説明

口腔内への物質の送達のためのデリバリーシステム

本発明は、生体活性物質のための担体(1)を含む、口腔内での使用のためのデリバリーシステムであって、前記担体(1)は、酸素結合部位(X)を含む表面と、ペントース基及び一つ以上の更なる糖基を含む少なくとも一つの結合部(2)を有し、前記ペントース基は前記酸素結合部位(X)の一つの結合しており、一つ以上の生体活性分子(R)が少なくとも一つの結合部の糖基の一つに、または少なくとも一つの結合部(2)における一つ以上の糖基上の一つ以上の置換基に直接結合していることを特徴とするデリバリーシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体活性物質のための担体を含む、口腔への使用のためのデリバリーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬の経口送達と関連するいくつかの問題が既知であり、口腔内で医薬は嚥下され、胃腸系へと通過していく。
【0003】
経口送達に関する一つの主要な問題は、医薬が胃腸管へ通過していく際の医薬の代謝分解である。代謝工程は医薬が不活性なまたは有害でさえある代謝産物へと分解することを生ずるかもしれない。これは、必要な治療用量を不必要に大きくし、非所望の副作用が生ずるかもしれないことを意味する。更なる欠点は、個人の基準で前記用量を最適化することが困難なことである。更に医薬のあるものは、代謝分解により経口送達の使用を適さなくする。
【0004】
必要とされる治療用量は、代謝分解を相殺するために理論上の必要用量より大きいに違いないため、意図的なまたは不注意な過剰用量の危険もまた問題である。
【0005】
経口で摂取される薬剤は更に、薬剤のいずれかの効果に気づく前に比較的長時間を必要とするであろう。これは、痛み止めや乗り物酔いの薬のような迅速な応答が特に重要である場合、良好なデリバリーシステムに対する強い必要性が存在することを意味する。
【0006】
吐き気及び嘔吐はまた、経口的に投与された際の薬剤の取り込みを阻害するであろう。そのような症状を伴う偏頭痛及び乗り物酔いは、摂取された薬剤が症状を鎮める効果を有するまで非常に時間がかかる疾患の例である。
【0007】
経口送達の欠陥を解消するために、注射、または口腔若しくは鼻腔への送達のためのスプレーを使用することが以前に示唆されている。更なる代替的な方法は肛門送達である。これら全てのデリバリー方法は、技術的な複雑性、過度の費用、不快さ、または苦痛といった欠点に苦慮している。
【0008】
更に、口腔内で溶解し、医薬剤を放出する錠剤によって医薬剤を投与することが提案されている。そのような錠剤は、EP 1 295 595 A1に開示されている。しかしながら、口内で崩壊する錠剤は、口内粘膜を通した医薬剤の取り込み速度が余りに低いかも知れず、医薬剤のより小さいまたはより大きい割合が、摂取した患者によって不注意に嚥下されるかもしれないという無視できない欠点に苦慮している。更に、錠剤により医薬剤を投与する際、錠剤は、活性物質と混合される例えば充填剤、香味剤といった更なる物質を必須に含むであろう。錠剤が少量の活性物質を含む場合、全ての錠剤が同量の活性物質を含むように、錠剤中での活性物質の均一な分布を達成することは問題である。
【0009】
EP 1 295 595 A1における錠剤を使用して、各場合で実際に投与される正確な用量は制御できない。その結果、投与される用量があまりに低くて、処理された患者に所望の効果を有さない危険、または錠剤が企図するより多量の活性物質を含む場合、投与される用量が余りに高いという危険が存在する。更に、医薬の代謝分解と関連する問題が生ずるかもしれない。嚥下した唾液を介する医薬の吸収の問題を緩和するために、US2007/0031502 A1においては、生体接着剤または粘膜接着促進化合物と製薬学的活性剤を混合することが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】EP 1 295 595 A1
