説明

台車式加熱炉

【課題】炉の生産性を低下させることなくスケールの除去が可能な台車式加熱炉を提供する。
【解決手段】開口部を蓋体で閉塞して金属製品に加熱処理を施す炉体11と、金属製品を上面に搭載し、炉床13上を走行して開口部から炉体11内に搬出入する台車31と、炉体11の側壁11b内周面と台車31の側面31aとの間に形成される間隙Gを、台車31の側面31a下部に下方から押圧することにより密封するシール装置10と、を備える台車式加熱炉30であって、台車31は、鋼鉄製の台車フレーム32と、上面に金属製品を載せる主耐火物3と、交換部材41と、からなり、炉床13の、間隙Gの下方位置に、断面略矩形状で且つ間隙Gよりも幅広で、炉床13から台車31の上面までの高さT1よりも深い溝40を形成し、間隙Gに溜まったスケールXを溝40に落下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製品に加熱処理を施すために、金属製品を台車の上面に搭載して炉体内に搬出入する台車式加熱炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製品に加熱処理を施すために用いられる台車式加熱炉は、図7及び図8に示すように、主に、炉体11と、台車1と、シール装置10を備える。
【0003】
台車1は、金属製品Mを上面に搭載し、炉体11の炉床13上を走行して開口部から炉体11内に搬出入するものであり、通常、鋼鉄製の台車フレーム2を囲む外周端部を除く部分に煉瓦3を上載し、前記外周端部に、煉瓦受金物7を溶接で固定し、さらに、煉瓦受金物7の露出面をシリカやアルミナを含む耐火性のキャスタブル8を打設して覆うことによって構成されている。台車フレーム2の底面には炉床13上に設けられたレール14を走行する車輪2aが備えられている。
こうした構成の台車1は、通常、煉瓦3、煉瓦受金物7およびキャスタブル8で構成されているので、耐火性に優れるといった特徴を備える。
【0004】
また、炉体11の側壁11b内周面とキャスタブル8の側面(台車1の側面1a)との間には、加熱時のキャスタブル8の膨張によって、炉体11に接触することがないように間隙Gが形成され、シール装置10は、この間隙Gを台車1の側面1a下部に下方から押圧することにより密封する。
【0005】
なお、金属製品M等に加熱処理を施す装置は、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−271118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、加熱処理時には、金属製品Mの表面においてスケールXと呼ばれる酸化物が大量に生成され、金属製品Mの表面からスケールXが剥離脱落して台車1上に堆積し、その一部は台車1から、炉体11の側壁11b内周面と台車1の側面1aとの間隙Gに落下する。そして、間隙Gの下方はシール装置10のシリンダー10aによって稼動するシール部10bによって密封されているので、シール部10bの上面にスケールXが溜まる。
このように、間隙GにスケールXが溜まったままシール装置10を作動すると、台車1の側面1aの下部とシール部10bとの間にスケールXが入り込むことは多い。
この状態のままシール装置10を作動すると、シール装置10のシール部10bが台車1の側面1a下部と密着できないので、シール機能が十分に発揮されないといった問題がある。
また、スケールXを噛み込んだ状態のままシール装置10の作動を繰り返すと、部分的に過大な力が掛かるので、台車1及びシール装置10が破損してしまう事態すら起こり得る。
【0008】
この問題を避けるために、間隙Gに溜まったスケールXを炉床13上に落下させると、スケールXが炉床13上に散乱してしまうので、散乱したスケールXが台車1による搬出入の障害となるといった問題が新たに発生する。
そして、搬出入の障害となることを避けるためには、定期的に炉床13上のスケールXを除去する必要があるが、除去の際には、台車1を炉体11から搬出した後、除去作業者の安全確保のために炉の操業を停止しなければならないので、台車式加熱炉20の生産性が低下するという問題もある。
【0009】
そこで、本発明の目的とするところは、炉の生産性を低下させることなくスケールの除去が可能な台車式加熱炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の台車式加熱炉(30)は、正面に開閉自在な開口部(11a)が形成され、開口部(11a)を蓋体(12)で閉塞して金属製品(M)に加熱処理を施す炉体(11)と、金属製品(M)を上面に搭載し、炉体(11)の炉床(13)上を走行して開口部(11a)から炉体(11)内に搬出入する台車(31)と、炉体(11)の側壁(11b)内周面と台車(31)の側面(31a)との間に形成される間隙(G)を、台車(31)の側面(31a)下部に下方から押圧することにより密封する、炉体(11)側面側に設けられたシール装置(10)と、を備える台車式加熱炉(30)であって、炉床(13)の、間隙(G)の下方位置に、断面略矩形状で且つ間隙(G)よりも幅広の溝(40)を形成し、間隙(G)に溜まったスケール(X)を溝(40)に落下させることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の台車式加熱炉(30)は、台車(31)は、鋼鉄製の台車フレーム(32)と、台車フレーム(32)の全体に平坦状に上載され、上面に金属製品(M)を載せる主耐火物(3)と、台車フレーム(32)の外周端面に締結部材(39)によって着脱自在に取付けられる取付部(35)の上面に、主耐火物(3)の外周端面に隣接する副耐火物(36)を固定してなる交換部材(41)と、からなることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の台車式加熱炉(30)は、シール装置(10)を、炉体(11)の側壁(11b)下部に設け、密封時には炉体(11)の側壁(11b)下部と台車(31)の側面(31a)下部とを下方から同時に押圧させたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に記載の台車式加熱炉(30)は、シール装置(10)を、炉体(11)奥壁(11c)側にも設け、炉体(11)の奥壁(11c)内周面と台車(31)の後面との間に形成される間隙(G)を密封するとともに、溝(40)を、炉体(11)の奥壁(11c)と台車(31)の後面との間に形成される間隙(G)の下方位置に一連的に延設し、平面コ字状にしたことを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の台車式加熱炉(30)は、溝(40)を、炉床(13)から台車(31)の上面までの高さ(T1)よりも深く形成したことを特徴とする。
【0015】
また、請求項6に記載の台車式加熱炉(30)は、溝(40)の底面(40a)を、スケール(X)よりも硬質の硬質材で形成したことを特徴とする。
なお、ここでいうスケール(X)よりも硬質の硬質材とは、例えばコンクリートや金属板をいう。
【0016】
また、請求項7に記載の台車式加熱炉(30)は、上方に向けて突出する複数の凸部(47a)と隣接する凸部(47a)間に形成された複数の貫通孔(47b)を有し、溝(40)の上面を覆うグレーチング(47)をさらに備えることを特徴とする。
【0017】
また、請求項8に記載の台車式加熱炉(30)は、グレーチング(47)の複数の凸部(47a)は溝(40)を跨ぐように延ばされた断面山形で、溝(40)の延びる方向に並設されたものであることを特徴とする。
【0018】
また、請求項9に記載の台車式加熱炉(30)は、グレーチング(47)を、炉床(13)を構成する部材の材質よりも硬質の部材で形成したことを特徴とする。
【0019】
ここで、上記括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に掲載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0020】
本発明の請求項1に記載の台車式加熱炉によれば、炉床の、炉体の側壁内周面と台車の側面との間に形成される間隙の下方位置に、断面略矩形状で且つ間隙よりも幅広の溝を形成したので、間隙に溜まったスケールを溝に落下させることができ、シール装置のシール機能を保持できる。つまり、スケールを落下させるための溝を形成したので、間隙にスケールを溜めたままにしなくて済み、台車の側面下部とシール装置との間にスケールが入り込むことが少なくなる。よって、スケールを噛み込んだままの状態で、シール装置で密封することが抑制されるので、十分にシール装置の機能を発揮できる。
それに加え、溝を、間隙の下方位置に間隙よりも幅広に形成したので、シール装置を開放して間隙から落下させたスケールが確実に溝に入り、スケールが炉床上に散乱することがない。よって、搬出入の際に台車でスケールを踏むこともないので、搬出入を円滑に行える。
