説明

可視光染色体異常誘発能力の検定方法及びその利用

【課題】被験物質の可視光染色体異常誘発能力の検定方法等を提供する。
【解決手段】哺乳動物由来の培養細胞に被験物質を接触させ(第一工程)、第一工程で被験物質を接触させた哺乳動物由来の培養細胞を、第一工程における接触開始後12時間以内に可視光の照射下で培養し(第二工程)、第二工程で培養された哺乳動物由来の培養細胞を回収し、回収された哺乳動物由来の培養細胞から染色体標本を作製し(第三工程)、第三工程で作製された染色体標本を観察し、染色体異常発生の有無又はその程度を検査し(第四工程)、第四工程の検査結果によって被験物質の可視光染色体異常誘発能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定する(第五工程)。該検定方法の陽性対照としての、プロフラビン、アクリジンイエロー、アクリジンオレンジの使用等も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光染色体異常誘発能力の検定方法及びその利用等に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の物質等による毒性又は副作用発現の表現型の一つとして、光染色体異常誘発性が知られている。光染色体異常誘発性は、紫外線染色体異常誘発能力を有する物質が細胞に接触した後、太陽光を浴びることによって発現する毒性であり、太陽光の中の紫外線に起因することが知られている。
【0003】
物質が有する紫外線によって染色体異常が誘発される能力(紫外線染色体異常誘発能力)を評価する方法としては、例えば、細胞等を用いるインビトロの方法が知られている。インビトロの方法としては、被験物質を白血球に接触させて紫外線を照射する方法(特許文献1)や、被験物質を多糖類等の高分子化合物と共に紫外線照射し、該高分子化合物の光分解反応をもって評価する方法(特許文献2)が提案されている。
【0004】
一方、紫外線ではなく可視光によって活性化される物質が見つかってきており、注目を集めている。可視光によって活性化される物質には、紫外線と同様に、可視光によって染色体異常が誘発される能力(可視光染色体異常誘発能力)を有する物質(可視光染色体異常誘発物質)が存在すると考えられ、物質が有する可視光染色体異常誘発能力を正しく評価し、検定する方法等が求められている。そのような検定方法等があれば、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を効率的に検定でき、その検定結果を用いて新規の可視光染色体異常誘発物質又は可視光染色体異常誘発能力を有さない物質(可視光染色体異常非誘発物質)を簡便に探索することが可能となる。
【0005】
【特許文献1】特開平7−190936号公報
【特許文献2】特開2001−91510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、物質が有する可視光染色体異常誘発能力を正しく評価する方法は確立しておらず、効率的に可視光染色体異常誘発能力の検定を行なうことができない。さらに、可視光染色体異常誘発能力の検定に陽性対照として使用できる可視光染色体異常誘発物質も今までに殆んど知られていない。同様に、所望の新規可視光染色体異常誘発物質又は所望の新規可視光染色体異常非誘発物質を選抜する方法も確立しておらず、簡便に可視光染色体異常誘発物質を探索することができない。
【0007】
本発明の目的は、物質が有する可視光染色体異常誘発能力を検定する方法を提供し、同時に、該検定方法に用いることができる陽性対照物質、及び、該検定方法に用いることができる陽性対照試薬、該検定方法を用いる可視光染色体異常誘発物質の探索方法、該検定方法を用いる可視光染色体異常非誘発物質の探索方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、物質が有する可視光染色体異常誘発能力を効率的に検定する方法を開発すべく、哺乳動物由来の培養細胞を用いた可視光染色体異常誘発能力の評価系を構築することを試みた。その結果、被験物質を接触させた哺乳動物由来の培養細胞を、被験物質接触開始後12時間以内に可視光の照射下で培養し、その染色体異常発生を検査することにより、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を効率的に検定することができることを見出した。さらに、該検定方法に陽性対照として用いることができる可視光染色体異常誘発物質を見出した。さらに、該検定方法を用いて所望の可視光染色体異常誘発物質又は可視光染色体異常非誘発物質を簡便に探索できることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
請求項1記載の発明(以下、本発明検定方法と記すこともある。)は、下記工程(1)〜(5)を有することを特徴とする可視光染色体異常誘発能力の検定方法である。
(1)哺乳動物由来の培養細胞に被験物質を接触させる第一工程、
(2)第一工程で被験物質を接触させた哺乳動物由来の培養細胞を、第一工程における接触開始後12時間以内に可視光の照射下で培養する第二工程、
(3)第二工程で培養された哺乳動物由来の培養細胞を回収し、回収された哺乳動物由来の培養細胞から染色体標本を作製する第三工程、
(4)第三工程で作製された染色体標本を観察し、染色体異常発生の有無又はその程度を検査する第四工程、
(5)第四工程の検査結果によって被験物質の可視光染色体異常誘発能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定する第五工程。
【0010】
本発明は可視光染色体異常誘発能力の検定方法にかかり、哺乳動物由来の培養細胞に被験物質を接触させ(第一工程)、第一工程で被験物質を接触させた哺乳動物由来の培養細胞を、第一工程における接触開始後12時間以内に可視光の照射下で培養し(第二工程)、第二工程で培養された哺乳動物由来の培養細胞を回収し、回収された哺乳動物由来の培養細胞から染色体標本を作製し(第三工程)、第三工程で作製された染色体標本を観察し、染色体異常発生の有無又はその程度を検査し(第四工程)、第四工程の検査結果によって被験物質の可視光染色体異常誘発能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定する(第五工程)。本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法によれば、被験物質の可視光染色体異常誘発能力の検定を効率的に行なうことができる。
【0011】
請求項2記載の発明は、可視光は、複数の波長においてエネルギー極大値を有する分光分布を有する可視光であることを特徴とする請求項1記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法である。
