説明

可溶栓

【課題】鉛等の有害物質を一切含まず、作動温度が69℃〜75℃で、58℃〜65℃のクリープ特性に優れた可溶栓を提供する。
【解決手段】プラグ状の本体2内の貫通孔2eに、鉛(Pb)等の有害物質及び錫(Sn)を含有しないとともに、インジウム(In)65±2質量%、銅(Cu)0.5±0.2質量%、アンチモン(Sb)0.5±0.2質量%及び残部ビスマス(Bi)からなる組成を有するはんだ合金3を充填した可溶栓1、11。廃棄処分しても地下水等を汚染する恐れがなく、58℃〜65℃の温度域で優れたクリープ特性を得ることができ、装置内が所定の温度に達して可溶栓が作動する前に、装置内の圧力によってはんだ合金3が押し出されることもない。貫通孔2eは、内径3mm以上5mm以下で、軸線方向の全長が37mm以上とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶栓に関し、特に、冷凍装置において、高温、高圧となる液溜まりやアキュムレータ等に使用される可溶栓に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍装置内の高温、高圧となる液溜まりやアキュムレータ等において、装置(アキュムレータ等)内の圧力上昇や冷媒の温度上昇による装置の破損を防止するため、可溶栓が使用されている。この可溶栓は、貫通孔を有する本体と、この貫通孔に気密性を確保しながら充填される低融点のはんだ合金で構成され、装置内が所定の温度に達した場合には、貫通孔に充填されたはんだ合金が溶融して装置内部の冷媒を外部に放出することにより、装置の破損を防止している。
【0003】
しかし、本体内部の貫通孔に充填されるはんだ合金が、鉛やカドミウム等の有害物質を含んでいると、可溶栓が作動して溶け出たり、可溶栓を適用した装置が廃棄処分された場合、鉛やカドミウム等が溶解流出し、土地、地下水等を汚染するという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献1には、本体内に充填するはんだ合金として、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)及びガリウム(Ga)からなる群から選択される二種以上の鉛(Pb)を含有しない金属からなる可溶栓が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−115940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の可溶栓においては、可溶栓を備えた装置を廃棄処分しても地下水等を汚染することはないが、58℃〜65℃の温度域でのクリープ特性が悪いため、可溶栓が作動温度に到達する前であっても、冷凍装置内の圧力によってはんだ合金が押し出されてしまう恐れがあり、改善の余地があった。
【0007】
また、近年、オゾン層の破壊防止を考慮して、フロンではなく自然冷媒の二酸化炭素を冷媒として使用することがあるが、二酸化炭素を冷媒として使用する場合には、冷凍装置内が従来よりさらに高圧(臨界圧に近い。)となるため、高圧雰囲気にも耐え得るクリープ特性を有するはんだ合金が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、鉛等の有害物質を含むことなく、58℃〜65℃の温度域でのクリープ特性に優れた可溶栓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の可溶栓は、貫通孔を有する本体と、前記貫通孔内に充填されるはんだ合金とを備え、前記はんだ合金は、インジウム(In)65±2質量%、銅(Cu)0.5±0.2質量%、アンチモン(Sb)0.5±0.2質量%及び残部ビスマス(Bi)からなる組成を有し、鉛(Pb)等の有害物質及び錫(Sn)を含有しないことを特徴とする。
【0010】
本発明の可溶栓は、鉛やカドミウム等の有害物質を一切含まず、可溶栓を備えた装置を廃棄処分しても地下水等を汚染することがないことは勿論であるが、このはんだ合金を用いることで、58℃〜65℃の広い温度域で優れたクリープ特性を発揮し、作動温度に達する前に装置内の内圧ではんだ合金が押し出されるという不都合を防止することができる。さらに、69℃〜75℃の温度域ではんだ合金を溶融させることができ、可溶栓に求められる本来の機能を損なうこともない。加えて、上記組成のはんだ合金とすることで、本体内に充填する際の流動性が高くなり、ボイド(気泡)の発生や強度のばらつきを生じることがない。
【0011】
なお、前記可溶栓において、前記本体の貫通孔の内径は3mm以上5mm以下とするのが好ましい。すなわち、貫通孔の内径が3mmに達しないと、貫通孔にはんだ合金を充填することが困難であり、貫通孔の内径が5mmを超えると、上記の優れたクリープ特性を実現することができない恐れがあるからである。
【0012】
また、前記可溶栓において、前記貫通孔の軸線方向の全長を37mm以上とすることが好ましい。これにより、上記温度域で優れたクリープ特性をより得られ易くなる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、鉛等の有害物質を含むことなく、作動温度が70℃近辺にあり、58℃〜65℃の温度域でのクリープ特性に優れた可溶栓を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る可溶栓の第1の実施形態を示す一部破断面図である。
【図2】本発明に係る可溶栓の第2の実施形態を示す一部破断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1(a)は、本発明に係る可溶栓の一実施の形態を示し、この可溶栓1は、プラグ状に形成され、内部に貫通孔2eを有する本体2に、レンチ係合部2aと、冷凍装置の高圧側付属機器の凝縮器や受液器等、あるいは、前記の高圧側となる液溜まり部やアキュムレータ等(以下「被接続箇所」という。)に設けられた雌ねじ部と螺合接続するための第1雄ねじ部2bと、冷凍装置の配管の一部(冷凍装置内が高温、高圧となって可溶栓が作動し、外部に冷媒が放出される場合に、冷凍装置周辺の作業者に影響がない場所に冷媒を導くためのもの)の雌ねじ部と螺合接続するための第2雄ねじ部2cと、本体2の内壁面に形成される環状溝2dと、貫通孔2eに充填され、装置内が所定の温度に達した場合等に溶融するはんだ合金3とを設けて構成される。なお、図1(b)に示す如く、環状溝2dに代えてねじ部2fを設けることもできる。
【0017】
本体2は、その全長Lが37mm以上となるように、また、内部に設けられた貫通孔2eの直径φaが3mm以上5mm以下となるように形成される。これらにより、本体2の貫通孔2eへのはんだ合金の充填が容易で、かつ、58℃〜65℃の温度域で優れたクリープ特性を得ることができる。
【0018】
環状溝2dまたはねじ部2fは、本体2の内壁面に環状に形成され、本体2とはんだ合金3との接着面積を大きくする役割を担う。これにより、本体2とはんだ合金3との接着強度が強化され、はんだ合金3の剥離を防止するとともに、装置内の圧力が急激に上昇した場合に、はんだ合金3が勢いよく飛び出すことを防止する。
【0019】
はんだ合金3は、鉛(Pb)等の有害物質及び錫(Sn)を含有しないとともに、インジウム(In)65±2質量%、銅(Cu)0.5±0.2質量%、アンチモン(Sb)0.5±0.2質量%及び残部ビスマス(Bi)からなる組成を有する低融点金属である。このはんだ合金3の組成が本発明の特徴部分であり、これにより、上記温度域で優れたクリープ特性を得ることができる。また、上記組成によりはんだ合金3を生成した場合には、本体2内に充填する際の流動性が高くなり、ボイド(気泡)の発生や強度のばらつきを抑制することができる。
【0020】
上記実施の形態においては、可溶栓1を第1の雄ねじ部2b及び第2の雄ねじ部2cを介して、冷凍装置の前記被接続箇所及び前記配管と各々接続したが、例えば、前記配管が必要でないユニットの場合には、図2(a)、(b)に示すような可溶栓11を構成し、雄ねじ部12を冷凍装置の前記被接続箇所に設けられた雌ねじ部と螺合することにより、可溶栓11を装着することもできる。なお、可溶栓11の構成要素であって、図1に記載の可溶栓1と同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付している。
【実施例】
【0021】
5台の装置の各々において、装置内圧を4.2MPaに維持し、可溶栓全体をグリセリン液中に浸漬した後、昇温速度を1℃/minとして装置内の温度を上昇させた。なお、はんだ合金3は、錫(Sn)を含有しないとともに、インジウム(In)65質量%、銅(Cu)0.5質量%、アンチモン(Sb)0.5質量%及び残部ビスマス(Bi)からなる組成を有するものとした。試験の結果、いずれの可溶栓においても、69℃〜75℃の温度範囲ではんだ合金3が溶融した。
【0022】
また、上記装置の各々において、可溶栓全体をグリセリン液中に浸漬した後、可溶栓を装置に2ヶ月間装着させた状態で、はんだ合金3の飛び出しの有無を調査した。この際、装置内圧を5〜6.3MPaに維持し、また、装置内の温度は、可溶栓が作動すべき温度より低い65℃に設定した。試験の結果、いずれの可溶栓においても、はんだ合金3の飛び出しは認められなかった。
【0023】
以上のとおり、本発明によれば、(a)69℃〜75℃の温度域ではんだ合金3が溶融し、作動すべき温度域で確実に作動する、(b)作動すべき温度域より低い温度域(58℃〜65℃)において優れたクリープ特性を発揮し、冷凍装置の内圧(5〜6.3MPa)によりはんだ合金3が飛び出すことがない、という効果を奏する可溶栓を得ることができた。
【符号の説明】
【0024】
1 可溶栓
2 本体
2a レンチ係合部
2b 第1雄ねじ部
2c 第2雄ねじ部
2d 環状溝
2e 貫通孔
2f ねじ部
11 可溶栓
12 雄ねじ部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する本体と、前記貫通孔内に充填されるはんだ合金とを備え、前記はんだ合金は、インジウム(In)65±2質量%、銅(Cu)0.5±0.2質量%、アンチモン(Sb)0.5±0.2質量%及び残部ビスマス(Bi)からなる組成を有することを特徴とする可溶栓。
【請求項2】
前記貫通孔の内径は3mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の可溶栓。
【請求項3】
前記貫通孔の軸線方向の全長が37mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の可溶栓。

【図1】
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【図2】
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