説明

可塑性油脂組成物

【課題】油脂原料としてトランス酸残基を実質的に有さない油脂のみを用いて調製され、保存中の油脂結晶の粗大化が抑制された可塑性油脂組成物を提供する。
【解決手段】トランス酸残基を実質的に有さない油脂のみを油脂原料とし、グリセリン脂肪酸エステルを配合して調製される油脂組成物であって、該グリセリン脂肪酸エステルが
(1)グリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸100%中、パルミチン酸の含有量が10%以上、且つパルミチン酸とステアリン酸の含有量が90%以上、なお且つトランス酸を実質的に含まず、
(2)グリセリン脂肪酸エステル100質量%中、ジエステル体の含有量が50質量%以上、モノエステル体の含有量が5質量%以下、
であることを特徴とする可塑性油脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂原料としてトランス型不飽和脂肪酸(以下「トランス酸」という)残基を実質的に有さない油脂のみを用いて調製される可塑性油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製菓・製パン用の可塑性油脂の原料油脂としては、動植物油脂を水素添加処理して得られる部分水素添加油(以下「硬化油」という)と常温で液状の植物油などを適宜配合したものが一般に用いられている。しかし、該硬化油には、水素添加処理の際リノール酸以上の高度不飽和脂肪酸が異性化して生成したトランス酸残基が含まれる。トランス酸は、飽和脂肪酸と同様に血中のLDL(いわゆる悪玉コレステロール)量を上昇させるため、心臓疾患のリスクが大きくなるといわれている。
【0003】
近年、健康に対する関心の高まりを受けて、トランス酸残基を実質的に有さない油脂および油脂組成物が求められている。しかし、動植物油脂の完全水素添加油(以下「極度硬化油」という)と常温で液状の植物油などを組み合わせた油脂では、極度硬化油の配合量が多くなると口溶けが悪くなり、また極度硬化油の配合量が少なくなると可塑性が失われるという問題があった。
【0004】
この問題を解決するため、極度硬化油と液体油をエステル交換処理し、油脂の物性を変換する試みがなされている。例えば、パーム油起原の油脂と炭素数22の飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂及び/又は炭素数22の飽和脂肪酸の低級アルキルエステル類、要すればさらに炭素数18の不飽和脂肪酸を主要構成脂肪酸として含む油脂とをエステル交換して、上昇融点が20〜50℃であり、結合脂肪酸組成において実質的にトランス酸を含まない共ランダム化脂肪である、マーガリン又はショートニング類製造用の油脂組成物(特許文献1参照)、などが提案されている。
【0005】
一方、エステル交換処理に依らない油脂としては、例えば、油相中に、魚油の極度硬化油を0.5〜10重量%、パーム核油の極度硬化油及び/又はヤシ油の極度硬化油を3〜40重量%含むことを特徴とする、実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂組成物(特許文献2参照)、可塑性油脂組成物を構成する油脂成分において、融点が30℃以上のラウリン系油脂を10〜40重量%含有し、且つ油脂成分中の飽和脂肪酸含量が35%以下、トランス酸含量が5%以下であることを特徴とする可塑性油脂組成物(特許文献3参照)、油相中に、25℃で液状である油脂を40〜84.5重量%、融点が55℃以上である極度硬化油を0.5〜10重量%、及びSLOSL(SL:炭素数16〜22である飽和脂肪酸、O:オレイン酸)で表わされるトリアシルグリセロールを15〜50重量%含むことを特徴とする可塑性油脂組成物(特許文献4参照)、などが提案されている。
【0006】
しかし、上記の方法で得られる油脂組成物においても、保存中に油脂の結晶状態が変化して油脂結晶が粗大化し、滑らかさが失われるという欠点があり、その解決が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特開昭62−81497号公報
【特許文献2】特開平9−143490号公報
【特許文献3】特開2002−161294号公報
【特許文献4】特開2004−204067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、油脂原料としてトランス酸残基を実質的に有さない油脂のみを用いて調製され、保存中の油脂結晶の粗大化が抑制された可塑性油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、トランス酸残基を実質的に有さない油脂のみを油脂原料とし、特定のグリセリン脂肪酸エステルを配合することにより、目的とする可塑性油脂組成物が得られることを見いだし、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、
〔1〕トランス酸残基を実質的に有さない油脂のみを油脂原料とし、グリセリン脂肪酸エステルを配合して調製される油脂組成物であって、該グリセリン脂肪酸エステルが
(1)グリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸100%中、パルミチン酸の含有量が10%以上、且つパルミチン酸とステアリン酸の含有量が90%以上、なお且つトランス酸を実質的に含まず、
(2)グリセリン脂肪酸エステル100質量%中、ジエステル体の含有量が50質量%以上、モノエステル体の含有量が5質量%以下、
であることを特徴とする可塑性油脂組成物、
〔2〕油脂100質量部に対するグリセリン脂肪酸エステルの配合量が0.1〜10質量部であることを特徴とする前記〔1〕に記載の可塑性油脂組成物、
からなっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の可塑性油脂組成物は、トランス酸残基を実質的に有さない油脂を用いているため栄養学的に優れている。
本発明の可塑性油脂組成物は、低温で保存しても油脂の結晶状態が安定しており、油脂原料として、従来マーガリンまたはショートニングに使用し難いとされてきたパ―ム油およびパーム分別油を用いても、粗大結晶の生成がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で言うところのトランス酸残基を実質的に有さない油脂とは、油脂を構成する脂肪酸100%中、トランス酸の含有量が5%未満、好ましくは約1%以下の油脂を指す。
【0012】
本発明で油脂組成物の配合に用いられる油脂としては、トランス酸残基を実質的に有さない油脂であれば特に制限はなく、例えばオリーブ油、キャノーラ油、米ぬか油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、大豆油、コーン油、なたね油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、綿実油、やし油および落花生油などの植物油脂、牛脂、豚脂、魚油および乳脂などの動物油脂、これらの動植物油脂を分別処理したもの(例えばパームオレイン、パームステアリンなど)または完全水素添加処理したもの、さらにこれらの動植物油脂単独または二種類以上を任意に組み合わせてエステル交換処理したものなどが挙げられる。これらの油脂は、一種類で用いても良いし、二種類以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0013】
本発明で油脂組成物の配合に用いられるグリセリン脂肪酸エステルは、(1)グリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸100%中、パルミチン酸の含有量が10%以上、好ましくは20%以上、特に好ましくは40%以上、且つパルミチン酸とステアリン酸の含有量が90%以上、なお且つトランス酸を実質的に含まず、(2)グリセリン脂肪酸エステル100質量%中、ジエステル体(ジグリセライド)の含有量が約50質量%以上、好ましくは約70質量%以上、且つモノエステル体(モノグリセライド)の含有量が5質量%以下、であることが望ましい。
【0014】
上記特性を有するグリセリン脂肪酸エステルは、通常、油脂とグリセリンの混合物にアルカリを触媒として添加し、窒素または二酸化炭素などの任意の不活性ガス雰囲気下、例えば約180〜260℃の範囲、好ましくは約200〜250℃で約0.5〜5時間、好ましくは約1〜3時間加熱してエステル交換反応するか、または脂肪酸とグリセリンの混合物に酸またはアルカリを触媒として添加し、窒素または二酸化炭素などの任意の不活性ガス雰囲気下で、例えば約180〜260℃の範囲、好ましくは約200〜250℃で約0.5〜5時間、好ましくは約1〜3時間加熱してエステル化反応し、反応終了後触媒を中和し、得られた反応混合物から未反応のグリセリンとモノグリセライドを可及的に除去することにより得ることができる。グリセリンとモノグリセライドを除去する方法としては、減圧蒸留、分子蒸留、カラムクロマトグラフィー、液液抽出など自体公知の方法が利用できる。グリセリンとモノグリセライド除去後、必要であれば脱色、脱臭などの処理を行ってよい。
【0015】
また、これらの反応は化学反応に依らず、例えば1,3−位置選択的リパーゼなどを用いて、より温和な条件で行うこともできる。
【0016】
上記エステル交換反応に使用される原料油脂としては、所定の脂肪酸組成を有し、且つトランス酸残基を実質的に有さない油脂が好ましく、例えば米ぬか極度硬化油、コーン極度硬化油、パーム極度硬化油、綿実極度硬化油、牛脂極度硬化油、豚脂極度硬化油などが挙げられる。また、エステル化反応に使用される原料脂肪酸としては、上記油脂由来の脂肪酸が好ましく、例えば米ぬか極度硬化油脂肪酸、コーン極度硬化油脂肪酸、パーム極度硬化油脂肪酸、綿実極度硬化油脂肪酸、牛脂極度硬化油脂肪酸、豚脂極度硬化油脂肪酸などが挙げられる。また例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸などの各脂肪酸を所定の脂肪酸組成となるよう混合した混合脂肪酸を用いてもよい。
【0017】
本発明の可塑性油脂組成物としては、例えば油中水型乳化物であるマーガリン、ファットスプレッド、および水分をほとんど含まないショートニングのような製品形態のものが挙げられる。ここでマーガリンは、油脂組成物中に占める油脂含有率が80重量%以上のものをいい、ファットスプレッドは80重量%未満のものをいう。
【0018】
本発明の可塑性油脂組成物の製造方法は特に限定されず、自体公知の方法を用いることができる。以下に、マーガリンの製造方法を例示する。例えば、油脂およびグリセリン脂肪酸エステルを混合し、約50〜80℃、好ましくは約60〜70℃に加熱して溶解し、所望により酸化防止剤(例えば抽出トコフェロールなど)、着色料(例えばβ−カロテンなど)、香料(例えばミルクフレーバーなど)、乳化剤(例えばレシチンなど)などを添加して油相とする。油脂100質量部に対するグリセリン脂肪酸エステルの配合量は約0.1〜10質量部であるのが好ましい。一方、精製水に、所望により乳または乳製品(例えば全粉乳、脱脂粉乳など)、食塩、砂糖類、酸味料(例えばクエン酸など)などを加え、約50〜60℃に加熱して溶解し水相とする。次に、油相と水相を通常の攪拌・混合槽を用いて混合し、得られた混合液を送液ポンプで急冷捏和装置に送液し、油脂の結晶化と練捏を連続的に行い可塑性油脂組成物を得る。また乳化工程をとらず、油相と水相をそれぞれ定量ポンプで急冷捏和装置に送液し、以下同様に処理し可塑性油脂組成物を得ることもできる。
【0019】
ショートニングもまた上記急冷捏和装置を用いて製造される。即ち、食用油脂およびグリセリン脂肪酸エステルを混合し、約50〜80℃、好ましくは約60〜70℃に加熱して溶解し、所望により酸化防止剤(例えば抽出トコフェロールなど)、着色料(例えばβ−カロテンなど)、香料(例えばミルクフレーバーなど)、乳化剤(例えばレシチンなど)などを添加する。油脂100質量部に対するグリセリン脂肪酸エステルの配合量は約0.1〜10質量部であるのが好ましい。得られた溶液を、組成物100g中約10〜15mlとなるよう窒素ガスまたは空気を吹き込みながら、送液ポンプで予冷器を通して急冷捏和装置に送液し、油脂の結晶化と練捏を連続的に行い可塑性油脂組成物を得る。得られた油脂組成物は、更に、約25〜30℃で24〜48時間テンパリングされるのが好ましい。
【0020】
急冷捏和装置としては、例えばボテーター(ケメトロン社製)、パーフェクター(ゲルステンベルグ社製)、コンビネーター(シュローダー社製)、オンレーター(櫻製作所社製)などが挙げられる。該装置は一般にAユニットとBユニットから構成され、Aユニットは管型の掻き取り式熱交換機からなっている。Bユニットは製品の種類、目的により構造の異なる管が用いられ、マーガリン、ファットスプレッドでは例えば中空管または内部に金網を設けた管などが、またショートニングでは管の内壁およびシャフトにピンを設けた混練機(ピンチューブ)などが用いられる。
【0021】
本発明の可塑性油脂組成物(マーガリン)には、食品添加物として、上記の酸化防止剤、着色料、香料、乳化剤、酸味料の他に、乳化安定剤(例えばカゼインナトリウム、ポリリン酸ナトリウムなど)、調味料(例えばL−グルタミン酸ナトリウムなど)、糊料(例えばカラギナン、キサンタンガムなど)、保存料(例えばソルビン酸カリウムなど)、強化剤(例えばビタミンA脂肪酸エステルなど)などを含有させることができる。
また可塑性油脂組成物(ショートニング)には、食品添加物として、上記の酸化防止剤、着色料、香料、乳化剤の他に、酸化防止助剤(例えばクエン酸など)、消泡剤(例えばシリコーン樹脂など)などを含有させることができる。
【実施例】
【0022】
以下に本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定さ
れるものではない。
【0023】
[製造例1]
撹拌機、温度計、ガス吹込管および水分離器を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、グリセリン92g、およびパーム極度硬化油(横関油脂工業社製)424gを仕込み、触媒として水酸化カルシウム(粉末)0.14gを加え、窒素ガス気流中250℃で約1時間エステル交換反応を行った。得られた反応混合物を約150℃まで冷却し、リン酸(85質量%)0.3gを添加して触媒を中和し、その温度で約1時間放置した後ろ過した。
ろ液を約160℃、約250Paの条件で減圧蒸留してグリセリンを留去し、続いて遠心式分子蒸留装置(実験機;CEH−300II特;ULVAC社製)を用いて、約200℃、約10Paの条件で分子蒸留してモノグリセライドを留去した。次に、蒸留残に対して1質量%の活性炭を加え、減圧下にて脱色処理した後ろ過し、ジグリセライドを主成分とするグリセリン脂肪酸エステル(試作品1)約250gを得た。
【0024】
[製造例2]
撹拌機、温度計、ガス吹込管および水分離器を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、グリセリン92g、および牛脂極度硬化油(横関油脂工業社製)429gを仕込み、触媒として水酸化カルシウム(粉末)0.14gを加え、窒素ガス気流中250℃で約1時間エステル交換反応を行った。得られた反応混合物を約150℃まで冷却し、リン酸(85質量%)0.3gを添加して触媒を中和し、その温度で約1時間放置した後ろ過した。
ろ液を約160℃、約250Paの条件で減圧蒸留してグリセリンを留去し、続いて遠心式分子蒸留装置(実験機;CEH−300II特;ULVAC社製)を用いて、約200℃、約10Paの条件で分子蒸留してモノグリセライドを留去した。次に、蒸留残に対して1質量%の活性炭を加え、減圧下にて脱色処理した後ろ過し、ジグリセライドを主成分とするグリセリン脂肪酸エステル(試作品2)約250gを得た。
【0025】
[製造例3]
撹拌機、温度計、ガス吹込管および水分離器を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、グリセリン92g、およびパーム油(J−オイルミルズ社製)424gを仕込み、触媒として水酸化カルシウム(粉末)0.14gを加え、窒素ガス気流中250℃で約1時間エステル交換反応を行った。得られた反応混合物を約150℃まで冷却し、リン酸(85質量%)0.3gを添加して触媒を中和し、その温度で約1時間放置した後ろ過した。
ろ液を約160℃、約250Paの条件で減圧蒸留してグリセリンを留去し、続いて遠心式分子蒸留装置(実験機;CEH−300II特;ULVAC社製)を用いて、約200℃、約10Paの条件で分子蒸留してモノグリセライドを留去した。次に、蒸留残に対して1質量%の活性炭を加え、減圧下にて脱色処理した後ろ過し、ジグリセライドを主成分とするグリセリン脂肪酸エステル(試作品3)約250gを得た。
【0026】
[製造例4]
撹拌機、温度計、ガス吹込管および水分離器を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、グリセリン28g、およびパーム極度硬化油(横関油脂工業社製)594gを仕込み、触媒として水酸化カルシウム(粉末)0.20gを加え、窒素ガス気流中250℃で約1時間エステル交換反応を行った。得られた反応混合物を約150℃まで冷却し、リン酸(85質量%)0.4gを添加して触媒を中和し、その温度で約1時間放置した後ろ過した。
ろ液を約160℃、約250Paの条件で減圧蒸留してグリセリンを留去し、次に、蒸留残に対して1質量%の活性炭を加え、減圧下にて脱色処理した後ろ過し、グリセリン脂肪酸エステル(試作品4)約610gを得た。
【0027】
[試験例1]
製造例1〜4で使用したパーム極度硬化油、牛脂極度硬化油、パーム油の脂肪酸組成を測定した。
測定のための試料の調製は「基準油脂分析試験法(1996年版)」(日本油化学協会編)の〈2.4.1.2 メチルエステル化法(三フッ化ホウ素メタノール法)〉に準じて行った。また測定は、「基準油脂分析試験法(1996年版)」(日本油化学協会編)の〈2.4.2.2 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)〉に準じて行った。定量は、データ処理装置により記録されたピーク面積の総和に対する各ピーク面積の百分率をもって脂肪酸組成とした。結果を表1に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
[試験例2]
製造例1〜4で使用したパーム極度硬化油、牛脂極度硬化油、パーム油のトランス酸含有量を測定した。
測定のための試料の調製は「基準油脂分析試験法(1996年版)」(日本油化学協会編)の〈2.4.1.2 メチルエステル化法(三フッ化ホウ素メタノール法)〉に準じて行った。また測定は、「基準油脂分析試験法(1996年版)」(日本油化学協会編)の〈2.4.4.1 孤立トランス異性体(差赤外スペクトル法)〉に準じて行った。結果を表2に示した。
【0030】
【表2】

【0031】
[試験例3]
製造例1〜4で作製したグリセリン脂肪酸エステル(試作品1〜4)中のモノエステル体(モノグリセライド)、ジエステル体(ジグリセライド)含有量を測定した。
測定はHPLCを用いて行い、定量は絶対検量線法により行った。即ち、データ処理装置によってクロマトグラム上に記録された被検試料のモノグリセライドおよびジグリセライドに相当するピーク面積を測定し、順相系カラムクロマトグラフィーにより精製したグリセリンモノステアリン酸エステルおよびグリセリンジステアリン酸エステルを標準試料として作成した検量線から、被検試料のモノエステル体およびジエステル体含有量(質量%)を求めた。
【0032】
HPLC分析条件を以下に示した。
〈HPLC分析条件〉
装置 島津高速液体クロマトグラフ
ポンプ(型式:LC−10A;島津製作所社製)
カラムオーブン(型式:CTO−10A;島津製作所社製)
データ処理装置(型式:C−R7A;島津製作所社製)
カラム GPCカラム(型式:SHODEX KF−802;昭和電工社製)
2本連結
移動相 THF
流量 1.0mL/min
検出器 RI検出器(型式:RID−6A;島津製作所社製)
カラム温度 40℃
検液注入量 15μL(in THF)
【0033】
【表3】

【0034】
[実施例1]
製造例1〜4で作製したグリセリン脂肪酸エステル(試作品1〜4)を配合したマーガリン(試料No.1〜4)および対照としてグリセリン脂肪酸エステルを配合しないマーガリン(試料No.5)を調製し、評価した。
【0035】
[マーガリンの作製−1(試料No.1〜4)]
(1)精製水16質量部に食塩1質量部および脱脂粉乳2質量部を加えて溶解し、約40℃に加温して水相とする。
(2)パーム油(J−オイルミルズ社製)80質量%、なたね油(日清オイリオ社製)15質量%およびパームステアリン(不二製油社製)5質量%からなる配合油(トランス酸含有量:ND)100質量部に対してグリセリン脂肪酸エステル(試作品1〜4)5質量部、レシチン(商品名:SLPペースト;辻製油社製)0.1質量部を加えて溶解し、約60℃に加温して油相とする。
(3)(1)の水相をTKホモミキサー(型式:MARKII;特殊機化工業社製)で低速で攪拌しながら、(2)で調製した油相81質量部を徐々に加える。乳化液は始めはO/W型を呈しているが途中で転相し、最終的にはW/O型となる。
(4)得られた乳化液を常法により急冷捏和し、マーガリン(試料No.1〜4)を得た。
【0036】
[マーガリンの作製−2(試料No.5)]
(1)精製水16質量部に食塩1質量部および脱脂粉乳2質量部を加えて溶解し、約40℃に加温して水相とする。
(2)パーム油(J−オイルミルズ社製)80質量%、なたね油(日清オイリオ社製)15質量%およびパームステアリン(不二製油社製)5質量%からなる配合油(トランス酸含有量:ND)100質量部に対してレシチン(商品名:SLPペースト;辻製油社製)0.1質量部を加えて溶解し、約60℃に加温して油相とする。
(3)(1)の水相をTKホモミキサー(型式:MARKII;特殊機化工業社製)で低速で攪拌しながら、(2)で調製した油相81質量部を徐々に加える。
(4)得られた乳化液を常法により急冷捏和し、マーガリン(試料No.5)を得た。
【0037】
[マーガリンの評価]
得られたマーガリン(試料No.1〜5)を5℃で30日間保存した後、以下の試験を行った。結果は表5に示した。
試験1:油脂結晶の大きさを光学顕微鏡で測定した。
試験2:各試料10gを切り取り、約20℃の環境下でバターナイフを用いてパンの表 面に塗布し、更に塗布したパンを試食し、下記表4に示す評価基準に従い伸展 性と食感を評価した。官能試験は10名のパネラーで行い、結果は10名の評 点の平均値として求め、以下の基準に従って記号化した。
○ 2.5以上
△ 1.5以上、2.5未満
× 1.5未満
【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
表5から明らかなように、実施例のマーガリンは油脂結晶が小さく、そのため伸展性、食感ともに良好であった。一方、比較例のマーガリンは油脂結晶が粗大で、そのため伸展性が悪く、舌触りも明らかにザラザラして良くなかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の可塑性油脂組成物は、スポンジケーキ、バターケーキ、食パン、デニッシュ、パイ、クッキー、クラッカー、シュー、アイシング類などの製造の際に使用される製菓・製パン用油脂として、また、家庭用マーガリン、学校給食用マーガリンなどとして利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランス酸残基を実質的に有さない油脂のみを油脂原料とし、グリセリン脂肪酸エステルを配合して調製される油脂組成物であって、該グリセリン脂肪酸エステルが
(1)グリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸100%中、パルミチン酸の含有量が10%以上、且つパルミチン酸とステアリン酸の含有量が90%以上、なお且つトランス酸を実質的に含まず、
(2)グリセリン脂肪酸エステル100質量%中、ジエステル体の含有量が50質量%以上、モノエステル体の含有量が5質量%以下、
であることを特徴とする可塑性油脂組成物。
【請求項2】
油脂100質量部に対するグリセリン脂肪酸エステルの配合量が0.1〜10質量部であることを特徴とする請求項1に記載の可塑性油脂組成物。

【公開番号】特開2007−89527(P2007−89527A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285972(P2005−285972)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】