説明

受理層形成方法及び被塗布物

【課題】受理層の膜厚をより均一にして歩留まりを向上すると共に見栄えを良くする。
【解決手段】リング状の基板1Aの印刷面5の内周側及び外周側境界領域5a、5bに、第一凹溝5A、5E及び第一凸部5B,5F、その外側に第二凹溝5C,5G及び第二凸部5D、5Hを形成する。複数のノズル部からなるノズルで第一凸部5B、5Fで囲まれた領域に水系塗布液を塗布する。ノズルは境界領域での塗布量不足を補うために第一凸部5B,5Fの外側に距離xだけ突出させた領域まで水系塗布液を塗布する。第一凸部5B,5Fの内側に受理層を形成するための塗膜6Aが形成される。一部の水系塗布液は第一凸部5B,5Fを越えて流れるが、第二凹溝や第二凸部で堰き止めて溜める。塗膜6Aは第一凹溝5A、5Eでの膜厚が中央領域5cでの膜厚と同等以上であるため、乾燥時にヒケや流動を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗布物の表面にインク等の受理層を形成する受理層形成方法及び受理層を形成した被塗布物に関し、例えば水、各種アルコール等を溶媒とする塗布液を、被塗布物、特には塗布液を吸収しない平板状の被塗布物表面に塗布して塗膜を形成した後に乾燥させることによって、塗膜を受理層として形成する受理層形成方法及び被塗布物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック製シートや基板等の溶剤非吸収性の平板状被塗布物に対して塗布液を一定領域に塗布して乾燥させ、均一な機能性塗膜を形成することが行われている。とくにOHPシートや光ディスク表面に塗布液を塗布してなるインク受理層用の塗膜形成は、インク非吸収性の被塗布物上へ印刷を行う手段として、各種の受理層の構成やその形成方法が報告されている。特に光ディスク分野では、受理層の改良による印刷画像の高画質化、トータルコストの低価格化が望まれている。
従来、光ディスクとして予め情報(コンテンツ)が記録されたROM(Read Only Memory)タイプのCDやDVD等が知られている。これらの光ディスクのうち例えばDVDではPC(ポリカーボネート)製のディスク基板の一方の面に情報記録層を形成し、その上に接着剤層を介して他のディスク基板を貼り合わせた構成を有している。或いは、他のディスク基板の接着剤層に接した面に更にもう一つの情報記録層を設けた二層の情報記録層を有する構造を有していてもよい。そして貼り合わせられたディスク基板を挟んで情報記録層、または接着剤層と対向する他方の面にはレーベルが取り付けられてDVD等に関する写真や絵やタイトル等の各種の情報が印刷されている。
従来はレーベルとして、例えばディスク基板上にオフセット印刷等で情報を記録した紙を貼付したり、あるいは直接ディスク基板上にオフセット印刷やスクリーン印刷等が行われていた。オフセット印刷による紙等のレーベルは大量に印刷されてディスクに貼付され、あるいは直接的なオフセット印刷、スクリーン印刷等の印刷方法等と共に、大量生産されるDVD等の各種ディスクに採用されていた。
【0003】
ところで、近年、DVD等の光ディスクは数百枚から数千枚単位で生産する多品種少量生産の需要が高くなってきている。これら少量のDVD等のレーベルに上述したオフセット印刷等で情報を記録するのは、編集、製版、色合わせ等の下処理を必要とするためにコストが著しく高くなり不向きであった。このような少量生産の光ディスクの場合、パソコン等で処理したデジタル画像を編集、製版、色合わせ等を行わずに、直接インクジェット印刷等で光ディスク表面の受理層上に印刷する、オンデマンド印刷またはデジタル印刷が行われていた。
オンデマンド印刷やデジタル印刷を行う場合、インクジェット印刷された画像の優劣は受理層の品質性能に左右され、高性能の受理層を用いるならば写真画質と同レベルの鮮明画像を得ることも可能となっている。
【0004】
また、光ディスクには上述のROMタイプの他に、ユーザが自由に情報を記録することができる記録型タイプがあり、更に一回だけ記録可能なRタイプ、繰り返し記録可能なRWタイプ及びRAMタイプ等が知られている。これらの記録型光ディスクでは、従来は印刷されたレーベルが貼付されていた表面に、インクジェットを吸収する受理層が設けられたものが市場に多く出回るようになってきた。これらの光ディスクは「プリンタブルディスク」とも呼ばれ、使用者が一般に市販されている安価なインクジェットプリンタを用いて自由な絵柄を印刷できるようになっている。
例えば下記特許文献1記載の受理層を形成した記録ディスクでは、光ディスクの表面にUV硬化性モノマーやUV硬化性オリゴマーと水溶性・親水性樹脂であるポリビニルアルコールを含有した塗工インキを塗布して紫外線硬化させて受理層を形成している。
【0005】
一方、下記特許文献2または3記載のものでは、CDやDVD等の光ディスクのレーベルとして用いる受理層として、水性アルミナゾルを主成分とする塗布液を用いて塗布した無機の多孔質インク受理層が採用されている。形成後の塗膜が多孔質インク受理層となる、顔料とバインダーを主成分とする水系塗布液(以下、単に水系塗布液という)で得られた受理層にインクジェットプリンタ印刷した場合、写真画質同様の鮮明な画像が得られることが知られている。
このような水性アルミナゾル等を含む水系塗布液による多孔質インク受理層を光ディスクのレーベルとして用いる場合、ダイコーター、スライドコーター、カーテンコーター、スピンコーター等の各種塗布装置を用いて、水系塗布液等からなる塗布液をディスク基板上に塗布して液状の塗膜を形成することになる。そして液状の塗膜を自然乾燥させたり、温風乾燥させる。
また、特許文献4記載の光ディスク及びその受理層形成方法では、固形分比が小さく粘度の低い水性アルミナゾルを主成分とする塗布液を光ディスク表面に塗布して形成される塗膜について、受理層の内周側及び外周側の境界に凹溝や凹溝及び凸部を形成して囲う構成を採用している。これによって塗布液を塗布した後の塗膜について、塗布領域を確定し、内周側境界領域及び外周側境界領域の膜厚を中央領域と同等に確保して、乾燥工程での塗布液の流動を抑制し、乾燥後の膜厚がより均一になるようにしている。
【特許文献1】特開平9−245380号公報
【特許文献2】特開平2−276670号公報
【特許文献3】特開2001−301323号公報
【特許文献4】特開2004−355781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の場合、UV硬化性樹脂によって形成した受理層はインク受容能力が十分でなく、インクジェットプリンター等による印刷時に滲みが生じ易い。そのため受理層上での印刷画像の解像力が低く、特に写真画像等を印刷する場合、鮮明な画像が得られないという欠点がある。さらに受理層用塗布液の塗布領域の境界付近では、膜厚が薄くなるため受理層の受理能力が低下し易い。その点、特許文献2、3に記載された多孔質インク受理層では、インク受容能力が高く、写真画質同様の鮮明な画像が得られる。
しかしながら、以下のように受理層用塗布液の塗布領域の境界付近における受理能力については、受理層用塗布液の固形分比が小さいために、むしろ低下している。即ち、特許文献2、3に記載された多孔質インク受理層を形成するための水系塗布液は、塗布時の固形分比が20%程度であるために、ディスク表面に塗膜を平滑に塗布形成するのが困難であるという欠点がある。例えば、光ディスク基板の疎水性表面に水系塗布液を略リング状に塗布すると、塗膜の中央領域に対して内周側及び外周側境界領域が表面張力のために略円弧状に湾曲する形状を呈するが、湾曲部の塗布液量が不充分になる。
そして、塗膜を乾燥処理させると、内周側及び外周側境界領域表面の乾燥が先に進み、内部の塗布液が中央領域方向に流動する現象が起こる。そのため、中央領域に対して内外周側境界領域の膜厚が小さくなり、内外周側境界領域から中央領域に向けて膜厚が徐々に増大することになり、均一な膜厚が得られないという欠点があった。この場合、膜厚の比較的小さい内周側及び外周側領域でのインク受容能力が小さくなるから、インクジェットプリンター等で塗布されたインクが内周側及び外周側領域で溢れて滲んだ状態になって鮮明な印刷画像が得られない欠点が生じる。
