説明

可変指向性マイクロホンユニットおよび可変指向性マイクロホン

【課題】電気回路の切り換えによって指向性を切り換える可変指向性マイクロホンユニットおよび可変指向性マイクロホンにおいて、指向性を切り換えるための回路が負荷にならず、雑音源にもならないようにする。
【解決手段】一対のマイクロホンエレメント10,20が背中合わせに配置され、一対のマイクロホンエレメント10,20の出力信号系がそれぞれ平衡出力のホット側端子とコールド側端子につながり、一対のマイクロホンエレメントの片方の出力信号系に反転増幅器24が接続され、反転増幅器24の入力抵抗または帰還抵抗は分割され、入力抵抗または帰還抵抗の分割点を任意に選択することにより信号取り出し点を切り換える切り換え手段30を有し、切り換え手段30により平衡出力の片側の出力を切り換えて平衡出力信号の指向性を可変とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路の切り換えによって指向性を切り換えることができる可変指向性マイクロホンユニットおよび可変指向性マイクロホンに関するもので、回路構成が簡単であるにもかかわらず、かつ、雑音の増加もなく、双指向性から無指向性まで広範囲にわたり可変指向性を実現できるものである。
【背景技術】
【0002】
指向性を可変としたマイクロホンとして従来、2つのコンデンサ型マイクロホンエレメントを背中合わせにしたマイクロホンユニットを使用したものが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。上記2つのマイクロホンエレメントはそれぞれカージオイド特性を持っており、それぞれの出力を加減することにより、あるいは特許文献1に記載されているように各エレメントの成極電圧を加減することによって可変指向性にしている。2つのコンデンサ型マイクロホンエレメントを背中合わせにしたマイクロホンユニットの例として、特許文献3、特許文献4記載のものも知られている。
【0003】
2つのコンデンサ型マイクロホンエレメントを背中合わせにしたマイクロホンユニットによって得ることができる指向性の例を図3に、回路の切り換えによって図3に示すような各種の指向性を得ることができる従来のコンデンサ型マイクロホンユニットの例を図4、図5に示す。
【0004】
図3において、上段に示す曲線の実線は前側マイクロホンエレメントの指向特性を、破線は後側マイクロホンエレメントの指向特性を示している。この図の例では、前側エレメントは単一指向性に固定し、後側エレメントの出力及び極性を切り換えるようになっている。図3の下段は、後側マイクロホンエレメントの出力及び極性を切り換えることによって、マイクロホンユニットとして得ることができる指向性を示している。左右方向中央に「3」で示す例は、後側エレメントの影響を受けない、したがって後側エレメントの出力をゼロとし、前側エレメントのみで得ることができる指向性である単一指向性を示している。この単一指向性を中心として、後側エレメントの出力を徐々に高めていくと、この出力の極性に応じて、「3」から右または左の方に示す指向性に変化する。「3」から左側は後側エレメントの出力極性をマイナスにした場合を示しており、後側エレメントの出力を最大にすると、「1」に示すように双指向性になり、後側エレメントの出力を小さくすると、「2」に示すようにハイパーカージオイドの指向性になる。「3」から右側は後側エレメントの出力極性をプラスにした場合を示しており、後側エレメントの出力を最大にすると、「5」に示すように無指向性になり、後側エレメントの出力を小さくすると、「4」に示すように広指向性(ワイドカージオイド)になる。
【0005】
図3に示すような各種の指向性に切り替えることができる従来の可変指向性コンデンサマイクロホンの回路例を図4に示す。図4において、コンデンサマイクロホンユニット50は、振動板53と共通の固定極55を有する第1のマイクロホンエレメント51と、振動板54と上記共通の固定極55を有する第2のマイクロホンエレメント52を有している。2個一対のマイクロホンエレメント51,52のうち一方のエレメント51の振動板53には一定の成極電圧を印加し、他方のマイクロホンエレメント52の振動板54に印加する成極電圧を切り換えることにより、マイクロホンユニット50の指向性を切り換えることができるようになっている。
【0006】
図4に示す例では、+60Vの直流電源と−60Vの直流電源を備え、一方のマイクロホンエレメント51の振動板53には常時+60Vが印加されるようになっている。+60Vと−60Vの電源はそれぞれ分圧抵抗61と62、分圧抵抗63と64によって2段階(例えば、60Vと30V)に分圧され、0Vも含めて5段階の電圧が生成されるようになっている。この5段階の電圧をスイッチ56で選択して他方のマイクロホンエレメント52の振動板54に印加するように構成されている。双方のエレメントの固定電極55(「バックプレート」ともいう)には0Vが印加される。
【0007】
図4に示すスイッチが接点1を選択すると、第1のマイクロホンエレメント51の成極電圧が+60Vであるのに対し、第2のマイクロホンエレメント52の成極電圧が−60Vとなり、図3の「1」に示すような双指向特性すなわち正面のマイクロホンエレメントの出力から背面のマイクロホンエレメントの出力を減算した指向特性のマイクロホンユニットとなる。上記スイッチが接点2を選択すると、マイクロホンエレメント52の成極電圧が−60Vと0Vとの間の電圧(例えば−30V)となり、図3の「2」に示すようなハイパーカージオイド指向特性のマイクロホンユニットとなる。上記スイッチが接点3を選択すると、マイクロホンエレメント52の成極電圧が0Vとなり、図3の「3」に示すようなカージオイド指向特性すなわち正面のマイクロホンエレメントのみから信号を出力するマイクロホンユニットとなる。上記スイッチが接点4を選択すると、マイクロホンエレメント52の成極電圧が0Vと+60Vとの間の電圧(例えば30V)となり、図3の「4」に示すようなワイドカージオイド指向特性のマイクロホンユニットとなる。上記スイッチが接点5を選択すると、マイクロホンエレメント52の成極電圧が+60Vとなり、図3の「5」に示すような無指向性の、すなわち正面のマイクロホンエレメントの出力に背面のマイクロホンエレメントの出力を加算した指向特性のマイクロホンユニットとなる。
【0008】
各種の指向性に切り替えることができる従来の可変指向性コンデンサマイクロホンユニットの別の回路例を図5に示す。図5において、符号10,20はそれぞれコンデンサマイクロホンエレメントを示している。図5では、2つのコンデンサマイクロホンエレメント10,20は個別に独立しているように描かれているが、固定電極を背中合わせにして、あるいは固定電極を共通にして前後に一体に組み立てられている。マイクロホンエレメント10は振動板11とこれに対向する固定電極12を有し、その出力信号はFETなどを含むインピーダンス変換器13と、バッファアンプ15を経て平衡出力のホット側信号として出力されるようになっている。マイクロホンエレメント20も、振動板21とこれに対向する固定電極22を有し、その出力信号はFETなどを含むインピーダンス変換器23、バッファアンプ25を経て平衡出力のコールド側信号として出力されるようになっている。
【0009】
マイクロホンエレメント10側は前側エレメント、エレメント20は後側エレメントになっていて、マイクロホンエレメント20には、インピーダンス変換器23とバッファアンプ25の間に、以下のような反転増幅器24を含む指向性切り換え回路が組み込まれている。インピーダンス変換器23の出力は、5個の切り換え接点を有する切り換えスイッチの第1の接点に接続されるとともに、入力抵抗Rsを介して反転増幅器24の反転入力端子に接続されている。反転増幅器24の非反転入力端子は接地されている。反転増幅器24の出力端子は上記切り換えスイッチの第5の接点に接続され、反転増幅器24の出力端子と反転入力端子は帰還抵抗Rfを介して接続されている。反転増幅器24のゲインは帰還抵抗Rfと入力抵抗Rsの比率で決まる。
【0010】
インピーダンス変換器23の出力端子と反転増幅器24の出力端子の間には抵抗R1,R2,R3,R4が直列に接続されてなるアッテネータが接続されている。抵抗R1,R2,R3,R4は実質的には分圧抵抗である。抵抗R1とR2の接続点は上記切り換えスイッチの第2接点に、抵抗R2とR3の接続点は上記切り換えスイッチの第3接点に、抵抗R3とR4の接続点は上記切り換えスイッチの第4接点に、それぞれ接続されている。分圧抵抗R1,R2,R3,R4の値は任意であるが、ここではすべて同じ抵抗値とする。上記切り換えスイッチの可動接点はバッファアンプ25の入力端子に接続され、バッファアンプ25の出力端子は平衡出力のコールド側信号として出力されるようになっている。
