説明

受信装置

【課題】マルチパスにより、パイロット信号が減衰する場合、パイロット信号を用いて搬送波再生を行う際に、周波数位相誤差検出で誤差検出の精度が悪くなること。
【解決手段】マルチパス遅延検出器で検出したマルチパスの遅延量、希望波と妨害波のD/Uを検出して、マルチパス特性と逆特性の伝達関数をもつフィルタを通して、マルチパスによってパイロット信号が減衰しても、上記フィルタでパイロット信号を増幅させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上デジタル受信機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
北米の地上デジタル放送はATSC方式が採用されており、8VSB変調された信号が送信されている。図10にATSC方式で送信されるデータのフォーマットを示す。送信されるデータは8値の振幅でシンボル化された832個のデータを1セグメントとし、313セグメントで1フィールドを形成している。各フィールドの最初のセグメントには既知のフィールド同期信号が付加されており、各セグメントの先頭から4シンボルは既知のセグメント同期信号が付加されている。このフィールド同期信号、セグメント同期信号以外の部分に映像や音声などの情報を含むシンボルが含まれている。ATSC方式を受信するテレビ受信機の構成は非特許文献1に記載の図9.1の通りであり、8VSB変調信号に付加されているパイロット信号を用いてキャリア再生を行い、地上デジタル放送送信時に発生するマルチパス妨害を受信機のイコライザで除去し、誤り訂正を行った後に、フィールド同期、とグメント同期信号を取り除いた映像や音声などをトランスポートストリーム(TS)として出力する機能をもつ。
【0003】
従来のような受信装置では、パイロットキャリアから検出した位相誤差とセグメント同期信号を使用して検出した位相誤差を加算した位相誤差を使用してキャリア再生を行っている(例えば、特許文献1または特許文献2に記載)。セグメント同期信号を使用して位相誤差を検出している理由は、マルチパスによって発生する位相オフセット(位相誤差)を取り除くためである。
【非特許文献1】GUIDE TO THE USE OF THE ATSC DIGITAL TELEVISION STANDARD(Doc.A/54A)
【特許文献1】特開2001−168931号公報
【特許文献2】特開2001−168932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上述の従来技術によると、マルチパスによってパイロットキャリアが減衰してしまう場合、パイロットキャリアを検知できないことがあり、その結果、パイロットキャリアから検出した位相誤差に誤りが発生するという課題があった。
【0005】
上記課題を解決する為に、本発明は、マルチパスが存在する環境においても正確にパイロットキャリアを検出することで、パイロットキャリアから検出する位相誤差を正確に検出する受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 第1の発明
第1の発明に係る受信装置は、放送波を受信し複素デジタル信号に変換する放送波変換手段と、周波数誤差量に基づき複素デジタル信号の周波数を補正し、周波数補正複素デジタル信号として出力する周波数補正器と、周波数補正複素デジタル信号を更新可能なフィルタ係数によりフィルタリングし、フィルタ補正複素デジタル信号として出力するフィルタと、位相誤差量に基づきフィルタ補正複素デジタル信号の位相を補正し、位相補正複素デジタル信号として出力する位相補正器と、位相補正複素デジタル信号に基づき、位相誤差量及び周波数誤差量を検出する周波数位相誤差検出器と、マルチパスの遅延及び誤差と、希望波とマルチパスのパワー比を検出し、前記フィルタに出力する遅延プロファイル検出器とを備え、前記フィルタのフィルタ係数は前記遅延プロファイル検出器で検出したマルチパスの遅延及び誤差と、希望波とマルチパスのパワー比に基づいて設定されることを特徴とする。
【0007】
これにより、パイロットキャリアを元に位相誤差と検出し、位相誤差を補正する搬送波再生器の位相誤差検出精度を向上させることが可能となる。
【0008】
(2) 第2の発明
第2の発明に係る受信装置は、第一の発明に係る受信装置の構成に加え、前記フィルタのフィルタ係数は、前記遅延プロファイル検出器で前記遅延プロファイル検出器で検出したマルチパスの遅延及び誤差と、希望波とマルチパスのパワー比に基づいて設定されたのち、さらに所定の重みが積算されること特徴とする。
【0009】
