説明

可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物及び成形物

【課題】可塑剤のブリードアウトがなく、従来のポリアミド92と比較して十分な高分子量化が達成され、融点と熱分解温度の差から見積もられる成形可能温度幅が広く、溶融成形性に優れ、さらに、脂肪族直鎖ポリオキサミド樹脂に見られる低吸水性を損なうことなく、従来の脂肪族ポリアミド樹脂に比較して、耐薬品性、柔軟性、耐加水分解性などにも優れた可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】ポリアミド樹脂と可塑剤とを含む可塑剤含有樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94〜99:1であるポリアミド樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物及び成形物に関する。詳しくは、成形可能温度幅が広く、成形加工性に優れ、かつ低吸水性、耐薬品性、耐加水分解性などにも優れた可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物及び成形物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナイロン6、ナイロン66などに代表される結晶性ポリアミドは、その優れた特性と溶融成形の容易さから、衣料用、産業資材用繊維、あるいは汎用のエンジニアリングプラスチックとして広く用いられているが、一方では吸水による物性変化、酸、高温のアルコール、熱水中での劣化などの問題点も指摘されており、より寸法安定性、耐薬品性に優れたポリアミドへの要求が高まっている。
【0003】
またポリアミドなどの樹脂の柔軟性、耐衝撃性を高度に改良するためには可塑剤の添加量を多くする必要があるが、可塑剤のブリードアウト等の問題が指摘されており、可塑剤のブリードアウトがない可塑剤含有樹脂組成物及び成形物への要求が高まっている。
【0004】
一方、ジカルボン酸成分として蓚酸を用いるポリアミド樹脂はポリオキサミド樹脂と呼ばれ、同じアミノ基濃度の他のポリアミド樹脂と比較して融点が高いこと、吸水率が低いことが知られ(特許文献1)、吸水による物性変化が問題となっていた従来のポリアミドが使用困難な分野での活用が期待される。
【0005】
これまでに、ジアミン成分として種々の脂肪族直鎖ジアミンを用いたポリオキサミド樹脂が提案されている。しかしながら、例えば、ジアミン成分として1,6−ヘキサンジアミンを用いたポリオキサミド樹脂は融点(約320℃)が熱分解温度(窒素中の1%重量減少温度;約310℃)より高いため(非特許文献1)、溶融重合、溶融成形が困難であり実用に耐えうるものではなかった。
【0006】
ジアミン成分が1,9−ノナンジアミンであるポリオキサミド樹脂(以後、PA92と略称する)については、L. Francoらが蓚酸源として蓚酸ジエチルを用いた場合の製造法とその結晶構造を開示している(非特許文献2)。ここで得られるPA92は固有粘度が0.97dL/g、融点が246℃のポリマーであるが、強靭な成形体が成形出来ない程度の低分子量体しか得られていない。また、特表平5−506466号公報には、ジカルボン酸エステルとして蓚酸ジブチルを用いた場合について、固有粘度が0.99dL/g、融点が248℃のPA92を製造したことが示されている(特許文献2)。この場合も強靭な成形体が成形出来ない程度の低分子量体しか得られていないという問題点がある。
【0007】
先行文献においてはジアミン成分として1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンの2種のジアミンを特定の比率で用いたポリオキサミド樹脂の具体的な開示はない。
【非特許文献1】S. W. Shalaby., J. Polym. Sci., 11, 1(1973)
【非特許文献2】L. Franco et al., Macromolecules., 31, 3912(1988)
【特許文献1】特開2006−57033号公報
【特許文献2】特表平5−506466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、可塑剤のブリードアウトがなく、従来のPA92と比較して十分な高分子量化が達成され、融点と熱分解温度の差から見積もられる成形可能温度幅が広く、溶融成形性に優れ、さらに、脂肪族直鎖ポリオキサミド樹脂に見られる低吸水性を損なうことなく、従来の脂肪族ポリアミド樹脂に比較して、耐薬品性、柔軟性、耐加水分解性などに優れた可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ジカルボン酸成分が蓚酸であり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94〜99:1であるポリアミド樹脂(以下において「PA92C」ともいう。)を用いることにより、可塑剤のブリードアウトがなく、しかも高分子量で、融点と熱分解温度の差が大きく溶融成形性に優れ、さらに直鎖ポリオキサミド樹脂に見られる低吸水性を損なうことなく、従来のポリアミドに比較して耐薬品性、柔軟性ならびに耐加水分解性に優れる可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0010】