【0012】
本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法では、複数の波長においてエネルギー極大を有する分光分布を有する可視光を用いる。かかる構成により、より正確かつ効率的に被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定することができる。
【0013】
請求項3記載の発明は、前記第五工程において、前記第四工程の検査結果と、対照の哺乳動物由来の培養細胞における染色体異常発生の有無又はその程度の検査結果とを比較し、その差異に基づいて被験物質の可視光染色体異常誘発能力の有無又はその程度を評価することを特徴とする請求項1又は2記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法である。
【0014】
本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法では、対照の哺乳動物由来の培養細胞を設定し、被験物質を接触させた哺乳動物由来の培養細胞における染色体異常発生の検査結果と、対照の哺乳動物由来の培養細胞における染色体異常発生の検査結果とを比較し、その差異に基づいて被験物質の可視光染色体異常誘発能力の有無又はその程度を評価する。かかる構成により、より正確かつ効率的に被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定することができる。尚、対照としては、例えば、陰性対照及び陽性対照の両方が適用可能である。
【0015】
請求項4記載の発明は、哺乳動物由来の培養細胞に既知の可視光染色体異常誘発物質を接触させた陽性対照を含むことを特徴とする請求項3記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法である。
【0016】
本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法では、哺乳動物由来の培養細胞に既知の可視光染色体異常誘発物質を接触させた陽性対照を用いる。かかる構成により、より正確かつ効率的に被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定することができる。さらに、陽性対照の可視光染色体異常誘発物質が有する可視光染色体異常誘発能力との比較で、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を定量的に評価し、検定することもできる。
【0017】
請求項5記載の発明は、前記可視光染色体異常誘発物質は、プロフラビン、アクリジンイエロー又はアクリジンオレンジであることを特徴とする請求項4記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法である。
【0018】
プロフラビン(Proflavine、化学名:2,8-diaminoacridine、化学式:C13H11N3、CAS:1811-28-5)、アクリジンイエロー(acridine yellow、化学名:2,8-diamino-3,7-dimethylacridine、化学式:C15H15N3、CAS:135-49-9)及びアクリジンオレンジ(acridine orange、化学名:3,6-bis(dimethylamino)acridine、化学式:C17H19N3、CAS:65-61-2)はアクリジン骨格を持つ多環芳香族化合物である。プロフラビン、アクリジンイエロー又はアクリジンオレンジが可視光染色体異常誘発能力を有することは、本発明者らによって初めて明らかにされた。そして、本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法では、プロフラビン、アクリジンイエロー又はアクリジンオレンジを、陽性対照の哺乳動物由来の培養細胞に接触させる。かかる構成により、プロフラビン、アクリジンイエロー又はアクリジンオレンジが有する可視光染色体異常誘発能力との比較で、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を定量的に評価し、検定することもできる。
【0019】
請求項6記載の発明は、前記第二工程の後、培養された哺乳動物由来の培養細胞に再び被験物質を接触させ、被験物質接触開始後12時間以内に該哺乳動物由来の培養細胞を可視光の照射下で再び培養する工程、を1回以上繰り返した後、第三工程に供することを特徴とする請求項1〜5のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法である。
【0020】
本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法においては、第二工程の後(第三工程の前)に、「培養された哺乳動物由来の培養細胞に再び被験物質を接触させ、被験物質接触開始後12時間以内に該哺乳動物由来の培養細胞を可視光の照射下で再び培養する工程」を1回以上繰り返した後、第三工程に供する。即ち、本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法では、被験物質を哺乳動物由来の培養細胞に反復接触させる。かかる構成により、高感度に被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定することができる。
【0021】
請求項7記載の発明は、前記哺乳動物由来の培養細胞は、ヒト、モルモット、ラット、マウス、チャイニーズハムスター又はウサギ由来の初代培養細胞又は株化細胞であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法である。
【0022】
かかる構成により、哺乳動物由来の培養細胞の取り扱いが容易となり、より簡便に被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定することができる。
【0023】
請求項8記載の発明は、可視光の照射強度が150ルクス以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法である。
【0024】
かかる構成により、より確実に被験物質の可視光染色体異常誘発能力を発現させることができ、可視光染色体異常誘発能力の検定が容易となる。
【0025】
請求項9記載の発明は、請求項1〜8のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法のための、陽性対照としてのプロフラビンの使用である。
【0026】
また請求項10記載の発明は、請求項1〜8のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法のための、陽性対照としてのアクリジンイエローの使用である。
