説明

可視光活性光触媒

【課題】 太陽光で効率の良い触媒活性を示すチタン酸系光触媒を得る。
【解決手段】 陽イオン交換性層状チタン酸化合物の層間に遷移金属の酸化物を包接してなることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光触媒に関し、特に太陽光によって効率良く光化学反応を進行させることができる可視光活性光触媒に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】近年、半導体を光触媒として用い、水を光分解することにより水素を製造して、光エネルギーを化学エネルギーに変換する方法や、環境汚染物質を光分解して浄化する方法などが提案されている。このような反応に用いられる半導体光触媒の代表的なものとして、二酸化チタンが知られている。
【0003】しかしながら、二酸化チタンは約3eVの大きなバンドギャップエネルギーを有しており、波長400nm以上の長波長の光(可視光)で励起することができなかった。周知のごとく太陽光に含まれる波長400nm以下の光(紫外光)は約5%程度の微量であり、大部分は波長400nm以上の可視光である。従って、可視光で励起可能な、すなわち太陽光の利用効率の高い半導体光触媒の開発が従来より望まれている。
【0004】本発明の目的は、太陽光で効率の良い触媒活性を示す可視光活性光触媒を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、陽イオン交換性層状チタン酸化合物の層間に遷移金属の酸化物を包接すると、可視光で励起可能となり、太陽光によって効率良く水を分解して水素を製造したり、有機化合物を光触媒的に酸化分解することができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】すなわち、本発明の可視光活性光触媒は、陽イオン交換性層状チタン酸化合物の層間に遷移金属の酸化物を包接してなることを特徴としている。
【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(1)本発明の可視光活性光触媒の構成本発明の可視光活性光触媒は、陽イオン交換性層状チタン酸化合物の層間に遷移金属の酸化物を包接してなる。
【0008】(a)陽イオン交換性層状チタン酸化合物陽イオン交換性層状チタン酸化合物は、層状の格子間に有する陽イオンを、化合物の外部の陽イオンとイオン交換できる層状チタン酸化合物であればいかなるものでもよいが、具体的には、H2Ti25、H2Ti37、H2Ti49、H2La2Ti310、H8x(FexTi1-x)816、HTiNbO5並びにこれらのアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩等が好ましく、特にH2Ti25、H2Ti37、H2Ti49、H8x(FexTi1-x)816が好ましく用いられる。
【0009】(b)遷移金属酸化物本発明において用いられる遷移金属酸化物は、遷移金属の酸化物であれば特に限定されるものではないが、小さなバンドギャップエネルギーを有するものが好ましい。このような観点からは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、及び銅から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物が好ましく用いられる。
【0010】(2)本発明の可視光活性光触媒の製造方法本発明の可視光活性光触媒の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、陽イオン交換性層状チタン酸化合物を遷移金属塩の水溶液に分散させた後、これを水熱処理して水熱晶析反応により、陽イオン交換性層状チタン酸化合物の層間に遷移金属の酸化物を包接させて製造することができる。以下、この製造方法について例を挙げて説明する。
【0011】(a)陽イオン交換性層状チタン酸化合物の合成K2CO3及びTiO2を所定のモル比で混合し、800〜1500℃で1〜240時間焼成し、チタン酸カリウムを合成する。カリウム塩以外のチタン酸化合物を合成する場合は、K2CO3を他の金属酸化物または金属炭酸塩に置き換える。また、固相法以外にフラックス法や水熱法による合成も可能である。層状チタン酸化合物を鉱酸中でイオン交換すると、層間金属イオンを水素イオンに交換することができる。
【0012】(b)遷移金属酸化物の包接層状チタン酸化合物を所定量の遷移金属イオンを含む水溶液に懸濁し、100〜500℃、好ましくは、100〜300℃の温度で0.5〜10時間水熱処理を行い、層状チタン酸化合物の層間に遷移金属酸化物を包接する。水熱処理の好ましい温度範囲は、使用する遷移金属、水熱反応におけるpH、溶媒の種類等により適宜選択される。