【特許文献2】US2007/0031502 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、代謝分解に苦慮することなく摂取することができない物質を含む広範囲の生体活性物質で使用でき、少量の生体活性物質でさえ正確な用量送達の問題を解決する改良され且つ単純化されたデリバリーシステムに対する必要性が未だ存在しているであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、生体活性物質のための担体を含む、口腔内での使用のためのデリバリーシステムがここで提供される。前記担体は、酸素結合部位(X)を含む表面と、ペントース基及び一つ以上の更なる糖基を含む少なくとも一つの結合部を有する物質であり、前記ペントース基は前記酸素結合部位(X)の一つの結合しており、一つ以上の生体活性物質(R)が少なくとも一つの結合部の糖基の一つに、または少なくとも一つの結合部における一つ以上の糖基上の一つ以上の置換基に直接結合している。
【0013】
糖結合部上の更なる糖基は所望されるようにペントースまたはヘキソースであって良い。
【0014】
本発明は、薬剤の摂取、注射、肛門送達、スプレー用量送達、舌下の錠剤、及び用量吸入といった以前に使用されているドラッグデリバリーに対するいくつかの利点を提供する。
【0015】
担体が口腔内に配置されて唾液と接触すると、唾液中の酵素が糖結合部における結合を破壊し、それによって口腔内に生体活性物質(R)を放出する。生体活性物質は、生体活性物質(R)に結合した糖基を有する生体分子として、口腔内で直接放出される。正解活性物質(R)に結合した親水性糖基は、口腔内の粘膜を通じた生体活性分子の浸透と迅速な取り込みを容易にする促進剤として機能する。従って、生体活性分子は、粘膜の血管内に直接輸送され、脳に向かう血管内に直接輸送され、かくして胃腸管をバイパスできる。
【0016】
多くの生体活性物質は疎水性の特徴を有するため、それらは一般的に親水性の口内粘膜を通じては摂取されず、または大量の投与された用量が粘膜を浸透する前に、生体活性物質の嚥下により失われて、非常に低速度でしか摂取されない。本発明に係るデリバリーシステムでは、企図された位置で放出が生ずるように、生体活性物質を有する非溶解性の担体が口内粘膜と接触下に配置された場合、唾液によって達成される放出メカニズムにより、嚥下による生体活性物質の損失の危険が除去される。更に、担体から放出される生体活性分子中の親水性糖基の浸透促進効果は、放出される物質が親水性であるか疎水性であるかに関わらず、放出された物質の迅速でほぼ完全な取り込みを確かなものとする。一般的に、活性物質の98%以上に達する量が、口内粘膜を通じて摂取されるであろう。
【0017】
活性物質を運ぶ生体分子に与えられた親水性の特徴のため、更には活性物質の投与における高い正確性のため、本発明に係るデリバリーシステムは、単に口腔内で物質を溶解して放出する以前に既知の錠剤及び組成物で可能であったよりも広範囲の生体活性物質を経口で投与できる。
【0018】
担体自体は口腔内で溶解しないが、処置が完了した後に除去されるまで、完全性を維持して粘膜と接触下に置かれる。
【0019】
唾液は唾液腺で生産される。ヒトの唾液は98%の水を含むが、電解質、粘液、抗菌化合物、及び各種の酵素を含む物質も含む。
【0020】
唾液の中では、3種類の主要な酵素といくつかの微量の酵素が見出される:
a)α−アミラーゼ。アミラーゼは食物を嚥下する前にデンプンの消化を開始し、リパーゼは脂肪の消化を開始する。
b)リゾチーム。リゾチームは細菌の溶解を生ずるように機能する。
c)舌のリパーゼ。舌のリパーゼは約4.0の至適pHを有し、それは酸性環境に入るまで活性化されないことを意味する。
d)マイナーな酵素は唾液酸性ホスファターゼA+B、N-アセチルムラミル-L−アラニンアミダーゼ、NAD(P)Hデヒドロゲナーゼ−キノン、唾液ラクトペルオキシダーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、グルタチオントランスフェラーゼ、クラス3アルデヒドデヒドロゲナーゼ、グルコース−6−ホスファターゼイソメラーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、及び組織カリクレインを含む。
