。
【0120】
まず、両表示層7a,7bがホメオトロピック相になるような書き込み電圧(300V)を印加してホメオトロピックリセット状態にし、その直後に260V程度のDCパルスを10mS印加した場合を想定する。この場合には、各表示層7a,7bに約130Vの調整電圧V2が印加され、ホメオトロピックリセット状態のまま、印加電圧解除と共に両層ともプレーナ相に相変化する(図12および図13を参照)。
なお、ここで各表示層7a,7bに印加される調整電圧は、各表示層7a,7bの容量比によって分圧されるため、この場合は表示層7bの方が表示層7aよりも容量が高く設計されている(より高い電圧が表示相7aに加わる)ことが望ましい。
【0121】
一方、両者がフォーカルコニック相になるような書き込み電圧(120V)を印加してフォーカルコニックリセット状態にし、その直後に同じく260V程度のDCパルスを10mS印加した場合を想定する。この場合にも、各表示層7a,7bに約130Vの調整電圧V2が印加され、表示層7bはフォーカルコニック相の状態を維持し、表示層7aはホメオトロピック相に相変化した後、印加電圧解除と共にプレーナ相に相変化する。
このように、各リセット状態からの挙動の違いを利用することで、各表示層7a,7bを1つの駆動信号により独立に制御することができ、実質的に上閾値における動作マージンを確保することができる。
【0122】
すなわち、書き込み工程で書き込み電圧の大きさ(300Vまたは120V)を適宜選択するだけでは、表示層7aが不適切な相状態に相変化してしまうような場合であっても、調整電圧印加工程の操作が為されることで、表示層7bはプレーナ相の選択反射状態とフォーカルコニック相の選択透過状態とを選択的に書き込んだ状態が維持され、表示層7aは結果的に全て所望とするプレーナ相状態にすることができる。
【0123】
書き込み工程および調整電圧印加工程の動作(操作)をまとめると、図11を参考に以下に説明する通りである。
:書き込み工程:
書き込み工程においては、表示層7bにおける上閾値を超える電圧V1Hおよび超えない電圧V1Lの2種類の大きさで、同一周波数FV1の電圧書き込み電圧V1を所定時間TV1選択的に印加して、表示層7bにおける上閾値を超える部位または超えない部位の選択を行う。その結果、表示層7bは、上閾値を超える部位はホメオトロピック相に、上閾値を超えない部位はフォーカルコニック相に、それぞれなる。
【0124】
このとき、表示層7aについては、一般的な閾値シフト法では、全てがホメオトロピック相になっていることが望まれるが、本実施形態では、上閾値における動作マージンが確保されておらず、ホメオトロピック相とフォーカルコニック相とが混在した状態になっている
【0125】
:調整電圧印加工程:
調整電圧印加工程においては、上記書き込み工程に続いて連続的に、直流である調整電圧V2を表示層7a,7bに印加する。表示層7a,7bの調整電圧V2に対する影響は、図12および図13を用いて説明した通りであり、調整電圧V2を印加後、フォーカルコニック相状態の表示層7aのみがホメオトロピック相に相変化し、表示層7bは選択されたホメオトロピック相およびフォーカルコニック相の状態がそのまま保持される。
【0126】
そして、印加された電圧が解除された時に、全面がホメオトロピック相となっている表示層aと、表示層bにおけるホメオトロピック相が選択されている部位とが全て、プレーナ相状態に相変化し、表示層bにおけるフォーカルコニック相が選択されている部位はそのまま変化しない。つまり、表示層bに関して、プレーナ相による反射とフォーカルコニック相による透過との書き込み工程での選択は、そのまま保持される。
【0127】
このようにして、書き込み工程で、表示層7bに対し上閾値において選択的に書き込むことができ、調整電圧印加工程で、表示層7aの全てをプレーナ相状態にすることができ、当該表示層7aについては、次工程である第2の書き込み工程で下閾値において選択的に書き込まれる。
【0128】
(第2の書き込み工程)
以上が、本発明に特有の調整電圧印加操作までの工程であり、本応用発明において、以降の第2の書き込み工程の操作については閾値シフト法として公知の手法により行えば問題ないのであるが、下閾値での書き込み時にも動作マージンを十分に確保して、安定的な閾値シフト駆動を実現することが望まれる。
【0129】
そのため、本実施形態においては、第2の書き込み工程の操作において印加する電圧(以下、単に「第2書き込み電圧」という場合がある。)V3HおよびV3Lの周波数FV3を、前記書き込み工程における書き込み電圧V1HおよびV1Lの周波数FV1に比して小さい(FV3<FV1)ものとしている。
【0130】
当該本実施形態における第2の書き込み工程での動作(操作)について説明する。
前記表示層7a,7bを電気的に直列に接続し、任意の波形を出力できる外部電源から電圧パルスを印加した。ここで、下閾値動作時は5Hzの矩形パルスを200ms間印加した。