本発明の可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物は、低吸水性、耐薬品性、柔軟性、耐加水分解性に優れ、かつ高分子量化が可能であり、成形可能温度幅が50℃以上、さらには60℃以上と広く、溶融成形性に優れ、しかも可塑剤のブリードアウトがない樹脂組成物であり、産業資材、工業材料、家庭用品などの成形材料として広範に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(1)ポリアミド樹脂の構成成分
本発明に用いるポリアミドは、ジカルボン酸成分が蓚酸であり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるジアミン混合物であるポリアミド樹脂である。
【0012】
本発明に用いるポリアミドの製造に用いられる蓚酸源としては、蓚酸ジエステルが用いられ、これらはアミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジn−(またはi−)プロピル、蓚酸ジn−(またはi−、またはt−)ブチル等の脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジシクロヘキシル等の脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジフェニル等の芳香族アルコールの蓚酸ジエステル等が挙げられる。
【0013】
上記の蓚酸ジエステルの中でも炭素原子数が3を超える脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、芳香族アルコールの蓚酸ジエステルが好ましく、その中でも蓚酸ジブチル及び蓚酸ジフェニルが特に好ましい。
【0014】
ジアミン成分としては1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物を用いる。さらに、1,9−ノナンジアミン成分と2−メチル−1,8−オクタンジアミン成分のモル比は、1:99〜99:1であり、好ましくは5:95〜95:5、より好ましくは5:95〜40:60又は60:40〜95:5、特に5:95〜30:70又は70:30〜90:10である。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンを上記の特定量共重合することにより、成形可能温度幅が広く、溶融成形性に優れ、かつ低吸水性、耐薬品性、耐加水分解性、透明性などにも優れたポリアミドが得られる。
【0015】
(2)ポリアミド樹脂の製造
本発明に用いるポリアミド樹脂は、ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法を用いて製造することができる。本発明者らの研究によれば、ジアミン及び蓚酸ジエステルをバッチ式又は連続式で重縮合反応させることにより得ることができる。具体的には、以下の操作で示されるような、(i)前重縮合工程、(ii)後重縮合工程の順で行うのが好ましい。
【0016】
(i)前重縮合工程:まず反応器内を窒素置換した後、ジアミン(ジアミン成分)及び蓚酸ジエステル(蓚酸源)を混合する。混合する場合にジアミン及び蓚酸ジエステルが共に可溶な溶媒を用いても良い。ジアミン成分及び蓚酸源が共に可溶な溶媒としては、特に制限されないが、トルエン、キシレン、トリクロロベンゼン、フェノール、トリフルオロエタノールなどを用いることができ、特にトルエンを好ましく用いることができる。例えば、ジアミンを溶解したトルエン溶液を50℃に加熱した後、これに対して蓚酸ジエステルを加える。このとき、蓚酸ジエステルと上記ジアミンの仕込み比は、蓚酸ジエステル/上記ジアミンで、0.8〜1.5(モル比)、好ましくは0.91〜1.1(モル比)、更に好ましくは0.99〜1.01(モル比)である。
【0017】
このように仕込んだ反応器内を攪拌及び/又は窒素バブリングしながら、常圧下で昇温する。反応温度は、最終到達温度が80〜150℃、好ましくは100〜140℃の範囲になるように制御するのが好ましい。最終到達温度での反応時間は3時間〜6時間である。
【0018】
(ii)後重縮合工程:更に高分子量化を図るために、前重縮合工程で生成した重合物を常圧下において反応器内で徐々に昇温する。昇温過程において前重縮合工程の最終到達温度、すなわち80〜150℃から、最終的に220℃以上300℃以下、好ましくは230℃以上280℃以下、更に好ましくは240℃以上270℃以下の温度範囲にまで到達させる。昇温時間を含めて1〜8時間、好ましくは2〜6時間保持して反応を行うことが好ましい。さらに後重合工程において、必要に応じて減圧下での重合を行うこともできる。減圧重合を行う場合の好ましい最終到達圧力は0.1MPa未満〜13.3Paである。
【0019】
本発明に用いるポリアミド樹脂の製造方法の具体的例を説明する。
まず原料の蓚酸ジエステルを容器内に仕込む。容器は、後に行う重縮合反応の温度および圧力に耐え得るものであれば、特に制限されない。その後、容器を原料のジアミンと混合する温度まで昇温させ、次いでジアミンを注入し重縮合反応を開始させる。原料を混合する温度は、原料の蓚酸ジエステルおよびジアミンの融点以上、沸点未満の温度であり、かつシュウ酸ジエステルとジアミンの重縮合反応によって生じるポリオキサミドが熱分解しない温度であれば特に制限されない。例えば、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物からなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるジアミンとシュウ酸ジブチルを原料とするポリオキサミド樹脂の場合、上記混合温度は15℃から240℃が好ましい。また、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比は、5:95〜90:10の場合、常温で液状か又は40℃程度に加温するだけで液化するので取り扱いやすいためより好ましい。混合温度が縮合反応によって生成するアルコールの沸点以上の場合、アルコールを留去、凝縮する装置を備えた容器を用いるのが望ましい。また、縮合反応によって生成するアルコール存在下で加圧重合する場合には、耐圧容器を用いる。シュウ酸ジエステルとジアミンの仕込み比は、シュウ酸ジエステル/上記ジアミンで、0.8〜1.2(モル比)、好ましくは0.91〜1.09(モル比)、更に好ましくは0.98〜1.02(モル比)である。
【0020】
次に、容器内をポリオキサミド樹脂の融点以上かつ熱分解しない温度以下に昇温する。例えば、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15であるジアミンとシュウ酸ジブチルを原料とするポリオキサミド樹脂の場合、融点は235℃であることから240℃から280℃に昇温するのが好ましい(圧力は、2MPa〜4MPa)。生成したアルコールを留去しながら、必要に応じて常圧窒素気流下もしくは減圧下において継続して重縮合反応を行う。耐圧容器内で原料を混合し、縮合反応によって生成するアルコール存在下で加圧重合する場合は、まず生成したアルコールを留去しながら放圧する。その後、必要に応じて常圧窒素気流下もしくは減圧下において継続して重縮合反応を行う。減圧重合を行う場合の好ましい最終到達圧力は760〜0.1Torrである。温度は、240〜280℃が好ましい。また、アルコールは水冷コンデンサで冷却して液化し、回収する。
【0021】
(3)ポリアミド樹脂の性状及び物性
本発明に用いるポリアミド樹脂PA92Cの分子量に特別の制限はないが、96%濃硫酸を溶媒とし、ポリアミド樹脂濃度が1.0g/dlの96%濃硫酸溶液を用い、25℃で測定した相対粘度ηrが1.8〜6.0の範囲内である。好ましくは2.0〜5.5であり、2.5〜4.5が特に好ましい。ηrが1.8より低いと成形物が脆くなり物性が低下する。一方、ηrが6.0より高いと溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなる。
【0022】
本発明に用いるポリアミド樹脂PA92Cは、カルボン酸成分として蓚酸を用い、ジアミン成分として1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンを共重合することで、蓚酸と1,9−ノナンジアミンからなるポリアミドと比べて、上記相対粘度を増加させること、すなわち分子量を増加させることが可能である。また、実質的な熱分解の指標である1%重量減少温度(以下、Tdと略す)と融点(以下、Tmと略す)の差(Td−Tm)で表される成形可能温度範囲が、蓚酸と1,9−ノナンジアミンからなるポリアミドと比べて拡大し、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であることができ、さらには80℃以上も可能である。本発明に用いるポリアミド樹脂は、Tdが好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは320℃以上であり、高い耐熱性を有することを特徴とする。
【0023】
(4)可塑剤
本発明は、上記ポリアミド樹脂PA92Cに可塑剤を配合したポリアミド樹脂組成物である。
本発明で用いる可塑剤は、ポリアミド樹脂に用いることが公知の可塑剤のいずれでもよいが、エステル類及びアルキルアミド類から選ばれた1種類以上の化合物であることが好ましい。
【0024】
本発明の可塑剤で言うエステル類とは、フタル酸エステル類、脂肪酸エステル類、多価アルコールエステル類、燐酸エステル類、トリメリット酸エステル類及びヒドロキシ安息香酸エステル類である。フタル酸エステル類の具体例としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ2−エチルヘキシル、フタル酸ジn−オクチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジトリデシル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジイソノニル、エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、フタル酸ジウンデシル及びテトラヒドロフタル酸ジ2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
【0025】
