説明

収穫作業車

【課題】走行機体1の左右方向の傾斜を低減できるものでありながら、走行状況又は作業条件等に適応して移動できるようにした収穫作業車を提供するものである。
【解決手段】エンジン20を搭載した走行機体1と、走行機体1を支持する左右の走行クローラ2と、操縦ハンドル11及び運転座席12を有する運転部10と、圃場の作物を収穫する収穫装置3,5と、左右の走行クローラ2の対機体支持高さを変更する左右の傾斜変更機構26とを備え、走行機体1の左右方向の傾斜角を変更するように構成してなる収穫作業車において、走行機体1に前記左右の走行クローラ2を左右方向に移動可能に連結する左右の走行部支持体29,30と、左右の走行クローラ2の轍距を変更する轍距変更機構45とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈取装置によって圃場の未刈り穀稈を刈取り、刈取った穀稈を脱穀装置によって脱穀するコンバイン又はキャベツ等の野菜収穫機等の収穫作業車に係り、より詳しくは、走行機体の左右方向の傾斜角を変更可能に構成した収穫作業車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、収穫作業車としてのコンバインは、エンジンを搭載した走行機体と、前記走行機体を支持する左右の走行部としての走行クローラ等と、操縦ハンドル及び運転座席を有する運転部と、圃場の未刈り穀稈を刈取る刈取装置と、刈取った穀稈を脱穀する脱穀装置とを備え、圃場の未刈り穀稈を連続的に刈取って脱穀し、穀粒を収集するように構成している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この場合、従来のコンバインにおいては、左右の走行部の対機体支持高さを変更する左右の傾斜変更機構を備え、前記走行機体の左右方向の傾斜角を調節するように構成されている。また、前記刈取装置を左右方向に移動して、走行機体に対する刈取装置の相対位置を変更する構成(例えば、特許文献2参照)も公知である。
【特許文献1】特開2004−135588号公報
【特許文献2】実用新案登録第2544422公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来技術は、特許文献1に示されるように、前記走行機体の左右方向の傾斜角を調節して、コンバイン機体を水平に維持した場合、走行路面状況又は走行機体の偏荷重等にて生じる左右の走行部の接地圧差によって、走行機体が左右に傾動する等の心配がなくなるが、接地圧が大きい側の走行部が反対側の走行部よりも沈下量が多くなり、接地圧が大きい側の走行部の走行抵抗と反対側の走行部の走行抵抗との差が大きく、走行性能を向上できない等の問題がある。
【0005】
また、圃場に形成された多条の畝の上面のキャベツ又はにんじん等の野菜を収穫する野菜収穫機等の収穫作業車では、左右の走行部の轍距が畝の間隔(畝間の溝の間隔)と一致しない場合、左右の走行部のいずれか一方が畝の上面を移動し、他方が畝間の溝を移動することになり、左右の走行部の対機体支持高さを大きく変更して、走行機体の左右方向の傾斜角を調節する必要がある。そのため、次工程の畝に移動する圃場の枕地で方向転換する場合等、走行機体が左右いずれか一方から他方に大きく傾動し、オペレータの運転姿勢が不安定になる等の問題がある。
【0006】
さらに、植付け条間が狭い作物列に沿って移動する作業(コンバインの中割作業)、耕土が軟らかい圃場で作物列に沿って移動する作業(湿田等でのコンバインの条刈作業)、圃場の畦際の作物列に沿って移動する作業(コンバインの際刈作業)のいずれも可能な轍距で左右の走行部を配置した場合、前記の各作業形態に応じて、左右の走行部の仕様(走行クローラの左右幅)を変更したり、走行機体に対して収穫装置(刈取装置)の支持位置を変更する必要がある。例えば、横幅が狭い走行クローラによって左右の走行部を構成して、植付け条間が狭い作物列に沿って移動する作業を実行する必要がある。また、横幅が広い走行クローラによって左右の走行部を構成して、耕土が軟らかい圃場で作物列に沿って移動する作業を実行する必要がある。また、特許文献2に示されるように、走行機体に対して収穫装置(刈取装置)の支持位置を左右いずれか一方(畦際側)に大きく変更して、圃場の畦際の作物列に沿って移動する作業を実行する必要がある。
【0007】
本発明の目的は、走行機体の左右方向の傾斜を低減できるものでありながら、走行状況又は作業条件等に適応して移動できるようにした収穫作業車を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、請求項1に係る発明の収穫作業車は、エンジンを搭載した走行機体と、前記走行機体を支持する左右の走行部と、操縦ハンドル及び運転座席を有する運転部と、圃場の作物を収穫する収穫装置と、前記左右の走行部の対機体支持高さを変更する左右の傾斜変更機構とを備え、前記走行機体の左右方向の傾斜角を変更するように構成してなる収穫作業車において、前記走行機体に前記左右の走行部を左右方向に移動可能に連結する左右の走行部支持体と、前記左右の走行部の轍距を変更する轍距変更機構とを備えたものである。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の収穫作業車において、前記左右の走行部の轍距をそれぞれ各別に変更する左右の轍距変更機構を備えたものである。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の収穫作業車において、前記轍距変更機構を作動させる手動操作用の轍距調節用操作具を備えたものである。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の収穫作業車において、前記走行機体の左右方向の傾斜を検出する傾斜センサを備え、前記走行機体が左右方向に傾いたときに、前記走行機体が傾いた側の前記走行部の轍距を自動的に拡大するように構成したものである。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の収穫作業車において、前記走行機体の移動速度を検出する車速センサを備え、前記走行機体が所定の移動速度以上で移動することによって、前記轍距変更機構が作動するように構成したものである。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の収穫作業車において、前記走行部によって支持された前記走行機体の対地高さを検出する車高センサを備え、所定の車高以上のときに前記走行部の轍距を自動的に拡大するように構成したものである。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の収穫作業車において、前記走行機体に積載した作物の重量を検出する積載重量センサを備え、所定の積載重量以上のときに前記走行部の轍距を自動的に拡大するように構成したものである。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項1に記載の収穫作業車において、収穫作業モードを切換える切換具を備え、収穫作業モードを切換える操作と関連して前記轍距変更機構が作動するように構成したものである。
