説明

反射防止フィルム

【課題】良好な反射防止効果を有しながら高い表面硬化性を有する反射防止フィルムを提供する。
【解決手段】透明基材上に屈折率制御層を有し、前記屈折率制御層が電離放射線硬化型バインダーを含み、該電離放射線硬化型バインダー用の重合開始剤として、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オンを使用してなることを特徴とする反射防止フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ、CRT(陰極線管)ディスプレイやプラズマディスプレイ等のディスプレイ前面に設けられる反射防止フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等のディスプレイ表面には、高い表面硬度および反射防止特性を付与するために反射防止フィルムが設けられている。当該反射防止フィルムを設けることで、ディスプレイ前面で外光が反射することによる視認性の低下を防ぐことができる。
通常、このような反射防止フィルムは、透明基材上にハードコート層と屈折率制御層とがこの順序で積層した構成となっている。
【0003】
屈折率制御層は反射防止に寄与する層であり、より低い反射率を達成するために屈折率の異なる層を薄膜にて積層する構成や、屈折率制御層に特定の微粒子を含有させる構成(例えば、特許文献1参照)などが提案されている。しかし、単に積層する構成だけでは、各層間の密着性が低下することがあり、これによって表面硬度が低下してしまう。また、微粒子を大量に含有させると、屈折率制御層を構成するバインダーの割合が低くなり、硬度が低下してしまう。
このように、一般的には、反射率を下げようとすると硬度が低下してしまうという問題がある。すなわち、反射防止フィルムにおいて、低い反射率(良好な反射防止効果)を維持しながら高い表面硬度性を実現することは非常に困難であるといえる。
【特許文献1】特開2003−75605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来の課題を解決すること目的とする。すなわち、本発明は、良好な反射防止効果を有しながら高い表面硬化性を有する反射防止フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は下記本発明により解決される。すわなち、本発明は、
(1)透明基材上に屈折率制御層を有し、前記屈折率制御層が電離放射線硬化型バインダーを含み、該電離放射線硬化型バインダーに、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オンを配合してなることを特徴とする反射防止フィルム、
(2)前記屈折率制御層が2層以上からなり、少なくとも、前記透明基材から最も遠い屈折率制御層が、前記電離放射線硬化型バインダーに、前記2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オンを配合してなることを特徴とする(1)に記載の反射防止フィルム、
(3)前記透明基材から最も遠い屈折率制御層の厚みが50〜120nmであることを特徴とする(1)または(2)に記載の反射防止フィルム、
(4)少なくとも、前記透明基材から最も遠い屈折率制御層が、屈折率制御用微粒子を含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の反射防止フィルム、および
(5)前記透明基材から最も遠い屈折率制御層における前記2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オンの配合量が、前記電離放射線硬化型バインダー100質量部に対し、0.5〜10質量部であることを特徴とする(4)に記載の反射防止フィルム、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、良好な反射防止効果を有しながら高い表面硬化性を有する反射防止フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の反射防止フィルムは、透明基材上に屈折率制御層を有している。屈折率制御層には、電離放射線硬化型バインダーが含有され、当該電離放射線硬化型バインダー用に表面硬化性を付与し得る重合開始剤が配合されている。必要に応じて、屈折率制御層には、屈折率制御用微粒子などが含まれる。また、透明基材と屈折率制御層との間には、ハードコート層等が適宜設けられる。
以下、透明基材および各層について説明する。
【0008】
(屈折率制御層)
屈折率制御層の電離放射線硬化型バインダーには、表面硬化性を付与し得る重合開始剤として、下記化学式で表される重合開始剤(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン)が配合されている。
【0009】
【化1】

【0010】
