説明

合成スメクタイト及びその製造方法、並びに複合フィルム

【課題】イオン性不純物、特にナトリウムイオン、の含有率が十分に低減されるとともに、可とう性に十分優れたフィルムを形成することが可能な合成スメクタイト及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】主成分が下記式(1);
b+a/bAl4+aSi8−a20(OH1−c ・・・(1)
[式中、Xb+はアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンを示し、a、b及びcはそれぞれ下記式(2)〜(4)を満たす数値を示す。
0<a<2 ・・・(2)
1≦b≦2 ・・・(3)
0≦c≦1 ・・・(4)]
で表され、ナトリウムイオン含有量が10ppm以下である合成スメクタイト100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成スメクタイト及びその製造方法、並びに合成スメクタイトと高分子成分とを含む複合フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
スメクタイトとは、シリカを主成分とする2枚の四面体シートの間に、アルミニウム、マグネシウム又は鉄などを主成分とする1枚の八面体シートをはさんだ層構造を有し、四面体シート又は八面体シートに生ずる負の層電荷を補償するために、二つの層構造間にアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンなどの交換性陽イオンを含有する層状鉱物の総称である。
【0003】
このうち、八面体シートがアルミニウム、鉄などの3価の陽イオンを主成分として含有するスメクタイトは、2八面体型スメクタイトと呼ばれており、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイトなどの粘土鉱物が2八面体スメクタイトに分類される(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
2八面体型スメクタイトの一種であるモンモリロナイトは、2枚のシリカ四面体シートが1枚のアルミニウム八面体シートを間にはさんだ層構造を有し、八面体シートの3価のアルミニウムの一部分が2価のマグネシウムと置換することによって八面体シートに負の層電荷を発現する。この負の層電荷を補償するために、モンモリロナイトは二つの層構造間にアルカリ金属イオン、又はアルカリ土類金属イオンなどの交換性陽イオンを含有する。
【0005】
また、2八面体型スメクタイトの一種であるバイデライトは、2枚のシリカ四面体シートが1枚のアルミニウム八面体シートを間にはさんだ層構造を有しており、四面体シートの4価のケイ素の一部分が3価のアルミニウムと置換することによって四面体シートに負の層電荷を発現する。この負の層電荷を補償するために、バイデライトは、二つの層構造間にアルカリ金属イオン、又はアルカリ土類金属イオンなどの交換性陽イオンを含有する。
【0006】
モンモリロナイト及びバイデライトは、交換性陽イオンに起因するイオン交換能、インターカレーション機能、吸水・吸着機能、膨潤性、水中でのゾル・ゲル特性などの特異な性質を有している。そのため、陶磁器原料として用いられるカオリナイトなど、ほかの粘土材料とは異なり、ボーリング泥水、鋳物砂、塗料及び化粧品などの増粘剤、吸水・吸着剤、有機スメクタイトなどの特殊な工業的用途に用いられている(例えば、特許文献1及び非特許文献2参照)。
【0007】
これらの工業的用途に用いられるモンモリロナイト及びバイデライトは、主に天然スメクタイトとして米国、日本など世界各地で産出される。天然スメクタイトは、主成分としてモンモリロナイトを含む。一方、天然スメクタイトにおけるバイデライトの含有量は、産出地域によって異なり、通常、0〜50質量%である。このほか、天然スメクタイトには土壌に由来する3価の鉄イオンが不純物として含まれており、天然スメクタイト中のモンモリロナイト又はバイデライトの八面体シートのアルミニウムは、0.3〜22.8質量%が鉄イオンに置換されている(例えば、非特許文献3又は4参照)。また、天然スメクタイト中には、交換性陽イオンとして、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンなどが含有されている。
【0008】
一方、バイデライトを含有する2八面体型スメクタイトの製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この製造方法によって得られる2八面体型スメクタイトは、通常、天然スメクタイトが不純物として含有している3価の鉄イオンを含有してない。
【0009】
ところで、近年、粘土材料を積層させて形成される粘土フィルムが見出されており、ガスバリア性、耐熱性、可とう性などに優れる基材として提案されている(例えば、特許文献3及び4参照)。これらを、例えば、食品や医薬品などの変質を嫌う材料の包装材料用途、及び液晶ディスプレイや有機ELなど、高い可とう性が求められるディスプレイデバイスなどの電子デバイス用途などに応用することが提案されている。
【0010】
例えば、特許文献3及び4では、上記天然スメクタイト及び特許文献2の製造方法で得られた2八面体型スメクタイトを材料として用いて形成された粘土フィルムを包装材料用途及び電子デバイス用途へ応用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−236354号公報
【特許文献2】特開平9−77510号公報
【特許文献3】特許第3855003号公報
【特許文献4】特許第3855004号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】日本粘土学会編、「粘土ハンドブック」、技報堂出版、58頁
【非特許文献2】日本粘土学会編、「粘土ハンドブック」、技報堂出版、9頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
電子デバイス用途に用いられる粘土フィルムは、優れたガスバリア性、耐熱性、可とう性を有することに加えて、デバイス特性低下の要因となる、ナトリウムイオン、塩化物イオン及び硝酸イオンなどのイオン性不純物を低減する必要がある。
【0014】
しかしながら、天然スメクタイトから作製した粘土フィルムは、ナトリウムイオン及びカルシウムイオン等のイオン性不純物を多量に含有するため、電子デバイス用途への応用は困難である。また、鉄イオンを不純物として含有するため、天然スメクタイトから形成される粘土フィルムは茶褐色に着色する傾向にある。このため、可視光吸収の低減が求められるディスプレイデバイス用フィルム基材としては十分ではない。
【0015】
