説明

可変絞り装置

【課題】可変絞り装置において、外部駆動装置を要せずに、流れの方向あるいは流量等を可変とすることである。
【解決手段】可変絞り装置10は、筐体20と、スリーブ40と、揺動スプール50とを備え、筐体20には、第1気体圧PAを有する気体が供給または排出される第1接続口28と、第2気体圧PBを有する気体が供給または排出される第2接続口30とが設けられる。揺動スプール50の左右両端に第1気体圧PAと第2気体圧PBとが与えられて、その気体圧の差である軸方向差圧によって揺動スプール50が揺動駆動力を受け、これによって、スリーブ40との相対位置が変化し、気体の流れ方向が変更され、軸方向差圧に応じて流路面積が変化する。この他に、スリーブ40に対する相対的振動の変位によって左側復元バネ60と右側復元バネ62から揺動駆動力を受けるものとすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変絞り装置に係り、特にスプール・スリーブ機構を用いて気体の流れの方向または流量を可変とする可変絞り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの流体装置の間に絞り弁を設けて、2つの流体装置の間の流体圧等の相対的な変動を吸収することが行われる。例えば、特許文献1には、車体傾斜装置として、車体と台車との間に油圧シリンダを設け、油圧シリンダの両端部にそれぞれ導入弁を設けるとともに、油圧シリンダに並列に流通弁を介して絞り弁を設ける構成が述べられている。この絞り弁は流路面積が固定された固定絞り弁である。この構成において導入弁を開き、流通弁を閉じて油圧シリンダを油圧ポンプ等で作動制御することで、制御付振子方式として車体の傾斜を制御できる。また、車体が自然振子状態となったときは、導入弁を閉じて油圧ポンプ等の作動を停止し、流通弁を開くことで絞り弁によって車体の振動を減衰させることができる。ここでは、車体と台車との間の相対的振動によって油圧シリンダの両側の油圧室の油圧が変動することを固定絞り弁で吸収している。
【0003】
特許文献2では、特許文献1を発展させ、固定絞り弁を流れる作動油の流量を外部から制御可能とし、油圧シリンダへの作動油の供給量と絞り弁への作動油の供給量とを協調制御することが述べられている。ここでは、絞り弁の開口面積は同じであるが、流量を制御することで可変絞り弁の機能を持たせている。
【0004】
また、特許文献3には、中央ランドとその両側にステムを介して配置される左右ランドとの3つのランド部を有するスプールと、スプールを軸方向に移動可能に支持するスリーブとを含むスプール・スリーブ機構において、スプールの一端に固定され、入力電流に応じてスプールに直進駆動力を与える可動線輪を設け、スリーブには中央ランドに対応する出力ポートと、中央ランドの両側のステムにそれぞれ対応する供給ポートと排出ポートとを設ける構成が述べられている。この構成によれば、可動線輪によって、スプールをスリーブに対し相対的な軸方向移動を行わせ、中央ランドと出力ポートとの相対的開口面積を可変して、出力ポートへの流れを制御することができるので、外部制御による可変絞り装置の一種である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−291897号公報
【特許文献2】特開2008−247335号公報
【特許文献3】特開2004−270870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、絞り弁を用いることで、2つの流体装置の間の流体圧等の相対的な変動を吸収することができる。すなわち、絞り弁をダンパ等に利用できる。このような絞り弁としては、特許文献1,2に述べられているような流路面積が固定の固定絞り弁を用いることができる。固定絞り弁の代表的なものはオリフィスである。固定絞り弁において流量等を変更するには、オリフィスの流路径を変更するか、特許文献2に示されるように、外部の制御装置によって作動流体の流量制御を行う必要がある。特許文献3に示されるスプール・スリーブ機構を可動線輪で駆動する方式によれば、流れの方向、流路面積等を可変できるが、可動線輪等の外部駆動機構が必要である。
【0007】
このように、従来技術によれば、流れの方向あるいは流量等を可変とする絞り装置は、外部駆動装置等を要し、大掛かりなものとなる。
【0008】
本発明の目的は、外部駆動装置を要せずに、流れの方向あるいは流量等を可変とする可変絞り装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る可変絞り装置は、ステム上に左ランドと中央ランドと右ランドとが配置される揺動スプールと、揺動スプールの各ランドの外周を支持して揺動スプールをステムの軸方向に揺動自在に案内するスリーブと、揺動スプールの左ランド及び右ランドに対し、それぞれステムの軸方向に沿った復元力を与える左側復元バネと右側復元バネと、スリーブに設けられ第1気体圧を有する気体が揺動スプール側に供給されまたは揺動スプール側から排出される第1開口部と、スリーブに設けられ第2気体圧を有する気体が揺動スプール側から排出されまたは揺動スプール側に供給される第2開口部と、を備え、揺動スプールは、左ランドの左側面に与えられる気体圧と右ランドの右側面に与えられる気体圧との差である軸方向差圧によって揺動駆動力を受け、または、スリーブに対する揺動スプールの相対的変位差によって揺動駆動力を受け、揺動スプールがスリーブに対し中立状態にあるときには、第1開口部と第2開口部に対する各ランドの相対位置関係について、第1開口部と第2開口部との間の連通量がゼロあるいは予め定めた所定量の連通状態となるように設定され、あるいは中立状態から予め定めたオーバラップ量を超える移動によって初めて第1開口部と第2開口部との間が連通するように設定され、少なくともいずれかの揺動駆動力によって揺動スプールがスリーブに対し中立状態から移動するときには、第1開口部と第2開口部に対する各ランドの相対位置関係が可変的に変更されることで、気体の流れを可変的に絞るようにして、第1開口部と第2開口部との間の連通量が移動の方向に関わらず位置関係の変化量に応じて線形的に又は非線形的に変更されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る可変絞り装置において、第1気体圧を有する気体を左側復元バネが収容される左側バネ室に導いて、左ランドの左側面に第1気体圧を与えるための第1接続流路と、第2気体圧を有する気体を右側復元バネが収容される右側バネ室に導いて、右ランドの右側面に第2気体圧を与えるための第2接続流路と、を備えることで軸方向差圧によって揺動駆動力を受けることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る可変絞り装置において、左ランドの左側バネ室の空間と、右ランドの右側バネ室の空間とを連通する中間接続流路を備えることで中立状態では軸方向差圧をゼロとして、スリーブに対する揺動スプールの相対的変位差によって左側復元バネと右側復元バネから揺動駆動力を受けることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る可変絞り装置において、第1接続流路に設けられ、左ランド側に導かれる気体の流れを予め定めた絞り量で絞る第1固定絞り部と、第2接続流路に設けられ、右ランド側に導かれる気体の流れを予め定めた絞り量で絞る第2固定絞り部と、を備えることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る可変絞り装置において、中間接続流路に設けられ、左側復元バネと右側復元バネと揺動スプールの質量に応じた振動を抑制するための1または予め定めた数の中間固定絞り部を備えることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る可変絞り装置において、揺動スプールは、スリーブに対し中立状態にあるときに、中央ランドが第2開口部を塞ぐ位置に配置され、中央ランドと左ランドとの間に形成される左気体室と、中央ランドと右ランドとの間に形成される右気体室とが共に第1開口部に連通する位置に配置され、スリーブに対し中立状態から移動するときに、中央ランドが第2開口部を開く位置に相対的に移動し、その相対的位置関係の変更量に応じた連通量で、第2開口部と第1開口部とが連通することが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る可変絞り装置において、揺動スプールは、左気体室と右気体室とを連通する連通路を含む中央ランドを有することが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る可変絞り装置において、第1開口部と第2開口部との間に接続して設けられ、第1開口部と第2開口部との間の連通量が予め定めた所定バイアス量の連通状態となるように設定されるバイアス絞り部を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上記構成により、可変絞り装置は、揺動スプールの両端にそれぞれ左側復元バネと右側復元バネとを有するスプール・スリーブ機構であって、揺動スプールは、左ランドの左側面に与えられる気体圧と右ランドの右側面に与えられる気体圧との差である軸方向差圧によって揺動駆動力を受け、または、スリーブに対する揺動スプールの相対的振動の変位差によって揺動駆動力を受け、少なくともいずれかの揺動駆動力によって中央ランドと第1開口部との間の相対位置関係が可変的に変更されることで、第1開口部と第2開口部との間の気体の流れを可変的に絞る。
【0018】
また、可変絞り装置は、左ランドの左側面に第1気体圧を与えるための第1接続流路と、右ランドの右側面に第2気体圧を与えるための第2接続流路とを用いて、揺動スプールが軸方向差圧によって揺動駆動力を受けるものとできる。
【0019】
また、可変絞り装置において、左ランドの左側バネ室の空間と、右ランドの右側バネ室の空間とを連通する中間接続流路を備えることで中立状態では軸方向差圧をゼロとして、スリーブに対する揺動スプールの相対的変位差によって左側復元バネと右側復元バネから揺動駆動力を受けることができる。
【0020】
このように、軸方向差圧あるいは相対的振動の変位差によって揺動スプールが軸方向に移動するので、揺動スプールの駆動のための外部駆動装置を特別に要することなく、流れの方向あるいは流量等を可変とすることができる。
【0021】
また、可変絞り装置において、第1接続流路に設けられ、左ランド側に導かれる気体の流れを予め定めた絞り量で絞る第1固定絞り部と、第2接続流路に設けられ、右ランド側に導かれる気体の流れを予め定めた絞り量で絞る第2固定絞り部とを備える。これによって、揺動駆動力の急変を抑制し、揺動駆動力の変化を滑らかなものとすることができる。
【0022】
また、可変絞り装置において、中間接続流路に設けられ、左側復元バネと右側復元バネと揺動スプールの質量に応じた振動を抑制するための1または予め定めた数の中間固定絞り部を備える。スリーブに対する相対的振動の変位差によって左側バネ室と右側バネ室との間の気体圧差が生じるが、その気体圧差の脈動を中間固定絞り部によって抑制するので、振動抑制を滑らかなものとすることができる。
【0023】
また、可変絞り装置において、揺動スプールは、スリーブに対し中立状態にあるときに、中央ランドが第2開口部を塞ぐ位置に配置され、中央ランドと左ランドとの間に形成される左気体室と、中央ランドと右ランドとの間に形成される右気体室とが共に第1開口部に連通する位置に配置され、スリーブに対し中立状態から移動するときに、中央ランドが第2開口部を開く位置に相対的に移動し、その相対的位置関係の変更量に応じた連通量で、第2開口部と第1開口部とが連通する。
【0024】
また、可変絞り装置において、揺動スプールは、左気体室と右気体室とを連通する連通路を含む中央ランドを有する。これにより、左気体室と右気体室とが共に第1開口部に連通するための構成がスリーブ内で実現でき、構成を簡単なものとできる。
【0025】
また、可変絞り装置において、第1開口部と第2開口部との間に、第1開口部と第2開口部との間の連通量が予め定めた所定量の連通状態となるように設定される絞り部が設けられる。これにより、中立状態における第1開口部と第2開口部との間の連通量をゼロでなく、予めバイアスされた大きさとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る実施の形態において、揺動スプールが軸方向差圧によって揺動駆動力を受ける場合に適した構成の可変絞り装置を示す図である。
【図2】図1の可変絞り装置の作用を説明する図である。
【図3】図2とともに、図1の可変絞り装置の作用を説明する図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、可変絞りの作用を説明する図である。
【図5】図1の構成において、固定絞り装置を付加した構成を示す図である。
【図6】図1の変形例として、スリーブの開口部の配置を変更した例を説明する図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、揺動スプールがスリーブに対する相対的振動の変位によって左側復元バネと右側復元バネから揺動駆動力を受ける場合に適した構成の可変絞り装置を示す図である。