【0013】なお、層状チタン酸化合物を、n−ヘキサン等の有機溶媒または水中に分散させた後、n−C817NH2やn−C37NH2等のアルキルアミンを添加し、室温以上かつ溶媒の沸点未満の温度で1〜240時間反応させ、層間の陽イオンを予めアルキルアンモニウムイオンとイオン交換すると、上記遷移金属酸化物の層間包接反応を効率的に行わせることが可能である。また、得られた遷移金属酸化物を包接した層状チタン酸化合物を、空気中で、例えば100〜500℃の温度で仮焼することにより、層間の遷移金属酸化物の酸化数及び結晶化度を調整することができる。これにより、さらに光触媒活性を向上させることも可能である。
【0014】一般に、次式で示される金属イオンの加水分解反応は、水熱条件下で促進されることから、遷移金属塩水溶液の水熱処理により遷移金属酸化物の晶析が可能であることは知られていた。
【0015】
n++nH2O→MOn/2+nH++n/2H2Oしかし、本発明者らは、この晶析反応が、溶液中よりも層状化合物の層間で特に速やかに進行することを見い出した。本発明は、これを利用し、層状チタン酸化合物の層間のみに選択的に遷移金属酸化物を析出させ、包接させている。
【0016】本発明の光触媒は、粒子径が1.0nm以下の遷移金属酸化物の超微粒子の少なくとも1種を包接してなり、大きな比表面積と、3eV以下の小さなバンドギャップを有するものである。従って、太陽光を利用した光触媒反応に好適に用いることができる。
【0017】(3)本発明の光触媒を用いた光分解本発明の光触媒は、光化学反応による有機物や無機化合物の酸化や、水の分解による水素製造などに用いることができる。以下、本発明の光触媒を用いた水素の製造方法の一例を説明する。
【0018】光分解の対象となる水溶液は、純水(不純物を含まない意味ではなく、正孔と反応する有機物のような犠牲還元剤が添加されていない水を意味する)でもよいが、還元性アルカリ化合物水溶液やアルコール水溶液等を使用するのが好ましく、また、これらの混合水溶液を使用してもよい。還元性アルカリ化合物としては、Na2S、Na2SO3、Na223、NaNO2等が好ましく、これらの混合物であってもよい。濃度は、0.01〜1mol/リットルが好ましい。またアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、2−アミノエタノール等が好ましく、これらの混合物であってもよい。濃度は、0.01〜1mol/リットルであることが好ましい。
【0019】上記水溶液に、本発明の光触媒を添加する。光触媒の添加量は、0.5〜50mg/cm3が好ましく、特に1〜3mg/cm3が好ましい。このように光触媒を添加した水溶液に光を照射することによって、水が分解し水素が発生する。照射する光の波長は550nm以下が好ましい。太陽光の波長は350〜2000nm程度であるため、本発明では太陽光を照射してもよい。また水溶液の温度は25〜60℃が好ましい。
【0020】上記のように、本発明の光触媒は、水を分解し水素を製造する際の光触媒として有用なものであるが、本発明の光触媒は、このような用途に限定されるものではなく、例えば、有機物合成反応の触媒や、有害物質の分解反応の触媒としても用いることができるものである。
【0021】有害物質としては、例えば、人体や生活環境に悪影響を及ぼす物質や可能性がある物質が挙げられ、種々の生物学的酸素要求物質、大気汚染物質や除草剤、殺菌剤、殺虫剤などの種々の農薬などの物質、細菌、放線菌、菌類、藻類、カビ類などの微生物、煙草のヤニ、臭い、ペット臭、悪臭ガス、し尿臭などが挙げられる。環境汚染物質としては、有機ハロゲン化物、有機リン化合物やそれ以外の有機化合物、窒素化合物、硫黄化合物、シアン化合物、クロム化合物などが挙げられる。有機ハロゲン化合物としては、具体的には、ポリ塩化ビフェニル、フロン、トリハロメタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどが例示できる。有機ハロゲン化合物以外としては、界面活性剤や油類などの炭化水素類、アルデヒド類、メルカプタン類、アルコール類、アミン類、アミン酸類、蛋白質等が例示できる。窒素化合物としては、アンモニア、窒素酸化物(NOX )、硫黄酸化物(SOX )などが例示できる。
【0022】また、本発明の光触媒は親水性付与反応にも用いることができる。この親水性付与反応を利用して鏡、ガラス、眼鏡などを曇らないようにしたり、外壁などの汚れを防止することができる。また、内視鏡などを利用してガン細胞を治療することもできる。
【0023】本発明の光触媒は種々の方法で用いることができる。例えば、本発明の光触媒を基材中に含有させたり、本発明の光触媒を含有する塗液を基材表面に塗布して膜を形成したり、本発明の光触媒を含有するフィルムを基材表面に積層したりして用いることができる。
