説明

受信機及び相互位相変調緩和方法

【課題】受信機において、不要な雑音の増加がなく相互位相変調を緩和する目的とする。
【解決手段】偏波多重された位相変調光信号のコヒーレント受信を行う受信機において、前記コヒーレント受信で分離された2つの偏波成分の位相データに共通する位相変動成分を抽出する抽出手段と、前記2つの偏波成分の位相データを、前記抽出手段で抽出された前記2つの偏波成分の位相変動成分に応じて変化させる補正手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレント受信を行う受信機及び相互位相変調緩和方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル信号処理用半導体素子の並列多重化した動作速度が、数10Gb/sに向上したことにより、長距離かつ大容量の光通信技術として、デジタル信号処理を用いた多値伝送が可能なデジタルコヒーレント光通信の研究開発及び実用化が進展してきている。
【0003】
デジタルコヒーレント光通信では、受信する光信号の強度情報と位相情報の両方を、デジタル回路を用いて操作できるために、光ファイバ伝送路における波長分散劣化、及び、高速に変化する偏波モード分散(PMD:Polarization Mode Dispersion)劣化などを容易に補償することが可能になり、コヒーレント受信による高感度化も期待できて、長距離かつ大容量の光通信技術と考えられている(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
デジタルコヒーレント通信では、偏波多重のQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)信号等の、偏波多重の位相変調を含む変調方式で伝送されることが多い。一方、多くの既設の光ファイバ伝送路においては、既に強度変調方式の光通信が用いられている。図1に示すように、デジタルコヒーレント通信の位相変調方式の光信号の波長λ1を、強度変調方式の光信号の波長λ2に近接して設定した場合には、強度変調方式の光信号の時間的に変化する電界強度により発生する時間的に変化するXPM(Cross Phase Modulation:相互位相変調)によって、位相変調方式の光信号に位相雑音が発生する。
【0005】
このXPMの問題を回避するために、種々の方法が考えられている。その一つの方法として、XPMを起す原因となる強度変調光信号と、XPMの影響を受ける偏波多重の位相変調光信号が共に直線偏波である理想状態(偏光状態によるXPMの差異が最大)においても、強度変調光信号と平行な位相変調光信号が受ける位相変化(XPM−p)と、強度変調光信号と垂直な位相変調光信号が受ける位相変化(XPM−n)との間の大きさの比が、XPM−n=1/3XPM−pであるという物理現象を利用して、偏波多重QPSKデジタルコヒーレント通信の受信機において、一方の位相推定値を他方の位相推定値に重ね合わせることによって、強度変調光信号によるXPMの影響を緩和する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/124961号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Rasumussen,星田,中島、「100Gbps光伝送システムのためのデジタルコヒーレント受信技術」、FUJITSU.60,5,p.476−483、2009年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の一方の位相推定値を他方の位相推定値に重ねる方法では、一方の位相変調光信号と他方の位相変調光信号とのいずれか一方にXPMとは異なる原因のノイズが混入している場合、不要な雑音が増加するおそれが大きいという問題があった。
【0009】
開示の受信機は、不要な雑音の増加がなく相互位相変調を緩和する目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
開示の一実施形態による受信機は、偏波多重された位相変調光信号のコヒーレント受信を行う受信機において、
前記コヒーレント受信で分離された2つの偏波成分の位相データに共通する位相変動成分を抽出する抽出手段と、
