反射防止膜、及びこれを有する光学部材
【課題】十分な耐久性を有し、400〜700 nmの波長域で製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.2%程度の反射防止特性を有し、分光反射特性の製造安定性に優れた反射防止膜を提供する。
【解決手段】屈折率1.42〜2.12の基板面上に第1層〜第8層の膜を順に積層してなる反射防止膜であって、前記第1層の屈折率が1.60〜2.20、前記第2層の屈折率が2.10〜2.30、前記第3層の屈折率が1.80〜2.20、前記第4層の屈折率が1.42〜1.52、前記第5層の屈折率が1.45〜1.65、前記第6層の屈折率が2.10〜2.30、前記第7層の屈折率が2.10〜2.30、及び前記第8層の屈折率が1.37〜1.42であり、各層の光学膜厚がそれぞれ独立に100〜150 nmであることを特徴とする反射防止膜。
【解決手段】屈折率1.42〜2.12の基板面上に第1層〜第8層の膜を順に積層してなる反射防止膜であって、前記第1層の屈折率が1.60〜2.20、前記第2層の屈折率が2.10〜2.30、前記第3層の屈折率が1.80〜2.20、前記第4層の屈折率が1.42〜1.52、前記第5層の屈折率が1.45〜1.65、前記第6層の屈折率が2.10〜2.30、前記第7層の屈折率が2.10〜2.30、及び前記第8層の屈折率が1.37〜1.42であり、各層の光学膜厚がそれぞれ独立に100〜150 nmであることを特徴とする反射防止膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反射防止膜、及びこれを有する光学部材に関し、詳しくは耐久性に優れ製造ごとの反射防止性能の変動が小さな反射防止膜、及びこの反射防止膜を有する光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
写真用カメラや放送用カメラ等に広く用いられている高性能な単焦点レンズやズームレンズは、多数枚(10〜40枚)からなるレンズ構成を有している。これらレンズの表面には、基板の屈折率と異なる大小の屈折率を有する誘電体膜を組み合わせ、各誘電体膜の光学膜厚を中心波長λに対して1/2λや1/4λに設定し、干渉効果を利用した多層膜による反射防止処理が施されている。
【0003】
例えば、光学ガラスBSC7(nd=1.516)基板に、基板側から順に物理膜厚34 nmのZrO2(nd=2.05)層、物理膜厚27 nmのMgF2(nd=1.38)層、物理膜厚43 nmのZrO2(nd=2.05)層、及び物理膜厚103 nmのMgF2(nd=1.38)層を形成した4層構成の反射防止膜は、図16に示すような反射防止特性を有し、波長400〜700 nmの中心波長付近での最大反射率は0.6%近くに達する。
【0004】
このような反射率が0.6%程度の反射防止膜を20枚のレンズからなるレンズ群に施した場合、レンズの面数は40面であるからその透過率は79%となり、21%分の反射損失が生じてしまう。しかも、その反射光が多重反射を繰り返すことによりフレア、ゴースト等が発生し、光学特性が著しく劣化し撮影画像に大きな弊害を引起す。このため、可視光(400〜700 nm)の波長域で最大反射率0.2%程度を達成すべく検討が進められてきた。
【0005】
特開2001-100002号(特許文献1)は、表面から順にMgF2層、ZrO2/TiO2層、Al2O3層、SiO2層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、ZrO2/TiO2層及びAl2O3層からなる10層構造を有し、可視域の波長帯域(270 nm)において最大反射率が設計値0.1%以下の反射防止膜を開示しており、製造誤差を加味しても0.2%以下の反射率特性が確保できると記載している。しかしながら、特開2001-100002号に記載の反射防止膜は、400〜700 nmの可視波長域での最大反射率が0.2%を越えてしまうことがある上に、光学膜厚が非常に薄い層(例えば、実施例1の第3層及び第6層、実施例2の第2層、第3層及び第6層等)を有しているため、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、製品ごとの反射防止特性の変動が大きいという問題がある。
【0006】
特開2002-107506号(特許文献2)は、表面から順にMgF2層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、Al2O3層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、ZrO2/TiO2層及びAl2O3層からなる10層構造を有し、実施例2においては可視域の波長帯域(300 nm)において最大反射率が設計値0.1%以下の反射防止膜を開示しており、製造誤差を加味しても0.2%以下の反射率特性が確保できると記載している。しかしながら、特開2002-107506号に記載の反射防止膜も、光学膜厚が非常に薄い層(例えば、実施例1の第1層、第2層及び第4層等)を有しており、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、反射特性が大きな影響を受けるため、製品ごとの反射防止特性の変動が大きくいという問題があり、実際には400〜700 nmの波長域での最大反射率が0.2%を越えないように膜厚精度を保つのは容易なことではない。
【0007】
特開2007-213021号(特許文献3)は、光学基板上に設けられた10層からなる多層膜であって、第1層、第4層及び第9層が1.35〜1.50の屈折率を有する低屈折率材料により構成され、第3層、第5層、第7層及び第10層が1.55〜1.85の屈折率を有する中間屈折率材料により構成され、第2層、第6層及び第8層が1.70〜2.50の高屈折率材料により構成された反射防止膜を開示しており、波長400〜700 nmで最大反射率が0.05〜0.15%程度の反射防止特性が得られると記載している。しかしながら、特開2007-213021号に記載の反射防止膜は、光学膜厚が非常に薄い層(例えば、実施例1-1の第7層等)を有しており、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、反射特性が大きな影響を受けるため、製品ごとの反射防止特性の変動が大きくなるという問題があり、製造誤差を加味すると400〜700 nmの波長域での最大反射率が0.2%を越えてしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-100002号公報