脂肪酸エステル類の具体例としては、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジブチルジグリコール、アジピン酸ジ2−エチルヘキシル、アジピン酸ジn−オクチル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジn−混合アルキルエステル、セバシン酸ジメチル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ2−エチルヘキシル、アゼライン酸ジ2−エチルヘキシル、ジ2−エチルヘキシル混合酸エステル、ドデカ二酸ビス2−エチルヘキシルなどの二塩基性飽和カルボン酸エステル、フマル酸ジブチル、フマル酸ビス2−メチルプロピル、フマル酸ビス2−エチルヘキシル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ビス2−エチルヘキシルなどの二塩基性不飽和カルボン酸エステル、オレイン酸ブチル、オレイン酸イゾブチル、リシノール酸アセチルブチル、アセチルクエン酸トリブチル及び酢酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
【0026】
多価アルコールエステル類の具体例としては、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ2−エチルブチラート、ペンタエリスリトールモノオレエート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールトリアルキルエステル、ベヘニン酸モノグリセライド、2−エチルヘキシルトリグリセライド、グリセリントリアセテート及びグリセリントリブチラートなどが挙げられる。
【0027】
燐酸エステル類の具体例としては、燐酸トリメチル、燐酸トリエチル、燐酸トリブチル、燐酸トリ2−エチルヘキシル、燐酸トリブトキシエチル、燐酸トリフェニル、燐酸n−オクチルジフェニル、燐酸クレジルジフェニル、燐酸トリクレジル、燐酸トリキシレニル及び燐酸2−エチルヘキシルジフェニルなどが挙げられる。
【0028】
トリメリット酸エステル類の具体例としては、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリ2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリn−オクチル、トリメリット酸トリイソノニル、トリメリット酸トリイソデシル及びトリメリット酸トリ混合アルコールエステルなどが挙げられる。
【0029】
ヒドロキシ安息香酸エステル類の具体例としては、o−又はp−ヒドロキシ安息香酸エチルヘキシル、o−又はp−ヒドロキシ安息香酸ヘキシルデシル、o−又はp−ヒドロキシ安息香酸エチルデシル、o−又はp−ヒドロキシ安息香酸オクチルオクチル、o−又はp−ヒドロキシ安息香酸デシルドデシル、o−又はp−ヒドロキシ安息香酸メチル、o−又はp−ヒドロキシ安息香酸ブチル、o−又はp−ヒドロキシ安息香酸ヘキシル、o−又はp−ヒドロキシ安息香酸n−オクチル、o−又はp−ヒドロキシ安息香酸デシル及びo−又はp−ヒドロキシ安息香酸ドデシルなどが挙げられる。
【0030】
又、アルキルアミド類は、トルエンスルホン酸アルキルアミド類やベンゼンスルホン酸アルキルアミド類である。トルエンスルホン酸アルキルアミド類の具体例としては、N−エチル−o−トルエンスルホン酸ブチルアミド、N−エチル−p−トルエンスルホン酸ブチルアミド、N−エチル−o−トルエンスルホン酸2−エチルヘキシルアミド、N−エチル−p−トルエンスルホン酸2−エチルヘキシルアミドなどが挙げられる。ベンゼンスルホン酸アルキルアミド類の具体例としては、ベンゼンスルホン酸プロピルアミド、ベンゼンスルホン酸ブチルアミド、ベンゼンスルホン酸2−エチルヘキシルアミドなどが挙げられる。以上に挙げた可塑剤は単独で使用しても良く、2種類以上を適宜組合せて使用しても良い。
【0031】
これらの可塑剤の中で、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジ2−エチルヘキシルなどのフタル酸エステル類、p−ヒドロキシ安息香酸エチルヘキシル、p−ヒドロキシ安息香酸ヘキシルデシルなどのヒドロキシ安息香酸エステル類、ベンゼンスルホン酸ブチルアミド、ベンゼンスルホン酸2−エチルヘキシルアミドなどのアルキルアミド類が好ましく使用される。
【0032】
可塑剤の配合割合は、ポリアミド樹脂100質量部に対して1〜30質量部であり、好ましくは、1〜25質量部であり、より好ましくは、5〜25質量部である。可塑剤の配合割合が1質量部より少ない場合、柔軟性付与に対する効果が見られず、一方、可塑剤の配合割合が30質量部より多い場合、可塑剤のブリードアウトが生じるからである。
【0033】
本発明に用いるポリアミド樹脂PA92Cは、可塑剤を添加しても、ポリアミド樹脂PA92Cの有する優れた特性(低吸水性、耐薬品性、柔軟性、耐加水分解性、広い成形可能温度幅、機械的強度等)を基本的にそのままあるいは相対的に保持している。成形可能温度幅に関しては、ポリアミド樹脂は可塑剤を添加することで一般的により柔軟になり、融点が低下するので成形可能温度は低くなるが、ポリアミド樹脂PA92Cが従来のPA92に比べて有する広い成形可能温度幅の特性は可塑剤を保持した場合にも維持される。その結果、本発明のポリアミド樹脂に可塑剤を含むポリアミド樹脂組成物では、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した可塑剤を含まないポリアミド樹脂の熱重量分析における1%重量減少温度と窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した可塑剤を含むポリアミド樹脂組成物の示差走査熱量法により測定した融点との温度差は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、さらには90℃以上であることができる。しかも、本発明のポリアミド樹脂PA92Cは可塑剤を添加してブリードアウトなく成形できる利点がある。