これにより、パイロットキャリアを元に位相誤差と検出し、位相誤差を補正する搬送波再生器の位相誤差検出精度を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、マルチパスによってパイロットキャリアのパワーが小さくなった場合でもパイロットキャリアを元に検出された位相誤差の誤りを低減させることが可能となり、且つマルチパスによって発生する位相オフセットを取り除くことも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(実施の形態1)
図1に本発明の実施の形態1の受信装置の構成図を示す。図2に遅延プロファイル検出器の構成を示す。図3に遅延フロファイル検出器の相関値計算方法の概念図を示す。図4に遅延プロファイル検出器によって検出されたマルチパス遅延位相検出結果の一例を示す。
【0012】
図1を用いて本発明の構成について説明する。
【0013】
マルチパスを含んだ放送波がRF入力1から入力される。
【0014】
チューナ2ではRF入力1から入力されたマルチパスを含んだ放送波を中間周波(以下IFと記載する)信号に変換する。
【0015】
AD変換器3ではチューナ2でIF信号に変換されたマルチパスを含んだ放送波をデジタル信号に変換する。
【0016】
複素バンドパスフィルタ4は、AD変換器3でデジタル信号に変換されたデジタル信号を複素デジタル信号(実数データ(I)及び虚数データ(Q))に変換する。実数データ(I)と虚数データ(Q)は直交関係にある。
【0017】
複素乗算器5には、複素バンドパスフィルタ4により実数データ(I)と虚数データ(Q)に変換された複素デジタル信号が入力され、後述するNCO(Numerical Control Oscillator)6に周波数制御され、周波数補正複素デジタル信号としてフィルタ7に出力する。
【0018】
NCO6はsin、cosのROMテーブルを持ち、後述する周波数位相誤差検出器10によって検出された周波数誤差量とROMテーブルに基づき、複素乗算器5で周波数制御をする為の制御信号を送信する。
【0019】
フィルタ7は、後述する遅延プロファイル検出器11で検出されたマルチパスの遅延と位相、希望波とマルチパスのパワー比の情報を元にフィルタ係数を更新する。そして、複素乗算器5の出力である周波数補正複素デジタル信号がフィルタ7を通過し、フィルタ補正複素デジタル信号として複素乗算器8に出力する。
【0020】
複素乗算器8には、フィルタ7の出力であるフィルタ補正複素デジタル信号が入力され、後述するNCO9に位相制御され、位相補正複素デジタル信号を出力する。
【0021】
NCO9はsin、cosのROMテーブルを持ち、後述する周波数位相誤差検出器10によって検出された位相誤差量とROMテーブルに基づき、複素乗算器8で位相制御をする為の制御信号を送信する。
【0022】
周波数位相誤差検出器10は8VSB変調波に含まれるパイロットキャリアを用いてパイロットキャリアの周波数誤差及び位相誤差を検出する。
【0023】
位相補正複素デジタル信号は、クロック再生器12で送信機のシンボルクロックと同じ周波数位相になるようにデータを再生し、ロールオフフィルタ13で帯域制限した後、波形等化器14では送信機から受信機の間で発生したマルチパスなどによる伝送歪を除去する。
【0024】
遅延プロファイル検出器11ではロールオフフィルタ13の出力結果を元に、マルチパスの遅延と位相、希望波とマルチパスのパワー比を検出し、フィルタ7に出力する。
【0025】
次に、遅延プロファイル検出器11で検出されたマルチパスの遅延と位相、希望波と遅延波の比に基づくフィルタ7のフィルタ係数の決定方法について図2を用いて説明する。
【0026】
まず、遅延プロファイル検出器11には図3に示すように、非特許文献1に記載されている既知のパターン(PN511、PN63)からなるフィールド同期信号の一部のデータ(例えば256シンボル)の実数データc(t)が入力される。また、ヒルベルト変換器17は、実数データc(t)をヒルベルト変換し、虚数データd(t)を出力する。
【0027】
複素乗算器22には、複素乗算器5出力の実数データa(t)及び虚数データb(t)、上記実数データc(t)及び虚数データd(t)が入力され、実数データはai(t)×ci(t)−bi(t)×di(t)、虚数データはai(t)×di(t)+bi(t)×ci(t)として出力される。
【0028】
加算器25では相関を取るデータ分(例えば256シンボル(i=256))を加算してマルチパス遅延位相検出器28に入力する。図3を用いて複素乗算器22から加算器25までの計算をさらに詳細に説明すると、時間tにおいて256シンボル区間の実数データの実数部相関値と虚数データの虚数部相関値、つまり加算器25から出力されるデータは(数1)により計算され、これを各時間で計算する。