【特許文献2】特開2002-107506号公報
【特許文献3】特開2007-213021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、十分な耐久性を有し、400〜700 nmの波長域で製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.2%程度の反射防止特性を有し、分光反射特性の製造安定性に優れた反射防止膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、基板上に、精度良く膜厚を制御できる厚さである100〜150 nmの光学膜厚の層を8層積層して反射防止膜を構成することにより、製造での膜厚変動が反射防止特性へ与える影響がきわめて小さくなり、400〜700 nmの波長域で製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.2%程度の反射防止特性を有する反射防止膜が得られることを見出し、本発明に想到した。
【0011】
即ち、本発明の反射防止膜は、屈折率1.42〜2.12の基板面上に第1層〜第8層の膜を順に積層してなる反射防止膜であって、前記第1層の屈折率が1.60〜2.20、前記第2層の屈折率が2.10〜2.30、前記第3層の屈折率が1.80〜2.20、前記第4層の屈折率が1.42〜1.52、前記第5層の屈折率が1.45〜1.65、前記第6層の屈折率が2.10〜2.30、前記第7層の屈折率が2.10〜2.30、及び前記第8層の屈折率が1.37〜1.42であり、各層の光学膜厚がそれぞれ独立に100〜150 nmであることを特徴とする。
【0012】
前記第1層〜第7層までの各層はそれぞれTiO2、Nb2O5、Ta2O5、CeO2、ZrO2、HfO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3、Sb2O3、Al2O3及びSiO2からなる群から選ばれた少なくとも1種からなる膜であり、前記第第8層がMgF2からなる膜であるのが好ましい。
【0013】
前記第1層〜7層までの各層がそれぞれTiO2、Nb2O5、Ta2O5、CeO2、ZrO2、HfO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3及びSb2O3からなる群から選ばれた1種の高屈折率材料からなる膜、Al2O3又はSiO2の中屈折率材料からなる膜、又は前記高屈折率材料と前記中屈折率材料との混合膜であるのが好ましい。
【0014】
400〜700 nmの波長域において反射率0.2%以下の分光反射特性を有するのが好ましい。
【0015】
前記第1層〜第8層の光学膜厚は実質的に同じであるのが好ましい。
【0016】
本発明の光学部材は、前記反射防止膜を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の反射防止膜は、各層を所定の屈折率に設定することにより、各層を100〜150 nmの範囲の光学膜厚で設計することが可能であるため、特別に薄い層がなく、製造時の成膜精度を高めなくても安定した分光反射特性が得られる。このため、テレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、車載カメラ、顕微鏡、望遠鏡等に使用される光学素子の反射防止膜としてきわめて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】基板の表面に形成された本発明の反射防止膜の一例を示す断面図である。
【図2】実施例1の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図3】実施例2の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図4】実施例3の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図5】実施例4の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図6】実施例5の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図7】実施例6の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図8】実施例7の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図9】実施例8の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図10】実施例9の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図11】実施例9の反射防止膜の分光反射率の製造変動を示すグラフである。
【図12】比較例1の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図13】比較例1の反射防止膜の分光反射率の製造変動を示すグラフである。
【図14】実施例10の反射防止膜の分光反射率の設計値を示すグラフである。
【図15】実施例10の反射防止膜の分光反射率の製造変動を示すグラフである。
【図16】従来の4層構成の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[1]反射防止膜
本発明の反射防止膜1は、図1に示すように、屈折率1.42〜2.12の基板2上に、前記基板2側から順に第1層〜第8層の膜を順に積層してなり、前記第1層の屈折率が1.60〜2.20、前記第2層の屈折率が2.10〜2.30、前記第3層の屈折率が1.80〜2.20、前記第4層の屈折率が1.42〜1.52、前記第5層の屈折率が1.45〜1.65、前記第6層の屈折率が2.10〜2.30、前記第7層の屈折率が2.10〜2.30、及び前記第8層の屈折率が1.37〜1.42であり、各層の光学膜厚がそれぞれ独立に100〜150 nmである。なお、本願において屈折率は、特に断りのない限り550 nmの波長における値である。
【0020】