このように、溝にスケールを落下させるだけでよいので、溝内のスケールを除去するときに、加熱炉の操業を停止しなくてよい。すなわち、溝内には台車との間にスケールの除去作業に十分なスペースがあるので、例えば、自走式のスケール回収装置を使用するなどして台車が炉内に配置されたままでスケールの除去作業を行うことができる。また、シール装置の機能が十分で、炉内の熱が溝まで伝わらないならば、台車が炉内に配置されたままで除去作業者が直接溝内で除去作業を行うことすらできる。このように、台車式加熱炉の操業を停止させずにスケールの除去作業を行えるので、炉の生産性が低下しない。
【0021】
また、請求項2に記載の台車式加熱炉によれば、請求項1に記載の発明の作用効果に加え、台車フレームの外周端面に締結部材によって着脱自在に取付られる取付部の上面に、主耐火物の外周端面に隣接する副耐火物を固定してなる交換部材を備えるので、副耐火物の補修を容易且つ短時間で行うことができる。
すなわち、副耐火物とシール装置との間にスケールが入り込んだまま、シール装置を押圧させて副耐火物が欠損した場合であっても、交換部材だけを、締結部材を外して台車フレームから取外した後、それに代わる新たな交換部材を台車フレームに締結部材で取付けることができる。
したがって、副耐火物の補修を、極めて容易且つ短時間で終えることができ、これにより、補修に要する費用を削減し、また、台車式加熱炉を停止させる必要もないので、生産性を低下させることもない。
【0022】
また、請求項3に記載の台車式加熱炉によれば、請求項1又は2に記載の発明の作用効果に加え、シール装置を、炉体の側壁下部に設け、密封時には炉体の側壁下部と台車の側面下部とを下方から同時に押圧させたので、効率よく密封ができ、しかもシール装置の開放により間隙に溜まったスケールを効率よく落下させることができる。
【0023】
また、請求項4に記載の台車式加熱炉によれば、請求項1乃至3に記載の発明の作用効果に加え、シール装置を、炉体奥壁側にも設け、炉体の奥壁内周面と台車の後面との間に形成される間隙を密封するとともに、溝を、炉体の奥壁と台車の後面との間に形成される間隙の下方位置に一連的に延設し、平面コ字状にしたので、溝に落下したスケールの除去を一度に行える。つまり、スケールは炉体内において、台車の側面側のみならず後面側にも台車から落下するが、台車側面側の溝から台車後面側の溝へ、後面側の溝から側面側の溝へ連続して除去作業を行えるので、効率がよい。
【0024】
また、請求項5に記載の台車式加熱炉によれば、請求項1乃至4に記載の発明の作用効果に加え、溝を炉床から台車の上面までの高さよりも深く形成したので、落下の際にスケールがより細かく粉砕される。よって、スケールの表面積が大きくなるので、スケールの熱が早く放出され、スケールが早く冷える。したがって、早く除去作業に取り掛かることができる。それに加え、スケールの塊が細かくなるので、除去作業のときに嵩張らない。
【0025】
また、請求項6に記載の台車式加熱炉によれば、請求項1乃至5に記載の発明の作用効果に加え、溝の底面を、スケールよりも硬質の硬質材で形成したので、落下の際にスケールを効率よく粉砕できる。また、溝の底面はスケールよりも硬質のため、溝の底面の破損が起こらないので、溝の補修の必要がなく、メンテナンス性に優れる。
【0026】
また、請求項7に記載の台車式加熱炉によれば、請求項1乃至6に記載の発明の作用効果に加え、上方に向けて突出する複数の凸部と隣接する凸部間に形成された複数の貫通孔を有し、溝の上面を覆うグレーチングをさらに備えるので、間隙から落下させたスケールはまず凸部で粉砕され、そのまま貫通孔から落下し、再び溝の底面で粉砕される。よって、より効率よく、細かくスケールを粉砕することができるので、早くスケールが放熱するとともにスケールの除去作業のときに嵩張らない。
【0027】
また、請求項8に記載の台車式加熱炉によれば、請求項7に記載の発明の作用効果に加え、グレーチングの複数の凸部は断面山形であるので、スケールが凸部の尖った上端に当たると、確実にスケールが粉砕される。
また、凸部は、溝を跨ぐように延ばされ、溝の延びる方向に並設されたものであるので、凸部で粉砕されたスケールは、溝の延びる方向に散乱する。これにより、凸部で粉砕されたスケールが炉床上に散乱することが軽減され、大部分を溝に入れることができる。
【0028】
また、請求項9に記載の台車式加熱炉によれば、請求項7又は8に記載の発明の作用効果に加え、グレーチングを、炉床を構成する部材の材質よりも硬質の部材で形成したので、グレーチングの凸部で確実にスケールを粉砕することができる。