【0016】
請求項9に記載の発明は、請求項1に記載の収穫作業車において、前記走行機体の移動速度を検出する車速センサを備え、前記走行機体の移動速度を高速又は低速に切換える操作と関連して前記轍距変更機構が作動するように構成したものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、エンジンを搭載した走行機体と、前記走行機体を支持する左右の走行部と、操縦ハンドル及び運転座席を有する運転部と、圃場の作物を収穫する収穫装置と、前記左右の走行部の対機体支持高さを変更する左右の傾斜変更機構とを備え、前記走行機体の左右方向の傾斜角を変更するように構成してなる収穫作業車において、前記走行機体に前記左右の走行部を左右方向に移動可能に連結する左右の走行部支持体と、前記左右の走行部の轍距を変更する轍距変更機構とを備えたものであるから、走行機体の左右方向の傾斜又は移動路面の状態又は作業内容等に応じて、前記左右の走行部の轍距を簡単に変更でき、走行状況又は作業条件等に適応して移動でき、運転操縦性又は走行性能を簡単に向上できるものである。
【0018】
請求項2に係る発明によれば、前記左右の走行部の轍距をそれぞれ各別に変更する左右の轍距変更機構を備えたものであるから、走行状況又は作業条件等に応じて、前記左右の走行部の轍距を簡単に変更できるものである。
【0019】
請求項3に係る発明によれば、前記轍距変更機構を作動させる手動操作用の轍距調節用操作具を備えたものであるから、オペレータの判断によって前記左右の走行部の轍距を簡単に変更できるものである。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、前記走行機体の左右方向の傾斜を検出する傾斜センサを備え、前記走行機体が左右方向に傾いたときに、前記走行機体が傾いた側の前記走行部の轍距を自動的に拡大するように構成したものであるから、前記走行機体が傾いた側の前記走行部の沈下量を低減でき、運転操縦性又は走行性能を簡単に向上できるものである。
【0021】
請求項5に係る発明によれば、前記走行機体の移動速度を検出する車速センサを備え、前記走行機体が所定の移動速度以上で移動することによって、前記轍距変更機構が作動するように構成したものであるから、例えば無端履帯構造の走行クローラ等の前記走行部がトラックフレームの支持部から離脱するのを防止しながら、前記走行部の轍距を簡単に変更できるものである。
【0022】
請求項6に係る発明によれば、前記走行部によって支持された前記走行機体の対地高さを検出する車高センサを備え、所定の車高以上のときに前記走行部の轍距を自動的に拡大するように構成したものであるから、前記走行機体の左右方向の傾動を低減でき、運転操縦性又は走行性能を簡単に向上できるものである。
【0023】
請求項7に係る発明によれば、前記走行機体に積載した作物の重量を検出する積載重量センサを備え、所定の積載重量以上のときに前記走行部の轍距を自動的に拡大するように構成したものであるから、前記走行機体の左右方向の傾動を低減でき、運転操縦性又は走行性能を簡単に向上できるものである。
【0024】
請求項8に係る発明によれば、収穫作業モードを切換える切換具を備え、収穫作業モードを切換える操作と関連して前記轍距変更機構が作動するように構成したものであるから、例えば植付け条間が狭い作物列に沿って移動する作業(コンバインの中割作業)、耕土が軟らかい圃場で作物列に沿って移動する作業(湿田等でのコンバインの条刈作業)、圃場の畦際の作物列に沿って移動する作業(コンバインの際刈作業)のいずれにも適応した轍距で左右の走行部を配置できるものである。したがって、前記の各作業形態に応じて、左右の走行部の仕様(走行クローラの左右幅)を変更したり、走行機体に対して収穫装置(刈取装置)の支持位置を変更する必要がなく、機動性に優れた機体構造を簡単に構成できるものである。
【0025】
請求項9に係る発明によれば、前記走行機体の移動速度を検出する車速センサを備え、前記走行機体の移動速度を高速又は低速に切換える操作と関連して前記轍距変更機構が作動するように構成したものであるから、高速走行によって前記走行部の轍距を自動的に拡大して、前記走行機体の姿勢を安定させて高速移動できる一方、狭い道幅又は格納場所等で、前記走行部の轍距を自動的に縮小して低速移動でき、運転操縦性又は走行性能を簡単に向上できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。図1はコンバインの左側面図、図2はコンバインの平面図、図3はコンバインの走行部の左側面図、図4はコンバインの走行部の平面図、図5はコンバインの走行部の轍距制御回路図、図6は轍距制御のフローチャート、図7は轍距制御のフローチャート、図8は轍距制御のフローチャート、図9は轍距制御のフローチャート、図10は轍距制御のフローチャートである。図1及び図2を参照しながら、コンバインの全体構造について説明する。なお、以下の説明では、走行機体1の進行方向に向かって左側を単に左側と称し、同じく進行方向に向かって右側を単に右側と称する。
【0027】
本実施形態のコンバインは、左右一対の走行クローラ2(走行部)にて支持された走行機体1を備えている。走行機体1の前部には、穀稈を刈り取りながら取り込む6条刈り用の刈取装置3が、単動式の昇降用油圧シリンダ4によって刈取回動支点軸4a回りに昇降調節可能に装着されている。走行機体1には、フィードチェン6を有する脱穀装置5と、脱穀後の穀粒を貯留する穀粒タンク7とが横並び状に搭載されている。本実施形態では、脱穀装置5が走行機体1の進行方向左側に、穀粒タンク7が走行機体1の進行方向右側に配置されている。走行機体1の後部に旋回可能な排出オーガ8が設けられ、穀粒タンク7の内部の穀粒が、排出オーガ8の籾投げ口9からトラックの荷台またはコンテナ等に排出されるように構成されている。刈取装置3の右側方で、穀粒タンク7の前側方には、運転部10が設けられている。
【0028】