前記第1層〜第7層までの各層はそれぞれTiO2、Nb2O5、Ta2O5、CeO2、ZrO2、HfO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3、Sb2O3、Al2O3及びSiO2からなる群から選ばれた少なくとも1種からなる膜であるのが好ましい。これらの材料を単独で使用するか、2種以上を混合して使用することにより、1.42〜2.30の範囲で屈折率を調節した膜を形成することが可能である。特にTiO2、Nb2O5、Ta2O5、CeO2、ZrO2、HfO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3及びSb2O3からなる群から選ばれた1種の高屈折率材料、並びにAl2O3又はSiO2の中屈折率材料をそれぞれ単独、又は混合して使用するのが好ましい。
【0021】
前記第8層は低屈折率層であり、MgF2からなる膜であるのが好ましい。
【0022】
前記第1層の屈折率は1.605〜2.195、前記第2層の屈折率は2.105〜2.295、前記第3層の屈折率は1.805〜2.195、前記第4層の屈折率は1.425〜1.515、前記第5層の屈折率は1.455〜1.645、前記第6層の屈折率は2.105〜2.295、前記第7層の屈折率は2.105〜2.295、及び前記第8層の屈折率は1.375〜1.415であるのが好ましい。
【0023】
各層の光学膜厚をそれぞれ独立に100〜150 nmとすることにより、膜形成時に膜厚を精度良く制御することが可能である。その結果、製造時の光学膜厚の変動が少なくなり、反射防止性能の変動の少ない反射防止膜を得ることができる。各層の光学膜厚はそれぞれ独立に105〜145 nmであるのが好ましい。
【0024】
基板2は、屈折率が1.42〜2.12であり、好ましくは1.44〜2.10である。屈折率がこのような値の基板2を用いて前記反射防止膜1を形成することにより、波長領域400〜700 nmにおいて優れた反射防止性能を得ることができる。
【0025】
基板2の形状は特に限定されず、板、レンズ、プリズム等の光学部材の基板となるような形状であれば良い。基板2は石英ガラス、蛍石、光学ガラス(BaSF2、SF5、SK16、LaSF01、LaSF09、LaSF016、BK7、FK5、PK1、LaF2、LaF3、LaSK01、LAK7、LAK14等)、光学結晶(フッ化リチウム、フッ化バリウム、フッ化マグネシウム、LBO、CLBO、BBO、KTP、KDP、DKDP、ADP等)、セラミックス(ルミセラ(登録商標)等)等からなるのが好ましい。
【0026】
[2]製造方法
第1層〜第7層は反応性スパッタリング法、イオンビームアシスト蒸着法、反応性イオンプレーティング法のいずれかの方法で成膜するのが好ましく、中でも反応性スパッタリング法が最も好ましい。また必要に応じてこれらの方法を組み合わせて用いても良い。これらの方法は膜厚制御性が良い成膜法なので、製造ごとの膜厚の変動が小さくなり、波長400〜700 nmで製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.2%以下の反射防止特性を有する反射防止膜が得られる。また、これらの方法で形成される膜は従来の真空蒸着法に比べて高い硬度を有するので耐久性に優れた反射防止膜が得られる。第8層は真空蒸着法で形成するのが好ましい。
【0027】
第1層〜第7層の各層は、異なる屈折率を有する2種以上の材料を混合することによってそれぞれ所望の屈折率に調節することができる。例えば反応性スパッタリング法により各層を形成する場合、少なくとも2種以上の異種金属からなる各ターゲットをそれぞれに独立にスパッタリングして形成した複合金属からなる超薄膜に、電気的に中性な酸素ガスの活性種を照射し、複合金属と酸素ガスの活性種とを反応させて複合金属の酸化物に変換することによって所望の屈折率を有する混合膜を形成することができる。超薄膜の形成と、超薄膜の複合金属の酸化物への変換とを順次繰り返すことで、混合膜の厚さの調節が可能である。
【0028】
形成される混合膜の屈折率は、前記2種以上の異種金属からなるターゲットをスパッタリングする際に、ターゲットに印加する電力量を変え各金属のスパッタ量を調節することにより設定することができる。例えば、2種の金属をターゲットとして用いる場合、混合膜の屈折率は前記2種の金属酸化物の各屈折率の間の任意の屈折率に調節することが可能である。各ターゲットへの印加電力量と形成される混合膜の屈折率との関係は、予備実験により検量線を作成することで求めておくのが好ましい。
【0029】
[3]光学部材
本発明の反射防止膜を前述の基板に施すことにより、400〜700 nmの可視光帯域において、製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.2%以下の反射防止効果を有する光学部品が得られる。本発明の光学部品は、テレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、車載カメラ、顕微鏡、望遠鏡等の光学機器に搭載されるレンズ、プリズム、回折素子等に好適である。特に本発明の反射防止膜は耐久性に優れているので、カメラの対物レンズや接眼レンズ等の手に触れやすい部分のレンズに好適である。
【実施例】
【0030】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
実施例1
本発明の反射防止膜の例として、屈折率1.42の基板上に各層の光学膜厚が全て125.0 nmとなるように第1層〜第8層まで順に積層してなる反射防止膜を設計し、光学薄膜計算シミュレーションにより400〜700 nmの波長域で反射率が最も小さくなるように各層の屈折率を最適化した。最適化された屈折率を表1に示し、その分光反射率の計算結果を図2に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
実施例2〜8
基板の屈折率を表2〜8に示すように1.52〜2.12の間で変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜8の反射防止膜を設計し、各層の屈折率を最適化した。最適化された屈折率をそれぞれ表2〜8に示し、その分光反射率の計算結果をそれぞれ図3〜9に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
【表5】
【0038】
【表6】
【0039】
【表7】
【0040】
【表8】
【0041】
実施例1〜8の結果から、屈折率1.42〜2.12の基板に8層積層してなる反射防止膜は、各層の光学膜厚を全て一定の厚さ(125.0 nm)に設計した場合であっても、各層の屈折率を最適化することにより、400〜700 nmの波長域で最大反射率が0.1%程度の優れた反射防止効果を発揮することが分かる。