【0027】
また請求項11記載の発明は、請求項1〜8のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法のための、陽性対照としてのアクリジンオレンジの使用である。
【0028】
本発明は、可視光染色体異常誘発能力の検定方法のための、陽性対照としてのプロフラビンの使用、アクリジンイエローの使用又はアクリジンオレンジの使用にかかるものである。本発明によれば、プロフラビン、アクリジンイエロー又はアクリジンオレンジが有する可視光染色体異常誘発能力との比較で、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を定量的に評価し、検定することもできる。
【0029】
請求項12記載の発明は、請求項1〜8のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法に用いるための陽性対照試薬であって、プロフラビンを含有することを特徴とする陽性対照試薬である。
【0030】
また請求項13記載の発明は、請求項1〜8のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法に用いるための陽性対照試薬であって、アクリジンイエローを含有することを特徴とする陽性対照試薬である。
【0031】
また請求項14記載の発明は、請求項1〜8のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法に用いるための陽性対照試薬であって、アクリジンオレンジを含有することを特徴とする陽性対照試薬である。
【0032】
本発明は陽性対照試薬にかかり、プロフラビン、アクリジンイエロー又はアクリジンオレンジを含有することを特徴とし、本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法に陽性対照試薬として使用される。本発明の陽性対照試薬を用いれば、本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定における陽性対照の実験を簡便に行なうことができる。
【0033】
請求項15記載の発明は、請求項1〜8のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法によって、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定し、所望の可視光染色体異常誘発能力を有する物質を選抜することを特徴とする可視光染色体異常誘発物質の探索方法である。
【0034】
本発明は可視光染色体異常誘発物質の探索方法にかかり、上記された可視光染色体異常誘発能力の検定方法によって、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定し、所望の可視光染色体異常誘発能力を有する物質を選抜することを特徴とする。かかる構成により、所望の可視光染色体異常誘発物質を簡便に探索することができる。
【0035】
請求項16記載の発明は、請求項1〜8のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法によって、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定し、所望の可視光染色体異常誘発能力を有さない物質を選抜することを特徴とする可視光染色体異常非誘発物質の探索方法である。
【0036】
本発明は可視光染色体異常非誘発物質の探索方法にかかり、上記された可視光染色体異常誘発能力の検定方法によって、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定し、所望の可視光染色体異常誘発能力を有さない物質を選抜することを特徴とする。かかる構成により、所望の可視光染色体異常非誘発物質を簡便に探索することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法によれば、被験物質の可視光染色体異常誘発能力の検定を効率的に行なうことができる。さらに、本発明では、該検定方法に陽性対照として用いることができる可視光染色体異常誘発物質を提供することができる。
【0038】
本発明の可視光染色体異常誘発物質の探索方法によれば、所望の可視光染色体異常誘発物質又は可視光染色体異常非誘発物質の探索を簡便に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0040】
本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法は、下記工程(1)〜(5)、
(1)哺乳動物由来の培養細胞に被験物質を接触させる第一工程、
(2)第一工程で被験物質を接触させた哺乳動物由来の培養細胞を、第一工程における接触開始後12時間以内に可視光の照射下で培養する第二工程、
(3)第二工程で培養された哺乳動物由来の培養細胞を回収し、回収された哺乳動物由来の培養細胞から染色体標本を作製する第三工程、
(4)第三工程で作製された染色体標本を観察し、染色体異常発生の有無又はその程度を検査する第四工程、
(5)第四工程の検査結果によって被験物質の可視光染色体異常誘発能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定する第五工程、
を有する。
【0041】
本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法に使用される被験物質としては特に限定はなく、全ての化学物質が対象となるが、例えば、化粧品、医薬品、食品等に適用される化学物質が被験物質として使用される。
【0042】
本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法で使用される哺乳動物由来の培養細胞は、培養可能であれば特に制限はない。好ましい実施形態では、培養が容易なヒト、モルモット、ラット、マウス、チャイニーズハムスター又はウサギ等由来の初代培養細胞又は株化細胞が用いられる。
【0043】
上記第一工程では、哺乳動物由来の培養細胞に被験物質を接触させる。哺乳動物由来の培養細胞と被験物質との接触時間として、例えば、5分間以上を、好ましくは30分間以上14日以内、より好ましくは1時間以上24時間以内等を挙げることができる。当該接触系における保温温度としては、例えば、15℃〜42℃程度を、好ましくは35℃〜42℃程度、より好ましくは35℃〜37℃程度、特に好ましくは37℃程度等を挙げることができる。
上記第一工程における被験物質接触時の炭酸ガス濃度としては、例えば、0%〜20%程度等を挙げることができる。
上記第一工程における被験物質接触時の好ましい湿度としては、例えば、95±5%rh程度、好ましくは100%rh程度等を挙げることができる。
