説明

取鍋の溶湯加熱装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、鋳型に注入する溶湯を、移動可能な取鍋内で加熱する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】溶湯を鋳型に入れるための取鍋内の溶湯の温度が下がって、その流動性が低下してしまった時には、取鍋内の溶湯を溶解炉に戻して再加熱するか、いったん冷却凝固させたのち溶解炉に戻して再溶解する。これでは、作業性が非常に悪く、特に後者では、再溶解のためにかなりのエネルギ損失を招く。そこで、従来、取鍋内の溶湯の流動性を常時、保持させるために、載置台に対して移動可能に載置する取鍋に取鍋コア(第1コアともいう)を装着し、載置台側に固定コア(第2コアともいう)とコイルとを固定設置するものが特開昭63−137521号公報等に知られている。
【0003】図3は従来例の断面図、図4は図3の要部断面図である。この取鍋の溶湯加熱装置の構成は、取鍋2の鉄皮4で囲まれた耐火断熱材3と、この耐火断熱材3の外側に装着されて上下に対をなす取鍋コア15a、15bと、前記取鍋2を載置可能な載置台9に装着される固定コア6と、この固定コア6の両端に設けられ前記取鍋コア15a、15bと対向して上下に対をなす磁極部6a、6bと、前記固定コア6を励磁し上下に絶縁材7a、7bを持つコイル7とからなる。前記上の取鍋コア15aの下端は前記コイル7の上端とほぼ同じ高さで、磁極部6aより絶縁材7aの分だけ下方にあるだけである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】前記の従来例における磁束を検討すると、固定コア6と上下の取鍋コア15a、15bと溶湯1を通過する磁束Φは、溶湯1を加熱する本来的に有効な磁束である。これに対して、磁束Φの内側であつて鉄皮4を通過して溶湯1を通過しない内側の漏洩磁束Φ2 や、磁束Φの外側であつて鉄皮4と溶湯1とを通過する外側の漏洩磁束Φ1 が存在する。上の取鍋コア15aと下の取鍋コア15bとの間の鉄皮4は、周方向に分割して絶縁材で結合するが、この鉄皮4の存在と磁路が短い分、磁束Φ2 は大きい。上の取鍋コア15aの上方の鉄皮4は、トラニオン軸3aを一体化して取鍋2の重量と傾動の力を受ける機械強度メンバであって分割しにくく、磁路が長いがこの鉄皮4の存在の分、磁束Φ1 は大きい。
【0005】磁束Φ1 は比較的に小さいが、周方向に1ターンを形成する鉄皮4に渦電流を生じ、これを加熱して赤熱にいたる場合もあり、機械的強度を著しく低下させる。1ターンを形成しないときも事情はあまり変わらない。磁束Φ2 は比較的に大きく、周方向に1ターンを形成しないが鉄皮4に分割されたものごとに渦電流を生じ、これを加熱するだけで溶湯1の加熱になにも貢献しない。
【0006】この発明の目的は、本来的に有効な磁束の外側や内側の漏洩磁束が、鉄皮を加熱して機械強度を低下させ、エネルギ損失を生じることを防止できる取鍋の溶湯加熱装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】発明1の取鍋の溶湯加熱装置は、取鍋の鉄皮で囲まれた耐火断熱材と、この耐火断熱材の外側に装着されて上下に対をなす取鍋コアと、前記取鍋を載置可能な載置台に装着される固定コアと、この固定コアの両端に設けられ前記取鍋コアと対向して上下に対をなす磁極部と、前記固定コアを励磁するコイルとからなる取鍋の溶湯加熱装置において、前記上の取鍋コアの上方の前記鉄皮に1ターンを形成する電気良導体からなる環状体を配置するものである。
【0008】発明2の取鍋の溶湯加熱装置は、発明1と同一のいわゆる前提部分において、前記上の取鍋コアの下端を前記コイルの上端より下方に延長した延設部を設けるものである。このとき発明3は、前記延設部の寸法を50mm以上とする。
【0009】
【作用】発明1において、図1を参照する。電気良導体からなる環状体10は、コイル7の発生する交番磁界に対して逆磁界を作り、前述の外側の漏洩磁束Φ1 を激減させる。このため上の取鍋コア15aの上方の前記鉄皮4の加熱が防止される。
【0010】発明2において、図1及び2を参照する。上の取鍋コア5aの下端に前記コイル6の上端より下方に延長した延設部5xを設けることにより、前述の漏洩磁束Φ2 は本来の有効な磁束Φに吸収され、磁束Φの内側であつて鉄皮4を通過して溶湯1を通過しない内側の漏洩磁束Φ2 は激減し、この部分の鉄皮4の温度上昇が低下する。このとき、寸法eは50mm以上とする。
【0011】
【実施例】図1は実施例1の断面図、図2は実施例2の要部断面図である。従来例及び各図において、同一符号をつけるものはおよそ同一機能を持ち、重複説明を省くこともある。図1において、この取鍋の溶湯加熱装置の構成は、取鍋2の鉄皮4で囲まれた耐火断熱材3と、この耐火断熱材3の外側に装着されて上下に対をなす取鍋コア15a、15bと、前記取鍋2を載置可能な載置台9に装着される固定コア6と、この固定コア6の両端に設けられ前記取鍋コア15a、15bと対向して上下に対をなす磁極部6a、6bと、前記固定コア6を励磁し上下に絶縁材7a、7bを持つコイル7とからなる。この実施例1の特徴として、前記上の取鍋コア15aの上方の前記鉄皮4に閉じた1ターンを形成する銅、アルミニュウム等の電気良導体からなる環状体10を配置する。実施例1によれば、電気良導体からなる環状体10は、コイル7の発生する交番磁界に対して逆磁界を作り、前述の外側の漏洩磁束Φ1 を激減させる。このため上の取鍋コア15aの上方の前記鉄皮4の加熱が防止される。銅板の厚さは5〜20mm、上下方向の幅は100〜500mm程度がよい。実験による実例では、電力600kW、6tonの容量の取鍋の溶湯加熱装置において、環状体10を10mm、300mm幅の銅板で1ターンを形成して上方の鉄皮4に配置した場合の温度上昇速度は、環状体のないとき、5℃/minであったものが、環状体の配置により、1℃/minと1/5の温度上昇速度に低下した。
