説明

可動式防波堤

【課題】津波が来襲する前に防波堤を確実に稼動させ、その機能を有効に発揮させることができるとともに、防波堤の延長が長い場合でも、その稼動を効率的に実行することのできる、可動式防波堤を提供する。
【解決手段】可動式防波堤100は、海底地盤KGに造成された掘削部KG1と、掘削部KG1内に収容された収容姿勢と海上にその一部を突出させた浮揚姿勢とを選択的にとり得る浮揚体1と、浮揚体1の収容姿勢および浮揚姿勢を保持し、該浮揚体1の収容姿勢から浮揚姿勢への第1の姿勢変更、および浮揚姿勢から収容姿勢への第2の姿勢変更、を調整する姿勢調整部材2と、からなり、人手(管理者3)が直接的に姿勢調整部材2に作用することにより、少なくとも第1の姿勢変更の調整が実行されるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防波堤の作動の確実性と繰り返し利用が担保された、可動式防波堤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2004年にスマトラ沖地震で発生した津波(地震津波)により、甚大な人的、物的被害が齎されたことは記憶に新しい。この津波や高潮などの潮位の変化に対して、入り江、港湾施設、湾岸施設等の物的な安全性、沿岸域における人的な安全性を確保するために、様々な形態の防波堤(もしくは津波防波堤)が日本の沿岸各所に建設されている。特に、その発生が危惧されている東海地震、東南海地震などの海洋型の大規模地震の際には、数メートル以上の大津波の発生も十分に想定される。
【0003】
周囲を海に囲まれ、地震が多発する我が国にとって、しかも、上記する大規模な海洋型地震の発生が危惧されている昨今においては、現状の津波対策の見直しは勿論のこと、新規な津波対策の策定は、極めて重要な国家的プロジェクトの一つと言ってもよい。
【0004】
ところで、現在知られている防波堤には、常時は海底地盤内に収容されることで船舶の航行の障害とならず、津波来襲時には海上へ浮揚することで防波堤となる、浮上形式の防波堤(もしくは可動式防波堤)が存在している。
【0005】
そして、この可動式防波堤の稼動に際しては、各種駆動機構を包含した機械式制御装置にて防波堤の稼動制御を実行する形態や、津波来襲時の潮位(水位)差を利用して防波堤の稼動制御を実行する形態などが存在しており、前者に関してはたとえば特許文献1〜4を、後者に関してはたとえば特許文献5〜7をそれぞれ挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−348611号公報
【特許文献2】特開2006−249914号公報
【特許文献3】特開2003−129762号公報
【特許文献4】特開平8−226110号公報
【特許文献5】特開2008−115588号公報
【特許文献6】特開2007−239233号公報
【特許文献7】特開2007−126945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記する機械式制御装置にて防波堤の稼動制御を実行する形態においては、自動制御故の利点を享受できる一方で、津波が来襲した際に、制御装置自体が何らかの不具合で稼動しない場合に、津波来襲前に所望レベルまで立設する防波堤を確実に形成できずに、沿岸域へ甚大な被害を齎し得るという危険性を常に有している。
【0008】
一方、津波来襲時の潮位差を利用して防波堤の稼動制御を実行する形態においては、機械式制御装置を使用する必要がないことから、自然エネルギーである水位差によって防波堤を確実に稼動させることができ、機械式制御装置が稼動しない場合を危惧する必要はなくなる。しかし、この形態は、津波が防波堤位置まで到達してはじめて防波堤が稼動するものであることから、防波堤が浮上した時点で既に津波が沿岸域に到達してしまうということが十分に想定でき、沿岸域に被害を齎し得るものであることを否定できない。
【0009】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、津波が来襲する前に防波堤を確実に稼動させ、その機能を有効に発揮させることができるとともに、防波堤の延長が長い場合でも、その稼動を効率的に実行することのできる、可動式防波堤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による可動式防波堤は、海底地盤に造成された掘削部と、掘削部内に収容された収容姿勢と海上にその一部を突出させた浮揚姿勢とを選択的にとり得る浮揚体と、前記浮揚体の前記収容姿勢および前記浮揚姿勢を保持し、該浮揚体の収容姿勢から浮揚姿勢への第1の姿勢変更、および浮揚姿勢から収容姿勢への第2の姿勢変更、を調整する姿勢調整部材と、からなり、人手が直接的に前記姿勢調整部材に作用することにより、少なくとも前記第1の姿勢変更の調整が実行されるようになっているものである。
【0011】
この可動式防波堤は、たとえば、海上にうねりがない状態、あるいは、地震等に起因する津波が発生していない状態、などの通常時においては、海底地盤内に造成された掘削部内に浮揚体が収容され、船舶等の海上交通に何等の支障も来たさない姿勢を形成している。
【0012】
ここで、浮揚体とは、コンクリート製、鋼製、中空鋼殻内に中詰砂や中詰コンクリートが収容されたもの、などからなり、その正面視(津波来襲方向から見た形状)が矩形、正方形などで所望の平面寸法を有する防波堤本体である。
【0013】
一方、津波等が発生した際には、掘削部内に収容された上記浮揚体が浮揚され、海上にその一部を突出させた浮揚姿勢を形成するとともに、この浮揚姿勢を保持するようになっている。
【0014】
ここで、本発明の可動式防波堤は、浮揚体の収容姿勢と浮揚姿勢を保持し、浮揚体の収容姿勢から浮揚姿勢への姿勢変更(第1の姿勢変更)と浮揚姿勢から収容姿勢への姿勢変更(第2の姿勢変更)と、を調整する姿勢調整部材を具備している。
【0015】
そして、少なくとも、浮揚体の収容姿勢から浮揚姿勢への第1の姿勢変更の実行に際しては、人手が直接的にこの姿勢調整部材に作用することにより、当該姿勢変更の確実性を担保するものである。すなわち、緊急時である第1の姿勢変更の際に、一つもしくは複数の構成部材からなる姿勢調整部材に管理者等の人手が直接的に作用し、この姿勢調整部材を介して浮揚体の第1の姿勢変更を実行することにより、たとえば機械式制御装置にてこの姿勢変更を実行する際に該制御装置が故障して姿勢変更不可となる危険性を回避することができる。
【0016】
一方、第2の姿勢変更、すなわち、津波の来襲が終息し、浮揚体を海底地盤の掘削部に収容する場合(緊急性を要しない)には、やはり、姿勢調整部材に人手が直接的に作用し、この姿勢調整部材を介して浮揚体の第2の姿勢変更を実行する形態であってもよいし、適宜の機械式手段(油圧モータ、油圧シリンダ等のアクチュエータ等)を介して第2の姿勢変更を実行する形態であってもよい。
【0017】
また、比較的延長の長い本発明の可動式防波堤においては、前記掘削部と、それに固有の前記浮揚体と、からなるユニットを複数併設し、一つの前記姿勢調整部材にて、すべてのユニットの浮揚体の姿勢調整が同時に実行されるようになっているのが好ましい。
【0018】
複数の掘削部内にそれぞれ収容された複数の浮揚体に対して、一つの姿勢調整部材に人手が直接作用することですべての浮揚体の第1の姿勢変更が実行される本実施の形態によれば、延長の長い防波堤の場合でも、たとえば、可動式防波堤を稼動させる一人の管理者によって、一気にすべての浮揚体を所望レベルまで浮揚させ、所望延長の防波堤を極めて短時間で形成することが可能となる。
【0019】
ここで、上記する姿勢調整部材の形態として、浮揚体の上面にその一部が掛け渡されたワイヤと、該ワイヤの他部が巻装された回転ドラムと、該回転ドラムを回転不可の姿勢で固定する固定部材と、から構成されるものを挙げることができ、前記人手が前記固定部材に直接的に作用し、回転ドラムの回転不可の姿勢が解除されることにより、臨機かつ確実に、浮揚体の第1の姿勢変更を実行することができる。
【0020】
この極めて簡素な部材構成からなる姿勢調整部材によれば、直接的な人手の作用によって、極めて大きな重量の浮揚体の第1の姿勢変更を容易に実行できることは理解に易い。
【0021】