【0131】
図15に、直列接続した表示層a,bの両端に5Hzパルス電圧を印加したときの光学特性をグラフにて示す。図15において、縦軸は各表示層の最大Y値を1、最小Y値を0としたときの正規化Y値を表し、横軸は印加パルス電圧の値を表す。Y値の測定は、パルス電圧の印加を解除してから行った。図15のグラフを見てわかるように、各表示層7a,7bにおける下閾値電圧の値に明確なズレが生じている。
【0132】
また、図16に、直列接続した表示層7a,7bの両端に50Hzパルス電圧および260Vの調整電圧を印加したときの光学特性をグラフにて示す。図16における縦軸と横軸も、図15の場合と同様である。図16のグラフを見ると、各表示層aはパルス電圧の大きさによらず常に反射状態であり、表示層bのみがパルス電圧に対して応答していることから、調整電圧の効果によって上閾値の動作マージンを十分に確保できていることがわかる。
【0133】
5Hzのような周波数が比較的低いパルスの場合、各表示層に印加される分圧比は瞬間的な容量分圧から漏れ電流による抵抗分圧に緩和し、表示層7a,7b間の抵抗値差の影響が現れる。低誘電率・高抵抗側の表示層7aに、より大きな電圧が印加されるため、各表示層7a,7bの動作閾値を異ならせることで、下閾値における動作マージンを十分に確保することができる。
【0134】
一方、50Hzのような周波数が比較的高いパルスの場合、各表示層7a,7bへの分圧比は抵抗分圧に緩和せず、表示層7a,7b間の容量比がほぼそのまま分圧比として表れる。前述のように、上閾値については、本発明に特有の調整電圧印加操作によって実質的に動作マージンが確保されるため、表示層7a,7b間の容量比は調整電圧の分圧比を考慮するだけでよく、両表示層の容量に大きな差を敢えて持たせる必要がない。
【0135】
上で作製した各表示層7a,7bの反射スペクトルを図17および図18に示す。各表示層7a,7bとも約25%の高反射率が得られており、反射率を損なうことなく閾値シフト駆動ができることを、上記検証試験により実証することができた。
【0136】
この2層の表示層7a,7bを積層して、図3に記載の表示媒体1を得た場合、既述の「書き込み工程」および「調整電圧印加工程」の動作に引き続き、下記「第2の書き込み工程」の動作が為されることにより、十分な反射率を持たせながら、上下閾値共に十分な動作マージンが確保され、安定的な閾値シフト駆動が実現される。
【0137】
なお、以下の説明では、背景技術の項において用いた図27のグラフを用い、表示層107a,107bを、本実施形態における表示層7a,7bに見立てて説明する。当該グラフは、その形状が表示層7a,7bを積層して得た表示媒体1の場合と厳密には異なるものの、各工程の動作を説明するには十分に代用できるものである。
【0138】
既述の「書き込み工程」の動作および「調整電圧印加工程」の動作によって、表示層7bの部位ごとに相の選択が為され、また、表示層7aが全面プレーナ相に揃えられた後、表示層7aの下閾値Vpfaよりも低いVa間の電圧、または表示層7aの下閾値Vpfaよりも高く表示層7bの下閾値Vfpbより低いVb間の電圧を、周波数5Hzパルス波形で選択的に印加する。表示層aでは、Vb間の電圧を印加した部位は下閾値Vpfaを超え、フォーカルコニック相に相変化し、Va間の電圧を印加した部位は下閾値Vpfaを超えないため、プレーナ相状態を維持する。
【0139】
一方、表示層7bでは、いずれの印加電圧であっても下閾値Vfpbよりも低いため、上述の如く上閾値で選択されたプレーナ相またはフォーカルコニック相の状態を維持する。
第2の書き込み工程においては、このようにして、表示層7aの部位ごとに相の選択が為される。
【0140】
以上の「書き込み工程」、「調整電圧印加工程」および「第2の書き込み工程」の動作が順次為され、上下閾値の2段階の電圧信号においてそれぞれ、印加する電圧の大小の選択が為され、その組み合わせに応じて、表示層7aおよび表示層7bの内の任意の一方もしくは双方を反射状態、または双方を透過状態とすることができる。このように相が選択されて、反射型液晶表示素子への書き込み(駆動)が為される。
【0141】
以上説明したように、本実施形態においては、各表示層7a,7bの液晶組成を制御しつつ、これに合わせて、調整電圧印加工程において適切な調整電圧を印加しているため、上閾値における動作マージンを実質的に拡大することができ、安定的な閾値シフト駆動を実現することができる。また、下閾値においても第2の書き込み工程における書き込み電圧の周波数を小さくして、抵抗分圧比へ緩和させることで動作マージンを拡大させ、安定的な閾値シフト駆動を実現することができる。
すなわち、本実施形態によれば、各表示層7a,7bに十分な反射率を持たせながら、上下閾値における動作マージンを拡大し、安定的な閾値シフト駆動を実現することができる。
【0142】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、本発明の構成を、光書き込み型で積層型の反射型液晶表示素子の閾値シフト法による駆動方法に適用した[A]の応用発明の例である。
図19は、本発明の反射型液晶表示素子の駆動方法を適用したシステムの例示的一態様である第2の実施形態の概略構成図である。本実施形態のシステムも、第1の実施形態と同様、表示媒体(反射型液晶表示素子)1’と書き込み装置(反射型液晶表示素子の駆動装置)2’とからなる。ただし、本実施形態では、表示媒体(反射型液晶表示素子)1’として、光導電層を含む構成のものを用いている点が異なり、それに応じて書き込み装置(反射型液晶表示素子の駆動装置)2’の構成も異なっている。
以下の説明では、主として第1の実施形態と、その構成や作用、効果等が異なる点について説明し、第1の実施形態と同一の機能を有する部材には、図中同一の符号を付することによって、適宜その説明を省略することにする。
【0143】
<表示媒体>
本実施形態において表示媒体とは、アドレス光の照射、バイアス信号の印加によって複数の液晶層(選択反射層)の選択駆動ができる部材であり、具体的には反射型液晶表示素子である。
【0144】
本実施形態において、表示媒体1’は、表示面側から順に、透明基板3、透明電極5、表示層(選択反射層)7b、表示層(選択反射層)7a、ラミネート層8、着色層(遮光層)9、OPC層(光導電体層)10、透明電極6および透明基板4が積層されてなる物である。すなわち、第1の実施形態における表示媒体1の表示層(選択反射層)7aと透明電極6との間に、ラミネート層8、着色層(遮光層)9およびOPC層(光導電体層)10を介在させた構造となっている。本実施形態に特徴的なこれらの層についてのみ、以下詳細に説明する。
【0145】
(OPC層)
OPC層(光導電体層)10は、内部光電効果をもち、アドレス光の照射強度に応じてインピーダンス特性が変化する特性を有する層である。交流(AC)動作が可能であり、アドレス光に対して対称駆動にならなければならない。電荷発生層(CGL)が電荷輸送層(CTL)の上下に積層された3層構造に形成されてなる。本実施形態では、OPC層10として、図19における上層から順に上側の電荷発生層13、電荷輸送層14および下側の電荷発生層15が積層されてなる。
【0146】
電荷発生層13,15は、アドレス光を吸収して光キャリアを発生させる機能を有する層である。主に、電荷発生層13が表示面側の透明電極5から書き込み面側の透明電極6の方向に流れる光キャリア量を、電荷発生層15が書き込み面側の透明電極6から表示面側の透明電極5の方向に流れる光キャリア量を、それぞれ左右している。電荷発生層13,15としては、アドレス光を吸収して励起子を発生させ、CGL内部、またはCGL/CTL界面で自由キャリアに効率良く分離させられるものが好ましい。
【0147】
電荷発生層13,15は、電荷発生材料(たとえば金属又は無金属フタロシアニン、スクアリウム化合物、アズレニウム化合物、ペリレン顔料、インジゴ顔料、ビスやトリス等アゾ顔料、キナクリドン顔料、ピロロピロール色素、多環キノン顔料、ジブロモアントアントロンなど縮環芳香族系顔料、シアニン色素、キサンテン顔料、ポリビニルカルバゾールとニトロフルオレン等電荷移動錯体、ピリリウム塩染料とポリカーボネート樹脂からなる共昌錯体)を直接成膜する乾式法か、またはこれら電荷発生材料を、高分子バインダー(たとえばポリビニルブチラール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルカルバゾール樹脂、ビニルホルマール樹脂、部分変性ビニルアセタール樹脂、カーボネート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、ビニルアセテート樹脂、酢酸ビニル樹脂、シリコーン樹脂等)とともに適当な溶剤に分散乃至溶解させて塗布液を調製し、これを塗布し乾燥させて成膜する湿式塗布法等により形成することができる。
【0148】
電荷輸送層14は、電荷発生層13,15で発生した光キャリアが注入されて、バイアス信号で印加された電場方向にドリフトする機能を有する層である。一般にCTLは、CGLの数10倍の厚みを有するため、電荷輸送層14の容量、電荷輸送層14の暗電流、および電荷輸送層14内部の光キャリア電流が、OPC層10全体の明暗インピーダンスを決定付けている。
【0149】
電荷輸送層14は、電荷発生層13,15からの自由キャリアの注入が効率良く発生し(電荷発生層13,15とイオン化ポテンシャルが近いことが好ましい)、注入された自由キャリアができるだけ高速にホッピング移動するものが好適である。暗時のインピーダンスを高くするため、熱キャリアによる暗電流は低い方が好ましい。
【0150】