【0021】
糖と糖鎖上の置換基の結合を破壊することができる唾液中の全ての酵素が、本発明の放出機能に寄与する。更なる酵素は連続的に発見されていっており、既知の酵素のリストは将来拡大されるであろうと予測されている。
【0022】
本発明に係るデリバリーシステムは、活性成分の効果を喪失することのない経口送達よりもかなり低い用量を使用することが可能である。嚥下される薬剤と比較して、本発明に係るドラッグデリバリーシステムを使用した際に、用量は嚥下用量の1/10程度に減じても良い。この送達メカニズムは、迅速で、高度に有効であり、単純で、且つ苦痛を伴わず、分解してもヒトの身体に無害である代謝産物を生産する糖のような物質と生体適合性成分のみを含む。本発明に係る糖の結合部または担体材料上のいずれかの置換基も、それらが非毒性の代謝産物のみを生産するように選択されるべきである。
【0023】
本発明に係るデリバリーシステムは、口腔で溶解するようにデザインされた従来の舌下錠剤または他の口内に配置されるデリバリー器具に対して優れている。本発明に係るデリバリーシステムは、十分に規定された非常に低い用量の生体活性物質を運んで移動させるように正確に作製できる。担体構造は口腔内に配置され、処置が完了した後に処理された患者または看護人により次第に除去されるまで、溶解する、さもなければ劣化することなく企図された位置で留まるであろう。生体活性物質に結合した糖基からなる生体分子が担体から放出されると、糖基の親水性の特性の結果として、それらは口内粘膜内に迅速に輸送されるであろう。その結果、不注意な嚥下により生体活性物質のいずれかを損失する危険は除去される。
【0024】
本発明によれば、担体上の糖結合部は、一つ以上の生体活性物質を特異的に結合するように、その長さ、分子、及び置換基に関してデザインすることができる。更に、添加剤によって破壊されてよい結合を作成して、放出メカニズムのより高度の制御を得るために、糖結合部をデザインする更なる可能性が許容できる。
【0025】
糖結合部の長さは、担体結合化ペントース及び単一の更なる糖基のみを含む最も単純な結合部から、より長く複雑な糖鎖まで変化されてよい。糖結合部の長さは、担体に結合され得る生体活性物質の量を決定する。嵩高い分子については、単体の表面からの十分な空間と結合部に結合される個々の分子間の十分な空間を得るために、より長い鎖が好ましくは使用される。
【0026】
糖結合部はモノサッカリド、ジサッカリド等であって良いが、好ましくは非分枝状のオリゴサッカリド、またはポリサッカリドである。
【0027】
特に好ましい糖結合部は、キシロース−ガラクトース−ガラクトース−グルコースアミンからなる糖鎖である。前記結合部は、担体にキシロース末端で結合する。この種の糖結合部は、動物及びヒトの結合組織において天然で存在し、そこで生物学的膜を通じた疎水性分子の輸送のための促進因子として機能するため、高度に生体適合性である。担体に結合した糖結合部を有する担体が口腔内に配置された場合、唾液中の酵素は、鎖の遊離末端から糖基の切断を開始するであろう。従って、破壊されるであろう第一の結合は、グルコースアミンとその後のガラクトース基の間の結合である。生体活性物質がグルコースアミンに結合していれば、生成した生体活性分子は、生体活性物質とグルコースアミンとからなり、グルコースアミンは生体分子上の親水性末端を構成するであろう。
【0028】
そのような糖結合部は、ウシまたはブタ由来の結合組織のような結合組織から単離されるプロテオグリカンから得られて良い。プロテオグリカンは、コアタンパク質と、通常セリン残基を介して共有結合した一つ以上の糖鎖とを含む化合物である。所望であれば、セリンから糖結合部を分離する前に、プロテイナーゼを使用することにより、前記タンパク質をセリン残基から除去できる。糖結合部は、コンドロイチナーゼでの処理にプロテオグリカンの水溶液を供し、その後遠心分離により前記溶液から糖結合部を分離することによって、プロテオグリカンから酵素的に放出されてよい。セリン基と糖鎖の間の結合がコンドロイチナーゼによって破壊されると、鎖の末端のキシロース基が同時に開環し、それによって生成したキシリトール基中の酸素が、担体の表面のニトロ基のような酸素結合基に対して選択的結合に曝される。