より具体的な一実施の形態としては、前記固定部材を、アンカーにて緊張される別途のワイヤから形成しておき、浮揚体の前記第1の姿勢変更の際には、前記別途のワイヤを前記人手が切断する方法、もしくは、前記アンカーを人手が破壊する方法、のいずれか一方の方法が選択され、浮揚体の上面に掛け渡されたワイヤの緊張が解除されるようになっているものを挙げることができる。
【0022】
ここで、アンカーを人手が破壊する方法とは、人手が直接的にアンカーを破壊することに加えて、たとえば人手による発火でアンカーを爆破等する方法も含むものである。
【0023】
浮揚体に作用する浮力と重量の双方を調整することで、浮揚体の上面に掛け渡されたワイヤの緊張が解除された際には、常に浮揚体が浮揚し、しかも、水面上に所望高さだけ突出させた姿勢を形成させることができる。すなわち、この場合には、浮揚体を掘削部内に収容した姿勢をワイヤが保持している際に、このワイヤには、浮揚体の浮力(より詳細には、浮力から重量を差し引いた上向きの力)に抗し得る張力が作用している。
【0024】
そして、浮揚体が水面上に所望高さだけ突出させた姿勢で浮揚する浮揚姿勢をこのワイヤで保持する際にも、ワイヤを所望に緊張(引っ張る)すればよい。なお、このように、浮揚体の所望姿勢を維持できるだけの剛性、引張強度や適度の変形性を有するワイヤとしては、所望仕様のPC鋼線、PC鋼より線などを使用するのがよい。
【0025】
ワイヤが常に浮揚体の上面に緊張および緩みが可能な姿勢で固定されていること、このワイヤを所望に緊張することにより、浮揚体の掘削部内での収容姿勢の保持と、海面上に所望高さだけ突出させた浮揚姿勢の保持と、さらには、これらの姿勢変更とを、容易かつ確実に実行することができる。
【0026】
そして、浮揚体の前記第2の姿勢変更の際には、人手にて前記回転ドラムを回転させる方法、もしくは、機械式回転装置にて前記回転ドラムを回転させる方法、のいずれか一方を選択することもでき、回転ドラムの回転に伴い、浮揚体の上面に掛け渡されたワイヤに該浮揚体を前記掘削部へ押込む押込み力を生じさせるようになっている形態を適用することもできる。
【0027】
たとえば、第2の姿勢変更は第1の姿勢変更とは異なって緊急性を要しないこと、および、人手(人力)による操作が困難であること、より、たとえば油圧モータ等のアクチュエータにて回転ドラムを回転させ、浮揚体の上面に掛け渡されたワイヤを緊張しながら、この緊張力によって浮揚体を下方へ押込み、最終的に掘削部内に収容させるものである。
【0028】
掘削部内に浮揚体を収容した姿勢で回転ドラムを再度適宜の固定部材にて回転不可状態とし、次の津波来襲に備える状態が再形成される。
【0029】
上記する種々の形態の姿勢調整部材を具備する本発明の可動式防波堤によれば、たとえば当該姿勢調整部材の一部に管理者等の人手が直接的に作用し、該姿勢調整部材を介して大重量の浮揚体を所望に浮揚させたり、その浮揚姿勢を保持したり、浮揚した浮揚体を再度海底地盤下に戻すことを、たとえば一人の管理者により、極めて迅速で、かつ確実に、実行することが可能となる。
【0030】
したがって、浮揚体の姿勢変更を機械式制御装置や自然の水位差(潮位差)に依存する従来公知の可動式防波堤に比して、その製造コストと管理コスト(たとえば管理者の常駐監視に要するコスト)の双方をともに廉価にでき、しかも津波や波浪に対して極めて信頼性の高い沿岸津波(波浪)対策システムの形成を実現できる。
【0031】
さらには、浮揚体の第1の姿勢変更の後に第2の姿勢変更を実行することで、次回の津波来襲時に、浮揚体の第1の姿勢変更を再度実行することができ、メンテナンスをおこないながら、半永久的に利用することが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
以上の説明から理解できるように、本発明の可動式防波堤によれば、たとえば一人の管理者による人手が、その構成要素である姿勢調整部材に直接的に作用することで、防波堤を構成する浮揚体の海底地盤内での収容姿勢から津波来襲時の浮揚姿勢への姿勢変更を確実に実行でき、津波来襲時に防波堤としての機能を確実に発揮させることができる。そして、この可動式防波堤の延長が長い場合でも、たとえば一人の管理者により、全防波堤の機能発揮を確実に実施でき、その構造簡易性によって製造コストが廉価となることに加えて、その稼動操作を一箇所で簡易に実行できることによってその管理(監視)コストも廉価となる。さらには、その繰り返し利用が可能であり、一度建設してしまえば、半永久的に使用することもできる。したがって、今度、海洋型の大地震に起因する大津波対策を喫緊の課題とする我が国の海洋公共事業に、本発明の可動式防波堤は好適である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の可動式防波堤の一実施の形態において、浮揚体が海底地盤の掘削部内に収容されている状況を説明した模式図である。
【図2】図1のII−II矢視図である。
【図3】本発明の可動式防波堤の一実施の形態において、浮揚体が海上にその一部を突出させている状況を説明した模式図である。
【図4】本発明の可動式防波堤の他の実施の形態において、浮揚体が海底地盤の掘削部内に収容されている状況を説明した模式図である。
【図5】本発明の可動式防波堤の他の実施の形態において、浮揚体が海上にその一部を突出させている状況を説明した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、浮揚体の平面形状は図示例以外にも多様に存在すること、複数の浮揚体からなる可動式防波堤において、その基数が図示例に限定されるものでないこと、は勿論のことである。
【0035】
図1は、本発明の可動式防波堤の一実施の形態において、浮揚体が海底地盤の掘削部内に収容されている状況を説明した模式図であり、図2は、図1のII−II矢視図であり、図3は、本発明の可動式防波堤の一実施の形態において、浮揚体が海上にその一部を突出させている状況を説明した模式図である。
【0036】
本発明の可動式防波堤100は、海底地盤KG内に造成された所定形状および寸法の掘削部KG1と、図1で示すごとく、この掘削部KG1内に収容される浮揚体1と、この浮揚体1の姿勢を制御し、任意の姿勢を保持する姿勢調整部材2と、から大略構成されている。
【0037】
ここで、姿勢調整部材2は、掘削部KG1の両側の一方側の海底地盤KG内に設置された控えアンカー22と、掘削部KG1の他方側の海底地盤KG内に設置され、ローラ23を具備する控えアンカー23aと、アンカー脚24aから直立する回転ドラム24と、控えアンカー25に取り付けられて、回転ドラム24を回転不可に保持するワイヤ26(固定部材)と、この回転ローラ24にその一部が巻装され、ローラ23を介して浮揚体1の上面で控えアンカー22に亘って掛け渡されたワイヤ21と、から構成される。
【0038】
浮揚体1は、中空の鋼殻11と、その内部に収容される中詰コンクリート12と、から構成されており、浮揚体1に作用する全浮力からその全体重量を差し引いた上向きの有効浮力:Fにより、ワイヤ21による抑えがない場合に海上に所望高さ(図3で示す高さ:L)だけ突出できるように、中詰コンクリート12の充填量(重量)が調整されている。
【0039】
この浮揚体1の鋼殻表面には防錆処理が施されているのが好ましく、貝殻等の付着を防止するべく、たとえばその上面に不図示の貝付防止板などを設けておくのがよい。
【0040】
なお、海底地盤KGにおける掘削部KG1の造成方法は、公知の海洋施工技術を適用するものとし、その施工方法の詳細は省略する。また、浮揚体1は陸上にて構築され、掘削部KG1上まで曳航された後に、所与の重量体が付与された姿勢でクレーン等で掘削部KG1内に吊り下ろされ、最終的にワイヤ21にてその浮上を抑制された状態下で重量体が外されることにより、掘削部KG1内への設置が完了するものである。
【0041】
浮揚体1の上面に掛け渡され、その一端は控えアンカー22に繋がれ、その他端はローラ23を介して回転ドラム24に巻装されているワイヤ21は、その仕様変更によって、適宜の引張強度と変形性を調整できる、PC鋼線やPC鋼より線等から形成されているのがよい。
【0042】