【0029】
なお、本発明の台車式加熱炉のように、炉床の、炉体の側壁内周面と台車の側面との間に形成される間隙の下方位置に、断面略矩形状で且つ間隙よりも幅広の溝を形成する点は、上述した特許文献1には全く記載されていない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第一実施形態に係る台車式加熱炉を示す、図8のA−A線拡大断面図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る台車式加熱炉の平面図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る台車式加熱炉の、図2のB−B線断面図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係る台車式加熱炉における溝の底面を走行してスケールを回収するスケール回収装置を表す概略側面図であり、(a)は、スケール除去前を表す図、(b)は、スケール除去後を表す図である。
【図5】本発明の第一実施形態に係る台車式加熱炉における台車の、交換部材を台車フレームから外した状態を示す断面図である。
【図6】本発明の第二実施形態に係る台車式加熱炉を示す、図8のA−A線拡大断面図である。
【図7】従来例に係る台車式加熱炉を示す、図8のA−A線拡大断面図である。
【図8】台車を示す概略斜視図である。
【図9】本発明の第三実施形態に係る台車式加熱炉を示す、図8のA−A線拡大断面図である。
【図10】本発明の第三実施形態に係る台車式加熱炉におけるグレーチングを示す拡大斜視図である。
【図11】本発明の第三実施形態に係る台車式加熱炉における、グレーチングで上面を覆われた溝を示す拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第一実施形態)
図1乃至図5、及び図8を参照して、本発明の第一実施形態に係る台車式加熱炉30を説明する。
【0032】
この台車式加熱炉30は、主に炉体11と、台車31と、シール装置10と、を備えた炉に対して、特に溝40を形成したものである。
【0033】
炉体11は、図2及び図3に示すように、正面に開閉自在な開口部11aが形成され、開口部11aを蓋体12で閉塞して、金属製品Mを鍛造するために、内部に搬入された金属製品Mに加熱処理を施す。加熱処理時には、例えばバーナー等で内部を昇温する。
【0034】
台車31は、図1乃至図3及び図8に示すように、金属製品Mを上面に搭載し、炉体11の炉床13上を走行して炉体11の開口部11aから炉体11内に搬出入するもので、台車フレーム32と、主耐火物3と、交換部材41と、からなる。
台車フレーム32は鋼鉄製で、格子状に組まれた鋼材上に平板が取付けられていて、底面には炉床13上に設けられたレール14を走行するための車輪2aが設けられている。
主耐火物3は、台車フレーム32の全体に平坦状に上載され、上面に金属製品Mを載せる。なお、本実施形態における主耐火物3は、多数の煉瓦を並べて構成している。
【0035】
そして、交換部材41は、取付部35と副耐火物36とで構成されている。
ここで、取付部35は、図1に示すように、台車フレーム32の外周端面に対して複数のボルト(及びナット)といった締結部材39によって着脱自在に取付られている。また、副耐火物36は、取付部35の上面に、主耐火物3の外周端面に隣接するように固定している。副耐火物36の上面の位置は、主耐火物3の上面の位置と同一にしている。
【0036】
また、本実施形態における副耐火物36は、取付部35の上面に溶接(又はボルト)で固定した鋼鉄製の受金物7と、受金物7の露出面を覆うように打設されたキャスタブル8と、で構成している。
キャスタブル8は、シリカ及びアルミナを含む(シリカ、アルミナのうちいずれか一つを含むものでもよい)もので、受金物7の、上面と主耐火物3の外周面側、及びそれに対向する炉体11の側壁内周面側に連続的に設けている。なお、キャスタブル8の、炉体11の側壁内周面側は、取付部35の外周端面(垂直面)を覆うように垂下設している。
【0037】
更に、この台車31は、台車フレーム32の外周端面に凸段部32aを形成し、交換部材41の取付部35の内周端面に、凸段部32aに係合する凹段部35aを形成している。
【0038】
シール装置10は、炉体11の側壁11b下部に設けられ、炉体11の側壁11b内周面と台車31の側面31aとの間に形成される間隙Gを密封するため、炉体11の側壁11b下部と台車31の側面31a下部とを下方から同時に押圧するものである。なお、この間隙Gには、台車31の右側面と炉体11の側壁11b内周面との間隙Gと、台車31の左側面と炉体11の側壁11b内周面との間隙Gとを含む。間隙Gを密封するのは、間隙Gから炉体11内の熱が台車31より下方に放出されることを防止するためである。また、シール装置10は、炉体11奥壁11c側にも設けられ、炉体11の奥壁11c内周面と台車31の後面との間に形成される間隙Gをも密封する。
【0039】
シール装置10は、シリンダー10aとシール部10bとからなり、金属製品Mの加熱処理時においては、シリンダー10aでロッドを伸長させてシール部10bにより間隙Gの下端を塞いでいる。台車31を炉体11内から搬出する際には、シリンダー10aでロッドを収縮させて、シール部10bを間隙Gから離脱させる。そして、ロッドを収縮させた際には、シール部10bの上面が水平面から傾倒する。これはシール部10bの上面に堆積及び付着したスケールXを、後述する溝40に確実に落下させるためである。
【0040】
溝40は、炉床13の、炉体11の側壁11b内周面と台車31の側面31aとの間に形成される間隙Gの下方位置に、断面略矩形状で且つ間隙Gの幅W1よりも幅広に形成される。そして、間隙Gは溝40の幅W2方向の略中央に位置し、溝40は間隙Gに対して平行に延びる。また、溝40の深さT2は、炉床13から台車31の上面までの高さT1よりも深くした。具体的には幅W2は1.1m、深さT2は1.8〜2.3mとした。更に、溝40の底面40aを、スケールXよりも硬質の硬質材(例えば、コンクリートや金属板)で形成した。
【0041】
加えて、台車31側面31a側の溝40の、炉体13奥壁11c側の端部から、炉体11の奥壁11cと台車31の後面との間に形成される間隙Gの下方位置に一連的に溝40を延設し、溝40を平面コ字状にした。
ここで、炉体11奥壁11c側の溝40の深さT2及び幅W2は、台車31側面31a側の溝40の深さT2及び幅W2にそれぞれ等しい。
このような溝40に、シール装置10のロッドを収縮させることで間隙Gに溜まったスケールXを落下させる。
【0042】
具体的なスケールXの回収方法としては、図4に示すようなスケール回収装置42を走行させる。
このスケール回収装置42は、無線による自走式のものであり、前面にスケールXを掻き取り回収するバスケット43と、前方の確認のためのテレビカメラ44と、無限軌道であるクローラー46を備える。
このスケール回収装置42を用いることによって、平面コ字状の溝40の一端から他端まで一回のスケール回収装置42の走行で、溝40内のスケールXを回収することができる。
【0043】
以上のように構成された台車式加熱炉30によれば、炉床13の、炉体11の側壁11b内周面と台車31の側面31aとの間に形成される間隙Gの下方位置に、断面略矩形状で且つ間隙Gよりも幅広の溝40を形成したので、間隙Gに溜まったスケールXを溝40に落下させることができ、シール装置10のシール機能を保持できる。つまり、スケールXを落下させるための溝40を形成したので、間隙GにスケールXを溜めたままにしなくて済み、台車31の側面31a下部とシール部10bのとの間にスケールXが入り込むことが少なくなる。よって、スケールXを噛み込んだままの状態で、シール装置10で密封することが抑制されるので、十分にシール装置の機能を発揮できる。
また、溝40を間隙Gよりも幅広に形成したので、シール装置10を開放して間隙Gから落下させたスケールXが確実に溝40に入り、スケールXが炉床13上に散乱することもない。よって、台車31でスケールXを踏むこともないので、台車31及び金属製品Mの搬出入を円滑に行える。
このように、溝40にスケールXを落下させるだけでよいので、溝40内のスケールXを除去するときに、加熱炉の操業を停止しなくてよい。すなわち、溝40内には台車31との間に、スケールXの除去作業に十分なスペースがあるので、自走式のスケール回収装置42を使用するなどして台車31が炉内に配置されたまま、スケールXの除去作業を行うことができる。また、シール装置10の機能が十分で、炉内の熱が溝40まで伝わらないならば、台車31が炉内に配置されたままで除去作業者が直接溝40内で除去作業を行うことすらできる。このように、台車式加熱炉30の操業を停止させずにスケールXの除去作業を行えるので、炉の生産性が低下しない。
【0044】
それに加え、台車フレーム32の外周端面に締結部材39によって着脱自在に取付られる取付部35の上面に、主耐火物3の外周端面に隣接する副耐火物36を固定してなる交換部材41を備えるので、副耐火物36の補修を容易且つ短時間で行うことができる。
すなわち、仮に間隙Gに溜まったスケールXの除去が不十分で、副耐火物36とシール装置10との間にスケールXが入り込んだままシール装置10を押圧してしまい副耐火物36が欠損した場合であっても、図5に示すように、交換部材41だけを、締結部材39を外して台車フレーム32から取外した後、それに代わる新たな交換部材41を台車フレーム32に締結部材39で取付けることができる。
よって、副耐火物36の補修を、極めて容易且つ短時間で終えることができる。
【0045】
また、溝40を一連的に延設し平面コ字状としたので、溝40に落下したスケールXの除去を一度に行える。つまり、溝40が全てつながっており、溝40の底面40aが同じ高さであるので、スケール回収装置42を一度溝40に配置し走行させるだけで、溝40全てにおいてスケールXの除去作業を行える。
【0046】
そして、溝40を炉床13から台車31の上面までの高さT1よりも深く形成したので、落下の際にスケールXを細かく粉砕できる。よって、スケールXの表面積が大きくなるので、スケールX内部の熱が早く放出され、スケールXが早く冷える。したがって、早く除去作業に取り掛かることができる。それに加え、スケールXが細かく粉砕されるので、除去作業のときに嵩張らない。
【0047】
また、溝40の底面40aを、スケールXよりも硬質の硬質材で形成したので、落下の際にスケールXをより効率よく粉砕できる。また、溝40の底面40aはスケールXよりも硬質のため、溝40の底面40aの破損がないので、溝40の補修の必要がなく、メンテナンス性に優れる。そして、溝40の底面が破損しないので、スケール回収装置42が溝40の底面40aを円滑に走行できる。
【0048】
なお、新たな交換部材41を取付けた後、副耐火物36と主耐火物3との間に空隙Sが形成される場合は、その空隙Sにセラミックファイバー等の充填材を詰め込むことによって、主耐火物3の横滑りを確実に防止できる。
【0049】
なお、本実施形態では、交換部材41を、図1に示すキャスタブル8と同じ長さで、長手方向に複数分割して小型化した状態で設けている。こうすることによって、交換部材41の取り扱いを一層容易なものとすることができる。すなわち、副耐火物36が損傷した部分の交換部材41のみを、長手方向全体ではなく長手方向の短い範囲で交換することができるので、交換作業が容易であり、経済的でもある。
【0050】
なお、本実施形態における取付部35は鋼鉄板で形成して、作業者の手を挿入することのできる大きさの中空部Hを形成している。これにより、手作業によるボルト39の着脱を容易に行うことができる。また、取付部35の上面と下面を、台車フレーム32の上面と下面にそれぞれ面一に設定し、通常時では、取付部35を台車31の一部として機能させている。
【0051】
なお、この台車31は、主耐火物3と副耐火物36を、同一の耐火材で構成することもできる。こうすることによって、例えば、ストックする耐火材の種類を少なくして、経済性を高めることができる。
【0052】
(第二実施形態)
次に図6を参照して、本発明の第二実施形態に係る台車式加熱炉30を説明する。なお、第一実施形態と同一部分には同一符号を付した。
【0053】
本実施形態の第一実施形態との違いは、台車1が交換部材を有さず、一体的に形成されていることであり、その他の構成要素に関しては第一実施形態と同一である。
つまり、本実施形態における台車1は、従来例に係る台車1と同一であり、図6に示すように、鋼鉄製台車フレーム2を囲む外周端部を除く部分に煉瓦3を上載し、前記外周端部に、煉瓦受金物7を溶接で固定し、さらに、煉瓦受金物7の露出面をシリカやアルミナを含む耐火性のキャスタブル8を打設して覆うことによって構成されている。
【0054】
このような台車1を備える台車式加熱炉30であっても、台車1の一部が破損した場合の交換性は第一実施形態より劣るものの、スケールXを粉砕、回収するための溝40は本実施形態でも形成されているので、スケールXの除去に関しては第一実施形態と同様に有益である。
【0055】
(第三実施形態)
次に図9乃至図11を参照して、本発明の第三実施形態に係る台車式加熱炉30を説明する。なお、第二実施形態と同一部分には同一符号を付した。
本実施形態の第二実施形態との違いは、グレーチング47で溝40の上面を覆ったことであり、その他の構成要素に関しては第二実施形態と同一である。