【0044】
哺乳動物由来の培養細胞に接触させる被験物質の濃度及び適用量については、特に限定はなく、被験物質の種類、予想される被験物質の可視光染色体異常誘発能力、第二工程での培養時間、第二工程での可視光照射時間等によって適宜決定すればよい。例えば、0.001μM〜10mM程度で、好ましくは0.01μM〜5mM程度等を挙げることができる。
【0045】
上記第一工程における接触系内での哺乳動物由来の培養細胞の密度としては、例えば、1×103cell/cm2〜1×105cell/cm2程度で、好ましくは3×103cell/cm2〜3×104cell/cm2程度等を挙げることができる。
【0046】
上記第二工程では、第一工程で被験物質を接触させた哺乳動物由来の培養細胞を、第一工程における接触開始後12時間以内に可視光の照射下で培養する。そして、被験物質が可視光染色体異常誘発能力を有する場合には、本工程でその可視光染色体異常誘発能力を発現させることができる。このとき、可視光を吸収する色素を含まない培養液を使用することが好ましい。
【0047】
好ましい実施形態では、第一工程における接触開始後2時間以内、より好ましくは1時間以内、特に好ましくは実質的に直後(具体的には例えば、30分間以内)に可視光の照射下で培養する。ちなみに、第一工程における接触開始後から第二工程における可視光の照射開始前までの期間において、第一工程で被験物質を接触させた哺乳動物由来の培養細胞は、例えば、15℃〜42℃程度を、好ましくは35℃〜42℃程度、より好ましくは35℃〜37℃程度、特に好ましくは37℃程度等の培養温度下でかつ可視光の非照射下で培養しておけばよい。また第一工程における被験物質の哺乳動物由来の培養細胞に対する12時間以内の接触の後、当該培養細胞を洗浄・培地交換してから第二工程における可視光の照射に供することによって、細胞外にある被験物質の影響を排除し、第一工程において細胞内にとりこまれた被験物質の作用のみを評価することもできる。
上記第二工程における培養時の炭酸ガス濃度としては、例えば、0%〜20%程度等を挙げることができる。
上記第二工程における培養時の湿度としては、例えば、95±5%rh程度、好ましくは100%rh程度等を挙げることができる。
【0048】
好ましい実施形態では、「可視光」は、複数の波長においてエネルギー極大値を有する分光分布を有する可視光である。このような可視光の代表例としては、家庭用一般蛍光灯が発する光等を挙げることができる。即ち、青色領域(400nm付近)、緑色領域(550nm付近)及び桃色領域(650nm付近)においてエネルギー極大値を有する可視光等が挙げられる。
【0049】
上記第二工程では、被験物質の「可視光照射下での接触時間」を調節することができる。即ち、培養時間及び可視光の照射時間を適宜設定することにより、所望の「可視光照射下での接触時間」を実現することができる。尚、可視光の照射は連続的又は間欠的に行なうことができる。可視光の照射を連続的に行なう場合には、培養時間が「可視光照射下での接触時間」に相当する。例えば、連続的な可視光照射の下で、1時間、12時間、24時間又は48時間培養することにより、1時間、12時間、24時間又は48時間の「可視光照射下での接触時間」を実現することができる。一方、可視光の照射を間欠的に行なう場合には、可視光の照射時間が「可視光照射下での接触時間」に相当する。例えば、24時間の培養期間中、最初の12時間を可視光下で培養し、残りの12時間を可視光を遮断した状態で培養することにより、12時間の「可視光照射下での接触時間」を実現することができる。
そして、本工程における「可視光照射下での接触時間」は、例えば、30分間以上を採用することができ、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、特に好ましくは24時間以上である。また、哺乳動物由来の培養細胞の培養温度としては、例えば、15℃〜42℃程度を、好ましくは35℃〜42℃程度、より好ましくは35℃〜37℃程度、特に好ましくは37℃程度等を挙げることができる。
【0050】
尚、勿論、本発明検定方法における好ましい実施形態では、上記第一工程(即ち、薬剤との接触)と上記第二工程(即ち、可視光照射下での培養)とが同時に進行しながら実施してもよい。
【0051】
好ましい実施形態では、上記第二工程の後、培養された哺乳動物由来の培養細胞に再び被験物質を接触させ、被験物質接触開始後12時間以内に該哺乳動物由来の培養細胞を可視光の照射下で再び培養する工程、を1回以上繰り返した後、第三工程に供してもよい。即ち、本実施形態では被験物質を反復接触させる。例えば、哺乳動物由来の培養細胞に被験物質を接触させる場合には、接触時間の進行は、当該培養細胞を洗浄・培地交換して被験物質を除去することにより止めることができるので、被験物質の「接触」と「洗浄・培地交換」とを繰り返すことにより、被験物質を蓄積させずに反復接触を行なうことができる。具体例を挙げると、第二工程で可視光の照射下で24時間培養した時点で、培養細胞を洗浄・培地交換して被験物質を除去する。その後ただちに培養細胞に被験物質を接触させ、可視光の照射下で再び24時間培養する(第1サイクル)。可視光の照射下での培養24時間経過時に、培養細胞を洗浄・培地交換して被験物質を除去する。その後ただちに培養細胞に被験物質を接触させ、可視光の照射下で再び24時間培養する(第2サイクル)。このサイクルを所望の回数だけ繰り返すことにより、反復接触を行なうことができる。一方、「洗浄・培地交換」を行なわずに被験物質を蓄積させながら反復接触させる方法も採用可能である。
【0052】
好ましい実施形態では、可視光の照射強度が150ルクス以上であり、より好ましくは500〜10000ルクスの範囲であり、特に好ましくは1000〜6000ルクスの範囲である。150ルクス以上の照射強度とすることにより、より確実に被験物質の可視光染色体異常誘発能力を発現させることができる。
【0053】
上記第三工程では、第二工程で培養された哺乳動物由来の培養細胞を回収し、回収された哺乳動物由来の培養細胞から染色体標本を作製する。
染色体標本の作製方法としては、例えば、ギムザ染色法等の染色体検査法における通常用いられる方法を挙げることができる。具体的には、哺乳動物由来の培養細胞を、必要に応じて細胞膨化処理・固定処理の後、スライドグラス上に滴下する。次いで、当該スライドグラス上に展開して染色前染色体標本を作製する。当該染色前染色体標本をギムザ染色することにより染色後染色体標本を作製する。
【0054】
上記第四工程では、第三工程で作製された染色体標本を観察し、染色体異常発生の有無又はその程度を検査する。染色体異常発生の有無又はその程度は、例えば、第三工程で作製された染色体標本から染色体の分析を行う。具体的には、第三工程で作製された染色体標本を顕微鏡で観察して、例えば、染色体の数的異常、構造異常等の核型分析等を調べることにより、染色体の切断、交換等の染色体異常発生の有無又はその程度を検査する。
