説明

口腔内疾病予防法

【課題】 口腔内に存在している電位差を縮小し、虫歯の発生を電気化学的に予防する事。
【解決手段】 口腔内皮および口腔外皮に炭素材料を使用した分極性陽電極を装着し、歯と歯茎間の電位差を縮小して、歯の主成分であるリン酸カルシウムの電離による溶解を抑制し、虫歯の発生を予防する。電極は、活性炭素、骨炭、木炭、黒鉛またはカーボンブラックなどの炭素材料が好ましい材料であった。また好ましい電極の装着法は、口腔内皮には粉末状の炭素材料を充填した柔軟な樹脂配合物を口内に、口腔外皮には炭素のシート状電極を頬またはあごに装着し、電気二重層によるマイナス電荷を口腔内に発生させて、無装着時の口腔内電位差100〜500mVを100mV以下に縮小して歯と歯の間および歯と歯茎間の電気化学反応を緩慢にする事によって課題を達成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内の電気環境を変化させて疾病の予防を図るための分極性電極に関する。本発明が対象とする主な口腔内疾病は虫歯、歯および歯茎の痛み、ドライマウスおよび胸やけなどの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
虫歯はある種の口腔内細菌が糖質から酸性物質を産生し、これによって歯がう蝕を起こすためとされている。このために歯をよくブラッシングすること、歯石除去を定期的に行うこと、フッ素処理を行うこと、甘み成分として砂糖に代わりキシリトールを摂取するなどが主な予防策となっている。しかし、厚生労働省が行っている実態調査の結果を見ると、その予防策の効果は若干認められるが、生涯に亘って効果がどうなっているのか見てみると、自己固有の歯の約7割が80歳くらいまでに失われてしまっている状態が続いており、大きな予防効果は読み取れないのが実情となっている。
歯および歯茎の痛み、ドライマウスおよび胸やけに関しても症状が発生してから行う薬剤治療などが主となっており、完全に有効な予防法はないのが現状である。
【0003】
【非特許文献1】 平成17年度歯科疾患実態調査結果について(厚生労働省)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者達は、歯のう蝕は単なる酸性物質の産生によるのではなく、歯と歯および歯と歯茎間の電気化学的な作用が主原因であるという観点に立って、虫歯発生の予防策を樹立する事を当初の課題とした。歯茎の痛み、ドライマウスおよび胸やけに関しては虫歯の予防策に付随して効果の発現を見出したもので、当初から予期した課題ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、口腔内または/および口腔外に炭素を主体とする分極性電極を配置し、口腔内に分布する電位差を低下させて、歯と歯の間および歯と歯茎の間に発生する電気化学反応を緩和し虫歯の発生を予防する手段とするものである。その原理は、次のように考えた。 炭素電極は生体に近接または接触した時はプラスに帯電し、生体側にはマイナスの電荷が集まって、いわゆる電気二重層を生じる事になる。これが近接する歯の周囲のプラス電荷を持った電気環境を中和し、歯と歯茎間の電位差を低下させる事になる。このために、歯と歯茎間の電気化学反応は緩和されてカルシウムの溶解が少なくなる。炭素電極が接触している生体の部位と非接触状態の生体との間には20〜100mVの電位差が観測された。この場合、炭素電極が接触している部位はプラス、非接触部位はマイナスの電位となっていた。50歳以上の成人では、炭素電極の装着しない状態では50〜500mVほどの電位差が観測され、未治療の虫歯を有する人の場合は150mV以上の高い電位差が観測された。10歳前後の虫歯のない年少者は、概ね100mV以下であった。炭素電極と対にアルミニウム箔を設けたガルバニ型化学電池を口腔内外で生体に近接させると、口腔内で電位差の低下は観測されるが電極付近にかゆみが感じられ皮膚が赤変しアレルギー現象が発生した。皮膚面付近に電流が流れたためと推定される。炭素単独の電極ではこのような現象は発生しなかった。
また、本発明は、虫歯の発生予防と同時に、歯および歯茎の痛み、ドライマウスおよび胸やけを改善する手段としても有効であった。
本発明の手段は(1)合成樹脂膜、紙、織布または不織布に保持された炭素材料が口腔内皮、口腔外皮または口腔内皮および口腔外皮に近接または接触して配置され、歯と歯の間および歯と歯茎の間の電極反応を緩和する事によって虫歯、歯および歯茎の痛み、ドライマウスおよび胸やけを予防する方法。