前記2つの偏波成分の位相データを、前記抽出手段で抽出された前記2つの偏波成分の位相変動成分に応じて変化させる補正手段と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本実施形態によれば、不要な雑音の増加がなく相互位相変調を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】相互位相変調を説明するための図である。
【図2】光受信機の一実施形態の構成図である。
【図3】XPM緩和回路の一実施形態の構成図である。
【図4】QPSK変調信号のコンスタレーションを示す図である。
【図5】位相変動パターンとタイミング信号を示す図である。
【図6】パターン比較及び位相補正処理部の第1実施形態の構成図である。
【図7】パターン比較及び位相補正処理部の第2実施形態の構成図である。
【図8】パターン比較及び位相補正処理部の第3実施形態の構成図である。
【図9】パターン比較及び位相補正処理部の第4実施形態の構成図である。
【図10】XPMによる劣化を緩和する信号処理の概略フローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて実施形態を説明する。
【0014】
<光受信機の構成>
図2はデジタルコヒーレント光通信システムにおける光受信機の一実施形態の構成図を示す。この光受信機は、偏波多重の多値(M値)PSK変調の光信号を受信するものであるが、以下ではM=4の場合つまりQPSK変調を例にとって説明する。なお、Mは4以外の8,16,32等であっても良い。
【0015】
図2において、受信光信号は偏波分離器11で2つの直交偏波成分つまりX偏波成分とY偏波成分に分離し、X偏波成分は光位相ハイブリッド12に供給され、Y偏波成分は光位相ハイブリッド13に供給される。また、局部発振光源(LO:Local Oscillator)14の出力する局部発振光は光分波器15で2分岐され、一方は光位相ハイブリッド12に供給され、他方は光位相ハイブリッド13に供給される。
【0016】
光位相ハイブリッド12はX偏波成分と局部発振光を互いに同相及び逆相で干渉させた1組の出力光と、直交(+90°)と逆直交(−90°)で干渉させた1組の出力光とを得てフォトダイオード16,17に供給する。フォトダイオード16,17はバランス型フォトダイオードであり、フォトダイオード16は同相及び逆相の干渉光を差動受信してX偏波成分と局部発振光の同相干渉成分(I)の電気信号を出力し、フォトダイオード17は直交と逆直交の干渉光を差動受信してX偏波成分と局部発振光の直交干渉成分(Q)の電気信号を出力する。
【0017】
光位相ハイブリッド13はY偏波成分と局部発振光を互いに同相及び逆相で干渉させた1組の出力光と、直交(+90°)と逆直交(−90°)で干渉させた1組の出力光とを得てフォトダイオード18,19に供給する。フォトダイオード18,19はバランス型フォトダイオードであり、フォトダイオード18は同相及び逆相の干渉光を差動受信してY偏波成分と局部発振光の同相干渉成分(I)の電気信号を出力し、フォトダイオード19は直交と逆直交の干渉光を差動受信してY偏波成分と局部発振光の直交干渉成分(Q)の電気信号を出力する。
【0018】
上記X偏波のIQ成分とY偏波のIQ成分は静電容量21a〜21d等の回路を用いて直流成分を除去されてADコンバータ22に供給されてデジタル化される。X偏波のIQ成分とY偏波のIQ成分のデジタル値は波長分散補償回路23においてデジタル処理により波長分散補償を行われる。その後、X偏波のIQ成分とY偏波のIQ成分のデジタル値は適応等化回路24でX偏波とY偏波の混合を補償する等の等化処理を行われたのち、更に、周波数オフセット除去回路25で周波数オフセットを除去されてXPM緩和回路26に供給される。
【0019】
XPM緩和回路26ではX偏波のIQ成分とY偏波のIQ成分それぞれにおけるXPMを緩和する補正を行う。XPM緩和回路26の出力するX偏波のIQ成分とY偏波のIQ成分は復調回路(DEMOD)に供給され、X偏波のIQ成分とY偏波のIQ成分それぞれについて例えばQPSK復調等の多値PSK復調が行われ、復調された信号が出力される。
【0020】
なお、図2において一点鎖線Iで囲まれる波長分散補償回路23〜XPM緩和回路26は、例えば1チップの半導体集積回路であるDSP(Digital Signal Processor)で構成される。この他に、二点鎖線IIで囲まれるADコンバータ22〜XPM緩和回路26を1チップの半導体集積回路に構成しても良い。