【0055】
その他にも、例えば、染色前染色体標本を蛋白分解酵素であるトリプシンで処理した後ギムザ染色するGバンド分染法(chromosome analysis by giemsa banding)、DNAプローブを用いた in situ hybridizationにより染色体及び遺伝子部位を確認するようなクロモゾームペインテイング法及びFISH法(9番染色体プローブによる9番染色体異常の確認、プラダー・ウィリー症候群のFISH法による確認、分裂細胞におけるX/Y染色体プローブによるFISH法、休止核におけるX/Y染色体プローブによるFISH法)や、突然変異原検出法(姉妹染色分体交換法(SCE法)や、小核試験法、コメット法)等を用いて染色体異常発生の有無又はその程度を検査することもできる。
【0056】
上記第五工程では、第四工程の検査結果によって被験物質の可視光染色体異常誘発能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定する。被験物質の可視光染色体異常誘発能力の有無又はその程度を評価する際、対照を設定せずに第四工程の検査結果の絶対値で評価してもよいし、対照を設定し、その検査結果との比較で評価してもよい。
【0057】
好ましい実施形態では、上記第四工程の検査結果と、対照の哺乳動物由来の培養細胞における染色体異常発生の有無又はその程度の検査結果とを比較し、その差異に基づいて被験物質の可視光染色体異常誘発能力の有無又はその程度を評価する。ここで、「対照」には陰性対照及び陽性対照の両方が設定可能である。陰性対照の例としては、可視光を照射せずに培養する哺乳動物由来の培養細胞群、照射強度が弱い可視光の照射下で培養する哺乳動物由来の培養細胞群、可視光染色体異常誘発能力を有さないことが予め分かっている物質(例えば、溶媒のみ)を接触させる哺乳動物由来の培養細胞群、等が挙げられる。このような陰性対照を用いる場合には、以下のような検定が可能となる。即ち、被験物質における染色体異常発生の有無又はその程度の検査結果と、陰性対照における染色体異常発生の有無又はその程度の検査結果とを比較する。そして、被験物質における染色体異常発生の有無又はその程度の方が高い場合には、当該被験物質は可視光染色体異常誘発能力を有すると評価し、検定することもできる。
【0058】
さらに好ましい実施形態では、前記対照は、哺乳動物由来の培養細胞に既知の可視光染色体異常誘発物質を接触させた陽性対照を含む。陽性対照の例としては、可視光染色体異常誘発能力を有することが予め分かっている基準物質を接触させて、可視光の照射下で培養する哺乳動物由来の培養細胞群が挙げられる。このような陽性対照を用いる場合には、以下のような検定が可能となる。即ち、被験物質における染色体異常発生の有無又はその程度の検査結果と、陽性対照における染色体異常発生の有無又はその程度の検査結果とを比較する。そして、被験物質における染色体異常発生の有無又はその程度の方が高い場合には、当該被験物質は陽性対照で用いた基準物質よりも高い可視光染色体異常誘発能力を有すると評価し、検定することもできる。さらに、当該基準物質の各濃度又は各適用量において同様に評価し、検定することにより、当該被験物質の可視光染色体異常誘発能力を定量的に評価し、検定することができる。この際、陽性対照と上記の陰性対照とを併用して設定してもよい。また、陽性対照における染色体異常発生の有無又はその程度が陰性対照におけるそれよりも高いことをもって、可視光の照射が正しく行われ、試験が成立したことを示すこともできる。
【0059】
さらに好ましい実施形態では、プロフラビン、アクリジンイエロー又はアクリジンオレンジを基準物質として陽性対照に用いる。プロフラビン、アクリジンイエロー及びアクリジンオレンジが可視光染色体異常誘発能力を有することは、本発明者らによって初めて明らかにされた。
【0060】
本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法のための、プロフラビンの陽性対照としての使用も、本発明の1つである。さらに、本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法のための、アクリジンイエローの陽性対照としての使用も、本発明の1つである。また、本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法のための、アクリジンオレンジの陽性対照としての使用も、本発明の1つである。
【0061】
本発明の陽性対照試薬の1つの様相は、本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法に用いるための陽性対照試薬であって、プロフラビンを含有する。また、本発明の陽性対照試薬の他の様相は、本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法に用いるための陽性対照試薬であって、アクリジンイエローを含有する。また、本発明の陽性対照試薬の他の様相は、本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法に用いるための陽性対照試薬であって、アクリジンオレンジを含有する。試薬の形状としては、プロフラビン、アクリジンイエロー、アクリジンオレンジをそのまま用いてもよいし、溶媒に溶かして溶液状としてもよい。さらに、適宜の基剤に含有又は分散させた形状でもよい。
【0062】
本発明の可視光染色体異常誘発物質の探索方法は、本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法によって、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定し、所望の可視光染色体異常誘発能力を有する物質を選抜するものである。本発明の可視光染色体異常誘発物質の探索方法においても、上記した本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法と同様の実施形態をとることができる。例えば、上記の陰性対照を用いる場合には、被験物質における染色体異常発生(例えば、染色体の数的異常、構造異常等)の有無又はその程度の検査結果と、陰性対照における染色体異常発生の有無又はその程度の検査結果とを比較する。そして、陰性対照よりも染色体異常発生の有無又はその程度が統計学的に有意に高い被験物質を選抜するか、又は、何らかの染色体異常を有する培養細胞の割合が例えば5%以上となる被験物質を選抜すればよい。
【0063】
