説明

反射鏡システム

【課題】反射鏡システムに任意の温度変化や温度分布が生じても、主鏡と副鏡との幾何学的位置関係を一定に保つと共に、部材の接続部での応力の変化を最小に押さえ、光軸のずれや信頼性の低下を抑制することができる。
【解決手段】主鏡1およびこの主鏡が固定された主鏡支持部2と、副鏡3およびこの副鏡が固定された副鏡支持部4と、この副鏡支持部と主鏡支持部とを連結する連結フレーム5とを備えた反射鏡システムであって、主鏡、副鏡、主鏡支持部、副鏡支持部および連結フレームの構成部材を同一の線熱膨張係数をもつ材料で構成し、主鏡の反射面と副鏡の反射面とは共通の光軸で対向して配置し、主鏡支持部に連結フレームが接続された主鏡接続位置6と、副鏡支持部に連結フレームが接続された副鏡接続位置7とを光軸に対して点対称の位置としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱的な環境変化が厳しい、例えば宇宙空間で用いる望遠鏡や光アンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
衛星等で使用する光学系システムの場合、宇宙環境での光学系システム全体の温度変化が非常に大きい。このため、光学系システムが熱変形を生じ、光学系システム全体の構成部材の相対的位置が変化すると、焦点の移動などが発生して画像の劣化原因となるため、構成部材の相対的位置変化を補正するための調整機構が必要となる。従来の反射鏡システムにおいては、主鏡と副鏡との幾何学的位置関係を保持するために、主鏡を支持すると共にこの主鏡の光軸中心に対して放射方向に延在する複数の脚部材を有する第1の支持手段と、副鏡を支持すると共に第1の支持手段の脚部の先端に連結する複数のフレームを備えた第2の支持手段とを備え、第1、第2の支持手段の線膨張係数を異なるように構成し、温度変化が生じても、主鏡と副鏡との幾何学的位置関係が一定になるように部材寸法が選定されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−318301号公報(2頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の反射鏡システムでは、主鏡の光軸に対称な部分に温度分布が生じた場合には主鏡と副鏡との幾何学的位置関係を一定に保つことができる。しかしながら、衛星などで使用する場合、太陽光は常に光軸に対称な部分のみに照射されるわけではなく、温度分布が主鏡の光軸に非対称な部分に生じた場合は、第1の支持手段の線膨張係数と第2の支持手段の線膨張係数とを異なるように構成しているので、鏡と副鏡との幾何学的位置関係を一定に保つことは困難である。また、線膨張係数の異なる部材で構成されているので、それらの部材を接続している部分では温度変化に伴う応力の変化が大きく、光軸のずれが発生したり、反射鏡の信頼性が低下したりするという問題があった。
【0005】
この発明は上述のような課題を解決するためになされたもので、反射鏡システムに任意の温度変化や温度分布が生じても、主鏡と副鏡との幾何学的位置関係を一定に保つと共に、部材の接続部での応力の変化を最小に押さえ、光軸のずれや信頼性の低下を抑制することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る反射鏡システムにおいては、主鏡およびこの主鏡が固定された主鏡支持部と、副鏡およびこの副鏡が固定された副鏡支持部と、この副鏡支持部と主鏡支持部とを連結する連結フレームとを備えた反射鏡システムであって、主鏡、副鏡、主鏡支持部、副鏡支持部および連結フレームの構成部材を同一の線熱膨張係数をもつ材料で構成し、主鏡の反射面と副鏡の反射面とは共通の光軸で対向して配置し、主鏡支持部に連結フレームが接続された主鏡接続位置と、副鏡支持部に連結フレームが接続された副鏡接続位置とを光軸に対して点対称の位置としたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明は、構成部材を同一の線熱膨張係数をもつ材料で構成し、主鏡支持部に連結フレームが接続された主鏡接続位置と、副鏡支持部に連結フレームが接続された副鏡接続位置とを光軸に対して点対称の位置にすることにより、反射鏡に任意の温度変化や温度分布が生じても、主鏡と副鏡との幾何学的位置関係を一定に保つことができると共に、部材の接続部での応力の変化を最小に押さえ、光軸のずれや信頼性の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明を実施するための実施の形態1における反射鏡システムの模式図ある。図1において、主鏡1は主鏡支持部2に固定されており、副鏡3は副鏡支持部4に固定されている。主鏡1と副鏡3とは共通の光軸で対向して配置されている。主鏡支持部2は略三角形の形をしており、3つの頂点の近くの主鏡接続部6で連結フレーム5と接続されている。副鏡支持部4は、副鏡3よりもよりも大きな円形の形をしており、3本の連結フレーム5とは側面の副鏡接続部7で接続されている。連結フレーム5は、複数の節部で屈曲した螺旋状に曲がった構造である。主鏡接続部6と副鏡接続部7とは、光軸に対して点対称、つまり光軸を中心に180度回転した位置となるように構成されている。このような位置関係を逆位相の位置関係と表現する。
