説明

反射鏡および照明装置

【課題】製造効率が高く、耐水性および耐アルカリ性に優れた反射膜を備える反射鏡および照明装置を提供する。
【解決手段】反射膜としてのアルミニウム含有膜と、アルミニウム含有膜の上に配置されたジルコニウム含有膜とを備える。ジルコニウム含有膜の膜厚は、2.5nm以上10nm以下であることが好ましい。例えば、ジルコニウム含有膜として、不可避的不純物を含む純ジルコニウム膜を用い、アルミニウム含有膜は、不可避的不純物を含む純アルミニウム膜を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リフレクタを備えた照明装置に関し、特に車両用灯具に適した照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用灯具は、例えば特許文献1に開示されているように、レンズとハウジングによって形成された灯室内に、光源およびリフレクタを配置した構成である。光源からリフレクタ方向に向かって出射された光をリフレクタで反射し、レンズを通して灯具の前方に照射する。
【0003】
リフレクタは、特許文献1および特許文献2に記載されているように、合成樹脂基板の表面に下地膜、Al等の反射膜、保護膜を積層したものが一般的である。Al蒸着膜は、可視光全域で約85〜90%の反射率が得られることから、自動車や自動二輪車などの車両用灯具の反射膜として広く利用されている。下地層としては、樹脂塗料を塗布した樹脂層(特許文献1)や、HMDS(ヘキサメチルジシロキサン)を原料ガスとしてプラズマCVD法で形成した酸化シリコン膜(特許文献2)が用いられる。保護膜は、塗装膜(特許文献1)や、HMDSを原料ガスとしてプラズマCVD法で形成したはっ水性重合体膜(酸化シリコン膜)(特許文献2)が用いられる。また、特許文献2の技術では、下地層の表面をボンバード処理して活性化処理層を形成し、保護膜(はっ水性重合体膜)の表面をボンバード処理して親水処理層を形成している。
【0004】
一方、特許文献3には、Sc、Y、La、Gd、Tb、Luのうち1種類以上の元素を合計で0.4〜2.5at%含有し、残部がAlの合金で反射膜を形成することが提案されている。このAl合金膜は、スパッタリング法で成膜された場合、純Alよりも高い反射率を有すると共に、すぐれた耐アルカリ性、耐酸性および耐湿性を有し、保護膜なしでも長時間反射率低下が起こりにくいと開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−31909号公報
【特許文献2】特開2010−1542号公報
【特許文献3】特開2011−21275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の構造のリフレクタは、下地層(酸化シリコン層−活性化処理層)−Al反射膜−保護膜−親水化処理層と構造が複雑である。また、活性化処理層および親水化処理層の形成のためにボンバード処理を行うため、成膜に付随する工程が多い。下地層や保護膜をプラズマCVD法で成膜するため、専用の排気系が必要になり、装置コストが増える。プラズマCVD法は、成膜時間が長く、製造時間が延びる。さらに、下地層や保護膜をプラズマCVD法で成膜するため、成膜装置の真空槽内壁に酸化シリコン膜が堆積する。堆積した酸化シリコン膜が成膜中に剥離した場合、反射膜面に付着し、歩留まり低下の原因となる。これを防止するために定期的に真空槽内壁を清掃する必要があり、製造効率の低下につながる。
【0007】
一方、特許文献1のように保護膜を塗装法で成膜する場合、塗布面にゴミが付着しやすく、歩留まりが低下する。また、有機溶剤を含む樹脂材料を用いるため環境負荷が大きい。作業者の健康面からも有機溶剤の使用を減らすことが望まれている。
【0008】
特許文献3に記載のAl合金反射膜は、車両用灯具として必要とされる程度に十分な耐アルカリ性と耐水性とを兼ね備えたものは得られていない。また、Al合金は、材料コストが高い。
【0009】
本発明の目的は、製造効率が高く、耐水性および耐アルカリ性に優れた反射膜と、それを備える照明装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明によれば、反射膜としてのアルミニウム含有膜と、アルミニウム含有膜の上に配置されたジルコニウム含有膜とを有する反射鏡が提供される。
【0011】
ジルコニウム含有膜の上には他の層を備えず、反射鏡の最表面層がジルコニウム含有膜となるように構成することが可能である。ジルコニウム含有膜の膜厚は、2.5nm以上10nm以下であることが好ましい。ジルコニウム含有膜として、不可避的不純物を含む純ジルコニウム膜を用いることが可能である。