電荷輸送層14は、低分子の正孔輸送材料(たとえばトリニトロフルオレン系化合物、ポリビニルカルバゾール系化合物、オキサジアゾール系化合物、ベンジルアミノ系ヒドラゾンあるいはキノリン系ヒドラゾン等のヒドラゾン系化合物、スチルベン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、トリフェニルメタン系化合物、ベンジジン系化合物)、または低分子の電子輸送材料(たとえばキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、フルフレオン化合物、キサントン系化合物、ベンゾフェノン系化合物)を、高分子バインダー(たとえばポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、含珪素架橋型樹脂等)とともに適当な溶剤に分散乃至溶解させて塗布液を調製し、これを塗布し乾燥させて形成すればよい。
【0151】
(着色層)
着色層(遮光層)9とは、アドレス光と入射光を光学分離し、相互干渉による誤動作を防ぐ目的で設けられる層であり、本発明において必須の構成要素ではない。ただし、表示媒体1’の性能向上のためには、設けることが望まれる層である。その目的から、着色層9には、少なくともCGLの吸収波長域の光を吸収する機能が要求される。
【0152】
着色層9は、具体的には、無機顔料(たとえばカドミウム系、クロム系、コバルト系、マンガン系、カーボン系)、または有機染料や有機顔料(アゾ系、アントラキノン系、インジゴ系、トリフェニルメタン系、ニトロ系、フタロシアニン系、ペリレン系、ピロロピロール系、キナクリドン系、多環キノン系、スクエアリウム系、アズレニウム系、シアニン系、ピリリウム系、アントロン系)をOPC層10の電荷発生層13側の面に直接塗布して形成するか、あるいはこれらを高分子バインダー(たとえばポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル樹脂等)とともに適当な溶剤に分散乃至溶解させて塗布液を調製し、これを塗布し乾燥させて形成することができる。
【0153】
(ラミネート層)
ラミネート層8は、ガラス転移点の低い高分子材料からなるものであり、熱や圧力によって表示層7a,7bと着色層9とを密着・接着させることができる材料が選択される。また、少なくとも入射光、アドレス光に対して透過性を有することが条件となる。
ラミネート層8に好適な材料としては、粘着性の高分子材料(たとえばウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂)を挙げることができる。
なお、ラミネート層8は、本発明において必須の構成要素ではない。
【0154】
<書き込み装置>
本実施形態において書き込み装置(反射型液晶表示素子の駆動装置)2’とは、表示媒体1’に画像を書込む装置であり、表示媒体1’に対してアドレス光の照射を行う光照射部(露光装置)18および表示媒体1’にバイアス電圧を印加する電圧印加部(電源装置)17を主要構成要素とし、さらにこれらの動作を制御する制御回路16’が配されてなる。すなわち、第1の実施形態における書き込み装置2に対して、光照射部18が加わっており、また、制御回路16’が、電圧印加部17の動作とともに、光照射部18の動作をも適宜制御する機能を有している。本実施形態に特徴的な光照射部18および制御回路16’についてのみ、以下詳細に説明する。
【0155】
(光照射部)
光照射部(露光装置)18は、像様となる所定のアドレス光パターンを表示媒体1’に照射する機能を有し、制御回路16からの入力信号に基づき、表示媒体1’上(詳しくは、OPC層上)に所望の光画像パターン(スペクトル・強度・空間周波数)を照射できるものであれば特に制限されるものではない。
【0156】
光照射部18により照射されるアドレス光としては、以下の条件のものが好ましく選択される。
・スペクトル:OPC層10の吸収波長域のエネルギーができるだけ多いことが好ましい。
・照射強度:明時に各表示層7a,7bへの印加電圧がOPC層10との分圧により上下閾値の電圧以上となって、表示層7a,7b中の液晶を相変化させ、暗時にはそれ以下となるような強度。
光照射部18により照射されるアドレス光としては、OPC層10の吸収波長域内にピーク強度を持ち、できるだけバンド幅の狭い光であることが望ましい。
【0157】
光照射部18としては、具体的には以下のものが挙げられる。
(1−1)光源(たとえば、冷陰極管、キセノンランプ、ハロゲンランプ、LED、EL等)をアレイ状に配置したものや、光源と導光板とを組み合せたもの、などの均一な光源
(1−2)光パターンを作る調光素子(たとえば、LCD、フォトマスクなど)の組み合わせ
(2)面発光型ディスプレイ(たとえばCRT、PDP、EL、LED、FED、SED)
(3)上記(1−1)、(1−2)あるいは(2)と光学素子(たとえばマイクロレンズアレイ、セルホックレンズアレイ、プリズムアレイ、視野角調整シート)との組み合わせ
【0158】
(制御回路)