【0029】
所望であれば、生物学的に由来する糖結合部は、最初のキシロースに引き続く数個の糖基を得るためにコンドロイチナーゼを使用して短くされてよい。コンドロイチナーゼは、各種の糖に特異的である酵素である。
【0030】
プロテオグリカン及びその組成は、Moses等, 1997 a, 1997, b, 1998, 及び1999 a及びb (Doctoral Dissertation, Medical Faculty of Lund University, 標題”Biosynthesis of the Proteoglycan Decorin”, 1999年出版)に開示されている。
【0031】
本発明における使用のための糖結合部を得る更なる態様は合成法によるものである。糖結合部を合成することによって、それらは所望のいずれかの組成及び長さを有するようにデザインできる。合成された糖結合部は、例えばホウ酸ナトリウム、NaBHの水溶液で末端ペントース基を開環することによって、または当該技術分野で既知であるようにNaCl水溶液での処理によって、酸素結合基を有する担体に結合して良い。最初のペントースとは別に、更なる糖基はいずれかのペントースまたはヘキソースであって良い。
【0032】
本発明に係る糖結合部を有する担体を調製する際に、反応は好ましくは5.6以下のpHで実施される。
【0033】
口腔では、糖結合部の結合は、ほとんどのヒトの唾液に存在している酵素によって破壊されるであろう。特に除外されるヒトとしては、正しい種類のアミラーゼを欠き、それによって糖結合部を破壊できないシューグレン症候群に罹患している患者が挙げられる。唾液の含量を変えたり、唾液の生産に影響する他の疾患もまた酵素活性に影響するかもしれない。そのような疾患は、例えば医薬、外傷または腫瘍によって引き起こされるかもしれない。
【0034】
しかしながら、本発明に係るデリバリーシステムは、糖結合部の結合が、約5.6未満のpHのような低pHで壊れるため、酵素欠乏症に罹患している患者でさえ完全に有効ではないということはない。口腔中のpHを糖結合部を破壊するのに十分なレベルに低下することは、しばしば食後に生じていることであり、前記デリバリーシステムからの生体活性物質の放出を導くであろう。
【0035】
本発明に係るデリバリーシステムは、錠剤、注射等の当該技術分野のデリバリーシステムに対していくつかの利点を有する。主な利点として、口腔から担体を単純に除去することにより、所望の効果を達成した後に、処置を中断することが容易な点が挙げられる。これは、医薬を個人の基準で調節できることを意味する。
【0036】
更に、生体活性物質を有する担体は、いずれの時にでも口腔から除去できるため、過剰用量の危険は実際上存在しない。更に、本発明に係るデリバリーシステムのより優れた標的効果のため、生体活性物質の所望の効果を得るために必要とされる用量は、前記物質の有害なレベルを得るのが不可能であるように十分に低い。
【0037】
本発明は、中枢神経系に作用し、脳からのシグナルを誘導する全ての種類の薬剤及び物質で使用できる。従って、局所的に作用する薬剤は、口腔で局所的に活性ではないのであれば、本発明に係るシステムによる送達には適していない。更に、パラセタノールのような唾液により分解される薬剤は、本発明に係るシステムによる送達に適していない。必須条件は、生体活性分子が糖結合部に対する結合を形成することができる活性基を有することである。CNS作用薬は、オピオイドアゴニスト及びオピオイドアンタゴニスト、ブチロフェノン、ベンゾジアゼピンから見出される。更なる薬剤は、心臓血管系及び腎臓血管系に効果を有するものである。
【0038】
本発明による送達に適している薬剤のいくつかの特定の例は、乗り物酔いを治療するための薬剤、例えばスコポラミンまたはシタロプラムである。更なる例は、イブメチン、コデイン、モルフィネ及びトラマドールのような苦痛緩和剤、降圧薬、抗不整脈薬、精神活性薬、中枢作用性利尿薬、気管支拡張薬等である。