【0042】
実施例9
BSC7(Nd=1.516)ガラス基板に、実施例1と同様にして第1層〜第8層の反射防止膜を表9に示すように設計した。この反射防止膜の分光反射率の計算結果を図10に示す。
【0043】
【表9】
【0044】
表9に示す反射防止膜を、Nb2O5(屈折率2.243)、SiO2(屈折率1.480)及びMgF2(屈折率1.38)によって以下のようにして作製した。
【0045】
第1層、第3層、第5層及び第7層の形成
第1層(屈折率1.765)、第3層(屈折率2.077)、第5層(屈折率1.531)及び第7層(屈折率2.212)は、シンクロン社製RAS-1100Cを用いた反応性スパッタリング法により、屈折率2.243のNb2O5と屈折率1.480のSiO2とからなる混合膜として形成した。金属Nbと金属Siとをターゲットにして、アルゴンガスによるスパッタで1 nm以下の超薄膜を形成した後に、ラジカルガンで発生させた酸素ガスの活性種を照射することにより混合金属を酸化し、Nb2O5とSiO2とからなる混合膜を形成した。このスパッタリングと酸素ガスの活性種の照射とを膜厚が125.0 nmになるまで繰り返した。
【0046】
第1層、第3層、第5層及び第7層の各混合膜の屈折率は、NbターゲットとSiターゲットとにそれぞれ印加する電力を変えることにより調節した。予備実験により、[(Nbターゲットへの印加電力)/(Nbターゲット+Siターゲットへの印加電力)]と屈折率との間にはほぼ直線関係が得られたため、この関係から各ターゲットの印加電力を調整することによって、屈折率を1.48〜2.24の範囲で任意に設定することができた。スパッタリング条件及び酸素ガスの活性種の発生条件は以下の通りであった。
【0047】
(a)Nbスパッタリング条件
投入電力:0〜1.6 kw
基板温度:室温
アルゴン導入量:200 sccm
基板ホルダ回転数:100 rpm
超薄膜の厚さ:1 nm以下
【0048】
(b)Siスパッタリング条件
投入電力:0〜2.5 kw
基板温度:室温
アルゴン導入量:400 sccm
基板ホルダ回転数:100 rpm
超薄膜の厚さ:1 nm以下
【0049】
(c)酸素ガスのラジカル条件
投入電力:2.0 kw
酸素導入量:80 sccm
※ なお成膜は、真空度2.0×10-4Paまで排気してから開始した。
【0050】
第2層、第4層及び第6層の形成
第2層及び第6層のNb2O5からなる厚さ125.0 nmの単独膜は、Nbターゲットのみを用いて反応性スパッタリング法により形成し、第4層のSiO2からなる厚さ125.0 nmの単独膜は、Siターゲットのみを用いて反応性スパッタリング法により形成した。
【0051】
第8層の形成
第8層のMgF2膜は、昭和真空社製SGC-22SAによる電子ビーム蒸着法を用いて形成した。すなわち、蒸発源ルツボにMgF2の顆粒を充填し、第7層まで形成した基板を250℃に加熱し、真空度2.0×10-3Pa、及び成膜速度約40 nm/minにて厚さ125.0 nmに成膜した。
【0052】
この反射防止膜を同じ方法で20回繰り返して作製した。得られた20サンプルの分光反射率の重ね書きを図11に示す。
【0053】
比較例1
特開2002-14203を参考にして、BSC7(nd=1.516)ガラス基板に、表10に示すように各層の光学膜厚を最適化したTiO2及びSiO2からなる14層の反射防止膜を設計した。その分光反射率の計算結果を図12に示す。
【0054】
【表10】
【0055】
表10に示す反射防止膜を、反応性スパッタリング法により20回繰り返して作製した。得られた20サンプルの分光反射率の重ね書きを図13に示す。
【0056】
図11及び図13の比較から明らかなように、本発明の実施例9の反射防止膜(図11)は比較例1(図13)に比べて反射防止性能の製造安定性に優れていることが分かる。
【0057】
実施例10
TAFD30(Nd=1.88)ガラス基板上に、表11に示すように各層の屈折率及び光学膜厚を最適化したNb2O5及びSiO2からなる8層の反射防止膜を設計した。その分光反射率の計算結果を図14に示す。
【0058】
【表11】
【0059】
表11に示す反射防止膜を、実施例1と同様にして反応性スパッタリング法により20回繰り返して作製した。得られた20サンプルの分光反射率の重ね書きを図15に示す。
【0060】
実施例9と同様、実施例10の反射防止膜(図15)は反射防止性能の製造安定性に優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0061】
1・・・反射防止膜
2・・・基板
【技術分野】
【0001】
本発明は反射防止膜、及びこれを有する光学部材に関し、詳しくは耐久性に優れ製造ごとの反射防止性能の変動が小さな反射防止膜、及びこの反射防止膜を有する光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
写真用カメラや放送用カメラ等に広く用いられている高性能な単焦点レンズやズームレンズは、多数枚(10〜40枚)からなるレンズ構成を有している。これらレンズの表面には、基板の屈折率と異なる大小の屈折率を有する誘電体膜を組み合わせ、各誘電体膜の光学膜厚を中心波長λに対して1/2λや1/4λに設定し、干渉効果を利用した多層膜による反射防止処理が施されている。
【0003】
例えば、光学ガラスBSC7(nd=1.516)基板に、基板側から順に物理膜厚34 nmのZrO2(nd=2.05)層、物理膜厚27 nmのMgF2(nd=1.38)層、物理膜厚43 nmのZrO2(nd=2.05)層、及び物理膜厚103 nmのMgF2(nd=1.38)層を形成した4層構成の反射防止膜は、図16に示すような反射防止特性を有し、波長400〜700 nmの中心波長付近での最大反射率は0.6%近くに達する。
【0004】
このような反射率が0.6%程度の反射防止膜を20枚のレンズからなるレンズ群に施した場合、レンズの面数は40面であるからその透過率は79%となり、21%分の反射損失が生じてしまう。しかも、その反射光が多重反射を繰り返すことによりフレア、ゴースト等が発生し、光学特性が著しく劣化し撮影画像に大きな弊害を引起す。このため、可視光(400〜700 nm)の波長域で最大反射率0.2%程度を達成すべく検討が進められてきた。
【0005】