(2)天然樹脂、合成樹脂または天然樹脂および合成樹脂の混合物を結合剤とし、粉状、粒状または粉状および粒状の混合された炭素材料を充填材とした成型品が口腔内皮、口腔外皮または口腔内皮および口腔外皮に近接または接触して配置され、歯と歯の間および歯と歯茎の間の電極反応を緩和する事によって虫歯、歯および歯茎の痛み、ドライマウスおよび胸やけを予防する方法。
(3)天然樹脂、合成樹脂または天然樹脂および合成樹脂の混合物を結合剤とする膜または成型品が、その表面に粉状、粒状または粉状および粒状の炭素材料を被覆された状態で口腔内皮、口腔外皮または口腔内皮および口腔外皮に近接または接触して配置され、歯と歯の間および歯と歯茎の間の電極反応を緩和する事によって虫歯、歯および歯茎の痛み、ドライマウスおよび胸やけを予防する方法。
(4)上記(1)、(2)および(3)記載の炭素材料が、水溶性のカルシウム塩を含み、口腔内皮に近接または接触して配置され、歯と歯の間および歯と歯茎の間の電極反応を緩和する事によって虫歯、歯および歯茎の痛み、ドライマウスおよび胸やけを予防する方法。
以上の4方法による。
【0006】
使用する炭素材料は活性炭、骨炭または木炭の単独または混合物が人体に無害で好ましい。黒鉛、カーボンブラックも使用可能である。炭素繊維も効果があるが繊維が崩れて飛散し易く、繊維どうしを固めるような対策が必要であった。 炭素材料の形状は、粉状または/および粒状のものが使用される。粉状または/および粒状の炭素材料を予め塊状に成型加工して使う事も可能である。(3)の場合は粉状または/および粒状の炭素材料が口内の歯型などの形状に適合するように加工されたマウスピースの表面に被覆して使用されるのが好ましい。被覆の方法としては、炭素材料を約200℃に加熱し、マウスピースを接触させ、高温の炭素材料によってマウスピース表面が軟化し、同時に炭素材料がマウスピースと一体化する溶融付着法が好ましい。炭素材料を含む塗料を膜または成型品の表面に塗布する在来技術による被覆法も適用可能である。
使用する天然樹脂は、アカテツ科、キョウチクトウ科、クワ科あるいはトウダイグサ科などの植物から採取した樹液を生成したチクルや松脂から得られるエステルガムが好ましい。合成樹脂はポリイソプレン、酢酸ビニル樹脂、EVAあるいはシリコン樹脂およびシリコンゴムが特に好ましい。このほか、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET、塩化ビニル樹脂、ナイロン、ポリウレタンなどの汎用樹脂も用いることが出来る。これらの樹脂加工成型品は、内部に細かい空洞がある発泡成型品も使用可能である。成型品の硬度も柔らかい物から固い物まで使い勝手を考慮して決められる。自己粘着性を有するアクリル樹脂を用いる時は、電極そのものを粘着性とする事が可能となり装着性を向上できる。
【0007】
口腔内に配置する炭素材料は、(1)の場合は袋状の織布または不織布に炭素材料を充填した外径10mm前後の棒状の物が好ましかった。また2枚の木綿織布の間に活性炭を一様に敷きつめ、これをキルティング加工して包みこむ方法も良い結果が得られた。口腔外に配置する場合は、基材として炭素材料を保持する合成樹脂膜、紙、織布、不織布または炭素材料に粘着加工を施し、皮膚に直接貼りつける形が簡便で良いと考えられた。
(2)の場合は厚さ1〜2mm、長さ30〜50mmの平板状のチューインガム様のものが好ましかった。その形状は、平板状、粒状、星形状、顆粒状など任意の形状が可能であり、使い勝手を重視して決められる。この成型品は、特に口腔内に使用した時の不快感がなく使い勝手がよかった。成型品の厚さは、0.01mm程度まで効果を保持した状態で薄くする事が可能である。厚さが薄く強度に問題がある時はシート状の基材に塗布または貼り合わせて補強する。また気孔を有する成型品の気孔部に炭素材料を充填した物も有効であった。
(3)の場合は前記のようにスポーツ用のマウスピースの表面に粒状の炭素材料を加熱状態で埋め込んで使うと装着性もよく、効果的に使用する事が出来る。
【0008】
口腔内の電位差は、1mVまでの直流電圧を計測可能なテスターを用いて、歯の周辺を重点的に測定した。いずれの場所でも炭素材料を口腔内に配置した時は、炭素材料側がプラスの電位を示した。口腔内の電位差は個人差が多く、成人では約100mV以上、低い電位差を有する人でも50mVを超える値となる場合がほとんどであった。本発明の炭素電極を用いると、この口腔内電位差を50mV以下、多くの場合30mV以下とする事が可能となり、歯と歯および歯と歯茎間の電極反応を緩和する事が出来た。なお十代前後の年少者は殆ど100mV以下の口腔内電位差であった。