上記表面硬化性を付与し得る重合開始剤(以下、「本発明に係る重合開始剤」という)は、ラジカル発生効率が高いため電離放射線硬化型バインダーとの反応性が高い。
また、他の重合開始剤の場合、これが層の表面側にあると酸素と反応して失活しやすい。このような酸素による失活(酸素阻害)は層の厚みが小さくなるほど顕著となる。これに対し、本発明に係る重合開始剤は、その理由については不明であるが、酸素阻害を受けにくく、特に、層の厚みが小さくなっても電離放射線硬化型バインダーとの反応性が高い。そのため、他の重合開始剤と比べて特に高い表面硬化性を付与することができる。
また、屈折率を制御するために後述する屈折率制御用微粒子を用いた場合、電離放射線硬化型バインダーの割合が減少し表面硬度が低下する可能性がある。しかし、本発明の反射防止フィルムでは、屈折率制御層に本発明に係る重合開始剤を含有させているため、高い表面硬化性を維持させることができる。
なお、当該重合開始剤は、例えば、チバスペシャリティケミカルズ社製のイルガキュア127を使用することができる。
【0011】
屈折率制御層中の、本発明に係る重合開始剤の配合量は、後述する電離放射線硬化型バインダー100質量部に対し、0.5〜10質量部であることが好ましく、3〜5質量部であることがより好ましい。0.5質量部以上とすることで、発生するラジカル量を十分なものとし、未反応なバインダー分子の残留を少なくすることができる。10質量部以下とすることで、生成するポリマー分子が小さくなることを防ぎ、分子間に絡み合いを生じさせて強度を高めることができる。すなわち、0.5〜10質量部であることで、未反応バインダー量を少なく抑えながら、ポリマーが分子間に絡み合いが生じる程度にまで生長し、高硬度なフィルムを作製することができる。
なお、屈折率制御層が2層以上で構成されている場合は、少なくとも、透明基材から最も遠い屈折率制御層が本発明に係る重合開始剤を含有することが好ましい。また、その場合の配合量は上記範囲であることが好ましい。
【0012】
また、屈折率制御層(2層以上で構成されている場合は、少なくとも、透明基材から最も遠い屈折率制御層)の厚みは、50〜120nmであることが好ましい。50〜120nmであることで、本発明に係る重合開始剤の特性を効果的に利用することができる。
【0013】
本発明に係る重合開始剤とともに、他の重合開始剤を使用してもよい。この場合、本発明に係る重合開始剤10質量部に対して、他の重合開始剤を1〜5質量部とすることが好ましく、1〜3質量部とすることがより好ましい。
【0014】
併用できる重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、アシルホスフィンオキサイド類、O−アシルオキシム類、チオキサントン類、ベンジルケタール類、アントラキノン類、ジスルフィド化合物類、チウラム化合物類、フルオロアミン化合物類などが挙げられる。より具体的には、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンジルジメチルケトン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、ベンゾフェノン等である。
【0015】
・電離放射線硬化型バインダー
電離放射線硬化型バインダーには、電離放射線(例えば、紫外線)の照射を受けた時に重合開始剤の作用を受けて重合や二量化等の大分子化の反応を進行させる重合性官能基を有するモノマー、オリゴマー、およびポリマーといったバインダー成分を用いることができる。
【0016】
具体的には、アクリル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和結合を有するラジカル重合性のモノマー、オリゴマーが好ましい。特に、バインダー成分としては、その分子間で架橋結合が生じるように、一分子内に重合性官能基を2個以上、好ましくは3個以上有する多官能性を有するものが好ましい。
なお、上記以外のその他の電離放射線硬化性のバインダー成分を用いることも可能である。また、分子中に水酸基を有するバインダー成分を用いてもよい。バインダー成分中の水酸基は、水素結合によりハードコート層等の隣接層に対する密着性を向上させることが可能となる。
【0017】
電離放射線硬化型バインダー用のモノマー類としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート等のジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート誘導体やジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート;上記したモノマーのEO(エチレンオキサイド)変性品;等を例示することができる。なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」なる記載は、メタアクリレートおよびアクリレートの両者を含むものとする。
また、これらに加え、エポキシアクリレート樹脂(共栄社化学製「エポキシエステル」や昭和高分子製「エポキシ」等)や各種イソシアナートと水酸基を有するモノマーとがウレタン結合を介して重付加によって得られるウレタンアクリレート樹脂(日本合成化学工業製「紫光」や共栄社化学製「ウレタンアクリレート」)といった数平均分子量(GPC法で測定したポリスチレン換算数平均分子量)が2万以下のオリゴマー類も好ましく使用できる。
上記モノマー類やオリゴマー類は屈折率制御層の架橋密度を高める効果が高いほか、数平均分子量が2万以下と小さいので流動性が高く、塗布適性を向上させる効果もある。
【0018】
必要に応じて、主鎖や側鎖に(メタ)アクリレート基を有する数平均分子量が2万以上の反応性ポリマー、およびパーフルオロポリエーテル等のフッ素成分を主鎖または側鎖に含む(メタ)アクリレート基を有する反応性ポリマーなども好ましく使用することができる。
これらの反応性ポリマーは、例えば東亞合成製の「マクロモノマー」等の市販品として入手することが可能であるが、メタクリル酸メチルとグリシジルメタクリレートとをあらかじめ重合しておき、後から共重合体のグリシジル基とメタクリル酸やアクリル酸のカルボキシル基を縮合させることで、(メタ)アクリレート基を有する反応性ポリマーを得ることができる。
これら分子量が大きい成分を含むことで、複雑な形状に対する成膜性を向上させることができる。また、硬化時に体積収縮が生じても、反射防止フィルムのカールや反りの発生を抑制することが可能となる。
【0019】
・屈折率制御用微粒子
屈折率制御用微粒子は、上記の電離放射線硬化型バインダー中に含有させて、屈折率を所望の範囲とする。
例えば、屈折率制御層を単層で構成する場合は、屈折率が1.5以下(好ましくは1.47以下)の屈折率制御用微粒子を含有させる。このような屈折率制御用微粒子としては、MgF2やSiO2からなる微粒子を使用することができる。屈折率を低く制御する観点からは、SiO2からなる中空微粒子を利用することが好ましい。当該微粒子は屈折率層の強度を保持しつつ、その屈折率を下げることを可能とする。SiO2からなる中空微粒子については、市販品や特開2001−233611号公報に記載の中空微粒子を使用することができる。
【0020】
また、屈折率制御層を中屈折率層(例えば、屈折率:1.5〜1.8)、高屈折率層(例えば、屈折率:1.8以上)、低屈折率層(例えば、屈折率:1.5以下)といった多層構成とする場合は、各層に含有される屈折率制御用微粒子をその屈折率に応じて選択したり、その量を調整したりすればよい。なお、屈折率は、低屈折率層、中屈折率層、高屈折率層の順に高くなるようにすることが好ましい。
中屈折率層、高屈折率層に含有される屈折率制御用微粒子としては、ZnO(屈折率1.90)、TiO2(屈折率2.3〜2.7)、CeO2(屈折率1.95)、Sb25(屈折率1.71)、SnO2(屈折率2.0)、アンチモンドープ酸化スズ(屈折率1.95〜2.05)、ITO(屈折率1.95)、Y23(屈折率1.87)、La23(屈折率1.95)、ZrO2(屈折率2.05)、Al23(屈折率1.63)等が挙げられる。
【0021】
屈折率制御用微粒子の平均粒子径は、5〜300nmであることが好ましく、8〜100nmであることがより好ましい。平均粒子径がこの範囲内にあることにより、屈折率層の強度を保持しつつ、優れた透明性を付与することができる。また、屈折率制御用微粒子の各層への含有量は、30〜70質量%であることが好ましい。
【0022】
なお、屈折率を制御する他の手段として、屈折率制御層に屈折率制御用樹脂を使用してもよい。当該樹脂としては、フッ素原子の導入されたポリマーで二重結合を有するもの(屈折率が1.47以下)を使用することが好ましい。なかでも、溶剤が使用できる樹脂としてその取扱いが容易であることから、ポリフッ化ビニリデン(屈折率1.40)が好ましい。当該ポリフッ化ビニリデンを用いた場合には、低屈折率層の屈折率はほぼ1.40程度となるが、さらに低屈折率層の屈折率を低くするためにはトリフルオロエチルアクリレート(屈折率1.32)のような低屈折率アクリレートを添加してもよい。
【0023】
また、屈折率を高く制御するには、屈折率の高い成分(原子または分子)を多く導入した樹脂を用いればよい。当該成分として、芳香族環、F以外のハロゲン原子、S、N、Pの原子等が挙げられる。
【0024】
屈折率制御層は、上記各材料を有機溶剤に加えて塗布液とし、これを透明基材上に塗布し、電離放射線を照射して形成される。
塗布方法としては、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、ダイコート法、バーコート法、ロールコーター法、メニスカスコーター法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ピードコーター法等が挙げられる。
【0025】
上記有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ハロゲン化炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;あるいはこれらの混合物;を用いることができる。
これらの中でも、ケトン類の有機溶剤を用いるのが好ましい。ケトン類の有機溶剤を用いて調製した塗布液を使用すると、容易かつ均一に透明基材表面に塗布することができる。また、塗布後の有機溶剤の蒸発速度が適度なので乾燥むらが生じにくく、均一な厚さの大面積塗膜を容易に得ることができる。
【0026】
また、有機溶剤の量は、各材料を均一に溶解分散することができ、保存時に凝集せず、かつ、塗布時に薄すぎない濃度となるように適宜調整する。適切な範囲内で有機溶剤の使用量を少なくし高濃度の塗布液を調製し、容量をとらない状態で保存し、使用時に必要分を取り出して塗布に適した濃度に希釈することが好ましい。
【0027】
固形分と有機溶剤の合計量を100重量部とした場合、固形分(硬化後にフィルムとして残るもの)は0.5〜50重量部とし、有機溶剤は50〜95.5重量部とすることが好ましく、固形分3〜30重量部とし、有機溶剤を70〜97重量部とすることがより好ましい。上位範囲内とすることで、特に分散安定性に優れ、長期保存に適した低屈折率層形成用の塗布液が得られる。
【0028】
また、電離放射線としては、例えば、紫外線を使用することが好ましい。多層構成の場合は、各層を形成した段階で表面だけが硬化する程度に紫外線を照射し、最後に完全に硬化するように紫外線を照射させることが好ましい。このような硬化方法を採用することで、各層の界面の密着性を向上させることができる。
【0029】
(透明基材)
透明基材の材質は、特に限定されず、一般的な材料を用いることができる。なかでも、平滑性、耐熱性を備え、機械的強度に優れたものが好ましい。例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート等)、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリエーテルサルホン、アクリル系樹脂(ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート等)、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリアミド、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、(メタ)アクリロニトリル等の各種樹脂からなるフィルム等を例示することができる。
特に、トリアセチルセルロースフィルム、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)を用いることが好ましい。
【0030】
その他に、脂環構造を有した非晶質オレフィンポリマー(Cyclo−Olefin−Polymer:COP)フィルムも使用することができる。これは、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素系重合体樹脂等が用いられる基材である。
具体的には、日本ゼオン(株)製のゼオネックスやゼオノア(ノルボルネン系樹脂)、住友ベークライト(株)製 スミライトFS−1700、JSR(株)製 アートン(変性ノルボルネン系樹脂)、三井化学(株)製 アペル(環状オレフィン共重合体)、Ticona社製の Topas(環状オレフィン共重合体)、日立化成(株)製 オプトレッツOZ−1000シリーズ(脂環式アクリル樹脂)等が挙げられる。また、トリアセチルセルロースの代替基材として、旭化成ケミカルズ(株)製のFVシリーズ(低複屈折率、低光弾性率フィルム)も好ましい。
【0031】
本発明にあっては、これらの熱可塑性樹脂を薄膜の柔軟性に富んだフィルム状体として使用することが好ましいが、硬化性が要求される場合には、これら熱可塑性樹脂の板またはガラス板のような板状体も使用することが可能である。
透明基材の厚さは、25μm〜1000μm程度であることが好ましく、20μm〜300μmであることがより好ましく、30μm〜200μmであることがさらに好ましい。なお、透明基材が板状体の場合にはこれらの厚さを超えてもよい。
【0032】
特に、透明基材としてトリアセチルセルロースフィルムを用いた場合、厚さは25μm〜100μm程度であることが好ましく、30μm〜90μmであることがより好ましく、35μm〜80μmであることがさらに好ましい。25μm〜100μm程度であることで、製膜時のハンドングが良好となる。
透明基材にはハードコート層の形成に際し、接着性向上のために、コロナ放電処理、酸化処理等の物理的な処理のほか、アンカー剤もしくはプライマーと呼ばれる塗料の塗布を予め行ってもよい。
【0033】
(ハードコート層)
ハードコート層とは、JIS5600−5−4(1999)で規定される鉛筆硬度試験で「H」以上の硬度を示す層をいう。ハードコート層の膜厚(硬化時)は0.1〜100μmであることが好ましく、0.8〜20μmであることがより好ましい。ハードコート層は樹脂と任意成分とにより形成されてなる。
ハードコート層を形成するには、屈折率制御層と同様の塗布方法を適用することができる。また、塗布後は、その表面がべとつかない程度にだけ紫外線を照射し、既述のように、屈折率制御層を半硬化の状態で形成した後、最後にこれらを完全に硬化するように紫外線を照射することが好ましい。
【0034】
ハードコート層用の樹脂としては、透明性のものが好ましく、その具体例としては、紫外線または電子線により硬化する電離放射線硬化型樹脂;電離放射線硬化型樹脂と溶剤乾燥型樹脂との混合物;熱硬化型樹脂;の三種類が挙げられる。なかでも、電離放射線硬化型樹脂が好ましい。
【0035】
電離放射線硬化型樹脂の具体例としては、アクリレート系の官能基を有するもの、例えば比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アクルリレート等のオリゴマー又はプレポリマー、反応性希釈剤が挙げられる。
これらの具体例としては、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドン等の単官能モノマー並びに多官能モノマー、例えば、ポリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸変性ジ(又はトリ)アクリレート等が挙げられる。
【0036】
多官能オリゴマー、多官能ポリマーも好ましく使用できる。例えばウレタンアクリレート、ウレタンメタクリレートが挙げられる。
【0037】
電離放射線硬化型樹脂を紫外線硬化型樹脂として使用する場合には、光重合開始剤を用いることが好ましい。光重合開始剤の具体例としては、α−アミノアセトフェノン類、α−ヒドロキシアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、アシルホスフィンオキサイド類、O−アシルオキシム類、チオキサントン類が挙げられる。また、光増感剤を混合して用いることが好ましく、その具体例としては、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、ポリ−n−ブチルホソフィン等が挙げられる。
【0038】
電離放射線硬化型樹脂に混合して使用される溶剤乾燥型樹脂としては、主として熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂は一般的に例示されるものが利用される。溶剤乾燥型樹脂の添加により、塗布面の塗膜欠陥を有効に防止することができる。
【0039】
透明基材の材料がTAC等のセルロース系樹脂の場合、熱可塑性樹脂の好ましい具体例として、セルロース系樹脂、例えばニトロセルロース、アセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、エチルヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。
【0040】
熱硬化性樹脂の具体例としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラニン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、ポリシロキサン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂を用いる場合、必要に応じて、架橋剤、重合開始剤等の硬化剤、重合促進剤、溶剤、粘度調整剤等をさらに添加して使用することができる。
【0041】
(反射防止フィルムの構成例)
本発明の反射防止フィルムは、屈折率を低くして反射防止効果を上げるため、図1および図2に示すように、屈折率制御層を2層以上の構成とすることができる。
図1に示す反射防止フィルムは、透明基材1上にハードコート層2と屈折率制御層3とが形成されており、屈折率制御層3が上から低屈折率層3A、高屈折率層3B、および中屈折率層3Cの3層で構成されている。また、図2に示す反射防止フィルムは、透明基材1上にハードコート層2と屈折率制御層3とが形成されており、屈折率制御層3は、上層が低屈折率層で下層が低屈折率層より屈折率が高い層で構成されている。
【0042】
上記のような構成とした場合、少なくとも低屈折率層は、本発明に係る重合開始剤を含むことが好ましい。低屈折率層は透明基材とは反対で透明基材から最も遠い位置にあり、この層に本発明に係る重合開始剤を含有させることで、その効果をより有効に利用することができる。
なお、上記屈折率層だけでなく、その他の屈折率層にも本発明に係る重合開始剤を含有させてもよい。
【0043】
その他の構成として、例えば、防汚性を付与するために、透明基材から最も遠い屈折率制御層にシリコーンまたはフッ素系の添加剤などを含有させてもよい。また、透明基材から最も遠い屈折率制御層上に、シリコーンまたはフッ素系の添加剤を含有する防汚層を設けてもよい。
【0044】
本発明の反射防止フィルムは、ワープロ、コンピュータ、テレビ、プラズマディスプレイパネル等の各種のディスプレイ表面、液晶表示装置に用いる偏光板の表面、各種レンズや計測器カバーの表面等に反射防止フィルムとして設けて使用することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を下記実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
(1)高屈折率層形成用組成物の作製
・チタニア分散液の作製
一次粒径が0.01〜0.03μmのルチル型酸化チタン(石原産業社製:TTO51(C))10質量部、アニオン性基含有分散剤(ビックケミー・ジャパン社製:ディスパービック163)2質量部、メチルイソブチルケトン48質量部をマヨネーズ瓶に入れて混合し混合物を作製した。作製した混合物に対し、その約4倍量のジルコニアビーズ(φ0.3mm)を用いてペイントシェーカーで10時間の攪拌を行い、チタニア分散液を作製した。
【0047】
・高屈折率層形成用組成物の作製
チタニア分散液6.00質量部、PETA(ペンタエリスリトールトリアクリレート)1.50質量部、重合開始剤0.03質量部、メチルイソブチルケトン50.00質量部を混合して、高屈折率層形成用組成物を作製した。
【0048】
(2)中屈折率層形成用分散液の作製
・ATO(アンチモンドープ酸化スズ)分散液の作製
ルチル型酸化チタンをATO(石原産業製:SN−100P)とし、ディスパービック163をディスパービック111(ビックケミー・ジャパン社製)とした以外は、チタニア分散液の作製と同様にしてATO分散液を作製した。
【0049】
・中屈折率層形成用分散液の作製
ATO分散液6.00質量部、PETA1.50質量部、重合開始剤0.03質量部、メチルイソブチルケトン50.00質量部を混合して、中屈折率層形成用組成物を作製した。
【0050】
(3)低屈折率層形成用分散液の作製
・中空シリカ微粒子分散液の作製
平均粒径60nmの中空シリカ微粒子をメチルイソブチルケトン中に分散させて固形分(中空シリカ含有量)20質量%の中空シリカ微粒子分散液を作製した。
【0051】
・低屈折率層形成用分散液の作製
中空シリカ分散液12.00質量部、PETA1.50質量部、重合開始剤0.06質量部、メチルイソブチルケトン80.00質量部を混合して、低屈折率層形成用組成物を作製した。
【0052】
(4)ハードコート層形成用組成物の作製
下記成分を配合してハードコート層形成用コーティング組成物を調製した。
・PETA 30.0質量部
・イルガキュア907(2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン チバスペシャリティケミカルズ社製) 1.5質量部
・メチルイソブチルケトン 73.5質量部
【0053】
(5)積層コートフィルムの作製
厚さ80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム上に、ハードコート層形成用組成物をバーコーティングし、乾燥して溶剤を除去した。その後、紫外線照射装置を用いて照射線量約20mJ/cm2で紫外線を照射して塗膜を硬化させて、厚さ10μmのハードコート層が形成された積層コートフィルムを作製した。
【0054】
(実施例1)
積層コートフィルム上に、重合開始剤がイルガキュア127である低屈折率層形成用分散液をバーコーティングし、乾燥させることにより溶剤を除去した。その後、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン(株) 光源Hバルブ)を用いて、照射線量200mJ/cm2で紫外線照射を行い、塗膜を硬化させて、約100nmの低屈折率層を形成し、反射防止フィルムを作製した。
【0055】
(比較例1)
重合開始剤としてイルガキュア127の代わりに、イルガキュア369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1 チバスペシャリティケミカルズ社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、約100nmの低屈折率層を積層コートフィルム上に形成し反射防止フィルムを作製した。
【0056】
(比較例2)
重合開始剤としてイルガキュア127の代わりに、イルガキュア907を用いた以外は実施例1と同様にして、約100nmの低屈折率層を積層コートフィルム上に形成し反射防止フィルムを作製した。
【0057】
(実施例2)
積層コートフィルム上に、重合開始剤がイルガキュア127である中屈折率層形成用分散液をバーコーティングし、乾燥させることにより溶剤を除去した。その後、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン(株) 光源Hバルブ)を用いて、照射線量100mJ/cm2で紫外線照射を行い、塗膜を硬化させて厚さ80nmの中屈折率層を形成した。
【0058】
中屈折率層上に重合開始剤がイルガキュア127である高屈折率層形成用分散液をバーコーティングし、乾燥させることにより溶剤を除去した。その後、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン(株) 光源Hバルブ)を用いて、照射線量100mJ/cm2で紫外線照射を行い、塗膜を硬化させて膜厚60nmの高屈折率層を形成した。
【0059】
重合開始剤がイルガキュア127である低屈折率層形成用分散液を用い、実施例1と同様の条件で高屈折率層上に低屈折率層(厚さ:約100nm)を形成して反射防止フィルムを作製した。
【0060】
(比較例3)
重合開始剤としてイルガキュア127の代わりに、イルガキュア369を用いた以外は実施例2と同様にして、積層コートフィルム上に中屈折率層、高屈折率層および低屈折率層を形成して反射防止フィルムを作製した。
【0061】
(物性評価)
実施例1,2および比較例1〜3で作製した反射防止フィルムについて、下記物性評価を行った。すなわち、それぞれの反射防止フィルムに対し、#0000のスチールウールを用いた耐擦傷性評価試験を行った。具体的には、荷重300gで10往復した後の傷の有無を目視により確認した。評価結果を下記第1表に示す。
なお、評価基準は下記の通りとした。
◎:全く傷が認められないもの
○:細かい傷(5本以下)が認められるもの
△:傷は著しくつく(10本以上)が、剥離は認められないもの
△〜×:傷は著しくつく(20本以上)が、剥離は認められないもの

【0062】
【表1】

【0063】
第1表より、イルガキュア127を屈折率制御層に含む実施例1および2の反射防止フィルムは、優れた耐擦傷性を有することがわかる。
【0064】
(実施例3〜6)
重合開始剤がイルガキュア127である低屈折率層形成用分散液中のイルガキュア127とPETAとの質量比を下記第2表のように変更した以外は、実施例1と同様にして、反射防止フィルムを作製した。作製した反射防止フィルムについて、既述の物性評価を行った。結果を下記第2表に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
第2表より、イルガキュア127の含有量が0.5〜10質量部で耐擦傷性が特に高いことがわかる。
【0067】
実施例1〜6の反射防止フィルムについて、可視光領域での反射率を調べたところ、当該反射率は実用上問題ない低いものであり、良好な反射防止効果を有していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の反射防止フィルムの層構成の一態様を示す断面図である。
【図2】本発明の反射防止フィルムの層構成の他の態様を示す断面図である。
【符号の説明】
【0069】
1・・・透明基材
2・・・ハードコート層
3・・・屈折率制御層
3A・・・低屈折率層
3B・・・高屈折率層
3C・・・中屈折率層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に屈折率制御層を有し、
前記屈折率制御層が電離放射線硬化型バインダーを含み、該電離放射線硬化型バインダーに、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オンを配合してなることを特徴とする反射防止フィルム。
【請求項2】
前記屈折率制御層が2層以上からなり、
少なくとも、前記透明基材から最も遠い屈折率制御層が、前記電離放射線硬化型バインダーに、前記2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オンを配合してなることを特徴とする請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
前記透明基材から最も遠い屈折率制御層の厚みが50〜120nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
少なくとも、前記透明基材から最も遠い屈折率制御層が、屈折率制御用微粒子を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記透明基材から最も遠い屈折率制御層における前記2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オンの配合量が、前記電離放射線硬化型バインダー100質量部に対し、0.5〜10質量部であることを特徴とする請求項4に記載の反射防止フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−250266(P2008−250266A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95174(P2007−95174)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】