特開2001-100002号(特許文献1)は、表面から順にMgF2層、ZrO2/TiO2層、Al2O3層、SiO2層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、ZrO2/TiO2層及びAl2O3層からなる10層構造を有し、可視域の波長帯域(270 nm)において最大反射率が設計値0.1%以下の反射防止膜を開示しており、製造誤差を加味しても0.2%以下の反射率特性が確保できると記載している。しかしながら、特開2001-100002号に記載の反射防止膜は、400〜700 nmの可視波長域での最大反射率が0.2%を越えてしまうことがある上に、光学膜厚が非常に薄い層(例えば、実施例1の第3層及び第6層、実施例2の第2層、第3層及び第6層等)を有しているため、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、製品ごとの反射防止特性の変動が大きいという問題がある。
【0006】
特開2002-107506号(特許文献2)は、表面から順にMgF2層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、Al2O3層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、ZrO2/TiO2層及びAl2O3層からなる10層構造を有し、実施例2においては可視域の波長帯域(300 nm)において最大反射率が設計値0.1%以下の反射防止膜を開示しており、製造誤差を加味しても0.2%以下の反射率特性が確保できると記載している。しかしながら、特開2002-107506号に記載の反射防止膜も、光学膜厚が非常に薄い層(例えば、実施例1の第1層、第2層及び第4層等)を有しており、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、反射特性が大きな影響を受けるため、製品ごとの反射防止特性の変動が大きくいという問題があり、実際には400〜700 nmの波長域での最大反射率が0.2%を越えないように膜厚精度を保つのは容易なことではない。
【0007】
特開2007-213021号(特許文献3)は、光学基板上に設けられた10層からなる多層膜であって、第1層、第4層及び第9層が1.35〜1.50の屈折率を有する低屈折率材料により構成され、第3層、第5層、第7層及び第10層が1.55〜1.85の屈折率を有する中間屈折率材料により構成され、第2層、第6層及び第8層が1.70〜2.50の高屈折率材料により構成された反射防止膜を開示しており、波長400〜700 nmで最大反射率が0.05〜0.15%程度の反射防止特性が得られると記載している。しかしながら、特開2007-213021号に記載の反射防止膜は、光学膜厚が非常に薄い層(例えば、実施例1-1の第7層等)を有しており、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、反射特性が大きな影響を受けるため、製品ごとの反射防止特性の変動が大きくなるという問題があり、製造誤差を加味すると400〜700 nmの波長域での最大反射率が0.2%を越えてしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-100002号公報
【特許文献2】特開2002-107506号公報
【特許文献3】特開2007-213021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、十分な耐久性を有し、400〜700 nmの波長域で製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.2%程度の反射防止特性を有し、分光反射特性の製造安定性に優れた反射防止膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、基板上に、精度良く膜厚を制御できる厚さである100〜150 nmの光学膜厚の層を8層積層して反射防止膜を構成することにより、製造での膜厚変動が反射防止特性へ与える影響がきわめて小さくなり、400〜700 nmの波長域で製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.2%程度の反射防止特性を有する反射防止膜が得られることを見出し、本発明に想到した。
【0011】
即ち、本発明の反射防止膜は、屈折率1.42〜2.12の基板面上に第1層〜第8層の膜を順に積層してなる反射防止膜であって、前記第1層の屈折率が1.60〜2.20、前記第2層の屈折率が2.10〜2.30、前記第3層の屈折率が1.80〜2.20、前記第4層の屈折率が1.42〜1.52、前記第5層の屈折率が1.45〜1.65、前記第6層の屈折率が2.10〜2.30、前記第7層の屈折率が2.10〜2.30、及び前記第8層の屈折率が1.37〜1.42であり、各層の光学膜厚がそれぞれ独立に100〜150 nmであることを特徴とする。
【0012】
前記第1層〜第7層までの各層はそれぞれTiO2、Nb2O5、Ta2O5、CeO2、ZrO2、HfO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3、Sb2O3、Al2O3及びSiO2からなる群から選ばれた少なくとも1種からなる膜であり、前記第第8層がMgF2からなる膜であるのが好ましい。
【0013】
前記第1層〜7層までの各層がそれぞれTiO2、Nb2O5、Ta2O5、CeO2、ZrO2、HfO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3及びSb2O3からなる群から選ばれた1種の高屈折率材料からなる膜、Al2O3又はSiO2の中屈折率材料からなる膜、又は前記高屈折率材料と前記中屈折率材料との混合膜であるのが好ましい。
【0014】
400〜700 nmの波長域において反射率0.2%以下の分光反射特性を有するのが好ましい。
【0015】
前記第1層〜第8層の光学膜厚は実質的に同じであるのが好ましい。
【0016】
本発明の光学部材は、前記反射防止膜を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の反射防止膜は、各層を所定の屈折率に設定することにより、各層を100〜150 nmの範囲の光学膜厚で設計することが可能であるため、特別に薄い層がなく、製造時の成膜精度を高めなくても安定した分光反射特性が得られる。このため、テレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、車載カメラ、顕微鏡、望遠鏡等に使用される光学素子の反射防止膜としてきわめて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】基板の表面に形成された本発明の反射防止膜の一例を示す断面図である。
【図2】実施例1の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図3】実施例2の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図4】実施例3の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図5】実施例4の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図6】実施例5の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図7】実施例6の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図8】実施例7の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図9】実施例8の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図10】実施例9の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図11】実施例9の反射防止膜の分光反射率の製造変動を示すグラフである。
【図12】比較例1の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図13】比較例1の反射防止膜の分光反射率の製造変動を示すグラフである。
【図14】実施例10の反射防止膜の分光反射率の設計値を示すグラフである。
【図15】実施例10の反射防止膜の分光反射率の製造変動を示すグラフである。
【図16】従来の4層構成の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[1]反射防止膜
本発明の反射防止膜1は、図1に示すように、屈折率1.42〜2.12の基板2上に、前記基板2側から順に第1層〜第8層の膜を順に積層してなり、前記第1層の屈折率が1.60〜2.20、前記第2層の屈折率が2.10〜2.30、前記第3層の屈折率が1.80〜2.20、前記第4層の屈折率が1.42〜1.52、前記第5層の屈折率が1.45〜1.65、前記第6層の屈折率が2.10〜2.30、前記第7層の屈折率が2.10〜2.30、及び前記第8層の屈折率が1.37〜1.42であり、各層の光学膜厚がそれぞれ独立に100〜150 nmである。なお、本願において屈折率は、特に断りのない限り550 nmの波長における値である。
【0020】
前記第1層〜第7層までの各層はそれぞれTiO2、Nb2O5、Ta2O5、CeO2、ZrO2、HfO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3、Sb2O3、Al2O3及びSiO2からなる群から選ばれた少なくとも1種からなる膜であるのが好ましい。これらの材料を単独で使用するか、2種以上を混合して使用することにより、1.42〜2.30の範囲で屈折率を調節した膜を形成することが可能である。特にTiO2、Nb2O5、Ta2O5、CeO2、ZrO2、HfO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3及びSb2O3からなる群から選ばれた1種の高屈折率材料、並びにAl2O3又はSiO2の中屈折率材料をそれぞれ単独、又は混合して使用するのが好ましい。
【0021】
前記第8層は低屈折率層であり、MgF2からなる膜であるのが好ましい。
【0022】
前記第1層の屈折率は1.605〜2.195、前記第2層の屈折率は2.105〜2.295、前記第3層の屈折率は1.805〜2.195、前記第4層の屈折率は1.425〜1.515、前記第5層の屈折率は1.455〜1.645、前記第6層の屈折率は2.105〜2.295、前記第7層の屈折率は2.105〜2.295、及び前記第8層の屈折率は1.375〜1.415であるのが好ましい。
【0023】
各層の光学膜厚をそれぞれ独立に100〜150 nmとすることにより、膜形成時に膜厚を精度良く制御することが可能である。その結果、製造時の光学膜厚の変動が少なくなり、反射防止性能の変動の少ない反射防止膜を得ることができる。各層の光学膜厚はそれぞれ独立に105〜145 nmであるのが好ましい。
【0024】
基板2は、屈折率が1.42〜2.12であり、好ましくは1.44〜2.10である。屈折率がこのような値の基板2を用いて前記反射防止膜1を形成することにより、波長領域400〜700 nmにおいて優れた反射防止性能を得ることができる。
【0025】
基板2の形状は特に限定されず、板、レンズ、プリズム等の光学部材の基板となるような形状であれば良い。基板2は石英ガラス、蛍石、光学ガラス(BaSF2、SF5、SK16、LaSF01、LaSF09、LaSF016、BK7、FK5、PK1、LaF2、LaF3、LaSK01、LAK7、LAK14等)、光学結晶(フッ化リチウム、フッ化バリウム、フッ化マグネシウム、LBO、CLBO、BBO、KTP、KDP、DKDP、ADP等)、セラミックス(ルミセラ(登録商標)等)等からなるのが好ましい。
【0026】
[2]製造方法
第1層〜第7層は反応性スパッタリング法、イオンビームアシスト蒸着法、反応性イオンプレーティング法のいずれかの方法で成膜するのが好ましく、中でも反応性スパッタリング法が最も好ましい。また必要に応じてこれらの方法を組み合わせて用いても良い。これらの方法は膜厚制御性が良い成膜法なので、製造ごとの膜厚の変動が小さくなり、波長400〜700 nmで製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.2%以下の反射防止特性を有する反射防止膜が得られる。また、これらの方法で形成される膜は従来の真空蒸着法に比べて高い硬度を有するので耐久性に優れた反射防止膜が得られる。第8層は真空蒸着法で形成するのが好ましい。
【0027】
第1層〜第7層の各層は、異なる屈折率を有する2種以上の材料を混合することによってそれぞれ所望の屈折率に調節することができる。例えば反応性スパッタリング法により各層を形成する場合、少なくとも2種以上の異種金属からなる各ターゲットをそれぞれに独立にスパッタリングして形成した複合金属からなる超薄膜に、電気的に中性な酸素ガスの活性種を照射し、複合金属と酸素ガスの活性種とを反応させて複合金属の酸化物に変換することによって所望の屈折率を有する混合膜を形成することができる。超薄膜の形成と、超薄膜の複合金属の酸化物への変換とを順次繰り返すことで、混合膜の厚さの調節が可能である。
【0028】
形成される混合膜の屈折率は、前記2種以上の異種金属からなるターゲットをスパッタリングする際に、ターゲットに印加する電力量を変え各金属のスパッタ量を調節することにより設定することができる。例えば、2種の金属をターゲットとして用いる場合、混合膜の屈折率は前記2種の金属酸化物の各屈折率の間の任意の屈折率に調節することが可能である。各ターゲットへの印加電力量と形成される混合膜の屈折率との関係は、予備実験により検量線を作成することで求めておくのが好ましい。
【0029】
[3]光学部材
本発明の反射防止膜を前述の基板に施すことにより、400〜700 nmの可視光帯域において、製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.2%以下の反射防止効果を有する光学部品が得られる。本発明の光学部品は、テレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、車載カメラ、顕微鏡、望遠鏡等の光学機器に搭載されるレンズ、プリズム、回折素子等に好適である。特に本発明の反射防止膜は耐久性に優れているので、カメラの対物レンズや接眼レンズ等の手に触れやすい部分のレンズに好適である。
【実施例】
【0030】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
実施例1
本発明の反射防止膜の例として、屈折率1.42の基板上に各層の光学膜厚が全て125.0 nmとなるように第1層〜第8層まで順に積層してなる反射防止膜を設計し、光学薄膜計算シミュレーションにより400〜700 nmの波長域で反射率が最も小さくなるように各層の屈折率を最適化した。最適化された屈折率を表1に示し、その分光反射率の計算結果を図2に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
実施例2〜8
基板の屈折率を表2〜8に示すように1.52〜2.12の間で変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜8の反射防止膜を設計し、各層の屈折率を最適化した。最適化された屈折率をそれぞれ表2〜8に示し、その分光反射率の計算結果をそれぞれ図3〜9に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
【表5】
【0038】
【表6】
【0039】
【表7】
【0040】
【表8】
【0041】
実施例1〜8の結果から、屈折率1.42〜2.12の基板に8層積層してなる反射防止膜は、各層の光学膜厚を全て一定の厚さ(125.0 nm)に設計した場合であっても、各層の屈折率を最適化することにより、400〜700 nmの波長域で最大反射率が0.1%程度の優れた反射防止効果を発揮することが分かる。
【0042】
実施例9
BSC7(Nd=1.516)ガラス基板に、実施例1と同様にして第1層〜第8層の反射防止膜を表9に示すように設計した。この反射防止膜の分光反射率の計算結果を図10に示す。
【0043】
【表9】
【0044】
表9に示す反射防止膜を、Nb2O5(屈折率2.243)、SiO2(屈折率1.480)及びMgF2(屈折率1.38)によって以下のようにして作製した。
【0045】
第1層、第3層、第5層及び第7層の形成
第1層(屈折率1.765)、第3層(屈折率2.077)、第5層(屈折率1.531)及び第7層(屈折率2.212)は、シンクロン社製RAS-1100Cを用いた反応性スパッタリング法により、屈折率2.243のNb2O5と屈折率1.480のSiO2とからなる混合膜として形成した。金属Nbと金属Siとをターゲットにして、アルゴンガスによるスパッタで1 nm以下の超薄膜を形成した後に、ラジカルガンで発生させた酸素ガスの活性種を照射することにより混合金属を酸化し、Nb2O5とSiO2とからなる混合膜を形成した。このスパッタリングと酸素ガスの活性種の照射とを膜厚が125.0 nmになるまで繰り返した。
【0046】
第1層、第3層、第5層及び第7層の各混合膜の屈折率は、NbターゲットとSiターゲットとにそれぞれ印加する電力を変えることにより調節した。予備実験により、[(Nbターゲットへの印加電力)/(Nbターゲット+Siターゲットへの印加電力)]と屈折率との間にはほぼ直線関係が得られたため、この関係から各ターゲットの印加電力を調整することによって、屈折率を1.48〜2.24の範囲で任意に設定することができた。スパッタリング条件及び酸素ガスの活性種の発生条件は以下の通りであった。
【0047】
(a)Nbスパッタリング条件
投入電力:0〜1.6 kw
基板温度:室温
アルゴン導入量:200 sccm
基板ホルダ回転数:100 rpm
超薄膜の厚さ:1 nm以下
【0048】
(b)Siスパッタリング条件
投入電力:0〜2.5 kw
基板温度:室温
アルゴン導入量:400 sccm
基板ホルダ回転数:100 rpm
超薄膜の厚さ:1 nm以下
【0049】
(c)酸素ガスのラジカル条件
投入電力:2.0 kw
酸素導入量:80 sccm
※ なお成膜は、真空度2.0×10-4Paまで排気してから開始した。
【0050】
第2層、第4層及び第6層の形成
第2層及び第6層のNb2O5からなる厚さ125.0 nmの単独膜は、Nbターゲットのみを用いて反応性スパッタリング法により形成し、第4層のSiO2からなる厚さ125.0 nmの単独膜は、Siターゲットのみを用いて反応性スパッタリング法により形成した。
【0051】
第8層の形成
第8層のMgF2膜は、昭和真空社製SGC-22SAによる電子ビーム蒸着法を用いて形成した。すなわち、蒸発源ルツボにMgF2の顆粒を充填し、第7層まで形成した基板を250℃に加熱し、真空度2.0×10-3Pa、及び成膜速度約40 nm/minにて厚さ125.0 nmに成膜した。
【0052】
この反射防止膜を同じ方法で20回繰り返して作製した。得られた20サンプルの分光反射率の重ね書きを図11に示す。
【0053】
比較例1