【0009】
本実施の形態の反射鏡システムをさらに詳細に述べる。主鏡1は、外形が250mmで中央部に内径が70mmの開口部があり、焦点距離が250mmの凹面鏡である。副鏡3は、外形が75mmで焦点距離が500mmの凸面鏡である。主鏡接続部6と副鏡接続部7とは逆位相の位置にあるため、連結フレーム5が直線状の形状であった場合、3本の連結フレームは、中央部で交差してしまうため、反射鏡システムの主鏡と副鏡との間の光路を遮ることになり、集光効率を低下させたり、画像の一部を欠落させたりする原因となる。そのため、連結フレーム5が主鏡と副鏡との間の光路を遮蔽しないように光路の外側を通過するように迂回する螺旋形状とすることで、主鏡支持部と副鏡支持部を180度ずらした逆位相の接続位置で連結することが可能となる。
【0010】
本実施の形態においては、主鏡、副鏡、主鏡支持部、副鏡支持部および連結フレームの構成部材は、同一の線熱膨張係数をもつ材料、例えば炭素繊維強化炭化珪素複合材(C/SiC)で構成されている。
【0011】
次に本実施の形態における反射鏡システムが衛星に搭載された場合の反射鏡システムの動作について説明する。
【0012】
反射鏡システムが搭載された衛星においては、反射鏡システムは太陽光からの強い放射光を遮蔽するために、観測光の入射を妨げない範囲で周囲は遮蔽されている。天体を観測する場合、観測しようする星からの光が反射鏡システムの主鏡に入射するように反射鏡システムの方向が制御される。この場合、反射鏡システムそが小型で衛星本体から独立して方向が制御できる構造であれば反射鏡システム単独で方向が制御され、反射鏡システム大型で衛星本体と一体の場合は、衛星本体の姿勢制御により、所望の方向へ制御される。観測対称からの光は主鏡1で反射され、この反射された光は副鏡3へ進み、副鏡3で反射された光は主鏡1の開口部を通過して、主鏡1背面の開口部に対応した配置されている受光部(図示せず)に結像される。受光部に結像された情報はデジタル信号に変換され、衛星の通信装置を介して地上に転送される。地上に転送されたデジタル信号は画像処理など、各種情報分析に用いられる。
【0013】
次に、本実施の形態における反射鏡システムに温度分布が生じた場合の作用について説明する。主鏡、副鏡、主鏡支持部、副鏡支持部および連結フレームの構成部材は、同一の線熱膨張係数をもつ材料で構成されているので、反射鏡システム全体の温度が等しく変化した場合は、相似変形を起こすので、主鏡と副鏡との幾何学的位置関係は一定に保たれると共に、部材の接続部での応力はほとんど変化せず、光軸のずれや信頼性の低下を抑制することができる。
【0014】
また、反射鏡システムに温度分布が生じた場合、連結フレームが主鏡支持部と副鏡指示部とを逆位相で連結するように構成されているため、それぞれの連結フレームが温度分布に対し、伸び縮みを起こし変形量が相殺され、連結フレームの長さが等しくなる。このため、主鏡支持部と副鏡支持部の位置関係は平行状態が保持されるので、主鏡と副鏡との幾何学的位置関係は一定に保たれ光軸のずれを抑制することができる。
【0015】
上述のように、本実施の形態においては、構成部材を同一の線熱膨張係数をもつ材料で構成することにより、部材の接続部での応力の変化を最小に押さえることができると共に、主鏡支持部に連結フレームが接続された主鏡接続位置と、副鏡支持部に連結フレームが接続された副鏡接続位置と逆位相の位置とすることにより、反射鏡に任意の温度変化や温度分布が生じても、補正機構なしで主鏡と副鏡との幾何学的位置関係を一定に保つことができる。その結果、反射鏡システムに温度変化や温度分布が生じた場合でも、光軸のずれや信頼性の低下を抑制することができる。
【0016】
また、本実施の形態においては、構成部材に炭素繊維強化炭化珪素複合材(C/SiC)を用いた例を示したが、この複合材は軽量で線膨張係数が小さいので衛星などで使用する場合に適した材料である。しかしながら、この材料以外を用いてもよく、例えば低熱膨張ガラス材やインバー材やベリリウム合金等を用いることもできる。
【0017】
実施の形態2.