【0024】基材としては、陶磁器、セラミック、金属、ガラス、プラスチック、木材あるいはそれらの複合物等を例示できる。基材の形状はどのようなものでもよく、球状物、円柱物、円筒物、タイル、壁材、床材等の板状物などの単純形状のものでも、衛生陶器、洗面台、浴槽、流し台などの複雑形状のものでもよい。その他、カーブミラー、標識、反射板、トンネル内装板、トンネル照明、外壁、屋根、サッシ、鏡、ショーケース、冷蔵・冷凍ショーケース、ショーウインドウ、看板、ガラス温室、ビニルハウス、ディスプレー、太陽電池、眼鏡、光学レンズ、内視鏡レンズ、塗料、内装部材等に用いることができる。基材表面は多孔質でも緻密質でもよい。
【0025】基材中に含有させる場合には、無機質バインダーとして、ケイ酸塩系ガラス、ホウ酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス等、また一般陶器用釉薬フリットなどが挙げられる。例えば、SiO2−Al23−Na2O/K2Oフリットからなるバインダー液中に、本発明の光触媒を分散させ、光触媒をその一部がバインダー層から露出するように基材に付着させ、次いで加熱してバインダー層を溶融せしめた後、冷却してバインダー層を固化せしめることにより、本発明の光触媒を含有した多機能基材が得られる。
【0026】光触媒を含有する塗液は、光触媒と塗液用バインダーを混合することにより得られる。塗液用バインダーとしては、光触媒活性に対して耐性のあるバインダーが望まれ、例えばシロキサン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、ケイ酸ガラス等が挙げられる。また、層中において混合された光触媒をより有効に利用するには、バインダーとして透光性を有するものがより好適である。また、汚れが付きにくい点を考えると、シロキサン樹脂、フッ素樹脂等の撥水性を有するものが好ましい。
【0027】塗液は通常の方法で塗布可能で、例えばスプレー・コーティング、ディップ・コーティング、ロール・コーティング、スピン・コーティングなどの方法を挙げることができる。基材表面に塗布して膜を形成させる場合には、光触媒作用を有する層を基材の表面の全面に塗布して形成してもよいし、一部に塗布して形成してもよい。また、光触媒を含有する塗液は、基材に直接塗布してもよいし、プライマー層を介して塗布してもよい。特に基材が金属、ガラス質の場合には、プライマー層を介する方が接着強度向上の上で好ましい。
【0028】光触媒を含有するフィルムは、例えば離型紙上に光触媒とバインダーの混合物を光触媒の一部がバインダー層から露出するように、吹き付けて、硬化または乾燥させ、次いで離型紙を剥離して得られるが、これに限定されるものではない。次いで得られたフィルムを基材の上に積層または貼着し、加熱してバインダー層を溶融せしめた後に冷却することによって、基材表面に光触媒を含有するフィルムの積層された多機能部材を得ることができる。
【0029】
【作用】層状チタン酸化合物のバンドギャップエネルギーは、3.2〜3.5eVであり、可視光照射では光触媒活性を示さないが、本発明の光触媒は、バンドギャップが2.0〜3.3eV程度であり、波長375〜650nm程度の光の照射で励起され、可視光により高い触媒活性を示す。これは、包接された遷移金属酸化物が可視光で励起可能な小さなバンドギャップエネルギーを有しているためである。
【0030】なお、遷移金属酸化物単独では光触媒活性は非常に低いが、層間に遷移金属酸化物を包接すると、粒径1nm以下の超微粒子となり、反応有効表面積が増大する。また、遷移金属酸化物が光励起されて生成する電子または正孔が、ホスト層のチタン酸化合物に移動することにより、電荷分離が有効に起こり、電子と正孔の再結合が抑制されるため光触媒活性が向上する。また、本発明の光触媒は、水溶液中でもほとんど溶解することがなく、化学的に安定している。
【0031】
【実施例】本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】(実施例1)K2CO3とTiO2をモル比で1:2.5となるように混合し、1300℃で5時間焼成し四チタン酸カリウム(K2Ti49)を合成した。この四チタン酸カリウムの粉末1gをイオン交換容量の5倍のFe2+を含む1MFeSO4中に分散し、120〜250℃で12時間水熱処理した後、ろ過分離して酸化鉄包接四チタン酸を得た。また、四チタン酸カリウム粉末を30℃の1M塩酸水溶液に30分間分散して四チタン酸(H2Ti49)を合成し、この四チタン酸の粉末1gをイオン交換容量の5倍のFe2+を含む1MFeSO4中に分散し、120〜250℃で12時間水熱処理した後、ろ過分離して酸化鉄包接四チタン酸を得た。
【0033】120℃で水熱処理して得られたこれらの試料の粉末X線回折パターンを図1に示す。また、チタン酸を水熱処理して得られた酸化鉄包接四チタン酸の紫外−可視拡散反射スペクトルを図2に示す。