一方、特許文献1に記載される製造方法で得られた2八面体型スメクタイトは、鉄イオン不純物を含有しないため、得られる粘土フィルムは着色しないものの、合成段階で混合されるナトリウムイオンを多量に含有するため、電子デバイスに応用することは困難である。また、特許文献1に記載された製造方法で得られた2八面体型スメクタイトには非晶質のSiO等の合成未反応物が残留しているため、得られる粘土フィルムの可とう性が低下する傾向にある。なお、可とう性向上のために、上述の2八面型スメクタイトに有機ポリマーなどのバインダーを混合することが考えられるものの、有機成分を混合すると耐熱性が不十分となる。その結果、プラント用ガスケットなど高い耐熱性が要求される分野への応用が困難となるなど、粘土フィルムの用途が限定されてしまう。
【0016】
なお、ナトリウムイオンの含有量を低下させる方法の一つとして、イオン交換法がある。粘土のイオン交換法は幾つか挙げられるが、最も一般的に行われている方法は、リチウムイオンを含む溶液にナトリウム型又はカルシウム型粘土を分散させ、粘土の層間イオンと溶液中のイオンとを交換する方法である。このイオン交換法は、リチウムイオン含有溶液(例えば塩化リチウム溶液、硝酸リチウム溶液又は硫酸リチウム溶液等)に粘土を分散させ、攪拌してから濾過するという作業を何回か繰り返して層間イオンの交換を行った後、繰り返し水又はアルコール洗浄を行い不純物として付着した塩を取り除く、というものである。このイオン交換法は、非常に手間が掛かるにも関らず、完全なイオン交換ができない。さらに、洗浄し切れない硝酸イオン、塩化物イオンの不純物の影響が残り、また、洗浄時に粘土も流失するためイオン交換度を高めて、純度を高めるほど粘土の収率が大きく減少する傾向がある。
【0017】
また、イオン交換樹脂を用いたイオン交換法では、層間ナトリウムイオン全体の15原子%ほどは交換できず、粘土中に残留してしまう。
【0018】
上記事情に鑑み、本発明は、イオン性不純物、特にナトリウムイオンの含有率が十分に低減されるとともに、可とう性に十分優れたフィルムを形成することが可能な合成スメクタイト及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0019】
本発明は、また、上記合成スメクタイトと高分子成分とを含有することにより、光透過性に優れた複合フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、主成分が下記式(1);
b+a/bAl4+aSi8−a20(OH1−c ・・・(1)
[式中、Xb+はアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンを示し、a、b及びcはそれぞれ下記式(2)〜(4)を満たす数値を示す。
0<a<2 ・・・(2)
1≦b≦2 ・・・(3)
0≦c≦1 ・・・(4)]
で表され、ナトリウムイオン含有量が10ppm以下である合成スメクタイトを提供する。
【0021】
本発明の合成スメクタイトによれば、イオン性不純物、特にナトリウムイオンの含有量が十分に低減されるとともに、可とう性に十分優れた粘土フィルムを得ることができる。この理由は例えば以下のように考えられるが、以下の理由に限定されない。すなわち、ナトリウムイオンが層構造の間に存在する場合、周囲の水分子を容易に吸着するため、合成スメクタイトの水蒸気に対するバリア性を低下するうえに、交換性陽イオンの溶出量を増加し、形成した粘土フィルムの可とう性が低下する原因となる。しかしながら、本発明では、合成スメクタイトの主成分を上記式(1)で表されるものとし、かつナトリウムイオン含有量を10ppm以下とすることによって、ナトリウムイオンが層構造の間に存在することを十分に抑制することができる。これによって、可とう性に優れた粘土フィルムを形成することが可能となる。
【0022】
ナトリウムイオン含有量が10ppmを超えると、上記式(1)中、交換性陽イオンとして含有される、上記式(1)におけるXb+の一部を置換するようになる。その結果、例えば粘土フィルムとして電子デバイス用途に使用した際、層構造間又は粒子表面に含有されるナトリウムイオンが溶出し、デバイス特性低下の要因となる。
【0023】
なお、本発明の合成スメクタイトは、粘土フィルムや、例えば、電子デバイス向けフィルムの形成用原料として好適に用いることができる。ただし、本発明の合成スメクタイトはフィルム形成用途に限定されるものではなく、例えば、化粧品用増粘剤などにも応用可能である。なお、本明細書中において、「粘土フィルム」及び「複合フィルム」を、「フィルム状成形体」と総称することがある。
【0024】
本発明の合成スメクタイトは、乾燥空気中で、150℃から300℃まで10℃/分で昇温したときの質量減少率が、昇温前の質量を基準として、2〜5質量%であることが好ましい。
【0025】
上記質量減少率が2%未満である場合、上記合成スメクタイトへのアモルファスSiOなどの非晶質成分の混入比率が高いことを意味しており、この合成スメクタイトから得られるフィルム状成形体の成膜性、及び可とう性が低下する傾向にある。
【0026】
上記質量減少率が5%を超える場合、合成時に残留した硝酸塩、酢酸塩などの不純物の混入比率が高いことを意味しており、これらの不純物の影響によって上記合成スメクタイトから得られるフィルム状成形体の成膜性、及び可とう性が低下する傾向にある。
【0027】
また、上記合成スメクタイトの含有率が2質量%となるように水中に分散させた分散液の粘度が、2000mPa・s以上であることが好ましい。
【0028】
上記分散液の粘度が2000mPa・s未満である場合、分散液中の非晶質成分など、非分散成分の混入比率が高いことを意味しており、この合成スメクタイトから得られるフィルム状成形体の成膜性、及び可とう性が低下する傾向にある。
【0029】
また、上記合成スメクタイトは、成膜性を有することが好ましい。これにより、有機ポリマーなどのバインダーを用いない場合でも、合成スメクタイト粒子が積層したフィルム状成形体を容易に得ることができる。
【0030】
なお、成膜性を有する合成スメクタイトとは、例えば、水を主成分とする溶媒に合成スメクタイトを分散させて分散液とし、その分散液から乾燥や遠心分離などによって溶媒を除去することにより、合成スメクタイト粒子が積層したフィルム状成形体を得ることができるものをいう。
【0031】
また、上記合成スメクタイトのみからなる厚さ50μmのフィルム状成形体のマンドレル曲げ半径が5mm以下であることが好ましい。マンドレル曲げ半径が5mmを超えると、フィルム状成形体の可とう性が低下する傾向にある。
【0032】
本発明は、また、上記合成スメクタイトと高分子成分とを含有する複合(コンポジット)フィルムを提供する。
【0033】