【0039】
担体は、ニトロセルロースのようなセルロースベースの担体、またはデンプンベースの担体であって良い。デンプンは、合成起源、生化学的起源、または生合成起源のものであって良い。更に適切な担体は、コラーゲン、ゼラチン、エラスチン、または同様なマトリックスを形成できる他の生体分子である。セルロースベースの担体、及びデンプンベースの担体は、低コストで容易に入手可能である材料であるため好ましい。担体材料は好ましくは口腔内で不活性を維持し、少なくとも処置の継続時間で溶解せず、さもなければ劣化しない。
【0040】
本発明に係るデリバリーシステムで得られる活性物質の高度に有効な送達のため、糖結合部と活性物質とを有する担体は非常に小さく、十分な用量の活性物質を未だ含んでいて良い。口腔内に配置され、処置の後に除去される際に、担体の扱いを容易にするため、担体は操作装置の中または上に配置されてよい。従って担体は、粒子サイズを有する材料に結合されてよい。制限があるものではないが、デリバリーシステムの物理的形態は、フィルム、パッド、パッチ、ペレット、テープ等であって良く、それらに担体が付着している。例えば唾液浸透性ラッピングに含まれたマイクロビーズも想像として使用される。
【0041】
デリバリーシステムは更に、薬剤促進剤、及び/または浸透促進剤、及び/または香料を含んでよい。
【0042】
本発明は、添付の図面を参考にして詳細に記載されるであろう。図面及びグラフは単に説明の目的のためにデザインされ、本発明の限界を規定するものと指摘とされることはなく、本発明の限界は添付の特許請求の範囲を参考とすべきである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、比較試験の結果を示すグラフである。
【図2】図2は、第一の実施例に従ったA試験群、B試験群及びC試験群を示す概略図である。
【図3】図3は、第二の実施例にしたがった試験方法のスキームを示す説明図である。
【図4】図4は、糖結合部を有する担体表面の例を示す模式図である。
【実施例】
【0044】
実施例1
糖結合部を有さない担体と比較した、本発明に係る結合した糖結合部を有する単体を含むデリバリーシステムの効果を示すために、以下の試験を実施した。
【0045】
試験結果は、図1のグラフに示されている。この試験では、生体活性物質はシタロプラムであり、担体はそこに結合した糖結合部を有す及び有さないニトロセルロースベースのマトリックス担体であった。サンプルA、B、C及びDにおける全ての担体を、担体表面に関して同量の活性物質(R)で処理した。その後前記物質で処理された担体を唾液酵素での処理に供し、担体に結合しているいずれかの物質を回収した。
【0046】
スコポラミン及びイブメチノールのような他の物質で実施した試験は、図1のものに類似する結果を示した。
【0047】
図1のグラフにおけるA欄は、本発明に係るニトロセルロース/糖結合部担体に対してシタロプラムを結合したものを説明する。担体をシタロプラムで飽和し、唾液酵素での処理により再び放出されると、99.6%を超えるシタロプラムの回収によって示されている通り、全ての利用可能な結合部位がシタロプラムによって占められていることを意味する。
【0048】
B欄は、いずれの糖結合部も有さないニトロセルロース担体に直接シタロプラムを結合したものを示す。図1に示されている通り、唾液酵素で担体を処理すると、約24.8%のシタロプラムのみが回収された。この試験は、糖結合部を有さない担体材料自体では、活性物質を結合する能力が制限されることを示す。
【0049】
C欄は、別の物質での事前飽和によりブロックされた糖結合部を有するニトロセルロース/糖鎖担体由来の物質の結合と放出を試みた結果を示す。膜を事前飽和する有用な態様は、糖結合部における糖基をメチル化することによってなされる。
【0050】
D欄は、担体に結合したいずれの糖接合部とも有さない事前飽和したニトロセルロース担体でのみ実施された比較試験を示す。
【0051】