制御回路16’は、外部(画像取り込み装置、画像受信装置、画像処理装置、画像再生装置、あるいはこれらの複数の機能を併せ持つ装置等)からの画像データに応じて、電圧印加部17および光照射部18の動作を適宜制御する機能を有する部材である。制御回路16’による具体的な制御内容については、本発明に特徴的な「書き込み工程(動作)」および「調整電圧印加工程(動作)」と、それに引き続き為される「第2書き込み工程(動作)」の3つの工程(動作)からなるものであり、その詳細については後述することにする。
【0159】
<動作>
本実施形態においても、表示層の層構成が基本的に同一である第1の実施形態で行った検証試験により十分に、閾値シフト駆動ができることを実証することができている。
【0160】
この検証試験に供した2層の表示層7a,7bを積層して反射型液晶表示素子を得た場合、本発明の反射型液晶表示素子(光導電層を含むもの)の駆動方法による以下に示す「書き込み工程」、「調整電圧印加工程(動作)」および「第2の書き込み工程」の動作が順次為されることにより、十分な反射率を持たせながら、上下閾値共に十分な動作マージンが確保され、安定的な閾値シフト駆動が実現される。
【0161】
(書き込み工程)
まず、表示層全体にかかる電圧が、表示層7bの上閾値電圧より低く表示層7aの上閾値電圧より高いバイアス電圧(リセット電圧)を周波数50Hzパルス波形で印加しつつ、それと同時に、光照射部18によりアドレス光を選択的に露光して、露光部におけるOPC層10の抵抗値を変化(低下)させることで表示層7aおよび表示層7bの分圧を上昇させる。これにより、露光部で、表示層7aおよび表示層7bにかかる電圧が上閾値の電圧を超え、表示層7bはホメオトロピック相に相変化する。
また、非露光部への印加電圧はVcであるため、表示層7bはフォーカルコニック相となる。
【0162】
一方、表示層7aは露光部、非露光部にかかわらずホメオトロピック相となる。しかし、実際には2つの表示層の動作マージンが十分に確保できるとは限らない。本実施形態においても、第1の実施形態と同様、図14に示されるように、動作マージンが確保されない表示層7a,7bを用いている。そのため、表示層7aについては、ホメオトロピック相とフォーカルコニック相とが混在した状態となっている。
【0163】
(調整電圧印加工程)
調整電圧印加工程においては、上記書き込み工程に続いて連続的に、直流である調整電圧V2を表示層7a,7bに印加する。表示層7a,7bの調整電圧V2に対する影響は、第1の実施形態において図12および図13を用いて説明した通りなので、調整電圧V2を印加後、フォーカルコニック相状態の表示層7aのみがホメオトロピック相に相変化し、表示層7bは選択されたホメオトロピック相およびフォーカルコニック相の状態がそのまま保持される。
【0164】
そして、印加された電圧が解除された時に、全面がホメオトロピック相となっている表示層7aと、表示層7bにおけるホメオトロピック相が選択されている部位とが全て、プレーナ相状態に相変化し、表示層7bにおけるフォーカルコニック相が選択されている部位はそのまま変化しない。つまり、表示層7bに関して、プレーナ相による反射とフォーカルコニック相による透過との書き込み工程での選択は、そのまま保持される。
【0165】
このようにして、書き込み工程で、表示層7bに対し上閾値において選択的に書き込むことができ、調整電圧印加工程で、表示層7aの全てをプレーナ相状態にすることができ、当該表示層7aについては、次工程である第2の書き込み工程で下閾値において選択的に書き込まれる。
【0166】
(第2の書き込み工程)
以下の説明では、第1の実施形態と同様の理由で、背景技術の項において用いた図27のグラフを用いて説明する。
書き込み工程並びに調整電圧印加工程の動作が為された後、表示層全体にかかる電圧が、表示層7aの下閾値Vpfaよりも低いVa間になるようなバイアス電圧(セレクト電圧)を、周波数5Hzパルス波形で印加すると同時に、露光装置で選択的に露光して、書き込み工程の場合と同様に、露光部における表示層7aおよび表示層7bの分圧を上昇させる。これにより、露光部では、表示層7aおよび表示層7bにかかる電圧が下閾値Vpfaを超え、表示層7aはフォーカルコニック相に相変化する。また、非露光部への印加電圧はVaであるため、表示層7aはプレーナ相状態を維持する。
【0167】
一方、表示層7bは露光部、非露光部にかかわらずプレーナ相またはフォーカルコニック相状態を維持する。
第2の書き込み工程においては、このようにして、表示層7aの部位ごとに、相の選択が為される。
【0168】
以上の「書き込み工程」、「調整電圧印加工程」および「第2の書き込み工程」の動作が順次為され、上下閾値の2段階の電圧信号を印加しつつ、部位により露光/非露光の選択が為され、その組み合わせに応じて、表示層7aおよび表示層7bの内の任意の一方もしくは双方を反射状態、または双方を透過状態とすることができる。このように相が選択されて、反射型液晶表示素子への書き込み(駆動)が為される。
【0169】