【0021】
<XPM緩和回路の構成>
図3はXPM緩和回路26の一実施形態の構成図を示す。図3において、端子31a,31bには周波数オフセット除去回路25からX偏波の受信位相データθx、Y偏波の受信位相データθyが供給される。ここで、受信位相データθx,θyは、M(QPSKの場合M=4)に対して十分大きな値であるN(N>>M)を用い、Nビットで表される値である。
【0022】
X偏波の受信位相データθxはヒストグラム処理部32a及び遅延部33aに供給される。ヒストグラム処理部32aは受信位相データθxのヒストグラムを作成し、X偏波が例えばQPSK変調されている場合には図4に示すようなコンスタレーションを得て仮判定位相推定部34aに供給する。図4において過去の複数の受信位相データθxを×印で示している。
【0023】
仮判定位相推定部34aには遅延部33aでヒストグラム処理部32aの処理時間だけ遅延されたX偏波の受信位相データθxが供給されている。仮判定位相推定部34aは受信位相データθxが図4に示すコンスタレーションに含まれる位相グループ#m(QPSK変調の場合m=1〜4の整数)のうち、どの位相グループに属するか、つまり、どの位相グループに最も近いかを推定して位相比較部35aに供給する。
【0024】
位相比較部35aは遅延部33aの出力を遅延部42aで仮判定位相推定部34aの処理時間だけ遅延して供給されるX偏波の受信位相データθxを位相グループ#mの中心(図4では●印で示す)の位相θmと比較して、受信位相データθxの変動成分Δθx(=θx−θm)を求める。この変動成分ΔθxはNビットで表される値であり、バッファメモリ37aに格納される。
【0025】
同様にして、Y偏波の受信位相データθyはヒストグラム処理部32b及び遅延部33bに供給される。ヒストグラム処理部32bは受信位相データθyのヒストグラムを作成し、Y偏波が例えばQPSK変調されている場合には図4に示すようなコンスタレーションを得て仮判定位相推定部34に供給する。
【0026】
仮判定位相推定部34bには遅延部33bでヒストグラム処理部32aの処理時間だけ遅延されたY偏波の受信位相データθyが供給されている。仮判定位相推定部34bは受信位相データθyがコンスタレーションに含まれる位相グループ#mのうち、どの位相グループに属するか、つまり、どの位相グループに最も近いかを推定して位相比較部35bに供給する。
【0027】
位相比較部35bは遅延部33bの出力を遅延部42bで仮判定位相推定部34bの処理時間だけ遅延して供給されるY偏波の受信位相データθyを位相グループ#mの中心の位相θmと比較して、受信位相データθyの変動成分Δθy(=θy−θm)を求める。この変動成分ΔθyはNビットで表される値であり、バッファメモリ37bに格納される。
【0028】
バッファメモリ37a,37bそれぞれから読み出された変動成分Δθx,Δθyはパターン比較及び位相補正処理部38内の時系列パターン比較部39に供給される。時系列パターン比較部39は同一シンボルにおけるX偏波の変動成分ΔθxとY偏波の変動成分Δθyを比較して、ΔθxとΔθyの変動パターン(例えば変動方向つまり符号)が共通つまり同一の場合に値1で、ΔθxとΔθyの変動パターン(例えば変動方向つまり符号)が異なる場合に値0となるタイミング信号を生成して位相補正処理部40a,40bに供給する。なお、バッファメモリ37a,37bは必ずしも設ける必要はない。
【0029】
ところで、XPMの影響を受ける偏波多重の位相変調光信号の位相変化量は、強度変調光信号と平行な位相変調光信号が受けるXPM−pと、強度変調光信号と垂直な位相変調光信号が受けるXPM−nである。XPMを起す原因となる強度変調光信号と、XPMの影響を受ける偏波多重の位相変調光信号が共に直線偏波である理想状態においても、XPM−n=1/3XPM−pである。しかし、光ファイバ伝送時には、ある程度楕円偏光になっているので、偏波多重の位相変調光信号の2つの偏光成分が受ける各XPMは、XPM−pとXPM−nとの差より小さな差であることが多い。このため、偏波多重の位相変調光信号の2つの偏光成分を用いて、XPMの影響を緩和できる。
【0030】