【0011】
いま、切り換えスイッチが図5に示すように第1接点1を選択しているものとすると、インピーダンス変換器23の出力が直接バッファアンプ25に入力される。したがって、バッファアンプ25からはマイクロホンエレメント20の非反転出力信号が最大レベルで出力され、この出力信号が平衡出力のコールド側信号として出力される。これにより、マイクロホンユニット出力としてOUT+,OUT−から平衡出力される信号の指向特性は図3において1で示すような双指向性になる。上記切り換えスイッチが第2接点2を選択すると、マイクロホンエレメント20の非反転出力信号が分圧抵抗で分圧され、この分圧信号がバッファアンプ25に入力される。バッファアンプ25からはマイクロホンエレメント20の非反転出力信号が中間のレベルで出力され、この出力信号が平衡出力のコールド側信号として出力される。これにより、マイクロホンユニット出力としてOUT+,OUT−から平衡出力される信号の指向特性は図3において2で示すようなハイパーカージオイドの指向性になる。
【0012】
上記切り換えスイッチが第3接点3を選択すると、分圧抵抗R1,R2,R3,R4の中間点すなわち抵抗R2,R3の接続点が選択されるため、反転増幅器24による反転出力も非反転出力もともにゼロとなる。よって、マイクロホンユニット出力としてOUT+,OUT−から平衡出力される信号の指向特性は図3において3で示すようなカージオイドの指向性すなわち単一指向性になる。上記切り換えスイッチが第4接点4を選択すると、反転増幅器24の反転出力が上記分圧抵抗で分圧されてバッファアンプ25に入力され、この出力信号が平衡出力のコールド側信号として出力される。これにより、マイクロホンユニット出力としてOUT+,OUT−から平衡出力される信号の指向特性は図3において4で示すようなワイドカージオイドの指向特性になる。上記切り換えスイッチが第5接点5を選択すると、反転増幅器24の反転出力レベルがそのままバッファアンプ25に入力され、この出力信号が平衡出力のコールド側信号として出力される。これにより、マイクロホンユニット出力としてOUT+,OUT−から平衡出力される信号の指向特性は図3において5で示すような無指向性になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−143595号公報
【特許文献2】特開2008−67286号公報
【特許文献3】特開2008−118260号公報
【特許文献4】特開2010−103637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
図4に示すような従来の可変指向性コンデンサマイクロホンユニットは、エレクトレットタイプではないコンデンサユニットを想定しており、したがって、エレクトレット型コンデンサマイクロホンユニットには適用できない。また、成極電圧として必要な60V程度の直流電圧が必要であるとともに、正負両極性の直流電圧源を備える必要がある。しかし、電源電池を使用するマイクロホンを想定すると、複数個の電源電池を直列にして使用する場合でも、その電圧は数ボルトであり、成極電圧としては不足する。そこで、DC−DCコンバータを組み込んで直流電圧を昇圧することになるが、DC−DCコンバータは発振周波数が例えば1MHzというような発振器を使用するため、この発信信号が音声信号に対してノイズ源になる難点がある。また、分圧抵抗がDC−DCコンバータに対する負荷となり、DC−DCコンバータの能力を高めると電源電池の消耗が激しくなる、といった難点がある。
【0015】
図5に示すような従来の可変指向性コンデンサマイクロホンユニットによれば、対をなすマイクロホンエレメントの一方の出力信号系に反転増幅器とこの反転増幅器の出力回路に分圧抵抗を接続しているため、この分圧抵抗に電流を流す必要があってこの電流が反転増幅器の負荷となる。換言すれば、この負荷を反転増幅器でドライブする必要がある。反転増幅器の負荷を軽減するためには分圧抵抗の値を高くすればよいが、分圧抵抗の値を高くすると、分圧抵抗が雑音源になり、音声信号のSN比が劣化するという問題が生じる。
【0016】
本発明は、以上述べたような従来技術の問題点を解消すること、すなわち、電気回路の切り換えによって指向性を切り換えるようにした可変指向性マイクロホンユニットおよび可変指向性マイクロホンにおいて、指向性を切り換えるための回路が負荷にならず、かつ、雑音源にもならないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、一対のマイクロホンエレメントが背中合わせに配置され、上記一対のマイクロホンエレメントの出力信号系がそれぞれ平衡出力のホット側端子とコールド側端子につながっており、上記一対のマイクロホンエレメントの片方の出力信号系に反転増幅器が接続され、上記反転増幅器の入力抵抗または帰還抵抗は分割され、上記入力抵抗または帰還抵抗の分割点を任意に選択することにより信号取り出し点を切り換える切り換え手段を有し、上記切り換え手段により上記平衡出力の片側の出力を切り換えて平衡出力信号の指向性を可変としたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
背中合わせに配置された一対のマイクロホンエレメントの一方は直接的に平衡出力の一方につながっており、平衡出力の他方の出力信号系に接続された反転増幅器の入力抵抗または帰還抵抗は分割されていて、この入力抵抗または帰還抵抗の分割点を切り換え手段で任意に選択することにより信号取り出し点を切り換えるようになっている。切り換え手段による切り換え操作で、平衡出力の他方の出力信号系における出力信号のレベルと極性が切り換えられて、平衡出力信号の指向性が切り換えられる。上記入力抵抗または帰還抵抗の分割点を選択して信号取り出し点を切り換えることによって指向性が切り換えられるため、指向性を切り換えるための回路が負荷にならず、雑音源にもならない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る可変指向性マイクロホンユニットの一実施例を示す回路図である。
【図2】本発明に係る可変指向性マイクロホンユニットの別の実施例を示す回路図である。
【図3】可変指向性マイクロホンによって切り換え可能な各種指向性の例を示すパターン図である。
【図4】従来の可変指向性マイクロホンユニットの一例を示す回路図である。
【図5】従来の可変指向性マイクロホンユニットの別の一例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る可変指向性マイクロホンユニットおよび可変指向性マイクロホンの実施例について、図1乃至図3を参照しながら説明する。なお、図5に示す従来例の構成部分と同じ構成部分には共通の符号を付している。
【実施例1】
【0021】
図1において、符号10,20はそれぞれコンデンサマイクロホンエレメントを示している。マイクロホンエレメント10は、振動板11とこれに対向する固定電極12を有し、その出力信号はFETなどを含むインピーダンス変換器13、バッファアンプ15を経て平衡出力のホット側信号OUT+として出力されるようになっている。マイクロホンエレメント20も、振動板21とこれに対向する固定電極22を有し、その出力信号はFETなどを含むインピーダンス変換器23、バッファアンプ25を経て平衡出力のコールド側信号OUT−として出力されるようになっている。2つのコンデンサマイクロホンエレメント10,20は、例えば、別個独立に組み立てられたものを、それぞれの固定電極12,22を背中合わせにして一体に組み立て、あるいは固定電極を共通にして前後に一体に組み立てられている。したがって、一対のマイクロホンエレメント10,20が背中合わせに配置されていることになる。
【0022】
マイクロホンエレメント10側は前側エレメント、エレメント20は後側エレメントになっていて、マイクロホンエレメント20には、インピーダンス変換器23とバッファアンプ25の間に、以下のような反転増幅器24を含む指向性切り換え回路が組み込まれている。反転増幅器24の反転入力端子にはインピーダンス変換器23の出力信号が入力抵抗を介して入力されるが、上記入力抵抗は直列接続された二つの入力抵抗Rs1,Rs2からなる。反転増幅器24の非反転入力端子は接地されている。反転増幅器24の出力端子と反転入力端子の間には帰還抵抗が接続されているが、この帰還抵抗は直列接続された二つの帰還抵抗Rf1,Rf2からなる。反転増幅器24のゲインは帰還抵抗と入力抵抗の比率で決まる。上記のように入力抵抗を二つの抵抗Rs1,Rs2で分割し、帰還抵抗を二つの抵抗Rf1,Rf2で分割し、これらの分割点及び非分割点を切り換えスイッチ30で切り換えることにより、平衡出力の片側の出力を切り換えて平衡出力信号の指向性を可変としている。上記二つの入力抵抗Rs1,Rs2と二つの帰還抵抗Rf1,Rf2の値はすべて同一であるとして説明するが、設計思想に応じて異なった値に設定しても差し支えない。