以上説明したように、本実施形態においては、光書き込み型の積層型の反射型液晶表示素子に対しても、各表示層7a,7bの液晶組成を制御しつつ、これに合わせて、調整電圧印加工程において適切な調整電圧を印加しているため、上閾値における動作マージンを実質的に拡大することができ、安定的な閾値シフト駆動を実現することができる。また、下閾値においても第2の書き込み工程における書き込み電圧の周波数を小さくして、抵抗分圧比へ緩和させることで動作マージンを拡大させ、安定的な閾値シフト駆動を実現することができる。
すなわち、本実施形態によれば、光書き込み型の積層型の反射型液晶表示素子であっても、各表示層7a,7bに十分な反射率を持たせながら、上下閾値における動作マージンを拡大し、安定的な閾値シフト駆動を実現することができる。
【0170】
以上、2つの好ましい実施形態を挙げて本発明を詳細に説明したが、本発明は以上の実施形態に限定されるものではない。本発明の反射型液晶表示素子の駆動方法乃至駆動装置は、反射型液晶表示素子に対する画像書き込みのための駆動操作とは異なる、別個独立した新たな反射率制御の手法である調整電圧印加操作を提供するものであり、液晶組成を適宜調整することにより、また、調整電圧の印加条件を適宜調整することにより、調整電圧印加操作の影響を制御して、反射型液晶表示素子の駆動の多様性や制御性を向上させるものである。そのため、書き込み工程の後に所定の調整電圧を印加する調整電圧印加工程を含めば、如何なる変形例も本発明の範疇に含まれる。
【0171】
また、本発明に特徴的な調整電圧印加操作の具体的な有効利用例としての応用発明[A]についても、以上の実施形態に限定されるものではない。
【0172】
例えば、応用発明[A]については、第1および第2の実施形態の2つの実施形態では、選択反射層(表示層)が2層構成のもののみを具体例として挙げて説明しているが、応用発明[A]において選択反射層は2層に限られるものではなく、3層以上の構成とすることもできる。3層構成として、各層の発色をブルー、グリーンおよびレッドとして加法混色することにすれば、応用発明[A]による簡便な駆動技術によって、容易にフルカラー画像を得ることができる。
【0173】
3層構成の選択反射層の場合、上下閾値においては、3つの層それぞれが閾値の電圧の値に差が生じるように調整して反射型液晶表示素子を構成する。ここで、3つの選択反射層をそれぞれ閾値電圧の低いものから順に表示層a、表示層bおよび表示層cとした場合における動作を簡単に説明する。
【0174】
図20は、表示層a、表示層bおよび表示層cにおけるコレステリック液晶の理想的なスイッチング挙動を示すグラフである。図20のグラフにおいては、説明を容易にするために、上下閾値とも動作マージンが確保されている表示層の組合せを例示している。下閾値のVpfa〜Vpfcおよび上閾値のVfpa〜Vpfcについては、従来技術の項で説明した図24の場合と同様である。ただし、アルファベットの符号に続いて数字が付されているが、当該数値は正規化反射率の値を示す。
【0175】
3層構成の積層型の反射型液晶表示素子を閾値シフト法で駆動させるには、本発明に関わらない一般的な場合には、以下の7つの電圧により、あるいは露光する光の強度により、適宜これら電圧を選択することで、各選択反射層のスイッチングをすることができる。
【0176】
・表示層aの下閾値Vpfa90未満の範囲A中の電圧a。
・上記電圧aを超え、表示層bの下閾値Vpfb90未満の範囲B中の電圧b。
・上記電圧bを超え、表示層aの上閾値Vfpa10未満の範囲C中の電圧c。
・上記電圧cを超え、表示層cの下閾値Vpfc90未満の範囲D中の電圧d。
・上記電圧dを超え、表示層bの上閾値Vfpb10未満の範囲E中の電圧e。
・上記電圧eを超え、表示層cの上閾値Vfpc10未満の範囲F中の電圧f。
・表示層cの上閾値Vfpc90を超える範囲G中の電圧g。
【0177】
反射型液晶表示素子が光導電層を含まない場合には、電圧e、電圧fおよび電圧gを選択して電圧を印加し、その後、電圧a、電圧b、電圧cおよび電圧dを適宜選択して電圧を印加することにより、各選択反射層のスイッチングの有無を選択する。すなわち、印加電圧の大きさを7種類の中から適宜選択することで、各選択反射層の駆動を選択することができ、1度の信号で同時に画像を書き込むことができる。
【0178】
一方、反射型液晶表示素子が光導電層を含む場合には、電圧eまたは電圧aを印加した状態で、露光することによって、各選択反射層のスイッチングの有無を選択する。このとき、露光する光の強度を4種類から選択することで、それぞれ所望の閾値の選択反射層について相変化を生じさせるように、露光強度を設計する。
【0179】
以上のように設計することで、3つの層を1回の露光で自由にスイッチング状態を選択することができる。すなわち、印加電圧を一定にしておき、露光強度を4種類の中から適宜選択することで、各選択反射層の駆動を選択することができ、1度の信号で同時に画像を書き込むことができる。
【0180】
