説明

可変減衰力ダンパ

【課題】シリンダのオイルシールに対する磁性粒子の噛み込みを防止できるようにするとともに、磁性流体の充填量を少なくできるようにして、製品の耐久性の向上と、コスト低減および軽量化を図ることのできる可変減衰力ダンパを提供する。
【解決手段】液体を充填したシリンダ2にピストン5を摺動自在に収容して、シリンダ2の内部を二つの液室7,8に隔成する。ピストン5に液体の流通する減衰通路9を設け、減衰通路9の途中に抵抗制御ユニット13を設ける。抵抗制御ユニット13は、磁性流体を充填した流体循環通路16と、磁性流体に磁界を作用させる電磁コイル27と、減衰通路9を通過する液体の流動エネルギーを回転力に変換する回転ファン21と、回転ファン21と連動して流体循環通路16内の磁性流体を流動させる回転翼17を備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用サスペンション等に用いられ、液体の流通抵抗を利用して減衰力を得るダンパに関し、とりわけ、発生減衰力を任意に調整することのできる可変減衰力ダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のサスペンションに用いられる一般的なダンパは液体が充填されたシリンダの内部にピストンが摺動自在に収容され、ピストンによって隔成された液室間が減衰通路によって連通している。そして、ピストンとシリンダが相対作動すると、減衰通路内を液体が流通し、その際に減衰力を発生する。
【0003】
また、この種のダンパとして、シリンダ内に磁性流体を充填し、磁性流体の粘性を制御することによって発生減衰力を可変制御するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この可変減衰力ダンパは、具体的には、例えば、ピストンの減衰通路の近傍に、磁性流体の粘性を制御するための電磁コイルが設けられ、この電磁コイルの発生磁界を制御することによって減衰通路を通過する磁性流体の粘性を調整するようになっている。
【特許文献1】特公昭62−18775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この従来の可変減衰力ダンパは、鉄粉等の磁性粒子を含む磁性流体がシリンダ内に充填されているため、シリンダとピストンロッドの間の液漏れを防止するオイルシールに磁性粒子が入り込み、このオイルシールに磨耗が生じ易くなることが懸念されている。
【0005】
また、磁性流体は、一般的なダンパ液に比較して高価であるうえ、比重も重いため、前記従来の可変減衰力ダンパにおいては、製品コストの高騰と重量増加が解決すべき課題の一つとなっている。
【0006】
そこでこの発明は、シリンダのオイルシールに対する磁性粒子の噛み込みを防止できるようにするとともに、磁性流体の充填量を少なくできるようにして、製品の耐久性の向上と、コスト低減および軽量化を図ることのできる可変減衰力ダンパを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決する請求項1に記載の発明は、内部に液体を充填したシリンダ(例えば、後述の実施形態におけるシリンダ2)と、このシリンダに摺動自在に収容されてシリンダ内を2つの液室(例えば、後述の実施形態における伸び側液室7および縮み側液室8)に隔成するピストン(例えば、後述の実施形態におけるピストン5)と、前記2つの液室間を連通し、前記シリンダとピストンの相対作動に応じて流通する液体に抵抗を付与する減衰通路(例えば、後述の実施形態における減衰通路9)と、この減衰通路で液体に付与する抵抗を可変制御する抵抗制御手段(例えば、後述の実施形態における抵抗制御ユニット13)と、を有する可変減衰力ダンパ(例えば、後述の実施形態における可変減衰力ダンパ1)において、前記抵抗制御手段を、前記減衰通路を通過する液体の流動エネルギーを受けて作動する液圧アクチュエータ(例えば、後述の実施形態における回転ファン21)と、磁性流体を充填した流体充填室(例えば、後述の実施形態における流体循環通路16)と、前記液圧アクチュエータと連動作動して前記流体充填室内で駆動する抵抗発生手段(例えば、後述の実施形態における回転翼17)と、前記流体充填室内の磁性流体の粘性を制御する電磁コイル(例えば、後述の実施形態における電磁コイル27)と、を備えた構成としたことを特徴とする。
これにより、シリンダとピストンが相対作動して減衰通路内を液体が流通すると、その液体の流動エネルギーを受けて液圧アクチュエータが作動し、その液圧アクチュエータに連動する抵抗発生手段が流体充填室内で駆動される。このとき、抵抗発生手段は流体充填室内の磁性流体によって作動抵抗を受けるが、この作動抵抗は磁性流体の粘性によって制御される。したがって、電磁コイルによって磁性流体の粘性を制御することにより、抵抗発生手段の作動抵抗が調整され、その結果、減衰通路を流通する液体に与える液圧アクチュエータの作動抵抗が調整される。また、電磁コイルによる粘性の制御は流体充填室内の磁性流体にのみ行えば良いため、シリンダ内の液室には磁性流体を含まない通常のダンパ液が充填される。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の可変減衰力ダンパおいて、前記抵抗発生手段を、前記流体充填室内で回転する回転翼によって構成したことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の可変減衰力ダンパおいて、前記液圧アクチュエータを、前記減衰通路内に臨み、その減衰通路内を通過する液体の流速に応じて回転する回転ファン(例えば、後述の実施形態における回転ファン21)によって構成したことを特徴とする。
これにより、シリンダとピストンの相対作動に伴って減衰通路内を液体が流通すると、回転ファンが減衰通路内を流通する液体の流速に応じて回転し、その回転ファンの回転力によって流体充填室内の抵抗発生手段が駆動されるようになる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の可変減衰力ダンパにおいて、前記液圧アクチュエータを液密型の油圧モータ(例えば、後述の実施形態における油圧モータ42)によって構成し、この油圧モータを前記減衰通路内に直列に介装したことを特徴とする。
これにより、シリンダとピストンの相対作動に伴って減衰通路内を液体が流通すると、減衰通路内を流通する液体の液圧エネルギーによって油圧モータが作動し、その油圧モータの回転力によって流体充填室内の抵抗発生手段が駆動されるようになる。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の可変減衰力ダンパにおいて、前記流体充填室内に磁性流体の流動する流体循環通路(例えば、後述の実施形態における流体循環通路16)を設け、この流体循環通路の一部に前記電磁コイルを近接して配置したことを特徴とする。
これにより、減衰通路内を流体が流通して液圧アクチュエータが作動すると、その液圧アクチュエータに連動して抵抗発生手段が駆動され、流体循環通路内を磁性流体が流動するようになる。こうして、流体循環通路内を磁性流体が流動すると、電磁コイルに近接した位置を通過する磁性流体の粘性が電磁コイルによって影響を受け、流体循環通路内の流通抵抗が電磁コイルによって制御されるようになる。この結果、抵抗発生手段の作動抵抗が電磁コイルによって制御される。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、減衰通路を通過する流体の流動エネルギーを、液圧アクチュエータを介して流体充填室内の抵抗発生手段の駆動に変換し、流体充填室内の磁性流体の粘性を電磁コイルによって制御することができるため、シリンダ内の液室に磁性流体を含まない通常のダンパ液を充填して、シリンダのオイルシールに対する磁性粒子の噛み込みを確実に防止することができるとともに、磁性流体の充填量を大幅に減少させることができる。