回転ドラム24を回転させながらワイヤ21を緊張させることにより、上記有効浮力:Fに抗する下向きの押込み力:qをワイヤ21に生じさせ、図1で示すように掘削部KG1内に浮揚体1が収容された収容姿勢を保持することができる。さらに、この収容姿勢を保持するべく、海上地盤内に固定された控えアンカー25に繋がれたワイヤ26(固定部材)により、回転ドラム24を回転不可の状態とすることができる。
【0043】
図1で示すごとく、浮揚体1が海底地盤KGの掘削部KG1内に収容されているため、海上が凪の状態、すなわち、津波や波浪等が生じていない常時において、浮揚体1が海上船舶の航行に支障を来たすことはない。
【0044】
そして、たとえば海洋型地震が発生し、津波来襲の警報を管理者3が検知すると、この管理者3は、図3で示すごとく、回転ドラム24を回転不可の状態に保っていたワイヤ26を切断し、浮揚体1の浮上を抑制していたワイヤ21の緊張を解除する。なお、この緊張解除に際しては、ワイヤ26を固定する控えアンカー25を管理者3による発火にて爆破するような方法であってもよい。
【0045】
ワイヤ21の緊張が解除されると、浮揚体1は作用する有効浮力:Fによって上昇し、所望高さ:Lだけ浮揚体1が海上に突出して、津波防波堤が形成される(浮揚体1の収容姿勢から浮揚姿勢への第1の姿勢変更)。
【0046】
図3で示す浮揚体1の浮揚姿勢において、ワイヤ21には、この浮揚体1の図示姿勢を保持するための張力:Tが作用している。なお、所望高さ:Lだけ海上に突出した浮揚姿勢において、回転ドラム24に巻装されたワイヤ21が完全に解かれるようなワイヤ長さに調整しておくことで、ワイヤ21の巻装が完全に解かれた状態において、上記所望高さ:Lの突出を自動的に形成することができる。
【0047】
このように、津波の来襲が予知され、津波が来襲する前段で、たとえば一人の管理者3が固定部材に直接的に作用し、その固定を解除する方法であることから、この固定部材の解除に何等の機械的制御装置は介在せず、したがって、機械的制御装置が誤作動したり、作動しないといった危険性はない。そのため、確実に固定部材による回転ドラムの回転不可状態を解除することができ、これに起因する浮揚体の浮上による津波防波堤の確実な形成を実現できる。
【0048】
津波の来襲が沈静化し、防波堤が不要となった際には、回転ドラム24を不図示の油圧モータ等のアクチュエータにて巻き戻す。この回転ドラム24の巻き戻しに伴い、浮揚体1の上面に掛け渡されたワイヤ21に作用している張力によって押込み力を生じさせ、浮揚体1を降下させて、最終的に掘削部KG1へ収容する(浮揚体1の浮揚姿勢から収容姿勢への第2の姿勢変更)。
【0049】
掘削部KG1内に浮揚体1が収容されたら、管理者3は新規な固定ワイヤにて回転ドラム24を再度回転不可の状態に固定し、図1で示す状態が再度形成され、次の津波来襲の備えが完了する。
【0050】
このように、図示する可動式防波堤100によれば、たとえば一人の管理者にて、臨機かつ確実に、浮揚体1の収容姿勢から浮揚姿勢への第1の姿勢変更を実行することができる。さらに、津波が終焉した後に、浮揚体1の浮揚姿勢から収容姿勢への第2の姿勢変更をおこなうことにより、定期的なメンテナンスをおこないながら、半永久的に当該防波堤を使用することができる。
【0051】
図4は、本発明の可動式防波堤の他の実施の形態において、浮揚体が海底地盤の掘削部内に収容されている状況を説明した模式図であり、図5は、図4の実施の形態において、浮揚体が海上にその一部を突出させている状況を説明した模式図である。
【0052】
図4,5で示す可動式防波堤200は、延長の長い防波堤に関するものであり、図示するように、4つの掘削部KG1、…を海底地盤KGに併設し、それぞれの掘削部KG1に固有の浮揚体1を収容させたものである。
【0053】
そして、この可動式防波堤200の特徴は、海底地盤KGや掘削部KG1に、ワイヤ21を案内するローラ42,…を不図示のアンカー固定にて設けておき、浮揚体1の上端隅角部にもローラ41,41を設けておき、共通する一本のワイヤ21をこれらのローラ42,41に掛け渡し、該ワイヤ21の一端を最端のローラ42に繋ぎ、その他端を回転ドラム24に巻装固定したものである。なお、図4で示す浮揚体1,…の収容姿勢を保持するべく、固定部材であるワイヤ26にて回転ドラム24を回転不可の状態に保持することは可動式防波堤100と同様である。
【0054】
このように、共通する一本のワイヤ21にて、図4で示すごとく4基の浮揚体1,…の掘削部KG1内における収容姿勢を保持し、津波来襲の際には、図5で示すごとく、管理者3が回転ドラム24を固定するワイヤ26を切断等することで、有効浮力:Fが作用している4基の浮揚体1,…を、ほぼ同時に浮上させることができる。
【0055】
海上に所定高さ突出した4基の浮揚体1,…の浮揚姿勢は、ワイヤ21に作用する張力:T1によって保持される。
【0056】
津波の来襲が沈静化して防波堤が不要となった際には、可動式防波堤100と同様に回転ドラム24を不図示の油圧モータ等のアクチュエータにて巻き戻すことで、4基の浮揚体1,…を、一気に固有の掘削部KG1,…内に収容でき、浮揚体1,…を収容させた姿勢で、回転ドラム24を新規の固定ワイヤにて回転不可とすることで、図4で示す状態が再度形成され、次の津波来襲の備えが完了する。
【0057】
このように、防波堤の延長が長くなり、複数の浮揚体をほぼ同時に浮上させて長延長の防波堤を臨機に形成したい場合においても、本発明の可動式防波堤200によれば、たとえば一人の管理者により、津波来襲の前段で確実にその形成を実現することができる。
【0058】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0059】
1…浮揚体、11…鋼殻、12…中詰コンクリート、2…姿勢調整部材、21…ワイヤ、22…控えアンカー、23…ローラ、24…回転ドラム、25…控えアンカー、26…ワイヤ(固定部材)、3…管理者(人手)、41,42,43…ローラ、100,200…可動式防波堤、KG…海底地盤、KG1…掘削部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底地盤に造成された掘削部と、
掘削部内に収容された収容姿勢と海上にその一部を突出させた浮揚姿勢とを選択的にとり得る浮揚体と、
前記浮揚体の前記収容姿勢および前記浮揚姿勢を保持し、該浮揚体の収容姿勢から浮揚姿勢への第1の姿勢変更、および浮揚姿勢から収容姿勢への第2の姿勢変更、を調整する姿勢調整部材と、からなり、
人手が直接的に前記姿勢調整部材に作用することにより、少なくとも前記第1の姿勢変更の調整が実行されるようになっている、可動式防波堤。
【請求項2】
前記掘削部と、それに固有の前記浮揚体と、からなるユニットが複数併設しており、一つの前記姿勢調整部材にて、すべてのユニットの浮揚体の姿勢調整が同時に実行されるようになっている、請求項1に記載の可動式防波堤。
【請求項3】
前記姿勢調整部材は、浮揚体の上面にその一部が掛け渡されたワイヤと、該ワイヤの他部が巻装された回転ドラムと、該回転ドラムを回転不可の姿勢で固定する固定部材と、からなり、
前記人手が前記固定部材に直接的に作用し、回転ドラムの回転不可の姿勢が解除されるようになっている、請求項1または2に記載の可動式防波堤。
【請求項4】
前記固定部材は、アンカーにて緊張される別途のワイヤからなり、
浮揚体の前記第1の姿勢変更の際には、前記別途のワイヤを前記人手が切断する方法、もしくは、前記アンカーを人手が破壊する方法、のいずれか一方の方法が選択され、浮揚体の上面に掛け渡されたワイヤの緊張が解除されるようになっている、請求項3に記載の可動式防波堤。
【請求項5】
浮揚体の前記第2の姿勢変更の際には、人手にて前記回転ドラムを回転させる方法、もしくは、機械式回転装置にて前記回転ドラムを回転させる方法、のいずれか一方が選択され、
回転ドラムの回転に伴い、浮揚体の上面に掛け渡されたワイヤに該浮揚体を前記掘削部へ押込む押込み力を生じさせるようになっている、請求項3または4に記載の可動式防波堤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−248701(P2010−248701A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96351(P2009−96351)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】