【0034】120℃、150℃、200℃、及び250℃で水熱処理して得られた酸化鉄包接四チタン酸の試料0.5gを、60℃の0.1MNa2S水溶液500cm3に添加し、100Wの水銀灯の波長400nm以上の可視光を照射した。可視光照射により水の分解が起こり、水素が発生した。このときの水素生成速度(水素生成活性)と水熱処理温度との関係を図3に示す。
【0035】(比較例1)実施例1において合成した四チタン酸カリウム及び四チタン酸の粉末X線回折パターンを図1に示す。また、四チタン酸の紫外−可視拡散反射スペクトルを図2に示す。
【0036】四チタン酸カリウム及び四チタン酸の試料0.5gを、60℃の0.1MNa2S水溶液500cm3に添加し、100Wの水銀灯の波長400nm以上の可視光を照射した。可視光照射では、光触媒活性は認められず、水素生成反応は全く進行しなかった。図3における水処理温度25℃の実験は、これらの試料のことを意味している。なお、図1、図2及び図3におけるA〜Eは以下の通りである。
【0037】A:四チタン酸カリウムを120℃の1MFeSO4水溶液中で水熱処理して得た酸化鉄包接四チタン酸。
B:四チタン酸を120℃の1MFeSO4水溶液中で水熱処理して得た酸化鉄包接四チタン酸。
C:四チタン酸カリウムD:四チタン酸E:α−Fe23
【0038】図1から明らかなように、酸化鉄包接四チタン酸A及びBは、いずれも四チタン酸Dと類似のX線回折パターンを示している。また、図2から明らかなように、四チタン酸Dは上部吸収端波長が400nmであり、波長400nm以上の可視光では励起されないが、酸化鉄包接四チタン酸Bは、400〜600nmの可視光を吸収し、可視光での励起が可能である。
【0039】また、図3から明らかなように、水熱処理温度25℃として示す四チタン酸カリウム及び四チタン酸は、波長400nm以上の可視光照射では光触媒活性を示さず、水素発生が認められなかったが、酸化鉄包接四チタン酸A及びBは、可視光照射で光触媒活性を示し、Na2S水溶液から水素を生成した。
【0040】(実施例2)実施例1において四チタン酸を120℃の1MFeSO4水溶液中で水熱処理して合成した酸化鉄包接四チタン酸を、空気中において100℃、300℃、500℃、及び1000℃でそれぞれ1時間仮焼した。得られた試料の粉末X線回折パターンを図4に示す。
【0041】これらの試料0.5gを、60℃の0.1MNa2S水溶液500cm3に添加し、100Wの水銀灯の波長400nm以上の可視光を照射した。可視光照射により水の光分解が起こり、水素が発生した。このときの試料の仮焼温度と水素生成速度の関係を図5に示す。
【0042】図4から明らかなように、四チタン酸のX線回折ピークは、仮焼温度の上昇とともに減少し、1000℃で消失した。一方、300〜500℃では、単斜晶二酸化チタン及びアナターゼのピークが現れ、1000℃ではアナターゼとルチル及びKFeO2のピークが観察された。
【0043】図5から明らかなように、酸化鉄包接四チタン酸の光触媒活性は、300℃の空気中で仮焼することにより著しく向上し、Na2S水溶液中における水素生成速度は、仮焼前の試料の3.5倍となっている。これは、硫酸鉄の水熱晶析反応により得られる酸化鉄包接四チタン酸には、光触媒活性の低いFeO等の低次酸化鉄が多く含まれており、仮焼により触媒活性の高いFe23に酸化されるためであると考えられる。なお、さらに高温で仮焼すると活性が低下したのは、四チタン酸の層構造が破壊されたためと考えられる。本実施例において、300℃の空気中で仮焼することにより得られた試料を水熱晶析法酸化鉄包接四チタン酸と称する。
【0044】(比較例2)四チタン酸を水中に分散した後、イオン交換量で四チタン酸の5倍量のn−C37NH2を添加し、50℃で3日間反応させ、層間のH+をC37NH3+とイオン交換した。得られた化合物を、〔Fe3(OCOCH3)7OH22O〕NO3錯体の水溶液(イオン交換すべき量の20倍の〔Fe3(OCOCH3)7(OH)2H2O〕+を含有)に懸濁し、50℃で3日間反応させて、〔Fe3(OCOCH3)7OH22O〕2Ti49を得た。得られた化合物を水中に分散させ、500W水銀ランプにより10時間紫外線を照射し、酸化鉄を層間に包接した四チタン酸を得た。得られた試料を錯体法酸化鉄包接四チタン酸と称する。
【0045】実施例2における水熱晶析法酸化鉄包接四チタン酸と、比較例2における錯体法酸化鉄包接四チタン酸の鉄含有量及び比表面積を表1に示す。また、これらの試料0.5gを、60℃の0.1MNa2S水溶液500cm3に添加し、100Wの水銀灯の波長400nm以上の可視光を照射し、水の光分解により発生した水素量を図6に示す。図6において、Fは水熱晶析法酸化鉄包接四チタン酸を示しており、Gは錯体法酸化鉄包接四チタン酸を示している。
【0046】
【表1】