運転部10に操縦ハンドル11及び運転座席12を配置している。運転部10には、オペレータが搭乗するステップと、操縦ハンドル11を設けたハンドルコラム13と、運転座席12の左側方のレバーコラムに設けた主変速レバー14、及び副変速レバー15、及び脱穀クラッチレバー16、及び刈取クラッチレバー17とが、配置されている。運転座席12の下方の走行機体1には、動力源としてのエンジン20が配置されている。
【0029】
図1乃至図4に示されるように、走行機体1の下面側に左右のトラックフレーム21を配置している。走行機体1には、走行クローラ2にエンジン20の動力を伝える駆動スプロケット22と、走行クローラ2の非接地側を保持する中間ローラ25とを設けている。トラックフレーム21には、走行クローラ2のテンションを維持するテンションローラ23と、走行クローラ2の接地側を接地状態に保持する複数のトラックローラ24とを設けている。駆動スプロケット22によって走行クローラ2の前側を支持し、テンションローラ23によって走行クローラ2の後側を支持し、トラックローラ24によって走行クローラ2の接地側を支持し、中間ローラ25によって走行クローラ2の非接地側を支持することになる。
【0030】
刈取装置3の刈取回動支点軸4aに連結した刈取フレーム221の下方には、圃場の未刈り穀稈の株元を切断するバリカン式の刈刃装置222が設けられている。刈取フレーム221の前方には、圃場の未刈り穀稈を引起す6条分の穀稈引起装置223が配置されている。穀稈引起装置223とフィードチェン6の前端部(送り始端側)との間には、刈刃装置222によって刈取られた刈取り穀稈を搬送する穀稈搬送装置224が配置されている。なお、穀稈引起装置223の下部前方には、圃場の未刈り穀稈を分草する6条分の分草体225が突設されている。エンジン20にて走行クローラ2を駆動して圃場内を移動しながら、刈取装置3を駆動して圃場の未刈り穀稈を連続的に刈取ることになる。
【0031】
図1及び図2に示されるように、脱穀装置5には、穀稈脱穀用の扱胴226と、扱胴226の下方に落下する脱粒物を選別する脱粒物選別機構としての揺動選別盤227及び唐箕ファン228と、扱胴226の後部から取出される脱穀排出物を再処理する処理胴229と、揺動選別盤227の後部の排塵を排出する排塵ファン230とを備えている。なお、扱胴226の回転軸はフィードチェン6による穀稈の搬送方向(換言すると走行機体1の進行方向)に沿って延びている。刈取装置3から穀稈搬送装置224によって搬送された穀稈の株元側はフィードチェン6に受け継がれて挟持搬送される。そして、この穀稈の穂先側が脱穀装置5の扱室内に搬入されて扱胴226にて脱穀されることになる。
【0032】
揺動選別盤227の下方側には、揺動選別盤227にて選別された穀粒(一番物)を取出す一番コンベヤ231と、枝梗付き穀粒等の二番物を取出す二番コンベヤ232とが設けられている。本実施形態の両コンベヤ231,232は、走行機体1の進行方向前側から一番コンベヤ231、二番コンベヤ232の順で、側面視において走行クローラ2の後部上方の走行機体1の上面側に横設されている。
【0033】
揺動選別盤227は、扱胴226の下方に張設された受網から漏下した脱穀物が、揺動選別盤227のフィードパン及びチャフシーブによって搖動選別(比重選別)されるように構成している。揺動選別盤227のグレンシーブから落下した穀粒は、その穀粒中の粉塵が唐箕ファン228からの選別風によって除去され、一番コンベヤ231に落下することになる。一番コンベヤ231のうち脱穀装置5における穀粒タンク7寄りの一側壁(実施形態では右側壁)から外向きに突出した終端部には、上下方向に延びる揚穀筒233が連通接続されている。一番コンベヤ231から取出された穀粒は、揚穀筒233を介して穀粒タンク7に搬入され、穀粒タンク7に収集されることになる。
【0034】
一方、フィードチェン6の後端側(送り終端側)には、排藁チェン234が配置されている。フィードチェン6の後端側から排藁チェン234に受け継がれた排藁(穀粒が脱粒された稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後方側に設けた排藁カッタ235にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方下方に排出されることになる。
【0035】
次に、図3及び図4を参照しながら、本発明の第1実施形態の4条刈り用コンバインの傾斜変更機構26の構造について説明する。図3及び図4に示す如く、走行機体1の下面側に左右一対の前側軸受体27及び後側軸受体28をそれぞれ配置する。前側軸受体27にに左右一対の前側支点軸29を貫通させる。後側軸受体28に左右一対の後側支点軸30を貫通させる。左右一対の前側支点軸29には、上下方向に延長した左右一対の前側上アーム31の下端側を回動可能に被嵌する。後側支点軸30には、左右一対の後側上アーム32の下端側を回動可能に被嵌する。左右一対の前側上アーム31の下端側のボス体31aには、前後方向に延長した左右一対の前側下アーム33の前端側を、キー嵌合によって一体的に回動可能に且つ軸芯線方向に移動可能に被嵌する。後側上アーム32の下端側のボス体32aには、左右一対の後側下アーム34の前端側を、キー嵌合によって一体的に回動可能に且つ軸芯線方向に移動可能に被嵌する。
【0036】
即ち、左右一対の前側上アーム31と左右一対の前側下アーム33とは、左右一対の前側支点軸29回りに一体的に回動し、左右一対の前側下アーム33が前側支点軸29の軸芯線方向に移動することになる。また、左右一対の後側上アーム32と左右一対の後側下アーム34とは、左右一対の後側支点軸30回りに一体的に回動し、左右一対の後側下アーム34が後側支点軸30の軸芯線方向に移動することになる。
【0037】
左右一対の前側上アーム31の上端側に、軸体31bを介して前後方向に延長した左右一対の傾斜変更連結体35,36の前端側を連結する。後側上アーム32の上端側に、軸体32bを介して左右一対の傾斜変更連結体35,36後端側を連結する。走行機体1に、軸体1a,1bを介して左右一対の傾斜変更油圧シリンダ37,38を配置する。左右一対の傾斜変更連結体35,36に、軸体35a,36aを介して左右一対の車高調節油圧シリンダ37,38のピストン37a,38aをそれぞれ連結する。左右一対の前側下アーム33の後端側に連結軸体39を介してトラックフレーム21の前部を連結する。後側下アーム34の後端側に連結軸体40を介してトラックフレーム21の後部を連結する。
【0038】
