説明

可変のコイルインピーダンスを有する電流制限装置

本発明は、可変のコイルインピーダンスによる電流制限のための装置に関する。チョークコイル(1)の内部に超伝導コイル(5)を使用することによってチョークコイルのインダクタンス、ひいてはインピーダンスが著しく低減される、電流制限装置が提案される。このことは、超伝導コイルの中で誘導される、通常動作においてチョークコイルの磁場を補償する電流によって生じる。超伝導コイルにおいて所定の電流値を上回った場合には、超伝導体は常伝導状態へと移行して、インダクタンスが増加し、これによって電流が制限される。過電流の遮断で、超伝導体は数秒後に再び自立的に超伝導状態へと戻り、通常動作を再び開始することができる。電流制限装置の特別な利点は、コンパクトな構造にあり、エネルギネットワークの初期装備、および既存のネットワークの後からの装備のために適当である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変のコイルインピーダンスを有する電流制限装置に関する。
【0002】
電流制限装置は、エネルギ技術および電気エネルギ供給において非常に一般的に使用されている。一般的にエネルギ技術において、とりわけ高電圧技術においては、とりわけチョークコイルを使用して、遮蔽された鉄心の原理または直流磁化された鉄心の原理に従って動作する電流制限装置が公知である。鉄心が使用される電流制限装置の欠点は、体積が大きく重量が重いこと、ならびに、定格動作時の電気システムのインピーダンスが高いことである。
【0003】
さらにはIs制限器と呼ばれる電流制限装置が公知である。このIs制限器の利点は、通常動作におけるインピーダンスは無視できるほど小さいのに、故障時にはインピーダンスを急激に上昇させることができるということにある。この急激な上昇は雷管によって実現される。しかしながらこのシステムの欠点は、雷管を使用することによって各トリガの後にはメンテナンス工程が必要となり、スケーラビリティが高電圧技術における用途に制限されているということである。
【0004】
さらなるアプローチは、超伝導材料の使用である。例えばDE602004012035は、磁場によってクエンチが補助された超伝導電流制限装置を開示している。故障時には超伝導体を流れる電流が臨界電流となり、超伝導体は常伝導状態へと移行する。DE602004012035にて開示されている電流制限装置では、各々の超伝導本体がコイルと並列接続されている。
【0005】
さらには、短絡時に自身の非線形の電流−電圧曲線によって電流を制限する、いわゆる抵抗型の超伝導電流制限装置が公知である。最後に挙げた2つの原理の欠点は、室温環境と低温環境との間で適当な手段によって電流供給を行わなければならないことである。この場合には大きな熱損失が生じてしまう。
【0006】
したがって本発明の課題は、上に述べた制約および欠点を回避した電流制限装置を提供することである。とりわけ本発明は、故障時に迅速および確実に電流を制限し、自動的に通常状態に戻り、定格動作におけるインピーダンスは無視できる程度しか上昇しない、電流制限装置を提供したい。さらに電流制限装置を、多岐に亘って使用されるチョークコイルと組み合わせて使用できるようにし、既存のネットワークに追加設置できるようにしたい。
【0007】
この課題は、請求項1に記載の特徴を有する装置によって解決される。従属請求項は、本発明の装置の有利な実施形態を示している。
【0008】
この課題を解決するために、チョークコイルの内部に超伝導コイルを使用することによってチョークコイルのインダクタンス、ひいてはインピーダンスを著しく低減する、電流制限装置が提案される。このインダクタンスないしインピーダンスの低減は、超伝導コイルにて誘導される電流によって行われ、この電流がチョークコイルの磁場を補償する。
【0009】
本発明の電流制限装置のチョークコイルは、周辺装置との電気接続部を有さない密封された低温維持装置を含む。低温維持装置の内部には、超伝導材料からなる短絡されたコイルが設けられている。このコイルは1つまたは複数の短絡された巻線を含み、各々の巻線は少なくとも1回の短絡された巻回からなる。1つの実施形態は、ただ1回の短絡された巻回からなる超伝導コイルを含む。1つの有利な実施形態においては、短絡されたコイルは、商用入手可能な超伝導テープ導体から形成されている。
【0010】
通常動作においては、超伝導コイルはチョークコイルの磁場を補償している。これによってインダクタンスは低下し、通常動作における電圧降下は最小化される。超伝導コイルにおいて所定の電流値を上回った場合には、超伝導体は常伝導状態へと移行して、超伝導コイルのインダクタンスが増加し、これによって電流が制限される。過電流の遮断後、超伝導体は僅かな時間の後に再び自立的に超伝導状態へと戻り、通常動作を再び開始することができる。
【0011】
本発明の電流制限装置の利点は、超伝導体自体の材料特性に基づいた、電流制限装置の本質安全性である。これによって付加的なトリガ機構を省略することが可能となる。
【0012】
特別な利点は、効果的な電流制限のために鉄心が必要ないことであり、このことはシステムのインピーダンスや部材の寸法設計にも有利に作用する。鉄心を省略することによって電流制限装置の構造がコンパクトになるので、この電流制限器を既存のネットワークシステムに組み込むことが可能となる。このようにして、チョークコイルによる電流制限のための従来手段をより効率的に構成することができる。このことは、定格動作におけるインピーダンスを低減するために、短絡した超伝導コイルを、新しいエネルギネットワークに初期装備させておくこと、および、既存のネットワークに後から装備させることによって実現できる。
【0013】
本発明の別の利点は、超伝導コイルのための電流供給手段が必要ないことである。したがって低温維持装置を密封システムとして構成することができ、室温環境と低温環境との間の電気接続部において通常発生する熱損失を回避することができる。
【0014】
以下、本発明を実施例および図面に基づいて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、高温超伝導(HTS)コイルを備えるチョークコイルと冷却装置とからなる装置の概略図である。
【図2】図2は、HTSコイルを備えるチョークコイルの等価回路図である。
【0016】
図1には、チョークコイル1と、液体窒素3が充填された低温維持装置(クライオスタット)2と、冷却装置4と、HTSコイル5とからなる装置が概略的に図示されている。HTSコイル5はこの実施形態においては、図面には図示していない巻線を備えるYBCOテープ導体として構成されており、この際この巻線は短絡されている。HTSコイル5は低温維持装置2の中に配置されており、低温維持装置2の中に入っている、HTSコイルを取り囲んでいる窒素3を、冷却装置4が冷却する。このようにしてHTSコイル5の超伝導特性が形成される。
【0017】
図2は、オーム性抵抗11および漏れインダクタンス12と、可変インピーダンス21を有するHTSコイル5とを備えるチョークコイル1の等価回路図を示す。コイルの全体構造は主インダクタンス22を有する。短絡されたHTSコイル5は、通常動作においてチョークコイル1の磁場を補償する。この補償によってインダクタンスは低下し、通常動作におけるシステムの損失は最小化される。これに対して短絡した場合には、HTSコイル5は常伝導状態に移行する。チョークコイル1の磁場はもはや補償されず、結果としてインダクタンスは上昇する。これによって短絡電流が制限される。短絡電流が存在しなくなると、HTSコイル5は幾秒も経たないうちに超伝導状態へと戻り、通常動作が再び開始される。
【符号の説明】
【0018】
1 チョークコイル
2 低温維持装置(クライオスタット)
3 液体窒素
4 冷却装置
5 HTSコイル
11 チョークコイルのオーム性抵抗
12 チョークコイルの一次漏れインダクタンス
21 超伝導コイルの可変インピーダンス
22 装置の主インダクタンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョークコイル(1)と冷却装置(4)とを含む、可変のコイルインピーダンスを有する電流制限装置において、
前記チョークコイル(1)の中に、高温超伝導材料からなる別のコイル(5)が配置されており、当該電流制限装置は、鉄心無しで構成されている、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記冷却装置(4)は、低温維持装置(2)を含む、
ことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記低温維持装置(2)は、前記別のコイル(5)を該別のコイル(5)の電気的周辺装置に電気接続するための手段の無い、密封されたシステムとして構成されている、
ことを特徴とする請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記高温超伝導材料からなる前記別のコイル(5)は、前記低温維持装置(2)の内部に配置されている、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の装置。
【請求項5】
前記別のコイル(5)は、少なくとも1回の短絡した巻回を含む、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の装置。
【請求項6】
前記別のコイル(5)は、電気的に短絡されている、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−519219(P2013−519219A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551507(P2012−551507)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【国際出願番号】PCT/EP2010/007837
【国際公開番号】WO2011/095199
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(509305321)
【氏名又は名称原語表記】Karlsruher Institut fuer Technologie
【住所又は居所原語表記】Kaiserstrasse 12, 76131 Karlsruhe, Germany
【Fターム(参考)】