【0023】
切り換えスイッチ30は5個の切り換え接点(固定接点)を有していて、可動接点はバッファアンプ25の入力端子に接続されている。切り換えスイッチ30の第1の切り換え接点「1」はインピーダンス変換器23の出力端子に接続されている。切り換えスイッチ30の第2の切り換え接点「2」は上記入力抵抗Rs1,Rs2の接続点に接続されている。切り換えスイッチ30の第3の切り換え接点「3」は反転増幅器24の反転入力端子に接続されている。切り換えスイッチ30の第4の切り換え接点「4」は上記帰還抵抗Rf1,Rf2の接続点に接続されている。切り換えスイッチ30の第5の切り換え接点「5」は反転増幅器24の出力端子に接続されている。
【0024】
上記のように構成されている実施例の動作を以下に説明する。図1に示すように、切り換えスイッチ30が接点「1」を選択しているときは、インピーダンス変換器23の出力が直接バッファアンプ25に入力される。したがって、後側のマイクロホンエレメント20の出力が、反転増幅器24を経ることなくインピーダンス変換器23から直接バッファアンプ25に入力され、平衡出力のコールド側信号として出力される。このコールド側信号は、ホット側信号と極性及び指向特性が同じで、平衡出力の受け側で図3の「1」において破線で示すマイナス極性になる。よって、平衡出力の受け側では、一方のマイクロホンエレメント10側(ホット側)から出力されるカージオイドの指向特性と、他方のマイクロホンエレメント20側(コールド側)から出力される逆極性のカージオイド指向特性とを合わせて、双指向性の出力となる。
【0025】
切り換えスイッチ30によって接点「2」を選択すると、反転増幅器24の入力抵抗Rs1,Rs2の接続点、すなわち入力抵抗の分割点を選択して信号を取り出すことになり、この信号がバッファアンプ25を介して平衡出力のコールド側信号として出力される。この平衡出力のコールド側信号は、図3の「2」において破線で示すような低レベルのカージオイド指向性を持ったプラス極性の信号である。平衡出力の受け側では、上記コールド側信号の極性をマイナスに反転する。よって、平衡出力の受け側では、一方のマイクロホンエレメント10側(ホット側)から出力されるカージオイド指向特性の信号と、上記コールド側信号を合わせてハイパーカージオイド指向特性になる。
【0026】
切り換えスイッチ30によって接点「3」を選択すると、反転増幅器24の反転入力端子を選択することになり、バッファアンプ25への入力信号レベルはゼロとなる。その結果、平衡出力のコールド側信号は、図3の「3」で示すように、一方のマイクロホンエレメント10側から出力されるカージオイド指向特性をもった信号のみが平衡出力される。
【0027】
切り換えスイッチ30によって接点「4」を選択すると、反転増幅器24の帰還抵抗Rf1,Rf2の接続点、すなわち帰還抵抗の分割点を選択して信号を取り出すことになり、この信号がバッファアンプ25を介して平衡出力のコールド側信号として出力される。この平衡出力のコールド側信号は、図3の「4」において破線で示すような低レベルのカージオイド指向性を持ったマイナス極性の信号である。平衡出力の受け側では、上記コールド側信号の極性をプラスに反転する。よって、平衡出力の受け側では、一方のマイクロホンエレメント10側(ホット側)から出力されるカージオイド指向特性の信号と、上記コールド側信号を合わせてワイドカージオイド指向特性になる。
【0028】
切り換えスイッチ30によって接点「5」を選択すると、反転増幅器24の出力端子からの出力信号がそのままバッファアンプ25に入力される。反転増幅器24のゲインは入力抵抗Rs1,Rs2を合成した値と帰還抵抗Rf1,Rf2を合成した値で決まる。その出力信号は、図3の「5」において破線で示すようなカージオイド指向特性をもったフルレベルのかつマイナス極性の信号になる。この信号がバッファアンプ25を経て平衡出力のコールド側信号となり、平衡出力の受け側では、上記コールド側信号の極性をプラスに反転する。よって、平衡出力の受け側では、一方のマイクロホンエレメント10側から出力されるカージオイド指向特性をもった平衡出力のホット側出力と合わせて無指向性の指向特性となる。
【0029】
このように、図1に示す実施例は、平衡出力の一方側の出力信号系に、入力抵抗と帰還抵抗を分割した反転増幅器24と、この反転増幅器24の上記入力抵抗と帰還抵抗の分割点を任意に選択して信号取り出し点を切り換える切り換え手段30を設けることによって、平衡出力信号の指向性を可変としている。上記入力抵抗と帰還抵抗は反転増幅器24の負荷となるものではないから、電源の消耗を抑制することができ、切り換えによって反転増幅器24の上記入力抵抗と帰還抵抗の値が変動するものでもないから、反転増幅器24のゲインが変動するものでない。また、上記入力抵抗と帰還抵抗を高抵抗にする必要もないから、抵抗から発する雑音を低減することができる。コンデンサマイクロホンの成極電圧を切り換えることによって指向性を切り換えるものではないから、エレクトレット型コンデンサマイクロホンにも適用可能である。直流電源電圧を昇圧する必要もないから、DC−DCコンバータの類を内蔵する必要もない。
【0030】
図1に示す実施例では、反転増幅器24の入力抵抗と帰還抵抗の両方とも分割し、入力抵抗と帰還抵抗の分割点の全体の中から1点を選択して指向性を切り換えるようになっていたが、入力抵抗のみを分割してこれらの分割点の1点を選択するようにしても良いし、帰還抵抗ののみを分割してこれらの分割点の1点を選択するようにしても良い。しかしながら、入力抵抗のみあるいは帰還抵抗のみを分割し、分割点を選択するようにした場合、指向性の切り換え範囲が制限されるので、指向性の切り換えの範囲をより広くするのであれば、入力抵抗と帰還抵抗の両方とも分割して、分割点の1点を選択するようにすることが望ましい。
【実施例2】
【0031】
第2の実施例を図2に示す。この実施例は、指向性の切り換え手段としてセンタータップ付き可変抵抗器31を用いたことが前記第1の実施例と異なる。可変抵抗器31のセンタータップは反転増幅器24の反転入力端子に接続され、可変抵抗器31のセンタータップより一方側が反転増幅器24の入力抵抗Rs、センタータップより他方側が反転増幅器24の帰還抵抗Rfとなっている。可変抵抗器31のスライダはバッファアンプ25の入力端子に接続され、上記スライダに現れる信号が平衡出力の一方側、すなわち図2の例でコールド側信号として出力されるようになっている。可変抵抗器31は、ユーザーが任意に操作することができるものであってもよいし、一旦指向性を調整した後はその調整位置を半固定的に保つようにした半固定抵抗であってもよい。その他の構成は図1に示す実施例の構成と同じであるから、説明は省略する。
【0032】
いま、図2に示すように、センタータップ付き可変抵抗器31のスライダがセンタータップと同じ位置にあるものとすると、実質的には図1に示す実施例において切り換え手段30が接点「3」を選択したのと同じになるから、平衡出力される信号の指向特性は、図3の「3」に示すカージオイドになる。
【0033】
可変抵抗器31のスライダを入力抵抗Rs側に向かってスライドさせると、入力抵抗Rsが分割されたのと実質的に同一となり、図1の実施例において切り換えスイッチで接点「2」を選択し、この分割点を選択して信号を取り出し、この信号を、バッファアンプ25を介して平衡出力のコールド側信号として出力するのと同じになる。この平衡出力のコールド側信号は、図3の「2」において破線で示すような低レベルのカージオイド指向性を持ったプラス極性の信号である。平衡出力の受け側では、上記コールド側信号の極性をマイナスに反転する。よって、平衡出力の受け側では、一方のマイクロホンエレメント10側(ホット側)から出力されるカージオイド指向特性の信号と、上記コールド側信号を合わせてハイパーカージオイド指向特性になる。
【0034】
上記スライダが入力抵抗Rsの始端に至ると平衡出力される信号の指向特性は、図3の「1」に示す双指向性となる。反転増幅器24の入力抵抗Rsと帰還抵抗Rfは変動しないので、反転増幅器24のゲインは一定である。
【0035】
可変抵抗器31のスライダを上記センター位置から帰還抵抗Rf側に向かってスライドさせると、反転増幅器24の帰還抵抗Rf分割点を選択して信号を取り出すことと実質同一になり、この信号がバッファアンプ25を介して平衡出力のコールド側信号として出力される。この平衡出力のコールド側信号は、図3の「4」において破線で示すような低レベルのカージオイド指向性を持ったマイナス極性の信号である。平衡出力の受け側では、上記コールド側信号の極性をプラスに反転する。よって、平衡出力の受け側では、一方のマイクロホンエレメント10側(ホット側)から出力されるカージオイド指向特性の信号と、上記コールド側信号を合わせてワイドカージオイド指向特性になる。
【0036】
上記スライダが入力抵抗Rsの終端に至ると平衡出力される信号の指向特性は、図3の「5」に示す無指向性となる。
【0037】
図2に示す実施例によれば、前に述べた図1に示す実施例と同様の効果を奏するとともに、指向性の切り換え手段としてセンタータップ付き可変抵抗器31を用いているので、構成が簡単であり、指向性を無段階で連続的に切り換えることができる。
【0038】
以上説明した本発明に係る可変指向性マイクロホンユニットは、これをマイクロホンケースに組み込み、マイクロホンケースにはさらに平衡出力するためのマイクロホンコネクタを組み込むことによって、可変指向性マイクロホンを構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る可変指向性マイクロホンユニットおよび可変指向性マイクロホンは、スタジオなどの屋内はもちろん、屋外でも使用可能であり、使用場所、使用目的、その他各種条件に応じて最適の指向性をもつように調整することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 マイクロホンエレメント
11 振動板
13 インピーダンス変換器
15 バッファアンプ
20 マイクロホンエレメント
22 振動板
23 インピーダンス変換器
24 反転増幅器
25 バッファアンプ
30 切り換え手段
31 切り換え手段としての可変抵抗器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のマイクロホンエレメントが背中合わせに配置され、
上記一対のマイクロホンエレメントの出力信号系がそれぞれ平衡出力のホット側端子とコールド側端子につながっており、
上記一対のマイクロホンエレメントの片方の出力信号系に反転増幅器が接続され、
上記反転増幅器の入力抵抗または帰還抵抗は分割され、
上記入力抵抗または帰還抵抗の分割点を任意に選択することにより信号取り出し点を切り換える切り換え手段を有し、
上記切り換え手段により上記平衡出力の片側の出力を切り換えて平衡出力信号の指向性を可変とした可変指向性マイクロホンユニット。
【請求項2】
反転増幅器の入力抵抗が分割され、切り換え手段は上記入力抵抗の分割点を任意に選択する請求項1記載の可変指向性マイクロホンユニット。
【請求項3】
反転増幅器の帰還抵抗が分割され、切り換え手段は上記帰還抵抗の分割点を任意に選択する請求項1記載の可変指向性マイクロホンユニット。
【請求項4】
切り換え手段は、反転増幅器をバイパスさせて双指向性を選択可能な請求項1記載の可変指向性マイクロホンユニット。
【請求項5】
切り換え手段は、反転増幅器のフルレベルの信号を出力して無指向性を選択可能な請求項1記載の可変指向性マイクロホンユニット。
【請求項6】
切り換え手段は、センタータップ付き可変抵抗器からなり、この可変抵抗器のセンタータップより一方側が反転増幅器の入力抵抗、センタータップより他方側が反転増幅器の帰還抵抗であり、上記可変抵抗器のスライダが平衡出力の一方側の出力信号となっている請求項1記載の可変指向性マイクロホンユニット。
【請求項7】
平衡出力のホット側とコールド側は、ともにバッファアンプを経て出力端子につながっている請求項1記載の可変指向性マイクロホンユニット。
【請求項8】
一対のマイクロホンエレメントはともにコンデンサ型マイクロホンエレメントであり、上記一対のマイクロホンエレメントの出力信号系にはそれぞれインピーダンス変換器とバッファアンプがこの順に接続され、片方の出力信号系のインピーダンス変換器とバッファアンプの間に、反転増幅器と切り換え手段が挿入されている請求項1乃至8のいずれかに記載の指向性マイクロホンユニット。
【請求項9】
マイクロホンユニットがマイクロホンケースに組み込まれてなるマイクロホンであって、上記マイクロホンユニットは請求項1乃至8のいずれかに記載されている可変指向性マイクロホンユニットである可変指向性マイクロホン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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