実施の形態2は、実施の形態1で説明した反射鏡システムにおいて、温度分布と光学特性との関係を評価したものである。図2は、本実施の形態における反射鏡システムの光学特性を評価するときの配置図である。図2において、反射鏡システム8の主鏡の副鏡と反対の位置に光学干渉計9を配置し、副鏡の光学干渉計9と反対の位置に基準ミラー10を配置する。光学干渉計9としては、例えばザイゴ社製のGPI−XPレーザ干渉計式形状測定器を用いることができる。光学干渉計9と基準ミラー10とに位置関係は、温度環境に係らず一定となるように構成する。光学干渉計9から出射されるレーザ光は、主鏡1の中央部の開口部9を通過して副鏡3で主鏡1側へ反射され、さらに主鏡1で反射されて基準ミラー10に照射される。基準ミラー10に照射されたレーザ光は、基準ミラー10で反射されて光路を逆に辿って光学干渉計9に戻される。この基準ミラー10から反射されて戻ってきたレーザ光と光学干渉計9から出射されたレーザ光との干渉縞から主鏡1および副鏡3の形状を測定することができる。図2において、反射鏡システム8は、温度特性を評価するために全体の温度を一定に調整できるように恒温槽内(図示せず)に配置されている。また、主鏡1を支持する主鏡支持部の対向する2つの端部P1、P2とし、副鏡3を支持する副鏡支持部の対向する2つの端部をP3、P4とする。これらの4つの端部には、ヒータと熱電対とが取付けられており、これら4つの端部の温度を独立に変化させることができる。
【0018】
まず始めに、反射鏡システム8の全体の温度を23℃の一定として、光学干渉計9を用いて波面収差を測定した結果、波面収差は0.230λ(rms)であった。ここで、波面収差とは、光学系を通過した同心球面波面の乱れのことであり、本実施の形態においては、反射鏡システムで収束した同心球面波面と理想波面との偏差の標準偏差で定義される。ここで、λは、光学干渉計9のレーザ光の波長であり、例えば光学干渉計9の光源がHe−Neレーザであれば、λ=632.8nmである。波面収差がレイリー限界(1/4λ)以下であれば、理想像と大きな差がないと判断される。次に、反射鏡システム8の全体の温度を10℃としたときの波面収差は0.231λ(rms)、反射鏡システム8の全体の温度を35℃としたときの波面収差は0.230λ(rms)であった。このことから、反射鏡システム全体が一定の温度であれば、反射鏡システムの主鏡と副鏡との幾何学的位置関係は変化しないことがわかる。
【0019】
次に、反射鏡システムに温度分布が発生したときの波面収差について説明する。主鏡および副鏡の端部、P1、P2、P3およびP4の温度を変化させて波面収差を測定した。各端部の温度と波面収差との関係を表1に示す。なお、表1には、上述の反射鏡システム全体の温度を一定としたときの波面収差も併せて示している。
【0020】
【表1】

【0021】
表1において、主鏡支持部が30℃で副鏡支持部が20℃の場合の波面収差は0.231λ(rms)となり、主鏡と副鏡との幾何学的位置関係は反射鏡システム全体が一定の温度の場合とほとんど変化がないことがわかる。さらには、主鏡支持部および副鏡支持部の一方の端部が15℃で他方の端部が25℃のように、光軸に対して対称ではない温度分布が生じた場合でも、波面収差は0.231λ(rms)となり、主鏡と副鏡との幾何学的位置関係は反射鏡システム全体が一定の温度の場合とほとんど変化がないことがわかる。
【0022】
本実施の形態で説明したように、反射鏡システムに温度分布が発生せず全体の温度が一定に変化した場合は、反射鏡システムの構成部材が同一の線熱膨張係数をもつ材料で構成されているので反射鏡システム全体が相似形で変形するため、主鏡と副鏡との幾何学的位置関係は一定に保たれる。また、反射鏡システムに温度分布が発生した場合は、連結フレームの主鏡接続位置と副鏡接続位置とが逆位相の位置で構成されているので、主鏡から見て副鏡は傾くことがなく、主鏡と副鏡との幾何学的位置関係は一定に保たれる。
【0023】
上述のように、本実施の形態においては、構成部材を同一の線熱膨張係数をもつ材料で構成することにより、部材の接続部での応力の変化を最小に押さえることができると共に、主鏡支持部に連結フレームが接続された主鏡接続位置と、副鏡支持部に連結フレームが接続された副鏡接続位置と逆位相の位置とすることにより、それぞれの連結フレームが温度分布に対し、伸び縮みを起こし変形量が相殺され、連結フレームの長さが等しくなる。そのため、反射鏡に任意の温度変化や温度分布が生じても、補正機構なしで主鏡と副鏡との幾何学的位置関係を一定に保つことができると共に、部材の接続部での応力の変化を最小に押さえ、光軸のずれや信頼性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施の形態1における反射鏡システムの模式図ある。
【図2】この発明の実施の形態1における反射鏡システムの光学特性を評価するときの配置図である。
【符号の説明】
【0025】
1 主鏡
2 主鏡支持部
3 副鏡
4 副鏡支持部
5 連結フレーム
6 主鏡接続部
7 副鏡接続部
8 反射鏡システム
9 光学干渉計
10 基準ミラー
11 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鏡およびこの主鏡が固定された主鏡支持部と、
副鏡およびこの副鏡が固定された副鏡支持部と、
この副鏡支持部と前記主鏡支持部とを連結する連結フレームとを備えた反射鏡システムであって、
前記主鏡、前記副鏡、前記主鏡支持部、前記副鏡支持部および前記連結フレームの構成部材が同一の線熱膨張係数をもつ材料で構成されており、
前記主鏡の反射面と前記副鏡の反射面とは共通の光軸で対向して配置されており、
前記主鏡支持部に前記連結フレームが接続された主鏡接続位置と、
前記副鏡支持部に前記連結フレームが接続された副鏡接続位置と
は前記光軸に対して点対称の位置であることを特徴とする反射鏡システム。
【請求項2】
構成部材が、炭素繊維強化炭化珪素複合材であることを特徴とする請求項2記載の反射鏡システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate