説明

可視光硬化性組成物

【課題】可視光照射による光硬化特性に優れ、組成物の硬化が充分に進行でき、かつ、硬化深度の向上が達成できる可視光硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】(A)重合性単量体、(B)光重合開始剤、(C)燐光性化合物、(D)顔料を含む可視光硬化性組成物であって、(B)光重合開始剤、(C)燐光性化合物がともに400nm以上に励起波長域を有しており、(C)燐光性化合物の最大発光ピーク波長と、(B)光重合開始剤の400nm以上の領域に存在する最大励起波長との差が50nm以下である可視光硬化性組成物としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光硬化性組成物に関し、より詳しくは、歯科治療に好適に用いられる可視光硬化性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科治療の分野では、重合性単量体に光重合開始剤を配合した光硬化性組成物が多用されている。たとえば、修復すべき歯牙の窩洞に光硬化性組成物を充填して歯牙の形に成形した後に、専用の光照射器を用いて活性光を照射して重合硬化させて歯の修復を行なうのに使用されている。また、歯科技工所内において、光硬化性組成物を石膏模型上で修復すべき歯牙の形に築盛し、これを光照射により重合硬化させ、続いて歯科医院において、得られた硬化体を歯科用接着剤により歯質に接着させて、歯を修復する際にも使用されている。
【0003】
上記のように使用される光硬化性組成物には、(1)紫外線照射による患者への為害性の回避や(2)可視光照射装置の小型化でコストが削減できることなどのメリットから、可視光重合硬化性組成物が、特に歯科分野で広く使用されている(たとえば、特許文献1や特許文献2を参照)。
【0004】
しかし、非透明の可視光重合硬化性組成物を可視光照射する場合、限られた硬化深度しか得られず、特に透明性が低い可視光重合硬化性組成物を可視光重合硬化する場合、その硬化深度がさらに低下するという問題がある。これは、可視光が非透明の可視光重合硬化性組成物を通過するとき、吸収、散乱または拡散反射を伴うことによって減衰されるためである。
【0005】
上述の問題を解決するために、高活性な光重合開始剤を配合した種々の光重合硬化性組成物が提案され、上記歯科分野においても適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−1413号公報(特許請求の範囲)
【特許文献1】特開2003−277424号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記歯牙の深い窩洞に、上記透明性が低い可視光重合硬化性組成物を充填して光硬化させる場合等においては、いずれの光重合硬化性組成物も、依然として十分な硬化深度を備えておらず、満足できる機械的強度の歯牙修復が行えないことがあった。
【0008】
このため、重合硬化処理方法の工夫で対処されており、具体的には、薄い層を積層して各層ごとに確実に光硬化していく積層硬化方法という技術が行なわれている。しかし、複数の手順で作業が行われるため、作業効率が低下する点で不便さがあった。また、単純に光重合開始剤を増量することで硬化深度を高める試みもある。しかし、光重合開始剤自身による光透過阻害の影響があるので、その効果は限定的であり、さらに硬化体の色味が濃くなることによる審美性の低下や、明るい室内における作業時間の低下というほかの問題が生じるため適切ではなかった。これらから、可視光照射によって、可視光重合硬化性組成物の硬化の進行は、不充分という問題が実際に解決できなかった。
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、可視光照射による光硬化特性に優れ、組成物の硬化が充分に進行でき、かつ、硬化深度の向上が効率よく達成できる可視光硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の本発明により達成される。すなわち、本発明の可視光硬化性組成物は、(A)重合性単量体、(B)光重合開始剤、(C)燐光性化合物、(D)顔料を含む可視光硬化性組成物であって、(B)上記光重合開始剤、(C)上記燐光性化合物がともに400nm以上に励起波長域を有しており、(C)上記燐光性化合物の最大発光ピーク波長と、(B)上記光重合開始剤の400nm以上の領域に存在する最大励起波長との差が50nm以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明の可視光硬化性組成物の一実施態様は、発光輝度が50mcd/m以上である(C)前記燐光性化合物を、前記可視光硬化性組成物100質量部に対して1質量部以上含むことが好ましい。
【0012】
本発明の可視光硬化性組成物の他の実施態様は、発光輝度が900mcd/m以下である(C)前記燐光性化合物を、前記可視光硬化性組成物100質量部に対して20質量部以下含むことが好ましい。
【0013】
本発明の可視光硬化性組成物の他の実施態様は、(C)前記燐光性化合物が、希土類金属がドープされたアルミン酸塩であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可視光照射による光硬化特性に優れ、組成物の硬化が充分に進行でき、かつ、硬化深度の向上が達成できる可視光硬化性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明にかかる可視光硬化性組成物の好適な実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0016】
(可視光硬化性組成物)
本発明の実施の形態にかかる可視光硬化性組成物は、(A)重合性単量体、(B)光重合開始剤、(C)燐光性化合物、(D)顔料を含む可視光硬化性組成物であって、(B)上記光重合開始剤、(C)上記燐光性化合物がともに400nm以上に励起波長域を有しており、(C)上記燐光性化合物の最大発光ピーク波長と、(B)上記光重合開始剤の400nm以上の領域に存在する最大励起波長との差が50nm以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明の実施の形態にかかる可視光硬化性組成物を使用するに際しては、可視光照射により、可視光硬化性組成物の硬化が充分に進行できると共に、硬化深度が効率よく向上できる。
【0018】
次に、本発明の実施の形態にかかる可視光硬化性組成物に含まれる(A)重合性単量体、(B)光重合開始剤、(C)燐光性化合物、および(D)顔料の詳細について説明する。
【0019】
(A)重合性単量体
本発明の実施の形態にかかる可視光硬化性組成物は、(A)重合性単量体を含有している。重合性単量体としては、光重合開始剤によって重合できる単量体であれば、特に限定されず、ラジカル重合性単量体やエポキシ化合物、オキセタン化合物などのカチオン重合性単量体などが挙げられるが、ラジカル重合性単量体が好適に用いられる。
【0020】
ラジカル重合性単量体としては、重合性の良さなどから、(メタ)アクリレート系の単量体が好適に用いられる。当該(メタ)アクリレート系の重合性単量体を具体的に例示すると、次に示すものが挙げられる。
【0021】
(A1)単官能ラジカル重合性単量体
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、テトラフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシートリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレートなど、酸性基を有する単官能重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸などおよびこれらの化合物のカルボキシル基を酸無水物基化した化合物、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−メタクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテートアンハイドライド、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸無水物、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−2,3,6−トリカルボン酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル−1,8−ナフタル酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,8−トリカルボン酸無水物、9−(メタ)アクリロイルオキシノナン−1,1−ジカルボン酸、13−(メタ)アクリロイルオキシトリデカン−1,1−ジカルボン酸、11−(メタ)アクリルアミドウンデカン−1,1−ジカルボン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ブロモエチルハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリルアミドエチルジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、10−スルホデシル(メタ)アクリレート、3−(メタ)アクリロキシプロピル−3−ホスホノプロピオネート、3−(メタ)アクリロキシプロピルホスホノアセテート、4−(メタ)アクリロキシブチル−3−ホスホノプロピオネート、4−(メタ)アクリロキシブチルホスホノアセテート、5−(メタ)アクリロキシペンチル−3−ホスホノプロピオネート、5−(メタ)アクリロキシペンチルホスホノアセテート、6−(メタ)アクリロキシヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロキシヘキシルホスホノアセテート、10−(メタ)アクリロキシデシル−3−ホスホノプロピオネート、10−(メタ)アクリロキシデシルホスホノアセテート、2−(メタ)アクリロキシエチル−フェニルホスホネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホン酸、N−(メタ)アクリロイル−ω−アミノプロピルホスホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2’−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネートなど、水酸基を有する単官能重合性単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなどを挙げることができる。
【0022】
(A2)二官能ラジカル重合性単量体
2,2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレート、あるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクトなど、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどのメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト、たとえば、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2−4−トリメチルヘキサン;酸性基を含むものとして、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エチル、ジ(2−メタクリロイルオキシプロピル)フォスフェート、ジ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェートなどを挙げることができる。
【0023】
(A3)三官能ラジカル重合性単量体
トリメチロールプロパーントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパーントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパーントリ(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロキシエチルイソシアヌレート)などを挙げることができる。
【0024】
(A4)四官能ラジカル重合性単量体
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ジトリメチロールプロパーンテトラ(メタ)アクリレートなどのテトラ(メタ)アクリレート化合物、ヘキサメチルジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサンのようなジイソシナネートの間に脂肪族を有するジイソシアネート化合物などを好適に用いることができる。
【0025】
なお、上記のラジカル重合性単量体は、すべて単独で、もしくは組み合わせて使用することができる。
【0026】
また、代表的なカチオン重合性単量体を例示すれば、ビニルエーテル化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物、環状エーテル化合物、双環状オルトエステル化合物、環状アセタール化合物、双環状アセタール化合物、環状カーボネート化合物が挙げられるが、特に入手が容易でかつ体積収縮が小さく、重合反応が速い点において、オキセタン化合物および/またはエポキシ化合物が好適に使用される。
【0027】
オキセタン化合物を具体的に例示すれば、トリメチレンオキサイド、3−メチル−3−オキセタニルメタノール、3−エチル−3−オキセタニルメタノール、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン、3,3−ジエチルオキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシルオキシ)オキセタンなどの1つのオキセタン環を有すもの、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチルオキシ)ベンゼン、4,4′−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチルオキシ)ビフェニール、4,4′−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチルオキシメチル)ビフェニール、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)ジフェノエート、トリメチロールプロパントリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテルなど、あるいは下記の化1に示す化合物などのオキセタン環を2つ以上有す化合物が挙げられる。
【0028】
【化1】

【0029】
上記オキセタン化合物のなかでも、得られる硬化体の物性の点から、1分子中にオキセタン環を2つ以上有するものが特に好適に使用される。
【0030】
また、エポキシ化合物も、カチオン重合可能な化合物であれば特に限定されることはなく公知のものが使用できる。当該エポキシ化合物を具体的に例示すると、1,2−エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、2,3−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシオクタデカン、ブタジエンモノオキサイド、2−メチル−2−ビニルオキシラン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−7−オクテン、1,2−エポキシ−9−デセン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、グリシドール、2−メチルグリシドール、メチルグリジジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、グリシジルプロピルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、シクロオクテンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、シクロオクテンオキサイド、シクロドデカンエポキシド、エキソ−2,3−エポキシノルボルネン、4−ビニル−1−シクロヘキセン−1,2−エポキシド、リモネンオキサイド、スチレンオキサイド、(2,3−エポキシプロピル)ベンゼン、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、グリシジル2−メチルフェニルエーテル、4−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、4−クロロフェニルグリシジルエーテル、グリシジル4−メトキシフェニルエーテルなどのエポキシ官能基を一つ有するもの、1,3−ブタジエンジオキサイド、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3−プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,5−ペンタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンメタノールジグリシジルエーテル、ジグリシジルグルタレート、ジグリシジルアジペート、ジグリシジルピメレート、ジグリシジルスベレート、ジグリシジルアゼレート、ジグリシジルセバケート、2,2−ビス[4−グリシジルオキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−グリシジルオキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、4−ビニル−1−シクロヘキセンジエポキシド、リモネンジエポキシド、1,2,5,6−ジエポキシシクロオクタン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシラート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)グルタレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)ピメレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)スベレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)ゼレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)セバケート、1,4−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルオキシメチル)ベンゼン、1,4−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルオキシメチル)ビフェニル、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロパン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)スルホン、メチルビス[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]フェニルシラン、ジメチルビス[(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メチル]シラン、メチル[(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メチル][2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]シラン、1,4−フェニレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、1,2−エチレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]シラン、1,3−ビス[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、2,5−ビシクロ[2.2.1]ヘプチレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、1,6−へキシレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シランなどのエポキシ官能基を二つ有する化合物、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサグリシジルエーテル、あるいは下記の化2に示すエポキシ官能基を三つ以上有するものが挙げられる。
【0031】
【化2】

【0032】
上記エポキシ化合物のなかでも、得られる硬化体の物性の点から、1分子中にエポキシ官能基を2つ以上有するものが特に好適に使用される。
【0033】
また、オキセタン化合物およびエポキシ化合物以外のカチオン重合性単量体を具体的に示すと、環状エーテル化合物としては、テトラヒドロフラン、オキセパン等が、双環状オルトエステル化合物としては、ビシクロオルトエステル、スピロオルトエステル、スピロオルトカーボネート等が、環状アセタール化合物としては、1,3,5−トリオキサン、1,3−ジオキソラン、オキセパン、1,3−ジオキセパン、4−メチル−1,3−ジオキセパン、1,3,6−トリオキサシクロオクタン等が、双環状アセタール化合物としては、2,6−ジオキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,7−ジオキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン、6,8−ジオキサビシクロ[3.2.1]オクタン等が、環状カーボネート化合物としては、エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート等が挙げられる。
【0034】
これらのカチオン重合性単量体は単独、または二種類以上を組み合わせて用いることができる。特に、1分子平均a個のオキセタン官能基を有するオキセタン化合物のAモルと、1分子平均b個のエポキシ官能基を有するエポキシ化合物のBモルとを混合し、(a×A):(b×B)が90:10〜45:55の範囲になるように調製したものが、硬化速度が速く、水分による重合阻害を受け難い点で好適である。
【0035】
(B)光重合開始剤
本発明の実施の形態にかかる可視光硬化性組成物には、前記の(A)重合性単量体を重合させるための光重合開始剤が配合される。当該光重合開始剤としては、400nm以上に励起波長域を有する公知のものであればなんら制限されず使用可能である。これは、400nm以上に励起波長域を有しないものでは、可視光による光重合開始が達成できないためである。なお、本実施の形態における光重合開始剤とは、いわゆる二元系、三元系、四元系などのような複数の化合物の混合系によって光重合開始反応を起こすものであってもよく、光増感色素などによって光励起されるものでもよい。また、本実施の形態において、光重合開始剤の最大励起波長とは、400nm以上の波長領域での最大値を指し、400nm未満に最大波長を有する光重合開始剤の場合、400nmを最大励起波長とする。
【0036】
光重合開始剤の励起波長は、紫外可視分光光度計を用いた対象化合物の分光スペクトルの測定結果より求める。本発明における当該装置の分解能は5nmである。
【0037】
光重合開始剤は、使用する重合性単量体の重合機構に応じて選定される。ラジカル重合性単量体には光ラジカル発生剤が、カチオン重合性単量体にはたとえば光酸発生剤が使用される。
【0038】
光ラジカル発生剤系の光重合開始剤としては、400nm以上に励起波長域を有するものを選択して用いることができ、具体的な光重合開始剤としては、カンファーキノン、1−フェニル−1,2−プロパンジオンなどのα−ジケトン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド類;2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オンなどのα−アミノアルキルフェノン類;またはビス(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)フェニル)チタニウムなどのチタノセン化合物などのチタノセン類などが挙げられる。これらの中でも、重合活性の良さ、生体への為害性の少なさなどの観点から、α−ジケトン類やアシルホスフィンオキサイド類が好ましく、カンファーキノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドがより好ましい。因みに、カンファーキノンの最大励起波長は470nmであり、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドの最大励起波長は400nmである。
【0039】
これら光重合開始剤は、それぞれ単独で使用されるだけでなく、必要に応じて複数の種類を組み合わせて併用することもできる。光重合開始剤の添加量は、目的に応じて選択すればよいが、重合性単量体100質量部に対して通常0.01〜30質量部の割合であり、より好ましくは0.1〜5質量部の割合で使用される。さらには、可視光重合硬化性組成物において重合開始剤自身による光透過阻害の影響を小さくし、硬化体の色味も濃くしない審美性の観点からは、重合性単量体100質量部に対して0.1〜1質量部の割合が最も好ましい。
【0040】
また、上記光重合開始剤に加えて、還元性化合物を組み合わせて用いてもよい。このような還元性化合物としては、第三級アミン化合物が好適に用いられる。このような第三級アミン化合物としては4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ラウリル、3−ジメチルアミノ安息香酸、3−ジメチルアミノ安息香酸エチル、ジメチルアミノ−p−トルイジン、ジエチルアミノ−p−トルイジン、p−トリルジエタノールアミンなどである。なかでも好ましくは4−ジメチルアミノ安息香酸、および4−ジメチルアミノ安息香酸エステル類である。
【0041】
光酸発生剤系光重合開始剤は、光照射によって励起されることにより、光酸発生剤が分解され、その結果、酸を発生し、これが重合開始種となってカチオン重合を開始させる化合物である。このような光酸発生剤系重合開始剤としては、ヨードニウム塩系光重合開始剤、スルホニウム塩系光重合開始剤、ピリジニウム塩系光重合開始剤、トリハロメチル−S−トリアジン系光重合開始剤などが挙げられる。
【0042】
光照射によって励起される化合物は、分解して酸を発生する光酸発生剤そのものであってもよいが、光酸発生剤は通常、近紫外〜可視域には吸収の無い化合物が多く、重合反応を励起するためには、特殊な光源が必要となる場合が多い。そのため、近紫外〜可視域に吸収をもち、光照射によって励起された結果、光酸発生剤の分解を引き起こし、さらに本発明の効果である硬化性の向上効果を発現する化合物を増感剤として組み合わせた光重合開始剤であることが好ましい。さらに、光照射による光酸発生剤の分解の高効率化のために上記増感化合物以外の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
これら光酸発生剤系重合開始剤のなかでも、重合活性が高いことから、ヨードニウム塩系光重合開始剤、スルホニウム塩系光重合開始剤が好ましく、ヨードニウム塩系光重合開始剤がより好ましい。このようなヨードニウム塩系光重合開始剤としては、たとえば、特開2004−149587号公報や特開2004−196949号公報に開示されているような、増感化合物として、縮合多環式芳香族化合物を用いる光重合開始剤、特表平10−508067号公報に開示されているような、増感化合物として、α−ジカルボニル化合物を用いる光重合開始剤、特開2004−196775号公報に開示されているような、酸化型の光ラジカル発生剤と縮合多環式芳香族化合物の双方を併用する光重合開始剤などが挙げられる。さらに、特開平11−199681号公報、特開2000−7716号公報、特開2001−81290号公報、特開平11−322952号公報、特開平11−130945号公報、特表2001−520758号公報などに記載のヨードニウム塩系光重合開始剤を用いることができる。
【0044】
本発明の光カチオン硬化性組成物に配合されるヨードニウム塩系光重合開始剤の成分であるヨードニウム塩としては、従来公知のものが何ら制限なく利用可能である。具体例を例示すれば、ジフェニルヨードニウム、ビス(p−クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、p−イソプロピルフェニル−p−メチルフェニルヨードニウム、ビス(m−ニトロフェニル)ヨードニウム、p−tert−ブチルフェニルフェニルヨードニウム、p−メトキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p−メトキシフェニル)ヨードニウム、p−オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム、p−フェノキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p−ドデシルフェニル)ヨードニウムなどのカチオンと、クロリド、ブロミド、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネートなどのアニオンからなるジアリールヨードニウム塩系化合物が挙げられる。
【0045】
これらのなかでも、カチオン重合性単量体に対する溶解性の点から、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネートをアニオンとして有する化合物が好適に使用でき、また、アニオンの求核性が低く、重合速度が速い点から、ヘキサフルオロアンチモネート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレートをアニオンとして有する化合物が好適に使用できる。さらに、アニオン由来する毒性がより低い事から、テトラキスペンタフルオロフェニルボレートが最も好適に利用できる。
【0046】
また、本発明の光カチオン硬化性組成物に配合されるスルホニウム塩系光重合開始剤の成分であるスルホニウム塩化合物は、具体例としては、トリフェニルスルホニウム、p−トリルジフェニルスルホニウム、p−tert−ブチルフェニルジフェニルスルホニウム、ジフェニル−4−フェニルチオフェニルスルホニウムなどのクロリド、ブロミド、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート塩が挙げられる。
【0047】
これら光酸発生剤は必要に応じて、単独または2種以上混合して用いても何等差し支えない。これら光酸発生剤の使用量は、光照射により重合を開始しうる量であれば特に制限されることはないが、適度な重合の進行速度と得られる硬化体の各種物性(たとえば、耐候性や硬度)を両立させるために、一般的には上述したカチオン重合性単量体100質量部に対し、0.001〜10質量部を用いればよく、好ましくは0.05〜5質量部を用いるとよい。
【0048】
また、光酸発生剤と組み合わせて用いる光増感剤としては、前述した光ラジカル発生剤系光重合開始剤として使用された化合物の他、たとえばアクリジン系色素、ベンゾフラビン系色素、アントラセン、ペリレンなどの縮合多環式芳香族化合物、フェノチアジン、ジアリールケトン化合物、α−ジケトン化合物またはクマリン化合物などが挙げられる。これらはいずれも、励起波長域を400nm以上に有していることが好ましい。これらは単独で用いても、適宜2種またはそれ以上組み合わせて用いてもよい。
【0049】
上記増感剤のなかでも、重合活性が良好な点で、縮合多環式芳香族化合物が好ましく、さらに、少なくとも1つの水素原子を有する飽和炭素原子が縮合多環式芳香族環と結合した構造を持つ縮合多環式芳香族化合物が好適である。
【0050】
これら縮合多環式芳香族化合物のなかでも、可視光で重合を励起することが可能となるように、可視域に吸収を有する化合物であることが好ましく、可視域に極大吸収を有する化合物であることがより好ましい。また、これら縮合多環式芳香族化合物は必要に応じて複数の化合物を併用してもよい。
【0051】
当該縮合多環式芳香族化合物などの増感剤の添加量も、組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、通常は前記した光酸発生剤1モルに対し、増感剤の化合物が0.001〜20モルであり、0.005〜10モルであることが好ましい。
【0052】
また、増感剤として、単独であるいは上記縮合多環式芳香族化合物に加えて、酸化型の光ラジカル発生剤を配合すると、より一層重合活性が向上し好ましい。酸化型の光ラジカル発生剤は、光照射による励起によって活性ラジカル種を発生させる機構が酸化剤的な作用による(自らは還元される)光ラジカル発生剤をいう。たとえば、光照射により励起してラジカルを発生する化合物であって、励起により水素供与体から水素を引き抜いてラジカルを生成する、いわゆる、水素引き抜き型タイプのもの、励起により自己開裂を起こしてラジカルを発生し(自己開裂型ラジカル発生剤)、次いで当該ラジカルが電子供与体から電子を引き抜くタイプのもの、光照射により励起して電子供与体から直接電子を引き抜いてラジカルとなるものなどが挙げられる。
【0053】
これら酸化型の光ラジカル発生剤は特に制限されず、公知の化合物を用いればよいが、光照射を行った際の重合活性が他の化合物に比べてより高い点で、水素引き抜き型の光ラジカル発生剤が好ましく、なかでも、ジアリールケトン化合物、α−ジケトン化合物またはケトクマリン化合物が特に好ましい。
【0054】
ジアリールケトン化合物を具体的に例示すると4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、9−フルオレノン、3,4−ベンゾ―9−フルオレノン、2―ジメチルアミノ―9−フルオレノン、2−メトキシ―9―フルオレノン、2−クロロ―9−フルオレノン、2,7−ジクロロ―9―フルオレノン、2−ブロモ―9―フルオレノン、2,7−ジブロモ―9―フルオレノン、2−ニトロ−9−フルオレノン、2−アセトキ−9−フルオレノン、ベンズアントロン、アントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ジメチルアミノアントラキノン、2,3−ジメチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1,5−ジクロロアントラキノン、1,2−ジメトキシアントラキノン、1,2−ジアセトキシ−アントラキノン、5,12−ナフタセンキノン、6、13−ペンタセンキノン、キサントン、チオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、9(10H)−アクリドン、9−メチル−9(10H)−アクリドン、ジベンゾスベレノンなどを挙げることができる。
【0055】
α−ジケトン化合物の具体例を例示すれば、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、アセチルベンゾイル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4’−ジメトキシベンジル、4,4’−オキシベンジル、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノンなどが挙げられる。
【0056】
また、ケトクマリン化合物としては、3−ベンゾイルクマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−7−メトキシクマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)7−メトキシ−3−クマリン、3−アセチル−7−ジメチルアミノクマリン、3−ベンゾイル−7−ジメチルアミノクマリン、3,3’−クマリノケトン、3,3’−ビス(7−ジエチルアミノクマリノ)ケトンなどを挙げることができる。
【0057】
これら酸化型の光ラジカル発生剤は、単独または2種類以上を混合して用いて使用できる。また、添加量も組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、通常は前記した光酸発生剤1モルに対し、光ラジカル発生剤が0.001〜20モルであり、0.005〜10モルであることが好ましい。
【0058】
さらに、上記成分以外にも光酸発生剤の分解を促進させるために、p−ジメトキシベンゼン、1,2,4−トリメトキシベンゼン、フェニルアラニン、4−ジメチルアミノ安息香酸エステルなどの電子供与性の化合物を含んでいてもよい。
【0059】
(C)燐光性化合物
本発明の実施の形態にかかる可視光硬化性組成物には、燐光性化合物が配合される。燐光性化合物とは、特定波長の光によって励起され、異なる波長の光を発する化合物であり、励起された後、励起光を遮断しても発光が持続する性質を持つ化合物である。なお、燐光性化合物と同様に、特定波長の光によって励起され、異なる波長の光を発する化合物としては蛍光性化合物があるが、本発明において燐光性化合物に代えて蛍光性化合物を用いても本発明の効果は得られない。この原因は明らかではないが、蛍光性化合物が励起一重項から瞬時にエネルギーを放出するのに対し、燐光性化合物が比較的安定な励起三重項を経由して蓄えたエネルギーを放出するため、燐光性化合物や光重合開始剤あるいは光子が拡散する時間的余裕があるため、重合開始反応や生長反応が効率よく進みやすいためではないかと考えられる
【0060】
本発明の実施の形態において、燐光性化合物は、400nm以上に励起波長域を有し、かつその最大発光ピーク波長と併用する上述の光重合開始剤の最大励起波長との差が50nmを超えないように選択される。このような条件を満たす燐光性化合物と光重合開始剤とを組み合わせしながら使用することによって、燐光性化合物は、本来、光重合開始剤にとってさほど有効ではない波長の光を燐光として変換し、光重合開始剤の励起波長域にシフトする。このため、光重合開始剤は、シフトされた光の照射によってより多くのラジカルを発生させることができる。その結果、より多く発生されたラジカルは、重合開始反応に寄与し、可視光硬化性組成物の重合効率を高めることができる。すなわち、可視光硬化性組成物の硬化が充分に進行できると共に、硬化深度が効率よく向上できる。
【0061】
燐光性化合物の励起波長は、紫外可視分光光度計を用いた対象化合物の分光スペクトルの測定結果より求める。本発明における当該装置の分解能は5nmである。また、燐光性化合物の発光波長は、蛍光燐光分光光度計で測定できる。本発明における当該装置の分解能は5nmである。
【0062】
本発明の実施の形態において、燐光性化合物の最大発光ピーク波長と併用する上述の光重合開始剤の最大励起波長ピークの差が50nmを超える場合、燐光性化合物から発した光が光重合開始剤によって吸収されにくくなるため、ラジカルを発生する効果が低くなる。燐光性化合物の最大発光ピーク波長と併用する上述の光重合開始剤の最大励起波長ピークの差が30nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることが最も好ましい。
【0063】
本発明の実施の形態にかかる可視光硬化性組成物に配合される燐光性化合物は、高い発光輝度を有すればするほど、光照射により可視光硬化性組成物の硬化性を高めることができるため好ましい。本明細書において、「発光輝度」とは、常用光源D65を用い200lxの照度で4分間照射した後、さらに1分間経過した後の残光輝度「mcd/m」を意味する。発光輝度は、50mcd/m以上とすることが好ましく、100mcd/m以上であることがより好ましい。一方、発光輝度は、大きすぎると残光として残り、たとえば、可視光硬化性組成物の硬化体が屋外から暗所に急に移動した場合、残光によって外観が不自然に見えるおそれがある。よって、必要以上の発光輝度が審美性の低下につながる観点から、発光輝度は900mcd/m以下であることが好ましく、500mcd/m未満であることがより好ましく、300mcd/m以下であることが最も好ましい。
【0064】
また、可視光硬化性組成物の硬化性は、配合される燐光性化合物の量によって変化し、燐光性化合物の配合量が多いほど可視光硬化性組成物の硬化性を高めることができる。しかし、燐光性化合物を多めに配合すると、可視光硬化性組成物の硬化体は、励起された燐光性化合物の残光に影響される。すなわち、前述したと同様、可視光硬化性組成物の硬化体が屋外から暗所に急に移動した場合、残光によって硬化体の外観が不自然に見え、審美性が低下するおそれがある。本発明の実施の形態において、燐光性化合物の配合量は、可視光硬化性組成物100質量部に対して、1質量部以上とするのが好ましく、3〜20質量部の範囲がより好ましく、5〜10質量部の範囲が最も好ましい。
【0065】
また、燐光性化合物の発光スペクトルは、可視光硬化性組成物の硬化体の視認性に影響を与える。紫色と青色の発光は、緑色または黄色の発光よりも視認性が低く、色が目立たない。このため、視光硬化性組成物の硬化体の外観に影響を与えにくい。このような理由から、燐光性化合物の発光スペクトルピーク波長は400〜500nmの範囲とするのが好ましく、440〜470nmの範囲とするのがより好ましい。
【0066】
本発明の実施の形態において、発光性が高く、耐光性や化学的安定性に優れる理由から、燐光性化合物としては、アルミン酸塩化合物を好適用いることができる。特に、ユーロピウム、ジスプロチウム、ネオジムなどの希土類金属をドープしたアルミン酸ストロンチウム塩、アルミン酸カルシウム塩を用いるのがより好ましい。具体的な例としては、たとえば、SrAl:Eu,Dy、SrAl1425:Eu,Dy、CaAl:Eu,Ndなどが挙げられる。なお、これらの燐光性化合物は、すべて単独で、もしくは組み合わせて使用することができる。また、可視光硬化性組成物の硬化体の審美性の観点から、白色に近い体色を有する燐光性化合物、たとえば、CaAl:Eu,Ndを用いることがより好ましい。
【0067】
燐光性化合物の粒径は任意だが、平均粒径(D50)は、0.1μm〜30μmの範囲とすることが好ましく、0.5〜10μmの範囲とすることがより好ましく、1〜5μmの範囲とすることが最も好ましい。平均粒径を0.1μm以下とすると、平均粒径が小さすぎるため、燐光性化合物が光重合開始剤にとって有効な波長の光を吸収しにくく、このため、本発明の効果を得ることが難しくなる。一方、平均粒径を30μm以上とすると、平均粒径が大きすぎるため、可視光硬化性組成物に配合される燐光性化合物の不均一性や沈降のリスク、得られる硬化体の表面仕上げ不良などのおそれが生じる。なお、本発明において、平均粒径(D50)は、試料粉体を適当な分散媒に分散させ、レーザー回折散乱法等の原理による粒度分布計を用いて測定された体積分率値を言う。
【0068】
(D)顔料
本発明の実施の形態にかかる可視光硬化性組成物には、顔料が配合される。顔料は、可視光硬化性組成物の硬化体を所望の外観、たとえば自然な天然歯の色調やホワイトニング行った歯のような真白の色調などに見えるように調色するための成分である。従来、顔料を含む可視光硬化性組成物は、顔料によって光が反射、吸収されるため、可視光硬化性組成物の硬化性、特に硬化深度を得ることが難しい。本発明では、燐光性化合物を用いることによって、特に顔料を多く有するような可視光硬化性組成物に対しても非常に有効に作用することが確認できる。このため、顔料を自由に配合することができ、本発明の実施の形態にかかる可視光硬化性組成物は、調色性がよいものとなる。
【0069】
本発明の実施の形態において、可視光硬化性組成物に含まれる顔料としては、可視光硬化性組成物の硬化体の調色に役があれば特に限定されず、具体的に、たとえば、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、硫酸バリウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、カーボンブラック、酸化鉄、銅クロマイトブラック、酸化クロムグリーン、クロムグリーン、バイオレット、クロムイエロー、クロムグリーン、クロム酸鉛、モリブデン酸鉛、チタン酸カドミウム、ニッケルチタンイエロー、ウルトラマリーンブルー、コバルトブルー、ビスマスバナデート、カドミウムイエローまたはカドミウムレッドのような無機顔料;モノアゾ顔料、ジアゾ顔料、ジアゾ縮合顔料、ペリレン顔料、またはアントラキノン顔料のような有機顔料が挙げられる。このうち、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等の白色系顔料が主顔料として含有されるのが一般的である。なお、上記顔料は、単独の化合物としてまたは互いにもしくは更なる色形成化合物と組み合わせて使用することができる。
【0070】
本発明の実施の形態において、顔料の配合量は、目的に応じて選択すればよいが、重合性単量体100質量部に対して、0.001〜25質量部、好適には1〜20質量部の範囲とするのが好ましい。
【0071】
顔料の平均粒度は、通常、約1μm以下である。必要であれば、市販の顔料の寸法を微粉砕により減少させることができる。たとえば、可視光硬化性組成物の他の成分との混合を容易にするため、顔料を分散体の形態で配合物に加えることができる。顔料は、たとえば、反応性希釈剤のような低粘性液体に分散させたり、無機粒子のような粉体に分散させたりしたマスターバッチとして用いることができる。
【0072】
(S)その他
(S1)充填材
本発明の実施の形態にかかる可視光硬化性組成物には、必要に応じて充填材が併用して配合することができる。該充填材は、可視光硬化性組成物の硬化体における機械的強度の向上、重合収縮率の低減などの観点から配合される。
【0073】
該充填材としては、公知の充填材が制限なく使用でき、無機充填材および有機充填材のいずれを用いてもよいが、通常は無機充填材が用いられる。こうした無機充填材としては、具体的には、非晶質シリカ、シリカージルコニア、シリカーチタニア、シリカーチタニア酸化バリウム、シリカーチタニアージルコニア、石英、アルミナ、ガラスなどの球形状粒子あるいは不定形状粒子を挙げることができる。このうち、シリカとジルコニア、シリカとチタニア、またはシリカと酸化バリウムとを主な構成成分とする複合酸化物が、高いX線造影性を有するため好ましく使用される。また、充填材の形状は、球形状であるのが、耐摩耗性、表面滑沢性に特に優れた可視光硬化性組成物の硬化体が得られることから、特に好適に用いられる。
【0074】
上記無機充填材は、(A)重合性単量体とのなじみをよくし機械的強度や耐水性を向上させるために、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理されていることが望ましい。表面処理の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシランなどが好適に用いられる。上記シランカップリング剤は、重合性単量体に合わせて、適時選択すればよく、1種類あるいは2種類以上を合わせて用いることができる。
【0075】
さらに、上記の無機充填材は、予め重合性の有機マトリックスと混合し、硬化し、粉砕したものをフィラー(以下、有機無機複合フィラーとも呼ぶ)として用いることもできる。有機無機複合フィラーに用いられる重合性の有機マトリックスとしては特に制限されず、公知の重合性の有機マトリックスが用いられる。好適に用いられる重合性の有機マトリックスを例示すれば、本発明の重合性単量体と重合開始剤の混合物を挙げることができる。
【0076】
本発明の実施の形態において、充填材の配合量は、目的に応じて選択すればよいが、重合性単量体100質量部に対して通常100〜1000質量部の割合であり、より好ましくは110〜900質量部の割合で使用される。
【0077】
(S2)紫外線吸収剤、重合禁止剤など
本実施の形態にかかる可視光硬化性組成物には、必要に応じて紫外線に対する変色防止のため紫外線吸収剤を配合できる。また、保存安定性を向上させるために、重合禁止剤を配合することも好ましい。さらに、安定剤あるいは殺菌剤などを添加してもよい。
【0078】
本発明の実施の形態にかかる可視光硬化性組成物を硬化させるための光照射器は、特に制限されない。照射光が光重合開始剤を励起しうる400nm以上の可視光域の波長の光を少なくとも含み、それ以外の波長の光・電磁波(たとえば、紫外線や赤外線)を含まない光照射器を用いることが好ましい。光照射器の光源の具体例としては、ハロゲンランプ、LEDランプ、キセノンランプ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、蛍光管などが挙げられる。そのうち、波長スペクトルの広いハロゲンランプや高圧水銀ランプを用いることがより好ましい。光照射器は、発生される光量が100〜5000mW/cm程度であるものが好ましく使用される。光量が5000mW/cm以下とすると、可視光硬化性組成物の硬化を行うとき、温度上昇による悪影響が生じない。一方、光量が100mW/cm以上とすると、硬化に十分な光を供給することができる。
【0079】
(可視光硬化性組成物の使用方法)
本発明の可視光硬化性組成物は、可視光で硬化させることが求められる硬化性組成物の公知の用途に制限なく適用できる。硬化深度が深く、可視光照射による光硬化特性に優れる特性は歯科治療の分野で用いられる可視光硬化性組成物として好適である。具体的には、歯牙修復材料や歯科用接着剤等が挙げられ、特に好適には歯牙修復材料である。歯牙修復材料として用いる場合、硬化深度の深さから、窩洞内に充満させて一度の光硬化で硬化させる態様に適しているが、積層硬化方法において処理する場合に適用してもよい。積層硬化方法で実施する場合においても、各層の硬化性はより向上し、歯牙修復材料の機械的強度が高まる。また、各層の層厚を厚めにして積層数を少なくすることで、作業効率を向上させることも可能になる。
【実施例】
【0080】
以下、各実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0081】
まず、各実施例および各比較例で使用した重合性単量体とその略称、光重合開始剤とその略称、燐光性化合物とその略称、蛍光性化合物とその略称、顔料の組成、フィラーの組成、可視光硬化性組成物の調製方法、可視光硬化性組成物の硬化処理後の硬化深度評価方法、および可視光硬化性組成物の硬化体の環境光による発光性評価方法について、以下のように説明する。
【0082】
(1)重合性単量体とその略称
M1:bisGMA/3G
2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパーン60質量部、トリエチレングリコールジメタクリレート40質量部
M2:D−2.6E/UDMA
2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパーン50質量部、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2−4−トリメチルヘキサン50質量部。
【0083】
(2)光重合開始剤とその略称
I1:CQ/DMBE
カンファーキノン1質量部(励起波長400〜500nm、最大励起波長470nm)、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル1質量部
