説明

口腔用微生物付着防止剤

【課題】口腔粘膜や歯に付着して持続的な微生物付着防止効果を示し、かつ製剤としての安定性の高い、口腔粘膜および歯に直接塗布することができる、口腔用微生物付着防止剤の提供。
【解決手段】微生物付着防止成分としてホスホリルコリン基含有重合体、例えば、下記式で表されるMPC単量体を含む単量体組成物をラジカル重合してなるMPC重合体、バインダー成分として水溶性多糖類、および相溶化成分としてポリ(メタ)アクリル酸誘導体を含み、必要により、多価アルコールや、殺菌剤等を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製剤の安定性、口腔内での滞留性および微生物付着防止効果に優れた口腔用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医療施設や介護施設等における患者や入所者の肺炎発症は、入院の長期化や死亡リスクの増大を招くことから、近年、その防止が課題となっている。
高齢者に多く見られる肺炎は、嚥下反射・咳反射の低下により睡眠中に不顕性の誤嚥(口腔内の唾液、痰、食べかす、逆流した胃内容物などを気管内に吸い込むこと)を起こし、この際、唾液や痰などとともに口腔内の細菌も同時に誤嚥することに起因するといわれている。このような肺炎は「誤嚥性肺炎」と呼ばれる。
また、主に集中治療室などで見られる人工呼吸器使用に起因する肺炎(人工呼吸器関連肺炎=Ventilator−Associated Pneumonia、以下VAPと略す)についても、誤嚥性肺炎の場合と同様に菌を含む唾液が気管内に流入することが発症の主な原因のひとつとされる。集中治療室においてVAPは極めて頻度の高い感染症であり、挿管による肺炎リスク増加は20倍、いったんVAPを発症すると死亡率は30〜40%にも及ぶとされる(非特許文献1)。
ひとたび肺炎を発症すると入院が長期化することから、肺炎リスクの低減は患者にとってメリットとなる。また肺炎治療のためには抗菌剤投与も必要となるため、肺炎リスクの低減は医療費の削減にもつながり、社会的意義が大きい。
【0003】
このような誤嚥性肺炎やVAP予防の有効な対策として、近年、口腔ケアが注目されている。最近の研究から、歯や歯茎を清潔に保ち口腔内の菌数を減少させることにより、肺炎の発症リスクを低減させることが明らかとなってきた(非特許文献2及び3)。
最近では、より効率的な口腔ケアの手技として「プラークフリー法」が提唱されている。「プラークフリー法」では、まず始めに歯科医師などが中心となり口腔内細菌の主要な供給源である歯垢や歯石の除去を徹底して行う。その後、看護師や介護士による最小限度の維持ケア(殺菌剤や口腔内保湿剤の塗布)などにより、清潔な口腔内環境を維持する。こうした手順を踏むことにより、より効率的に口腔内細菌の増加を抑制することができると考えられている。
「プラークフリー法」の維持ケアで使用される薬剤としては、一般的な殺菌剤が使用可能だが、口腔内では唾液により有効成分が洗い流されてしまうため、効果の持続性に乏しい。そこで、歯に対して吸着性を示す殺菌剤であるグルコン酸クロルヘキシジン(CHG)が海外では多用されている。しかし、CHGを粘膜部位に使用する際には、アナフィラキシーショックのリスクがあることから、日本国内では粘膜に対するCHGの適用が制限されている。
【0004】
そこで近年、殺菌成分については防腐性を担保できる程度の配合量に留め、その代わりに保湿剤を主成分とした口腔用保湿ジェルが開発されている。これは、口腔内の乾燥が進むと細菌が繁殖しやすくなることに着目し、口腔内の湿潤環境維持により菌増殖を抑制することを期待するものである。実際の介護現場において、口腔保湿ジェルの使用により肺炎リスクの低減可能性が示唆されたとの報告もなされている(非特許文献4)。
こうした口腔保湿ジェル製品の機能として、保湿による細菌増殖抑制だけでなく、口腔内への細菌の付着を抑制できれば、より高い効果が期待できる。このような目的において、生体膜リン脂質の極性基と同じ構造を持つホスホリルコリン基(以下、PC基と略記することもある)は、検討に値する。例えば、特許文献1では、PC基を含有する重合体(以下、PC重合体と略記することもある)を配合した組成物が口腔内の保湿効果に優れることが開示されている。しかしながら、PC重合体を単に配合した液剤では、唾液によりPC重合体が流されてしまい口腔内に滞留する時間が短くなるため、その効果の持続性が期待できない。
また、特許文献2には、PC重合体を用いて菌やカビなどの微生物が表面に付着する程度を減少させる方法が開示されており、歯科医術における有用性についても示唆されている。しかし、口腔内における具体的な使用方法についての記述はない。
【0005】
PC重合体を口腔粘膜や歯に付着・固定化させる方法として、イオン結合、共有結合、強い疎水性相互作用の利用が考えられる。
イオン結合によってPC重合体を口腔粘膜や歯に適用する場合、カチオン性基をPC重合体中に導入すれば、歯の表面に露出したハイドロキシアパタイト由来のリン酸残基あるいは口腔粘膜表面に露出したムコ多糖に対して、静電相互作用によりPC重合体を付着させることができる。しかしながら、唾液中にはナトリウムイオンやカルシウムイオンなど様々なカチオン成分が含まれるため、イオン結合したPC重合体がこのようなカチオン成分により置換されると、速やかに脱離してしまい持続的な効果を期待することができない。
共有結合によってPC重合体を口腔粘膜や歯に固定化するためには、口腔内のような水分の多い環境でも反応可能な活性の高い官能基をPC重合体中に導入する必要がある。このような高活性の官能基として、アルデヒド基、カルボジイミド基、スクシミド基などが挙げられるが、これらの高活性化合物は一般に生物学的安全性に乏しく、人体への悪影響を考えると好ましくない。
疎水性相互作用によってPC重合体を口腔内に適用する場合、人工材料を用いる歯科補綴物や義歯床などについては、生体歯に比べて表面がより疎水的であるため、疎水性の弱い官能基を導入したPC重合体であっても実用に供することができると考えられている(特許文献3)。
しかし、口腔粘膜や歯に物理吸着させる場合、口腔粘膜や歯の表面は親水性が高いため、より疎水性の強い官能基を用いる必要がある。その一例として、特許文献4には、重合体末端にフルオロアルキル基を導入したPC重合体を歯科用組成物として用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−273767号公報
【特許文献2】特許第3253082号公報
【特許文献3】特開2004−194874号公報
【特許文献4】特開2007−217516号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】岸本裕充著、「口腔ケア実践テクニック」、照林社、p.60
【非特許文献2】弘田 克彦、米山 武義、太田 昌子、橋本 賢二、三宅 洋一郎 : プロフェッショナル・オーラル・ヘルス・ケアを受けた高齢者の咽頭細菌数の変動、日本老年医学会雑誌、Vol.34,No.2,p.125−129(1997)
【非特許文献3】三宅洋一郎、誤嚥性肺炎の発症における口腔細菌の役割と細菌学的にみた口腔ケアの意義、歯界展望、vol.91(6)、p.1298−1303(1998)
【非特許文献4】須藤英一、前島一郎、日本老年医学会雑誌、Vol.45(2),p.196−201 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、口腔粘膜や歯に付着して持続的な微生物付着防止効果を示し、かつ製剤としての安定性の高い、口腔用微生物付着防止剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、微生物付着防止性分としてのPC重合体、特に、フルオロアルキル基のような疎水性の強い官能基を持たないPC重合体を用いて、微生物付着防止効果を口腔内で発現させるためには、PC重合体を口腔粘膜や歯に対して強固に付着させ得る安全性の高いバインダー成分を配合する必要があることに着目した。このようなバインダー成分として、水溶性多糖類(特にセルロース誘導体)が好適であると考え、PC重合体との配合検討を行なった。ところが、PC重合体をセルロース誘導体水溶液に配合したところ、配合物は二相に分離してしまい、均一な製剤が得られないことが明らかとなった。
そこで、相溶化成分として、更にポリ(メタ)アクリル酸誘導体を配合することにより均一な製剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明によれば、微生物付着防止成分としてホスホリルコリン基含有重合体(PC重合体)、バインダー成分として水溶性多糖類、相溶化成分としてポリ(メタ)アクリル酸誘導体、および水を含むことを特徴とする口腔用微生物付着防止剤が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の口腔用微生物付着防止剤は、微生物付着防止成分としてPC重合体、バインダー成分として水溶性多糖類、相溶化成分としてポリ(メタ)アクリル酸誘導体、および水を必須に含むので、口腔粘膜および歯に直接塗布するという簡便な方法により、口腔粘膜や歯に付着させて持続的な微生物付着防止効果を得ることができる。しかも、製剤としての安定性にも優れ、従来にない、全く新しい口腔用微生物付着防止剤として使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の口腔用微生物付着防止剤は、PC重合体、水溶性多糖類、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、および水を含む。
PC重合体は、微生物付着防止成分として作用するものであり、ホスホリルコリン基含有単量体(以下、PC単量体と略記することもある)、好ましくは式(1)で表される2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、MPC単量体と略記することもある)を含む単量体組成物を、ラジカル重合してなる重合体(以下、MPC重合体と略記することもある)等が挙げられる。MPC重合体は、反応性基及びフルオロアルキル基を含まない重合体であることが好ましい。
【0013】
【化1】

【0014】
PC重合体を合成するための単量体組成物としては、例えば、上記PC単量体、特にMPC単量体単独、もしくはPC単量体、特にMPC単量体と、該PC単量体と共重合可能な、反応性基及びフルオロアルキル基を含まないラジカル重合性単量体との混合物が挙げられる。