本実施形態では、ΔθxとΔθyの変動パターンが異なるシンボル期間には、2つの位相変調光信号のいずれか一方にXPMとは異なる原因のノイズが混入しているとみなして、2つの位相変調光信号の位相補正を行わない。そして、ΔθxとΔθyの変動パターンが同一のシンボル期間に、XPMによるノイズが混入しているとみなして2つの位相変調光信号の位相補正を行う。
【0031】
ここで、図5(A)にシンボル単位で変化するX偏波の送信位相を実線で示し、受信位相θxを破線で示す。また、図5(B)にシンボル単位で変化するY偏波の送信位相を実線で示し、受信位相θyを破線で示す。この場合、シンボル期間T1,T2ではΔθxとΔθyの変動方向が同一(+)であるため、タイミング信号は図5(C)に示すように値1となる。また、シンボル期間T3でもΔθxとΔθyの変動方向が同一(+)であるため、タイミング信号は図5(C)に示すように値1となる。
【0032】
位相補正処理部40aは時系列パターン比較部39からのタイミング信号と、バッファメモリ37aから読み出された変動成分Δθxと、遅延部33a出力を位相比較部35a,バッファメモリ37a,時系列パターン比較部39の処理時間だけ遅延部36aにて遅延されたX偏波の受信位相データθxが供給されている。位相補正処理部40aはタイミング信号が値1であるときに変動成分Δθxを抽出し、X偏波の受信位相データθxを抽出した変動成分Δθxに応じて補正し、補正後の位相データθx’を端子41aから出力する。
【0033】
同様に、位相補正処理部40bは時系列パターン比較部39からのタイミング信号と、バッファメモリ37bから読み出された変動成分Δθyと、遅延部33b出力を位相比較部35b,バッファメモリ37b,時系列パターン比較部39の処理時間だけ遅延部36bにて遅延されたY偏波の受信位相データθyが供給されている。位相補正処理部40bはタイミング信号が値1であるときに変動成分Δθyを抽出し、Y偏波の受信位相データθyを抽出した変動成分Δθyに応じて補正し、補正後の位相データθy’を端子41bから出力する。
【0034】
図10に多値波長強度変調信号に起因するXPMによる劣化を緩和する信号処理の概略フローチャートを示す。図10において、ステップS1ではM値の位相変調等の変調方式で、シンボル毎のM値より細かいNビットの位相変動パターンが、各偏波チャネル(X偏波、Y偏波)で同じ傾向であるシンボル(タイムスロット)を特定する。次に、ステップS2でシンボル(タイムスロット)での位相変動を各偏波チャネル毎に独立に弱め、XPMによる劣化を緩和する。そして、ステップS3で位相雑音つまりXPMによる劣化を緩和したNビットの位相データ(位相信号)を出力する。
【0035】
<パターン比較及び位相補正処理部の第1実施形態>
図6はパターン比較及び位相補正処理部38の第1実施形態の構成図を示す。図6において、X偏波の変動成分ΔθxとY偏波の変動成分Δθyは乗算器51で乗算されて閾値判定部52に供給される。閾値判定部52は乗算値が所定の閾値(正の実数)以上であれば値1となり、乗算値が閾値未満であれば値0となるタイミング信号を出力する。つまり、乗算器51,閾値判定部52が時系列パターン比較部39に対応する。
【0036】
X偏波の変動成分Δθxは遅延素子53で乗算器51と閾値判定部52の処理時間τ1だけ遅延されて乗算器55に供給され、乗算器55においてタイミング信号と乗算され、次段の乗算器57に供給される。これにより、タイミング信号が値1のときにのみX偏波の変動成分Δθxが乗算器57に供給される。
【0037】
同様に、Y偏波の変動成分Δθyは遅延素子54で乗算器51と閾値判定部52の処理時間τ1だけ遅延されて乗算器56に供給され、乗算器56においてタイミング信号と乗算され、次段の乗算器58に供給される。これにより、タイミング信号が値1のときにのみY偏波の変動成分Δθyが乗算器58に供給される。
【0038】
乗算器57はタイミング信号が値1のときの変動成分Δθxに調整係数kxを乗算して減算器59に供給する。減算器59はX偏波の受信位相データθxから乗算器57出力を減算することで受信位相データθxの補正処理を行い、補正後の位相データθx’を出力する。
【0039】
