説明

可変容量型ピストンポンプ

【課題】ストッパ部材の抜け出しを確実に防止すると共に、コンパクトで、かつ低コストで製造可能な斜板式の可変容量型ピストンポンプを提供する。
【解決手段】ハウジング穴11aに嵌合するストッパ部材20の軸径部には円周方向の円環溝37が設けられ、該環状溝37の底面の直径はハウジング穴11aの穴径よりも小さく形成されている。ハウジング穴11aに形成される抜け止め溝38の底面の直径は弾性部材25がストッパ部材20に嵌着された状態で外径方向からの外力を開放された場合の直径よりも大きく形成され、抜け止め溝38の幅は軸心方向にストッパ部材20が弾性部材24の圧縮により可動した際の可動範囲から決定される弾性部材24の可動範囲よりも長く形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜板の傾転角を変化させて前記傾転角を制御して前記ポンプの流量を制御する可変部材を備え、可変部材はハウジング内部に設けた2個のストッパ部材と当接して、ポンプ最大吐出量と最小吐出量とが規制されるようにされた可変容量型ピストンポンプの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、斜板式可変容量型ピストンポンプは、斜板の最大傾転角及び最小傾転角またはいずれか一方の傾転角を規制するものであり、傾転可能な斜板と、これに当接して傾転角を規制するストッパを具備し、かつ斜板に作用する微振動から斜板とストッパの当接、または離脱する際に発生する振動を吸収するために皿ばねを用いてポンプ全体の振動、騒音を低減している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】実開平5−10786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1では、ストッパ部材の抜け止め構造がないため、ポンプに作用する振動、ケース内圧の変動などによってストッパ部材が斜板側に抜け出てくる可能性がある。そのため、飛び出した状態で斜板側から荷重を受けた場合、ストッパ部材と嵌合穴の嵌合長が短いためストッパ部材が傾きコジリにより固着し易くなる。これを防止するためにはストッパ部材の軸部及び嵌合穴を長くする必要があり、その結果ポンプの全長が軸方向に長くなる。
本発明はこのような従来の問題点に鑑みてなされたもので、ストッパ部材の抜け出しを確実に防止すると共に、コンパクトで、かつ低コストで製造可能な斜板式可変容量型ピストンポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記の課題を解決するため請求項1記載の発明は、
ポンプを形成する多数のピストンを具備するシリンダバレルと、
前記ピストンの頭部がシューを介して接触する斜板と、
前記斜板の傾転角を変化させて前記傾転角を制御して前記ポンプの流量を制御する可変部材と、を備え、
前記可変部材はハウジング内部に設けた2個のストッパ部材と当接して、ポンプ最大吐出容量と最小吐出容量に該当する最大斜板角、最小斜板角が規制され、
前記2個のストッパ部材の少なくとも一方は第一の弾性部材を前記ハウジング内部との間に介して押される方向に可動にされ、
前記可変部材がストッパ部材に当接したときまたは離脱したときその衝撃、振動を吸収するようにした可変容量型ピストンポンプにおいて、
ハウジング穴に嵌挿される前記ストッパ部材には、軸径部の円周方向に第二の弾性部材が嵌着するよう設けられた環状溝と、
前記ハウジング穴の内周面には前記環状溝に対向して前記第二の弾性部材に嵌合応するように設けられた抜け止め溝と、
内径部が前記環状溝に嵌挿された第二の弾性部材と、
を設け、
前記環状溝の直径は前記ハウジング穴に前記ストッパ部材を装着する際、前記第二の弾性部材が弾性変形して前記ハウジング穴径よりも小さくなるように形成され、
前記抜け止め溝の直径は前記第二の弾性部材が前記ストッパ部材に嵌着された状態で外径方向からの外力を開放された場合の直径よりも大きく形成され、かつ前記抜け止め溝の幅は前記ストッパ部材が前記第一の弾性部材の圧縮により可動した際の可動範囲から決定される前記第二の弾性部材の可動範囲よりも長く形成され、
前記第二の弾性部材は前記ストッパ部材に嵌着された状態で外径方向からの外力を開放された場合の直径が前記ハウジング穴よりも大きくしたことを特徴とする。
【0005】
本発明によれば、ストッパ部材が斜板側に抜け出そうとしても該ストッパ部材に装着された第二の弾性部材がハウジング穴に形成された抜け止め溝に接触することで抜け出すことがないため、嵌合長さの減少によりストッパ部材が傾き、コジリにより固着することを防止でき、また飛び出すことがないためストッパ部材の小径部の長さを短くすることが可能となり、製品の全長を短縮することができた。また部品点数を大幅に増やすことなく構成することが可能なため、安価な製品を提供することが可能になった。
請求項2記載の発明では、前記抜け止め溝は前記ハウジング穴入口方向に指向するテーパを設けたので、ストッパ部材を引き抜く際に第二の弾性部材が容易に抜けやすい。
請求項3記載の発明では、前記第二の弾性部材はOリング部材であるので、規格部品として流通性が高く、コストの上昇を最小限に抑えることが可能になった。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、ストッパ部材が斜板側に抜け出そうとしても該ストッパ部材に装着された第二の弾性部材がハウジング穴に形成された抜け止め溝に接触することで抜け出すことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の可変容量型ピストンポンプにつき好適の実施の形態を挙げ、添付図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の実施の形態に係る可変容量型ピストンポンプ10の概略断面図を示す。図2及び図3は、図1のポンプの斜板が、大吐出量位置と最小吐出量位置とにある状態をそれぞれ示す。
図1の可変容量型ピストンポンプ10(以下ピストンポンプという)において、13はベアリング30、31を介してハウジング11に取り付けられたシャフトであり、多数のピストン15を持ったシリンダバレル14がスプライン34で結合されている。
【0008】
斜板18はその裏面にピストン15の頭部に取り付けられている球部と結合するシュー16によって保持されている。シリンダバレル14がシャフト13の回転により回転すると、ピストン15のシュー16が斜板18の裏面を摺動してピストン15をストロークするよう構成される。
斜板18の傾転角を変化させて前記傾転角を制御して前記ピストンポンプ10の流量を制御する斜板18と一体になった可変部材12は、斜板18を回転中心29の回りでシャフト13の軸心17よりばね部材22側にずれて傾転させる傾転面35と、斜板18と一体になったアーム32と、ばね受け33を介してハウジング11に対しアーム32を押すばね部材22とにより構成される。
前記可変部材12はハウジング11内部に設けた2個のストッパ部材20と当接して、ポンプ最大吐出量A(図4参照)となる最大傾転角αMAX (図2参照)及び最小吐出量B(図4参照)となる最小傾転角αMIN (図3参照)とが規制されるようにされている。
【0009】
そして2個のストッパ部材20(最大吐出量側又は最小吐出量側のどちらか1個のみでもよい)はハウジング11内部に設けられた穴11aに嵌合され、かつ穴11aと嵌合する小径部27及び穴11aより突出する大径部28とを有し、第一の弾性部材であるサラバネ24が大径部28と穴縁部表面23との間に設けられており、ストッパ部材20は押される方向に可動にされ、可変部材12がストッパ部材20に当接したとき、または離れるとき、その衝撃を吸収するようにされている。
【0010】
斜板18の回転中心29はシャフト13の軸心17よりばね部材22側にずれているので、ポンプの吐出圧力が上昇すると、全ピストン15の合成力は斜板18と連結されたアーム32が、ばね部材22を押すように作動されて、ポンプ最大吐出量Aから最小吐出量Bに向けて図5のポンプ吐出圧・吐出量曲線に示すように吐出圧・吐出量が変化する。そこで、可変部材12はハウジング11内部に設けた2個のストッパ部材20と当接して、ポンプ最大吐出量(図2参照)と最小吐出量(図3参照)が規制される。
【0011】
本発明では、サラバネ24が大径部28と穴縁部表面23との間に介されており、ストッパ部材20は押される方向に可動にされているので、可変部材12がストッパ部材20と当接したとき、または離れるとき、弾性部材である皿バネ24によりその衝撃は吸収され斜板18の振動がハウジング11に伝達されることがなく、ポンプ全体の振動が小となった。なお、サラバネ24の代わりに、低圧かつ低頻度用の限定された用途には、弾性部材である硬質合成樹脂を使用してもよい。また、サラバネ24をストッパ部材20の頭部26に取り付けて、該ストッパ部材20とハウジング11内部との間に介して押される方向に可動にしてもよい。
【0012】
図5はストッパ部材20の軸径部に第二の弾性部材25であるOリングを嵌挿した状態を示す詳細図である。ハウジング穴11aと嵌合するストッパ部材20の軸径部には第二の弾性部材25が組み込まれる円周方向の円環溝37が設けられている。
前記環状溝37の底面の直径は前記ハウジング穴11aに前記ストッパ部材20を装着する際、前記第二の弾性部材25が弾性変形して前記ハウジング穴11aの穴径よりも小さくなるように形成している。
【0013】
ハウジング穴11aには環状溝37に対向して第二の弾性部材25の外径に対応する抜け止め溝38が形成されている。抜け止め溝38の底面の直径は第二の弾性部材25がストッパ部材20に嵌着された状態で外径方向からの外力を開放された場合の直径よりも大きく形成され、かつ前記抜け止め溝38の幅は軸方向にストッパ部材20が第一の弾性部材24の圧縮により可動した際の可動範囲から決定される前記第二の弾性部材の可動範囲よりも長く形成されている。
第二の弾性部材25は前記ストッパ部材20に嵌着された状態で外径方向からの外力を開放された場合の直径(外径)がハウジング穴11aよりも大きく形成されている。
【0014】
よって、図6に示すようにハウジング穴11aにストッパ部材20を装着するときには、第二の弾性部材25が弾性変形し、ハウジング穴11aの内径よりも小さくなるように形成されているため、第二の弾性部材25を組み付けたままストッパ部材20をハウジング穴11aに装着することができる。
この場合、図6に示すようにストッパ部材20は第一の弾性部材24により軸方向に可動するが、ハウジング穴11aには第一の弾性部材24の伸縮(図5及び図7参照)によるストッパ部材20の可動範囲から決定される第二の弾性部材25の可動範囲よりも長く抜け止め溝38の幅が形成されているため、第二の弾性部材25は通常、ハウジング穴11aと抜け止め溝38により形成される段差に接触することはない。
【0015】
さらに、抜け止め溝38の底面の直径は第二の弾性部材25がストッパ部材20に嵌着された状態で外径方向からの外力を開放された場合の直径よりも大きく形成されているため、ストッパ部材20が第一の弾性部材24の伸縮により可動してもストッパ部材20に組み付けられている第二の弾性部材25は抜け止め溝38の底面に接触することがないため、摺動による劣化、摩耗が発生することはなく、第二の弾性部材25はストッパ部材20に嵌着された状態で外径方向からの外力を開放された場合の直径がハウジング穴11aよりも大きいため、ストッパ部材20、ハウジング穴11aに作用する振動等により該ストッパ部材20がハウジング穴11aから抜け出そうとしても、第二の弾性部材25がハウジング穴11aと抜け止め溝38により形成される段差に接触するためストッパ部材20が抜け出すことがない(図5参照)。
【0016】
第二の弾性部材25にはOリングを使用したが、図8及び図9に示すように切り欠きをもつ円環状の鋼線40(Oリング部材)でもよく、図10に示すスナップリング等の止め輪41や、バックアップリング等の樹脂42(Oリング部材)を用いても勿論よい。
また、分解・再組み付けの作業性を考慮し、ストッパ部材20を引き抜く際に第二の弾性部材25が抜けやすいように、図11に示すように抜け止め溝38のハウジング穴11aの入口方向にテーパ43を設けてもよい。
さらに、本発明の実施の形態ではストッパ部材20の軸径部に第二の弾性部材25を組み込む円環溝37を設けたが、図12に示すようにストッパ部材20の軸径部に抜け止め溝38を、ハウジング穴11aに円環溝37を設けてよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第一の実施の形態に係る可変容量型ピストンポンプの略縦断面図である。
【図2】図1のポンプの斜板が最大吐出量にある状態を示す要部断面図である。
【図3】図1のポンプの斜板が最小吐出量にある状態を示す要部断面図である。
【図4】ポンプ吐出圧とポンプ吐出量との関係示すポンプ吐出圧・吐出量曲線図である。
【図5】ストッパ部材に第一の弾性部材、軸径部に第二の弾性部材を嵌着した状態を示す詳細図である。
【図6】第二の弾性部材を嵌挿したストッパ部材をハウジング穴に嵌着する際の動作説明図である。
【図7】ストッパ部材に嵌挿した第一の弾性部材が撓んだ状態を示す概略図である。
【図8】ストッパ部材に円環状の鋼線を嵌着した状態を示す概略図である。
【図9】図8の円環状の鋼線の外形図である。
【図10】ストッパ部材にスナップリングを嵌着した状態を示す概略図である。
【図11】図1の抜け止め溝の端面にテーパにした概略構造図である。
【図12】ハウジング穴に環状溝、ストッパ部材に抜け止め溝を設けた概略図である。
【符号の説明】
【0018】
10 可変容量型ピストンポンプ 11 ハウジング
12 可動部材 13 シャフト
15 ピストン 18 斜板
20 ストッパ部材 24 サラバネ
25 Oリング 27 小径部
28 大径部 37 環状溝
38 抜け止め溝 43 テーパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプを形成する多数のピストンを具備するシリンダバレルと、
前記ピストンの頭部がシューを介して接触する斜板と、
前記斜板の傾転角を変化させて前記傾転角を制御して前記ポンプの流量を制御する可変部材と、を備え、
前記可変部材はハウジング内部に設けた2個のストッパ部材と当接して、ポンプ最大吐出容量と最小吐出容量に該当する最大斜板角、最小斜板角が規制され、
前記2個のストッパ部材の少なくとも一方は第一の弾性部材を前記ハウジング内部との間に介して押される方向に可動にされ、
前記可変部材が前記ストッパ部材に当接したときまたは離脱したときその衝撃、振動を吸収するようにした可変容量型ピストンポンプにおいて、
ハウジング穴に嵌挿される前記ストッパ部材には、軸径部の円周方向に第二の弾性部材が嵌着するよう設けられた環状溝と、
前記ハウジング穴の内周面には前記環状溝に対向して前記第二の弾性部材が嵌合するように設けられた抜け止め溝と、
内径部が前記環状溝に嵌挿された第二の弾性部材と、
を設け、
前記環状溝の直径は前記ハウジング穴に前記ストッパ部材を装着する際、前記第二の弾性部材が弾性変形して前記ハウジング穴径よりも小さくなるように形成され、
前記抜け止め溝の直径は前記第二の弾性部材が前記ストッパ部材に嵌着された状態で外径方向からの外力を開放された場合の直径よりも大きく形成され、かつ前記抜け止め溝の幅は前記ストッパ部材が前記第一の弾性部材の圧縮により可動した際の可動範囲から決定される前記第二の弾性部材の可動範囲よりも長く形成され、
前記第二の弾性部材は前記ストッパ部材に嵌着された状態で外径方向からの外力を開放された場合の直径が前記ハウジング穴よりも大きくしたことを特徴とする可変容量型ピストンポンプ。
【請求項2】
請求項1記載の可変容量型ピストンポンプにおいて、
前記抜け止め溝は前記ハウジング穴入口方向に指向するテーパを設けたことを特徴とする可変容量型ピストンポンプ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の可変容量型ピストンポンプにおいて、
前記第二の弾性部材はOリング部材であることを特徴とする可変容量型ピストンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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