【0012】
アルミニウム含有膜は、不可避的不純物を含む純アルミニウム膜を用いることが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の反射鏡は、反射膜の上にジルコニウム含有膜を積層することにより、反射率を大きく損なうことなく、耐水性および耐アルカリ性を高めることができる。ジルコニウム含有膜は、スパッタ法により容易に成膜でき、かつ、はっ水性が小さいためジルコニウム含有膜の表面を親水化処理する必要がない。よって、簡素な製造工程で歩留まり良く反射鏡を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態のヘッドランプの断面構成を示すブロック図。
【図2】図1のリフレクタの層構成を示す断面図。
【図3】(a)本実施形態のリフレクタの製造工程を示す説明図、(b)従来技術のリフレクタの製造工程を示す説明図。
【図4】実施例と比較例1,2のリフレクタの反射率の波長依存性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施の形態の照明装置について説明する。
【0016】
本発明では、リフレクタ(反射鏡)の反射膜として、アルミニウム膜を用い、アルミニウム膜の上面にジルコニウム膜を積層する。これにより、簡単な構成でありながら、耐アルカリ性と耐水性を兼ね備えたリフレクタを提供できる。このリフレクタを車両用照明装置に用いることにより、車両用照明装置の耐久性が向上する。以下、具体的に説明する。
【0017】
本実施形態の車両用照明装置をヘッドランプを例に説明する。図1に示すように、本実施形態のヘッドランプは、光出射方向側に配置されたレンズカバー40と、背面側に配置されたランプボディ50とを備え、レンズカバー40とランプボディ50により形成された灯室60内には、光源30とリフレクタ20とが配置されている。リフレクタ20の周囲には、リフレクタ20とランプボディ50との間の空間を装飾するためにエクステンションリフレクタ10が配置されている。
【0018】
光源30から出射された光は、直接、または、リフレクタ20によって反射されて、レンズカバー40を通過し、前方に照射される。
【0019】
リフレクタ20の膜構成について図2を用いて説明する。リフレクタ20は、図2に示すように樹脂製の基材21の上に、アンダーコート層22と、反射膜としてのアルミニウム膜23と、保護膜としてジルコニウム膜24とを順に積層した構成である。
【0020】
アルミニウム膜23は、その膜厚は50nm以上であることが好ましく、150nm以上250nm以下であればより好ましい。アルミニウム膜23は、純アルミニウムであることが好ましい。アルミニウム膜23は、純アルミニウムをターゲットとしたスパッタ法や、純アルミニウムを蒸発源とした蒸着法等の気相成長法により成膜する。なお、アルミニウム膜23が不可避的不純物を含有していてもかまわない。
【0021】
ジルコニウム膜24は、その膜厚が耐アルカリ性の観点から1.5nm以上であることが好ましく、特に2.5nm以上であることが好ましい。また、反射率の観点から10nm以下であることが好ましく、特に5nm以下であることが好ましい。ジルコニウム膜24は、純ジルコニウム膜であっても、ジルコニウム化合物であってもよい。純ジルコニウム膜の場合、不可避的不純物を含有していてもかまわない。ジルコニウム膜24は、スパッタ法、特にDC(直流)スパッタ法を用いて高速かつ簡便に成膜することができる。そのため、他の公知の保護膜と比較して成膜処理の安定性や経済性に優れている。なお、RF(交流)スパッタ法を用いて成膜することももちろん可能である。
【0022】
スパッタ法により成膜したジルコニウム膜24は、はっ水性が少ないため、成膜後の親水化処理を施す必要はないが、より親水性を高めるために親水化処理を施すことは可能である。
【0023】
ジルコニウム膜24を配置しても、リフレクタ20の反射率は、可視光の全波長域において反射率は大きく低下せず、光沢色が変化することもない。
【0024】
基材21は、所望のリフレクタ20の形状に加工されている。基材21の材質としては、PPS(Polyphenylenesulfide)、BMC(Bulk Molding Compound)、PET/PBT(Polyethylene Terephthalate / Polybutylene Terephthalate)などを好適に用いることができる。