I2:TPO
2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(励起波長〜420nm、最大励起波長400nm)
【0084】
(3)燐光性化合物とその略称
P1:V300
「CaAl:Eu,Nd、体色:白色、D50=25μm、励起波長:200〜410nm、発光ピーク波長:440nm、発光輝度:80mcd/m
P2:V7BGL3
「CaAl:Eu,Nd(70質量部)+SrAl1425:Eu,Dy(30質量部)、体色:薄黄色、D50=20μm、励起波長:200〜450nm、発光ピーク波長:455nm、発光輝度:300mcd/m
P3:V5BGL5
「CaAl:Eu,Nd(50質量部)+SrAl1425:Eu,Dy(50質量部)、体色:薄黄色、D50=15μm、励起波長:200〜450nm、発光ピーク波長:465nm、発光輝度:440mcd/m
P4:V3BGL7
「CaAl:Eu,Nd(30質量部)+SrAl1425:Eu,Dy(70質量部)、体色:薄黄緑色、D50=10μm、励起波長:200〜450nm、発光ピーク波長:475nm、発光輝度:580mcd/m
P5:BGL300
「SrAl1425:Eu,Dy、体色:薄黄緑色、D50=3μm、励起波長:200〜450nm、発光ピーク波長:490nm、発光輝度:800mcd/m
【0085】
P6:GSS
「ZnS:Cu、体色:黄緑色、D50=10μm、励起波長:200〜450nm、発光ピーク波長:530nm、発光輝度:300mcd/m
P7:BAS
「(Sr,Ca)S:Bi、体色:灰白色、D50=30μm、励起波長:250〜350nm、発光ピーク波長:455nm、発光輝度:10mcd/m
【0086】
(4)蛍光性化合物とその略称
F1:Lumilux Blue
「2,5−ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル、体色:黄白色、D50=9μm、励起波長:290〜430nm、発光ピーク波長:450nm、発光輝度:0mcd/m
【0087】
(5)顔料の組成
酸化チタン、ピグメントイエロー95、ピグメントレッド166、ピグメントブルー60。
【0088】
(6)フィラーの組成
平均粒径が400nmである球状シリカージルコニア70質量部、平均粒径が80nmである球状シリカーチタニア30質量部の混合表面処理物
【0089】
(7)可視光硬化性組成物の調製方法
重合性単量体100質量部に光重合開始剤(I1は2質量部、I2は1質量部)と重合禁止剤としてのハイドロキノンモノメチルエーテル0.05質量部を添加して溶解させた。得られた混合物の36質量部に対し、フィラー64質量部を添加し、乳鉢で練和することでペーストを作製した。このペーストに顔料を適当量に添加し、パールエステ(トクヤマデンタル社製)オペークOA3色近似色に調色した。さらに、必要に応じて燐光性化合物または蛍光性化合物を添加し、よく分散させ、真空脱泡を行うことで均一なペーストを調整した。
【0090】
(8)可視光硬化性組成物の硬化処理後の硬化深度評価方法
ペースト状の可視光硬化性組成物をΦ4mm×3mm厚のSUS製の金型に流し込み、50μmのPETフィルムで上から覆って、余剰ペーストを押出した。その後、光量500mW/cmのハロゲン型歯科用光照射器(Demetron LC、サイブロン社製)を用いて30秒間光照射を行い、ペーストを硬化させた。硬化体を取り出し、未重合ペーストをプラスチックスパチュラで除去した後、硬化した部分の厚みをマイクロメータで測定した。硬化深度は、燐光性化合物もしくは蛍光性化合物を添加しない場合の硬化深度を100%とした場合の割合で求めた。
【0091】
(9)可視光硬化性組成物の硬化体の環境光による発光性評価方法
Φ10mm×0.3mmの可視光硬化性組成物の硬化体を5000ルクスの蛍光灯下に1時間放置した後、暗室内に入れて30秒後の色調を目視確認し、対照群(燐光性化合物を含まないもの)と比較して発光が見られないものを◎、わずかに発光が見られるものを○、中程度の発光が見られるものを△、強い発光が確認されるものを×とした。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
(実施例1)
重合性単量体としてM1を用い、光重合開始剤としてI1を用い、燐光性化合物P1を上記重合性単量体100質量部に対して1質量部用いる態様で、前記(7)可視光硬化性組成物の調製方法に従って調整し、均一なペーストを得た。これを、硬化深度評価および環境光による発光性評価用サンプルとした。
【0095】
(実施例2〜13)
実施例1において、光重合開始剤と燐光性化合物を表1に示した種類と配合量で用いる態様に変更する以外は、実施例1と同じような調整方法にて各種評価用サンプルを作製した。
【0096】
(比較例1〜3)
実施例1,5,7において、燐光性化合物は配合しない以外は、実施例1と同じような調整方法にて各種評価用サンプルを作製した。
【0097】
(比較例4〜6)
実施例1において、使用する重合性単量体、光重合開始剤、及び燐光性化合物をそれぞれ表1に示した種類と配合量で用いる態様に変更する以外は、実施例1と同じような調整方法にて各種評価用サンプルを作製した。
【0098】
(比較例7)
実施例10において、燐光性化合物P3に代えて蛍光性化合物Fを配合する以外は、実施例1と同じような調整方法にて各種評価用サンプルを作製した。
【0099】
各実施例および各比較例において、可視光硬化性組成物に含まれる材料の種類とその組み合わせを表1と表2に示す。また、各実施例および各比較例で得られた可視光硬化性組成物の硬化体サンプルについて、硬化深度および環境光による発光性を評価した。その結果を表1と表2に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合性単量体、(B)光重合開始剤、(C)燐光性化合物、(D)顔料を含む可視光硬化性組成物であって、(B)上記光重合開始剤、(C)上記燐光性化合物がともに400nm以上に励起波長域を有しており、(C)上記燐光性化合物の最大発光ピーク波長と、(B)上記光重合開始剤の400nm以上の領域に存在する最大励起波長との差が50nm以下であることを特徴とする可視光硬化性組成物。
【請求項2】
請求項1記載の可視光硬化性組成物において、発光輝度が50mcd/m以上である(C)前記燐光性化合物を、前記可視光硬化性組成物100質量部に対して1質量部以上含むことを特徴とする可視光硬化性組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の可視光硬化性組成物において、発光輝度が900mcd/m以下である(C)前記燐光性化合物を、前記可視光硬化性組成物100質量部に対して20質量部以下含むことを特徴とする可視光硬化性組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の可視光硬化性組成物において、(C)前記燐光性化合物が、希土類金属がドープされたアルミン酸塩であることを特徴とする可視光硬化性組成物。

【公開番号】特開2012−31155(P2012−31155A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143662(P2011−143662)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】