【0034】
(5)ポリアミド樹脂組成物に配合できる他の成分
本発明に用いるポリアミド樹脂PA92Cには、本発明の効果を損なわない範囲で他のジカルボン酸成分を含む事が出来る。蓚酸以外の他のジカルボン酸成分としては、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸などの脂肪族ジカルボン酸、また、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、さらにテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジ安息香酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸を溶融成形が可能な範囲内で用いることもできる。蓚酸以外の他のジカルボン酸成分の配合量は全ジカルボン酸成分を基準に5モル%以下が好ましい。
【0035】
また、本発明に用いるポリアミド樹脂には本発明の効果を損なわない範囲で、他のジアミン成分を含む事が出来る。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン以外の他のジアミン成分としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン、さらにシクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン、さらにp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンなどを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン以外の他のジアミン成分の配合量は全ジアミン成分を基準に5モル%以下が好ましい。
【0036】
本発明に用いるポリアミド樹脂PA92Cの一部は、本発明の効果を損なわない範囲で、他のポリオキサミドや、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミドなどポリアミド類で置換することが可能である。
【0037】
また、ポリアミド樹脂以外の、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエステル、ABS樹脂、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレンなどのポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂、あるいはエラストマーなどによって置換することができる。
本発明で用いるポリアミド樹脂PA92Cの一部を他の樹脂で置換する場合、置換する樹脂の量は樹脂全体の50質量%以下であることが好ましい。
【0038】
また、本発明に用いるポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、銅化合物などの安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、結晶化促進剤、ガラス繊維などの補強繊維、フィラー、潤滑剤などの各種の添加剤を添加することができる。これらの添加剤は、ポリアミド樹脂の重縮合反応時、またはその後に添加することもできる。
【0039】
(7)ポリアミド樹脂組成物の成形加工
本発明のポリアミド樹脂組成物を得る方法は特に制限されるものではなく、公知の種々の方法を用いることができる。例えば、ポリアミドと可塑剤及び各種の添加剤の所定量を、V型ブレンダー、タンブラーなどの低速回転混合機やヘンシェルミキサーなどの拘束回転混合機を用いてあらかじめ混合した後、一軸押出機、二軸押出機などで溶融混練後ペレット化する方法や、ポリアミドと可塑剤及び各種の添加剤の所定量を、低速回転混合機やヘンシェルミキサーなどの拘束回転混合機を用いてあらかじめ混合した後、射出成形機や押出成形機を用いて直接、組成物の成形品を得る方法が適用できる。
【0040】
ポリアミド樹脂組成物の成形方法としては、射出、押出、ブロー、中空、プレス、ロール、発泡、真空・圧空、延伸などポリアミドに適用できる公知の成形加工法はすべて可能である。
【0041】
本発明の可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物は、上記のような成形方法により、チューブ、フィラメント、シート、フィルム、繊維などの成形物を得ることが出来る。
【0042】
本発明の可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物は、被覆材料としても使用できるが、成形物として、産業資材、工業材料、家庭用品などの成形材料、とりわけ自動車部材、光学機器部材、電気・電子機器、情報・通信関連機器、精密機器、土木・建築用品、医療用品、家庭用品など広範な用途に好適に使用できる。 たとえば、スポーツシューズ材、スキー板の表面材、機械・電気精密機器のギア・コネクタ・シール、自動車用モール、シール材、各種チューブ・ホース、シート、フィルム、モノフィラメント、自動車用ミラーブーツ、等速ジョイントブーツなど。
【0043】