この試験は、担体上の全ての潜在的な結合部位がブロックされると、担体からその後に物質が回収されないという事実によって示されるように、シタロプラムが担体によって吸収されず、さもなければ担体によって受け取られないことを説明する。
【0052】
実施例2
実施例2は、本発明に係るデリバリーシステムを使用した際の、スコポラミンのin vivo放出の効果を示すために実施された。
【0053】
白色/白色の実験室用の標準的ラットをこの試験のために使用した。この動物を、図2に示されるように、各群10匹のラットでA試験群、B試験群、C試験群の三つに分割した。A試験群では、ラットにスコポラミンを与えた。この活性物質を糖鎖に結合し、次いで本発明に係る単純なデンプンマトリックスに結合した。マトリックスをカラム中に固定化し、Moses等, 1997 a, 1997, b, 1998,及び1999, a及びb (Doctoral Dissertation, Medical Faculty of Lund University, 標題”Biocynthesis of the Proteaglycan Decorin, 1998年出版)に記載されたように、糖鎖をトリチウム化キシロースで標識し、糖鎖を後にラットの体内で追跡できるようにした。
【0054】
B群はコントロールとして機能し、非結合スコポラミンと糖鎖を有さないデンプンマトリックス担体とで処理した。
【0055】
C群は担体または活性物質を受けなかった。
【0056】
正常な唾液生産とラットの唾液についてチェックされた全てのラットを処理し(示さず)、糖担体からの化合物の放出能力を確立した。
【0057】
膜のサイズはデンプンから形成された1×1mmであった。これに対して標識された糖鎖を結合し、一つの膜を各ラットの上唇の下に配置した。
【0058】
三つの等しく較正された遠心機を、A、B、C群のラットの各群一匹に試験で使用した。各遠心機を入口/出口を有するカゴに配置し、カゴと遠心機箱との間でラットが自由に移動できるようにした。ラットが持ち上げられて遠心機内に配置される前に、ラットは初めに遠心機箱内への道を見つけられるようにした。
【0059】
その後ラットを30秒間3Gで遠心機で回転させた。
【0060】
遠心の後、A、B、C群のそれぞれの遠心機箱の出口を突き止めてカゴに戻る能力、並びに一般的な落ち着きを観察した。
【0061】
本発明に係る担体に結合した正常用量のスコポラミンの1/10を受けているA群は、乗り物酔いの兆候と言った正常な挙動の変化を示さず、遠心機箱の出口を直接上手に突き止めた。
【0062】
同量の物質を与えられているがその物質がマトリックスに対する糖鎖によって結合されていないB群は、明らかな乗り物酔いの兆候を示し、1時間の試験期間の間で出口を見つけ出せなかった。
【0063】
マトリックスも物質も受け取っていないC群は、B郡に記載されたものと同じ態様で挙動した。
【0064】
スコポラミンの代わりにシタロプラムを使用して、試験を新たなA、B、C群で繰り返した。第二の試験の結果は、第一の試験の結果と同様であった。従って、A群のラットは遠心によって影響を受けず、B群及びC群のラットは明らかな乗り物酔いの兆候を示した。
【0065】
ラットを遠心後4時間で二酸化炭素により死亡させ、腸の器官を調べた。ラット体内のスコポラミンまたはシタロプラムの存在を、Goncalves, Diaz及びMoses等に記載されたように分光光度計とデジタルイメージングにより検出した。
【0066】
A群では、腎臓は0.1%未満、肝臓は0.2%未満、脳は99%の活性物質を含んだ。残りの薬剤は体の他の部分全体に分散していた。
【0067】
B群では4%未満の活性物質が脳に存在し、75%超が腎臓と肝臓に、残りの部分は体内に分散していた。
【0068】
予測されるとおり、C群では活性物質はどこにも見出されなかった。
【0069】
スコポラミンとシタロプラムについて同一であるこの結果は、物質自体が標的化効果を有さないことを示す。
【0070】
実施例3
更なる試験をボランティアのヒトで実施した。
【0071】