したがって、この発明によれば、オイルシールに対する磁性流体の噛み込みを無くすことによってダンパの耐久性の向上を図ることができるとともに、使用する磁性流体を減らすことによってダンパの製造コストの低減と全体の軽量化を図ることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、抵抗発生手段を回転翼によって構成したため、抵抗発生手段の構造の簡素化によって製造コストの低減を図ることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、減衰通路内を流通する液体の流速に応じて回転する回転ファンの回転力によって抵抗発生手段を駆動するため、構造の簡素化によって製造コストの低減を図ることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、減衰通路内を流通する液体の液圧エネルギーを、液密型の油圧モータを介して抵抗発生手段の作動にほぼ可逆的に変換することができるため、シリンダとピストンの相対作動速度が遅い場合にも、電磁コイルによる効果的な減衰力制御を行うことができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、液圧アクチュエータに連動する抵抗発生手段によって流体循環通路に磁性流体の流動を生じさせ、電磁コイルによる粘性制御の影響を、流体循環通路を介して抵抗発生手段に作用させることができるため、電磁コイルの大型化や消費電力の増大を招くことなく、電磁コイルによる効率的な減衰力制御を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。最初に、図1〜図4に示す第1の実施形態について説明する。
図1は、この発明にかかる可変減衰力ダンパ1の縦断面図を示すものである。この可変減衰力ダンパ1は、車両のサスペンションに用いられる所謂シングルチューブ式のダンパであり、シリンダ2の内部に液体L(磁性流体を含まない一般的なダンパ液)が充填されるとともに、ピストンロッド4に連結されたピストン5がシリンダ2内に摺動自在に収容されている。
【0018】
ピストンロッド4は、有底円筒状のシリンダ2の端部にロッドガイド6を介して摺動自在に支持され、ピストン5は、シリンダ2の内部を伸び側液室7と縮み側液室8とに隔成している。ピストン5には、シリンダ2内の伸び側液室7と縮み側液室8を連通する減衰通路9が設けられ、シリンダ2とピストン5が相対移動する際に液体L1がこの減衰通路9を通過するようになっている。この可変減衰力ダンパ1においては、シリンダ2とピストンロッド4間に加わる振動や衝撃を、減衰通路9を通過する液体L1の流通抵抗によって減衰する。なお、図中30は、ロッドガイド6のシリンダ2の内側の内周縁部に設けられたオイルシールであり、31は、ロッドガイド6のシリンダ2の外側の内周縁部に設けられたダストシールである。
【0019】
また、シリンダ2の底部側にはフリーピストン10が摺動自在に収容され、シリンダ2の内部を液室(縮み側液室8および伸び側液室7)とガス室11とに隔成している。フリーピストン10は、シリンダ2に対するピストンロッド4の進退部容積の増減に応じてシリンダ2内を移動し、それによってピストンロッド4の自由な進退変位を許容する。
【0020】
ピストン5は、図2〜図4にも示すように、シリンダ2に摺動自在に嵌合される略円柱状ピストン本体12と、このピストン本体12に取付けられて、減衰通路9を流通する液体L1に付与する抵抗を可変制御する抵抗制御ユニット13(抵抗制御手段)を備えており、ピストンロッド6の端部は抵抗制御ユニット13を介してピストン本体12に連結されている。
【0021】
ピストン本体12は、縮み側液室8に臨む端面に抵抗制御ユニット13を取り付けるための凹部14が形成されるとともに、この凹部14の外周縁部に、ピストン本体12を軸方向に貫通して伸び側液室7と縮み側液室8を連通する前記減衰通路9が形成されている。この減衰通路9は、ピストン本体12の軸方向の略中間部付近に、ピストン本体12の外周面と同軸の円環状の領域が設けられている。
【0022】
抵抗制御ユニット13は、ピストン本体12よりも小径の略円柱状のユニットケース15を備え、そのユニットケース15の内部に磁性流体L2の充填される後述する流体循環通路16(流体充填室)が形成されるとともに、軸芯部に流体循環通路16を横切る回転翼17(抵抗発生手段)が回転可能に設置されている。回転翼17は、一端が軸受18Aを介してユニットケース15内に支持され他端がユニットケース15の壁を貫通する回転軸19に支持されており、この回転軸19の回転によって外周に突設された複数の羽根部20を回転させ、それによって流体循環通路16内の磁性流体L2を流動させるようになっている。なお、ユニットケース15の壁と、その壁を貫通する回転軸19の間には図示しないオイルシールが介在されている。また、図2中30は、回転軸19とユニットケース15の軸受18A側の壁の間に介装されたオイルシールである。