上記複合フィルムに用いる高分子成分は、水溶性であることが好ましい。これによって、水を主成分とする溶媒に合成スメクタイトと高分子成分とを分散させた分散液を調製する際に、高分子成分と合成スメクタイトとを均一に混合することが可能となり、各成分がより均一に分布する複合フィルムを得ることができる。
【0034】
また、本発明の複合フィルムは、膜厚30μmにおける波長550nmの光透過率が80%以上であることが好ましい。
【0035】
複合フィルムの波長550nmの光透過率が80%未満であると、上記複合フィルムの透明性が低下する傾向にある。その結果、例えば透明性を要求されるディスプレイなどへの応用が難しくなるなど、用途が限定されてしまう。
【0036】
本発明は、また、上記式(1)〜(4)を満たす比率でケイ素及びアルミニウムを含有する溶液とアルカリ溶液とを混合して複合水酸化物スラリーを得る第一工程と、上記式(1)〜(4)を満たす比率で上記複合水酸化物スラリー、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンを含有する溶液、及び水を混合して前駆体スラリーを調製する第二工程と、上記前駆体スラリーを水熱反応させて、生成物スラリーを得る第三工程と、上記生成物スラリーを撹拌した後、固液分離して、主成分が上記式(1)で表され、ナトリウムイオン含有量が10ppm以下である合成スメクタイトを得る第四工程とを有する、上記合成スメクタイトの製造方法を提供する。
【0037】
本発明の製造方法によれば、粘性及び白色度に十分優れた分散液とすることが可能で、可とう性に十分優れる粘土フィルムを形成することが可能な合成スメクタイトを製造することができる。
【0038】
上記製造方法においては、ケイ素源を、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ及びアモルファスシリカからなる群より選ばれる一種以上とすることができる。また、アルミニウム源を、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムからなる群より選ばれる一種以上とすることができる。さらに、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオン源を、これらを含有する硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、塩化物、水酸化物及びフッ化物からなる群より選ばれる一種以上とすることができる。
【0039】
また、上記製造方法においては、上記第一工程における、上記複合水酸化物スラリーのpHが4.0〜11.0であることが好ましく、上記第二工程における、上記前駆体スラリーのpHが8.0〜12.6であることが好ましく、上記第三工程では、上記前駆体スラリーを、200〜370℃の自生圧力条件下で24時間以上水熱反応させることが好ましく、上記第四工程では、上記生成物スラリーを、3000rpm以上で5分間以上撹拌した後、遠心分離法にて、遠心加速度1.96×10m/s(2000G)以上で5分間以上回転させる遠心分離法によって固液分離することが好ましい。
【0040】
上記第一工程において、上記複合水酸化物スラリーのpHが4.0より小さいと、アルミニウムが水中に溶出しやすくなる。その結果、合成スメクタイト中のアルミニウムの組成を制御することが難しくなり、上記式(1)〜(4)を満たす合成スメクタイトを得にくくなる。一方、上記複合水酸化物スラリーのpHが11.0を超えると、ケイ素の溶解度が高くなり水中に溶出しやすくなる。その結果、合成スメクタイト中のケイ素の組成を制御することが難しくなり、上記式(1)〜(4)を満たす成スメクタイトを得にくくなる。
【0041】
上記第二工程において、上記前駆体スラリーのpHが8.0より小さいと、合成スメクタイト中の水酸化物イオンの存在割合が必要以上に低くなる傾向にあり、また、前駆体スラリーのpHが12.6を超えると、合成スメクタイト中の水酸化物イオンの存在割合が必要以上に高くなる傾向にある。その結果、いずれの場合も合成スメクタイトの組成を制御することが難しくなり、上記式(1)〜(4)を満たす合成スメクタイトを得にくくなる。
【0042】
上記第三工程において、上記水熱反応の温度が200℃より低いと、十分な自生圧力が得られにくく、水熱反応が十分に進行しない傾向がある。また、温度が370℃を超えると、上記前駆体スラリーに含まれる水が超臨界状態となるため、固体成分の水に対する溶解度が著しく変化する。その結果、合成スメクタイトの組成を制御することが難しくなり、上記式(1)〜(4)を満たす合成スメクタイトを得にくくなる。
【0043】
また、上記第三工程において、上記前駆体スラリーの水熱反応時間が24時間を下回ると、十分に反応が進行しない傾向がある。なお、水熱反応時間は24時間あれば上記合成スメクタイトを好適に得ることができる。24時間を超えて水熱反応時間を長くしても得られる合成スメクタイトの特性が劣化することはないため、水熱反応時間の上限に特に制限はない。
【0044】
上記第四工程において、上記生成物スラリーの撹拌速度が3000rpmを下回ると、分散成分の分離が十分に進行し難くなり、上記式(1)〜(4)を満たす合成スメクタイトを得難くなる傾向にある。また、撹拌時間が5分間を下回ると、分散成分の分離が十分に進行し難くなり、上記式(1)〜(4)を満たす合成スメクタイトを得難くなる傾向にある。なお、撹拌時間は5分間あれば上記合成スメクタイトを好適に得ることができ、5分間を超えて撹拌時間を長くしても得られる合成スメクタイトの特性が劣化することはないため、撹拌時間の上限に特に制限はない。
【0045】
さらに、上記第四工程において、上記固液分離の際の遠心加速度が1.96×10m/s(2000G)を下回ると、分散成分の分離が十分に進行し難くなり、上記式(1)〜(4)を満たす合成スメクタイトを得難くなる傾向にある。また、遠心分離時間が5分間未満になると、分散成分の分離が十分に進行し難くなり、上記式(1)〜(4)を満たす合成スメクタイトを得難くなる傾向にある。遠心分離時間は5分間以上とすることによって、上記合成スメクタイトを好適に得ることができる。なお、5分間を超えて遠心分離時間を長くしても得られる合成スメクタイトの特性が劣化することはないため、遠心分離時間の上限に特に制限はない。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、イオン性不純物、特にナトリウムイオンの含有量が十分に低減されるとともに、可とう性に十分優れたフィルムを形成することが可能な合成スメクタイト及びその製造方法を提供することができる。
【0047】