その結果、左右一対の車高調節油圧シリンダ37,38のいずれか一方又は両方を作動して、左右一対の車高調節油圧シリンダ37,38のいずれか一方又は両方のピストン37a,38aを進出させることによって、左右一対のトラックフレーム21いずれか一方又は両方を下動し、左右一対の走行クローラ2のいずれか一方又は両方の接地側を押し下げ、走行機体1の左側又は右側又は両方の車高を高くすることになる。
【0039】
また、左右一対の車高調節油圧シリンダ37,38のいずれか一方又は両方を作動して、左右一対の車高調節油圧シリンダ37,38のいずれか一方又は両方のピストン37a,38aを退入させることによって、左右一対のトラックフレーム21いずれか一方又は両方を上動し、左右一対の走行クローラ2のいずれか一方又は両方の接地側を押し上げ、走行機体1の左側又は右側又は両方の車高を低くすることになる。即ち、左右一対の車高調節油圧シリンダ37,38をそれぞれ作動させ、左右の走行クローラ2の接地高さをそれぞれ変更し、走行機体1の左右方向の傾斜角を調節し、走行機体1を略水平に支持するように構成している。
【0040】
次に、図3及び図4を参照しながら、本発明の第1実施形態の4条刈り用コンバインの轍距変更機構45の構造について説明する。図3及び図4に示す如く、左右一対の前側上アーム31のボス体31aに、左右一対の前側支持フレーム50の前端側を一体的にそれぞれ連結する。前後方向に延長した左右一対の前側下アーム33と略平行に、左右一対の前側支持フレーム50の後端側をそれぞれ延長する。左右一対の前側支持フレーム50の後端側に左右一対の前側轍距変更油圧シリンダ52a,52bをそれぞれ固着する。左右一対の前側下アーム33に左右の前側轍距変更油圧シリンダ52a,52bのピストン54をそれぞれ連結している。
【0041】
また、左右一対の後側上アーム32のボス体32aに、左右一対の後側支持フレーム51の前端側を一体的にそれぞれ連結する。前後方向に延長した左右一対の後側下アーム34と略平行に、左右一対の後側支持フレーム51の後端側をそれぞれ延長する。左右一対の後側支持フレーム51の後端側に左右一対の後側轍距変更油圧シリンダ53a,53bをそれぞれ固着する。左右一対の後側下アーム34に左右の後側轍距変更油圧シリンダ53a,53bのピストン55をそれぞれ連結している。
【0042】
なお、左右の前側轍距変更油圧シリンダ52a,52bと、左右の後側轍距変更油圧シリンダ53a,53bとは、略同一仕様構造であって、略同一油圧性能(油圧能力)をそれぞれ有している。
【0043】
したがって、左側の前側轍距変更油圧シリンダ52aと左側の後側轍距変更油圧シリンダ53aとを作動し、各シリンダ52a,53aのピストン54,55を進出(退入)させることにより、左側の走行クローラ2及びトラックフレーム21が左方向(右方向)に移動し、左側の走行クローラ2の轍距が拡大(縮小)変更されることになる。また、右側の前側轍距変更油圧シリンダ52bと右側の後側轍距変更油圧シリンダ53bとを作動し、各シリンダ52b,53bのピストン54,55を進出(退入)させることにより、右側の走行クローラ2及びトラックフレーム21が右方向(左方向)に移動し、右側の走行クローラ2の轍距が拡大(縮小)変更されることになる。
【0044】
なお、走行機体1の前側にミッションケース46を配置し、ミッションケース46から、左右側方に向けて、伸縮可能な車軸ケース47を介して、伸縮可能な左右の車軸48を突出し、左右の車軸48に左右の駆動スプロケット22を軸支している。左右の走行クローラ2に、左右方向に移動可能な左右の駆動スプロケット22を介してエンジン20からの回転力が伝達されることになる。また、中間ローラ25は、伸縮可能な軸体49を介して走行機体1に左右方向に移動可能に支持されている。
【0045】
即ち、走行機体1側に支持された駆動スプロケット22及び中間ローラ25と、トラックフレーム21側に支持されたテンションローラ23及びトラックローラ24とは、トラックフレーム21の左右方向の移動によって左右方向に移動することになる。したがって、左右の走行クローラ2は、駆動スプロケット22及び中間ローラ25と、テンションローラ23及びトラックローラ24とによって、トラックフレーム21の左右方向の移動に関係なく、常に所定テンション以上で支持されることになる。
【0046】
次に、図5を参照しながら、コンバイン(走行機体1)の傾斜変更制御と、左右の走行クローラ2の轍距変更制御とについて説明する。図5は、コンバイン(走行機体1)の傾斜変更制御手段、及び左右の走行クローラ2の轍距変更制御手段の機能ブロック図であり、マイクロコンピュータ等の作業コントローラ61を備える。作業コントローラ61は、制御プログラムを記憶したROMと各種データを記憶したRAMとを有する。
【0047】
さらに、作業コントローラ61には、図5に示すように、入力系の各種センサ及びスイッチ類、即ち、刈取装置3によって刈取った刈取穀稈を検出する作物センサ62と、刈取装置3の作動を検出する作業スイッチ63と、走行機体1の左右方向の傾斜角度を検出する振子式の傾斜センサ64と、走行機体1と左側のトラックフレーム21との相対間隔(車高)を検出するポテンショメータ形の左車高センサ65と、走行機体1と右側のトラックフレーム21との相対間隔(車高)を検出するポテンショメータ形の右車高センサ66とが接続されている。
【0048】
また、作業コントローラ61には、走行クローラ2の回転速度(車速)を検出する車速センサ67と、左側の走行クローラ2を左右方向に移動する手動ダイヤル切換式ポテンショメータ形の左轍距調節器68と、右側の走行クローラ2を左右方向に移動する手動ダイヤル切換式ポテンショメータ形の右轍距調節器69と、走行機体1に対する左側の走行クローラ2の横(左右方向)移動位置を検出するポテンショメータ形の左位置センサ70と、走行機体1に対する右側の走行クローラ2の横(左右方向)移動位置を検出するポテンショメータ形の右位置センサ71と、穀粒タンク7に収集された穀粒の重量を検出する圧力センサ形の積載重量センサ72と、走行機体1の左右両側に未刈穀稈が存在した状態で刈取作業を実行するオンオフスイッチ形の中割スイッチ73と、走行機体1の左側(フィードチェン6側)にだけ未刈穀稈が存在した状態で刈取作業を実行するオンオフスイッチ形の条刈スイッチ74と、圃場の畦際の未刈穀稈を刈取るオンオフスイッチ形の際刈スイッチ75とが接続されている。
【0049】
姿勢制御コントローラ110には、図5に示すように、出力系の各種電磁油圧バルブ、即ち、左傾斜変更バルブ76と、右傾斜変更バルブ76と、左轍距変更バルブ78と、右轍距変更バルブ79とが接続されている。この構成により、傾斜センサ64の傾斜角度の検出値と、左車高センサ65の車高の検出値と、右車高センサ66の車高の検出値とに基づき、左傾斜変更バルブ76又は右傾斜変更バルブ76を切換えて、左車高調節油圧シリンダ37又は右車高調節油圧シリンダ38を作動させ、走行機体1の左右方向の傾斜を修正して、走行機体1が略水平になるように自動制御することになる。