上記スイッチングは、上下閾値においてそれぞれ行われるので、第1および第2の実施形態の例と同様、書き込み工程(動作)、調整電圧印加工程および第2の書き込み工程(動作)の各操作を行う。そして、上閾値において、相状態を選択する予定の無い表示層(少なくとも表示層a、場合によって表示層b)については、書き込み工程(動作)の操作の後にホメオトロピック相状態になっていなければならないが、動作マージンが十分に確保できない等の場合には、応用発明[A]の構成が有効であり、実質的に動作マージンを確保することができる。
【0181】
3層構成の積層型の反射型液晶表示素子を閾値シフト法で駆動させるのに、応用発明[A]を適用する方法として、以下の方法が挙げられる。
【0182】
表示層a、表示層bおよび表示層cについて、調整電圧印加操作による影響を適切に制御して液晶層を形成する。具体的には、表示層a、表示層b、表示層cの順に、調整電圧印加操作による影響を受け難くなるようにする。
【0183】
まず、書き込み工程(動作)において、全ての表示層がホメオトロピック相状態またはフォーカルコニック相状態になるリセット電圧を印加する。そして、その直後に、調整電圧印加工程(動作)として、2種類の大きさの電圧でDCパルス(調整電圧)を印加する。
【0184】
書き込み工程(動作)においてホメオトロピックリセットとした場合は、調整電圧印加の如何に関わらず、全ての表示層がプレーナ相となる。
【0185】
書き込み工程(動作)においてフォーカルコニックリセットとした場合は、調整電圧として大きい電圧のDCパルスを印加した時、表示層aおよび表示層bがホメオトロピック相状態に相変化して最終的にプレーナ相状態となり、表示層cはフォーカルコニック相状態を維持する。
【0186】
また、同様に書き込み工程(動作)においてフォーカルコニックリセットとした場合で小さい電圧のDCパルスを印加した時、表示層aのみがホメオトロピック相状態に相変化して最終的にプレーナ相状態となり、表示層bおよび表示層cはフォーカルコニック相状態を維持する。
【0187】
すなわち、上閾値における駆動操作について、動作マージンの確保がし難い一般的な閾値シフト法による相状態の選択に代えて、本発明に特徴的な調整電圧印加操作における印加電圧の大小を利用することにより、実質的に上閾値における動作マージンを確保することができる。これにより、第2の書き込み工程(動作)による下閾値の駆動操作も適切に為され、安定的な閾値シフト駆動を実現することができる。
【0188】
特に3層構成の場合、3つの層間での動作マージンを確保しなければならず、より材料選択の自由度も低くなりがちであるが、本応用発明のように上閾値での動作マージンの確保のためには、調整電圧印加操作による影響のみを考慮して液晶組成を設計することができるので、材料選択の自由度が格段に拡大するとともに、実質的に極めて広い動作マージンを確保することができる。
すなわち、応用発明[A]は、2層構成であっても勿論優れた効果が奏されるが、各層間の動作マージンを確保しづらい3層以上の構成において、卓越した効果が発現されるものであると言うことができる。
【0189】
なお、下閾値における駆動操作は、特に限定されること無く、一般的な閾値シフト法による操作を行えばよい。ただし、下閾値についても動作マージンの確保が望まれる場合には、上下閾値における印加電圧の周波数を異ならせることで、容量分圧に頼ることなく抵抗分圧に緩和させて下閾値における動作マージンを確保することができる。
【0190】
この場合、抵抗分圧に緩和させることで誘電率差による材料選択の束縛から解放され、乃至制限が少なくなり、抵抗比による材料選択が可能となる。そして、3層全てにおける高い反射率を持たせながら、安定的な閾値シフト駆動が実現される。つまり、応用発明[A]に加えて、上下閾値における印加電圧の周波数を異ならせて抵抗分圧に緩和させる対応を施すことにより、各層間の動作マージンを確保しづらい3層以上の構成において特に、選択反射層における液晶組成の選択の幅が広がり、かつ駆動の制御性が広がり、高い反射率を持たせながら、安定的な閾値シフト駆動が実現できる。
【0191】
なお、応用発明[A]においては、この選択反射層は、2層や3層のみならず、4層以上であっても、上記と同様にして、(光導電体を含まない場合)印加電圧の大きさとその数とを適宜調節することによって、あるいは、(光導電体を含む場合)露光強度とその数とを適宜調節することによって、それぞれの選択反射層のスイッチングを適宜選択することができる。選択反射層の数が増えれば増えるほど、動作マージンの確保が困難となるため、本応用発明[A]は特に有効である。
【0192】
その他、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明(応用発明[A]を含む。)を適宜改変することができる。かかる改変によってもなお本発明の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【符号の説明】