また、本発明によれば、上記合成スメクタイトと高分子成分とを含有することによって、ナトリウムイオンの含有量が十分に低減されるとともに、可とう性及び光透過性に優れた複合フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係る合成スメクタイトの層構造の一部を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る合成スメクタイトの水溶液中における層構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0050】
[合成スメクタイト]
本実施形態に係る合成スメクタイトは、下記式(1)で表される成分を主成分として含有しており、ナトリウムイオン含有量が10ppm以下である。
b+a/bAl4+aSi8−a20(OH1−c ・・・(1)
なお、上記式(1)中、Xb+はアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンを示し、a、b及びcはそれぞれ下記式(2)〜(4)を満たす数値を示す。
0<a<2 ・・・(2)
1≦b≦2 ・・・(3)
0≦c≦1 ・・・(4)
【0051】
図1に、本実施形態に係る合成スメクタイトの層構造を模式的に示す。合成スメクタイト100は、八面体結晶構造からなる八面体シート1及び四面体結晶構造からなる一対の四面体シート3を有する層構造10と、複数の層構造10間、すなわち層構造間に存在する交換性陽イオンXb+とを含む。層構造10において、一対の四面体シート3は、八面体シート1を挟んでいる。また、八面体結晶構造は、アルミニウムイオン(Al3+)及び酸素イオン(O2−)、並びに水酸イオン(OH)又はフッ素イオン(F)を有するものである。一方、四面体結晶構造はケイ素イオン(Si4+)、アルミニウムイオン及び酸素イオンを有するものである。
【0052】
また、本実施形態に係る合成スメクタイト100における、ナトリウムイオンの含有量は10ppm以下である。ナトリウムイオンの含有量が10ppmを超えると、ナトリウムイオンが交換性陽イオンXb+の一部と置換し、層構造間に存在するようになる。その結果、例えば、粘土フィルムとして電子デバイス用途に使用した際、層構造間又は粒子表面に含有されるナトリウムイオンが溶出し、デバイス特性低下の要因となる。
【0053】
本実施形態に係る合成スメクタイト100における、ナトリウムイオンの含有量は、10ppm以下であることが好ましく、5ppm以下であることがより好ましく、1ppm以下であることが更に好ましい。なお、合成スメクタイト100のナトリウムイオン含有量は、例えば、ICP−AES分析法を用いることによって測定することができる。
【0054】
本実施形態に係る合成スメクタイト100は、主成分として上記式(1)で表される成分を含み、副成分として、アモルファスSiOなどの非晶質成分、イオン性不純物、及び合成時に残留した硝酸塩、酢酸塩などの不純物を含んでもよい。主成分として含まれる上記式(1)で表される成分の含有量は、合成スメクタイト100の全質量を基準として、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0055】
また、本実施形態に係る合成スメクタイト100は、気流が50ml/分である乾燥空気中で、150℃から300℃まで10℃/分で昇温したときの質量減少率が、昇温前の質量を基準として、2〜5質量%であることが好ましい。
【0056】
上述の質量減少率が2%未満である場合、アモルファスSiO等の非晶質成分の混合割合が高いため、合成スメクタイト100から得られるフィルム状成形体の成膜性、及び可とう性が低下する傾向にある。一方、上述の質量減少率が5%を越える場合、合成時に残留した硝酸塩、酢酸塩などの不純物混合割合が高いため、合成スメクタイト100から得られるフィルム状成形体の成膜性、及び可とう性が低下する傾向にある。
【0057】
本実施形態に係る合成スメクタイト100の四面体結晶構造は、ケイ素イオン、アルミニウムイオン及び酸素イオンからなり、四面体シート3は負電荷を有している。このため、水を溶媒とした分散液とした際、複数の層構造10同士の反発力によって、図2に示すようなカードハウス構造200を形成し、分散液は高い粘性を発現する。一方、水への分散性を有しないアモルファスSiO等の非晶質成分の混合が著しくなると、その影響によって合成スメクタイト100の水中への分散性が不十分となる。その結果、フィルム状成形体の成膜性及び可とう性が低下する傾向にある。また、合成時に残留した硝酸塩、酢酸塩などの不純物の混合割合が高いと、不純物の影響により、フィルム状成形体の成膜性、及び可とう性が低下する傾向にある。なお、質量減少率の評価方法としては、例えば、TG−DTA法を好適に用いることができる。
【0058】
また、本実施形態に係る合成スメクタイト100は、水を主成分とする溶媒に分散させた分散液としてもよい。この分散液は粘土フィルムを形成する際に好適に利用できるほか、高分子成分と混合して複合フィルムを形成する際にも好適に利用できる。なお、本実施形態に係る合成スメクタイト100の含有率が2質量%となるように水中に分散させたときの分散液の粘度は、2000mPa・s以上であることが好ましい。
【0059】
本実施形態に係る合成スメクタイト100を、水を主成分とする溶媒に分散させた分散液では、層構造10は、カードハウス構造200を形成する。その際、層構造10は、あたかも高分子鎖を形成するように配列しているため、分散液は粘性を有するようになる。ここで、合成スメクタイト100の含有率が2質量%となるように水中に分散させた上記分散液の粘度が2000mPa・s未満である場合、例えば、非晶質成分など水に分散しない不純物成分の混合割合が高いために、上記合成スメクタイト100から得られるフィルム状成形体の成膜性、及び可とう性などが低下する傾向にある。
【0060】
また、本実施形態に係る合成スメクタイト100の含有率が2質量%となるように水中に分散させた分散液の粘度は、5000mPa・s以下であることが好ましい。上記分散液の粘度が5000mPa・sを超えると、分散液から乾燥等の方法で溶媒を除去して粘土フィルムを形成する際、溶媒の除去が不充分となり、得られる粘土フィルムの平坦性が低下する傾向がある。なお、粘度の評価方法として、例えばB型粘度計などを好適に用いることができる。
【0061】
本実施形態に係る合成スメクタイト100は、成膜性を有することが好ましい。
【0062】