【0050】
一方、車速センサ67の車速の検出値と、左轍距調節器68の左側走行クローラ2の轍距設定値と、右轍距調節器69の右側走行クローラ2の轍距設定値と、左位置センサ70の左側走行クローラ2の轍距検出値と、右位置センサ71の右側走行クローラ2の轍距検出値とに基づき、左轍距変更バルブ78又は右轍距変更バルブ79を切換えて、左前側轍距油圧シリンダ52a及び左後側轍距油圧シリンダ53a、又は右前側轍距油圧シリンダ52b及び右後側轍距油圧シリンダ53bを作動させ、左側走行クローラ2の轍距又は右側走行クローラ2の轍距を修正し、左側走行クローラ2の轍距及び右側走行クローラ2の轍距が、轍距調節器68,69の轍距設定値になるように自動制御することになる。
【0051】
また、左車高センサ65の車高の検出値と、右車高センサ66の車高の検出値とに基づき、左轍距変更バルブ78又は右轍距変更バルブ79を切換えて、左前側轍距油圧シリンダ52a及び左後側轍距油圧シリンダ53a、又は右前側轍距油圧シリンダ52b及び右後側轍距油圧シリンダ53bを作動させ、左側走行クローラ2の轍距又は右側走行クローラ2の轍距を修正し、左側走行クローラ2の轍距及び右側走行クローラ2の轍距が、予め設定した車高に基づく轍距設定値になるように自動制御することになる。
【0052】
また、積載重量センサ72の穀粒重量の検出値に基づき、左轍距変更バルブ78又は右轍距変更バルブ79を切換えて、左前側轍距油圧シリンダ52a及び左後側轍距油圧シリンダ53a、又は右前側轍距油圧シリンダ52b及び右後側轍距油圧シリンダ53bを作動させ、左側走行クローラ2の轍距又は右側走行クローラ2の轍距を修正し、左側走行クローラ2の轍距及び右側走行クローラ2の轍距が、予め設定した穀粒重量に基づく轍距設定値になるように自動制御することになる。
【0053】
また、中割スイッチ73の刈取作業モード設定値と、条刈スイッチ74の刈取作業モード設定値と、際刈スイッチ75の刈取作業モード設定値とに基づき、左轍距変更バルブ78又は右轍距変更バルブ79を切換えて、左前側轍距油圧シリンダ52a及び左後側轍距油圧シリンダ53a、又は右前側轍距油圧シリンダ52b及び右後側轍距油圧シリンダ53bを作動させ、左側走行クローラ2の轍距又は右側走行クローラ2の轍距を修正し、左側走行クローラ2の轍距及び右側走行クローラ2の轍距が、予め設定した中割作業モード設定値、又は予め設定した条刈作業モード設定値、又は予め設定した際刈作業モード設定値になるように自動制御することになる。
【0054】
また、車速センサ67の車速の検出値に基づき、左轍距変更バルブ78又は右轍距変更バルブ79を切換えて、左前側轍距油圧シリンダ52a及び左後側轍距油圧シリンダ53a、又は右前側轍距油圧シリンダ52b及び右後側轍距油圧シリンダ53bを作動させ、左側走行クローラ2の轍距又は右側走行クローラ2の轍距を修正し、左側走行クローラ2の轍距及び右側走行クローラ2の轍距が、予め設定した車速に基づく轍距設定値になるように自動制御することになる。
【0055】
次に、轍距適応制御のフローチャート(図6乃至図10)を参照しながら、コンバイン(走行機体1)の傾斜変更制御態様及び走行クローラ2の轍距制御態様を説明する。図6のフローチャートは、傾斜センサ64の検出結果に基づく傾斜変更制御態様と、傾斜センサ64及び車速センサ67の検出結果に基づく走行クローラ2の轍距制御態様とを示している。図6のフローチャートに示す如く、エンジン20が始動され、オペレータが脱穀クラッチレバー16の操作によって脱穀装置5が作動し、刈取クラッチレバー17の操作によって刈取装置3が作動し、作業スイッチ63がオンになった場合(S1;yes)、傾斜センサ64の傾斜検出値を読み込む(S2)。そして、走行機体1が左側下がりに傾斜しているか(S3)、右側下がりに傾斜しているか(S5)が判断される。走行機体1が左側下がりに傾斜しているときには(S3;yes)、左傾斜変更バルブ76を切換えて、左車高調節油圧シリンダ37を上昇側に作動させるか、右傾斜変更バルブ77を切換えて、右車高調節油圧シリンダ38を下降側に作動させ、走行機体1の左右方向の傾斜を自動的に修正して、走行機体1の左右方向の傾斜角を略水平に維持する(S4)。なお、ステップ6において、左車高センサ65及び右車高センサ66が、上昇限度位置を検出しているか、又は下降限度位置を検出しているかによって、左傾斜変更バルブ76を切換えるか、右傾斜変更バルブ77を切換えるかが自動的に判断される。左車高センサ65及び右車高センサ66が、限度位置を検出していない場合、左傾斜変更バルブ76を上昇側に切換える制御が、右傾斜変更バルブ77の下降側制御よりも優先して実行される。
【0056】
また、走行機体1が右側下がりに傾斜しているときには(S5;yes)、右傾斜変更バルブ77を切換えて、右車高調節油圧シリンダ38を上昇側に作動させるか、左傾斜変更バルブ76を切換えて、左車高調節油圧シリンダ37を下降側に作動させ、走行機体1の左右方向の傾斜を自動的に修正して、走行機体1の左右方向の傾斜角を略水平に維持する(S6)。なお、ステップ6において、左車高センサ65及び右車高センサ66が、上昇限度位置を検出しているか、又は下降限度位置を検出しているかによって、左傾斜変更バルブ76を切換えるか、右傾斜変更バルブ77を切換えるかが自動的に判断される。左車高センサ65及び右車高センサ66が、限度位置を検出していない場合、右傾斜変更バルブ77を上昇側に切換える制御が、左傾斜変更バルブ76の下降側制御よりも優先して実行される。
【0057】
また、走行機体1が右側に傾斜して(S5;yes)、走行機体1の左右方向の傾斜角が修正された場合(S6)、車速センサ64の車速検出値を読み込む(S7)。そして、車速センサ64が検出した車速Vが一定以上のときに(S8;yes)、作物センサ62の作物検出値(刈取穀稈の有無)を読み込む(S9)。作物センサ62によって刈取穀稈が検出されて作物を収穫中であると判断された場合(S10;yes)、右轍距変更バルブ79を切換えて、右前側轍距油圧シリンダ52b及び右後側轍距油圧シリンダ53bを、轍距拡大方向に自動的に作動し(S11)、右側の走行クローラ2の轍距を拡大する。
【0058】