【0012】図2に示す実施例2の特徴として、上の取鍋コア5aの下端を前記コイル6の上端より下方に延長した延設部5xを設ける。この寸法eは50mm以上とする。延設部5xを設けることにより、前述の漏洩磁束Φ2 は本来の有効な磁束Φに吸収され、磁束Φの内側であつて鉄皮4を通過して溶湯1を通過しない内側の漏洩磁束Φ2 は激減し、この部分の鉄皮4の温度上昇が低下する。実施例1で実験の6tonと同一取鍋において、寸法e(mm)と温度上昇速度(℃/min)との関係は次のとおりであった。eなしで6℃、e=30で5℃、e=50で2.5℃、e=70で2℃、e=100で1.5℃。
【0013】
【発明の効果】発明1の取鍋の溶湯加熱装置は、取鍋の鉄皮で囲まれた耐火断熱材と、この耐火断熱材の外側に装着されて上下に対をなす取鍋コアと、前記取鍋を載置可能な載置台に装着される固定コアと、この固定コアの両端に設けられ前記取鍋コアと対向して上下に対をなす磁極部と、前記固定コアを励磁するコイルとからなる取鍋の溶湯加熱装置において、前記上の取鍋コアの上方の前記鉄皮に1ターンを形成する電気良導体からなる環状体を配置するものである。そして、発明2の取鍋の溶湯加熱装置は、前記と同一のいわゆる前提部分において、前記上の取鍋コアの下端を前記コイルの上端より下方に延長した延設部を設けるものである。このとき発明3は、前記延設部の寸法を50mm以上とする。
【0014】このような構成によれば、発明1において、電気良導体からなる環状体は、コイルの発生する交番磁界に対して逆磁界を作り、本来の有効磁束の外側の漏洩磁束を激減させることとなり、上の取鍋コアの上方の前記鉄皮の加熱が防止されるという効果がある。そして、発明2において、上の取鍋コアの下端に前記コイルの上端より下方に延長した、例えば50mm以上の、延設部を設けることにより、内側の漏洩磁束は本来の有効磁束に吸収され、この磁束の内側であつて鉄皮を通過して溶湯を通過しない内側の漏洩磁束は激減することとなり、この部分の鉄皮の温度上昇が低下するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の断面図
【図2】実施例2の要部断面図
【図3】従来例の断面図
【図4】図3の要部断面図
【符号の説明】
1 溶湯
2 取鍋
3 耐火断熱材
3a トラニオン軸
4 鉄皮
5a 上の取鍋コア
5x 延設部
6 固定コア
6a 上の磁極部
6b 下の磁極部
7 コイル
7a 絶縁材
7b 絶縁材
9 載置台
10 環状体
15a 上の取鍋コア
15b 下の取鍋コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】取鍋の鉄皮で囲まれた耐火断熱材と、この耐火断熱材の外側に装着されて上下に対をなす取鍋コアと、前記取鍋を載置可能な載置台に装着される固定コアと、この固定コアの両端に設けられ前記取鍋コアと対向して上下に対をなす磁極部と、前記固定コアを励磁するコイルとからなる取鍋の溶湯加熱装置において、前記上の取鍋コアの上方の前記鉄皮に1ターンを形成する電気良導体からなる環状体を配置することを特徴とする取鍋の溶湯加熱装置。
【請求項2】取鍋の鉄皮で囲まれた耐火断熱材と、この耐火断熱材の外側に装着されて上下に対をなす取鍋コアと、前記取鍋を載置可能な載置台に装着される固定コアと、この固定コアの両端に設けられ前記取鍋コアと対向して上下に対をなす磁極部と、前記固定コアを励磁するコイルとからなる取鍋の溶湯加熱装置において、前記上の取鍋コアの下端を前記コイルの上端より下方に延長した延設部を設けることを特徴とする取鍋の溶湯加熱装置。
【請求項3】請求項2記載の取鍋の溶湯加熱装置において、前記延設部の寸法を50mm以上とすることを特徴とする取鍋の溶湯加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【特許番号】特許第3055243号(P3055243)
【登録日】平成12年4月14日(2000.4.14)
【発行日】平成12年6月26日(2000.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−246322
【出願日】平成3年9月26日(1991.9.26)
【公開番号】特開平5−84565
【公開日】平成5年4月6日(1993.4.6)
【審査請求日】平成9年6月18日(1997.6.18)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【参考文献】
【文献】特開 平4−178259(JP,A)
【文献】特開 昭63−137521(JP,A)
【文献】特開 昭60−187459(JP,A)