一方、プロフラビン、アクリジンイエロー、アクリジンオレンジ等の陽性対照が用いられる場合には、被験物質における染色体異常発生の有無又はその程度の検査結果と、陽性対照における染色体異常発生の有無又はその程度の検査結果とを比較する。そして、陽性対照よりも染色体異常発生の有無又はその程度が統計学的に有意に高い被験物質を選抜するか、又は、何らかの染色体異常を有する培養細胞の割合が同じであるときの濃度が、陽性対照の濃度よりも低い被験物質を選抜することにより、陽性対照で用いられた基準物質よりも高い可視光染色体異常誘発能力を有する物質を選抜することができる。また、陽性対照が用いられる場合には、染色体異常発生の有無又はその程度を定量的に評価し、検定することもできる。具体的には、プロフラビン、アクリジンイエロー、アクリジンオレンジ等の基準物質の各濃度又は各適用量において、被験物質に対して同様に評価し、検定することにより、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を定量的に評価し、検定することができる、そして、所望の可視光染色体異常誘発能力をする物質を選抜する。
【0064】
本発明の可視光染色体異常非誘発物質の探索方法は、本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法によって、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定し、所望の可視光染色体異常誘発能力を有さない物質を選抜するものである。本発明の可視光染色体異常非誘発物質の探索方法においても、上記した本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法と同様の実施形態をとることができる。
尚、探索の対象となる被験物質は、所望の可視光染色体異常誘発能力を有さない物質であれば何でもよく、例えば、低分子化合物、蛋白質、ペプチド等が挙げられる。
【0065】
本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法に基づくシステム工程を有する装置によれば、被験物質の可視光染色体異常誘発能力の検定をより効率的に行なうことができ、所望の可視光染色体異常誘発物質又は可視光染色体異常非誘発物質をより簡便に探索することもできる。また、本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法によって得られた可視光染色体異常性に関する毒性情報を電子情報記録媒体に記録することにより、毒性情報を包含する有用な電子情報記録媒体を作製することができる。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
実施例1 (可視光染色体異常誘発能力の検定及び可視光染色体異常誘発物質の探索:その1)
本実施例では、被験物質の単回接触、1000ルクス照射によって可視光染色体異常誘発能力の検定及び可視光染色体異常誘発物質の探索ができることを示した。さらに、プロフラビンが、該検定方法、該探索方法における陽性対照として使用できることを示した。
【0068】
プロフラビン(ICN Biomedicals Inc.)をジメチルスルホキシドに溶解し、0.008mg/mLの濃度からなる試験液を調製した。
【0069】
大日本製薬(株)から購入したチャイニーズハムスター肺由来の接着性培養細胞株CHL/IUを使用した。当該接着性培養細胞を0.02%トリプシンで洗った後、培養液を加えてパスツールピペットを用いて浮遊させ、細胞懸濁液として回収した。回収された細胞懸濁液を培養液を用いて3×103個/mLに調製し、これを60mmプラスチック製培養シャーレに5mLずつ分注した。これを37℃、5%CO2存在下で3日間培養することにより、細胞を接着させた。
【0070】
培養液としては、イーグルMinimum Essential Medium(MEM培地(2)、日水製薬) 500mLに下記の成分が添加されたものが用いられた。
・Bovine Serum(LIFE TECHNOLOGIES, INC.) 56mL
・3%グルタミン(和光純薬工業) 5mL
・10%炭酸水素ナトリウム(和光純薬工業) 6mL
このようにして、本試験に用いる接着性培養細胞を調製した。
【0071】
次に、上記で調製された試験液を、上記で調製された接着性培養細胞が付着した培養シャーレにそれぞれ50μLずつ添加することにより、前記接着性培養細胞と前記被験物質とを接触させた。
【0072】
各被験物質が適用された直後に、前記の接着性培養細胞が付着した培養シャーレを、可視光の照射・非照射と培養室内の温度調整とを精密制御できる専用培養装置にて、培養温度36.0〜37.0℃、湿度95±5%rhの条件で、家庭用一般蛍光灯による1000ルクスの可視光の照射下で1日間培養した。一方、陰性対照として、ジメチルスルホキシド又は被験物質を添加して可視光を照射しない群、及びジメチルスルホキシドのみを添加して被験物質群と同様に可視光を照射した群を設定した。また、各群とも1枚以上の培養シャーレで構成した。
【0073】
培養終了の1.5時間前にコルセミド(Invitrogen Corporation)を培養液中の濃度が0.1μg/mLとなるように加えた。培養終了後、培養液を廃棄して0.04%トリプシン液5mLを加え、パスツールピペットを用いて当該接着性培養細胞をシャーレから剥離して細胞浮遊液を調製した。遠心分離(300rpm)により培養細胞を回収し、回収された培養細胞と、予め37℃に加温された75mM塩化カルシウム水溶液4mLとを混合した。当該混合物を撹拌した後、20分間静置することにより細胞膨化処理を行った。
次いで、細胞膨化処理された培養細胞と、メタノール:酢酸=3:1(v/v)からなる固定液1mLとを混合した。当該混合物を撹拌した後、遠心分離(300rpm)により培養細胞を回収した。回収された培養細胞と、上記の固定液4mLとを混合した。当該混合物を撹拌した後、遠心分離(300rpm)により培養細胞を回収する操作を2回繰り返して固定処理を行った。固定処理後、回収された培養細胞を0.5mL程度の固定液に浮遊させた。当該細胞浮遊液をスライドガラスに2滴滴下した。当該染色前染色体標本を1日間以上風乾させた後、これを3%ギムザ液(Merck)で20分間染色し、カバーガラスと封入用樹脂(ダイヤテックス,松浪硝子工業)とで封入することにより、染色体標本を得た。
【0074】
生物顕微鏡(オリンパス)で油浸下、1000倍の倍率で、培養シャーレ当たり100個の分裂中期像を観察した。染色体異常は、染色体の数的異常(倍数体)及び構造異常等について観察した。
【0075】
プロフラビン処理群及びジメチルスルホキシドのみを添加して可視光を照射した陰性対照群における、染色体の構造異常を示す培養細胞の出現頻度と倍数体の出現頻度とを表1に纏めて記載した。
【0076】
表1から明らかなように、プロフラビン処理群では、染色体の構造異常を示す培養細胞の出現頻度と倍数体の出現頻度との両者は共に5%以上であり、プロフラビンには可視光染色体異常誘発能力があることが明らかになった。
【0077】