本発明の可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物は、低吸水性であり、溶融成形性に優れ、成形加工性に優れ、しかも可塑剤のブリードアウトがなく、かつ、耐衝撃性に優れ、耐加水分解性および加水分解処理後の物性保持性に優れ、耐薬品性にも優れている。
【0044】
本発明の可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物は、引張破断伸びの保持率が90%以上、さらに100%程度が好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
特性値は次のようにして測定した。
【0046】
(1)相対粘度(ηr)
ηrはポリアミドの96%硫酸溶液(濃度:1.0g/dl)を使用してオストワルド型粘度計を用いて25℃で測定した。
【0047】
(2)融点(Tm)及び結晶化温度(Tc)
可塑剤含有試料および可塑剤を含まない試料のTm及びTcは、PerkinELmer社製PYRIS Diamond DSC用いて窒素雰囲気下で測定した。30℃から270℃まで10℃/分の速度で昇温し(昇温ファーストランと呼ぶ)、270℃で3分保持したのち、−100℃まで10℃/分の速度で降温し(降温ファーストランと呼ぶ)、次に270℃まで10℃/分の速度で昇温した(昇温セカンドランと呼ぶ)。可塑剤含有試料では得られたDSCチャートから昇温ファーストランの吸熱ピーク温度を、可塑剤を含まない試料では昇温セカンドランの吸熱ピーク温度をそれぞれ降温ファーストランの発熱ピーク温度を各試料の結晶化温度とした。
【0048】
(3)1%重量減少温度(Td)
Tdは島津製作所社製THERMOGRAVIMETRIC ANALYZER TGA−50を用い、熱重量分析(TGA)により測定した。20ml/分の窒素気流下室温から500℃まで10℃/分の昇温速度で昇温し、Tdを測定した。
【0049】
(4)溶融粘度
溶融粘度はティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製溶融粘弾性測定装置ARESに25mmのコーン・プレートを装着させて、窒素中、250℃、せん断速度0.1s-1の条件で測定した。
【0050】
(5)フィルム成形
東邦マシナリー社製真空プレス機TMB−10を用いてフィルム成形を行った。500〜700Paの減圧雰囲気下260℃(ナイロン66を用いた場合は290℃、ナイロン12を用いた場合は230℃)で5分間加熱溶融させた後、10MPaで1分間プレスを行いフィルム成形した。次に減圧雰囲気を常圧まで戻したのち室温5MPaで1分間冷却結晶化させてフィルムを得た。
【0051】
(6)吸水率(飽和吸水率、平衡吸水率)
ポリアミド樹脂を(5)の条件で成形したフィルム(寸法:20mm×10mm、厚さ0.25mm;重量約0.05g)を23℃のイオン交換水に浸漬し、所定時間ごとにフィルムを取り出し、フィルムの重量を測定した。フィルム重量の増加率が0.2%の範囲で3回続いた場合にポリアミド樹脂フィルムへの水分の吸収が飽和に達したと判断して、水に浸漬する前のフィルムの重量(Xg)と飽和に達した時のフィルムの重量(Yg)から式(1)により飽和吸水率(%)を算出した。
飽和吸水率(%)=100(Y−X)/X (1)
なお、上記フィルムの成形直後の重量(Xg)と上記フィルムを成形後に湿度65%、温度23℃で平衡に達したときの重量(Yg)から式(1)により算出した吸水率(平衡吸水率)をウェットでの吸水率として表中に記載した。
【0052】
(7)耐薬品性
本発明で用いるポリアミド樹脂の熱プレスフィルムを以下に列挙する薬品中に7日間浸漬した後に、フィルムの重量残存率(%)及び外観の変化を観測した。濃塩酸、64%硫酸、氷酢酸のそれぞれの溶液においては23℃下で浸漬した試料について試験を行った。
【0053】
(8)耐加水分解性
本発明で用いるポリアミド樹脂の熱プレスフィルムをオートクレーブに入れ、水(pH=7)、0.5mol/l硫酸(pH=1)、1mol/l水酸化ナトリウム水溶液(pH=14)中でそれぞれ121℃、60分間処理した後の重量残存率(%)、及び外観変化を調べた。
【0054】
(9)機械的物性
以下に示す〔1〕〜〔4〕の測定は、下記の試験片を樹脂温度260℃(ナイロン66を用いた場合は290℃、ナイロン12を用いた場合は230℃)、金型温度80℃の射出成形により成形し、これを用いて行った。成形後直ちに調湿せずに23℃で評価したものをドライ、成形後に湿度65%、温度23℃で調湿した後に23℃で評価したものをウェットとして表中に記載した。
〔1〕 引張試験(引張降伏点強度):ASTM D638に記載のTypeIの試験片を用いてASTM D638に準拠して測定した。
〔2〕 曲げ試験(曲げ弾性率):試験片寸法127mm×12.7mm×3.2mmの試験片を用いてASTM D790に準拠し、23℃で測定した。
〔3〕 アイゾット衝撃強度:試験片寸法127mm×12.7mm×3.2mmの試験片を用いてASTM D256に準拠し、23℃で測定した。
〔4〕 荷重たわみ温度:試験片寸法127mm×12.7mm×3.2mmの試験片を用いてASTM D648に準拠し、荷重1.82MPaで測定した。
【0055】
(10)加水分解処理後の破断伸び保持率