本実施形態に係る合成スメクタイト100を成膜する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。合成スメクタイト100を水を主成分として含む溶媒と混合すると、層構造間の交換性陽イオンXb+が水素結合力によって水分子を吸着して、厚さ0.5〜1.5nm、幅1.0〜500nmの分布を有する粒子状の合成スメクタイト100となり、この粒子状の合成スメクタイト100が分散した分散液を得ることができる。この分散液を、成形用の基材に流し込んだ後、分散液から溶媒を分離除去し、合成スメクタイト粒子を規則的に積層させることによって、フィルム状成形体を得ることができる。なお、溶媒を分離除去する方法として乾燥又は遠心分離などが挙げられる。合成スメクタイトが規則的に積層したフィルム状成形体を得るためには、溶媒を徐々に分離除去することが好ましい。すなわち、例えば、乾燥させて溶媒を除去することによりフィルム状成形体を得る場合、20℃〜60℃の温度範囲で溶媒を乾燥除去することが好ましく、20℃〜50℃の温度範囲で溶媒を乾燥除去することがより好ましく、25℃〜40℃の温度範囲で溶媒を乾燥除去することが更に好ましい。
【0063】
また、上記成形用の基材は何ら限定されるものではなく、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)などのポリマー製基材、及び真鍮板などの金属製基材を好適に用いることができる。
【0064】
本実施形態に係る合成スメクタイト100を成膜して得られる上記フィルム状成形体は、ナトリウムイオンの含有率が十分に低減されており、また、可とう性に十分優れている。
【0065】
上記フィルム状成形体を膜厚50μmとした場合のマンドレル曲げ半径は、5mm以下であることが好ましい。なお、フィルム状成形体の厚さは、成膜に使用する分散液の量及び分散液に含まれる合成スメクタイトの含有量を変えることによって調整することができる。また、フィルム状成形体のマンドレル曲げ半径は、例えば、市販のマンドレル測定器を用いて測定することができる。また、フィルム状成形体の膜厚は、例えば、マイクロメーターを用いて測定することができる。
【0066】
[複合フィルム]
本実施形態に係る合成スメクタイト100を用いて、合成スメクタイト100と高分子成分とを含有する複合フィルムを得ることができる。すなわち、例えば、本実施形態に係る合成スメクタイト100を水を主成分として含む溶媒に分散させた分散液とし、この分散液に所定量の高分子成分を混合した混合液とし、成形用の基材に流し込み、混合液から乾燥又は遠心分離などの方法によって溶媒を除去することにより、粒子状の合成スメクタイトと高分子成分との混合物が積層した複合フィルム成形体を得ることができる。
【0067】
上記混合液から乾燥又は遠心分離などの方法によって溶媒を除去する際には、溶媒を徐々に分離除去することが好ましい。すなわち、例えば、乾燥により複合フィルム成形体を得る場合、20℃〜60℃の温度範囲で溶媒を除去することが好ましく、20℃〜50℃の温度範囲で溶媒を除去することがより好ましく、25℃〜40℃の温度範囲で溶媒を除去することが更に好ましい。
【0068】
また、上記成形用の基材はなんら限定されるものではなく、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)などのポリマー製基材、及び真鍮板などの金属製基材を好適に用いることができる。
【0069】
本実施形態に係る合成スメクタイト100に高分子成分を混合した複合フィルムとすることにより、高分子成分に由来する特性を更に備えたフィルム成形体とすることができる。また、本実施形態に係る合成スメクタイト100と高分子成分とを用いて形成される粘土フィルムが有する可とう性などの特性を十分に生かすため、上記合成スメクタイト100の含有率は、上記複合フィルム全体の質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。
【0070】
本実施形態に係る複合フィルムに用いる高分子成分は、水溶性であることが好ましい。本実施形態に係る複合フィルムは、水を主成分として含む溶媒に分散させた分散液を経て得られるため、水と均一に混合することが可能な水溶性の高分子成分を好適に用いることができる。このような水溶性の高分子成分としては、例えば、水溶性ナイロン、ポリアクリル酸アンモニウム、カルボキシメチルセルロースアンモニウム、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸共重合体、などが挙げられる。
【0071】
また、本実施形態に係る複合フィルムは、膜厚を30μmとした場合の波長550nmにおける光透過率が80%以上であることが好ましい。上記複合フィルムの膜厚は、成形用の基材に流し込む混合液の量及び混合液に含まれる合成スメクタイト100及び高分子成分の含有量を変えることによって調整することができる。なお、波長550nmの光透過率は、例えば、濁度計を用いて測定することができる。また、膜厚の測定方法として、例えば、マイクロメーターを用いることができる。
【0072】
[合成スメクタイトの製造方法]
本実施形態の合成スメクタイト100の製造方法では、まず、上記式(1)〜(4)を満たす比率でケイ素及びアルミニウムを含有する溶液とアルカリ溶液とを混合して複合水酸化物スラリーを得る(第一工程)。続いて、上記式(1)〜(4)を満たす比率で複合水酸化物スラリー、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属又はこれらの混合物を含有する溶液、及び水を混合して前駆体スラリーを調製する(第二工程)。さらに、得られた前駆体スラリーを水熱反応し、合成スメクタイト100を含む生成物スラリーを得る(第三工程)。最後に、得られた生成物スラリーを撹拌した後、固液分離して本実施形態の合成スメクタイト100を得る(第四工程)。以下、各工程の詳細について説明する。
【0073】
<第一工程>
まず、アルミニウムを含有する水溶液と、ケイ素を含有する水溶液又はアルコール溶液とを、上記式(1)〜(4)を満たす比率で混合する。混合は、例えば、撹拌などにより行うことができる。
【0074】
なお、アルミニウムを含有する水溶液としては、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムからなる群より選ばれる一種以上を含む水溶液を好適に用いることができる。ケイ素を含有する水溶液又はアルコール溶液としては、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ及びアモルファスシリカからなる群より選ばれる一種以上を含む水溶液又はアルコール溶液を好適に用いることができる。また、合成スメクタイト100に含有されるナトリウムイオンの含有量を10ppm以下とするためには、これらの水溶液又はアルコール溶液中における全金属元素中のケイ素及びアルミニウムの純度は99.9原子%以上であることが好ましい。
【0075】