【0056】
グレーチング47は、溝40の上面を覆う蓋であり、複数の凸部47aと複数の貫通孔47bを有する。グレーチング47の上面は、凸部47aが上方に向けて突出する断面山形となるように形成されており、凸部47aが溝40を跨ぐように延びている。このような凸部47aが複数、溝40の延びる方向に所定間隔を開けて並設されている。
また、隣接する凸部47a間には、グレーチング47を上面から下面へ貫通する貫通孔47bが形成されている。つまり、溝40の延びる方向に、凸部47aと貫通孔47bが交互に並ぶ。
なお、グレーチング47は、炉床13を構成する部材の材質よりも硬質の部材(例えば鋼鉄)で形成されている。
このようなグレーチング47は、図10に示すように繰り返しの単位が三つとなっており、これを複数用いて溝40を覆う。
【0057】
以上のように構成された台車式加熱炉30によれば、グレーチング47の複数の凸部47aは断面山形であるので、スケールXが凸部47aの尖った上端に当たると、確実にスケールXが粉砕される。
また、凸部47aは、溝40を跨ぐように延ばされ、溝40の延びる方向に並設されたものであるので、凸部47aで粉砕されたスケールXは、溝40の延びる方向に散乱する。これにより、凸部47aで粉砕されたスケールXが炉床13上に散乱することが軽減され、大部分を溝40に入れることができる。
さらに、一度グレーチング47の凸部47aで粉砕されたスケールXが再び溝40の底面40aで粉砕されるので、よりスケールXは細かくなる。よって、早くスケールXが放熱し、しかもスケールXの除去作業のときに嵩張らない。
また、グレーチング47を、炉床13を構成する部材の材質よりも硬質の部材で形成したので、グレーチング47の凸部47aで確実にスケールXを粉砕することができる。
【0058】
なお、第一実施形態乃至第三実施形態において、シール装置10を、炉体11の側壁11b下部に設けたとしたが、これに限られるものではなく、シール装置10は炉体11側面側に設けられていればよい。
【0059】
また、シール装置10を、炉体11の側壁11b側と奥壁11c側に設けたとしたが、これに限られるものではなく、炉体11の側壁11b側だけに設けてもよい。
【0060】
また、溝40を、炉床13から台車1,30の上面までの高さT1よりも深く形成したとしたが、これに限られるものではなく、これより浅くてもよい。この場合、スケールXが粉砕されないことがあるが、シール装置10の機能低下の問題や、炉床13上のスケールXが台車1,30の搬出入の障害となる問題は解消される。
【0061】
また、溝40の底面40aをスケールXよりも硬質の硬質材で形成したとしたが、溝40の底面40aがスケールXよりも硬質の硬質材で形成されていなくても、間隙Gから溝40の底面40aまでは高低差が大きいので、スケールXを粉砕することができる。
【0062】
また、スケール回収装置42は、自走式で、バスケット43と、テレビカメラ44と、クローラー46を備えるとしたが、これに限られるものではなく、溝40内を走行でき、スケールXを回収できるならば他の構成であってもよい。
また、溝40内のスケールXの除去を、スケール回収装置42により行うとしたが、これに限られるものではなく、人力で行ってもよい。つまり、溝40は十分な幅W2と深さT1を有するので、シール装置10の機能が十分で、炉内の熱が溝40まで伝わらないならば、作業者が溝40内で安全にスコップや吸引ホース等でスケールXの除去作業を行える。
【0063】
また、台車1,30は第一実施形態乃至第三実施形態に係るものに限られるものではなく、他の構成であってもよい。すなわち、金属製品Mを上載し、金属製品Mを炉体11内に搬出入でき、金属製品Mの加熱処理時にその熱に耐えうるものであれば、他の構成であってもよい。
【0064】
また、第三実施形態において、グレーチング47の凸部47aは溝40の延びる方向に並設されたとしたが、これに限られるものではなく、例えば凸部47aの延びる方向と溝40の延びる方向が平行であってもよい。また、凸部47aは平面格子状に延びていてもよい。
このとき、溝40の延びる方向に平行に延びる凸部47aのうち、最も外側に位置する凸部47aが溝40の端面の近くに配置されていると、この凸部47aで粉砕されたスケールXが炉床13上に散乱してしまうので、最も外側に位置する凸部47a上にはスケールXが落ちてこない程度に溝40の幅W2を広く取っておくことが必要である。
【0065】