上述したように、車速Vが一定以上のときに右側の走行クローラ2の轍距が変更されることによって、駆動スプロケット22及び中間ローラ25及びテンションローラ23及びトラックローラ24から走行クローラ2が離脱するのを防止できる。また、右側の走行クローラ2の轍距が拡大されることによって、左側の走行クローラ2が分担する機体支持荷重を増加させるから、穀粒タンク7に穀粒が溜まって走行機体1の右側が重くなっても、右側の走行クローラ2の機体支持荷重の増加を軽減でき、右側の走行クローラ2の土中への沈下量を低減でき、右側の走行クローラ2と左側の走行クローラ2とで、沈下量の差によって走行抵抗の差が拡大するのを防止できる。
【0059】
次に、車速センサ67及び車高センサ65,66の検出結果に基づく走行クローラ2の轍距制御態様を説明する。図7のフローチャートに示す如く、車速センサ64の車速検出値を読み込む(S12)。そして、車速センサ64が検出した車速Vが一定以上のときに(S13;yes)、左位置センサ70の検出値と右位置センサ71の検出値とを読み込む(S14)。また、左車高センサ65の検出値と右車高センサ66の検出値とを読み込み(S15)、左車高センサ65の検出値と右車高センサ66の検出値とから車高平均値を算出し、その車高平均値に基づき、走行機体1の支持位置が所定より高いか(S16)、走行機体1の支持位置が所定より低いか(S18)を判断する。
【0060】
走行機体1の支持位置(車高平均値)が所定より高い場合(S16;yes)、左轍距変更バルブ78及び右轍距変更バルブ79を切換えるパルス信号のデューティ比を大きくして、轍距油圧シリンダ52a,52b,53a,53bの作動速度を自動的に低速に切換え、轍距油圧シリンダ52a,52b,53a,53bによる走行クローラ2の轍距制御速度を低速に設定する(S17)。走行クローラ2の轍距制御が原因で発生する走行機体1の左右傾動を低減できる。
【0061】
走行機体1の支持位置(車高平均値)が所定より低い場合(S18;yes)、左轍距変更バルブ78及び右轍距変更バルブ79を切換えるパルス信号のデューティ比を小さくして、轍距油圧シリンダ52a,52b,53a,53bの作動速度を自動的に高速に切換え、轍距油圧シリンダ52a,52b,53a,53bによる走行クローラ2の轍距制御速度を高速に設定する(S17)。走行クローラ2の轍距制御の応答性を向上できる。
【0062】
そして、ステップ17及びステップ19において走行クローラ2の轍距制御速度を設定したときに、左轍距調節器68の設定値と右轍距調節器69の設定値とを読み込む(S20)。ステップ17及びステップ19において設定した轍距制御速度で、左轍距変更バルブ78又は右轍距変更バルブ79を切換え、左側の轍距油圧シリンダ52a,53a又は右側の轍距油圧シリンダ52b,53bを作動し(S21)、オペレータの手動操作によって走行クローラ2の轍距を拡大又は縮小方向に変更する。オペレータの判断によって、作業に最適な轍距で走行クローラ2が支持される。
【0063】
次に、積載重量センサ72の検出結果に基づく走行クローラ2の轍距制御態様を説明する。図8のフローチャートに示す如く、車速センサ64の車速検出値を読み込む(S22)。そして、車速センサ64が検出した車速Vが一定以上のときに(S23;yes)、積載重量センサ72の検出値(穀粒タンク7内の穀粒重量)を読み込み(S24)、積載重量(穀粒タンク7内の穀粒重量)が所定より大きいか(S25)、積載重量(穀粒タンク7内の穀粒重量)が所定より小さいか(S27)を判断する。
【0064】
積載重量(穀粒タンク7内の穀粒重量)が所定より大きい場合(S25;yes)、右轍距変更バルブ79を切換えて、右前側轍距油圧シリンダ52b及び右後側轍距油圧シリンダ53bを、轍距が拡大される方向に自動的に作動し(S26)、右側の走行クローラ2の轍距を拡大する。そのように、右側の走行クローラ2の轍距が拡大されることによって、左側の走行クローラ2が分担する機体支持荷重を増加させるから、穀粒タンク7に穀粒が溜まって走行機体1の右側が重くなっても、右側の走行クローラ2の機体支持荷重の増加を軽減でき、右側の走行クローラ2の土中への沈下量を低減でき、右側の走行クローラ2と左側の走行クローラ2とで、沈下量の差によって走行抵抗の差が拡大するのを防止できる。
【0065】
また、積載重量(穀粒タンク7内の穀粒重量)が所定より小さい場合(S27;yes)、作物センサ62の作物検出値(刈取穀稈の有無)を読み込む(S28)。作物センサ62によって刈取穀稈が検出されず、作物を収穫中でないと判断された場合(S29;yes)、左右の轍距変更バルブ78,79を切換えて、左右の前側轍距油圧シリンダ52a,52b及び左右の後側轍距油圧シリンダ53a,53bを、轍距が拡大される方向に自動的に作動し(S30)、左右の走行クローラ2の轍距を拡大する。したがって、圃場間を移動する路上走行の場合、又は穀粒タンク7が満杯になって圃場中央の収穫場所から畦際の穀粒排出場所に移動したり、畦際の穀粒排出場所から収穫再開場所に戻る場合、左右の走行クローラ2の轍距を大きくして、走行機体1の姿勢を安定させ、走行機体1の左右方向の傾動を低減できる。
【0066】
次に、中割スイッチ73の刈取作業モード設定値と、条刈スイッチ74の刈取作業モード設定値と、際刈スイッチ75の刈取作業モード設定値とに基づく走行クローラ2の轍距制御態様を説明する。図9のフローチャートに示す如く、車速センサ64の車速検出値を読み込む(S31)。そして、車速センサ64が検出した車速Vが一定以上のときに(S32;yes)、オペレータによって中割スイッチ73がオン操作された場合(S33;yes)、左右の轍距変更バルブ78,79を切換えて、左右の前側轍距油圧シリンダ52a,52b及び左右の後側轍距油圧シリンダ53a,53bを、轍距が縮少される方向に自動的に作動し(S34)、左右の走行クローラ2の轍距を縮少する。したがって、走行機体1の左右両側方に未刈穀稈があっても、その未刈穀稈が左右の走行クローラ2によって踏み潰されるのを低減できる。
【0067】
また、オペレータによって条刈スイッチ74がオン操作された場合(S35;yes)、右轍距変更バルブ79を切換えて、右前側轍距油圧シリンダ52b及び右後側轍距油圧シリンダ53bを、轍距が拡大される方向に自動的に作動し(S36)、右側の走行クローラ2の轍距を拡大する。そのように、右側の走行クローラ2の轍距が拡大されることによって、左側の走行クローラ2が分担する機体支持荷重を増加させるから、穀粒タンク7に穀粒が溜まって走行機体1の右側が重くなっても、右側の走行クローラ2の機体支持荷重の増加を軽減でき、右側の走行クローラ2の土中への沈下量を低減でき、右側の走行クローラ2と左側の走行クローラ2とで、沈下量の差によって走行抵抗の差が拡大するのを防止できる。なお、条刈作業では、走行機体1の右側に未刈穀稈がないから、右の走行クローラ2によって未刈穀稈が踏み潰されることがない。