【0029】
【数1】

【0030】
ここで、フィールド同期信号の一部のデータ(256シンボル)16が図3のセグメント同期信号4シンボルとPN511の252シンボルの計256シンボルである場合における加算器25の出力について、マルチパスが含まれない場合、マルチパスにより希望波以外に、1シンボル遅延(1シンボル=10.76MHz)、位相0度、希望波と遅延波のパワー比が1の遅延波が存在した場合、マルチパスにより希望波以外に、1シンボル遅延(1シンボル=10.76MHz)、位相θ、希望波と遅延波のパワー比が1の遅延波が存在した場合、の3例について具体的に示す。
【0031】
まず、マルチパスが含まれない場合は図4の時間Tのときに(数1)で計算された値の実数データが最大値となる。これを横軸遅延量、縦軸希望波に対する遅延波のパワー比で表すと、1つの大きなピーク値が表れる。
【0032】
一方、マルチパスにより希望波以外に1シンボル遅延(1シンボル=10.76MHz)、位相0度、希望波と遅延波のパワー比が1の遅延波が存在した場合には、図5に示すように(数1)で計算された値の実数データは時間Tと時間T+1/10.76usecに2つのピーク値が表れる。
【0033】
またマルチパスにより希望波以外に1シンボル遅延(1シンボル=10.76MHz)、位相θ、希望波と遅延波のパワー比が1の遅延波が存在した場合には、図6に示すように(数1)で計算された値は時間Tと時間T+1/10.76usecに2つのピーク値が表れる。また、遅延波は希望波に対して位相θ傾いているので、遅延波の実数データと虚数データは図6の実線に示すようになる。
【0034】
次に、マルチパス遅延位相検出器28では、加算器28で計算した実数データの実数部相関値と虚数データの虚数部相関値に基づき、フィルタ7に入力される信号に対して、希望波のみを抽出し妨害波を除去するようにフィルタ7のフィルタ係数を設定する。
【0035】
次に、具体例として希望波{a(t)+j×0}に対して遅延波が{a(t)+j×0}z^(−1)が(z^(−1)は1シンボル遅延)が加わったマルチパスがRF入力1に入力された場合の、本発明におけるフィルタ7のフィルタ係数が決定されるまでの動作を説明する。
【0036】
上記のような遅延波が加わったマルチパスがRF入力1に入力された場合、複素乗算器8の出力のスペクトラム波形が図7のようにパイロットキャリアの周波数成分が減衰し、パイロットキャリアの振幅が小さくなる。このため、マルチパスが加わった状態で周波数位相誤差検出器10において周波数位相誤差検出を行うと、パイロットキャリアを用いて周波数位相誤差を検出している周波数位相誤差検出器10で周波数位相誤差検出結果に誤りが生じる。
【0037】
この誤りを減らすためにマルチパスの遅延波の成分{a(t)+j×0}z^(−1)を取り除き、希望波{a(t)+j×0}の成分のみになるように、フィルタ7のフィルタ係数を適切に設定する。具体的には、加算器25で図5に示す実数データの実数部相関値と虚数データの虚数部相関値が算出されると、マルチパス遅延位相検出器28はフィルタ7の実数部のフィルタ特性が(数2)のような伝達関数をもつフィルタ特性になるようにフィルタ7の係数を設定する。
【0038】
【数2】

【0039】
希望波{a(t)+j×0}に遅延波の成分{a(t)+j×0}が加わったマルチパスa(t)(1+z^(−1))が上記のように設定されたフィルタ特性を持つフィルタ7を通過すると、(数3)の通りに計算され、マルチパスの遅延波の成分を除去することが可能となる。
【0040】
【数3】

【0041】
これにより、スペクトラム波形は図8のようになり、パイロットキャリアを元の振幅に戻すことができる。
【0042】
このようにマルチパスを除去した後に周波数位相誤差検出器10で周波数位相誤差検出を行うと、図8に示すようにパイロットキャリアの周波数成分のパワーが増えるため、正確にパイロットキャリアを検出することで、周波数位相誤差検出結果に誤りが生じなくなる。
【0043】
ここでフィルタ7の具体的な構成の一例を図9に示す。図9はFn(但し、n=0〜t)を1ブロックとして、(t+1)段のIIRフィルタである。31,32、33、34、35、36は遅延器、49、50、51、52、53は加算器、43、44、45、46、47、48は乗算器、54、55、56は減算器である。
【0044】
このような構成のフィルタ7において、数2のフィルタ特性を実現する為には、CR0=1、CI0=CR1=CI1=・・・=CRt=CIt=0とすればよい。
【0045】