また、凸部47aは断面山形としたが、これに限られるものではない。
また、グレーチング47の繰り返しの単位を三つとしたが、これに限られるものではない。
【0066】
さらに、凸部47aは水平方向に延びていなくてもよく、例えば円柱状に突出した凸部47aがグレーチング47上面に散在し、その凸部47a間に貫通孔47bが形成されていてもよい。
また、グレーチング47は炉床13を構成する部材の材質よりも硬質の部材で形成されていなくても、スケールXはグレーチング47と溝40の底面40aとで二度粉砕されるので、十分細かく粉砕される。
【符号の説明】
【0067】
1 台車
1a 側面
2 台車フレーム
2a 車輪
3 主耐火物(煉瓦)
6 副耐火物
7 受金物(煉瓦受金物)
8 キャスタブル
10 シール装置
10a シリンダー
10b シール部
11 炉体
11a 開口部
11b 側壁
11c 奥壁
12 蓋体
13 炉床
14 レール
20 台車式加熱炉
30 台車式加熱炉
31 台車
31a 側面
32a 凸段部
32 台車フレーム
35 取付部
35a 凹段部
36 副耐火物
39 ボルト(締結部材)
40 溝
40a 底面
41 交換部材
42 スケール回収装置
43 バスケット
44 テレビカメラ
46 クローラー
47 グレーチング
47a 凸部
47b 貫通孔
G 間隙
H 中空部
M 金属製品
S 空隙
T1 炉床から台車の上面までの高さ
T2 溝の深さ
W1 間隙の幅
W2 溝の幅
X スケール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正面に開閉自在な開口部が形成され、前記開口部を蓋体で閉塞して金属製品に加熱処理を施す炉体と、
前記金属製品を上面に搭載し、前記炉体の炉床上を走行して前記開口部から前記炉体内に搬出入する台車と、
前記炉体の側壁内周面と前記台車の側面との間に形成される間隙を、前記台車の側面下部に下方から押圧することにより密封する、前記炉体側面側に設けられたシール装置と、を備える台車式加熱炉であって、
前記炉床の、前記間隙の下方位置に、断面略矩形状で且つ前記間隙よりも幅広の溝を形成し、前記間隙に溜まったスケールを前記溝に落下させることを特徴とする台車式加熱炉。
【請求項2】
前記台車は、鋼鉄製の台車フレームと、前記台車フレームの全体に平坦状に上載され、上面に前記金属製品を載せる主耐火物と、前記台車フレームの外周端面に締結部材によって着脱自在に取付られる取付部の上面に、前記主耐火物の外周端面に隣接する副耐火物を固定してなる交換部材と、からなることを特徴とする請求項1に記載の台車式加熱炉。
【請求項3】
前記シール装置を、前記炉体の側壁下部に設け、前記密封時には前記炉体の側壁下部と前記台車の側面下部とを下方から同時に押圧させたことを特徴とする請求項1又は2に記載の台車式加熱炉。
【請求項4】
前記シール装置を、前記炉体奥壁側にも設け、前記炉体の奥壁内周面と前記台車の後面との間に形成される間隙を密封するとともに、前記溝を、前記炉体の奥壁と前記台車の後面との間に形成される間隙の下方位置に一連的に延設し、平面コ字状にしたことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載の台車式加熱炉。
【請求項5】
前記溝を、前記炉床から前記台車の上面までの高さよりも深く形成したことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一つに記載の台車式加熱炉。
【請求項6】
前記溝の底面を、前記スケールよりも硬質の硬質材で形成したことを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか一つに記載の台車式加熱炉。
【請求項7】
上方に向けて突出する複数の凸部と隣接する凸部間に形成された複数の貫通孔を有し、前記溝の上面を覆うグレーチングをさらに備えることを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか一つに記載の台車式加熱炉。
【請求項8】
前記グレーチングの複数の凸部は前記溝を跨ぐように延ばされた断面山形で、前記溝の延びる方向に並設されたものであることを特徴とする請求項7に記載の台車式加熱炉。
【請求項9】
前記グレーチングを、前記炉床を構成する部材の材質よりも硬質の部材で形成したことを特徴とする請求項7又は8に記載の台車式加熱炉。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate