説明

口腔用組成物

【課題】フィチン酸含有口腔用組成物の収斂性、特に歯のきしみ感を改善し、使用感の良好な口腔用組成物を提供する。
【解決手段】次の成分(A)及び(B):
(A)フィチン酸又はその塩 0.01〜10質量%
(B)エリスリトール 3〜60質量%
を含有し、成分(B)と成分(A)の質量比(B/A)が5〜1000である口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内に適用した際の使用感の良好な口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フィチン酸は、タバコのヤニの除去、歯石抑制効果、フッ化錫の安定化等の作用があることが知られており、フィチン酸を含有した洗浄剤や歯磨剤が報告されている(特許文献1)。また、フィチン酸を含有する組成物を口腔内に適用した場合の、収斂性を改善するため、フィチン酸に、アミノ酸、蛋白質などの両性電解質(特許文献2)、特定の香料成分(特許文献3)、鎖式炭化水素化合物(特許文献4)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(特許文献5)等を配合する技術が知られている。また、ポリリン酸塩の収斂感を改善するために硫酸アルカリ金属塩を配合する技術がある(特許文献6)。
【特許文献1】特開昭56−18913号公報
【特許文献2】特公昭61−23768号公報
【特許文献3】特開昭62−198611号公報
【特許文献4】特開平10−87458号公報
【特許文献5】特開2000−26259号公報
【特許文献6】特開平7−285839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の技術は収斂性、すなわち皮膚や口腔内粘膜に対する作用を課題としており、フィチン酸含有口腔用組成物の歯のきしみ感は知られていなかった。また配合する成分によっては苦味、油性感等の新たな問題が生じ、必ずしも使用感が良好になるものでもなかった。
従って、本発明は、フィチン酸含有口腔用組成物の歯のきしみ感を改善し、使用感の良好な口腔用組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで本発明者は、フィチン酸による歯のきしみ感を改善すべく種々検討したところ、全く意外にもエリスリトールを一定量以上配合すると、フィチン酸による歯のきしみ感が顕著に改善されるとともに、さっぱりとした良好な使用感を有する口腔用組成物が得られることを見出した。
【0005】
すなわち、本発明は、次の成分(A)及び(B):
(A)フィチン酸又はその塩 0.01〜10質量%
(B)エリスリトール 3〜60質量%
を含有し、成分(B)と成分(A)の質量比(B/A)が5〜1000である口腔用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、フィチン酸特有の歯のきしみ感が改善され、かつさっぱりとした使用感の良好な口腔用組成物が提供できる。ここで、歯のきしみ感は、歯と歯を接触させたり、擦りあわせたときの感触をいい、物理的な不快感である。本発明によれば、歯で感じる使用感が良好で、歯の表面の質感を改善した口腔用組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の口腔用組成物は、歯の美白成分としてフィチン酸を含有する。フィチン酸は、別名myo−イノシトール6リン酸ともいい、リン酸化合物である。その塩としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩やアンモニウム塩等が挙げられ、味、匂いの観点からアルカリ金属塩が好ましい。
【0008】
本発明の口腔用組成物は、フィチン酸又はその塩(A)を当該組成物に0.01〜10質量%含有する。歯の美白作用、光沢付与作用の点からフィチン酸又はその塩(A)は0.05質量%以上、さらに0.1質量%以上含有するのが好ましく、味や着色の点からフィチン酸又はその塩(A)は当該組成物中に5質量%以下、さらに2質量%以下含有するのが好ましい。本発明の口腔用組成物が洗口剤の場合にはフィチン酸又はその塩(A)は3質量%以下が好ましく、さらに1質量%以下が好ましい。尚、本発明におけるフィチン酸又はその塩の含有量は、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムで中和して測定し、全量を酸に換算したものを採用する。
【0009】
本発明の口腔用組成物には、エリスリトール(B)を3〜60質量%含有する。この範囲のエリスリトールを配合することにより、フィチン酸による歯のきしみ感が改善され、かつ良好な使用感が得られる。エリスリトールのより好ましい含有量は、4〜50質量%、さらに好ましくは5〜45質量%である。本発明の口腔用組成物が洗口剤の場合にはエリスリトールは30質量%以下が好ましく、さらに20質量%以下が好ましい。
【0010】
本発明における成分(B)と成分(A)の質量比(B/A)は、フィチン酸による歯のきしみ感改善作用及び使用感の点で重要であり、5〜1000、さらに10〜800、さらに15〜500、特に20〜500が好ましい。また、本発明の口腔用組成物が洗口剤の場合には成分(B)と成分(A)の質量比(B/A)は5〜300、さらに10〜300、さらに15〜300、特に20〜300が好ましい。
【0011】
前記のようにフィチン酸はリン酸化合物の1種であり、ポリリン酸等の他のリン酸化合物にも歯のきしみ感はあるが、フィチン酸のきしみ感は特有であり、また、ポリリン酸にエリスリトールを配合してもポリリン酸による歯のきしみ感は改善されないので、本発明の作用はフィチン酸とエリスリトールの組み合せに特有のものと考えられる。
【0012】
本発明の口腔用組成物は、フィチン酸による歯のきしみ感改善効果の点で、水で30質量%に希釈したときのpHが5.5以上、8以下が好ましく、さらに7以下が好ましい。また、フィチン酸による歯の美白、光沢付与の観点からは6.5以下であるのが好ましい。
当該pHは、例えば練り歯磨きのように粘度の高い口腔用組成物の場合に正確にpHを測定できないことから、当該組成物を水で30質量%に希釈したものを当該組成物のpHとしている。水で30質量%に希釈したものを採用したのは、当該組成物の口腔内に適用した状態と想定したものである。
組成物のpHを上記範囲に調整するには、pH調整剤を用いるのが好ましく、当該pH調整剤としては、フィチン酸による美白効果、光沢付与の効果を阻害せず、歯の脱灰を抑制できる範囲、及び歯のきしみ感を生じたり使用感を損ねることのない範囲で、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、酒石酸等の有機酸塩、フィチン酸以外のリン酸(例えば、オルトリン酸)、塩酸、硫酸等の無機酸塩、水酸化ナトリウム等の水酸化物、アンモニア又はアンモニア水、低級アルカノールアミン類、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明の口腔用組成物は、多価カチオンの含有量を低く抑えることが好ましい。多価カチオンは、フィチン酸を不溶性にさせるため、その効果の低下を防止するためである。その合計の含有量はICP発光分析法(ICP発光分析装置:Perkin Elmer社 Optima 5300DV)で測定してフィチン酸に対して0.1モル倍未満であることが好ましい。すなわち、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛等の多価カチオンを主に供給する剤は配合しないことが望ましく、多価カチオンを実質的にほとんど含まないものが好ましい。また、カチオン性殺菌剤や、ゼオライト又は活性炭等の吸着物質は、フィチン酸と結合したり、フィチン酸を吸着するため、その効果を低下することから、これらを配合しないことが望ましく、口腔用組成物中に0.001質量%未満であることが好ましく、さらに0.0001質量%以下であることが好ましく、実質的に含まないものが好ましい。
【0014】
また、本発明の口腔用組成物には、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、モノフルオロリン酸ナトリウム等のフッ化物(フッ素イオン供給化合物)を含有しないか、フィチン酸の効果を阻害しない範囲で配合してもよい。フッ化物は、フッ素原子換算で500ppm未満であることが好ましく、さらに300ppm以下を含有するものが好ましく、含有しないものが好ましい。
【0015】
本発明の口腔用組成物には、前記成分の他、例えば発泡剤、発泡助剤、研磨剤、湿潤剤、粘稠剤、ゲル化剤、粘結剤、増量剤、甘味剤、保存料、殺菌剤、薬効成分、顔料、色素、香料等を適宜含有させ、種々の剤形に応じた方法により当該組成物を製造することができる。また、従来用いられた美白成分であるポリエチレングリコールなどの併用も制限されない。
【0016】
本発明の口腔用組成物は、例えば溶液状、ゲル状、ペースト状といった剤形に調製され、粉歯磨剤、潤性歯磨剤、練り歯磨剤、液状歯磨剤、洗口剤等にすることができる。
それらどの剤形においてもポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、ラクチトール等を湿潤剤あるいは粘稠剤等の目的で含有させることができる。
【0017】
また、溶液状組成物の粘稠剤あるいはゲル状組成物のゲル化剤としてさらにはペースト状組成物とする場合の粘結剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、グアガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム等を1種又は2種以上含有させることができる。このうち、フィチン酸又はその塩の美白効果、光沢形成効果を十分に発揮させる観点からアルギン酸ナトリウム以外の粘結剤を選択することが好ましい。
また、特に緩衝液系の為に高塩濃度となる場合は、非イオン性のポリマー、即ちヒドロキシエチルセルロース、グアガム、ヒドロキシプロピルセルロース等を1種又は2種以上含有させることもできる。
【0018】
本発明の口腔用組成物を歯に適用するには、そのまま適用してもよいし、水又は唾液等で30質量%程度まで希釈した状態で適用する場合の両者が含まれる。すなわち、洗口剤のような場合には希釈することなく歯に適用される。一方、練歯磨剤等の場合には唾液により30質量%程度まで希釈された状態で歯に適用されることになる。
【実施例】
【0019】
以下の実施例において、%は質量%を意味する。
【0020】
試験例1
表1、表2に記載の洗口液を調製し、その歯のきしみ感を評価した。
洗口液で20秒間口の中をすすぎ、洗口液を吐き出した後、歯を擦り合わせてきしみ感を評価した。評価は、以下の4段階で行い、3名の被験者のうち2名以上が共通した評価を採用した。
AA:歯のきしみを感じない。
A:歯のきしみをほとんど感じない。
B:わずかに歯のきしみを感じる程度であり、良好。
C:歯のきしみを感じる。
評価結果もあわせて表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
表1の比較例5に示すように、フィチン酸を0.3質量%含有するpHが6の洗口液は歯のきしみを感じる(C)ものであった。これに対し、表1に示すように、フィチン酸を0.3質量%にグリセリンを配合した比較例1の洗口液は、歯のきしみ感は改善されず、逆に歯のきしみ感が強くなった。また、エリスリトールと同じ量のソルビトール、キシリトールを配合した比較例2、3についても歯のきしみ感は改善されなかった。さらに、フィチン酸を0.1質量%にソルビトールを配合した比較例4についても歯のきしみ感は改善されなかった。また、ソルビトールを配合したものは甘い味であるが清涼感が低く、キシリトールを配合したものも甘い味であるがさっぱりした清涼感は得られなかった。
【0024】
これに対し、エリスリトールを配合した実施例1は、フィチン酸による歯のきしみ感の改善効果が得られた。さらに表2に示すように、エリスリトール/フィチン酸の比が5以上の場合に、歯のきしみ感改善効果が得られ、さらに15以上の場合に歯のきしみ改感善効果が優れ、20以上では歯のきしみ感の効果がさらに優れていることが判明した。また、得られた洗口液の使用感は、歯のきしみ感も改善され清涼感に優れてさっぱりしており良好であった。
【0025】
試験例2
表2に歯の美白効果の評価としてb*の変化を測定した結果と、歯の艶又は光沢の評価として輝度を測定した結果(Δ輝度)を示す。美白効果の評価と歯の光沢の評価は抜去し
たヒト歯により行い、美白評価は歯冠部をイオン交換水中で2分間歯ブラシ(花王株式会社製 ピュオーラ ハブラシ コンパクト 毛のかたさ:ふつう)によるブラッシングを行って、エナメル質表面の汚れを取り除いたヒト歯を用い、光沢の評価はブラッシング処理を行わないヒト歯を用いた。美白効果及び光沢の評価は、各洗口液にヒト歯を室温で48時間浸漬して、この浸漬前後のb*の変化(Δb*)、輝度の変化(Δ輝度)を測定し
た。なお、ヒト歯は3個用い、Δb*、Δ輝度は3個のデータの平均値により評価した。
【0026】
各洗口液に浸漬前後のヒト歯のb*の変化Δb*は、(浸漬後のb*―浸漬前のb*
から求めた。このb*値は、デジタルカメラD1x、Ai AF ズーム・マイクロ・ニッコール ED 70〜180mm F4.5〜F5.6D(いずれもニコン製)と白色フラッシュ光源(コニカミノルタ製)を用いて撮影された画像をAdobe Photoshop CS3(アドビシステムズ製)を用いてL***表色系で表し、求めた。b*の値が正の値で0に近いほど、黄色味が少なく白さが増すことを意味し、−Δb*(Δb*絶対値)が大きいほど白さが増すことを意味する。実施例1〜10のうち、pHの高い実施例8と実施例9は、Δb*の絶対値が小さい。
【0027】
各洗口液に浸漬前後のヒト歯の輝度の変化(Δ輝度)は、(浸漬後の輝度―浸漬前の輝
度)から求めた。輝度の測定法としては、偏光を利用した画像解析から表面反射光強度を測定する方法を用いた。評価用画像を撮影する装置として、カメラはデジタル一眼レフカメラNikon D70、レンズはAi AFマイクロ・ニッコール105mm F2.8D、ストロボ発光はワイヤレス・リモート・スピードライトSB-R200(いずれもニコン製)を組合せて設置したものを用いた。スピードライトの発光部及びレンズの前にプラスチック偏光板(エドモンド製)を透過軸が30度交差するように配置して撮影した。撮影画像はAdobe Photoshop CS3(アドビシステム製)を用いてハイライト部分の平均輝度を求めた。輝度は数値が大きいほど光沢が増したことを意味し、Δ輝度の数値が大きいほど光沢が増したことを意味する。
【0028】
本発明の洗口液、練歯磨の処方を以下に示す。洗口液の歯のきしみ感の評価は試験例1と同じ条件で行い、美白評価、光沢評価は試験例2と同じ条件で行った。練歯磨の歯のきしみ感の評価は、3名の被験者について行い、練歯磨で2分間ブラッシングして口をゆすいだ後、歯をすり合わせてきしみ感を評価し3名のうち2名の共通した評価を採用した。練歯磨の美白効果、光沢評価は、練歯磨を2倍に希釈した液にヒト歯を浸漬して行い、それ以外は試験例2と同じ条件で評価を行った。
実施例11(洗口液)
フィチン酸(50%水溶液) 0.5
エリスリトール 6
グリセリン 6
エタノール 4
ポリグリセリンラウリン酸エステル 0.5
サッカリンナトリウム 0.01
香料 0.2
水酸化カリウム水溶液(48%水溶液) pH6に調整
精製水 残量
合 計 100(%)
エリスリトール/フィチン酸(質量比) 24
歯のきしみ感評価 AA
美白評価 Δb*=−5.4、光沢評価 Δ輝度=7.4
【0029】
実施例12(練歯磨)
フィチン酸(50%水溶液) 1
エリスリトール 40
ソルビトール液(70%水溶液) 25
カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.8
キサンタンガム 0.1
ポリエチレングリコール 5
サッカリンナトリウム 0.1
研磨性シリカ 11
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5
水酸化ナトリウム液(48%水溶液) pH6に調整
香料 1
精製水 残量
合 計 100(%)
エリスリトール/フィチン酸(質量比) 80
歯のきしみ感評価 AA
美白評価 Δb*=−5.6、光沢評価 Δ輝度=7.6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)フィチン酸又はその塩 0.01〜10質量%
(B)エリスリトール 3〜60質量%
を含有し、成分(B)と成分(A)の質量比(B/A)が5〜1000である口腔用組成物。
【請求項2】
水で30質量%に希釈したときのpHが5.5〜8である請求項1記載の口腔用組成物。
【請求項3】
(A)フィチン酸又はその塩の含有量が、0.05〜5質量%である請求項1又は2に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
水で30質量%に希釈したときのpHが5.5〜6.5である請求項1〜3のいずれか1項に記載の口腔用組成物。

【公開番号】特開2010−120880(P2010−120880A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296086(P2008−296086)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】