【発明の効果】
【0009】
本発明の炭素材料が分極性電極として口腔内外に配置される事によって、口腔内の歯と歯の間および歯と歯茎の間に観測される電位差は縮小して歯の主成分であるカルシウムは溶解し難くなる。このために歯のう蝕が起こり難くなる。歯垢の生成も極めて少なくなった。歯垢はカルシウムの濃度が飽和に達し、過剰のカルシウムを主成分とする物質が歯の表面に析出して起こると考えており、本発明の口腔内に配置する電極は予め水溶性のカルシウム塩を含んでおり、飽和溶解度までの余裕が少なくなっているため、歯のカルシウムの溶解を妨げる効果があると考えられる。
これらの効果のほかに、歯および歯茎の痛みが改善され、口腔内が乾くドライマウスや胸やけも唾液が潤沢に分泌されて改善されることが分かった。固い食べ物も普通に食べることが出来て生活の質向上が図られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
課題を解決するための手段の項に記載した(1)、(2)、(3)および(4)の方法のうち(1)の方策が最良と考える。炭素材料を保持するための繊維は、無地無染色の木綿製で、直径約10mmの打ひもが適している。打ひもは、中空構造となっており、ここに炭素材料として60メッシュに粗砕されたヤシガラ活性炭を一杯に詰める。打ひもの両端は、木綿糸を巻いて内容物がこぼれないように縛って密封し電極の完成品とする。この電極は沸騰水中で10分間ほど熱湯消毒して冷却後、歯と唇間に配置して生活する。電極配置後、約10分で唾液の分泌が盛んになって来る。この唾液は飲み込んでも吐き出してもよい。この方法によって歯の状態はほぼ数時間で平常の健康状態に回復できる。この後は、頬やあごに1×2cmの黒鉛シート(日立化成工業製、HGP−207 0.25t)を絆創膏で貼って生活し、その後、歯の状態は悪化することはなく、以後3年間にわたり虫歯の発生はなかった。
この方策の次に良いと考えているのは、(2)の方策である。中でもチューインガムの充填材として配合された炭酸カルシウムをヤシガラ活性炭に置き換えた電極が好ましい結果となった。この場合は、30分ほど噛んでから吐き捨てることになるが甘味も有り嗜好性に優れている。その反面、長時間の口腔内配置が難しいという欠点があるが一日に3回ほど施行すれば効果を持続的に維持できる。口腔内に配置する炭素電極は水溶性のカルシウム塩を含ませるのが好ましい。カルシウム塩は歯と同材質のアパタイトを炭素に対し重量で5%以下で良い。好ましくは2〜3%でよい。
以下実施例について説明する。
【実施例1】
【0011】
木綿生地打ひも(川村製紐工業製、外径10mm無染色品)を5cm採取し、一端をカタン糸で5周巻き付けて縛り密封する。もう一端にヤシガラ活性炭(奈良炭素製、粒タイプ)3グラムを注ぎ込んで紐の芯に注入する。その後注入口をカタン糸で5周巻いて縛り密封し電極とする。これを沸騰水中に10分間浸漬して消毒し冷却する。これを本発明者の一人が前歯と唇の間に挟み午前中2〜3時間、午後3〜4時間、夕食後約2時間着用したまま生活した。この結果試験者の持病であった歯の痛みは電極着用後5分ほどで消滅し口が渇く事も胸やけも無くなった。電極着用前の口内の最大電位差は250mVあった。着用後30分で歯と歯茎間の最大電位差を35mV、5時間後には20mVまでに低下させる事が出来た。電極着用前はリンゴを噛む事に苦痛を感じたが、電極着用して約20時間後には苦痛なく食べることが出来た。
【実施例2】
【0012】
チュウインガム(ロッテ、Black Blackガム)の片面に実施例1で使用したヤシガラ活性炭2g散布し、その上面に、同じチューインガムをもう1枚重ね合わせて約40℃に温めた後、指で強く圧縮して2枚のチューインガムが一体化して剥がれないようにした。このチューインガムを上下の歯の間に配置し約30分噛んで捨てた。この動作を午前中、午後および就寝前、合計3回行った。この動作を7日間、実施例1とは別人が続けた結果、実施例1と同じ効果が得られた。
【実施例3】
【0013】