次に、得られた混合溶液と、アルカリ水溶液とを混合し、複合水酸化物スラリーを作製する。このとき、混合溶液にアルカリ水溶液を添加してもよいし、アルカリ溶液に混合溶液を添加してもよい。また、アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液等が挙げられるが、金属イオンを含まないアンモニア水溶液が好ましい。なお、このとき、上記複合水酸化物スラリーのpHが4.0〜11.0になるようにアルカリ水溶液量を調整することが好ましく、pHが4.5〜10.5になるように調整することがより好ましい。また、上述の操作で得られた複合水酸化物スラリーを、濾過法又は遠心分離法などの方法により水洗することが好ましい。
【0076】
<第二工程>
上述の第一工程で得られた複合水酸化物スラリー、アルカリ金属イオン若しくはアルカリ土類金属イオン又はその混合物を含有する溶液、及び水を、上記式(1)〜(4)を満たす比率で混合して、前駆体スラリーを作製する。
【0077】
なお、アルカリ金属イオン若しくはアルカリ土類金属イオン又はその混合物を含有する溶液としては、これら金属イオンの水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、塩化物及びフッ化物からなる群より選ばれる一種以上を含む水溶液を好適に用いることができる。なお、このとき、アルカリ金属イオン若しくはアルカリ土類金属イオン又はこれらの混合物を含有する水溶液の濃度、及び水混合量を調整することによって、上記前駆体スラリーのpHを8.0〜12.6にすることが好ましく、8.5〜12.4にすることがより好ましい。
【0078】
<第三工程>
続いて、第二工程で得られた前駆体スラリーを、例えば、オートクレーブを用いて、水熱反応することによって、合成スメクタイト100を含有する生成物スラリーを得ることができる。このとき、水熱反応の温度範囲は200〜370℃とすることが好ましく、220〜370℃とすることがより好ましい。
【0079】
<第四工程>
最後に、第三工程で得られた生成物スラリーを撹拌した後、固液分離することによって、主成分が上記式(1)で表され、ナトリウムイオン含有量が10ppm以下である合成スメクタイト100を得ることができる。このとき、撹拌速度は3000rpm以上であることが好ましく、4000rpm以上であることがより好ましい。すなわち、撹拌速度が3000rpmを下回ると、水への分散性を有する合成スメクタイト100と水には分散しない非晶質成分などの不純物の分離が不十分となる傾向にある。また、撹拌時間は5分間以上であることが好ましく、10分間以上であることがより好ましい。撹拌時間が5分間を下回ると、水への分散性を有する合成スメクタイト100と水には分散しない非晶質成分などの不純物の分離が十分に進行しにくい傾向にある。
【0080】
固液分離には遠心分離法を好適に用いることができる。このとき、遠心分離の際の遠心加速度は1.96×10m/s(2000G)以上であることが好ましく、2.94×10m/s(3000G)以上であることがより好ましい。遠心加速度が1.96×10m/s(2000G)を下回ると、水への分散性を有する合成スメクタイト100と水には分散しない非晶質成分などの不純物の分離が不十分となる傾向にある。また、遠心分離時間は5分間以上であることが好ましく、10分間以上であることがより好ましい。遠心分離時間が5分間を下回ると、水への分散性を有する合成スメクタイト100と水には分散しない非晶質成分などの不純物の分離が十分に進行しにくい傾向にある。
【0081】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0082】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0083】
[実施例1]
<合成スメクタイトの製造>
実施例1ではまず、Li0.7Al4.7Si7.320(OH)で表される成分を主成分として含む合成スメクタイトを、以下の手順で製造した。始めに、コロイダルシリカ(シグマ−アルドリッチ社製、SiO含有率:50質量%)12.02gに、1規定の硝酸水溶液2ml及び蒸留水24gを混合し、コロイダルシリカ分散液を得た。また、硝酸アルミニウム九水和物(和光純薬工業株式会社製、純度99.9質量%)24.15gを蒸留水100mlに溶解した後、上記コロイダルシリカ分散液と混合し、ケイ素及びアルミニウムを含有する混合液を得た。次に、この混合液に28質量%のアンモニア水溶液24.19gを6.0ml/分の滴下速度で混合し、pH=10.8の複合水酸化物スラリーを得た。
【0084】
続いて、得られた複合水酸化物スラリーに、水酸化リチウム(和光純薬工業株式会社製、純度99.9質量%)0.37gを混合し、更に蒸留水を混合して全量が250mlとなるように調整し、前駆体スラリーを得た。なお、得られた前駆体スラリーのpHは11.6であった。
【0085】
次に、ステンレス製オートクレーブ中に前駆体スラリーを仕込み、300℃、48時間、自生圧力の条件で水熱反応させた。こうして得られた生成物スラリーは、白色半透明のゲル状であった。
【0086】
得られた生成物スラリーを、シャフトジェネレーター(アズワン製)を用いて3000rpmで5分間攪拌した後、遠心分離法を用いて固液分離を行い、固体成分を回収して合成スメクタイトを得た。遠心分離法の遠心加速度は7.85×10m/s(8000G)、遠心分離時間は10分間とした。
【0087】
<合成スメクタイト分散水溶液の作製>
得られた合成スメクタイト0.4gをビーカー中に入れ、これに蒸留水(20℃)を加えて全量20gとした後、テフロン(登録商標)回転子で攪拌することにより、合成スメクタイトの含有率が2質量%であり、合成スメクタイトが水中に分散した分散液を得た。
【0088】
[実施例2]
前駆体スラリーの水熱反応の条件を350℃、48時間、自生圧力としたこと以外は、実施例1と同様にして合成スメクタイト及び2質量%合成スメクタイト分散液を得た。
【0089】
[実施例3]
前駆体スラリーの水熱反応の条件を300℃、24時間、自生圧力としたこと以外は、実施例1と同様にして合成スメクタイト及び2質量%合成スメクタイト分散液を得た。
【0090】
[実施例4]
複合水酸化物スラリーに、水酸化リチウムの代わりにフッ化リチウム(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)0.23gを混合し、Li0.7Al4.7Si7.320(OH0.30.7で表される成分を主成分として含有する合成スメクタイトを製造したこと以外は、実施例1と同様にして合成スメクタイト及び2質量%合成スメクタイト分散液を得た。
【0091】
[実施例5]
前駆体スラリーの水熱反応の条件を220℃、336時間、自生圧力としたこと以外は、実施例4と同様にして合成スメクタイト及び2質量%合成スメクタイト分散液を得た。
【0092】
[比較例1]
【0093】