乗算器58はタイミング信号が値1のときの変動成分Δθyに調整係数kyを乗算して減算器60に供給する。減算器60はY偏波の受信位相データθyから乗算器58出力を減算することで受信位相データθyの補正処理を行い、補正後の位相データθy’を出力する。つまり、乗算器55,57,減算器59が位相補正処理部40aに対応し、乗算器56,58,減算器60が位相補正処理部40bに対応する。この実施形態では、抽出手段が一例としてヒストグラム処理部32a,32b,仮判定位相推定部34a,34b,位相比較部35a,35b,バッファメモリ37a,37b,時系列パターン比較部39,乗算器55,56等で構成され、補正手段が一例として乗算器57,58減算器59,60等で構成されている。
【0040】
なお、調整係数kx,kyは定数に限らず、受信信号から復号された信号のBER(Bit Error Rate)等に基づいて可変制御することも可能である。
【0041】
<パターン比較及び位相補正処理部の第2実施形態>
図7はパターン比較及び位相補正処理部38の第2実施形態の構成図を示す。図7において、X偏波の変動成分ΔθxとY偏波の変動成分Δθyは相互相関演算部61に供給されて、連続するn(nは2以上の整数)シンボル分のΔθxとΔθy間の相互相関係数を求めて閾値判定部62に供給する。相互相関係数は、例えば相関が高い場合に1に近付き、相関が低い場合に0に近付く値である。閾値判定部62は相互相関係数が所定の閾値(例えば0.5)以上であれば値1となり、相互相関係数が閾値未満であれば値0となるタイミング信号を出力する。つまり、相互相関演算部61,閾値判定部62が時系列パターン比較部39に対応する。
【0042】
X偏波の変動成分Δθxは遅延素子63で相互相関演算部61と閾値判定部62の処理時間τ2だけ遅延されて乗算器65に供給され、乗算器65においてタイミング信号と乗算され、次段の乗算器67に供給される。これにより、タイミング信号が値1のときにのみX偏波の変動成分Δθxが乗算器67に供給される。
【0043】
同様に、Y偏波の変動成分Δθyは遅延素子64で相互相関演算部61と閾値判定部62の処理時間τ2だけ遅延されて乗算器66に供給され、乗算器66においてタイミング信号と乗算され、次段の乗算器68に供給される。これにより、タイミング信号が値1のときにのみY偏波の変動成分Δθyが乗算器68に供給される。
【0044】
乗算器67はタイミング信号が値1のときの変動成分Δθxに調整係数kxを乗算して減算器69に供給する。減算器69はX偏波の受信位相データθxから乗算器67出力を減算することで受信位相データθxの補正処理を行い、補正後の位相データθx’を出力する。
【0045】
乗算器68はタイミング信号が値1のときの変動成分Δθyに調整係数kyを乗算して減算器70に供給する。減算器70はY偏波の受信位相データθyから乗算器68出力を減算することで受信位相データθyの補正処理を行い、補正後の位相データθy’を出力する。つまり、乗算器65,67,減算器69が位相補正処理部40aに対応し、乗算器66,68,減算器70が位相補正処理部40bに対応する。この実施形態では、抽出手段が一例としてヒストグラム処理部32a,32b,仮判定位相推定部34a,34b,位相比較部35a,35b,バッファメモリ37a,37b,時系列パターン比較部39,乗算器65,66等で構成され、補正手段が一例として乗算器67,68,減算器69,70等で構成されている。
【0046】
なお、調整係数kx,kyは定数に限らず、受信信号のBER等に基づいて可変制御することも可能である。
【0047】
<パターン比較及び位相補正処理部の第3実施形態>
図8はパターン比較及び位相補正処理部38の第3実施形態の構成図を示す。図8において、図6と同一部分には同一符号を付す。図8において、X偏波の変動成分Δθxは低域フィルタ(LPF)71を通して乗算器51及び遅延素子53に供給され、Y偏波の変動成分Δθyは低域フィルタ72を通して乗算器51及び遅延素子54に供給される。
【0048】
これは、XPMがXPM発生原因の強度変調信号の数分の1の周波数帯域で充分に小さくなるので、強度変調信号帯域より狭い周波数帯域の変動成分Δθx,Δθyを、低域フィルタ71,72で取り出すことでXPMの影響を強調して信号処理するためである。低域フィルタ71,72は例えばFIR(Finite Impulse Response:有限インパルス応答)フィルタ等で実現し、フィルタの遮断周波数を決定するフィルタ係数は、偏波多重の位相変調光信号と強度変調光信号が光伝送路を共有して伝送されることで生じるXPM(相互位相変調)の周波数特性に応じて決定する。
【0049】