【0007】
これに対して特許文献4の場合、凹溝や凸部によって塗布領域の境界部を形成していることで上述した特許文献2,3の欠点である内外周側境界領域から中央領域への塗布液の流動や表面張力を抑制できるが、この場合でも下記のような欠点があることが判明した。
即ち、光ディスク表面に塗布液を塗布する際に凹溝にノズルのエッジが位置するために、凹溝の境界部近傍に塗布液が十分充填されなかったり、凸部に対して塗布液が所定高さになるよう一様に塗布されなかったりする欠点がしばしば発生した。凹溝内に塗布液が十分充填されなければ気泡が混入し、加熱乾燥時に気泡が浮上して受理層表面に破裂痕が残る等の欠点が生じる。また、内外周側境界部では塗膜の端部が表面張力で凸曲面形状になるが、供給不足で一様に塗布されず塗膜端部での凸曲面の膨らみが小さくなれば乾燥後の受理層の境界領域にヒケや塗布液の流動等が発生し、膜厚が局部的に薄くなりまとまりが悪く美観を損ねる欠点が生じる。このような膜厚の不均一が発生すると、受理層の受理能力がディスク基板の位置によって変化するため、受理層上に形成された画像の一部にインクの滲みやオーバーフローが生じて精細な画像を損なってしまう。
そこで、内外周側境界部の凹溝や凸部に対して塗布液の供給不足が生じないように塗布しようとすれば、境界部ぎりぎりまでノズルを配設して端部に十分な塗布液を塗布する必要が発生するため、一部の塗布液が凹溝や凸部からはみ出し外側表面に流れて広がって乾燥するために再び美観を損ねるという欠点が発生することになる。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みて、受理層の膜厚をより均一に形成して受理層全体に良好な受理性能を付与し、歩留まりを向上できると共に美観の良好な受理層形成方法と被塗布物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による受理層形成方法は、塗布液を被塗布物の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させて受理層を形成する受理層形成方法において、被塗布物の表面における受理層を形成する領域の境界部に受理層の外側方向に向けて凹溝及び凸部を設けると共に、更にその外側に他の凹溝及び他の凸部の少なくともいずれか一方を形成したことを特徴とする。
本発明によれば、被塗布物表面における凹溝及び凸部で仕切られた受理層を形成する領域に十分塗布液を塗布できて塗膜の端部での表面張力による凸曲面の膨らみが大きくなり、凹溝での膜厚が中央領域の膜厚以上になるため、その後の乾燥時における塗膜の境界領域でのヒケと塗布液の流動を抑制できて全体に平坦且つほぼ均一な膜厚になると共に境界の綺麗な受理層を形成できる。しかも、塗布の際、ヒケや流動防止のために境界部の凸部付近に塗布される塗布液の一部が凸部を越えて外側に流れても、その外側に形成した他の凹溝または/及び他の凸部で堰き止められて溜められ、凸部から漏れ出た塗布液が不規則に広がることはない。このように境界部に凹溝と凸部、そして他の凹溝及び他の凸部の少なくともいずれかを設けたことで塗膜を乾燥させる際に境界部での塗膜の膜厚を十分確保できるために流動を防いで全体に平坦でほぼ均一な膜厚に形成できて受理層の品質が向上し、歩留まりを向上できる。
【0010】
また本発明による被塗布物は、塗布液を被塗布物の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させて受理層を形成した被塗布物において、被塗布物の表面における受理層を形成する領域の境界部に受理層の外側方向に向けて凹溝及び凸部を設けると共に、更にその外側に他の凹溝及び他の凸部の少なくともいずれか一方を形成し、凸部で囲まれた領域に受理層を形成してなることを特徴とする。
本発明によれば、被塗布物の表面において塗布された塗膜を乾燥させて形成する受理層は凹溝及び凸部で全体に平坦でほぼ均一な膜厚に形成され、凸部を越えて流れ出た塗布液はその外側に形成した他の凹溝または/及び他の凸部で堰き止められて乾燥固化され、境界領域が綺麗で見栄えの良い受理層が形成されている。しかも、これら他の凹溝または/及び他の凸部、そしてこれに収容される塗布液は乾燥後に目視で目立つことはなく見栄えを損なわない。
なお、本発明において外側とは受理層に対して受理層から外れる方向をいい、内側は受理層の内部方向を指すものとする。
【発明の効果】
【0011】
上述のように本発明の受理層形成方法及び被塗布物によれば、被塗布物の表面において凹溝及び凸部で仕切られた領域の範囲内で乾燥時にヒケや塗布液流動の影響を受けずに平坦でほぼ均一な膜厚で境界領域の綺麗な受理層を形成でき、しかも凸部を越える塗布液についても他の凹溝または/及びその他の凸部で溜められるために、塗布液が不必要に広がることなく規則的に塗膜が形成されて綺麗で見栄えの良い境界領域を形成できる。そのため、被塗布物の歩留まりが向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明による受理層形成方法及び被塗布物は、凸部の外側に他の凹溝及び他の凸部を形成してなることが好ましく、塗布液の塗布時に塗膜について凸部の内周側境界領域の塗布液不足によるヒケ等を防ぐために凸部の外側に流れるまで確実且つ十分に塗布液を吐出すると、一部の塗布液が凸部を越えて流れるが、この場合でも他の凹溝及び他の凸部によって堰き止めて収容して例えばライン状または帯状に乾燥させる。しかも、これら凹溝及び凸部や他の凹溝及び他の凸部内の塗膜は乾燥後に目視で目立つことはなく見栄えを損なわない。
凸部の高さを他の凸部の高さと同等以上に形成することが好ましい。
他の凸部は受理層を形成する凸部の外側に漏れる一部の塗布液を留めるものであるから、内側の凸部よりも高さが低くてよい。
また、凹溝は、その外側方向に位置する凸部の境界で被塗布物の表面に対して略垂直方向に陥没して形成されていることが好ましく、凹溝の凸部との境界の深さを確保できるために乾燥時におけるヒケや塗布液の中央領域方向への流動を確実に防ぐことができる。
【0013】
被塗布物は円板状に形成されていて、凹溝及び凸部と、他の凹溝及び他の凸部の少なくともいずれか一方とが内周側と外周側にそれぞれ設けられていてもよく、特に被塗布物は光ディスクであることが好ましい。光ディスクの受理層を例えばレーベルとして直接インク等で画像を印刷できる。
本発明による受理層形成方法では、受理層用塗布液として、その固形分比が小さく乾燥に時間がかかり且つ乾燥時に塗布液の移動によるヒケが発生し易い水系塗布液を用いた場合に特に好適である。
水系の受理層用塗布液は、顔料とバインダーを含有していて多孔質のインク受理層を形成する水系塗布液であり、顔料はアルミナ、シリカ、シリカアルミナ複合粒子のいずれかであってもよい。或いは、水溶性高分子を含有していて膨潤型のインク受理層を形成する水系塗布液であってもよい。
インクは全面にほぼ均一な膜厚に形成された受理層で受容されるため、溢れて外部に滲み出ることがなく、いずれの場合も滲みを生じない鮮明な印刷画像が得られる。
なお、水系塗布液からなる塗膜を乾燥してなる受理層はインク受理能力が高く良好な印刷画像を形成するが、一方で水系塗布液は水性塗料であり、固形分比率25質量%以下、好ましくは20質量%以下の低固形分比率の塗布液として使用されることが多く、粘度も20〜100mPa・s程度と低粘度である。このため、乾燥に要する時間が比較的長く、塗布後の境界領域の膜厚減少等、乾燥に伴って生じる諸課題に対しては、本発明の塗膜形成方法を有効に適用することができる。
【0014】
また本発明で使用する水系塗布液は、上述のように水もしくは水を主成分とする溶媒中に顔料及びバインダーを含有するか、または親水性高分子を含有する。親水性高分子とは、分子内に親水性感応基を有しており、水に溶解した状態、または自己乳化した状態、または乳化剤の添加で分散した状態となる高分子物質を意味する。親水性高分子としては、水溶性高分子を用いても良い。
顔料、バインダー及び親水性高分子の材質はとくに限定されず、公知の無機顔料、有機顔料また公知の塗布液用のバインダー、親水性高分子を広く使用できる。さらに顔料が無機顔料でバインダーが水溶性樹脂のときに本発明の効果が極めて良好に発揮される。
顔料とバインダーを含有する水系塗布液からは多孔質型のインク受理層が得られ、親水性高分子を含有する水系塗布液からは膨潤型のインク受理層が得られる。膨潤型のインク受理層においては受理層自体がインクを吸収し、自ら膨張または溶解してインクを受理層内に吸着する。その中でも、顔料微粒子間の空隙にインクを受容させる、多孔質型インク受理層である方が好ましい。
このような水系塗布液から形成される受理層はインク受理能力が高く良好な印刷画像を形成するが、一方で水系塗布液は水性塗料であり、固形分比率25質量%以下の低固形分比率の塗料として使用されることが多い。このため、本発明の受理層形成方法を好適に用いることができる。
【0015】
この多孔質型インク受理層は主に顔料とバインダーからなり、顔料としては、アルミナだけでなく、シリカ、ベーマイト、合成微粒子シリカ、合成微粒子アルミナシリケート、気相法合成シリカ、シリカアルミナ複合粒子、ゼオライト、モンモリロナイト群鉱物、バイデライト群鉱物、サポナイト群鉱物、ヘクトライト群鉱物、スチーブンサイト群鉱物、ハイドロタルサイト群鉱物、スメクタイト群鉱物、ベントナイト群鉱物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、カオリン、タルク、アルミナ水和物、プラスチックピグメント、尿素樹脂顔料、セルロース粒子、澱粉粒子などが挙げられ、なかでも、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ複合粒子、ベーマイト、気相合成シリカが好ましい。このうち、特にベーマイト(Al・nHO、n=1〜1.5)がインクの吸収性、定着性の観点から好適である。
さらに好ましくは、多孔質型インク受理層の平均細孔半径が3〜25nmであり、特には5〜15nmが適切であり、かつ細孔容積が0.3〜2.0cm/gが好ましく、特には0.5〜1.5cm/gであるのが好適である。
【0016】
またバインダーとしては、でんぷんやその変性物、ポリビニルアルコール又はその変性物,スチレン・ブタジエンゴムラテックス,ニトリル・ブタジエンゴムラテックス、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド等の水溶性重合体、アルコール可溶性の重合体若しくはこれらの重合体の混合物などの水溶性樹脂を用いることができる。なかでも本実施例では、インク吸収性や耐水性を要するからポリビニルアルコールまたはその変性物の使用が好ましい。バインダーは上記顔料100質量部に対して、好ましくは、1〜100質量部、特には、3〜50質量部含まれるのが適切である。
【0017】
一方、膨潤型インク受理層を得るために用いる親水性高分子としては、ウレタン樹脂またはその変性物、完全鹸化ないしは部分鹸化のポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレンオキサイド、ポリアクリルアミド、又はそれらの誘導体などの水溶性の合成高分子、ゼラチン、変性ゼラチン、デンプン、変性デンプン、カゼイン、大豆カゼイン、変性大豆カゼイン若しくはその変性物、又はそれらの誘導体、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロース誘導体などの水溶性の天然高分子が挙げられる。なかでも、ウレタン樹脂またはその変性物、ポリビニルアルコール若しくはその誘導体、ポリビニルピロリドン若しくはその誘導体、ポリアクリルアミド、セルロース誘導体、ゼラチン若しくはその誘導体が特に好ましい。
なお、本発明で変性ウレタン樹脂とは、水性化されたウレタン樹脂を意味し、水に安定して分散できるように、ウレタン骨格の主鎖中に親水基を導入して自己乳化するか、または外部乳化剤で分散させて得られるウレタン樹脂の水分散体を示す。変性ウレタン樹脂としては特にポリカーボネート系ポリオールまたはポリエステル系ポリオールと脂肪族イソシアネートとから得られる自己乳化タイプのものが好ましい。
これらの親水性高分子はそれぞれ単独、又は2種以上の混合物の形態で使用される。
【0018】
膨潤型インク受理層の場合、上述した親水性高分子の他に、必要に応じて、顔料を親水水溶性高分子に対して0.05〜10重量%含有することができる。なお、顔料としては、多孔質型のものと同じものが使用できる。
なお、インク受理層には、その他の添加剤として、必要に応じて、硬化剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、蛍光増白剤、着色染料、着色顔料等を使用することが出来る。特に硬化剤は、多孔質層の場合、形成過程において影響が大きく、水系塗布液の乾燥過程における水分蒸発での体積収縮による歪みから生じるクラックなどの塗膜欠陥を、早期にゲル化することで抑制する効果がある。バインダーとしてポリビニルアルコールを使用する場合は、ホウ酸やホウ酸塩などが有効である。
本実施例において、ディスク基板上に設けられるインク受理層の塗布厚は、インク吸収性、塗工層の強度、用途などに応じても選択されるが、好ましくは2〜80μmが採用される。この塗布厚が2μmに満たない場合はインク受理層としての効果が発現し難く、一方,80μmを超える場合は、透明性や強度の低下または表面に微細なクラックが発生するおそれがあるので好ましくない。なかでも、インク受理層の塗布厚は10〜50μmであるのが適切であり、30〜40μmが更に好ましい。乾燥塗膜の重量にすると2〜80g/mが好ましく、20〜70g/mがより好ましく、30〜50g/mが最も好ましい。塗布液の塗布膜厚は塗布液の固形分濃度に対応して例えば乾燥膜厚の4〜8倍程度、塗布液の重さにして10〜400g/mにすることができる。
さらにディスク基板上に、白色インクを用いて白色顔料を含む層を予め形成しておき、その上に受理層を形成することにより、インクジェット記録法による画像の発色を良好にすることもできる。
【0019】
本発明の受理層形成方法で、凹溝及び凸部が形成される被塗布物の材質としては、被吸収性の部材を特に制限無く使用することができる。被塗布物が光ディスク用基板であるときは、通常光ディスク基板に用いられる材料を広く使用することができるが、特にポリカーボネートが好ましい。
凹溝及び凸部の形状は特に限定なく、種々の断面形状のものを用いることができる。凹溝であればV字型、U字型、矩形型、逆台形型等を用いることができ、凸部であれば逆V字型、逆U字型、矩形型、台形型等を用いることができる。作製の容易さ、外力に対する形状安定性、塗布液の充填し易さ等から、凹溝についてはV字型または逆台形型の断面形状を有するものが、凸部に対しては逆V字型または台形型の断面形状を有するものが好ましい。
凹溝の深さは、塗布領域端部における塗布膜厚の減少による乾燥速度の上昇を防ぐため、
凹溝の一番深いところで、中央領域における塗布膜厚と同等程度の深さ(膜厚)を有していることが好ましい。凹溝の開口部上端の幅については、凹溝への塗布液の充填し易さを考慮すると凹溝の深さと同等以上であることが好ましい。
凸部の高さについては、塗布膜厚より凸部の高さが低くても、塗布液の表面張力によって凸部の内壁に接して塗布液が堰き止められる。このため凸部の高さは必ずしも塗布膜厚に対応する高さより高い必要はなく、塗布液を堰き止める境界領域を確定するのに十分な高さがあればよい。塗布膜厚に対応する高さを超える高さを有する凸部は、塗布液を完全に堰き止める点においては優れているが、被塗布物の塗布領域の境界付近に突起を形成し、被塗布物の表面の平滑性を損ない易い。さらに境界領域に高さの高すぎる凸部が形成されると、例えば塗布ノズル等の塗布装置の一部が凸部に接触して円滑な塗布が行われなくなる可能性がある。このように形成される第一の凹溝や第一の凸部、さらにその外側に形成される他の凹溝や他の凸部相互間の距離としては、充填される塗布液の量、美観、加工のし易さ等を考慮し適宜決定することができるが、光ディスク基板上に受理層を形成する場合には、100〜200μmの受理層用塗料塗布時の膜厚を考慮すれば50〜700μmが好ましく、100〜500μmがさらに好ましい。
例えば塗布装置として塗布液の吐出にノズル列からの塗布液の滴下を用いる塗布方法を使用する場合、塗布精度を上げるためにノズルは極力被塗布物の被塗布面(表面)に接近させることが好ましい。また塗布液で形成する塗膜表面に対応する位置よりも、被塗布物からの距離の短い位置にスムーザーを配置し、塗布液の塗布とともにズムーザーによる塗布面の平滑化処理を行う場合には、塗布境界領域において、スムーザーと凸部が接触しないように凸部の高さは塗布膜厚に対応する高さより小さくする必要がある。このような場合には凸部は塗布液の膜厚の50〜80%が好ましく。60〜75%がさらに好ましい。例えば光ディスク基板上に150μmの受理層用塗布液を塗布して受理層を形成する場合には、75〜120μmの高さに形成することができる。
このように形成された凹溝と凸部の外側にさらに形成する他の凹溝としては、第一の凹溝よりも深さを浅くすることができる、また他の凸部としては第一の凸部以下の高さにして、塗布領域端部の塗布が円滑に行われるようにする必要がある。
被塗布物の塗布境界領域への凹溝、凸部の形成方法は、特に限定されず、被塗布物の材質、凹溝、凸部の大きさ、形状に適合した任意の切削方法、成型方法等で形成することができる。
【0020】
例えば、凹溝及び凸部をディスク基板に形成するには、成形されたディスク基板を回転させながら凹溝形成位置の上方から、凹溝の形状にその先端が成形された切削刃をあてて、ディスク基板を切削または変形させることによって行うことができる。凹溝内の樹脂は切削刃によって凹溝の両端に押し上げられその両端に凸部を形成するが、凹溝の内周側の壁をディスク基板面と垂直方向に形成し、外周側の壁が特定の傾斜を持つような略V字型断面に形成することにより、凹溝内の樹脂は外壁の傾斜に沿ってディスク基板表面の外周側に押し上げられるので、凹溝の外側にのみ凸部を形成することができる。
また、ディスク基板を成形するときの成形工程で、凹溝や凸部を同時に形成できるように、ディスク基板成形用の金型を作製してディスク基板を作製することにより、精度の良い凹溝や凸部を予め有したディスク基板を作製しておくことができる。
【0021】
このように被塗布物の塗布領域境界に形成された凹溝及び凸部、さらにその外側に形成される他の凹溝または他の凸部の少なくともいずれか一方を有する塗布領域に受理層用塗布液による均一な膜厚の受理層を形成するには、特に塗布液の固形分比が低く粘度が低いときはノズルからの塗布液の滴下によって、被塗布物の被塗布面上に塗膜を形成することが好ましく。塗布の効率及び塗布した塗膜の膜厚の広範囲にわたる均一性のためには、ノズル列からの塗布液の滴下が好ましい。本発明においては、塗布領域の境界部分に形成された第一凹溝内に、塗布液が十分に充填され、第一凸部の内側に接し、かつ凸部の頂部の高さを超えて盛り上がるように十分に塗布液が充填されることが好ましい。
塗布領域の境界部分への塗布については、ノズルを最端部の吐出口が対向する凸部の頂部より外側に位置するように配置して塗布液の滴下を行うことが好ましい。ノズルより滴下される塗布液は、滴下中に表面張力によって吐出口中心部分に集まるため、このような吐出口と頂部の位置関係を維持して塗布を行うことにより、凹溝や凸部の内側に対応する領域に確実に十分な塗布液を供給することができる。
さらに吐出口からの塗布液が凸部の外側で、凸部とこの凸部の外側に形成された他の凹溝または他の凸部との間に流入するように塗布を行うことで、凹溝と凸部内側に対応する領域には、より十分な塗布液が供給されることとなるため好ましい。また、凸部とこの凸部の外側に形成された他の凹溝または他の凸部との間にさらに塗布液を供給することで、第一の凸部が塗布液に完全に覆われる程度にまで十分に塗布液が供給されるため、塗布領域の境界部分に十分な塗布液が供給されることとなり好ましい。このように吐出口を対応する凸部の頂部より外側に突出させる場合、その突出させる距離としては0.1〜0.5mmが好ましく、0.2〜0.4mmがさらに好ましい。
このように塗布された被塗布物上の受理層用塗布液からなる塗膜は、加熱により乾燥されて受理層を形成する。乾燥にあたっては被塗布物の材質、塗膜の膜厚等に応じて適宜乾燥方法と乾燥条件を選定できるが、急激な加熱による皮膜が塗膜表面に発生しないように、十分に時間をかけて乾燥を行うことが好ましく。加熱は被塗布物側から塗膜方向に向けて熱が伝わるように行うことが好ましい。
【実施例】
【0022】
本発明の実施例を光ディスクへの受理層形成を例にとって図1乃至図7により説明する。
図1は本発明の実施例による光ディスクの部分縦断面図、図2は図1に示す基板の外周側境界部における凹溝及び凸部の拡大断面図、図3は受理層形成装置の塗布部を示す要部斜視図、図4、図5は塗布部における各ノズルの吐出口を示す図、図6はノズルと基板の内外周側境界部との位置関係を示す部分拡大図、図7は基板への受理層形成工程を示す部分縦断面図である。
本実施例による光情報媒体としての光ディスク1は例えば通常のデジタルビデオディスク(DVD)やコンパクトディスク等であり、図1に示すように例えばポリカーボネート基板(PC基板)からなるリング状のディスク基板2の一方の面2aに情報記録層3が形成されており、この情報記録層3はスタンパ等で形成された0.1μm程度の凹凸の表面に金属薄膜からなる反射膜を被覆して構成されている。
そしてこの情報記録層3の表面には、接着剤層を介してもう一つのディスク基板4が貼り合わせられている。ディスク基板2の他方の面2b側から再生光を照射し、情報記録層3からの反射光により読み取りを行う。光ディスク1の情報読み取り側の面2bとは反対側の表面、即ちディスク基板4の接着剤層とは反対側の印刷面5に、水系塗布液等からなる薄膜を乾燥して得た多孔質インク受理層6(受理層)が設けられている。尚、ディスク基板4の印刷面5は疎水面である。
ここで、水系塗布液は、乾燥後の受理層を形成する水性の塗布液であり、本実施例では顔料とバインダーを含有する多孔質インク受理層形成用の水系塗布液を用いるものと、水溶性高分子を含有する膨潤型インク受理層形成用の水系塗布液を用いるものとについて実施した。尚、膨潤型インク受理層とは、水溶性高分子を主成分としたものであり、受理層6自体がインクを吸収し、自ら膨潤または溶解してインクを受理層6内に吸着するものである。
【0023】
図1において、ディスク基板2上の情報記録層3に、接着剤層3aを介してディスク基板4を積層したものを光ディスク1(例えばDVD)として、ディスク基板4の印刷面5には、受理層6を形成する領域の内周側境界部5aに略リング状の第一凹溝5A、第一凸部5B、第二凹溝5C、第二凸部5Dがそれぞれ同心円状に径方向内側に向かって順次形成されている。同様に印刷面5の受理層6を形成する領域の外周側境界部5bに略リング状の第一凹溝5E、第一凸部5F、第二凹溝5G、第二凸部5Hがそれぞれ同心円状に径方向外側に向かって順次形成されている。
ここで印刷面5において、第一凹溝5A、第一凸部5B、第二凹溝5C、第二凸部5Dを備えた領域を内周側境界部5a、第一凹溝5E、第一凸部5F、第二凹溝5G、第二凸部5Hを備えた領域を外周側境界部5b、これら境界部5a、5bで囲まれたリング状の平坦面を中央塗布部5cとする。同様に受理層6について、第一凹溝5A及び第一凸部5Bの部分を内周側境界領域6a、第一凹溝5E及び第一凸部5Fの部分を外周側境界領域6b、両境界領域6a、6bで囲われたリング状部分を中央領域6cとする。
第一凹溝5A、5Eと第二凹溝5C、5Gは図2の縦断面図で示すように略V字状の断面形状を有している。第一凸部5B、5Fと第二凸部5D、5Hも同様に略逆V字状の断面形状を有している。受理層6の内周側境界領域6a及び外周側境界領域6bは第一凹溝5A及び第一凸部5B、第一凹溝5E及び第一凸部5Fでそれぞれ仕切られている。その径方向内側、外側に設けられた第二凹溝5C及び第二凸部5D、第二凹溝5G及び第二凸部5Hは水系塗布液の塗布時に第一凸部5B、5Fを越えて流れる水系塗布液を堰き止めるためのものである。
【0024】
そのため、第一凸部5B、5Fは塗布された水系塗布液を受理層6として仕切るために第二凸部5D,5Hと同等またはそれ以上の高さに形成されている。また水系塗布液の乾燥工程における水系塗布液の境界部5a,5bから中央塗布部5cへの流動を抑制するために第一凹溝5A、5Eは第二凹溝5C、5Gよりも深く形成されている。即ち、印刷面5に水系塗布液がリング状に塗布された場合に、水系塗布液の第一凹溝5A、5Eでの塗膜6Aの凸曲面をなす部分の膜厚は中央塗布部5cでの膜厚と同等以上になるように深さが設定されている。
第二凹溝5C、5Gの深さは第二凸部5D、5Hとの関係で第一凸部5B,5Fを越えて流れる水系塗布液を堰き止めるにすぎないから、第一凹溝5A、5Eより浅くてよい。
内周側の第一凹溝5A、第一凸部5B、第二凹溝5C、第二凸部5Dと外周側の第一凹溝5E、第一凸部5F、第二凹溝5G、第二凸部5Hとは図1に示す縦断面図で概略線対称な形状をなしているが、線対称でなくてもよい。
【0025】
これら凹溝5A、5E、5C、5Gの開口部の径方向幅Wと深さDは用途や大きさによって適宜設定されるが、光ディスク1では、第一凹溝5A、5Eは例えば幅W1が200μm前後、深さD1が150μm前後に設定され、第二凹溝5C、5Gは幅W2が300μm前後、深さD2が100μm前後に設定されている。
幅W1が200μm前後未満であると、水系塗布液を塗布する際に凹溝内に十分流入できない上に、空気が凹溝5A、5E内に混入すると上方に逃げられずに内部に封入されてしまう。そして、乾燥時に加熱すると内部の空気が膨張して破裂し、受理層6の表面に破裂痕が残るという不具合が生じる。そのため、幅Wは塗布液が凹溝5A,5E内に十分流入し、混入した気泡が外部に抜ける程度の大きさを要する。
深さD1についていえば、水系塗布液は後述のように水系塗布液に対する水分比率が80%程度あり、一方で受理層6はインク受容のために乾燥後の膜厚で例えば30μm程度必要であるから、水系塗布液は150μm程度の膜厚で印刷面5に塗布する必要がある。第一凹溝5A,5Eでは水系塗布液が表面張力で略円弧状に膨らんで湾曲して膜厚が減少して第一凸部5B,5Fに接するため、第一凹溝5A,5Eは図2で二点鎖線で示すように第一凸部5B,5Fとの境界で最低限150μmの膜厚を有する深さD1となる略垂直形状であることが好ましい。しかし、図2で実線で図示したように第一凹溝5A、5E内での一部の水系塗布液の膜厚が150μm以上となる深さD1を有する略V字状の断面形状でもよい。
そして、印刷面5に形成された受理層6は全面に亘ってほぼ均一な膜厚を呈しているが、内周側境界領域6a及び外周側境界領域6bでは、第一凹溝5A、5Eのために膜厚がより厚くなる。第一凹溝5A、5E内でもそのほとんどの領域で膜厚は中央領域6c(第一凹溝5A,5Eで囲まれた内側領域)とほぼ同等程度以上に確保されている。
【0026】
従って、本実施例による光ディスク1によれば、受理層6にインクジェットプリンタ等でインクを塗布すると、塗布領域全体にわたって鮮明な印刷画像を得ることができる。特に多孔質インク受理層の場合には、インクは全面に亘って平坦でほぼ均一な膜厚に形成された受理層6内の多孔で受容されるため各孔を溢れて外部に滲み出ることがなく、鮮明な印刷画像が得られる。
尚、受理層6の内周側及び外周側境界領域6a、6bにおいても、第一凹溝5A、5E内のほとんどの領域で他の領域とほぼ同等以上の膜厚を確保できるために鮮明な印刷画像が得られるが、内周側及び外周側境界領域6a、6bは第一凹溝5A、5Eの断面形状のために膜厚が中央領域6cより大きく一部では比較的小さく形成される。そのため、受理層6への印刷は内周側及び外周側境界領域6a、6bを除いた中央領域6cで行うことがより好ましい。
【0027】
次に光ディスク1の受理層形成方法に用いる塗膜形成装置10について図3乃至図5により説明する。
図3において、塗膜形成装置10は、水系塗布液Sを印刷面5上に塗布する塗布部11と、水系塗布液Sが塗布されてなる塗膜6Aを乾燥させる乾燥部(図示せず)とで概略構成されている。
ここで、水系塗布液Sとして例えば下記の処方を用いる。受理層処方1〜3は多孔質型のインク受理層の塗布液に関する処方であり、受理層処方4は膨潤型のインク受理層の塗布液に関する処方である。
【0028】
受理層処方1
アルミナゾル(固形分濃度20%):100質量部
ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名PVA−124、固形分濃度7%):28.6質量部
ホウ酸(固形分濃度4%):5質量部
(アルミナゾルの製造方法)
アルミナゾルは、95℃に加熱したポリ塩化アルミニウムと水からなる液にアルミン酸ナトリウム溶液を添加し、熟成したスラリーをイオン交換水で洗浄し、再び95℃に昇温し、酢酸を添加して解膠と濃縮を行い、次いで超音波処理を行って得られる。
受理層処方2
シリカアルミナ複合ゾル(固形分濃度20%):100質量部
ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名PVA−140H、固形分濃度7%):57.2質量部
ホウ酸(固形分濃度4%):5質量部
(シリカアルミナ複合ゾルの製造方法)
シリカアルミナ複合ゾルは、3号ケイ酸ソーダ溶液と水に、撹拌しながら5mol/Lの塩酸を徐々に添加した。その後80℃に昇温し、熟成してシリカヒドロゲルを得た。このシリカヒドロゲルをコロイドミルと超音波分散処理で粉砕した。この粉砕したシリカヒドロゲルを80℃に昇温し、ポリ塩化アルミニウム水溶液を徐々に添加した。この常温の反応液に5mol/Lの水酸化ナトリウムを加えて、反応液のPHを7.7に調整した後、限外濾過を行い、濾液の電導度が20μS/cm以下になるまで精製した。次いで、この精製液に10%アミド硫酸水溶液を添加してPHを4.0とし。減圧下で加熱濃縮し冷却した後、再び10%アミド硫酸水溶液を添加してPHを4.0としシリカアルミナ複合ゾルを得た。
受理層処方3
シリカ分散液(固形分濃度14%):100質量部
ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名PVA−420、固形分濃度7%):50質量部
(シリカ分散液の製造方法)
気相法シリカ微粒子(日本アエロジル社製、アエロジル300)と水の混合液を、高速回転式コロイドミル(エム・テクニック社製、クレアミックス)を用いて、10,000rpmで30分間分散処理を行いシリカ分散液を得た。
受理層処方4
メチルセルロース(信越化学社製、メトリーズSM15):100質量部
不定形シリカ(富士シリシア化学社製、サイリシア370):0.03質量部
メチルセルロースは固形分濃度3%の溶液であり、これに不定形シリカを混合、攪拌して水系塗布液を得た。
【0029】
塗膜形成装置10において、塗布部11は基板1Aを回転軸Oと同軸に載置する回転テーブル12を備え、回転テーブル12は図示しない制御手段によって回転速度が制御される。回転テーブル12上には、回転軸Oを中心として半径方向に水系塗布液Sを吐出するための吐出手段14が配設されている。
この吐出手段14は単一の供給系部15(供給源)と、この供給系部15から複数本に分岐されたノズル16a、16b…16hからなるノズル部16とで構成されており、供給系部15の領域に設けた図示しないバルブの開閉によって各ノズル16a〜16hからの水系塗布液Sの吐出と停止を制御する。各ノズル16a〜16hは例えばマイクロディスペンサノズルからなっていて、基板1Aの半径方向に並んで配列されていて、例えば印刷面5の形成幅に亘って直線状に配列されている。
【0030】
しかも各ノズル16a〜16hは図4に示すようにそれぞれ円形または多角形の吐出口を有しており、配列方向の最も内周側に位置する最内周ノズル16aは吐出口が最小の面積とされ、径方向外側に向けて複数の各ノズル16b、16c、…は吐出口の面積が漸次増大し、最外周ノズル16hは吐出口の面積が最も大きく設定されている。
そのため、最内周ノズル16aから最外周ノズル16hに向けて漸次単位時間当たりの吐出量が増大するように設定され、且つ単位面積当たりの各ノズル16a〜16hの塗布液吐出量はそれぞれ一定に設定されている。これは基板1Aに対して径方向に並べられた各ノズル16a〜16hが同一の角速度で相対回転するためであり、各ノズル16a〜16hによる基板1Aの印刷面5での単位面積当たりの塗布量が均一になるように各ノズル16a〜16hの単位時間当たりの吐出量がそれぞれ設定されている。
また変形例として図5に示すように、各ノズル16a〜16hはその配列方向に略直交する方向に交互にずれた千鳥状に配列されていてもよい。
【0031】
次に本実施例による受理層6の形成方法について図6及び図7に沿って説明する。
先ず図7(a)に示すディスク基板2の片面に情報記録層3と接着剤層3aを介して他のディスク基板4が積層された基板1Aを回転テーブル12上に同軸に載置し、図3に示すように基板1Aの回転軸Oからずれたリング状の印刷面5を塗膜形成装置10の吐出手段14に対向させる。そして、印刷面5に吐出手段14を接近させた状態で、吐出手段14の各ノズル16a〜16hは印刷面5の径方向に配列されている。
この状態で、水系塗布液Sを塗布する際における吐出手段14のノズル部16とリング状の印刷面5の第一凹溝5A、5E及び第一凸部5B,5Fとの位置関係について図3及び図6により説明する。ノズル部16は基板1Aの径方向に配列され、最も内側に最内周ノズル16aが、最も外側に最外周ノズル16hが配設される。
しかも図6に示すように、ノズル部16は第一凸部5B、5Fに対して干渉を防ぐために若干の距離Lだけ離間して対向する。距離Lは例えば30〜40μm程度である。ノズル部16は水系塗布液Sの塗膜の膜厚よりも20〜30mm程度基板1A側に近接した位置に設ける。更に、最内周ノズル16aは吐出口が対向する第一凸部5Bの頂部に対して距離xだけ第二凹溝5C側に突出し、最外周ノズル16hは吐出口が対向する第一凸部5Fの頂部に対して距離xだけ第二凹溝5G側に突出して配設されている。距離xは例えば0.1mmである。
【0032】
そして回転テーブル12を低速の一定速度で回転軸O回りに回転させると同時に吐出手段14の供給系部15のバルブを開弁して水系塗布液Sを同一圧力の下で各ノズル16a〜16hにそれぞれ供給し、印刷面5に連続して吐出する。各ノズル16a〜16hから吐出される塗布液Sの単位時間当たりの吐出量は最内周ノズル16aが最小で外周側のノズル16b、16c…16hに向けて漸次増大するが、各ノズル16a〜16hの相対周速度が相違するために印刷面5における単位面積当たりの塗布量はほぼ均一に設定される。
しかも各ノズル16a〜16hで吐出される水系塗布液Sは、各ノズル16a〜16hの相対移動方向(周方向)と配列方向(径方向)とにそれぞれ相互に一部重複した状態でいわば必要量だけ吐出位置に置かれ、例えば液滴状または山状で連続して塗布される。この場合、水系塗布液Sは固形分に対して水分比率が8割程度であるから、各ノズル16a〜16hから印刷面5上に同時に吐出された水系塗布液Sは流動性が高く相互の親和力がよいために速やかにレベリング作用が働き全体に同一厚みで平坦化される。このような水系塗布液Sの塗布とレベリング作用とが各ノズル16a〜16hの配列方向だけでなく各ノズル16a〜16hの相対移動方向にも生じる。
【0033】
ここで、最内周ノズル16aと最外周ノズル16hの各吐出口は第一凸部5B、5Fの頂部より距離xだけ外側まで突出しているから、ノズル部16の最内周ノズル16aと最外周ノズル16hとから吐出される水系塗布液Sは印刷面5の第一凹溝5Aと第一凹溝5Eとにそれぞれ十分充填されて乾燥時にヒケや流動を生じないように上部では表面張力で凸曲面状に大きく膨らんで盛り上がる(図7(b)参照)。しかも、一部の水系塗布液Sは第一凸部5B、5Fを越えて第二凹溝5C、5Gに溜められる。
この場合、第二凹溝5C、5Gに流れ落ちる水系塗布液Sは僅かであり、しかも第二凸部5D,5Hが設けられているためにその外側に流れ出ることはない。
そして、回転テーブル12と共に基板1Aが低速で回転運動するために、印刷面5に塗布された水系塗布液Sは、回転する基板1Aの遠心力によって径方向外側に向けて展延することはない。各ノズル16a〜16hによって吐出された各塗布液Sは印刷面5上の吐出位置に保持され、高い流動性によるレベリング作用がなされ塗膜の均一化がなされる。
しかも印刷面5上の水系塗布液Sの膜厚t(例えばt=150μm)表面よりノズル16a〜16hの各吐出口が若干下側に位置するために、基板1Aの相対回転によってノズル16a〜16hで塗布された塗膜6Aを擦るように相対摺動することで平坦化させる。
【0034】
従って、各ノズル16a〜16hが印刷面5に対して1周相対回転することで、印刷面5上に吐出された水系塗布液Sの塗膜6Aは、図7(b)に示すように第一凹溝5A,5Eの内側領域ではレベリングされ平坦化されて所定の膜厚t(例えばt=150μm)に形成され、第一凹溝5A,5Eでは膜厚tより大きい膜厚部分を有すると共に表面張力によって凸曲面状に湾曲して第一凸部5B,5Fの頂部に接触する。
しかも、第一凸部5B、5Fを越えて流れる一部の水系塗布液Sは第二凹溝5C、5G及び第二凸部5D、5Hに溜められるため、印刷面5上を不規則に流れて広がることはない。そのため、内周側及び外周側境界部は第一凸部5B、5Fと第二凹溝5C、5Gまたは第二凸部5D,5Hとによって規則的できれいな円周状の境界線を形成する。
【0035】
このようにして塗布工程が終了し、図7(b)に示す塗膜6Aが形成された基板1Aは乾燥工程に送られる。
乾燥工程では、基板1Aを外気に放置して自然乾燥させる。或いは基板1Aのディスク基板2の他方の面2bに蒸気、赤外線等による加熱手段を配設して、面2b全面を加熱して基板1Aを通して塗膜6Aを乾燥させるようにしてもよい。
加熱工程において、基板1Aの印刷面5上でリング状をなしている塗膜6Aは、内周側及び外周側境界領域6a、6bでは凹溝5A、5E内の水系塗布液Sを含めると凹溝5A、5Eで囲まれた中央領域6cと同等以上の膜厚になるために乾燥速度が抑えられる。また凹溝5A、5E内の水系塗布液Sは第一凸部5B,5Fで片側を仕切られているために中央領域6c方向に一部流動しても少なく抑制され、内周側及び外周側境界領域6a、6bでの乾燥が中央領域6cより先に進むことはなく、全体に亘ってほぼ同時に乾燥が進行する。
【0036】
水系塗布液Sは固形分が20%程度であるため、乾燥の過程で塗膜6Aの膜厚が減少するが、内周側及び外周側境界領域6a、6bからの水系塗布液Sの流動が抑えられるので、ほぼ塗布時の膜厚分布を維持した状態で乾燥する。このようにして乾燥が終了すると、図7(c)に示すように塗膜6Aの膜厚が約5分の1に減少して受理層6が形成される。
得られた受理層6は中央領域6cだけでなく内周側及び外周側境界領域6a、6bも含めてほぼ全体に均一で平坦な膜厚(例えば約30μm)を有している。内周側及び外周側境界領域6a、6bの第一凸部5B,5Fでは膜厚が中央領域6cより大きく、その端部付近のみで表面張力との関係で膜厚が薄くなる。
受理層6の、第一凹溝5A、5Eで囲まれた中央領域6cが印刷面5上に位置するのに対して、凹溝5A、5E内では受理層6の膜厚が中央領域6cに対して大きくなって略平坦状に形成されることになる。
このようにして得られた基板1Aの印刷面5上の受理層6について、インクジェットプリンター等で印刷を行う場合、受理層6のうち中央領域6cだけでなく第一凹溝5A,5E上の内周側及び外周側境界領域6a、6bにおいても十分な膜厚を有しており鮮明な印刷画像を得られる。
【0037】
尚、本実施例による多孔質インク受理層6は、顔料微粒子間の空隙にインクを受容させる、いわゆる多孔質の空隙吸収型受理層である方がインクの乾燥時間が短いので好ましい。
この空隙吸収型受理層は主に顔料とバインダーからなり、顔料としては、アルミナだけでなく、シリカ、ベーマイト、合成微粒子シリカ、合成微粒子アルミナシリケート、気相法合成シリカ、シリカアルミナ複合体粒子、ゼオライト、モンモリロナイト群鉱物、バイデライト群鉱物、サポナイト群鉱物、ヘクトライト群鉱物、スチーブンサイト群鉱物、ハイドロタルサイト群鉱物、スメクタイト群鉱物、ベントナイト群鉱物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、チタン、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、カオリン、タルク、アルミナ水和物、プラスチックピグメント、尿素樹脂顔料、セルロース粒子、澱粉粒子などが挙げられ、なかでも、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ複合体粒子が好ましい。このうち、特にベーマイト(Al2O3・nH2O、n=1〜1.5)がインクの吸収性、定着性、透明性の観点から好適である。
【0038】
さらに好ましくは、多孔質インク受理層6の平均細孔半径が3〜25nmであり、特には5〜15nmが適切であり、かつ細孔容積が0.3〜2.0cm3/gが好ましく、特には0.5〜1.5cm3/gであるのが好適である。
バインダーとしては、でんぷんやその変性物、ポリビニルアルコール又はその変性物、スチレン・ブタジエンゴムラテックス,ニトリル・ブタジエンゴムラテックス、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド等の水溶性重合体、アルコール可溶性の重合体若しくはこれらの重合体の混合物などを用いることができる。なかでも本実施例では、インク吸収性や耐水性が良好であることを要するからポリビニルアルコールまたはその変性物の使用が好ましい。バインダーは,多孔質インク受理層6における上記顔料100質量部に対して、好ましくは、1〜100質量部、特には、3〜50質量部含まれるのが適切である。
一方、膨潤型インク受理層を得るために用いる水溶性高分子としては、完全鹸化ないしは部分鹸化のポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレンオキサイド、ポリアクリルアミド、又はそれらの誘導体などの水溶性の合成高分子、ゼラチン、変性ゼラチン、デンプン、変性デンプン、カゼイン、大豆カゼイン、変性大豆カゼイン若しくはその変性物、又はそれらの誘導体、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロース誘導体などの水溶性の天然高分子が挙げられる。なかでも、ポリビニルアルコール若しくはその誘導体、ポリビニルピロリドン若しくはその誘導体、ポリアクリルアミド、セルロース誘導体、ゼラチン若しくはその誘導体が特に好ましい。これらの水溶性高分子はそれぞれ単独、又は2種以上の混合物の形態で使用される。
膨潤型インク受理層の場合、上述した水溶性高分子の他に、必要に応じて、顔料を水溶性高分子に対して0.05〜100重量%含有することができる。この顔料の含有量としては0.05〜50重量%とすることがさらに好ましい。なお、顔料としては、多孔質型のものと同じものが使用できる。
尚、上記インク受理層には、その他の添加剤としては、必要に応じて、硬化剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、蛍光増白剤、着色染料、着色顔料等を使用することができる。特に硬化剤は、多孔質層形成過程において影響が大きく、水系塗布液Sの乾燥過程における水分蒸発での体積収縮による歪みから生じるクラックなどの塗膜欠陥を、早期にゲル化することで抑制する効果がある。バインダーとしてポリビニルアルコールを使用する場合は、ホウ酸やホウ酸塩などが有効である。
本実施例において、基板1Aの印刷面5上に設けられる多孔質インク受理層6の膜厚は、インク吸収性、塗工層の強度、用途などに応じても選択されるが、例えば30μmが採用される。膜厚は、好ましくは5〜80μmの範囲であるのがよく、膜厚が5μmに満たない場合は多孔質インク受理層6としての効果が発現し難く、一方,80μmを超える場合は、透明性や強度の低下または表面に微細なクラックが発生するおそれがあるので好ましくない。なかでも、受理層6の膜厚は10〜50μmであるのが適切である。
【0039】
上述のように本実施例による基板1Aの受理層形成方法及び光ディスク1によれば、受理層形成領域の内周側及び外周側境界部5a,5bに設けた第一凹溝5A,5E及び第一凸部5B,5Fによって、水系塗布液Sの塗布領域を規定することができる。しかもノズル部16で第一凸部5B,5Fを越えて水系塗布液Sを吐出させることで、第一凹溝5A,5E及び第一凸部5B,5Fで仕切られた境界部5a、5bで乾燥時に塗膜6Aのヒケ等を生じないから、第一凹溝5A,5E及び第一凸部5B,5Fで囲われた印刷面5の中央領域6cを含むほぼ全域において平坦で均一な膜厚の受理層6をバランスよく形成でき、歩留まりを向上できる。従って、受理層6にインクジェット印刷等を施す場合、受理層6の中央領域6c及び内外周側境界領域6a,6bで全体に鮮明で歪みのない画像が得られる。
また、第一凸部5B,5Fの外側を流れる水系塗布液Sは第二凹溝5C、5Gや第二凸部5D,5Hで堰き止められるから、受理層6の境界線が印刷面5上で不規則に形成されることがなく規則的で綺麗な連続線で形成され、見栄えがよい。
【0040】
次に第一実施例による塗膜形成装置10の吐出手段14の変形例について図8により説明する。
図8において光ディスク1の基板1Aは図示しない回転テーブル12上に静止状態で載置されている。水系塗布液Sを吐出する吐出手段20は、単一の塗布剤供給源である供給系部15と、この供給系部15から分岐された複数のノズル21aを有するノズル部21とを備えている。複数のノズル21aは、基板1Aの印刷面5の受理層形成領域に対向して配列されている。ノズル部21も静止状態に保持されて水系塗布液Sを個々のノズル21aから吐出することになる。
この例では、受理層6を形成すべき領域がリング状に形成されているために、ノズル部21も多数のノズル21aが同様にリング状に径方向及び周方向に配列されて略蜂の巣型に形成されている。しかも個々のノズル21aの吐出口は同一の面積を有しているが、異なる面積でもよい。しかも最内周及び最外周の複数のノズル21a、…は図6に示す第一実施例のノズル部16と同様に各吐出口が第一凸部5B,5Fから距離xだけ外側に突出した位置に配列されている。
従ってこのような吐出手段20を用いて印刷面5に水系塗布液Sを塗布するには、ノズル部21の複数のノズル21aから同一量の水系塗布液Sを吐出して印刷面5上で各液滴が相互に一部重なる程度の量を吐出する。
特にこの吐出手段20によれば、基板1Aもノズル部21も静止状態で水系塗布液Sの吐出を行うから塗布作業をより短時間で正確に行うことができ、レベリング処理をより確実に自然乾燥前に行えるという利点がある。
【0041】
次に本発明の他の実施例を説明するが、上述の実施例と同一または同様の部材、部分については同一の符号を用いて説明する。
図9は第二実施例による基板1Aの印刷面5の境界部に形成した凹溝及び凸部の部分縦断面図である。本第二実施例は第一実施例と同様に、印刷面5の内周側境界部5aと外周側境界部5bは略線対称で同様な構成を備えており、そのため本実施例では外周側境界部5bで代表して説明する。
図中、印刷面5の外周側境界部5bは、第一凹溝5Eと第一凸部5Fと第二凸部5Hについて第一実施例と同様な構成を備えており、第二凹溝5Gが形成されていない。第一凸部5Fと第二凸部5Hの間は中央領域6cと面一の印刷面5に含まれる平坦面5iを形成している。
本実施例では、第一凸部5Fを越えて吐出される水系塗布液Sは比較的少なく、第一凸部5Fと第二凸部5Hの間の平坦面5i上で溜められる。
本実施例においても、第一実施例と同様な効果を奏する。
【0042】
図10は第三実施例による基板1Aの印刷面5に形成した凹溝及び凸部の部分縦断面図である。本第三実施例も第一実施例と同様に、印刷面5の内周側境界部5aと外周側境界部5bは略線対称で同様な構成を備えており、そのため本実施例では外周側境界部5bで代表して説明する。
図中、印刷面5の外周側境界部5bは、第一凹溝5Eと第一凸部5Fと第二凹溝5Gについて第一実施例と同様な構成を備えており、第二凸部5Hが形成されていない。
本実施例では、第一凸部5Fを越えて吐出される水系塗布液Sは比較的少ないから、第二凹溝5G内に流入して堰き止められて溜められる。
本実施例においても、第一実施例と同様な効果を奏する。
【0043】
なお、上述の第一乃至第三実施例において、第一凹溝5A,5E、第二凹溝5C,5G、第一凸部5B、5F、第二凸部5D、5Hについて底部と頂部が尖った角度で形成されているが断面R状の曲面に形成してもよく、この構成を採用すれば、特に凹溝内に水系塗布液Sが充填され易く気泡が混入することを抑制できる。第一凹溝5A,5E、第二凹溝5C,5G、第一凸部5B、5F、第二凸部5D、5Hの断面形状は略三角形に限定されることなく任意の形状を採用できる。
また第一実施例では印刷面5の内外周側境界部5a、5bで、第一凹溝5A、5E及び第一凸部5B、5Fと第二凹溝5C、5G及び第二凸部5D、5Hからなる二組の凹溝及び凸部で構成したが三組以上で構成してもよい。或いは第二、第三実施例のように第二凹溝5C、5G及び第二凸部5D、5Hの一方を省略してもよい。要するに、最も内側の凹溝及び凸部として第一凹溝5A、5E及び第一凸部5B、5Fを形成すると共に、その外側方向(光ディスク1では内周側及び外周側)に他の凹溝と他の凸部(第二凹溝5C、5G及び第二凸部5D、5H)の少なくともいずれか任意の一方を備えて塗布液を堰き止めればよい。
また基板1Aの印刷面5において内周側及び外周側境界部5a、5bに他の凹溝と他の凸部のいずれかを形成する場合、同種の構成である必要はなく、一方の境界部に他の凹溝を他方の境界部に他の凸部を形成してもよい。
また、本発明は光ディスク等のコンパクトディスクに限らず他のディスクを含む各種の被塗布物に適用でき、塗膜を塗布して乾燥する受理層形成方法及び被塗布物に採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第一実施例による光ディスクの要部断面図である。
【図2】図1に示す光ディスクの基部における印刷面の外周側境界部を示す拡大部分断面図である。
【図3】受理層形成装置の塗布部を示す要部斜視図である。
【図4】塗布手段における各ノズルの吐出口を示す図である。
【図5】図4に示す各ノズルの変形例による吐出口を示す図である。
【図6】ノズルと基板の印刷面との位置関係を示す部分拡大図である。
【図7】基板への受理層形成工程を示す部分縦断面図であり、(a)は水系塗布液を塗布する前の基板を示す図、(b)は水系塗布液を塗布した状態の図、(c)は乾燥後の受理層を含む基板の図である。
【図8】変形例による塗布手段と基板を示す下方から見た斜視図である。
【図9】印刷面の外周側境界部の第二実施例を示す図2に示す基板と同様な拡大部分断面図である。
【図10】印刷面の外周側境界部の第三実施例を示す図2に示す基板と同様な拡大部分断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 光ディスク(被塗布物)
1A 基板(被塗布物)
2 ディスク基板
3 情報記録層
3a 接着剤層
4 ディスク基板(被塗布物)
5 印刷面(被塗布面:被塗布物の表面)
5A、5E 第一凹溝(凹溝)
5B、5F 第一凸部(凸部)
5C、5G 第二凹溝(他の凹溝)
5D、5H 第二凸部(他の凸部)
5a 内周側境界部
5b 外周側境界部
5c 中央塗布部
5i 平坦部
6 受理層
6a 内周側境界領域
6b 外周側境界領域
6c 中央領域
10 受理層形成装置
11 塗布部
16、20 ノズル部(塗布手段)
16a〜16h、20a〜16h ノズル
S 水系塗布液(塗布液)
6A 塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液を被塗布物の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させて受理層を形成する受理層形成方法において、
前記被塗布物の表面における前記受理層を形成する領域の境界部に前記受理層の外側方向に向けて凹溝及び凸部を設けると共に、更にその外側に他の凹溝及び他の凸部の少なくともいずれか一方を形成したことを特徴とする受理層形成方法。
【請求項2】
前記凸部の外側に他の凹溝及び他の凸部を形成してなる請求項1に記載の受理層形成方法。
【請求項3】
前記凸部の高さを前記他の凸部の高さと同等以上に形成した請求項2に記載の受理層形成方法。
【請求項4】
前記凹溝は、その外側方向に位置する前記凸部との境界で前記被塗布物の表面に対して略垂直方向に陥没して形成されている請求項1乃至3のいずれかに記載の受理層形成方法。
【請求項5】
前記被塗布物は円板状に形成されていて、前記凹溝及び凸部と前記他の凹溝及び他の凸部の少なくともいずれか一方とが内周側と外周側にそれぞれ設けられている請求項1乃至4のいずれかに記載の受理層形成方法。
【請求項6】
前記被塗布物は光ディスクである請求項1乃至5のいずれかに記載の受理層形成方法。
【請求項7】
前記塗布液は、顔料とバインダーを含有していて多孔質のインク受理層を形成する水系塗布液である請求項1乃至6のいずれかに記載の受理層形成方法。
【請求項8】
前記顔料はアルミナ、シリカ、シリカアルミナ複合粒子のいずれかである請求項7に記載の受理層形成方法。
【請求項9】
前記塗布液は、水溶性高分子を含有していて膨潤型のインク受理層を形成する水系塗布液である請求項1乃至6のいずれかに記載の受理層形成方法。
【請求項10】
塗布液を被塗布物の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させて受理層を形成した被塗布物において、
前記被塗布物の表面における前記受理層を形成する領域の境界部に前記受理層の外側方向に向けて凹溝及び凸部を設けると共に、更にその外側に他の凹溝及び他の凸部の少なくともいずれか一方を形成し、
前記凸部で囲まれた領域に受理層を形成してなる被塗布物。
【請求項11】
前記凹溝及び凸部の外側方向に前記他の凹溝及び他の凸部を形成してなる請求項10に記載の被塗布物。
【請求項12】
前記凸部の高さを前記他の凸部の高さと同等以上に形成した請求項11に記載の被塗布物。
【請求項13】
前記被塗布物は光ディスクであり、前記凹溝及び凸部と前記他の凹溝及び他の凸部の少なくともいずれか一方とが内周側と外周側にそれぞれ設けられている請求項10乃至12のいずれかに記載の被塗布物。
【請求項14】
前記塗布液は、顔料とバインダーを含有していて多孔質のインク受理層を形成する水系塗布液である請求項10乃至13のいずれかに記載の被塗布物。
【請求項15】
前記顔料はアルミナ、シリカ、シリカアルミナ複合粒子のいずれかである請求項14に記載の被塗布物。
【請求項16】
前記塗布液は、水溶性高分子を含有していて膨潤型のインク受理層を形成する水系塗布液である請求項10乃至13のいずれかに記載の被塗布物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−172674(P2007−172674A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364548(P2005−364548)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】