19の被験者の群で試験を実施した。各試験被験者は、性別の区別なく2Lの赤ワインを与えられた。ワインを試験前の晩に3時間で消費した。翌朝被験者をA群とB群のそれぞれに二つに分けた。A群は本発明に係る担体に結合したイブメチン40mg(通常の経口用量の1/10)を受けた。B群は、糖鎖のみで活性物質を含まない空の膜を与えられた。A群は5分以内に赤ワインによって引き起こされる頭痛の完全な除去を感じた一方、B群は糖鎖を有する裸の膜からは全く苦痛の緩和を感じなかった。それ故B群は従来の経口送達により400mgのイブメチンで処理された。45分から1時間後に各種の度合いの苦痛の緩和が記録された。試験方法は図3にフローチャートで説明されている。
【0072】
従ってこの実験は、本発明に係るデリバリーシステムが迅速に作用し的確であることを示した。更に、放出された物質は口内粘膜を通じて迅速に摂取され、物質の代謝による損失なく脳に直接輸送される。
【0073】
図4は、担体1上の酸素結合部位(X)に結合した糖結合部2を有する担体(膜)1の構造を模式的に示す図である。酸素結合部位(X)はP、C、SまたはNであって良い。糖結合部はOH、NH、SOまたはPOのような置換基を有し、糖結合部への生体活性物質(R)を結合するための結合部位(B)を形成する。
【0074】
担体は酸素結合基を示すいずれかの非毒性の材料であってよく、セルロースベースまたはデンプンベースであって良い。デンプンは合成的、生化学的、または生合成的に由来してよい。更に適切な担体は、コラーゲン、ゼラチン、エラスチン、または同様なマトリックスを形成できる他の生体分子である。ニトロセルロースのようなセルロースベースの担体は、低コストで容易に入手できる材料であるため好ましい。担体は好ましくは、少なくとも処理の予測される期間に対応する期間の間で唾液に実質的に不溶性で非溶解性である。
【0075】
本発明によれば、糖結合部2の結合部位(B)は、そこに結合した生体活性物質Rを有する。生体活性物質は、ここに示されたような、中枢神経系に作用し、脳からのシグナルを誘導するいずれかの医薬または他の物質であって良い。
【0076】
糖結合部は、一つ以上の糖基を含んで良い。所望される結合部位(B)の数、及び糖鎖に結合される生体活性物質の立体化学に依存して、特定の糖結合部をそれぞれの目的でデザインできる。
【0077】
健康な被験者の口腔に配置されると、唾液酵素が糖鎖に作用し、糖基の間の結合を破壊し、かくして口腔内で糖部分と生体活性物質(R)を含む結合した生体活性分子を放出し、そこで生体活性分子はここに記載されたように粘膜を通じて直接摂取できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体活性物質のための担体(1)を含む、口腔内での使用のためのデリバリーシステムであって、前記担体(1)は、酸素結合部位(X)を含む表面と、ペントース基及び一つ以上の更なる糖基を含む少なくとも一つの結合部(2)とを有し、前記ペントース基は前記酸素結合部位(X)の一つの結合しており、一つ以上の生体活性分子(R)が少なくとも一つの結合部の糖基の一つに、または少なくとも一つの結合部(2)における一つ以上の糖基上の一つ以上の置換基に直接結合していることを特徴とするデリバリーシステム。
【請求項2】
前記担体(1)上の酸素結合部位(X)がP、C、SまたはNから選択される、請求項1に記載のデリバリーシステム。
【請求項3】
前記担体(1)がセルロースベースの材料またはデンプンベースの材料を含む、請求項1または2に記載のデリバリーシステム。
【請求項4】
前記担体(1)がニトロセルロースを含む、請求項3に記載のデリバリーシステム。
【請求項5】
前記結合部(2)が非分枝状のオリゴサッカリドまたはポリサッカリドである、請求項1から4のいずれか一項に記載のデリバリーシステム。
【請求項6】
前記少なくとも一つの結合部(2)が、ペントース基によって前記担体(1)上の酸素結合基に結合している第一の末端と、グルコースアミンで末端化された第二の末端とを有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のデリバリーシステム。
【請求項7】