【0023】
また、抵抗制御ユニット13は、減衰通路9内を流通する液体Lの流動エネルギーを受けて回転する回転ファン21(液圧アクチュエータ)を備え、この回転ファン21がユニットケース15の端部の壁を貫通した前記回転軸19に一体回転可能に軸支されている。したがって、ユニットケース15内の回転翼17は回転ファン21と一体に回転する。回転ファン21は、ユニットケース15とほぼ同外径の短軸円柱状の胴部22と、この胴部22の外周面に突設されて減衰通路9(ピストン本体12の軸方向の略中央付近の円環状の領域)に臨む複数のフィン23を備えている。この複数のフィン23はピストン本体12の軸線に対して斜めに傾斜するようにして胴部22に設置されている。また、回転ファン21から突出した回転軸19の端部は軸受18Bを介してピストン本体12に支持されている。
【0024】
ところで、回転翼17はユニットケース15に設けられた円形の収容室24内に収容され、収容室24の円周方向に離間した2位置には、前記流体循環通路16の一部を成す2つの給排ポート25a,25bが設けられている。
【0025】
ここで、流体循環通路16について説明すると、同通路16は、図2〜図4に示すように、ユニットケース15内に軸方向に沿って円筒状に延出する環状通路26aと、この環状通路26aのピストンロッド4側の端部から径方向内側に延出する端部通路26bと、この端部通路26bの径方向内側の端部の近傍からユニットケース15の軸方向に折り返して延出する直線通路26cと、この直線通路26cの回転ファン21側の端部に接続される前記一方の給排ポート25aと、この一方の給排ポート25aが臨む回転翼17の収容室24および前記他方の給排ポート25bと、この他方の給排ポート25bと前記環状通路26aの回転ファン21側の端部を接続する複数の分岐通路26dと、から構成されている。
【0026】
そして、ユニットケース15内の環状通路26aの内壁には、この環状通路26a内を通過する磁性流体Lに磁界を作用させて粘性を制御する電磁コイル27が設置されている。この電磁コイル27の通電ケーブル28はピストンロッド4の軸芯部に沿って外部に引き出され、電磁コイル27が外部の図示しないコントローラによって通電制御されるようになっている。
【0027】
以上の構成において、この可変減衰力ダンパ1に振動や衝撃の入力があり、ピストンロッド4とシリンダ2が軸方向に相対作動すると、減衰通路9を通して伸び側液室7と縮み側液室8の間で液体Lの流通が生じる。そして、液体Lが減衰通路9を通過する際には、その液体Lが減衰通路9内の回転ファン21に当たり、液体Lの流速に応じた力で回転ファン21を回転させる。こうして回転ファン21が回転すると、抵抗制御ユニット13内の回転翼17が連動して回転し、流体循環通路16内の磁性流体Lを流動させる。このとき、流体循環通路16の環状通路26a部分を流動する磁性流体Lが電磁コイル27の発生磁界によって粘性を制御され、その結果、回転翼17が回転抵抗を受ける。この回転抵抗は、回転ファン21を通して減衰通路9内を通過する液体Lに流通抵抗として作用することになる。
【0028】
この可変減衰力ダンパ1は、以上説明したように、減衰通路9を通過する液体Lの流動エネルギーを、回転ファン21を介して抵抗制御ユニット13内の回転翼17の回転に変換し、この回転翼17の作動によって流体循環通路16内を流動する磁性流体Lの粘性を電磁コイル27によって制御するようになっているため、容積の大きいシリンダ2内の液室7,8に充填する液体Lとして磁性粒子を含まない通常のダンパ液を用いたまま、電磁コイル27によって発生減衰力を任意に制御することができる。
【0029】
したがって、この可変減衰力ダンパ1を用いた場合には、シリンダ2とピストンロッド4の間を封止するオイルシール30に磁性流体Lの磁性粒子が噛み込む心配がなく、オイルシール30の耐久性を確実に向上させることができ、しかも、コストが高く比重の重い磁性流体Lの使用量を大幅に削減できることから、製品コストの削減と軽量化も図ることができる。