特開2002-14203を参考にして、BSC7(nd=1.516)ガラス基板に、表10に示すように各層の光学膜厚を最適化したTiO2及びSiO2からなる14層の反射防止膜を設計した。その分光反射率の計算結果を図12に示す。
【0054】
【表10】
【0055】
表10に示す反射防止膜を、反応性スパッタリング法により20回繰り返して作製した。得られた20サンプルの分光反射率の重ね書きを図13に示す。
【0056】
図11及び図13の比較から明らかなように、本発明の実施例9の反射防止膜(図11)は比較例1(図13)に比べて反射防止性能の製造安定性に優れていることが分かる。
【0057】
実施例10
TAFD30(Nd=1.88)ガラス基板上に、表11に示すように各層の屈折率及び光学膜厚を最適化したNb2O5及びSiO2からなる8層の反射防止膜を設計した。その分光反射率の計算結果を図14に示す。
【0058】
【表11】
【0059】
表11に示す反射防止膜を、実施例1と同様にして反応性スパッタリング法により20回繰り返して作製した。得られた20サンプルの分光反射率の重ね書きを図15に示す。
【0060】
実施例9と同様、実施例10の反射防止膜(図15)は反射防止性能の製造安定性に優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0061】
1・・・反射防止膜
2・・・基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率1.42〜2.12の基板面上に第1層〜第8層の膜を順に積層してなる反射防止膜であって、
前記第1層の屈折率が1.60〜2.20、前記第2層の屈折率が2.10〜2.30、前記第3層の屈折率が1.80〜2.20、前記第4層の屈折率が1.42〜1.52、前記第5層の屈折率が1.45〜1.65、前記第6層の屈折率が2.10〜2.30、前記第7層の屈折率が2.10〜2.30、及び前記第8層の屈折率が1.37〜1.42であり、各層の光学膜厚がそれぞれ独立に100〜150 nmであることを特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
請求項1に記載の反射防止膜であって、前記第1層〜第7層までの各層がそれぞれTiO2、Nb2O5、Ta2O5、CeO2、ZrO2、HfO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3、Sb2O3、Al2O3及びSiO2からなる群から選ばれた少なくとも1種からなる膜であり、前記第8層がMgF2からなる膜であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の反射防止膜であって、前記第1層〜7層までの各層がそれぞれTiO2、Nb2O5、Ta2O5、CeO2、ZrO2、HfO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3及びSb2O3からなる群から選ばれた1種の高屈折率材料からなる膜、Al2O3又はSiO2の中屈折率材料からなる膜、又は前記高屈折率材料と前記中屈折率材料との混合膜であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の反射防止膜であって、400〜700 nmの波長域において反射率0.2%以下の分光反射特性を有することを特徴とする反射防止膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の反射防止膜であって、前記第1層〜第8層の光学膜厚が同じであることを特徴とする反射防止膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の反射防止膜を有する光学部材。
【請求項1】
屈折率1.42〜2.12の基板面上に第1層〜第8層の膜を順に積層してなる反射防止膜であって、
前記第1層の屈折率が1.60〜2.20、前記第2層の屈折率が2.10〜2.30、前記第3層の屈折率が1.80〜2.20、前記第4層の屈折率が1.42〜1.52、前記第5層の屈折率が1.45〜1.65、前記第6層の屈折率が2.10〜2.30、前記第7層の屈折率が2.10〜2.30、及び前記第8層の屈折率が1.37〜1.42であり、各層の光学膜厚がそれぞれ独立に100〜150 nmであることを特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
請求項1に記載の反射防止膜であって、前記第1層〜第7層までの各層がそれぞれTiO2、Nb2O5、Ta2O5、CeO2、ZrO2、HfO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3、Sb2O3、Al2O3及びSiO2からなる群から選ばれた少なくとも1種からなる膜であり、前記第8層がMgF2からなる膜であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の反射防止膜であって、前記第1層〜7層までの各層がそれぞれTiO2、Nb2O5、Ta2O5、CeO2、ZrO2、HfO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3及びSb2O3からなる群から選ばれた1種の高屈折率材料からなる膜、Al2O3又はSiO2の中屈折率材料からなる膜、又は前記高屈折率材料と前記中屈折率材料との混合膜であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の反射防止膜であって、400〜700 nmの波長域において反射率0.2%以下の分光反射特性を有することを特徴とする反射防止膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の反射防止膜であって、前記第1層〜第8層の光学膜厚が同じであることを特徴とする反射防止膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の反射防止膜を有する光学部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−221465(P2011−221465A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93512(P2010−93512)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]