前記ラジカル重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸及びその塩類、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの単量体のうち、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが、入手性及び単量体の生物学的安全性の点からより好ましい。これらの単量体は、MPC重合体の製造にあたって単独でも2種以上の混合物としても用いることができる。
【0015】
前記PC重合体、特に、MPC重合体としては、PC単量体、特にMPC単量体を含む単量体組成物を、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等、公知の方法に従って重合することによって得ることができる。例えば、溶液重合の場合、単量体組成物を低級アルコールなどの有機溶媒中に溶解し、窒素、アルゴン等不活性ガスの雰囲気下、アゾ化合物や過酸化物等のラジカル重合開始剤を添加して加熱、攪拌することにより得ることができる。また、MPC重合体は、市販品(商品名「リピジュア」(登録商標)、日油株式会社製)を用いることもできる。
MPC重合体を含むMPC重合体の形態としては、粉状、溶液状又は均一分散液体状のいずれでもよい。
【0016】
前記PC重合体は、好ましくはMPC単量体に由来する共重合組成比が10〜100モル%の範囲のMPC重合体を適宜選定することができるが、微生物付着防止機能の点から、MPC単量体に由来する共重合組成比が30〜100モル%の範囲がより好ましい。MPC単量体の共重合組成比が10モル%より小さい場合、十分な微生物付着防止能が得られない恐れがある。
【0017】
前記MPC重合体を含む前記PC重合体の重量平均分子量は、通常10000〜10000000の範囲で適宜選定することができるが、口腔内への付着性と製造における混合のしやすさから、50000〜3000000の範囲がより好ましい。
本発明の口腔用微生物付着防止剤において、MPC重合体を含むPC重合体の含有割合は、通常0.01〜10質量%の範囲で適宜選定することができるが、微生物付着防止機能と配合物の調製のしやすさの点から、0.05〜5質量%の範囲がより好ましい。
【0018】
本発明の口腔用微生物付着防止剤において、上記水溶性多糖類は、口腔粘膜や歯に対して、MPC重合体を含むPC重合体を強固に付着させるためのバインダー成分として作用する。該水溶性多糖類は、口腔粘膜や歯に対して物理吸着し、また、多糖分子骨格中に含まれる水酸基は、PC重合体中に含まれるホスホリルコリン基と水素結合を形成して複合体を形成する。これらの働きにより、水溶性多糖類は口腔粘膜や歯とPC重合体の間でバインダーとして機能する。
本発明に用いる水溶性多糖類としては、MPC重合体を含むPC重合体に対するバインダー機能の高さと使用感の点で、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースが特に好ましい。このような水溶性セルロース誘導体の使用に際しては、1種または2種以上を混合して用いても良い。
本発明の口腔用微生物付着防止剤において、水溶性多糖類の含有割合は、通常0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%の範囲である。該含有割合が0.1質量%未満の場合、バインダー機能が十分でなく、また、20質量%を超えて配合すると、製造時の混合性が悪化する恐れがある。
【0019】
本発明の口腔用微生物付着防止剤において、上記ポリ(メタ)アクリル酸誘導体は、製剤を均一化するための相溶化成分として作用する。ポリ(メタ)アクリル酸誘導体およびPC重合体の重合基本骨格は、両者とも(メタ)アクリル構造に由来する分子構造を持つことから、水溶液中において(メタ)アクリル構造同士が相互作用すると考えられる。また、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体に含まれるカルボキシル基は、上記水溶性多糖類の分子骨格中に含まれる水酸基と水素結合を形成する。これらの働きにより、PC重合体、水溶性多糖類、およびポリ(メタ)アクリル酸誘導体の3者を配合した水溶液は、二相に分離することなく均一な製剤となると考えられる。
【0020】
前記ポリ(メタ)アクリル酸誘導体としては、相溶化能の高さと使用感の点で、例えば、部分架橋型アクリル酸系重合体(化粧品成分表示名「カルボキシビニルポリマー」)、アルキル基含有アクリル酸系重合体(化粧品成分表示名「アクリル酸アルキル共重合体」)、又は部分架橋型アルキル基含有アクリル酸系重合体(化粧品成分表示名「(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10−30))クロスポリマー」)が特に好ましく挙げられる。ポリ(メタ)アクリル酸誘導体の使用に際しては、1種または2種以上を混合して用いても良い。
本発明の口腔用微生物付着防止剤において、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体の含有割合は、通常0.01〜5.0質量%、好ましくは0.05〜1質量%の範囲である。該含有割合が0.01質量%未満の場合、相溶化能が十分でなく、また、5.0質量%を超えて配合すると、製造時の混合性が悪化する恐れがある。
【0021】
本発明の口腔用微生物付着防止剤に用いる水は、精製水等を用いることができる。該水の含有量は、上記PC重合体、水溶性多糖類、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、後述する他の成分の好ましい含有割合の合計が、水を加えて100質量%となるように含有させることができる。
【0022】
本発明の口腔用微生物付着防止剤は、本発明の目的を逸脱しない範囲で湿潤剤を含んでも良い。
該湿潤剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、イソプレングリコール、エチルヘキサンジオール、イソペンチルジオール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、マンニトール、エリスリトール等の多価アルコールが挙げられ、使用に際しては、単独又は2種以上の混合物として用いることができる。これら湿潤剤の中でも、口腔粘膜への馴染みと味の良さから、グリセリン、ソルビトール、又はキシリトールの少なくとも1種の使用がより好ましい。
湿潤剤を含有させる場合の含有割合は、本発明の所望の効果を損なうことのない範囲で、口腔用微生物付着防止剤の全量当り、通常0.1〜10.0質量%が好ましい。
【0023】
本発明の口腔用微生物付着防止剤は、更に、本発明の目的を逸脱しない範囲で粘膜に適用可能な殺菌剤を含んでも良い。
該殺菌剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等のカチオン性界面活性剤;グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン等のビグアナイド系化合物;ヨウ素イオン、ヨウドホルム、ポビドンヨード等のヨウ素系化合物;銀イオン等の無機系化合物;クレゾール、イソプロピルメチルフェノール等のフェノール系化合物、メチルパラベン等のパラベン類、安息香酸及びその塩類などを挙げることができる。
殺菌剤を含有させる場合の含有割合は、口腔用微生物付着防止剤中、0.01〜5.0質量%の範囲が好ましい。
【0024】
本発明の口腔用微生物付着防止剤は、前記成分の他に、本発明の目的を逸脱しない範囲で公知の外用剤に使用される添加剤を含有させても良い。
前記添加剤としては、例えば、増粘剤、起泡剤、エアゾール剤、有機酸、酸化防止剤、安定化剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、矯味剤、香料、色素等が挙げられる。
【0025】
本発明の口腔用微生物付着防止剤の製造に際しては、前記各成分を適宜混合しても良いが、例えば、次のように製造することもできる。
PC重合体の形態が粉状の場合は、水に加えてからよく攪拌混合し、他の成分を加えて均一溶解させる。PC重合体の形態が溶液状または均一分散液体状の場合は、PC重合体溶液に対して水溶性多糖類およびポリ(メタ)アクリル酸誘導体、更には他の成分を加えて混和することにより、口腔用微生物付着防止剤を簡便に得ることができる。
また、多価アルコール、殺菌剤、添加剤などを加える場合は、直接、またはあらかじめ水やアルコールと攪拌混合してよく溶解させた後、混和させることができる。
【0026】
本発明の口腔用微生物付着防止剤は、使用時の簡便さや安全性の観点などから、チューブ、軟質ボトル、パウチ、あるいはディスペンサーポンプ付き容器などに入れて用いることができる。いずれの場合においても、使用に際しては0.5〜2mL程度の製剤適量を、例えば、歯ブラシや口腔内清浄用スポンジブラシに取り、口腔粘膜や歯に擦り込みながら塗布することにより、所望の効果が得られる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例、比較例により更に詳細に説明する。
実施例1
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)と、n−ブチルメタクリレート(BMA)の共重合体(MPC/BMA(モル比)=8/2)(以下、MPC重合体Aと略記)の5質量%水溶液50.0g(ポリマー固形分2.5g、精製水47.5gを含有)に、バインダー成分としてヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、HPMCと略記)1.0g、および相溶化成分としてカルボキシビニルポリマー(化粧品原料基準成分コード 101243)0.1gを添加し、ディスパーミキサーを用いて系が均一になるまで攪拌した。次いで、グリセリン3.0g、安息香酸ナトリウム(以下、BANaと略記)0.05g、中和剤としてアルギニン0.2gを適量の精製水に溶解して加え、系が均一になるまで攪拌して製剤100gを調製した。この製剤について、次の製剤の均一性評価、口腔内付着性の評価、および口腔内における微生物付着防止機能の評価を行った。結果を表5に示す。
【0028】
<製剤の均一性評価>