また、プロフラビン処理群について、ジメチルスルホキシドのみを添加して被験物質群と同様に可視光を照射した陰性対照群に対する統計学的有意差の有無をカイ2乗検定によって検定した結果、染色体の構造異常を示す培養細胞の出現頻度と倍数体の出現頻度との両者は共に、有意水準を1%未満とする有意差がみられ、統計学的手法によってもプロフラビンには可視光染色体異常誘発能力があることが確認された。
【0078】
さらに、被験物質を添加して可視光を照射しなかった陰性対照群の染色体の構造異常を示す培養細胞の出現頻度と倍数体の出現頻度とを表2に纏めて記載した。表1と表2とのプロフラビン処理群を比較すると、可視光を照射した場合のほうが可視光を照射しない場合よりも染色体異常の発生頻度が高いことが確認された。即ち、可視光照射による可視光染色体異常誘発能力の増強が明らかとなった。
【0079】
これらは、プロフラビンが可視光染色体異常誘発能力を有することを示しており、本発明者らが初めて見出した知見である。
以上より、本実施例の手順(単回接触、1000ルクス照射)によって被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定でき、かつ、被験物質の中から可視光染色体異常誘発物質を探索できることが示された。
さらに、プロフラビンが、本検定方法の陽性対照として使用できることも示された。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】


実施例2 (可視光染色体異常誘発能力の検定及び可視光染色体異常誘発物質の探索:その2)
【0082】
本実施例では、被験物質の単回接触、6000ルクス照射によって可視光染色体異常誘発能力の検定及び可視光染色体異常誘発物質の探索ができることを示した。さらに、プロフラビン、アクリジンイエロー及びアクリジンオレンジが、該検定方法、該探索方法における陽性対照として使用できることを示した。
【0083】
プロフラビン(ICN Biomedicals Inc.)をジメチルスルホキシドに溶解し、0.004mg/mLの濃度からなる試験液を調製した。アクリジンイエロー(MP Biomedicals)をジメチルスルホキシドに溶解し、0.025及び0.05mg/mLの濃度からなる試験液を調製した。アクリジンオレンジ(和光純薬工業株式会社)をジメチルスルホキシドに溶解し、0.0025及び0.004mg/mLの濃度からなる試験液を調製した。
【0084】
大日本製薬(株)から購入したチャイニーズハムスター肺由来の接着性培養細胞株CHL/IUを使用した。当該接着性培養細胞を0.02%トリプシンで洗った後、培養液を加えてパスツールピペットを用いて浮遊させ、細胞懸濁液として回収した。回収された細胞懸濁液を培養液を用いて3×103個/mLに調製し、これを60mmプラスチック製培養シャーレに5mLずつ分注した。これを37℃、5%CO2存在下で3日間培養することにより、細胞を接着させた。
【0085】
培養液としては、イーグルMinimum Essential Medium(MEM培地(2)、日水製薬) 500mLに下記の成分が添加されたものが用いられた。
・Bovine Serum(LIFE TECHNOLOGIES, INC.) 56mL
・3%グルタミン(和光純薬工業) 5mL
・10%炭酸水素ナトリウム(和光純薬工業) 6mL
このようにして、本試験に用いる接着性培養細胞を調製した。
【0086】
次に、上記で調製された試験液を、上記で調製された接着性培養細胞が付着した培養シャーレにそれぞれ50μLずつ添加することにより、前記接着性培養細胞と前記被験物質とを接触させた。
【0087】
各被験物質が適用された直後に、前記の接着性培養細胞が付着した培養シャーレを、可視光の照射・非照射と培養室内の温度調整とを精密制御できる専用培養装置にて、培養温度36.0〜37.0℃の条件で、家庭用一般蛍光灯による6000ルクスの可視光の照射下で2時間培養した。2時間の照射下培養の後、温度調整が精密に制御できる培養装置にて、可視光の非照射下で22時間培養した。一方、陰性対照として、ジメチルスルホキシド又は被験物質を添加して可視光を照射しない群、及びジメチルスルホキシドのみを添加して被験物質群と同様に可視光を照射した群を設定した。また、各群とも1枚以上の培養シャーレで構成した。
【0088】
培養終了の1.5時間前にコルセミド(Invitrogen Corporation)を培養液中の濃度が0.1μg/mLとなるように加えた。培養終了後、培養液を廃棄して0.04%トリプシン液5mLを加え、パスツールピペットを用いて当該接着性培養細胞をシャーレから剥離して細胞浮遊液を調製した。遠心分離(300rpm)により培養細胞を回収し、回収された培養細胞と、予め37℃に加温された75mM塩化カルシウム水溶液4mLとを混合した。当該混合物を撹拌した後、20分間静置することにより細胞膨化処理を行った。
次いで、細胞膨化処理された培養細胞と、メタノール:酢酸=3:1(v/v)からなる固定液1mLとを混合した。当該混合物を撹拌した後、遠心分離(300rpm)により培養細胞を回収した。回収された培養細胞と、上記の固定液4mLとを混合した。当該混合物を撹拌した後、遠心分離(300rpm)により培養細胞を回収する操作を2回繰り返して固定処理を行った。固定処理後、回収された培養細胞を0.5mL程度の固定液に浮遊させた。当該細胞浮遊液をスライドガラスに2滴滴下した。当該染色前染色体標本を1日間以上風乾させた後、これを3%ギムザ液(Merck)で20分間染色し、カバーガラスと封入用樹脂(ダイヤテックス,松浪硝子工業)とで封入することにより、染色体標本を得た。
【0089】
生物顕微鏡(オリンパス)で油浸下、1000倍の倍率で、培養シャーレ当たり100個の分裂中期像を観察した。染色体異常は、染色体の数的異常(倍数体)及び構造異常等について観察した。
【0090】
プロフラビン処理群、アクリジンイエロー処理群及びアクリジンオレンジ処理群、及びジメチルスルホキシドのみを添加して可視光を照射した陰性対照群における、染色体の構造異常を示す培養細胞の出現頻度と倍数体の出現頻度とを表3に纏めて記載した。
【0091】
表1から明らかなように、プロフラビン処理群、アクリジンイエロー処理群及びアクリジンオレンジ処理群では、染色体の構造異常を示す培養細胞の出現頻度と倍数体の出現頻度との両者は共に5%以上であり、プロフラビン、アクリジンイエロー及びアクリジンオレンジには可視光染色体異常誘発能力があることが明らかになった。
【0092】
また、プロフラビン処理群、アクリジンイエロー処理群及びアクリジンオレンジ処理群について、ジメチルスルホキシドのみを添加して被験物質群と同様に可視光を照射した陰性対照群に対する統計学的有意差の有無をカイ2乗検定によって検定した結果、染色体の構造異常を示す培養細胞の出現頻度と倍数体の出現頻度との両者は共に、有意水準を1%未満とする有意差がみられ、統計学的手法によってもプロフラビン、アクリジンイエロー及びアクリジンオレンジには可視光染色体異常誘発能力があることが確認された。