まず、Na0.7Al4.7Si7.320(OH)で表される成分を主成分として含む合成スメクタイトを製造した。始めに、300mlのビーカーに水130mlを入れ、3号水ガラス(SiO含有率:28質量%)21.46gを溶解し、16規定硝酸6mlを撹拌しながら一度に加えてケイ酸溶液を得た。次にケイ酸溶液に塩化アルミニウム(和光純薬工業株式会社製、純度98質量%)15.87gを加えて、ケイ素及びアルミニウムを含有する混合液を調製した。この混合液を、2規定水酸化ナトリウム溶液100ml中に、撹拌しながら5分間かけて滴下した。このとき得られた複合水酸化物スラリーのpHは4.4であった。
【0094】
続いて、得られた複合水酸化物スラリーに、水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、純度99.9質量%)0.35gを混合し、更に蒸留水を混合して全量が250mlとなるように調整し、前駆体スラリーを得た。なお、得られた前駆体スラリーのpHは8.8であった。
【0095】
次に、ステンレス製オートクレーブ中に前駆体スラリーを仕込み、350℃、24時間、自生圧力の条件で水熱反応させた。こうして得られた生成物スラリーは、白色のスラリー状物質であった。この生成物スラリーに含まれる合成スメクタイトを比較例1の合成スメクタイトとした。
【0096】
得られた生成物スラリーの固液分離を行わずに、この生成物スラリーを水で希釈して、2質量%合成スメクタイト分散液を得た。
【0097】
[比較例2]
複合水酸化物スラリーに、水酸化ナトリウムの代わりに水酸化リチウム(和光純薬工業株式会社製、純度99.9質量%)0.37gを混合し、Li0.7Al4.7Si7.320(OH)で表される成分を主成分として含む合成スメクタイトを製造したこと以外は、比較例1と同様にして比較例2の合成スメクタイト及び2質量%合成スメクタイト分散液を作製した。得られた生成物スラリーは、白色のスラリー状物質であった。
【0098】
[比較例3]
比較例1で得た合成スメクタイトを下記の手順でイオン交換することによって、比較例3の合成スメクタイト及び2質量%合成スメクタイト分散液を作製した。
【0099】
まず、比較例1で得た合成スメクタイト2gをビーカー中に入れ、これに50gの純水(20℃)を加えてテフロン(登録商標)回転子で攪拌することにより、合成スメクタイトが水に分散した分散液を得た。この分散液に、水酸化リチウム一水和物を0.8g加えて、25℃、大気中で1時間放置した。
【0100】
その後、市販の遠心分離機を用いて、1.96×10m/s(2000G)の遠心加速度で10分間遠心分離して分散液から上澄み液を除去し、純水を50g加えた(遠心分離操作1)。この遠心分離操作1を合計3回繰り返し行って、合成スメクタイトの層構造間にあるナトリウムイオンの少なくとも一部がリチウムイオンに置換された分散液を得た。
【0101】
次いで、上述の遠心分離機を用いて、1.96×10m/s(2000G)の遠心加速度で10分間遠心分離して分散液から上澄み液を除去し、再び純水50gを加えた(遠心分離操作2)。この遠心分離操作2を合計3回繰り返し行って、過剰のリチウムイオンを洗浄除去した。その後、分散液から、上記遠心分離条件によって上澄み液を除去し、比較例3の合成スメクタイトとした。また、得られた合成スメクタイト0.4gをビーカー中に入れ、これに蒸留水(20℃)を加えて全量20gとした後、テフロン(登録商標)回転子で攪拌することにより、合成スメクタイトの含有率が2質量%であり、合成スメクタイトが水中に分散した分散液を得た。
【0102】
[合成スメクタイトの評価]
各実施例及び各比較例で得られた合成スメクタイトのナトリウムイオン含有量、150℃〜300℃加熱時の質量減少率、並びに2質量%合成スメクタイト分散液の粘度及び成膜性を以下の手順で評価した。さらに、上記合成スメクタイトのフィルム状成形体の可とう性の指標となるマンドレル曲げ半径も以下の手順で評価した。また、上記合成スメクタイトと高分子成分とを含有する複合フィルムを作製し、成膜性、光透過率を以下の手順で評価した。
【0103】
<ナトリウムイオン含有量>
0.1gの合成スメクタイトと1規定の酢酸アンモニウム10mlとを混合してテフロン(登録商標)製の密閉容器に入れ、100rpmの震とう速度で24時間震とうしてナトリウムイオンを抽出した。抽出液をICP−AES法(セイコーインスツルメンツ株式会社製、装置名:SPS−1500R)により解析し、得られるピークカウント数からナトリウムイオン含有量を定量した。結果を表1に示す。なお、本測定方法における、ナトリウムイオンの検出下限は、1ppmである。したがって、表1に0ppmと示したものには、ナトリウムイオンの含有量が1ppm未満であることを意味する。
【0104】
<150℃〜300℃加熱時の質量減少率>
TG−DTA(島津製作所製、装置名:DTG−60H)により乾燥空気50ml/分の気流中、10℃/分の昇温速度で加熱したときの、150℃〜300℃における質量減少率を測定した。なお、結果は、昇温前の質量を基準とした質量%で示した(表1)。
【0105】
<2質量%合成スメクタイト分散液の粘度>
B型粘度計(東機産業製、装置名:TV−22)により2質量%合成スメクタイト分散液50gの粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0106】
<成膜性>
合成スメクタイトが分散した2質量%分散液20gを、5.0cm×3.2cm四方のポリプロピレントレー(アズワン製)上に流し込み、均一に広げた後、箱型乾燥機(光洋サーモシステム株式会社製、装置名:KLO−45M)を用いて、30℃で24時間乾燥し、水分を除去してフィルム状成形体を得た。得られたフィルム状成形体に亀裂がなく、シート状の固形物を形成している場合を成膜性「有り」、フィルム状成形体を形成せず、粉末状などに分離している場合を成膜性「無し」と判定した。結果を表1に示す。
【0107】
<マンドレル曲げ半径>
合成スメクタイトを成膜することにより得られた膜厚50μmのフィルム状成形体を、マンドレル試験棒(コーテック株式会社製、装置名:BD−2000)に巻きつけ、フィルム状成形体に亀裂又は切断が発生しない最小の試験棒の半径(マンドレル曲げ半径)を決定した。なお、フィルム状成形体の膜厚は、マイクロメーター(ミツトヨ社製、装置名:2−10N)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0108】
[合成スメクタイトと高分子成分との複合フィルムの作製]
得られた合成スメクタイト7.0gをビーカーに入れ、これに蒸留水(20℃)を加えて全量70gとした後、テフロン(登録商標)回転子で攪拌することにより、合成スメクタイトが水に分散した10質量%合成スメクタイト分散液を得た。
【0109】
次いで、エタノール(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)175gと、高分子成分として水溶性ナイロン(ナガセケムテックス社製、トレジン、FS−350E5AS、ナイロン含有率20質量%)8.75gと、上記10質量%合成スメクタイト分散液70gとを混合し、シャフトジェネレーターを用いて10分間攪拌して生成物を得た(混合操作)。
【0110】
上記混合操作で得た生成物100gを、攪拌脱泡装置(株式会社シンキー製、装置名:あわとり練太郎、AR100)に入れ、攪拌速度2000rpmで10分間攪拌した後、2200rpmで10分間脱泡した(脱泡操作)。
【0111】
上記脱泡操作で得た生成物を、A4サイズ四方、深さ1mmのテフロン(登録商標)基材上に流し込み、均一に広げた後、乾燥機中25℃で3時間乾燥し、合成スメクタイトと高分子成分とを含有する複合フィルムを得た。
【0112】
<複合フィルムの成膜性>
複合フィルムに亀裂がなく、シート状の固形物を形成している場合を成膜性「有り」、シート状の固形物を形成せず、粉末状などに分離している場合を成膜性「無し」と判定した。結果を表1に示す。
【0113】
<複合フィルムの光透過率>
膜厚30μmの複合フィルムの波長550nmにおける全光線透過率を濁度計(日本電色工業株式会社製、製品名:NDH5000)を用いて測定した。なお、複合フィルムの膜厚は、マイクロメーター(ミツトヨ社製、装置名:2−10N)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
比較例1〜3の合成スメクタイトは、フィルム状成形体を形成することができなかったために、マンドレル曲げ半径を測定することができなかった。また、比較例1〜3の合成スメクタイトは、複合フィルムを形成することができなかったために、光透過率を測定することができなかった。
【符号の説明】
【0116】
1・・・八面体シート、3・・・四面体シート、10・・・層構造、100・・・合成スメクタイト、200・・・カードハウス構造、Xb+・・・交換性陽イオン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分が下記式(1);
b+a/bAl4+aSi8−a20(OH1−c ・・・(1)
[式中、Xb+はアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンを示し、a、b及びcはそれぞれ下記式(2)〜(4)を満たす数値を示す。
0<a<2 ・・・(2)
1≦b≦2 ・・・(3)
0≦c≦1 ・・・(4)]
で表され、ナトリウムイオン含有量が10ppm以下である合成スメクタイト。
【請求項2】
乾燥空気中で、150℃から300℃まで10℃/分で昇温したときの質量減少率が、昇温前の質量を基準として、2〜5質量%である、請求項1に記載の合成スメクタイト。
【請求項3】
含有率が2質量%となるように水中に分散させたときの分散液の粘度が、2000mPa・s以上である、請求項1又は2に記載の合成スメクタイト。
【請求項4】
成膜性を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の合成スメクタイト。
【請求項5】
合成スメクタイトのみからなる膜厚50μmのフィルム状成形体のマンドレル曲げ半径が5mm以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の合成スメクタイト。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の合成スメクタイトと、高分子成分と、を含有する複合フィルム。
【請求項7】
前記高分子成分が水溶性である、請求項6に記載の複合フィルム。
【請求項8】
膜厚30μmにおける、波長550nmの光透過率が80%以上である、請求項6又は7に記載の複合フィルム。
【請求項9】
ケイ素及びアルミニウムを含有する溶液と、アルカリ溶液と、を混合して複合水酸化物スラリーを得る第一工程と、
前記複合水酸化物スラリー、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンを含有する溶液、及び水を混合して前駆体スラリーを調製する第二工程と、
前記前駆体スラリーを水熱反応させて、生成物スラリーを得る第三工程と、
前記生成物スラリーを撹拌した後、前記生成物スラリーを固液分離して、主成分が下記式(1);
b+a/bAl4+aSi8−a20(OH1−c ・・・(1)
[式中、Xb+はアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンを示し、a、b及びcはそれぞれ下記式(2)〜(4)を満たす数値を示す。
0<a<2 ・・・(2)
1≦b≦2 ・・・(3)
0≦c≦1 ・・・(4)]
で表され、ナトリウムイオン含有量が10ppm以下である合成スメクタイトを得る第四工程と、を有する、合成スメクタイトの製造方法。
【請求項10】
ケイ素源が、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ及びアモルファスシリカからなる群より選ばれる一種以上であり、
アルミニウム源が、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムからなる群より選ばれる一種以上であり、
アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオン源が、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンを含有する硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、塩化物、水酸化物及びフッ化物からなる群より選ばれる一種以上である、請求項9に記載の合成スメクタイトの製造方法。
【請求項11】
前記第一工程における、前記複合水酸化物スラリーのpHが4.0〜11.0であり、
前記第二工程における、前記前駆体スラリーのpHが8.0〜12.6であり、
前記第三工程では、前記前駆体スラリーを200〜370℃の自生圧力条件下で24時間以上水熱反応させ、
前記第四工程では、前記生成物スラリーを遠心分離法によって固液分離する、
請求項9又は10に記載の合成スメクタイトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−57486(P2011−57486A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207145(P2009−207145)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】