説明

可染ポリプロピレン繊維

【課題】
本発明が解決しようとする課題は可染性と紡糸性が良好なポリプロピレン繊維を廉価に供給することである。
【解決手段】
本発明ポリプロピレン繊維は、径が1μm以下の独立微細孔を持つポリプロピレン繊維であり、またポリオレフィン(A)とポリスチレン(B)からなるブロックコポリマーを0.5から5.0W%含有するポリプロピレン繊維である。好ましくはブロックコポリマーが(A)・(B)型または(B)・(A)・(B)型であり、またブロックコポリマー(A)がエチレン・プロピレン、エチレン・ブチレン、エチレン・プロピレン・エチレンからなり、さらにまた、ブロックコポリマー(A)がスチレンを10W%以上含有するポリプロピレン繊維である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料用途などに使用される可染ポリプロピレン繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン繊維を可染にする提案は既に種々なされており、特許文献1に記載されているように相分離する他の非晶性ポリマー(ポリエステルコポリマー)をポリプロピレンにポリブレンドし、ポリプロピレン自体のルーズな領域の拡大と配合された非晶性ポリマーに分散性染料を吸収させポリエステルと同様、高圧染色する方法である。
しかし、特許文献1ではポリエステルとポリプロピレンを安定してポリブレンドするため相溶化剤としてエチレンとメタクリル酸グリシジル(エステル)との共重合体(商品名lotader)を2W%混合使用し、ポリオレフィンとポリスチレンの相溶化剤に関する記載はない。また、ポリエステルコポリマーの配合比率が多いほど染色性が良くなり、好ましい範囲は28W%以上である。従って、この文献に使用された相溶化剤はポリエステルコポリマーの分散にのみ作用している。
【0003】
特許文献1の実施例では紡糸引き取り速度が700m/分と著しく低速であり、後延伸が必要で、汎用スピンドロー法などの引き取り速度3,000m/分以上の現有設備で操業できない。これは多量の他のポリマーをポリブレンドシたため、流動性が著しく低下したためである。
【0004】
特許文献2に変性ポリプロピレンを相溶化剤として使用した提案がなされているが、紡糸引き取り速度が400m/分と著しく低速であり、実用性に乏しく、また糸の最高強度も3.46cN/dTexと低かった。
【0005】
このように可染領域を増加するコポリマーをポリプロピレンにポリブレンドする方法では実用的な可染ポリプロピレン繊維の経済的な製造は困難であり、紡糸性と可染性を両立させるためには新規なコンセプトの創出が必要であった。
【0006】
特許文献3に相分離する異種ポリマーまたは無機微粒子をポリマー中に分散した未延伸フイルムなどを延伸し、異種ポリマーまたは無機微粒子から伸びる形で延伸方向に隙間(ボイド)を生成させる方法が記載されている。この方法で生成するボイドはフィルム表面およびボイド間などで繋がり、独立した微細孔とならないため、色移りなどが発生しやすく染料の染着座席としては好ましくない。
【特許文献1】特開2007−308830号公報
【特許文献2】特開2007−092239号公報
【特許文献3】特表2007−513241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は可染性と紡糸性が良好なポリプロピレン繊維を廉価に供給することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明ポリプロピレン繊維は、径が1μm以下の独立微細孔を持つポリプロピレン繊維であり、またポリオレフィン(A)とポリスチレン(B)からなるブロックコポリマーを0.5から5.0W%含有するポリプロピレン繊維である。好ましくはブロックコポリマーが(A)・(B)型または(B)・(A)・(B)型であり、またブロックコポリマー(A)がエチレン・プロピレン、エチレン・ブチレン、エチレン・プロピレン・エチレンからなり、さらにまた、ブロックコポリマー(A)がスチレンを10W%以上含有するポリプロピレン繊維である。
【発明の効果】
【0009】
本発明ポリプロピレン繊維は、添加剤配合量が少ないため廉価であり、通常の高速紡糸設備でスピンドロー法などの設備により製造することができ、DTYなどの加工糸も製造することができる。また、通常の分散染料で可染であり、一般的な分散染料を使用する高圧染色法、常圧キャリアー染色法で染色でき、製品染めに対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明らは染料をポリプロピレンの非晶領域および相溶化剤との境界領域などのルーズな組織領域および、さらに相溶化剤が形成するミセル(ボイド)の中に分散染料を吸収することにより、5から6%owfの分散染料を吸収、染着させる新規な製造方法を見出し、本発明可染ポリプロピレン繊維の完成に至った。
【0011】
即ち、本発明可染ポリプロピレン繊維は径が1μm以下の独立微細孔を持つポリプロピレン繊維であり、またポリオレフィン(A)とポリスチレン(B)からなるブロックコポリマーを0.5から5.0W%含有するポリプロピレン繊維である。好ましくはブロックコポリマーが(A)・(B)型または(B)・(A)・(B)型であり、また好ましくはブロックコポリマー(A)がエチレン・プロピレン、エチレン・ブチレン、エチレン・プロピレン・エチレンからなり、さらに好ましくは、ブロックコポリマー(A)がスチレンを10W%以上含有するポリプロピレン繊維である。
【0012】
本発明に使用するポリプロピレンは一般的に使用するMFRが20から60の繊維用グレードで良い。メルトブローンの場合にはMFRが200以上、2,000程度まで使用することがある。ポリプロピレンに一般的に使用される紫外線耐光剤、ヒンダードフェノールやヒンダードアミンなどの熱安定剤、酸化チタンなどの艶消し剤、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤、芳香剤などが含まれていても良い。また、物性に影響のない範囲で変性プロピレンが配合されていても良い。
【0013】
また、前記ブロックコポリマーは例えば(A)・(B)型のポリエチレン・プロピレン/ポリスチレン(SEP)、(B)・(A)・(B)型のポリスチレン/ポリエチレン・プロピレン/ポリスチレン(SEPS)、ポリスチレン/ポリエチレン・ブチレン/ポリスチレン(SEBS)、ポリスチレン/(ポリエチレン/ポリエチレン・プロピレン)/ポリスチレン(SEEPS)などがあり、例えばクラレ(株)製セプトン(商標名)としてスチレン含有量の、分子量の異なる各品番が上市されている。
【0014】
前記ブロックコポリマー中、スチレン含有量は10W%以上が染料との親和性が大きいので好ましい。より好ましくは20W%以上である。また、前記ブロックコポリマーの分子量は小さい方が小さなミセルを数多く形成するため好ましい。これらのミセルの小さいものは径がサブミクロンであり、ややペレット状で可視光線を殆ど散乱せず僅かに半透明になるだけである。
【0015】
本発明可染ポリプロピレン繊維中に含有される前記ブロックコポリマーは繊維重量に対して1.0から5.0W%であり、好ましくは2W%から4W%である。前記ブロックコポリマーは必要に応じ、複数タイプを混合して使用することもある。
【0016】
本発明可染ポリプロピレン繊維はフィラメント、ステープル、スパンボンド、メルトブローンなど一般的なマスターバッチまたはコンパウンドを使用する製造方法、および製造設備で良く、例えばフィラメント、ステープル、スパンボンドはダイ温度230から250℃、メルトブローンはダイ温度280から300℃で紡糸される。
フィラメントの場合はスピンドローでPOYを製造した後、仮撚り加工などの後加工によりバルキー糸を製造することもある。
【0017】
本発明可染ポリプロピレン繊維の染色方法は分散染料による高圧染色、または常圧キャリアー染色である。チーズ染色による糸染め、高圧液流染色またはビーム染色による反染め、常圧キャリヤー染色による製品染めなどの適当な染色方法を選択して行う。
【0018】
近年ポリプロ繊維はその疎水性を活用し、スポーツウエア、靴下などの2重織り編み物の内層として使用し、速乾性素材として重宝されている。常圧染色が可能であると、製品染めが可能となり、売れ行きに追随した短期間色別生産供給対応が容易となる。
【0019】
繊維の染色は定法により精錬後、常圧100℃40分、浴比300:1、分散染料 Clariant Foron Navy Sー2GL0.75%owf、 キャリヤー テトロシンOEN−17() 1.2g/L、 分散染料分散均染剤ニッカサンソルト7000(日華化学)0.6g/Lの淡中色染色条件で行い、標準繊維PET100D36Fとの濃淡差を目視で比較した。PETより濃色である時◎、同等である時○、やや劣る時△、殆ど未処理のPPと変わらないか、やや濃色の時×とした。
さらに詳細については実施例にて説明する。
【実施例】
【0020】
実施例1
マトリックスポリマーとしてプライムポリマー(株)製プライムポリプロ(商標名)MFR50のPP98重量部とクラレ(株)製セプトン(商標名)SEP2002タイプ、スチレン含有量30W%2重量部を高速回転2軸混練押し出し機のホッパーから定量供給し、グリセロール2重量部をサイドインジェクションし、スクリュー回転速度400回転/分、最高温度200℃、ダイ温度190℃で索状に押し出し、急冷後カットし、PPコンパウンドペレットを製造した。
【0021】
前記コンパウンドペレットを、紡糸温度250℃、巻き取り速度3,000m/分でスピンドローし、仮撚り加工機により本発明DTY110dTex/36FのPPマルチフィラメントを製造した。この繊維断面のSEM観察結果、直径1μm以下の微細孔多数が観察された。この繊維の引っ張り強度は4.1dN/dTex、伸度52%と良好な機械物性であった。この繊維を靴下編みし、染色試験結果、標準繊維PETよりやや濃色に染色され、◎良好な可染性を示した。また、この染織布の摩擦堅牢度、汗堅牢度、耐光堅牢度は比較PETと同等の結果を示した。
【0022】
比較例1
実施例1と同様にしてプライムポリプロ(商標名)MFR50のPP100重量部にのみ変更し、製造した通常のPP110dTex/36F DTY繊維断面のSEM観察では微細孔は認められず、染色試験結果殆ど分散染料の先着は認められず、僅かに汚染された程度であった。本繊維を未処理PPとした。
【0023】
実施例2
実施例1と同様にして、プライムポリマー(株)製プライムポリプロ(商標名)MFR50のPP99重量部とクラレ(株)製セプトン(商標名)SEP2002タイプ1重量部を高速回転2軸混練押し出し機のホッパーから定量供給し、グリセロール1重量部にのみ変更し、本発明DTY110dTex/36FのPPマルチフィラメントを製造した。この繊維断面のSEM観察結果、直径1μm以下の微細孔多数が観察された。この繊維の引っ張り強度は4.2dN/dTex、伸度54%と良好な機械物性であった。この繊維を靴下編みし、染色試験結果、標準繊維PETとほぼ同程度に染色され、○良好な可染性を示した。
【0024】
実施例3
実施例1と同様にして、プライムポリマー(株)製プライムポリプロ(商標名)MFR50のPP99重量部とクラレ(株)製セプトン(商標名)SEPS2104タイプスチレン含有量65W%1重量部を高速回転2軸混練押し出し機のホッパーから定量供給し、グリセロール1重量部にのみ変更し、本発明DTY110dTex/36FのPPマルチフィラメントを製造した。この繊維断面のSEM観察結果、実施例1および2より大きく、1μm以上の径の微細工もあるが、直径1μm以下の微細孔多数が観察された。この繊維の引っ張り強度は4.0dN/dTex、伸度49%と良好な機械物性であった。この繊維を靴下編みし、染色試験結果、標準繊維PETとやや劣る程度に染色され、○から△の良好な可染性を示した。
【0025】
実施例4
実施例1と同様にして、プライムポリマー(株)製プライムポリプロ(商標名)MFR50のPP99重量部とクラレ(株)製セプトン(商標名)SEPS2063タイプスチレン含有量14%1重量部を高速回転2軸混練押し出し機のホッパーから定量供給し、グリセロール1重量部にのみ変更し、本発明DTY110dTex/36FのPPマルチフィラメントを製造した。この繊維断面のSEM観察結果、実施例1および2より大きく、1μm以上の径の微細工もあるが、直径1μm以下の微細孔多数が観察された。この繊維の引っ張り強度は4.3dN/dTex、伸度55%と良好な機械物性であった。この繊維を靴下編みし、染色試験結果、標準繊維PETとやや劣る程度に染色され、○から△の良好な可染性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
径が1μm以下の独立微細孔を持つポリプロピレン繊維。
【請求項2】
ポリオレフィン(A)とポリスチレン(B)からなるブロックコポリマーを0.5から5.0W%含有する請求項1のポリプロピレン繊維。
【請求項3】
ブロックコポリマーが(A)・(B)型または(B)・(A)・(B)型である請求項1のポリプロピレン繊維。
【請求項4】
ブロックコポリマー(A)がエチレン・プロピレン、エチレン・ブチレン、エチレン・プロピレン・エチレンからなる請求項1から3ポリプロピレン繊維。
【請求項5】
ブロックコポリマー(A)がスチレンを10W%以上含有する請求項1から4のポリプロピレン繊維。

【公開番号】特開2009−150014(P2009−150014A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329401(P2007−329401)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(503188092)有限会社サンサーラコーポレーション (14)
【出願人】(591045105)クラレリビング株式会社 (21)
【Fターム(参考)】