低域フィルタ71,72を通した変動成分Δθx,Δθyは乗算器51で乗算されて閾値判定部52に供給される。閾値判定部52は乗算値が所定の閾値(正の実数)以上であれば値1となり、乗算値が閾値未満であれば値0となるタイミング信号を出力する。つまり、低域フィルタ71,72,乗算器51,閾値判定部52が時系列パターン比較部39に対応する。
【0050】
低域フィルタ71の出力するX偏波の変動成分Δθxは遅延素子53で乗算器51と閾値判定部52の処理時間τ1だけ遅延されて乗算器55に供給され、乗算器55においてタイミング信号と乗算され、次段の乗算器57に供給される。これにより、タイミング信号が値1のときにのみX偏波の変動成分Δθxが乗算器57に供給される。
【0051】
同様に、低域フィルタ72の出力するY偏波の変動成分Δθyは遅延素子54で乗算器51と閾値判定部52の処理時間τ1だけ遅延されて乗算器56に供給され、乗算器56においてタイミング信号と乗算され、次段の乗算器58に供給される。これにより、タイミング信号が値1のときにのみY偏波の変動成分Δθyが乗算器58に供給される。
【0052】
乗算器57はタイミング信号が値1のときの変動成分Δθxに調整係数kxを乗算して減算器59に供給する。減算器59はX偏波の受信位相データθxから乗算器57出力を減算することで受信位相データθxの補正処理を行い、補正後の位相データθx’を出力する。
【0053】
乗算器58はタイミング信号が値1のときの変動成分Δθyに調整係数kyを乗算して減算器60に供給する。減算器60はY偏波の受信位相データθyから乗算器58出力を減算することで受信位相データθyの補正処理を行い、補正後の位相データθy’を出力する。つまり、乗算器55,57,減算器59が位相補正処理部40aに対応し、乗算器56,58,減算器60が位相補正処理部40bに対応する。この実施形態では、抽出手段が一例としてヒストグラム処理部32a,32b,仮判定位相推定部34a,34b,位相比較部35a,35b,バッファメモリ37a,37b,時系列パターン比較部39,低域フィルタ71,72,乗算器55,56等で構成され、補正手段が一例として乗算器57,58減算器59,60等で構成されている。
【0054】
なお、調整係数kx,kyは定数に限らず、受信信号のBER(Bit Error Rate)等に基づいて可変制御することも可能である。
【0055】
<パターン比較及び位相補正処理部の第4実施形態>
図9はパターン比較及び位相補正処理部38の第4実施形態の構成図を示す。図9において、図8と同一部分には同一符号を付す。図9において、X偏波の変動成分Δθxは1×2スイッチ73に供給される。スイッチ73はX偏波の変動成分Δθxを、低域フィルタ71を通して2×1スイッチ74に供給するか、又は、低域フィルタ71をバイパスして2×1スイッチ74に供給するかを選択する。また、スイッチ74は低域フィルタ71を通した変動成分Δθxと、低域フィルタ71をバイパスした変動成分Δθxとのいずれか一方を選択して乗算器51及び遅延素子53に供給する。
【0056】
同様に、スイッチ75はY偏波の変動成分Δθyを、低域フィルタ72を通して2×1スイッチ76に供給するか、又は、低域フィルタ72をバイパスして2×1スイッチ76に供給するかを選択する。また、スイッチ76は低域フィルタ72を通した変動成分Δθyと、低域フィルタ72をバイパスした変動成分Δθyのいずれか一方を選択して乗算器51及び遅延素子54に供給する。
【0057】
図9において、スイッチ74,75以降の回路は図8と同一であるため、その動作説明を省略する。
【0058】
このように、低域フィルタを通過した信号とバイパスした信号を切替える理由は、光ファイバ伝送路が通常のSMF(Single Mode Fiber)と分散補償光ファイバによって構成される場合には、XPMはXPM発生原因の強度変調信号の数分の1の周波数帯域で充分小さくなるので、強度変調信号帯域より狭い周波数帯域を考慮すれば良いので、低域フィルタを通してXPMの影響を強調して信号処理する効果がある。
【0059】
しかし、光ファイバ伝送路が波長分散の小さいDSF(分散シフト光ファイバ)で構成される場合には、XPMは広い帯域に渡って強度が大きいので、XPMの発生原因である強度変調信号の帯域全体を考慮するために低域フィルタを設けない構成とする必要があるためである。このため、光ファイバ伝送路に応じてスイッチ73〜76それぞれの切替えを設定して、低域フィルタを通過した信号とバイパスした信号のいずれを選択するかを決定する。