【図8】図7の可変絞り装置の作用を説明する図である。
【図9】図8とともに、図7の可変絞り装置の作用を説明する図である。
【図10】図1の他の変形例として、中間ランドに連通路を設ける等の様子を説明する図である。
【図11】図10の連通路の様子を説明するための中央ランドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、可変絞り装置に適用される流体として空気を説明するが、空気以外の乾燥窒素、不活性ガス等であってもよい。また、以下では、揺動スプールが軸方向差圧によって揺動駆動力を受ける場合に適した構成と、スリーブに対する揺動スプールの相対的振動の変位差によって左側復元バネと右側復元バネから揺動駆動力を受ける場合に適した構成とに分けて説明するが、揺動スプールが双方の種類の揺動駆動力をともに受ける場合であってもよい。
【0028】
また、以下では、例えば、第1気体圧PAが2つの開口部に供給され、第2気体圧PBが1つの開口部に供給される等の説明を行うが、開口部の数はそれぞれ1つでも複数でも構わない。また、開口部とランドとの位置関係も、第1気体圧PAに関する開口部と第2気体圧PBに関する開口部とが、相互に連通しない遮断状態と、相互に連通し、その際に揺動駆動力に応じて流れの方向あるいは流量等を可変するものであれば、どのような配置関係であってもよい。
【0029】
なお、可変絞り装置は、2つの気体装置の間に設けられて、ダンパ機能等を発揮するものである。2つの気体装置の例としては、例えば、ピストン・シリンダ機構におけるシリンダの両側の2つの気体室とすることができる。この場合には、ピストン・シリンダ機構に並列に配置されるダンパ機構として可変絞り装置を用いることができる。
【0030】
その他、可変絞り装置が適用される2つの気体装置としては、気体圧が相対的に変動する2つの気体室、相対的な機械的振動が生じる2つの気体室等とすることができる。
【0031】
また、以下で説明するバネ定数、固有振動数等は、説明のために一例であって、可変絞り装置が適用される応用製品の仕様に応じて適宜変更することができる。
【0032】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0033】
図1は、可変絞り装置10の構成を説明する図である。この可変絞り装置10は、筐体20と、スリーブ40と、揺動スプール50とを備えるスプール・スリーブ機構の一種である。筐体20には、図示されていない第1気体装置に接続され第1気体圧PAを有する気体が供給または排出される第1接続口28と、図示されていない第2気体装置に接続され第2気体圧PBを有する気体が供給または排出される第2接続口30とが設けられる。
【0034】
そして、この可変絞り装置10は、揺動スプール50の左右両端に第1気体圧PAと第2気体圧PBとが与えられて、その気体圧の差である軸方向差圧によって揺動スプール50が揺動駆動力を受けるのに適した構成を有するものである。なお、左右とは、揺動スプール50の軸方向に沿った位置についてのもので、図1に示すように、揺動スプール50の軸方向をX軸方向として、+X側を右側とすれば−X側が左側である。
【0035】
図1において、筐体20は、中心部にスリーブ40と揺動スプール50とが配置される配置空間を有する筒状部材である。この配置空間において、揺動スプール50の左右両端側にそれぞれ設けられる左側バネ室22と右側バネ室24は、それぞれに左側復元バネ60と右側復元バネ62が軸方向に圧縮・伸長可能に収納される空間である。
【0036】
また、筐体20において、第1接続口28からスリーブ40側に延びる第1導入流路29は、スリーブ40に設けられる左開口部44と右開口部46を介して、第1気体圧PAを有する気体を揺動スプール50側に供給し、または、揺動スプール50側から第1気体圧PAを有する気体を排出するための流路である。ここでは、左開口部44と右開口部46とが筐体20の内部を通る第1導入流路29に共に接続されることで、左開口部44と右開口部46とが連通して、気体を導く開口部としては同じ機能を有するものとなっている。その意味で、互いに連通するように構成された左開口部44と右開口部46とを合わせて、第1開口部と呼ぶことができる。
【0037】
第1導入流路29と左側バネ室22とを接続する第1接続流路32は、第1気体圧PAを左側バネ室に供給することで、後述するように、左ランド54の左側面に第1気体圧PAに対応する軸方向力を与える機能を有する流路である。
【0038】
同様に、筐体20において、第2接続口30からスリーブ40側に延びる第2導入流路31は、スリーブ40に設けられる中央開口部42を介して、第2気体圧PBを有する気体を揺動スプール50側に供給し、または、揺動スプール50側から第2気体圧PBを有する気体を排出するための流路である。中央開口部42は1つであるが、これを上記の第1開口部と対比するために、第1開口部と呼ぶことができる。
【0039】
また、第2導入流路31と右側バネ室24とを接続する第2接続流路34は、第2気体圧PBを右側バネ室に供給することで、後述するように、右ランド56の右側面に第2気体圧PBに対応する力を与える機能を有する流路である。
【0040】
左側バネ室22に収納される左側復元バネ60と、右側バネ室24に収納される右側復元バネ62とは、揺動スプール50の軸方向移動に対し、中立位置に戻す機能を有する弾性体である。図1では、左側復元バネ60、右側復元バネ62はコイルバネとして示されているが、揺動スプール50の軸方向に圧縮・伸長して、揺動スプール50が軸方向に移動する場合に常に中立位置に引き戻す機能を有する弾性体であれば、プラスチックゴム、板バネ等であってもよい。
【0041】
左側復元バネ60は、上記のように弾性体であるが、その軸方向の両端にはそれぞれ円板が設けられる。左側の円板は、左側復元バネ60の軸方向位置を定め、復元力を設定するためのものである。筐体20にねじ込まれる左側調整ネジ70は、その先端がこの左側の円板に接触し、ねじ込み量に応じてその軸方向位置を調整する機能を有する。このようにして、左側調整ネジ70のねじ込み量調整によって左側復元バネ60の復元力が設定される。なお左側調整ネジ70と後述する右側調整ネジ72は、いずれか一方あるいは双方とも省略することができる。
【0042】
左側復元バネ60における右側の円板は、揺動スプール50の左端に復元力を伝達するものである。右側の円板と揺動スプール50の左端とは、摩擦が少なくなるように、ピボットと軸受の構成を取ることができる。すなわち、右側の円板の左端面にピボットを設け、揺動スプール50の左端にピボットを受ける軸受を配置して、線接触によって相互の支持を行うものとできる。ピボットを揺動スプール50に設け、軸受を右側円板に設けるものとしてもよい。なお、ピボット等は摩擦を少なくするためのものであるので、ピボット等がなくても、可変絞り装置10は絞りとして機能する。
【0043】
左側復元バネ60における右側の円板はもう1つの機能を有する。それは、左側バネ室22に供給される第1気体圧PAに応じた軸方向力を揺動スプール50の左ランド54の左側面に伝達する機能である。したがって、右側の円板の外周と、左側バネ室22の内壁との間は、適当な気密とされる。適当な気密とは、右側の円板が軸方向に移動することができるが、第1気体圧PAを有する気体が揺動スプール50の側に余り漏れない程度という意味である。余り漏れない程度とは、第1気体圧PAに応じた軸方向力が揺動スプール50に適切に伝達される程度であればよい。
【0044】
同様に、右側復元バネ62においても、その軸方向の両端にはそれぞれ円板が設けられる。そして、右側の円板は、右側復元バネ62の軸方向位置を定め、復元力を設定するためのものであり、左側の円板は、揺動スプール50に復元力を伝達するものである。また、左側の円板が右側バネ室24に供給される第2気体圧PBに応じた軸方向力を揺動スプール50の右ランド56の右側面に伝達する機能を有することも同様である。また、筐体20にねじ込まれる右側調整ネジ72は、そのねじ込み量に応じて右側復元バネ62の軸方向位置を調整する機能を有することも同様である。その他、詳細な構成は、左側復元バネ60に関して説明したものと同様の内容である。
【0045】
このようにして、揺動スプール50の両端には、左側復元バネ60と右側復元バネ62とが設けられ、基本的には、揺動スプール50の軸方向位置が中立位置とされる。そして、上記のように、左側復元バネ60の右側の円板によって第1気体圧PAに応じた軸方向力が揺動スプール50の左端に与えられ、右側復元バネ62の左側の円板によって第2気体圧PBに応じた軸方向力が揺動スプール50の右端に与えられるので、その差圧である(PA−PB)に応じて、揺動スプール50は中立位置から移動する駆動力が与えられることになる。なお、第1気体圧PA=第2気体圧PBのときには、揺動スプール50は正しく中立位置に位置する。なお、図1は、揺動スプール50が正しく中立位置にある状態を示す図である。
【0046】
図1におけるスリーブ40は、筐体20の中心部におけるスリーブ40と揺動スプール50とが配置される配置空間に取り付け固定される円筒状の部材で、外周部は筐体20に固定される固定面とされ、内周面は揺動スプール50を軸方向移動可能に支持する摺動面とされる。摺動面としては、スリーブ40と揺動スプール50との金属接触によるもののほか、揺動スプール50の外周に樹脂等を設け、金属と樹脂との接触によるものとしてもよい。
【0047】
筐体20の構成の説明で述べたように、スリーブ40には、軸方向に沿って相互に離間して3つの開口部が設けられる。配置順序は、図1に示すように、−X側である左側から+X側である右側に向かって、左開口部44、中央開口部42、右開口部46である。これらの開口部に対応して筐体20にも3つの開口部が設けられ、既に述べたように、左開口部44と右開口部46とは第1導入流路29に接続され、中央開口部42は第2導入流路31に接続される。
【0048】
揺動スプール50は、ステム上に左ランド54と中央ランド52と右ランド56とが配置される軸体である。各ランドの配置順序は、図1に示すように、−X側である左側から+X側である右側に向かって、左ランド54、中央ランド52、右ランド56である。ラ各ランドの外周寸法は、スリーブ40の内周面の摺動面の内径寸法よりやや小さめに設定される。やや小さめとは、各ランドとスリーブ40とによって気密を保持しながら、揺動スプール50がスリーブ40に支持されて軸方向に滑らかに移動可能な隙間を保持する程度である。また、この隙間によってダンピング効果を積極的に働かせる場合には、この隙間量をある程度広くすることがよい。
【0049】
ステムは、各ランドの間を接続する細い軸部材であって、その外径は各ランドの外径に比べて十分小さい。したがって、各ランド間のステムと、スリーブ40との間には空間が形成され、この空間は気体を保持あるいは気体が流れる気体室となる。図1の例では、左ランド54と中央ランドとの間に左気体室、中央ランド52と右ランドとの間に右気体室が形成されている。
【0050】
揺動スプール50の各ランドの配置位置と、スリーブ40の各開口部の配置位置とは次のように設定される。すなわち、揺動スプール50が中立位置にあるとき、中央ランド52は、中央開口部42をちょうど閉じる位置である。そして、左ランド54は、左開口部44を完全に開くように、左開口部44の位置よりも−X方向にずれた位置とされる。また、右ランド56は、右開口部46を完全に開くように、右開口部46の位置よりも+X方向にずれた位置とされる。
【0051】
したがって、中立状態では、第1気体圧PAは、左側バネ室22に供給される他に、左開口部44と右開口部46を介して、揺動スプール50の側に供給される。一方、第2気体圧PBは、右側バネ室24に供給されるが、中央開口部42が中央ランド52で閉じられているので、そこで遮断されて揺動スプール50の側には供給されない。
【0052】
すなわち、図1に示されるように、揺動スプール50がスリーブ40に対し中立状態にあるときには、第1開口部と第2開口部に対する各ランドの相対位置関係について第1開口部と第2開口部との間の連通量がゼロとなるように設定される。具体的には、図1のようにスプールが3つのランドを有し、スリーブが3つの開口部を有する場合、上記のように、中立状態では、中央ランド52が第1開口部である中央開口部42を完全に塞ぐことができるように、中央ランド52と中央開口部42の位置関係が設定される。このとき、左ランド54と右ランド56は、いずれも第2開口部である左開口部44と右開口部46を塞がないような位置関係とされる。このような位置関係にあるときの揺動スプール50の位置が揺動スプール50の中立位置である。
【0053】
なお、場合によっては、中立状態であっても、第1開口部と第2開口部との間の連通量について予め定めた所定量の連通状態としてもよい。具体的には、中央ランド52が第1開口部である中央開口部42を完全に塞がずに、予め定めた余裕隙間でもって第1開口部を揺動スプール50側に部分的に開くものとしてもよい。このように中央ランド52が第1開口部を部分的に開くようにすることで、第1開口部と第2開口部との間に、適当量の気体の連通を行わせることができる。これによって、可変絞り装置10の動作をより安定なものとできる。また、逆に、中央開口部42の両側に揺動スプール50のオーバラップを設け、中立状態およびオーバラップの範囲で揺動スプール50が移動しても第1開口部と第2開口部とが連通しないようにすることもできる。以下では、中立状態のときに第1開口部と第2開口部との間の連通量がゼロである場合について説明を続ける。
【0054】
また、軸方向差圧(PA−PB)が発生すると、揺動スプール50はその中立状態から移動する。この移動によって、第1開口部と第2開口部に対する各ランドの相対位置関係が可変的に変更される。これによって、気体の流れを可変的に絞るようにして、第1開口部と第2開口部との間の連通量が移動の方向に関わらず位置関係の変更量に応じて変更されることになる。移動の方向に関わらずとは、移動の方向が右側方向であっても、左側方向であっても、揺動スプール50に対するスリーブ40の相対的移動量の絶対値が同じであれば、第1開口部と第2開口部との間の連通量が同じとなる、という意味である。その具体的内容については後述する。
【0055】
図2、図3は、上記構成の可変絞り装置10の作用を説明する図である。図2は、第1気体圧PAが第2気体圧PBよりも低圧である場合、図3は、第1気体圧PAが第2気体圧PBよりも高圧である場合である。
【0056】
図2においては、第1気体圧PAが第2気体圧PBよりも低圧である。すなわち、第2気体圧PBが第1気体圧PAよりも高圧であるので、右側バネ室24において揺動スプール50の右端に与えられる気体圧PBによる−X方向の駆動力が、左側バネ室22において揺動スプール50の左端に与えられる気体圧PAによる+X方向の駆動力よりも大きい。したがって、この軸方向差圧(PB−PA)による揺動駆動力によって、揺動スプール50は、中立位置よりも−X側に移動する。
【0057】
この揺動スプール50の中立位置から−X側への移動によって、中央ランド52は中央開口部42の右側を開く。開く量は、軸方向差圧(PB−PA)によって異なる。つまり、開く量である流路面積は、軸方向差圧(PB−PA)が大きければ大きく、軸方向差圧(PB−PA)が小さければ小さい。このように、流路面積は、軸方向差圧(PB−PA)によって可変的に変更される。
【0058】
このようにして、図示されていない第2気体装置からの第2気体圧PBを有する気体は、第2接続口30−第2導入流路31−中央開口部42−揺動スプール50の右気体室−右開口部46−第1導入流路29−第1接続口28を通り、図示されていない第1気体装置に導かれる。
【0059】
一方、図3においては、第1気体圧PAが第2気体圧PBよりも高圧であるので、左側バネ室22において揺動スプール50の左端に与えられる気体圧PAによる+X方向の駆動力が、右側バネ室24において揺動スプール50の右端に与えられる気体圧PBによる−X方向の駆動力よりも大きい。したがって、この軸方向差圧(PA−PB)による揺動駆動力によって、揺動スプール50は、中立位置よりも+X側に移動する。
【0060】
この揺動スプール50の中立位置から+X側への移動によって、中央ランド52は中央開口部42の左側を開く。開く量は、軸方向差圧(PA−PB)によって異なる。揺動スプール50の中立位置から−X側への移動の場合と同様に、開く量である流路面積は、軸方向差圧(PA−PB)によって可変的に変更される。
【0061】
したがって、図示されていない第1気体装置からの第1気体圧PAを有する気体は、第1接続口28−第1導入流路29−左開口部44−揺動スプール50の左気体室−中央開口部42−第2導入流路31−第2接続口30を通り、図示されていない第2気体装置に導かれる。
【0062】
このように、可変絞り装置10は、図示されていない第1気体装置の気体圧PAが第2気体装置の気体圧PBよりも低圧のときは、高圧側の第2気体装置の側から高圧気体の供給を受け、逆に、第2気体装置の気体圧PBが第1気体装置の気体圧PAよりも低圧のときは、高圧側の第1気体装置の側から第2気体装置に対し高圧気体の供給を行うものとできる。このような作用によって、可変絞り装置10を用いることで、第1気体装置と第2気体装置との間の気圧差を抑制することができる。
【0063】
ここで、第1気体装置と第2気体装置との間の気圧差を抑制するための揺動スプール50の駆動は、第1気体圧PAと第2気体圧PBとの間の差である軸方向差圧を利用しており、特別な駆動装置を用いることなく、軸方向差圧が生じれば自動的に揺動駆動が行われる。また、軸方向差圧の大きさに応じて流路面積が可変され、軸方向差圧が大きいほど、流路面積が大きくなるので、第1気体装置と第2気体装置との間に気圧差が生じても、迅速にその気圧差を解消して平衡圧に戻すことができる。このように、揺動スプール50のX方向移動量と流路面積の変化量とが比例関係となるように開口部の形状を設定できる。そのほかに、X方向移動量と流路面積との関係を非線形とすることもでき、また2段階変化とすることもできる。
【0064】
図4は、可変絞り装置10の作用として、揺動スプール50とスリーブ40との間の相対的位置関係が変更されたときの第1開口部Aと第2開口部Bとの間の連通量の変化を説明する図である。図4には、横軸に時間をとり、揺動スプール50とスリーブ40との間の相対的位置の差である変位差Xの変化と、これに対応する第1開口部Aと第2開口部Bとの間の連通量の変化が示されている。図4に示されるように、Xが中立状態からみてプラス側あるいはマイナス側に変化しても、第1開口部Aと第2開口部Bとの間の連通量は、Xの変化の方向に関わらず、Xの絶対値が同じであれば、同じとなる。第1開口部Aと第2開口部Bとの間の連通量の大きさは、Xの絶対値の大きさの変更に応じて変更される。つまり、可変絞り装置10は、Xの変化関数に対する一種の整流作用を有している。
【0065】
図5は、図1の構成において、第1接続流路32と第2接続流路34とに、それぞれ固定絞り部80,81を設ける可変絞り装置12の構成を説明する図である。第1接続流路32、第2接続流路34、固定絞り部80,81以外の構成は図1と同じである。
【0066】
固定絞り部80は、第1接続流路32に設けられ、左側バネ室22に導かれる気体の流れを予め定めた絞り量で絞るためのものである。同様に固定絞り部81は、第2接続流路34に設けられ、右側バネ室24に導かれる気体の流れを予め定めた絞り量で絞るためのものである。これによって、揺動駆動力の急変を抑制し、揺動駆動力の変化を滑らかなものとすることができる。
【0067】
これら2つの固定絞り部80,81は同じものを用いることができるが、特にこれらを区別したいときは、第1固定絞り部80、第2固定絞り部81と呼ぶことができる。第1固定絞り部80、第2固定絞り部81としては、オリフィス絞り、ラジアルスリット方式絞り、多孔質物質の中に気体を流す多孔質絞り等を用いることができる。
【0068】
固定絞り部80の絞りの流路抵抗は、左側バネ室22の気体容量に応じて、気体流れの脈動周波数を抑制するように設定することができる。すなわち、一般的に、絞りの流路抵抗をRとし、気体が流れ込む気体室の気体容量をCとすると、気体の流れの固有振動数fは、f=ω/(2π)=1/(2πRC)で示される。これ以上速い周波数は応答しないので、ハイパスカットフィルタ、すなわちローパスフィルタとして用いることができる。
【0069】
上記では、スリーブ40に設けられる左開口部44と右開口部46において、第1気体圧PAを有する気体が揺動スプール50の側に供給されまたは揺動スプール50の側から排出され、そして、中央開口部42において、第2気体圧PBを有する気体が揺動スプール50の側に供給されまたは揺動スプール50の側から排出される。このような場合、上記のように、左開口部44と右開口部46とを第1開口部、中央開口部42を第2開口部と呼ぶことができる。このように、上記では、開口部は3つであったが、開口部を3つ以外とすることもできる。
【0070】
図6は、スリーブに4つの開口部が設けられる可変絞り装置14の構成を示す図である。図6は、X軸に互いに直交する軸をY軸、Z軸として、XY断面図とXZ断面図とを示してある。ここでは、筐体100に、相互に交差しないように、第1導入流路29と第2導入流路31が配置される。そして、第1導入流路29は、スリーブ102に設けられる左第1開口部110と右第1開口部114を介して、第1気体圧PAを有する気体を揺動スプール50側に供給し、または、揺動スプール50側から第1気体圧PAを有する気体を排出するための流路となっている。また、第2導入流路31は、スリーブ102に設けられる左第2開口部112と右第2開口部116を介して、第2気体圧PBを有する気体を揺動スプール50側に供給し、または、揺動スプール50側から第2気体圧PBを有する気体を排出するための流路となっている。
【0071】
スリーブ102においては、軸方向に沿って、左側である−X側から右側である+X側に向かって、左第1開口部110、左第2開口部112、右第1開口部114、右第2開口部116がこの順序で配置される。上記のように左第1開口部110と右第1開口部114とが第1導入流路29に接続されるので、その意味でこれらを第1開口部と呼び、左第2開口部112と右第2開口部116とが第2導入流路31に接続されるので、その意味でこれらを第2開口部と呼ぶことができる。
【0072】
揺動スプール50の各ランドの配置位置と、スリーブ102の各開口部の配置位置とは次のように設定される。すなわち、揺動スプール50が中立位置にあるとき、左ランド54は、左第1開口部110をちょうど閉じる位置である。また、右ランド56は、右第2開口部116をちょうど閉じる位置である。中央ランド52は、左第2開口部112と右第1開口部114のいずれをも完全に開くように、左第2開口部112の位置よりも+X方向にずれた位置であって、右第1開口部114の位置よりも−X方向にずれた位置とされる。
【0073】
したがって、中立状態では、第1気体圧PAは、左側バネ室22に供給される他に、右第1開口部114を介して揺動スプール50の右気体室に供給される。一方、第2気体圧PBは、右側バネ室24に供給される他に、左第2開口部112を介して揺動スプール50の左気体室に供給される。右気体室と左気体室とは中央ランド52で連通が遮断されているので、左第1開口部110と右第1開口部から構成される第1開口部と、左第2開口部112と右第2開口部116から構成される第2開口部とは連通していない。
【0074】
したがって、揺動スプール50がスリーブ102に対し中立状態にあるときには第1開口部と第2開口部とは連通していない。ここで、第1気体圧PAが第2気体圧PBよりも低圧であると、図2で説明したように、揺動スプール50が−X方向に移動し、左第1開口部110の右側が開く。これによって、第2接続口30から第1接続口28に向かって気体が流れる。また、逆に第1気体圧PAが第2気体圧PBよりも高圧であると、図2で説明したように、揺動スプール50が+X方向に移動し、右第2開口部116の左側が開く。これによって、第1接続口28から第2接続口30に向かって気体が流れる。
【0075】
このように、4つの開口部を有する構成を用いても、図2、図3で説明したのと同様の可変絞りとしての作用効果を奏することができる。
【0076】
上記では、第1気体装置の気体圧である第1気体圧PAと、第2気体装置の気体圧である第2気体圧PBとの差である軸方向差圧によって揺動スプール50に揺動駆動力が与えられるものとした。これ以外に、揺動スプール50に対するスリーブ40の相対的振動の変位差によっても、左右の復元バネの変位による復元力によって揺動駆動力が揺動スプール50に与えられることがある。このような場合として、図示されていない第1気体装置と第2気体装置とが相対的に振動し、その振動が可変絞り装置の筐体に伝達され、筐体と一体のスリーブが揺動スプールに対し相対的に振動する例をあげることができる。
【0077】
図7に示す可変絞り装置16は、揺動スプール50に対するスリーブ40の相対的振動の変位差によって左側復元バネ64と右側復元バネ66から揺動駆動力を受けるのに適した構成を有するものである。図7は図6と同様に、X軸に互いに直交する軸をY軸、Z軸として、XY断面図とXZ断面図とを示してある。ここでは、図1と比較して、第1接続流路32、第2接続流路34が省略されており、左側バネ室22と、右側バネ室24とを接続する中間接続流路120,122が設けられている。
【0078】
すなわち、図7の構成では、第1接続流路32、第2接続流路34を省略し、左ランド54の左側バネ室22の空間と、右ランド56の右側バネ室24の空間とを連通する中間接続流路120,122を備えることで、中立状態では軸方向差圧をゼロとしている。これによって、揺動スプール50に対するスリーブ40の相対的振動の変位差によって、揺動スプール50は、左側復元バネと右側復元バネから揺動駆動力を受けることになる。
【0079】
なお、中間接続流路120,122に設けられる中間固定絞り部130は、左側バネ室22と右側バネ室24との間の気体の流れを予め定めた絞り量で絞る機能を有するが、場合によっては省略することができる。そこで、中間固定絞り部130の内容については後述することにして、以下では、特に断らない限り、中間固定絞り部130を省略した構成について説明を続ける。
【0080】
図8、図9は、上記構成の可変絞り装置16の作用を説明する図である。図8は、筐体21及びスリーブ40が+X方向の加速度の振動を受けた場合、図9は、筐体21及びスリーブ40が−X方向の加速度の振動を受けた場合である。
【0081】
図8においては、筐体21及びこれと一体に固定されているスリーブ40が+X方向の加速度+αを受けた場合である。このときには、左側復元バネ64と右側復元バネ66によって揺動スプール50がスリーブ40に対してバネ懸架されているので、揺動スプール50は、スリーブ40に対し、相対的に左側、つまり−X方向に変位する。このように、揺動スプール50は、スリーブ40に対する相対的振動の変位によって左側復元バネ64と右側復元バネ66から揺動駆動力を受ける。
【0082】
揺動スプール50がスリーブ40に対し相対的に−X方向に変位する状態は、図2で説明したと同様であるので、揺動スプール50の中立位置から−X側への移動によって、中央ランド52は中央開口部42の右側を開くことになる。この開く量は、変位量の大きさ、つまり振動の軸方向加速度+αによって異なる。つまり、開く量である流路面積は、振動の軸方向加速度αが大きければ大きく、振動の軸方向加速度αが小さければ小さい。このように、流路面積は、振動の軸方向加速度αによって可変的に変更される。
【0083】
このようにして、図示されていない第2気体装置からの第2気体圧PBを有する気体は、第2接続口30−第2導入流路31−中央開口部42−揺動スプール50の右気体室−右開口部46−第1導入流路29−第1接続口28を通り、図示されていない第1気体装置に導かれる。
【0084】
一方、図9においては、筐体21及びこれと一体に固定されているスリーブ40が−X方向の加速度−αを受けた場合である。ここでも、左側復元バネ64と右側復元バネ66によって揺動スプール50がスリーブ40に対してバネ懸架されているので、揺動スプール50は、スリーブ40に対し、相対的に右側、つまり+X方向に変位する。
【0085】
揺動スプール50がスリーブ40に対し相対的に−X方向に変位する状態は、図2で説明したと同様であるので、揺動スプール50の中立位置から+X側への移動によって、中央ランド52は中央開口部42の左側を開くことになる。開く量は、振動の軸方向加速度−αによって異なる。揺動スプール50の中立位置から−X側への移動の場合と同様に、開く量である流路面積は、振動の軸方向加速度αによって可変的に変更される。
【0086】
したがって、図示されていない第1気体装置からの第1気体圧PAを有する気体は、第1接続口28−第1導入流路29−左開口部44−揺動スプール50の左気体室−中央開口部42−第2導入流路31−第2接続口30を通り、図示されていない第2気体装置に導かれる。
【0087】
このように、可変絞り装置16は、例えば、図示されていない第1気体装置と第2気体装置との間の相対的振動を受けて、筐体21及びスリーブ40が+X方向の加速度+αを受けるときは、揺動スプール50が−X方向に移動するとともに第1気体装置の側から第2気体装置の側に気体が流れ、逆に筐体21及びスリーブ40が−X方向の加速度−αを受けるときは、揺動スプール50が−X方向に移動するとともに第2気体装置の側から第1気体装置の側に気体が流れるものとできる。
【0088】
上記のように、筐体21及びスリーブ40が±αで振動するときは、揺動スプール50も左右方向に振動し、また、気体も左右方向に振り分けを繰り返しながら流れる。この場合でも図4に説明したと同様に、揺動スプール50とスリーブ40との間の相対的位置の差である変位差Xの変化の方向に関わらず、Xの絶対値が同じであれば、これに対応する第1開口部と第2開口部との間の連通量の変化は同じとなる。もっとも、図2、図3と異なり、図8、図9では、Xの変化の方向に応じて、第1開口部と第2開口部との間の気体の流れる方向が振り分けられるが、連通量自体の変化は図4の通りとなる。
【0089】
このときに、バネ系を含む揺動スプール50はその系の固有振動数で振動するので、揺動スプール50の質量とバネ系のバネ定数を適当に設定することで、揺動スプール50に対するスリーブ40の相対的振動は、周波数に応じて変化する。例えば、バネ系を含む揺動スプール50の固有振動数を適当に低い周波数になるように設定すれば、その固有振動数よりも高い振動数の振動の場合、揺動スプール50とスリーブ40の相対的変位は揺動スプール50の振幅と同じになる。つまりハイパスフィルタとして作用する。
【0090】
ここで、振動を抑制するための揺動スプールの駆動は、抑制すべき振動によるスリーブと揺動スプールとの間の相対的振動の変位によって左側復元バネと右側復元バネから受ける揺動駆動力を利用しており、特別な駆動装置を用いることなく、振動が生じれば自動的に揺動駆動が行われる。また、振動の軸方向加速度の大きさに応じて流路面積が可変され、振動の軸方向加速度が大きいほど、流路面積が大きくなるので、振動が生じても、迅速にその振動を抑制するように働く。
【0091】
このように、図7の構成においては、軸方向の加速度を揺動スプール50が受け、バネ系を含めた揺動スプール50の固有振動数で揺動スプール50が振動する。すなわち、左側復元バネ64と右側復元バネ66は、揺動スプール50の振動とともに収縮・伸長を繰り返すが、それによって、左側バネ室22の気体圧と右側バネ室24の気体圧も変動し脈動する。
【0092】
この脈動は、中間接続流路120,122を設けることで抑制することができるが、中間接続流路120,122に中間固定絞り部130を設けることで、その脈動をさらに効果的に抑制することができる。中間固定絞り部130としては、オリフィス絞り、ラジアルスリット方式絞り、多孔質物質の中に気体を流す多孔質絞り等を用いることができる。
【0093】
図1、図5、図7のように、スプールとスリーブとして、3つのランド、3つの開口部を有する構成を利用するときは、左開口部44と右開口部46とを互いに連通して第1開口部として用いる。そして、上記の図1、図5、図7では、第1導入流路29に左開口部44と右開口部46とをそれぞれ接続するものとして説明した。
【0094】
図10は、中央ランド52に軸方向に貫通する連通路150を設け、これによって中央ランド52の両側の気体室である左気体室と右気体室とを連通する構成を示す図である。この構成によれば、第1導入流路29に左開口部44と右開口部46とをそれぞれ接続する必要がなく、スリーブと筐体の構造を簡単なものとできる。図10の例では、第1導入流路29に左開口部44のみが接続されており、右開口部46に対応する右気体室は、連通路150を介し、左開口部44に対応する左気体室に接続されている。図11は、中央ランド52の断面図であり、この例では、相互に分離している4つの連通路150が中央ランド52を軸方向に貫通している。
【0095】