【0093】
さらに、被験物質を添加して可視光を照射しなかった陰性対照群の染色体の構造異常を示す培養細胞の出現頻度と倍数体の出現頻度とを表4に纏めて記載した。表3と表4とのプロフラビン処理群、アクリジンイエロー処理群及びアクリジンオレンジ処理群を比較すると、可視光を照射した場合のほうが可視光を照射しない場合よりも染色体異常の発生頻度が高いことが確認された。即ち、可視光照射による可視光染色体異常誘発能力の増強が明らかとなった。
【0094】
これらは、プロフラビン、アクリジンイエロー及びアクリジンオレンジが可視光染色体異常誘発能力を有することを示しており、本発明者らが初めて見出した知見である。
以上より、本実施例の手順(単回接触、6000ルクス照射)によって被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定でき、かつ、被験物質の中から可視光染色体異常誘発物質を探索できることが示された。
さらに、プロフラビン、アクリジンイエロー及びアクリジンオレンジが、本検定方法の陽性対照として使用できることも示された。
【0095】
【表3】

【0096】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の可視光染色体異常誘発能力の検定方法によれば、被験物質の可視光染色体異常誘発能力の検定を効率的に行なうことができる。さらに、本発明では、該検定方法に陽性対照として用いることができる可視光染色体異常誘発物質を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)〜(5)を有することを特徴とする可視光染色体異常誘発能力の検定方法。
(1)哺乳動物由来の培養細胞に被験物質を接触させる第一工程、
(2)第一工程で被験物質を接触させた哺乳動物由来の培養細胞を、第一工程における接触開始後12時間以内に可視光の照射下で培養する第二工程、
(3)第二工程で培養された哺乳動物由来の培養細胞を回収し、回収された哺乳動物由来の培養細胞から染色体標本を作製する第三工程、
(4)第三工程で作製された染色体標本を観察し、染色体異常発生の有無又はその程度を検査する第四工程、
(5)第四工程の検査結果によって被験物質の可視光染色体異常誘発能力の有無又はその程度を評価し、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定する第五工程。
【請求項2】
可視光は、複数の波長においてエネルギー極大値を有する分光分布を有する可視光であることを特徴とする請求項1記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法。
【請求項3】
前記第五工程において、前記第四工程の検査結果と、対照の哺乳動物由来の培養細胞における染色体異常発生の有無又はその程度の検査結果とを比較し、その差異に基づいて被験物質の可視光染色体異常誘発能力の有無又はその程度を評価することを特徴とする請求項1又は2記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法。
【請求項4】
前記対照は、哺乳動物由来の培養細胞に既知の可視光染色体異常誘発物質を接触させた陽性対照を含むことを特徴とする請求項3記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法。
【請求項5】
前記可視光染色体異常誘発物質は、プロフラビン、アクリジンイエロー又はアクリジンオレンジであることを特徴とする請求項4記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法。
【請求項6】
前記第二工程の後、培養された哺乳動物由来の培養細胞に再び被験物質を接触させ、被験物質接触開始後12時間以内に該哺乳動物由来の培養細胞を可視光の照射下で再び培養する工程、を1回以上繰り返した後、第三工程に供することを特徴とする請求項1〜5のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法。
【請求項7】
前記哺乳動物由来の培養細胞は、ヒト、モルモット、ラット、マウス、チャイニーズハムスター又はウサギ由来の初代培養細胞又は株化細胞であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法。
【請求項8】
可視光の照射強度が150ルクス以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法のための、陽性対照としてのプロフラビンの使用。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法のための、陽性対照としてのアクリジンイエローの使用。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法のための、陽性対照としてのアクリジンオレンジの使用。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法に用いるための陽性対照試薬であって、プロフラビンを含有することを特徴とする陽性対照試薬。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法に用いるための陽性対照試薬であって、アクリジンイエローを含有することを特徴とする陽性対照試薬。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法に用いるための陽性対照試薬であって、アクリジンオレンジを含有することを特徴とする陽性対照試薬。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法によって、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定し、所望の可視光染色体異常誘発能力を有する物質を選抜することを特徴とする可視光染色体異常誘発物質の探索方法。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれかの請求項記載の可視光染色体異常誘発能力の検定方法によって、被験物質の可視光染色体異常誘発能力を検定し、所望の可視光染色体異常誘発能力を有さない物質を選抜することを特徴とする可視光染色体異常非誘発物質の探索方法。

【公開番号】特開2007−167054(P2007−167054A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63782(P2006−63782)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】