前記結合部(2)が、キシロース−ガラクトース−ガラクトース−グルコースアミンの式を有する糖鎖である、請求項6に記載のデリバリーシステム。
【請求項8】
前記少なくとも一つの糖結合部(2)が、生体活性物質(R)のための結合部位(B)を構成する、OH、NH、SO及びPOから選択される少なくとも一つの置換基を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のデリバリーシステム。
【請求項9】
口腔内に生体活性物質を放出する方法であって、前記生体活性物質を、酸素結合部位(X)を含む表面と、担体(1)に結合した、前記酸素結合部位(X)の一つの結合したペントース基及び一つ以上の糖基を含む少なくとも一つの結合部(2)とを有する担体(1)に結合し、一つ以上の生体活性物質(R)が一つの以上の糖基、または結合部(2)における一つ以上の糖基上の一つ以上の置換基に直接結合しており、前記生体活性物質(R)を有する担体(1)が口腔内に配置され、唾液酵素と接触した際に生体活性物質(R)を放出するように構成されている、方法。
【請求項10】
唾液から由来する酵素が、結合部(2)における糖基の間の結合を破壊し、それによって結合部(2)から糖基に結合した生体活性物質(R)を含む少なくとも一つの生体活性分子を放出する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
口腔内に生体活性物質(R)を放出するためのデリバリーシステムの製造方法であって、
a)酸素結合部位(X)を示す表面を有する担体(1)を準備する工程;
b)前記酸素結合部位(X)の一つに結合したペントース基で末端化された第一の末端を有し、一つ以上の糖基を含む少なくとも一つの結合部(2)を前記担体(1)に結合する工程;
c)一つ以上の糖基に、または少なくとも一つの結合部(2)における一つ以上の糖基上の一つ以上の置換基に、一つ以上の生体活性分子(R)を直接結合する工程;
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
前記担体(1)に対する少なくとも一つの結合部(2)の結合が、5.6以下のpHを有する水溶液中で実施される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記担体(1)上の酸素結合部位(X)がP、C、S及びNから選択される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記担体(1)がセルロースベースの材料またはデンプンベースの材料を含む、請求項11、12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記担体がニトロセルロースを含む、請求項11から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記結合部(2)が非分枝状のオリゴサッカリドまたはポリサッカリドである、請求項11から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記糖結合部(2)が、生体活性物質(R)のための結合部位(B)を構成する、OH、NH、SOまたはPOから選択される少なくとも一つの置換基を含む、請求項11から16のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−512869(P2012−512869A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542073(P2011−542073)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【国際出願番号】PCT/SE2009/051478
【国際公開番号】WO2010/071593
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(511149876)ネオインヴェント・メディカル・エンジニアリング・アーベー (1)
【Fターム(参考)】