図10において、左開口部44と中央開口部42との間を接続して設けられるバイアス絞り部152は、左開口部44に対応する第1開口部と、中央開口部42に対応する第2開口部との間の連通量が予め定めた所定バイアス量の連通状態となるように設定される絞り装置である。図1に関連して、中立状態であっても、第1開口部と第2開口部との間の連通量について予め定めた所定量の連通状態としてもよいとして説明したが、バイアス絞り部152を用いることで、第1開口部と第2開口部との間の連通量について予め定めた所定量の連通状態に設定することが容易となる。つまり、バイアス絞り部152は、第1開口部と第2開口部との間の連通量を揺動スプール50とスリーブ40との間の相対的な位置関係の変化によって可変する可変絞り装置の主たる構成に対し、これに並列的に設けられる第1開口部と第2開口部との間のバイアス流路である。バイアス絞り部152は、図10に示されるように、揺動スプール50の軸周りを囲むような環状の絞り装置を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明に係る可変絞り装置は、2つの気体装置の間に設けられて、ダンパ機能等を発揮するものとして利用できる。例えば、気体圧が相対的に変動する2つの気体室、相対的な機械的振動が生じる2つの気体室等に、気体圧変動抑制、機械的振動抑制のためのダンパ機構等に利用することができる。
【符号の説明】
【0097】
10,12,14,16 可変絞り装置、20,21,100 筐体、22 左側バネ室、24 右側バネ室、28 第1接続口、29 第1導入流路、30 第2接続口、31 第2導入流路、32 第1接続流路、34 第2接続流路、40,102 スリーブ、42 中央開口部、44 左開口部、46 右開口部、50 揺動スプール、52 中央ランド、54 左ランド、56 右ランド、60,64 左側復元バネ、62,66 右側復元バネ、70 左側調整ネジ、72 右側調整ネジ、80,81 (第1、第2)固定絞り部、110 左第1開口部、112 左第2開口部、114 右第1開口部、116 右第2開口部、120,122 中間接続流路、130 中間固定絞り部、150 連通路、152 バイアス絞り部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステム上に左ランドと中央ランドと右ランドとが配置される揺動スプールと、
揺動スプールの各ランドの外周を支持して揺動スプールをステムの軸方向に揺動自在に案内するスリーブと、
揺動スプールの左ランド及び右ランドに対し、それぞれステムの軸方向に沿った復元力を与える左側復元バネと右側復元バネと、
スリーブに設けられ第1気体圧を有する気体が揺動スプール側に供給されまたは揺動スプール側から排出される第1開口部と、
スリーブに設けられ第2気体圧を有する気体が揺動スプール側から排出されまたは揺動スプール側に供給される第2開口部と、
を備え、
揺動スプールは、
左ランドの左側面に与えられる気体圧と右ランドの右側面に与えられる気体圧との差である軸方向差圧によって揺動駆動力を受け、
または、
スリーブに対する揺動スプールの相対的変位差によって揺動駆動力を受け、
揺動スプールがスリーブに対し中立状態にあるときには、第1開口部と第2開口部に対する各ランドの相対位置関係について、第1開口部と第2開口部との間の連通量がゼロあるいは予め定めた所定量の連通状態となるように設定され、あるいは中立状態から予め定めたオーバラップ量を超える移動によって初めて第1開口部と第2開口部との間が連通するように設定され、
少なくともいずれかの揺動駆動力によって揺動スプールがスリーブに対し中立状態から移動するときには、第1開口部と第2開口部に対する各ランドの相対位置関係が可変的に変更されることで、気体の流れを可変的に絞るようにして、第1開口部と第2開口部との間の連通量が移動の方向に関わらず位置関係の変化量に応じて線形的に又は非線形的に変更されることを特徴とする可変絞り装置。
【請求項2】
請求項1に記載の可変絞り装置において、
第1気体圧を有する気体を左側復元バネが収容される左側バネ室に導いて、左ランドの左側面に第1気体圧を与えるための第1接続流路と、
第2気体圧を有する気体を右側復元バネが収容される右側バネ室に導いて、右ランドの右側面に第2気体圧を与えるための第2接続流路と、
を備えることで軸方向差圧によって揺動駆動力を受けることを特徴とする可変絞り装置。
【請求項3】
請求項1に記載の可変絞り装置において、
左ランドの左側バネ室の空間と、右ランドの右側バネ室の空間とを連通する中間接続流路を備えることで中立状態では軸方向差圧をゼロとして、スリーブに対する揺動スプールの相対的変位差によって左側復元バネと右側復元バネから揺動駆動力を受けることを特徴とする可変絞り装置。
【請求項4】
請求項2に記載の可変絞り装置において、
第1接続流路に設けられ、左ランド側に導かれる気体の流れを予め定めた絞り量で絞る第1固定絞り部と、
第2接続流路に設けられ、右ランド側に導かれる気体の流れを予め定めた絞り量で絞る第2固定絞り部と、
を備えることを特徴とする可変絞り装置。
【請求項5】
請求項3に記載の可変絞り装置において、
中間接続流路に設けられ、左側復元バネと右側復元バネと揺動スプールの質量に応じた振動を抑制するための1または予め定めた数の中間固定絞り部を備えることを特徴とする可変絞り装置。
【請求項6】
請求項1に記載の可変絞り装置において、
揺動スプールは、
スリーブに対し中立状態にあるときに、中央ランドが第2開口部を塞ぐ位置に配置され、中央ランドと左ランドとの間に形成される左気体室と、中央ランドと右ランドとの間に形成される右気体室とが共に第1開口部に連通する位置に配置され、
スリーブに対し中立状態から移動するときに、中央ランドが第2開口部を開く位置に相対的に移動し、その相対的位置関係の変更量に応じた連通量で、第2開口部と第1開口部とが連通することを特徴とする可変絞り装置。
【請求項7】
請求項6に記載の可変絞り装置において、
揺動スプールは、
左気体室と右気体室とを連通する連通路を含む中央ランドを有することを特徴とする可変絞り装置。
【請求項8】
請求項7に記載の可変絞り装置において、
第1開口部と第2開口部との間に接続して設けられ、第1開口部と第2開口部との間の連通量が予め定めた所定バイアス量の連通状態となるように設定されるバイアス絞り部を備えることを特徴とする可変絞り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−47444(P2011−47444A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195161(P2009−195161)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(503094070)ピー・エス・シー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】