【0047】表1及び図6から明らかなように、水熱晶析法酸化鉄包接四チタン酸は、酸化鉄の含有量及び比表面積は、錯体法のものに比べ少ないが、水素生成活性は錯体法のものより約5倍大きかった。これは、水熱晶析反応により包接された酸化鉄の結晶性が高いためであると思われる。
【0048】(実施例3)実施例1と同様にして、四チタン酸を、種々の1M遷移金属塩の水溶液中で水熱処理し、遷移金属酸化物包接四チタン酸を合成した。得られた遷移金属酸化物包接四チタン酸を、空気中300℃で1時間仮焼して試料を得た。これらの試料を、60℃の0.1MNa2S水溶液500cm3に添加し、100Wの水銀灯の波長400nm以上の可視光を照射した。可視光照射により水の光分解が起こり、水素が発生した。このときの水素生成速度を図7に示す。図7には、使用した遷移金属塩の種類を示し、( )内には水熱処理温度を示している。
【0049】図7から明らかなように、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、銅の水溶液中で水熱晶析反応によりこれらの酸化物を包接したものは、いずれも可視光照射下で水素生成活性を示すことがわかる。
【0050】
【発明の効果】本発明に従い、小さなバンドギャップエネルギーを有する遷移金属酸化物を層状チタン酸化合物の層間に包接することにより、可視光で励起可能な優れた光触媒とすることができる。
【0051】本発明の可視光活性光触媒は、陽イオン交換性層状チタン酸化合物を遷移金属塩の水溶液に分散させた後、これを水熱処理して水熱晶析反応により陽イオン交換性層状チタン酸化合物の層間に遷移金属酸化物を包接させることにより得ることができる。また、得られた遷移金属酸化物包接層状チタン酸化合物を仮焼することにより、さらに光触媒活性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1及び比較例1において合成した四チタン酸カリウム、四チタン酸、及びこれらから合成した酸化鉄包接四チタン酸の粉末X線回折パターンを示す図。
【図2】実施例1における酸化鉄包接四チタン酸及び比較例1における四チタン酸の紫外−可視拡散反射スペクトルを示す図。
【図3】実施例1において得られた酸化鉄包接四チタン酸の水熱処理温度と水素生成速度との関係を示す図。
【図4】実施例2において仮焼した酸化鉄包接四チタン酸の粉末X線回折パターンを示す図。
【図5】実施例2において得られた酸化鉄包接四チタン酸の仮焼温度と水素生成速度との関係を示す図。
【図6】実施例2において得られた水熱晶析法酸化鉄包接四チタン酸と比較例2において得られた錯体法酸化鉄包接四チタン酸の水素生成量を示す図。
【図7】実施例3において得られた種々の遷移金属酸化物包接四チタン酸の水素生成速度を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 陽イオン交換性層状チタン酸化合物の層間に遷移金属の酸化物を包接してなることを特徴とする可視光活性光触媒。
【請求項2】 遷移金属の酸化物が、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、及び銅から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の可視光活性光触媒。
【請求項3】 陽イオン交換性層状チタン酸化合物が、H2Ti25、H2Ti37、H2Ti49、H2La2Ti310、H8x(FexTi1-x)816、HTiNbO5並びにこれらのアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の可視光活性光触媒。
【請求項4】 陽イオン交換性層状チタン酸化合物を遷移金属塩の水溶液に分散させた後、これを水熱処理して水熱晶析反応により陽イオン交換性層状チタン酸化合物の層間に遷移金属の酸化物を包接させたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の可視光活性光触媒。
【請求項5】 陽イオン交換性層状チタン酸化合物の層間に遷移金属の酸化物を包接させた後、100〜500℃の温度で仮焼することにより、遷移金属酸化物の酸化数及び結晶化度を調整したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の可視光活性光触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2001−87654(P2001−87654A)
【公開日】平成13年4月3日(2001.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−267055
【出願日】平成11年9月21日(1999.9.21)
【出願人】(000206901)大塚化学株式会社 (55)
【Fターム(参考)】