なお、本実施の形態では、フィルタ係数CR0=1、CI0=CR1=CI1=・・・=CRt=CIt=0であるが、遅延波に依存する係数CR0の値に固定値αをかけて、フィルタ係数に重み付けをいって、遅延波の成分を残しても良い。その場合のフィルタ7の出力は(数4)となり、遅延波のパワーをフィルタ7で小さくすることにより、パイロットキャリアを増幅させることが可能となる。
【0046】
【数4】

【0047】
なお、以下に請求項の各構成要素と実施の形態の各構成部との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
【0048】
上記実施の形態においては、RF入力1、チューナ2、AD変換器3及び複素バンドパスフィルタ4が放送波変換手段に相当し、複素乗算器5及びNCO6が周波数補正器に相当し、フィルタ7がフィルタに相当し、複素乗算器8及びNCO9が位相補正器に相当し、周波数位相制御誤差検出器10が周波数位相誤差検出器に相当し、遅延プロファイル検出器11が遅延プロファイル検出器に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に関わるケーブルテレビ受信装置は、映像音声などをFAT Channelで送信し、且つ番組情報、鍵情報などをFDC Channnelで送信するケーブルテレビ信号を受信することができるケーブルテレビ受信装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態1における受信装置の構成図
【図2】本発明の実施の形態1における受信装置の遅延プロファイル検出器の構成図
【図3】本発明の実施の形態1における受信装置の遅延プロファイル検出器の相関値計算方法の概念図
【図4】本発明の実施の形態1における受信装置で、マルチパスが含まれない場合の遅延プロファイル検出器の相関値計算結果図
【図5】本発明の実施の形態1における受信装置で、1シンボル遅延のマルチパスが含まれる場合の遅延プロファイル検出器の相関値計算結果図
【図6】本発明の実施の形態1における受信装置で、1シンボル遅延で位相θずれたマルチパスが含まれる場合の遅延プロファイル検出器の相関値計算結果図
【図7】マルチパスによってパイロット信号が減衰する場合のスペクトラム波形図
【図8】フィルタ7を通過したスペクトラム波形図
【図9】本発明の実施の形態1における受信装置のフィルタの構成図
【図10】ATSC方式で送信されるデータのフォーマット図
【符号の説明】
【0051】
1 RF入力
2 チューナ
3 AD変換器
4 複素バンドパスフィルタ
5 複素乗算器
6 NCO
7 フィルタ
8 複素乗算器
9 NCO
10 周波数位相制御誤差検出器
11 遅延プロファイル検出器
12 クロック再生
13 ロールオフフィルタ
14 波形等化器
17 ヒルベルト変換器
22 複素乗算器
25 加算器
28 マルチパス遅延検出器
29 加算器
30 加算器
49〜53 加算器
31〜36 遅延器
43〜48 乗算器
54〜56 減算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放送波を受信し複素デジタル信号に変換する放送波変換手段と、
周波数誤差量に基づき複素デジタル信号の周波数を補正し、周波数補正複素デジタル信号として出力する周波数補正器と、
周波数補正複素デジタル信号を更新可能なフィルタ係数によりフィルタリングし、フィルタ補正複素デジタル信号として出力するフィルタと、
位相誤差量に基づきフィルタ補正複素デジタル信号の位相を補正し、位相補正複素デジタル信号として出力する位相補正器と、
位相補正複素デジタル信号に基づき、位相誤差量及び周波数誤差量を検出する周波数位相誤差検出器と、
マルチパスの遅延及び誤差と、希望波とマルチパスのパワー比を検出し、前記フィルタに出力する遅延プロファイル検出器とを備え、
前記フィルタのフィルタ係数は前記遅延プロファイル検出器で検出したマルチパスの遅延及び誤差と、希望波とマルチパスのパワー比に基づいて設定されることを特徴とする受信装置。
【請求項2】
前記フィルタのフィルタ係数は、
前記遅延プロファイル検出器で前記遅延プロファイル検出器で検出したマルチパスの遅延及び誤差と、希望波とマルチパスのパワー比に基づいて設定されたのち、さらに所定の重みが積算されること特徴とする請求項1に記載の受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−182300(P2008−182300A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12285(P2007−12285)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】