【0030】
また、この可変減衰力ダンパ1においては、減衰通路9を通過する液体Lの流動エネルギーを回転翼の回転に変換する液圧アクチュエータとして構造の簡単な回転ファン21を用いるようにしているため、製造コストのより一層の削減を図ることができる。特に、この実施形態では、回転ファン21のフィン23が軸線方向に対して斜めに傾斜していることから、万が一回転ファン21が停止した場合にあっても、減衰通路9内の液体の流通を補償することができる。
【0031】
また、この実施形態の可変減衰力ダンパ1においては、回転ファン21と一体回転する回転翼17によって流体循環通路16内の磁性流体Lを流動させ、磁性流体Lが流体循環通路16内の電磁コイル27の近傍を通過する際に、磁性流体Lが電磁コイル27の磁界の影響を大きく受けて粘性抵抗を変化させるため、電磁コイル27の大型化や消費電力の増大を招くことなく、電磁コイル27による効率的な減衰力制御を行うことができる。
【0032】
次に、図5,図6に示すこの発明の第2の実施形態について説明する。この実施形態の可変減衰力ダンパ101は、ピストン105の構成のみが第1の実施形態と異なり、他の部分は第1の実施形態と同様となっている。したがって、以下ではピストン105についてのみ説明し、他の部分については説明を省略するものとする。なお、第1の実施形態と共通部分については、図1〜図4を適宜参照するものとする。
【0033】
この可変減衰力ダンパ101のピストン105は、ピストン本体112の軸方向の一端側に第1の実施形態の抵抗制御ユニットと同様のユニットケース15が組み付けられるとともに、ピストン本体112の軸方向の他端側に円形状のポンプ収容穴40が形成され、このポンプ収容穴40側の端面が円板状のピストンカバー41によって封止されている。ユニットケース15の内部の構造は第1の実施形態と同様とされ、回転翼17(図2参照)の回転によって流体循環通路16(図2参照)内の磁性流体Lに流動を生じさせるようになっている。
【0034】
回転翼17(図2参照)を軸支する回転軸17は、ユニットケース15とピストン本体112の軸心部を貫通してポンプ収容穴40内に突出している。一方、ポンプ収容穴40はピストン本体112の軸心に対して偏心して設けられ、このポンプ収容穴40内に、ベーン式の油圧モータ42を構成するベーンロータ43が収容されている。ベーンロータ43の外周には複数のベーンスロット44が放射状に設けられ、この各ベーンスロット44にスプリング45によって径方向外側にばね付勢されたベーン46が進退自在に収容されている。各ベーン46の先端部は円形状のポンプ収容穴40の内周面に摺動自在に接触し、ポンプ収容穴40の外周壁の離間した2位置には2つの給排ポート47a,47bが設けられている。
【0035】
ピストンカバー41には、油圧モータ42の一方の給排ポート47aと伸び側作動室7(図1参照)を連通する第1連通孔48が形成され、ピストン本体112には、油圧モータ42の他方の給排ポート47bと縮み側作動室8(図1参照)を連通する第2連通孔49が形成されている。この第1,第2連通孔48,49は、2つの給排ポート47a,47bとポンプ収容穴40とともに、液室7,8(図1参照)間の液体の流通を許容する減衰通路109を構成している。即ち、この実施形態においては、減衰通路109の途中に密閉型の油圧モータ42が直列に介装された形となっている。
【0036】
この可変減衰力ダンパ101は、ピストン105が以上のように構成されているため、振動や衝撃の入力によってピストン105とシリンダが相対作動すると、第1,第2連通孔48,49のうちの一方から流入した液体が油圧モータ42を回転させ、その流入した全量が他方に排出される。具体的には、一方の連通孔48または49に流入した液体は、隣接するベーン46,46間の作動室の容積を拡大しつつベーンロータ43を一方に回転させ、そのベーンロータ43のさらなる回転によって他方の連通孔49または48に排出される。
【0037】
こうして油圧モータ42が回転すると、第1の実施形態と同様にユニットケース15内の回転翼17(図2参照)が回転して流体循環通路16(図2参照)内の磁性流体Lを流動させ、油圧モータ42が電磁コイル27(図2参照)による磁界制御に応じた回転抵抗を受けるようになる。そして、油圧モータ42の回転抵抗は減衰通路109内の液体の作動抵抗となり、この可変減衰力ダンパ101による発生減衰力は、電磁コイル27(図2参照)の制御に応じて任意に制御されることになる。
【0038】
この実施形態の可変減衰力ダンパ101は、第1の実施形態とほぼ同様の効果を得ることできるうえ、ピストン105の減衰通路109を流通する液体のほぼ全量が油圧モータ42の作動に寄与するようになることから、ピストン105とシリンダの相対作動速度が遅い場合でも油圧モータ42が作動し、発生減衰力に電磁コイル27の制御を確実に反映させることができる。
【0039】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の実施形態は、所謂シングルチューブ式の可変減衰力ダンパであるが、液室を形成するシリンダが二重に配置された所謂ツインチューブ式の可変減衰力ダンパにも適用することが可能である。この場合には、減衰通路や抵抗制御ユニットはベースバルブに設けるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明の第1の実施形態の可変減衰力ダンパの縦断面図。
【図2】同実施形態のピストンの部分断面斜視図。
【図3】同実施形態の図2のA−A断面に対応する断面図。
【図4】同実施形態の図2のB−B断面に対応する断面図。
【図5】この発明の第2の実施形態のピストンの部分断面斜視図。
【図6】同実施形態のピストンのカバーを取り去った平面図。
【符号の説明】
【0041】
1,101…可変減衰力ダンパ
2…シリンダ
5,105…ピストン
7…伸び側液室(液室)
8…縮み側液室(液室)
9,109…減衰通路
13…抵抗制御ユニット(抵抗制御手段)
16…流体循環通路(流体充填室)
17…回転翼(抵抗発生手段)
21…回転ファン(液圧アクチュエータ)
27…電磁コイル
42…油圧モータ
…液体
…磁性流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体を充填したシリンダと、
このシリンダに摺動自在に収容されてシリンダ内を2つの液室に隔成するピストンと、
前記2つの液室間を連通し、前記シリンダとピストンの相対作動に応じて流通する液体に抵抗を付与する減衰通路と、
この減衰通路で液体に付与する抵抗を可変制御する抵抗制御手段と、
を有する可変減衰力ダンパにおいて、
前記抵抗制御手段を、
前記減衰通路を通過する液体の流動エネルギーを受けて作動する液圧アクチュエータと、
磁性流体を充填した流体充填室と、
前記液圧アクチュエータと連動作動して前記流体充填室内で駆動する抵抗発生手段と、
前記流体充填室内の磁性流体の粘性を制御する電磁コイルと、
を備えた構成としたことを特徴とする可変減衰力ダンパ。
【請求項2】
前記抵抗発生手段を、前記流体充填室内で回転する回転翼によって構成したことを特徴とする請求項1に記載の可変減衰力ダンパ。
【請求項3】
前記液圧アクチュエータを、前記減衰通路内に臨み、その減衰通路内を通過する液体の流速に応じて回転する回転ファンによって構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の可変減衰力ダンパ。
【請求項4】
前記液圧アクチュエータを液密型の油圧モータによって構成し、この油圧モータを前記減衰通路内に直列に介装したことを特徴とする請求項1または2に記載の可変減衰力ダンパ。
【請求項5】
前記流体充填室内に磁性流体の流動する流体循環通路を設け、
この流体循環通路の一部に前記電磁コイルを近接して配置したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の可変減衰力ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−121759(P2008−121759A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305185(P2006−305185)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】