径100mm、高さ10mmのシャーレを3個準備し、(1)1個のシャーレの底には11ミクロン厚みのアルミニウム箔(イオン株式会社販売、調理用)、(2)もう1個のシャーレにはカーボン紙(恩地金属箔製、箔打ち紙)を敷き、(3)もう1個のシャーレには何も敷かない状態で魚(鯛)骨約2グラムを放置した。その上に約30ccの純水を加えて骨の状況を観察した。骨とアルミニウムとの間には約200mV、カーボン紙との間には約150mVの電位差が発生しているのが観測された。アルミニウムはマイナス、カーボン紙はプラスに帯電していた。この状態で(1)および(3)の水は薄黄色に着色し骨が溶けだしている事が肉眼で見ることが出来た、(2)は殆ど肉眼では着色を観測ことなく骨の溶解は殆ど起きていなかった。この結果から、骨の電気環境が、炭素材料が作る程度のプラスの電位差の時は骨が溶け難いということが分かった。
【実施例4】
【0014】
鎮痛剤アセチルサルチル酸(バファリン、ライオン「株」製)を服用したが、歯の痛みは軽減するが、完全な痛みの解消効果は得られなかった。リンゴを噛む事も出来なかった。
【実施例5】
【0015】
絆創膏(バンドエイド、Johnson and Johnson社製)の中央部に1×2センチのガーゼ2層を置き、水溶性導電塗料(バニーハイト、日本黒鉛工業「株」製)2滴を落とし、乾燥させた。これを頬に貼り実施例1と同じ結果を得た。
【実施例6】
【0016】
実施例5の電極付き絆創膏をあごに貼り、実施例5と同じ結果を得た。
【実施例7】
【0017】
マウスピース(ヤマオカ製、S515470H EVAレジン製)の歯接面を200℃に加熱したヤシガラ活性炭(奈良炭素製、粒タイプ)に5分間押し込む形で接触させて、その後、大気中で自然冷却した。マウスピースは、この処理によって歯接面は活性炭で均一に被覆され、口腔内に配置して生活しても炭素の脱落は見られなかった。これを着用して午前中3時間、午後3時間生活し7日間テストした結果、実施例2と同じ効果を得る事が出来た。
【実施例8】
【0018】
実施例5に記載した絆創膏の代りに、14×18センチの大きさの粘着シート(大創産業製、衛生129)の中央部に11×15センチの大きさのカーボン紙(恩地金属箔製、箔打ち用カーボンブラック塗布グラシン紙)を置き、これを口腔前面に貼り睡眠した。カーボン紙を口腔側に向けて着用した。この結果実施例5と同じ効果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、口腔内疾病を薬剤に頼らない方法で予防するものであり、まったく新しい概念に基づくものである。その費用対効果は大きく、今後大きな産業として定着すると考えている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂膜、紙、織布または不織布に保持された炭素材料が口腔内皮、口腔外皮または口腔内皮および口腔外皮に近接または接触して配置され、歯と歯の間および歯と歯茎の間の電極反応を緩和することによって虫歯、歯および歯茎の痛み、ドライマウスおよび胸やけを予防する方法。
【請求項2】
天然樹脂、合成樹脂または天然樹脂および合成樹脂の混合物を結合剤とし、粉状、粒状または粉状および粒状の混合された炭素材料を充填材とした成型品が口腔内皮、口腔外皮または口腔内皮および口腔外皮に近接または接触して配置され、歯と歯の間および歯と歯茎の間の電極反応を緩和することによって虫歯、歯および歯茎の痛み、ドライマウスおよび胸やけを予防する方法。
【請求項3】
天然樹脂、合成樹脂または天然樹脂および合成樹脂の混合物を結合剤とする膜または成型品が、その表面に粉状、粒状または粉状および粒状の炭素材料を被覆された状態で口腔内皮、口腔外皮または口腔内皮および口腔外皮に近接または接触して配置され、歯と歯の間および歯と歯茎の間の電極反応を緩和する事によって虫歯、歯および歯茎の痛み、ドライマウスおよび胸やけを予防する方法。
【請求項4】
請求項1、請求項2および請求項3記載の炭素材料が、水溶性のカルシウム塩を含み、口腔内皮に近接または接触して配置され、歯と歯の間および歯と歯茎の間の電極反応を緩和する事によって虫歯、歯および歯茎の痛み、ドライマウスおよび胸やけを予防する方法。

【公開番号】特開2010−275287(P2010−275287A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145813(P2009−145813)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(395012064)
【出願人】(506407626)
【Fターム(参考)】