【0068】
また、オペレータによって際刈スイッチ75がオン操作された場合(S37;yes)、左轍距変更バルブ78を切換えて、左前側轍距油圧シリンダ52a及び左後側轍距油圧シリンダ53aを、轍距が縮少される方向(走行機体1の右側)に自動的に作動すると同時に、右轍距変更バルブ79を切換えて、右前側轍距油圧シリンダ52b及び右後側轍距油圧シリンダ53bを、轍距が拡大される方向(走行機体1の右側)に自動的に作動し(S38)、走行機体1の右側寄りに左右の走行クローラ2を配置する。即ち、走行機体1の右側寄りに左右の走行クローラ2を移動することによって、左右の走行クローラ2に対して、走行機体1及び刈取装置3が左側寄りに移動することになる。
【0069】
したがって、圃場の畦際に走行機体1の左側を接近させる未刈穀稈の際刈作業において、圃場の畦際から左右の走行クローラ2を離反させて移動できる。その結果、圃場の畦に左の走行クローラ2を衝突させたり乗り上げる等のトラブルの発生を低減でき、トラクタ又は田植機の方向転換等によって不安定になった畦際から離れた安定した場所を移動できる。
【0070】
次に、車速センサ64の車速の検出値に基づく走行クローラ2の轍距制御態様を説明する。図10のフローチャートに示す如く、車速センサ64の車速検出値を読み込む(S39)。そして、車速センサ64が検出した車速Vが一定以上のときに(S40;yes)、作物センサ62の作物検出値(刈取穀稈の有無)を読み込む(S41)。作物センサ62によって刈取穀稈が検出され、作物を収穫中であると判断され(S42;yes)、且つ車速Vが高速であると判断され(S43;yes)、且つ条刈スイッチ74又は際刈スイッチ75がオン操作された場合(S44;yes)、左右の轍距変更バルブ78,79を切換えて、右の前側轍距油圧シリンダ52b及び右の後側轍距油圧シリンダ53bを、轍距が最大(右走行クローラ2が最高右寄り)になるように自動的に作動すると同時に、左の前側轍距油圧シリンダ52a及び左の後側轍距油圧シリンダ53aを、轍距が標準位置(初期値)になるように自動的に作動する(S45)。したがって、条刈作業に適した轍距(走行機体1を安定した姿勢で支持できる轍距)、及び際刈作業に適した轍距(走行クローラ2に対して左寄りに刈取装置3を支持できる轍距)を維持して、左右の走行クローラ2を高速で駆動できる。
【0071】
また、車速Vが低速であると判断され(S46;yes)、且つ際刈スイッチ75がオン操作された場合(S47;yes)、左右の轍距変更バルブ78,79を切換えて、右の前側轍距油圧シリンダ52b及び右の後側轍距油圧シリンダ53bを、轍距が最大(右走行クローラ2が最高右寄り)になるように自動的に作動すると同時に、左の前側轍距油圧シリンダ52a及び左の後側轍距油圧シリンダ53aを、轍距が最小(左走行クローラ2が最高右寄り)になるように自動的に作動する(S48)。したがって、際刈作業に適した轍距(走行クローラ2に対して左寄りに刈取装置3を支持できる轍距)を維持して、左右の走行クローラ2を低速で駆動できる。
【0072】
一方、作物センサ62の作物検出値(刈取穀稈の有無)を読み込んだときに(S41)。作物センサ62によって刈取穀稈が検出されず、作物を収穫中でないと判断され(S42;no)、且つ車速Vが高速であると判断された場合(S49;yes)、左右の轍距変更バルブ78,79を切換えて、左右の前側轍距油圧シリンダ52a,52b及び左右の後側轍距油圧シリンダ53a,53bを、轍距が最大になるように自動的に作動し(S50)、左右の走行クローラ2の轍距を拡大する。そのときには、右走行クローラ2が最高右寄りに位置し、左走行クローラ2が最高左寄りに位置する。
【0073】
したがって、圃場間を移動する路上走行の場合、又は穀粒タンク7が満杯になって圃場中央の収穫場所から畦際の穀粒排出場所に移動したり、畦際の穀粒排出場所から収穫再開場所に戻る場合、左右の走行クローラ2の轍距を大きくして、走行機体1の姿勢を安定させ、走行機体1の左右方向の傾動を低減できる。
【0074】
また、車速Vが低速であると判断された場合(S51;yes)、左右の轍距変更バルブ78,79を切換えて、右の前側轍距油圧シリンダ52a,52b及び右の後側轍距油圧シリンダ53a,53bを、轍距が標準位置(初期値)になるように自動的に作動する(S52)。したがって、運転座席12上のオペレータが左右の走行クローラ2の位置を適正に認識しながら、狭い農道を移動したり、圃場から出入するために歩み板上を移動したり、運搬用のトラックの荷台に乗り降りするために歩み板上を移動したり、又は格納場所(納屋等)から出入させることができる。
【0075】
上記の記載及び図1、図4、図5から明らかなように、エンジン20を搭載した走行機体1と、走行機体1を支持する左右の走行部としての走行クローラ2と、操縦ハンドル11及び運転座席12を有する運転部10と、圃場の作物を収穫する収穫装置としての刈取装置3及び脱穀装置5と、左右の走行クローラ2の対機体支持高さを変更する左右の傾斜変更機構26とを備え、走行機体1の左右方向の傾斜角を変更するように構成してなる収穫作業車において、走行機体1に前記左右の走行クローラ2を左右方向に移動可能に連結する左右の走行部支持体としての前側支点軸29及び後側支点軸30と、左右の走行クローラ2の轍距を変更する轍距変更機構45とを備えたものであるから、走行機体1の左右方向の傾斜又は移動路面の状態又は作業内容等に応じて、左右の走行クローラ2の轍距を簡単に変更でき、走行状況又は作業条件等に適応して移動でき、運転操縦性又は走行性能を簡単に向上できる。
【0076】
上記の記載及び図4、図5から明らかなように、左右の走行クローラ2の轍距をそれぞれ各別に変更する左右の轍距変更機構45を備えたものであるから、走行状況又は作業条件等に応じて、左右の走行クローラ2の轍距を簡単に変更できる。
【0077】
上記の記載及び図5から明らかなように、轍距変更機構45を作動させる手動操作用の轍距調節用操作具としての左轍距調節器68及び右轍距調節器69を備えたものであるから、オペレータの判断によって左右の走行クローラ2の轍距を簡単に変更できる。
【0078】
上記の記載及び図5から明らかなように、走行機体1の左右方向の傾斜を検出する傾斜センサ64を備え、走行機体1が左右方向に傾いたときに、走行機体1が傾いた側の走行クローラ2の轍距を自動的に拡大するように構成したものであるから、走行機体1が傾いた側の走行クローラ2の沈下量を低減でき、運転操縦性又は走行性能を簡単に向上できる。
【0079】
上記の記載及び図5から明らかなように、走行機体1の移動速度を検出する車速センサ67を備え、走行機体1が所定の移動速度以上で移動することによって、轍距変更機構45が作動するように構成したものであるから、例えば無端履帯構造の走行クローラ2等がトラックフレーム21の支持部から離脱するのを防止しながら、走行クローラ2等の轍距を簡単に変更できる。
【0080】
上記の記載及び図5から明らかなように、走行クローラ2によって支持された走行機体1の対地高さを検出する左車高センサ65及び右車高センサ66を備え、所定の車高以上のときに走行クローラ2の轍距を自動的に拡大するように構成したものであるから、走行機体1の左右方向の傾動を低減でき、運転操縦性又は走行性能を簡単に向上できる。
【0081】
上記の記載及び図5から明らかなように、走行機体1に積載した作物の重量を検出する積載重量センサ72を備え、所定の積載重量以上のときに走行クローラ2の轍距を自動的に拡大するように構成したものであるから、走行機体1の左右方向の傾動を低減でき、運転操縦性又は走行性能を簡単に向上できる。
【0082】
上記の記載及び図5から明らかなように、収穫作業モードを切換える切換具としての中割スイッチ73及び条刈スイッチ74及び際刈スイッチ75を備え、収穫作業モードを切換える操作と関連して前記轍距変更機構45が作動するように構成したものであるから、例えば植付け条間が狭い作物列に沿って移動する作業(コンバインの中割作業)、耕土が軟らかい圃場で作物列に沿って移動する作業(湿田等でのコンバインの条刈作業)、圃場の畦際の作物列に沿って移動する作業(コンバインの際刈作業)のいずれにも適応した轍距で左右の走行クローラ2を配置できるものである。したがって、前記の各作業形態に応じて、左右の走行クローラ2の仕様(走行クローラ2の左右幅)を変更したり、走行機体1に対して収穫装置(刈取装置3)の支持位置を変更する必要がなく、機動性に優れた機体構造を簡単に構成できる。
【0083】
上記の記載及び図5から明らかなように、走行機体1の移動速度を検出する車速センサ67を備え、走行機体1の移動速度を高速又は低速に切換える変速操作具としてのレバー14,15の変速操作と関連して轍距変更機構45が作動するように構成したものであるから、高速走行によって走行クローラ2の轍距を自動的に拡大して、走行機体1の姿勢を安定させて高速移動できる一方、狭い道幅又は格納場所等で、走行クローラ2の轍距を自動的に縮小して低速移動でき、運転操縦性又は走行性能を簡単に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の第1実施形態の4条刈り用コンバインの側面図である。
【図2】同平面図である。
【図3】コンバインの走行部の左側面図である。
【図4】コンバインの走行部の平面図である。
【図5】コンバインの走行部の轍距制御回路図である。
【図6】轍距制御のフローチャートである。
【図7】轍距制御のフローチャートである。
【図8】轍距制御のフローチャートである。
【図9】轍距制御のフローチャートである。
【図10】轍距制御のフローチャートである。
【符号の説明】
【0085】
1 走行機体
2 走行クローラ(走行部)
10 運転部
11 操縦ハンドル
12 運転座席
26 傾斜変更機構
29 前側支点軸(走行部支持体)
30 後側支点軸(走行部支持体)
45 轍距変更機構
64 傾斜センサ
65 左車高センサ
66 右車高センサ
67 車速センサ
68 左轍距調節器(轍距調節用操作具)
69 右轍距調節器(轍距調節用操作具)
72 積載重量センサ
73 中割スイッチ(切換具)
74 条刈スイッチ(切換具)
75 際刈スイッチ(切換具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを搭載した走行機体と、前記走行機体を支持する左右の走行部と、操縦ハンドル及び運転座席を有する運転部と、圃場の作物を収穫する収穫装置と、前記左右の走行部の対機体支持高さを変更する左右の傾斜変更機構とを備え、前記走行機体の左右方向の傾斜角を変更するように構成してなる収穫作業車において、
前記走行機体に前記左右の走行部を左右方向に移動可能に連結する左右の走行部支持体と、前記左右の走行部の轍距を変更する轍距変更機構とを備えたことを特徴とする収穫作業車。
【請求項2】
前記左右の走行部の轍距をそれぞれ各別に変更する左右の轍距変更機構を備えたことを特徴とする請求項1に記載の収穫作業車。
【請求項3】
前記轍距変更機構を作動させる手動操作用の轍距調節用操作具を備えたことを特徴とする請求項1に記載の収穫作業車。
【請求項4】
前記走行機体の左右方向の傾斜を検出する傾斜センサを備え、前記走行機体が左右方向に傾いたときに、前記走行機体が傾いた側の前記走行部の轍距を自動的に拡大するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の収穫作業車。
【請求項5】
前記走行機体の移動速度を検出する車速センサを備え、前記走行機体が所定の移動速度以上で移動することによって、前記轍距変更機構が作動するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の収穫作業車。
【請求項6】
前記走行部によって支持された前記走行機体の対地高さを検出する車高センサを備え、所定の車高以上のときに前記走行部の轍距を自動的に拡大するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の収穫作業車。
【請求項7】
前記走行機体に積載した作物の重量を検出する積載重量センサを備え、所定の積載重量以上のときに前記走行部の轍距を自動的に拡大するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の収穫作業車。
【請求項8】
収穫作業モードを切換える切換具を備え、収穫作業モードを切換える操作と関連して前記轍距変更機構が作動するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の収穫作業車。
【請求項9】
前記走行機体の移動速度を検出する車速センサを備え、前記走行機体の移動速度を高速又は低速に切換える操作と関連して前記轍距変更機構が作動するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の収穫作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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