【0025】
アンダーコート層22は、樹脂製の基材21の平滑性と密着性を向上させるための層であり、公知のアンダーコート層を用いることができる。具体的には例えば、アクリル系樹脂層や酸化シリコン層をアンダーコート層22として配置する。また、平滑性や密着性のある基材に関してはアンダーコート層22を省くことができる。
【0026】
本実施形態ではジルコニウム膜24の薄膜をアルミニウム膜23の上に形成するだけで、耐アルカリ性のみならず耐水性および耐湿性にも優れたリフレクタ20を得ることができる。よって、信頼性の高い、照明装置を提供することができる。
【0027】
本実施形態のリフレクタ20の製造工程について図3(a)を用いて説明する。まず、所望のリフレクタ20の形状に加工された基材20を用意する。その上に、アンダーコート層22を湿式塗装法または気相成長法により成膜する(工程100)。例えば、アンダーコート層22としてアクリル系樹脂膜を形成する場合には、有機溶剤を用いた湿式塗装法により形成する。また、アンダーコート層22として酸化シリコン膜を形成する場合には、プラズマCVD法やスパッタ法で形成する。
【0028】
次に、反射膜としてアルミニウム膜23を成膜する(工程101)。例えば、純アルミニウムをスパッタターゲットとしてスパッタ法により反射膜23を成膜する。
【0029】
最後に、保護膜としてジルコニウム膜24をスパッタ法で成膜する(工程102)。以上により、簡単な工程でリフレクタ20が製造される。
【0030】
本実施形態のリフレクタ20の製造工程を、図3(b)に示すような従来(特許文献2に記載)のリフレクタの製造工程(工程400〜403)と比較すると、従来法は、工程400で成膜した下地層の表面をボンバード処理し、アルミ膜を成膜する工程401と、その上にプラズマCVDによりはっ水性の保護膜(酸化シリコン膜)を形成する工程402と、はっ水性の保護膜の表面をボンバード処理して親水性膜を形成する工程403が必要であるのに対し、本実施形態の図3(a)の製造方法では、プラズマCVDの工程も、ボンバード処理も不要であることが分かる。
【0031】
このように、本実施形態によれば、プラズマCVDの工程が不要となり、製造工程の簡素化が図れるため、製造コストが低減できる。
【0032】
また、本実施形態では、真空槽内の堆積物が剥がれてゴミの発生の原因となり得るプラズマCVD工程が不要になるため、製造歩留まりを向上させることができる。
【0033】
さらに、従来のようにプラズマCVD装置の真空槽内の堆積膜を除去する必要がなく、メンテナンス時間が短縮でき、生産効率が向上し、製造コストが低減できる。
【0034】
また、本実施形態でアルミニウム膜およびジルコニウム膜の成膜に用いるターゲットは、特殊合金ではなく、一般的に用いられる金属材料のため容易かつ安価に入手でき、製造コストを低減できる。
【0035】
本実施形態の照明装置は、自動車用のヘッドライト、各種照明器具の用途として用いることができる。また、本実施形態のリフレクタの膜構成は、各種ディスプレイの反射膜、各種電子部品の反射膜、太陽光発電装置の反射膜の用途に用いることができる。
【実施例】
【0036】
本発明の照明装置のリフレクタ20を製造し、耐アルカリ性、耐水性および耐湿性を確認した。
【0037】
(実施例)
PPS(Polyphenylenesulfide)樹脂製の基板21上にアクリル樹脂製のアンダーコート層22を塗布法により厚さ約20μm形成した。
【0038】
その基板21をスパッタリング装置に入れ、純アルミ(JIS規格A1050)ターゲットを用い、DCスパッタ法により、入力電力5000W、成膜時間90秒、100%Ar雰囲気で、厚さ約160nmのアルミニウム膜23を成膜した。
【0039】
連続して、ジルコニウムターゲットを用い、DCスパッタ法により、入力電力100W、成膜時間12秒、100%Ar雰囲気で厚さ2.5nmのジルコニウム膜24を形成した。これにより、実施例のリフレクタ20を製造した。
【0040】
(比較例1)
PPS(Polyphenylenesulfide)樹脂製の基板上にアクリル樹脂のアンダーコート層を塗布法により厚さ約20μm形成した。
【0041】
その基板をスパッタリング装置に入れ、純アルミ(JIS規格A1050)ターゲットを用い、DCスパッタ法により、入力電力5000W、成膜時間90秒、100%Ar雰囲気で、厚さ約160nmのアルミニウム膜を成膜した。
【0042】