口腔用微生物付着防止剤を、40℃にて1週間保管した後、目視にて分離の有無を判定した。均一なものを○、分離しているものを×と評価した。
<口腔内滞留性の評価>
口腔用微生物付着防止剤を、市販の口腔用スポンジブラシに製剤を1g取り、口腔内に塗布した後、1時間経過した時点での残留感について、対照製剤としてのMPC重合体Aの1質量%水溶液と比較して官能評価した。対象製剤と比べて残留感が強いものを○、やや強いものを△、同等のものを×として評価した。
【0029】
<口腔内における微生物付着防止機能の評価>
健康な男女10名を被験者とし、次の手順に従って塗布前後における口腔内の菌数を評価した。まず、市販の歯ブラシと歯磨き粉を使い口腔内を清浄した後、口腔用スポンジブラシに製剤としての口腔用微生物付着防止剤を1g取り、口腔内にまんべんなく塗布した。また対照製剤としてMPC重合体Aの1質量%水溶液を用いた。歯磨き後および製剤塗布後5時間目において、口腔内から採取した唾液をSCD寒天培地に混釈して37℃、24時間培養した後、出現したコロニー数を計測してコロニー数(CFU/mL)を算出した。製剤塗布前のコロニー数(X)及び製剤塗布後5時間経過時点でのコロニー数(Y)についてそれぞれの対数値(logX、logY)を算出し、logYからlogXを差し引いた値を「対数増加値」とし、さらに被験者10名の平均をとって「平均対数増加値」を算出した。微生物付着防止機能について、前記の平均対数増加値が0.4未満を著効○、0.4以上0.5未満を有効△、0.5以上を無効×として評価した。
【0030】
実施例2〜11
配合成分の種類及び配合量を表1及び表2に示すように変更した以外は、実施例1に記載の方法に準じて、実施例2〜11の製剤各100gを調製した。これらについて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
【0031】
比較例1〜11
配合成分の種類及び配合量を表3及び表4に示すように変更した以外は、実施例1に記載の方法に準じて、比較例1〜11の製剤各100gを調製した。これらについて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
(略号)
MPC重合体A:MPCとBMAの共重合体(MPC/BMA=8/2)
MPC重合体B:MPCとBMAの共重合体(MPC/BMA=3/7)
MPC重合体C:MPCの単独重合体
HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース
HEC:ヒドロキシエチルセルロース
HPC:ヒドロキシプロピルセルロース
CMC:カルボキシメチルセルロース
CVP:カルボキシビニルポリマー
PAA:アクリル酸アルキル共重合体
XPAA:部分架橋型アルキル基含有アクリル酸系重合体
BANa:安息香酸ナトリウム
【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
以上の実施例、比較例より、本発明の口腔用微生物付着防止剤は、比較例よりも製剤の均一性、口腔内での滞留性および微生物付着防止機能に優れることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物付着防止成分としてホスホリルコリン基含有重合体(PC重合体)、バインダー成分として水溶性多糖類、および相溶化成分としてポリ(メタ)アクリル酸誘導体を含むことを特徴とする口腔用微生物付着防止剤。
【請求項2】
前記PC重合体が、式(1)で表される2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを含む単量体組成物をラジカル重合してなる重合体であり、且つ反応性基及びフルオロアルキル基を含まないことを特徴とする、請求項1記載の口腔用微生物付着防止剤。
【化1】

【請求項3】
前記水溶性多糖類が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、又はカルボキシメチルセルロースの少なくとも1種を含む、請求項1又は2記載の口腔用微生物付着防止剤。
【請求項4】
前記ポリ(メタ)アクリル酸誘導体が、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸アルキル共重合体、又は部分架橋型アルキル基含有アクリル酸系重合体の少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の口腔用微生物付着防止剤。
【請求項5】
更に多価アルコールを含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の口腔用微生物付着防止剤。
【請求項6】
更に殺菌剤を含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の口腔用微生物付着防止剤。

【公開番号】特開2011−153101(P2011−153101A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16112(P2010−16112)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】