【0060】
なお、低域フィルタ71,72をFIRフィルタ等のデジタルフィルタで構成している場合には、スイッチ73〜76を設ける代りに、低域フィルタ71,72のフィルタ係数を変更することで全周波数帯域の信号を通過するように切替えることも可能である。
【0061】
また、、XPMの周波数特性については、例えば参考文献:T.K.Chiang,N.Kagi,M.E.Marhic,L.G.Kazovsky,“Cross−Phase Modulation in Fiber Links with Multiple Optical Amplifiers and Dispersion Compensators”,Journal of Lightwave Technology,Volume:14,Issue:3,On page(s):249(1996)等に記載されている。
【0062】
なお、上記実施形態では低域フィルタ71,72を使用しているが、時間領域の信号である受信位相データθx、θyを周波数領域の信号に変換して低域フィルタと同等の処理を行う構成としても良い。
(付記1)
偏波多重された位相変調光信号のコヒーレント受信を行う受信機において、
前記コヒーレント受信で分離された2つの偏波成分の位相データに共通する位相変動成分を抽出する抽出手段と、
前記2つの偏波成分の位相データを、前記抽出手段で抽出された前記2つの偏波成分の位相変動成分に応じて変化させる補正手段と、
を有することを特徴とする受信機。
(付記2)
付記1記載の受信機において、
前記抽出手段は、前記2つの偏波成分の位相データと、前記2つの偏波成分の複数シンボルの位相データから仮判定した位相の推定値との位相差をシンボル単位で求めて時系列の位相変動成分とし、前記2つの偏波成分の位相変動成分の乗算値が所定の閾値を超えた場合に前記2つの偏波成分の位相変動成分を抽出する
ことを特徴とする受信機。
(付記3)
付記1記載の受信機において、
前記抽出手段は、前記2つの偏波成分の位相データと、前記2つの偏波成分の複数シンボルの位相データから仮判定した位相の推定値との位相差をシンボル単位で求めて時系列の位相変動成分とし、連続する複数シンボルについて前記2つの偏波成分の位相変動成分の相互相関係数を求め、前記相互相関係数が所定の閾値を超えて相互相関が高い場合に前記2つの偏波成分の位相変動成分を抽出する
ことを特徴とする受信機。
(付記4)
付記1記載の受信機において、
前記抽出手段は、前記2つの偏波成分の位相データと、前記2つの偏波成分の複数シンボルの位相データから仮判定した位相の推定値との位相差をシンボル単位で求めて時系列の位相変動成分とし、前記2つの偏波成分の位相変動成分それぞれを帯域制限した後の乗算値が所定の閾値を超えた場合に前記2つの偏波成分の位相変動成分を抽出する
ことを特徴とする受信機。
(付記5)
付記1記載の受信機において、
前記抽出手段は、前記2つの偏波成分の位相データと、前記2つの偏波成分の複数シンボルの位相データから仮判定した位相の推定値との位相差をシンボル単位で求めて時系列の位相変動成分とし、前記2つの偏波成分の位相変動成分それぞれを低域フィルタで帯域制限した後の乗算値が所定の閾値を超えた場合に前記2つの偏波成分の位相変動成分を抽出する
ことを特徴とする受信機。
(付記6)
付記2乃至5のいずれか1項に記載の受信機において、
前記補正手段は、前記抽出手段で抽出された前記2つの偏波成分の前記共通する位相変動成分に調整係数を乗算して前記2つの偏波成分の位相データから減算して、前記位相データを変化させる
ことを特徴とする受信機。
(付記7)
偏波多重された位相変調光信号のコヒーレント受信を行う受信機の相互位相変調緩和方法において、
前記コヒーレント受信で分離された2つの偏波成分の位相データに共通する位相変動成分を抽出し、
前記2つの偏波成分の位相データを、抽出された前記2つの偏波成分の位相変動成分に応じて変化させる
ことを特徴とする相互位相変調緩和方法。
(付記8)
付記5記載の受信機において、
前記低域フィルタの周波数特性は、前記偏波多重された位相変調光信号が伝送される光伝送路を共有する強度変調光信号による相互位相変調の周波数特性に応じて決定する
ことを特徴とする受信機。
(付記9)
付記6記載の受信機において、
前記調整係数は、前記位相変調光信号から復号された信号のエラーレートに応じて決定する
ことを特徴とする受信機。