基板をプラズマCVD装置に移動させ、原料ガスとしてHMDS(ヘキサメチルジシロキサン)を導入し、入力電力3000W、成膜時間20秒で、厚さ20nmの酸化シリコン膜をプラズマCVD法で保護膜として成膜した。これにより、比較例1のリフレクタを製造した。
【0043】
(比較例2)
比較例1のリフレクタの製造工程の保護膜の製造工程を行わず、他の工程は比較例1と同様にして、比較例2のリフレクタを製造した。
【0044】
(反射率の測定)
実施例のリフレクタ試料と比較例1および2のリフレクタ試料について、350nm〜800nmの可視光域の反射率を調べた。その結果を図4のグラフに示す。図4のように、実施例の試料は、比較例1の酸化シリコン膜を保護膜として備える試料より反射率が高く、保護膜を備えずアルミニウム膜が露出された比較例2の試料の反射率には及ばないものの、可視光域全体で84%以上の反射率を示した。この値から、実施例の試料はリフレクタとして十分な反射率であることが確認された。
【0045】
(耐アルカリ性評価)
実施例および比較例1、2の試料に耐アルカリ性試験を行った。具体的には、1wt%KOH溶液に、各試料を10分間浸漬した後、目視で試料を観察し、透け、剥離および白点等の欠陥がないものを○、透け、剥離および白点の少なくとも一つがあるものを×として評価した。
【0046】
(耐水性評価)
実施例および比較例1、2の試料に耐水性試験を行った。具体的には、温度40℃の温水に試料を24時間浸漬した後、室温に1時間放置した。その後、目視で試料を観察し、透け、剥離および白点等の欠陥がないものを○、透け、剥離および白点の少なくとも一つがあるものを×として評価した。
【0047】
(耐湿性評価)
実施例および比較例1、2の試料に耐湿性試験を行った。具体的には、湿度98%、温度50℃の恒温恒湿雰囲気に240時間曝した後、室温に1時間放置した。その後、目視で試料を観察し、透け、剥離および白点等の欠陥がないものを○、透け、剥離および白点の少なくとも一つがあるものを×として評価した。評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1のように、実施例および比較例1の試料は、耐アルカリ性試験、耐水性試験および耐湿性試験のいずれにも欠陥を生じなかった。比較例3の保護膜を備えないアルミニウム膜のみの試料は、表1のように、耐アルカリ性試験において溶解し、耐水性試験においてアルミニウム膜が変色した。耐湿性試験においては反射膜が溶解した。
【0050】
以上のことから、実施例の試料は、ジルコニウム膜を保護膜として備えることにより、耐アルカリ性、耐水性および耐湿性を兼ね備えたリフレクタが得られることが確認された。
【符号の説明】
【0051】
10…エクステンションリフレクタ、20…リフレクタ、21…基材、22…アンダーコート、23…反射膜、24…酸素プラズマ処理層、30…光源、40…レンズカバー、50…ランプボディ、60…灯室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射膜としてのアルミニウム含有膜と、前記アルミニウム含有膜の上に配置されたジルコニウム含有膜とを有することを特徴とする反射鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の反射鏡において、最表面層が前記ジルコニウム含有膜であることを特徴とする反射鏡。
【請求項3】
請求項1または2に記載の反射鏡において、前記ジルコニウム含有膜の膜厚は、2.5nm以上10nm以下であることを特徴とする反射鏡。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の反射鏡において、前記ジルコニウム含有膜は、不可避的不純物を含む純ジルコニウム膜であることを特徴とする反射鏡。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の反射鏡を備えた照明装置。
【請求項6】
基材上に塗布法で下地層を形成する工程と、
前記下地層の上に反射膜として、アルミニウム含有膜を気相成長法で成膜する工程と、
前記アルミニウム膜の上にジルコニウム含有膜をスパッタリング法で成膜する工程とを有することを特徴とする反射鏡の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−248461(P2012−248461A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120257(P2011−120257)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】