射出成形により成形した100mm×300×厚さ2mmの板からJIS3号ダンベルを用いて切り出した試料を重ならないように、容量5リットルのステンレス容器に入れ、約2リットルの蒸留水を入れてふたをして密閉状態にした後、80℃の湯浴中に入れた。2000時間処理後に試験片を取り出し表面の水分を除去した後、引張試験機のチャックにチャック間距離50mmではさみ、500mm/minの速度で引張試験を行い、破断伸びを測定した。加水分解処理をしていない試験片の測定を行い、下記(2)式より破断伸び保持率を計算した。
破断伸び保持率(%)=〔(加水分解処理試料の破断伸び)/(未処理試料の破断伸び)〕×100 (2)
【0056】
[製造例1:PA92C−1の製造]
攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、ダイアフラムポンプを直結した原料投入口、窒素ガス導入口、放圧口、圧力調節装置及びポリマー抜出し口を備えた内容積が150リットルの圧力容器にシュウ酸ジブチル28.40kg(140.4モル)を仕込み、圧力容器の内部を純度が99.9999%の窒素ガスで0.5MPaに加圧した後、次に常圧まで窒素ガスを放出する操作を5回繰り返し、窒素置換を行った後、封圧下、攪拌しながら系内を昇温した。約30分間かけてシュウ酸ジブチルの温度を100℃にした後、1,9−ノナンジアミン18.89kg(119.3モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン3.34kg(21.1モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15)をダイアフラムフポンプにより流速1.49リットル/分で約17分間かけて反応容器内に供給すると同時に昇温した。供給直後の圧力容器内の内圧は、重縮合反応により生成したブタノールによって0.35MPaまで上昇し、重縮合物の温度は約170℃まで上昇した。その後、1時間かけて温度を235℃まで昇温した。その間、生成したブタノールを放圧口より抜き出しながら、内圧を0.5MPaに調節した。重縮合物の温度が235℃に達した直後から放圧口よりブタノールを約20分間かけて抜き出し、内圧を常圧にした。常圧にしたところから、1.5リットル/分で窒素ガスを流しながら昇温を開始し、約1時間かけて重縮合物の温度を260℃にし、260℃において4.5時間反応させた。その後、攪拌を止めて系内を窒素で1MPaに加圧して約10分間静置した後、内圧0.5MPaまで放圧し、重縮合物を圧力容器下部抜出口より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の樹脂はペレタイザーによってペレット化した。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.20であった。
【0057】
[製造例2:PA92C−2の製造]
1,9−ノナンジアミン17.62kg(111.3モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン4.45kg(28.1モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が80:20)を仕込んだほかは、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.10であった。
【0058】
[製造例3:PA92C−3の製造]
1,9−ノナンジアミン11.11kg(70.2モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン11.11kg(70.2モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が50:50)を仕込んだ以外は、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.35であった。
【0059】
[製造例4:PA92C−4の製造]
1,9−ノナンジアミン 6.67 kg(42.1モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン15.56kg(98.3モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が30:70)を仕込んだ以外は製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.55であった。
【0060】
[製造例5:PA92C−5の製造]
1,9−ノナンジアミン1.33kg(8.4モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン20.88kg(131.9モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)を仕込んだほかは、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.53であった。
【0061】
[製造例6:PA92C−6の製造]
1,9−ノナンジアミン1.33kg(8.4モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン20.88kg(131.9モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)を仕込み、ブタノールの抜出による内圧を0.25MPaに保持した以外は、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであり、ηr=4.00であった。
【0062】
[比較製造例1:PA92の製造]
ジアミン原料として1,9−ノナンジアミン22.25kg(140.4モル)だけを用いて、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は黄白色のポリマーであり、ηr=2.78であった。
【0063】
製造例1〜6及び比較製造例1で得られたポリアミド樹脂、並びにナイロン6(宇部興産製、UBEナイロン1015B)、ナイロン66(宇部興産製、UBEナイロン2020B))及びナイロン12(UBESTA3020U)について、相対粘度、融点、結晶化温度、1%重量減少温度、溶融粘度、飽和吸水率、耐薬品性、耐加水分解性、ドライ及びウェットにおける機械的特性を測定した。結果を表1に示す。
【表1】

【0064】
[実施例1〜9、参考例1、比較例1〜3]
製造例1〜6及び比較製造例1で製造したポリアミドPA92C−1〜PA92C−6、PA92、ナイロン6(宇部興産製、UBEナイロン1015B)、ナイロン66(宇部興産製、UBEナイロン2020B)及びナイロン12(UBESTA3020U)と、可塑剤としてベンゼンスルホン酸ブチルアミド又はp−ヒドロキシ安息香酸エチルヘキシルを用いて、表5に示した割合の混合物を作成した。
このポリアミドと可塑剤の混合物の、融点、結晶化温度、溶融粘度、飽和吸水率、耐薬品性、耐加水分解性、機械的強度について評価した。
その評価結果を表2に示す。
【表2】

【表3】

【0065】
さらに、それらの混合物をシリンダー径40mmの二軸混練機を用い、260℃(ナイロン66については290℃、ナイロン12については230℃)で溶融混練して、ストランド状に押出、水槽で冷却した後ペレタイザーを用いペレットを作成した。
【0066】
得られたペレットを、射出成形により曲げ試験および衝撃試験用の試験片を作成した。実施例の試験片ではいずれも可塑剤のブリードアウトは見られなかった。また、上記記述の曲げ試験片を80℃熱風オーブン中で100時間熱処理した。熱処理試験片表面の目視で観察して、ブリードアウトの有無を評価した。それらの結果を表2に示した。
これらの試験片を用いて、曲げ弾性率、アイゾット衝撃値、飽和吸水率、加水分解処理後の破断伸び保持率を評価した。
その評価結果を表3に示す。
【0067】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物は、可塑剤のブリードアウトがなく、低吸水性、耐薬品性、柔軟性、耐加水分解性などに優れ、溶融成形加工性に優れたものである。産業資材、工業材料、家庭用品などの成形材料として好適に使用することができる。たとえば、各種射出成形品、シート、フィルム、パイプ、チューブ、モノフィラメント、繊維等として自動車部材、光学機器部材、電気・電子機器、情報・通信関連機器、精密機器、土木・建築用品、医療用品、家庭用品など広範な用途に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂と可塑剤とを含む可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂が、カルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であることを特徴とする可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂は、96%硫酸を溶媒とし、濃度が1.0g/dlのポリアミド樹脂溶液を用いて25℃で測定した相対粘度(ηr)が1.8〜6.0であることを特徴とする請求項1記載の可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂は、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した熱重量分析における1%重量減少温度と窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した示差走査熱量法により測定した融点との温度差が50℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂は、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が5:95〜95:5であるジアミン成分とからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記可塑剤が、ポリアミド樹脂100重量部に対し1〜30重量部で含まれることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した前記ポリアミド樹脂の熱重量分析における1%重量減少温度と窒素雰囲気下、前記ポリアミド樹脂組成物の10℃/分の昇温速度で測定した示差走査熱量法により測定した融点との温度差が50℃以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の可塑剤含有ポリアミド樹脂組成物からなる成形物。

【公開番号】特開2009−298852(P2009−298852A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152300(P2008−152300)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】