【符号の説明】
【0063】
11 偏波分離器
12,13 光位相ハイブリッド
14 局部発振光源
15 光分波器
16〜19 フォトダイオード
21a〜21d フォトダイオード
22 ADコンバータ
23 波長分散補償回路
24 適応等化回路
25 周波数オフセット除去回路
26 XPM緩和回路
27 復調回路
32a,32b ヒストグラム処理部
33a,33b,42a,42b 遅延部
34a,34b 仮判定位相推定部
35a,35b 位相比較部
37a,37b バッファメモリ
38 パターン比較及び位相補正処理部38
39 時系列パターン比較部
40a,40b 位相補正処理部
51,55〜58,61,65〜68 乗算器
52,62 閾値判定部
53,54,63,64 遅延素子
59,60,69,70 減算器
61 相互相関演算部
71,72 低域フィルタ
73〜76 スイッチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏波多重された位相変調光信号のコヒーレント受信を行う受信機において、
前記コヒーレント受信で分離された2つの偏波成分の位相データに共通する位相変動成分を抽出する抽出手段と、
前記2つの偏波成分の位相データを、前記抽出手段で抽出された前記2つの偏波成分の位相変動成分に応じて変化させる補正手段と、
を有することを特徴とする受信機。
【請求項2】
請求項1記載の受信機において、
前記抽出手段は、前記2つの偏波成分の位相データと、前記2つの偏波成分の複数シンボルの位相データから仮判定した位相の推定値との位相差をシンボル単位で求めて時系列の位相変動成分とし、前記2つの偏波成分の位相変動成分の乗算値が所定の閾値を超えた場合に前記2つの偏波成分の位相変動成分を抽出する
ことを特徴とする受信機。
【請求項3】
請求項1記載の受信機において、
前記抽出手段は、前記2つの偏波成分の位相データと、前記2つの偏波成分の複数シンボルの位相データから仮判定した位相の推定値との位相差をシンボル単位で求めて時系列の位相変動成分とし、連続する複数シンボルについて前記2つの偏波成分の位相変動成分の相互相関係数を求め、前記相互相関係数が所定の閾値を超えて相互相関が高い場合に前記2つの偏波成分の位相変動成分を抽出する
ことを特徴とする受信機。
【請求項4】
請求項1記載の受信機において、
前記抽出手段は、前記2つの偏波成分の位相データと、前記2つの偏波成分の複数シンボルの位相データから仮判定した位相の推定値との位相差をシンボル単位で求めて時系列の位相変動成分とし、前記2つの偏波成分の位相変動成分それぞれを帯域制限した後の乗算値が所定の閾値を超えた場合に前記2つの偏波成分の位相変動成分を抽出する
ことを特徴とする受信機。
【請求項5】
請求項1記載の受信機において、
前記抽出手段は、前記2つの偏波成分の位相データと、前記2つの偏波成分の複数シンボルの位相データから仮判定した位相の推定値との位相差をシンボル単位で求めて時系列の位相変動成分とし、前記2つの偏波成分の位相変動成分それぞれを低域フィルタで帯域制限した後の乗算値が所定の閾値を超えた場合に前記2つの偏波成分の位相変動成分を抽出する
ことを特徴とする受信機。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか1項に記載の受信機において、
前記補正手段は、前記抽出手段で抽出された前記2つの偏波成分の前記共通する位相変動成分に調整係数を乗算して前記2つの偏波成分の位相データから減算して、前記位相データを変化させる
ことを特徴とする受信機。
【請求項7】
偏波多重された位相変調光信号のコヒーレント受信を行う受信機の相互位相変調緩和方法において、
前記コヒーレント受信で分離された2つの偏波成分の位相データに共通する位相変動成分を抽出し、
前記2つの偏波成分の位相データを、抽出された前記2つの偏波成分の位相変動成分に応じて変化させる
ことを特徴とする相互位相変調緩和方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−253655(P2012−253655A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126143(P2011−126143)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】