【0193】
1,1’,1”:表示媒体(積層型光変調素子)
2,2’,2”:書き込み装置(積層型光変調素子の駆動装置)
3,4:透明基板
5,6,105,106:透明電極
7a,7b,7’,107a,107b:表示層(選択反射層)
8:ラミネート層
9,109:着色層
10:OPC層(光導電体層)
13,15:電荷発生層(CGL)
14:電荷輸送層(CTL)
16,16’,16”:制御回路
17:電圧印加部(電源装置)
18:光照射部(露光装置)
19:接触端子
101:積層型光変調素子
110:光導電体層
112:露光装置
117:電源装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、前記一対の電極の間に挟持された、コレステリック液晶を含み可視光中の互いに異なる所定の波長の光を層ごとに選択反射する少なくとも2層の選択反射層であって、当該各層ごとのプレーナ相からフォーカルコニック相への変化の外部印加電圧に対する動作閾値たる下閾値、および、フォーカルコニック相からホメオトロピック相への変化の外部印加電圧に対する動作閾値たる上閾値が互いに異なる前記少なくとも2層の選択反射層とを有する反射型液晶表示素子に、画像を記録するための反射型液晶表示素子の駆動方法であって、
前記記録すべき画像の情報に応じて、前記上閾値が大きい方の選択反射層の当該上閾値を超える電圧V1Hおよび超えない電圧V1Lを含む2種類以上の大きさの電圧を前記少なくとも2つの選択反射層に所定時間TV1で選択的に印加して、前記上閾値が大きい方の選択反射層の当該上閾値を超える部位または超えない部位の選択を行う書き込み工程と、
さらに当該書き込み工程に続いて連続的に、電圧V1Hおよび電圧V1Lの周波数とは異なる周波数の電圧であり、かつ前記上閾値が大きい方の選択反射層の相状態を変えずに前記上記閾値の小さい方の選択反射層のみの相状態を変化させる変化させる電圧V2を、前記少なくとも2層の選択反射層に所定時間TV2で選択的に印加する調整電圧印加工程と、
を含むことを特徴とする反射型液晶表示素子の駆動方法。
【請求項2】
前記調整電圧印加工程における電圧V2が、前記書き込み工程で印加する電圧V1Hおよび電圧V1Lの半周期のパルス幅よりも長いパルス幅の半周期パルスであることを特徴とする請求項1に記載の反射型液晶表示素子の駆動方法。
【請求項3】
一対の電極と、前記一対の電極の間に挟持された、コレステリック液晶を含み可視光中の互いに異なる所定の波長の光を層ごとに選択反射する少なくとも2層の選択反射層であって、当該各層ごとのプレーナ相からフォーカルコニック相への変化の外部印加電圧に対する動作閾値たる下閾値、および、フォーカルコニック相からホメオトロピック相への変化の外部印加電圧に対する動作閾値たる上閾値が互いに異なる前記少なくとも2層の選択反射層とを有する反射型液晶表示素子に、画像を記録するための反射型液晶表示素子の駆動装置であって、少なくとも、前記一対の電極間に電圧を印加し得る電源装置を含み、
前記記録すべき画像の情報に応じて、前記上閾値が大きい方の選択反射層の当該上閾値を超える電圧V1Hおよび超えない電圧V1Lを含む2種類以上の大きさの電圧を前記少なくとも2つの選択反射層に所定時間TV1で選択的に印加して、前記上閾値が大きい方の選択反射層の当該上閾値を超える部位または超えない部位の選択を行う書き込み動作と、
さらに当該書き込み動作に続いて連続的に、電圧V1Hおよび電圧V1Lの周波数とは異なる周波数の電圧であり、かつ前記上閾値が大きい方の選択反射層の相状態を変えずに前記上記閾値の小さい方の選択反射層のみの相状態を変化させる変化させる電圧V2を、前記少なくとも2層の選択反射層に所定時間TV2で選択的に印加する調整電圧印加動作と、
の各動作が順次為されることを特徴とする反射型液晶表示素子の駆動装置。
【請求項4】
前記調整電圧印加動作における電圧V2が、前記書き込み動作で印加する電圧V1Hおよび電圧V1Lの半周期のパルス幅よりも長いパルス幅の半周期パルスであることを特徴とする請求項3に記載の反射型液晶表示素子の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−108546(P2012−108546A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−28117(P2012−28117)
【出願日】平成24年2月13日(2012.2.13)
【分割の表示】特願2006−169201(P2006−169201)の分割
【原出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度独立行政法人科学技術振興機構革新技術開発研究事業、産業活力再生特別措置法第30条の規定を受けるもの)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】